特許第5890576号(P5890576)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5890576車両表示装置用金属調装飾部品、及び、車両表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5890576
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】車両表示装置用金属調装飾部品、及び、車両表示装置
(51)【国際特許分類】
   G01D 13/04 20060101AFI20160308BHJP
   B60K 35/00 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
   G01D13/04 Z
   B60K35/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-205789(P2015-205789)
(22)【出願日】2015年10月19日
【審査請求日】2015年10月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】特許業務法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】服部 達哉
(72)【発明者】
【氏名】藤田 順雄
【審査官】 櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/76327(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/88017(WO,A1)
【文献】 特開2015−87379(JP,A)
【文献】 特許第5748930(JP,B1)
【文献】 特開2013−40773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 11/00−13/28
B60K 35/00−37/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂により成形される基板本体と、
金属により形成され前記基板本体の表面に被着される金属薄膜と、
前記基板本体の表面の形状に応じて前記金属薄膜の表面に形成される鏡面とを備え、
前記鏡面は、表面形状からカットオフ値を250μmとして得られたうねり曲線において、うねり波形の平均高さである振幅と平均長さである波長の比率で捉えられ前記振幅を1とした場合の前記波長の比率が1:600以上1:6000以下で、かつ、鏡面粗さが0より大きく0.35μm以下に形成されることを特徴とする、
車両表示装置用金属調装飾部品。
【請求項2】
前記鏡面は、前記振幅を1とした場合の前記波長の比率が1:1000以上1:6000以下で、かつ、鏡面粗さが0より大きく0.35μm以下に形成される、
請求項1に記載の車両表示装置用金属調装飾部品。
【請求項3】
前記鏡面は、前記振幅を1とした場合の前記波長の比率が1:1400以上1:6000以下で、かつ、鏡面粗さが0より大きく0.30μm以下に形成される、
請求項1又は請求項2に記載の車両表示装置用金属調装飾部品。
【請求項4】
車両に関する情報を表示する表示部と、
合成樹脂により成形される基板本体と、金属により形成され前記基板本体の表面に被着される金属薄膜と、前記基板本体の表面の形状に応じて前記金属薄膜の表面に形成される鏡面とを有する車両表示装置用金属調装飾部品とを備え、
前記鏡面は、表面形状からカットオフ値を250μmとして得られたうねり曲線において、うねり波形の平均高さである振幅と平均長さである波長の比率で捉えられ前記振幅を1とした場合の前記波長の比率が1:600以上1:6000以下で、かつ、鏡面粗さが0より大きく0.35μm以下に形成されることを特徴とする、
車両表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両表示装置用金属調装飾部品、及び、車両表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両表示装置に適用される従来の車両表示装置用金属調装飾部品として、例えば、特許文献1には、透光性材質からなり表示意匠が形成された基板と、該基板の前面および表示意匠の前面を除いた部分に基板側から順番に積層されたプライマ層、及び、金属被膜とから構成された車両用計器の装飾部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−232403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の特許文献1に記載の車両用計器の装飾部材は、より適正な金属質感の確保の点で更なる改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、樹脂製の基板本体の表面に金属薄膜を設けた構成において視認者に対して与える金属質感を適正に確保することができる車両表示装置用金属調装飾部品、及び、車両表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る車両表示装置用金属調装飾部品は、合成樹脂により成形される基板本体と、金属により形成され前記基板本体の表面に被着される金属薄膜と、前記基板本体の表面の形状に応じて前記金属薄膜の表面に形成される鏡面とを備え、前記鏡面は、表面形状からカットオフ値を250μmとして得られたうねり曲線において、うねり波形の平均高さである振幅と平均長さである波長の比率で捉えられ前記振幅を1とした場合の前記波長の比率が1:600以上1:6000以下で、かつ、鏡面粗さが0より大きく0.35μm以下に形成されることを特徴とする。
【0007】
また、上記車両表示装置用金属調装飾部品では、前記鏡面は、前記振幅を1とした場合の前記波長の比率が1:1000以上1:6000以下で、かつ、鏡面粗さが0より大きく0.35μm以下に形成されるものとすることができる。
【0008】
また、上記車両表示装置用金属調装飾部品では、前記鏡面は、前記振幅を1とした場合の前記波長の比率が1:1400以上1:6000以下で、かつ、鏡面粗さが0より大きく0.30μm以下に形成されるものとすることができる。
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る車両表示装置は、車両に関する情報を表示する表示部と、合成樹脂により成形される基板本体と、金属により形成され前記基板本体の表面に被着される金属薄膜と、前記基板本体の表面の形状に応じて前記金属薄膜の表面に形成される鏡面とを有する車両表示装置用金属調装飾部品とを備え、前記鏡面は、表面形状からカットオフ値を250μmとして得られたうねり曲線において、うねり波形の平均高さである振幅と平均長さである波長の比率で捉えられ前記振幅を1とした場合の前記波長の比率が1:600以上1:6000以下で、かつ、鏡面粗さが0より大きく0.35μm以下に形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る車両表示装置用金属調装飾部品、及び、車両表示装置は、樹脂成形により形成される基板本体の表面の形状に応じて金属薄膜の表面に形成される鏡面の上記振幅を1とした場合の上記波長の比率が1:600以上1:6000以下で、かつ、鏡面粗さが0より大きく0.35μm以下に形成されるので、当該鏡面に映り込む像の歪みを実際の金属に映り込む像と近い程度に抑制することができると共に当該鏡面に映り込む像のボケ感として実際の金属に映り込む像と近いボケ感を再現することができる。これにより、車両表示装置用金属調装飾部品、及び、車両表示装置は、樹脂成形品である基板本体の表面に金属薄膜を設ける構成とすることで品質のバラツキを低減した上で、上記のように樹脂成形品でありながら実際の金属に近い質感を再現することができる。この結果、車両表示装置用金属調装飾部品、及び、車両表示装置は、樹脂製の基板本体の表面に金属薄膜を設けた構成において視認者に対して与える金属質感を適正に確保することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態に係る車両表示装置の概略構成を示す正面図である。
図2図2は、図1中のA−A部分断面図である。
図3図3は、実施形態に係る車両表示装置に適用される文字板の概略構成を示す正面図である。
図4図4は、実施形態に係る車両表示装置に適用される文字板の概略構成を示す模式的な断面図である。
図5図5は、鏡面の表面に発生するうねり波形を説明する模式図である。
図6図6は、うねり曲線の平均高さを求めるための説明図である。
図7図7は、うねり曲線の平均長さを求めるための説明図である。
図8図8は、実施形態に係る車両表示装置に適用される文字板に関するうねり曲線の測定データの一例を示す線図である。
図9図9は、算術平均粗さを求めるための説明図である。
図10図10は、実施形態に係る車両表示装置に適用される文字板に関する粗さ曲線の測定データの一例を示す線図である。
図11図11は、実施例に係る文字板の官能評価試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0013】
[実施形態]
図1は、実施形態に係る車両表示装置の概略構成を示す正面図である。図2は、図1中のA−A部分断面図である。図3は、実施形態に係る車両表示装置に適用される文字板の概略構成を示す正面図である。図4は、実施形態に係る車両表示装置に適用される文字板の概略構成を示す模式的な断面図である。図5は、鏡面の表面に発生するうねり波形を説明する模式図である。図6は、うねり曲線の平均高さを求めるための説明図である。図7は、うねり曲線の平均長さを求めるための説明図である。図8は、実施形態に係る車両表示装置に適用される文字板に関するうねり曲線の測定データの一例を示す線図である。図9は、算術平均粗さを求めるための説明図である。図10は、実施形態に係る車両表示装置に適用される文字板に関する粗さ曲線の測定データの一例を示す線図である。
【0014】
本実施形態に係る車両表示装置用金属調装飾部品としての装飾部品1は、図1図2に示すように、車両に搭載される車両表示装置100に適用される。車両表示装置100は、いわゆる車載メータを構成するものであり、例えば、車両のダッシュボードに設けられたインストルメントパネルに搭載され、車両の運転に供される情報として当該車両に関する種々の情報を表示する。車両表示装置100は、車両に関する情報を表示する表示部101と、表示部101を含む当該車両表示装置100の各部に組み込まれた装飾部品1とを備える。そして、車両表示装置100は、装飾部品1が樹脂製の基板本体2の表面に金属薄膜3を設けることで構成されると共に、当該金属薄膜3が所定の形状に形成されることで視認者に対して与える金属質感を適正に確保したものである。
【0015】
なお、図1に示す車両表示装置100の幅方向とは、典型的には、この車両表示装置100が適用される車両の車幅方向に相当する。以下の説明では、車両表示装置100の幅方向において、当該車両表示装置100の前面に向かって左側(図1中左側)を幅方向左側、向かって右側(図1中右側)を幅方向右側という場合がある。また、図2に示す車両表示装置100の奥行き方向とは、典型的には、この車両表示装置100が適用される車両の前後方向に相当する。また、車両表示装置100の前面側とは、車両の運転席と対面する側であり、典型的には、当該運転席に座った運転者によって視認される側である。一方、車両表示装置100の背面側とは、奥行き方向において前面側とは反対側であり、典型的には、インストルメントパネルの内部に収容される側である。
【0016】
表示部101は、車両に関する種々の情報を表示するものである。ここでは、表示部101は、一例として、車両に関する情報として、車速を表示する速度計102、燃料残量を表示する燃料計103、走行用動力源の出力回転数を表示する回転計104、冷却水の温度を表示する水温計105、シフトポジションを表示するシフト表示部106、方向指示器(ウインカ)の動作状態を表すターン表示部107、その他の運転補助情報を表すマルチ表示部108等を含んで構成される。表示部101は、車両表示装置100の各部を収容する筐体109内に配置されると共に各種情報の表示面が奥行き方向前面側に露出する。筐体109は、樹脂材料等によって構成される。筐体109は、例えば、奥行き方向背面側に配置される背面ケース110と、背面ケース110の奥行き方向前面側に配置される中間ケース111と、中間ケース111の奥行き方向前面側に配置される見返し112とを含んで構成され、これらによって区画される空間部内に表示部101が配置される。そして、筐体109は、見返し112に形成される開口112a(図2参照)を介して各表示部101の表示面が奥行き方向前面側に露出する。ここでは、表示部101は、速度計102の表示面内に燃料計103の表示面が組み込まれており、同様に、回転計104の表示面内に水温計105の表示面が組み込まれている。表示部101は、筐体109内において、速度計102、及び、燃料計103が幅方向右側に配置される一方、回転計104、及び、水温計105が幅方向左側に配置され、さらに、シフト表示部106、ターン表示部107、及び、マルチ表示部108がこれらの間に配置される。
【0017】
例えば、図2に示すように、速度計102は、筐体109内に配置される配線板113に内機114が固定される。内機114は、指針115の駆動源であるモータ114aを含んで構成され、当該モータ114aから指針115の回転軸116が突設される。燃料計103、回転計104、水温計105も速度計102とほぼ同様の構成である。見返し112は、配線板113や内機114等を覆い、上記のように開口112aから各表示部101(速度計102、燃料計103、回転計104、水温計105、シフト表示部106、ターン表示部107、マルチ表示部108等)の表示面を奥行き方向前面側に露出させる。なお、車両表示装置100は、当該表示部101の奥行き方向前面側が筐体109に取り付けられる透明カバーによって保護されている。
【0018】
装飾部品1は、車両表示装置100において、奥行き方向前面側に露出し運転者を含む乗員の視界にはいりうる部分の化粧部材となるものである。装飾部品1は、例えば、表示部101、ここでは、速度計102、燃料計103、回転計104、水温計105等に組み込まれる各文字板117に適用される。文字板117は、速度計102、燃料計103、回転計104、水温計105等において見返し112の開口112aから奥行き方向前面側に露出する表示面を構成するものである。文字板117は、指針115によって指し示される目盛の装飾、当該目盛に対応して付された計測値に関する様々な図柄、記号、文字列等の装飾を含んで構成される。
【0019】
以下、図2図3図4等を参照して、速度計102、及び、当該速度計102の表示面に組み込まれた燃料計103の文字板117を例に挙げて説明する。なお、回転計104、及び、当該回転計104の表示面に組み込まれた水温計105の文字板117についてもこれと同様の構成である。
【0020】
装飾部品1として構成される文字板117は、奥行き方向前面側の面が表示面を構成する。ここでは、文字板117は、全体として、略円形状に形成される。文字板117は、略円形の中心軸線C1を含む領域に軸孔118が形成される。軸孔118は、速度計102の指針115の回転軸116が貫通する孔であり、文字板117を奥行き方向に貫通する。軸孔118は、中心軸線C1を中心とした略円形状に形成される。文字板117は、中心軸線C1を中心として同心円状に、軸孔118側から径方向外側に向かって順に中央円板部119、境界立ち面部120、速度計主目盛部121、速度計補助目盛部122、枠壁部123、速度計文字表示部124、円筒端面部125が略円環状に形成される。文字板117は、速度計主目盛部121、速度計補助目盛部122、速度計文字表示部124等が速度計102の表示面に対応する部分として機能する。
【0021】
中央円板部119は、軸孔118の径方向外側に略円環状に形成される。中央円板部119は、ハニカム網目状に形成され、例えば、速度計102が表示する物理量の単位、ここでは、「MPH」等の文字列が設けられる。境界立ち面部120は、中央円板部119の径方向外側に接続され、略円環状に形成される。ここでは、境界立ち面部120は、中央円板部119から中心軸線C1に沿って奥行き方向前面側に突出する略円筒状の立ち面として形成される。速度計主目盛部121は、境界立ち面部120の奥行き方向前面側端部の径方向外側に接続され、略円環状に形成される。速度計主目盛部121は、速度計102が表示する物理量、ここでは車速に対応して設けられ、指針115によって指し示される複数の主目盛121aが設けられている。複数の主目盛121aは、速度計主目盛部121の周方向に沿って等間隔で突起状に形成される。速度計補助目盛部122は、速度計主目盛部121の径方向外側に接続され、略円環状に形成される。速度計補助目盛部122は、速度計主目盛部121に対してやや傾斜させて形成される。速度計補助目盛部122は、速度計102が表示する物理量、ここでは車速に対応して設けられ、指針115によって指し示される複数の補助目盛122aが設けられている。複数の補助目盛122aは、速度計補助目盛部122の周方向に沿って等間隔で、ここでは、複数の主目盛121aの間隔よりも狭い間隔で突起状に形成される。枠壁部123は、速度計補助目盛部122の径方向外側に接続され、略円環状に形成される。枠壁部123は、速度計補助目盛部122に対してやや傾斜させて形成され、さらに言えば、速度計主目盛部121に対しては速度計補助目盛部122より急傾斜させて形成される。速度計文字表示部124は、枠壁部123の径方向外側に接続され、略円環状に形成される。速度計文字表示部124は、枠壁部123に対して逆傾斜させて形成される。速度計文字表示部124は、計測値を表す複数の文字列124a、ここでは車速を表す複数の文字列124aが設けられている。複数の文字列124aは、「20」、「40」、「60」等が速度計文字表示部124の周方向に沿って等間隔で突起状に形成される。円筒端面部125は、速度計文字表示部124の径方向外側に接続され、略円環状に形成される。ここでは、円筒端面部125は、速度計文字表示部124から中心軸線C1に沿って奥行き方向背面側に折り返す略円筒状の立ち面として形成される。なお、文字板117は、円筒端面部125のさらに径方向外側に、当該文字板117を筐体109等に設置する際に用いられる取り付け部126等も形成されている。
【0022】
さらに、本実施形態の文字板117は、中央円板部119、境界立ち面部120、速度計主目盛部121の部分に組み込まれるようにして、燃料計円板部127、燃料計目盛部128、境界円環部129が形成される。文字板117は、中心軸線C1と平行で、かつ、中心軸線C1からオフセットされた位置(図3中では向かって下側にオフセットされた位置)に設定される基準線C2を含む領域に軸孔130が形成される。軸孔130は、燃料計103の指針115の回転軸が貫通する孔であり、文字板117を奥行き方向に貫通する。軸孔130は、基準線C2を中心とした略円形状に形成される。文字板117は、基準線C2を中心として同心円状に、軸孔130側から径方向外側に向かって順に燃料計円板部127、燃料計目盛部128、境界円環部129が略円環状に形成される。文字板117は、燃料計円板部127、燃料計目盛部128等が燃料計103の表示面に対応する部分として機能する。
【0023】
燃料計円板部127は、軸孔130の径方向外側に略円環状に形成される。燃料計円板部127は、燃料計103が表示する物理量を表す文字列127a、ここでは燃料残量を表す「1/2」、「E(Emptyの頭文字)」、「F(Fullの頭文字)」等の文字列127aや種々の図柄等が設けられている。燃料計目盛部128は、燃料計円板部127の径方向外側に接続され、略円環状に形成される。燃料計目盛部128は、燃料計103が表示する物理量、ここでは燃料残量に対応して設けられ、指針115によって指し示される複数の目盛128aが設けられている。複数の目盛128aは、燃料計目盛部128の周方向に沿って等間隔で形成される。境界円環部129は、燃料計目盛部128の径方向外側に接続され、略円環状に形成される。境界円環部129は、中央円板部119、境界立ち面部120、速度計主目盛部121と燃料計円板部127、燃料計目盛部128との間に介在し、文字板117において、速度計102の表示面として機能する領域と燃料計103の表示面として機能する領域との境界として機能する。
【0024】
そして、本実施形態の装飾部品1として構成される文字板117は、合成樹脂により成形される基板本体2と、金属により形成され基板本体2の表面に被着される金属薄膜3と、基板本体2の表面の形状に応じて金属薄膜3の表面に形成される複数の溝4とを備える。文字板117は、基板本体2の表面に金属薄膜3を積層させた層構造を構成し、金属薄膜3の表面が文字板117の表示面を形成し、当該表示面に形成される複数の溝4によって所定の領域に模様による装飾が施されている。
【0025】
ここで、基板本体2、金属薄膜3の表面とは、それぞれにおける奥行き方向前面側の面、すなわち、車両の運転席と対面する側の面であり、典型的には、金属薄膜3の表面とは、運転席に座った運転者等によって視認される側の面である。
【0026】
基板本体2は、合成樹脂を成形金型によって一体成形することで、上述の中央円板部119、境界立ち面部120、速度計主目盛部121、速度計補助目盛部122、枠壁部123、速度計文字表示部124、円筒端面部125、取り付け部126、燃料計円板部127、燃料計目盛部128、境界円環部129や主目盛121a、補助目盛122a、文字列124a、文字列127a、目盛128aを含む全体が一体で形成される。金属薄膜3は、基板本体2の表面に被着され、当該金属薄膜3の表面に基板本体2の表面の形状に応じて複数の溝4が形成される。言い換えれば、基板本体2は、金属薄膜3が被着される表面に、金属薄膜3の表面に形成される複数の溝4の形状に応じた溝5が形成されている。基板本体2は、合成樹脂を成形金型によって一体成形する際に、当該成形金型の成形面に形成された溝が当該基板本体2の表面に転写されることで溝5が形成される。
【0027】
本実施形態の複数の溝4は、文字板117の表面において種々の目付模様を形成する。本実施形態の文字板117は、一例として、速度計主目盛部121、燃料計円板部127の表面に複数の溝4によっていわゆる放射目付模様6が施されており、速度計文字表示部124、燃料計目盛部128の表面に複数の溝4によっていわゆるスピン目付模様7が施されている。放射目付模様6は、微細な複数の溝4が予め設定される基準点(例えば、中心軸線C1、あるいは、基準線C2上の点)、あるいはその近傍から外側に向けて放射状に延在することで形成される模様であり、旭光模様とも呼ばれる場合がある。スピン目付模様7は、微細な複数の溝4が予め設定される基準点(例えば、中心軸線C1、あるいは、基準線C2上の点)を中心として同心円環状、あるいは、渦巻き環状に延在することで形成される模様である。
【0028】
そして、本実施形態の文字板117は、さらに、所定の形状に形成された鏡面8を備えることで、より適正な金属質感を確保している。本実施形態の鏡面8は、境界立ち面部120、枠壁部123、円筒端面部125、境界円環部129等の表面に適用されている。
【0029】
具体的には、鏡面8は、金属薄膜3の表面形状からカットオフ値を250μmとして得られたうねり曲線において、うねり波形の平均高さである振幅Wcと平均長さである波長Wsmの比率で捉えられ振幅Wcを1とした場合の波長Wsmの比率が1:600以上1:6000以下で、かつ、鏡面粗さRaが0より大きく0.35μm以下に形成される。すなわち、鏡面8は、金属薄膜3の表面形状からカットオフ値を250μmとして得られたうねり曲線において、うねり波形の平均高さである振幅を「Wc」、うねり波形の平均長さである波長を「Wsm」とすると共に、鏡面粗さを「Ra」とした場合に、下記の(1)に示す条件式を満たすように形成される。

1:600≦Wc:Wsm≦1:6000 かつ 0<Ra≦0.35μm (1)

より好ましくは、鏡面8は、振幅Wcを1とした場合の波長Wsmの比率が1:1000以上1:6000以下で、かつ、鏡面粗さRaが0より大きく0.35μm以下に形成される。すなわち、鏡面8は、下記の(2)に示す条件式を満たすように形成されることがより好ましい。

1:1000≦Wc:Wsm≦1:6000 かつ 0<Ra≦0.35μm (2)

最も好ましくは、鏡面8は、振幅Wcを1とした場合の波長Wsmの比率が1:1400以上1:6000以下で、かつ、鏡面粗さRaが0より大きく0.30μm以下に形成される。すなわち、鏡面8は、下記の(3)に示す条件式を満たすように形成されることがより好ましい。

1:1400≦Wc:Wsm≦1:6000 かつ 0<Ra≦0.30μm (3)

なお、鏡面粗さRaの下限値は、典型的には、製造上可能な範囲であればよい。
【0030】
ここでは、図5に示すように、鏡面8の表面に発生するうねり波形をイメージし、振幅Wcと波長Wsmとをうねりの波形を捉えるための指標としている。
【0031】
振幅Wcは、図6に一例を示すように、金属薄膜3の表面形状からカットオフ値を250μmとして得られたうねり曲線におけるうねり波形の平均高さであり、下記の数式(A)で表すことができる。数式(A)中、「m」は自然数を示す。
【0032】
【数1】
【0033】
波長Wsmは、図7に一例を示すように、金属薄膜3の表面形状からカットオフ値を250μmとして得られたうねり曲線におけるうねり波形の平均長さであり、下記の数式(B)で表すことができる。数式(B)中、「m」は自然数を示す。
【0034】
【数2】
【0035】
振幅Wcを1とした場合の波長Wsmの比率は、振幅Wcと波長Wsmとを測定し、当該測定した振幅Wcと波長Wsmとから算出される。振幅Wcを1とした場合の波長Wsmの比率は、表面のうねり、平滑さを捉えるための指標であり、ここでは、映り込んだ像の歪みを捉えるための指標に相当する。振幅Wcを1とした場合の波長Wsmの比率は、典型的には、値が小さくなるほどうねりが急となり映り込んだ像の歪みが大きくなる傾向にある一方、値が大きくなるほどうねりが緩やかとなり映り込んだ像の歪みが小さくなる傾向にある。
【0036】
装飾部品1として構成される文字板117は、予め設定された所定の測定条件によって測定された振幅Wcと波長Wsmとから算出される比率であって振幅Wcを1とした場合の波長Wsmの比率が上記のような(1)〜(3)に示す条件式のいずれかを満たす形状に形成される。
【0037】
なお、鏡面8の表面の振幅Wc、波長Wsmを測定するために予め設定される所定の測定条件としては、一例として下記のような条件が挙げられる。すなわち、振幅Wc、波長Wsmの測定に用いる測定機器として、『オリンパス株式会社製 3D測定レーザー顕微鏡 LEXT OLS4000』を用いて下記の手順で測定する。

<手順1−1>『オリンパス株式会社製 3D測定レーザー顕微鏡 LEXT OLS4000』によって「撮影」モードで装飾部品1として構成される文字板117の鏡面8の表面の画像を撮影する。

<手順1−2>画像の撮影後に『オリンパス株式会社製 3D測定レーザー顕微鏡 LEXT OLS4000』の操作画面(以下、単に「操作画面」という場合がある。)において、「測定」タブを選択しモードを「測定」に切り替えると共に測定モードから「線粗さ」を選択する。

<手順1−3>次に、操作画面において、「測定ラインの指定」のうちの「X方向」(典型的には、境界立ち面部120、枠壁部123、円筒端面部125、境界円環部129等を横断する方向)を選択する。

<手順1−4>次に、操作画面において、「解析パラメータ」のうちの「うねりパラメータ」を選択する。

<手順1−5>次に、操作画面において、「カットオフ」のうちの「250μm」を選択する。

<手順1−6>次に、操作画面において、「粗さ測定」の欄の「断面」、「粗さ」、「うねり」、「ミックス」のタブのうち「うねり」タブを選択する。この結果、操作画面に、図8に例示するように、<手順1−1>で撮影された文字板117の鏡面8の表面の測定データから、250μm以下の波長成分が除去されたうねり曲線の測定データ(曲線が滑らかになる)が表示される。

<手順1−7>次に、操作画面において、「解析パラメータ」欄に表示されている各種指標のうち「振幅Wc」、「波長Wsm」の数値を読み取り、当該読み取った数値がそれぞれ「振幅Wc」、「波長Wsm」の測定値となる。

<手順1−8>次に、「振幅Wc」、「波長Wsm」の測定値に基づいて、Wsm/Wcを演算することで振幅Wcを1とした場合の波長Wsmの比率を算出する。
【0038】
一方、鏡面粗さRaは、図9に一例を示すように、いわゆる算術平均粗さRaであり、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さlだけを抜き取り、この抜取り部分の平均線の方向にX軸を、縦倍率の方向にY軸を取り、粗さ曲線を y=f(x) で表したときに、下記の数式(C)で表すことができる。
【0039】
【数3】
【0040】
鏡面粗さRaは、表面の微細凹凸の深さ(高さ)を捉えるための指標であり、ここでは、映り込んだ像のボケ度合を捉えるための指標に相当する。鏡面粗さRaは、典型的には、値が小さくなるほど微細凹凸の深さが浅くなり映り込んだ像の輪郭が鮮明になる傾向にある一方、値が大きくなるほど微細凹凸の深さが深くなり映り込んだ像がボケる傾向にある。
【0041】
装飾部品1として構成される文字板117は、予め設定された所定の測定条件によって測定された鏡面粗さRaが上記のような(1)〜(3)に示す条件式のいずれかを満たす形状に形成される。
【0042】
なお、鏡面8の表面の鏡面粗さRaを測定するために予め設定される所定の測定条件としては、一例として下記のような条件が挙げられる。すなわち、鏡面粗さRaの測定に用いる測定機器として、上述と同様に『オリンパス株式会社製 3D測定レーザー顕微鏡 LEXT OLS4000』を用いて下記の手順で測定する。

<手順2−1>『オリンパス株式会社製 3D測定レーザー顕微鏡 LEXT OLS4000』によって「撮影」モードで装飾部品1として構成される文字板117の鏡面8の表面の画像を撮影する。

<手順2−2>画像の撮影後に『オリンパス株式会社製 3D測定レーザー顕微鏡 LEXT OLS4000』の操作画面において、「測定」タブを選択しモードを「測定」に切り替えると共に測定モードから「線粗さ」を選択する。

<手順2−3>次に、操作画面において、「測定ラインの指定」のうちの「X方向」(典型的には、境界立ち面部120、枠壁部123、円筒端面部125、境界円環部129等を横断する方向)を選択する。

<手順2−4>次に、操作画面において、「解析パラメータ」のうちの「粗さパラメータ」を選択する。

<手順2−5>次に、操作画面において、「カットオフ」のうちの「250μm」を選択する。

<手順2−6>次に、操作画面において、「粗さ測定」の欄の「断面」、「粗さ」、「うねり」、「ミックス」のタブのうち「粗さ」タブを選択する。この結果、操作画面に、図10に例示するように、<手順2−1>で撮影された文字板117の鏡面8の表面の測定データから、250μm以下の波長成分が除去された粗さ曲線の測定データ(うねりが除去される)が表示される。

<手順2−7>次に、操作画面において、「解析パラメータ」欄に表示されている各種指標のうち「算術平均粗さRa」の数値を読み取り、当該読み取った数値が「鏡面粗さRa」の測定値となる。
【0043】
装飾部品1として構成される文字板117は、鏡面8における振幅Wcを1とした場合の波長Wsmの比率、鏡面粗さRaが上記のような(1)〜(3)に示す条件式のいずれかを満たす形状に形成されることで、当該鏡面8に映り込む像の歪みを実際の金属に映り込む像と近い程度に抑制することができると共に当該鏡面8に映り込む像のボケ感として実際の金属に映り込む像と近いボケ感を再現することができる。
【0044】
ここで、装飾部品1として構成される文字板117は、上記のような(1)〜(3)に示す条件式のいずれかを満たす形状を実現するために、基板本体2を構成する合成樹脂として、流動性が高く転写性(言い換えれば、成形面の形状に対する追従性)に優れた合成樹脂、ここでは、シクロオレフィンポリマー(COP)樹脂を用い、金属薄膜3を構成する金属としてチタンを用いることが好ましい。そして、文字板117は、成形金型を用いて当該シクロオレフィンポリマー樹脂を含んだ合成樹脂を所定の形状に成形した基板本体2の表面に、いわゆるスパッタリングによってチタンを含んで形成される金属薄膜3を成膜することが好ましい。
【0045】
より具体的には、基板本体2は、シクロオレフィンポリマー樹脂を含む合成樹脂を成形金型によって一体成形する。この場合、基板本体2を成形する成形金型は、成形面に上述の文字板117の各部(中央円板部119、境界立ち面部120、速度計主目盛部121、速度計補助目盛部122、枠壁部123、速度計文字表示部124、円筒端面部125、取り付け部126、燃料計円板部127、燃料計目盛部128、境界円環部129、主目盛121a、補助目盛122a、文字列124a、文字列127a、目盛128aや鏡面8等)を成形する部分と共に、上述の放射目付模様6やスピン目付模様7を構成する複数の溝4のパターンに応じた複数の溝も形成される。当該成形金型は、当該金型の成形面の形状情報等を含む加工情報に基づいて種々の加工機械、例えば、NC(Numerical Control)フライス盤等を用いて文字板117の各部に対応した基本的な形状が形成される。そしてここでは、成形金型は、成形面に複数の溝5に応じた微細な溝を形成する際には、エッチング、バフ、研磨等にはよらずに、種々の切削工具、例えば、エンドミル、ダイヤモンドバイト等を用いて成形面に複数の溝5に応じた微細な溝が切削加工される。基板本体2は、当該成形金型の成形面に形成された溝が当該基板本体2の表面に転写されることで放射目付模様6やスピン目付模様7を構成する複数の溝4の形状に応じた溝5が成形される。
【0046】
そして、金属薄膜3は、上記のように文字板117の各部や鏡面8、放射目付模様6、スピン目付模様7を構成する複数の溝4の形状に応じた溝5が成形された基板本体2の表面に、スパッタリングによってチタンが成膜されることで当該基板本体2の表面に被着される。ここで、スパッタリングとは、真空釜(チャンバー)内に充填されているアルゴンガス等の不活性ガスに直流高電圧を印加することで不活性ガスをイオン化し、これらを金属のインゴット、ここではチタンのインゴットに衝突させて当該インゴットから弾き飛ばされた金属粒子であるチタンの分子/原子を、ターゲットである基板本体2の表面に付着させることでターゲットである基板本体2の表面にチタンによる金属薄膜3を成膜する手法である。このスパッタリングは、金属薄膜3の基板本体2への付着力を相対的に大きくすることができる手法である。
【0047】
以上のように、基板本体2は、流動性が高く転写性に優れた合成樹脂であるシクロオレフィンポリマー樹脂を用いて成形されることで、成形金型の成形面に形成された文字板117の各部や鏡面8、放射目付模様6、スピン目付模様7を構成する複数の溝4のパターンに応じた複数の溝5等に要求される所望の形状を、当該成形面から当該基板本体2の表面に忠実に転写することができる。
【0048】
そして、金属薄膜3は、シクロオレフィンポリマー樹脂によって形成される基板本体2との密着性が良好でスパッタリングが可能な金属であるチタンを、当該スパッタリングによって基板本体2の表面に成膜することで形成される。このため、金属薄膜3は、例えば、基板本体2の表面との間にアンダーコート等を介在させなくても基板本体2との密着性を十分に確保することができ、当該基板本体2から剥離することを抑制することができる。また、金属薄膜3は、物質的に安定しているチタンを含んで形成されることから、例えば、金属薄膜3の表面にトップコートも必要としない。この結果、金属薄膜3は、その膜厚を相対的に薄く(例えば、約0.2μm程度)することができ、基板本体2の表面に形成された複数の溝5を埋めることなく、放射目付模様6、スピン目付模様7を構成する複数の溝4を形成することができる。
【0049】
以上で説明した装飾部品1(文字板117)によれば、合成樹脂により成形される基板本体2と、金属により形成され基板本体2の表面に被着される金属薄膜3と、基板本体2の表面の形状に応じて金属薄膜3の表面に形成される鏡面8とを備え、鏡面8は、表面形状からカットオフ値を250μmとして得られたうねり曲線において、うねり波形の平均高さである振幅Wcと平均長さである波長Wsmの比率で捉えられ振幅Wcを1とした場合の波長Wsmの比率が1:600以上1:6000以下で、かつ、鏡面粗さRaが0より大きく0.35μm以下に形成される。より好ましくは、鏡面8は、振幅Wcを1とした場合の波長Wsmの比率が1:1000以上1:6000以下で、かつ、鏡面粗さRaが0より大きく0.35μm以下に形成される。最も好ましくは、鏡面8は、振幅Wcを1とした場合の波長Wsmの比率が1:1400以上1:6000以下で、かつ、鏡面粗さRaが0より大きく0.30μm以下に形成される。以上で説明した車両表示装置100によれば、車両に関する情報を表示する表示部101と、上記装飾部品1(文字板117)とを備える。
【0050】
したがって、装飾部品1(文字板117)、車両表示装置100は、樹脂成形により形成される基板本体2の表面の形状に応じて金属薄膜3の表面に形成される鏡面8の上記振幅Wcを1とした場合の上記波長Wsmの比率と鏡面粗さRaとが上記のような(1)〜(3)に示す条件式のいずれかを満たす形状に形成されるので、当該鏡面8に映り込む像の歪みを実際の金属に映り込む像と近い程度に抑制することができると共に当該鏡面8に映り込む像のボケ感として実際の金属に映り込む像と近いボケ感を再現することができる。これにより、装飾部品1、車両表示装置100は、樹脂成形品である基板本体2の表面に金属薄膜3を設ける構成とすることで品質のバラツキを低減した上で、上記のように樹脂成形品でありながら実際の金属に近い質感を再現することができる。例えば、装飾部品1、車両表示装置100は、装飾部品1を1つ1つ機械加工するような場合と比較して製造コストを抑制することができ、また、装飾部品1の全体を金属で製造する場合と比較して重量を軽くすることができ、車両の軽量化に資することができる。これにより、装飾部品1、車両表示装置100は、低コスト化、及び、軽量化も達成することができる。この結果、装飾部品1、車両表示装置100は、樹脂製の基板本体2の表面に金属薄膜3を設けた構成において視認者に対して与える金属質感を適正に確保することができる。ここで、上述したように放射目付模様6が施された速度計主目盛部121と隣接する境界立ち面部120の鏡面8、スピン目付模様7が施された速度計文字表示部124、燃料計目盛部128と隣接する枠壁部123、円筒端面部125、境界円環部129の鏡面8は、放射目付模様6、スピン目付模様7等の模様が付された面と無模様の鏡面8とのコントラストによって、樹脂成形品でありながら実際の金属に近い質感を再現する効果をより顕著に奏することができる。
【0051】
さらに、以上で説明した装飾部品1(文字板117)によれば、基板本体2は、シクロオレフィンポリマー樹脂を含んで形成され、金属薄膜3は、チタンを含んで形成される。したがって、装飾部品1、車両表示装置100は、基板本体2と金属薄膜3との組み合わせを、装飾部品1を構成する基板本体2における良好な転写性、装飾部品1を構成する金属薄膜3の施工性や薄膜化による形状追従性、及び、基板本体2と金属薄膜3との良好な密着性等を確保することができる組み合わせとすることができる。すなわち、基板本体2は、シクロオレフィンポリマー樹脂を用いて成形されることで、成形金型の成形面に形成された文字板117の各部や鏡面8、放射目付模様6、スピン目付模様7を構成する複数の溝4のパターンに応じた複数の溝5等に要求される所望の形状を、当該成形面から当該基板本体2の表面に忠実に転写することができる。また、金属薄膜3は、チタンを用いて形成されることで、スパッタリングによって成膜することができ、その膜厚を相対的に薄くすることができ、基板本体2の表面に形成された複数の溝5を埋めることなく、放射目付模様6、スピン目付模様7を構成する複数の溝4を形成することができる。その上で、基板本体2と金属薄膜3とは、密着性を十分に確保することができ、金属薄膜3が基板本体2から剥離することを抑制することができる。この点でも、装飾部品1、車両表示装置100は、樹脂製の基板本体2の表面に金属薄膜3を設けた構成において視認者に対して与える金属質感をより適正に確保することができる。
【0052】
なお、上述した本発明の実施形態に係る車両表示装置用金属調装飾部品、及び、車両表示装置は、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。
【0053】
以上の説明では、装飾部品1は、速度計102、燃料計103、回転計104、水温計105等に組み込まれる文字板117に適用されるものとして説明したがこれに限らず、車両表示装置100において、奥行き方向前面側に露出し運転者を含む乗員の視界にはいりうる部分の他の化粧部材に適用されてもよい。装飾部品1は、見返し112や速度計102、燃料計103、回転計104、水温計105等の周りに設けられる環状化粧部材(リング部材)等に適用されてもよい。
【0054】
以上の説明では、文字板117は、速度計主目盛部121、燃料計円板部127の表面に放射目付模様6が施されており、速度計文字表示部124、燃料計目盛部128の表面にスピン目付模様7が施されているものとして説明したがこれに限らない。文字板117は、複数の溝4によって放射目付模様6、スピン目付模様7以外の模様が施されてもよい。文字板117は、例えば、複数の溝4によって縦縞を形成したヘアライン目付模様や横縞を形成したヘアライン目付模様、あるいは、縦縞と横縞とを交差させた目付模様等が施されてもよい。
【0055】
以上の説明では、基板本体2を構成する合成樹脂としてシクロオレフィンポリマー樹脂を用い、金属薄膜3を構成する金属としてチタンを用い、スパッタリングによって基板本体2の表面に金属薄膜3を成膜するものとして説明したがこれに限らない。基板本体2は、例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂等を含んで形成されてもよい。金属薄膜3は、例えば、アルミニウム、ステンレス、金、銀、白金、銅、亜鉛、ニッケル、クロム、錫、モリブデン等を含んで形成されてもよい。基板本体2の表面に金属薄膜3を成膜する手法は、例えば、蒸着等であってもよい。
【0056】
以上の説明では、振幅Wc、波長Wsm、鏡面粗さRaを測定するための測定機器として、『オリンパス株式会社製 3D測定レーザー顕微鏡 LEXT OLS4000』を用いるものとして説明したがこれに限らず、他の測定機器を用いてもよく、この場合には、振幅Wc、波長Wsm、鏡面粗さRaを測定するために予め設定される所定の測定条件が上記と同等であればよい。
【0057】
[実施例]
図11は、実施例に係る文字板の官能評価試験の結果を示す図である。以下、図11を参照して装飾部品1として構成される文字板117の官能評価試験について説明する。
【0058】
本官能評価試験では、以上で説明した実施形態に係る装飾部品1として構成される文字板117において、鏡面8の振幅Wcを1とした場合の波長Wsmの比率と鏡面粗さRaとが上記の(1)〜(3)に示す条件式のいずれかを満たすものを実際に作製して行った。「実施例1」は、振幅Wcを1とした場合の波長Wsmの比率が1:659で、かつ、鏡面粗さRaが0.336μmとなるように鏡面8が形成されたものであり、(1)の条件式を満たすものである。「実施例2」は、振幅Wcを1とした場合の波長Wsmの比率が1:1460〜2920で、かつ、鏡面粗さRaが0.296μmとなるように鏡面8が形成されたものであり、(1)〜(3)の条件式を満たすものである。一方、「比較例1」、「比較例2」、「比較例3」、「比較例4」は、鏡面8の振幅Wcを1とした場合の波長Wsmの比率と鏡面粗さRaとが(1)〜(3)に示す条件式のいずれも満たさないものを実際に作製したものである。「比較例1」は、振幅Wcを1とした場合の波長Wsmの比率が1:181で、かつ、鏡面粗さRaが1.714μmとなるように鏡面8が形成されたものである。「比較例2」は、振幅Wcを1とした場合の波長Wsmの比率が1:482で、かつ、鏡面粗さRaが1.271μmとなるように鏡面8が形成されたものである。「比較例3」は、振幅Wcを1とした場合の波長Wsmの比率が1:524で、かつ、鏡面粗さRaが0.696μmとなるように鏡面8が形成されたものである。「比較例4」は、振幅Wcを1とした場合の波長Wsmの比率が1:556で、かつ、鏡面粗さRaが0.368μmとなるように鏡面8が形成されたものである。「実施例1」、「実施例2」、「比較例1」、「比較例2」、「比較例3」、「比較例4」は、上述した実施形態と同様に、基板本体2を構成する合成樹脂としてシクロオレフィンポリマー樹脂を用い、金属薄膜3を構成する金属としてチタンを用い、スパッタリングによって基板本体2の表面に金属薄膜3を成膜したものである。「実施例1」、「実施例2」、「比較例1」、「比較例2」、「比較例3」、「比較例4」の振幅Wc、波長Wsmは、『オリンパス株式会社製 3D測定レーザー顕微鏡 LEXT OLS4000』を用いて上記の<手順1−1>〜<手順1−8>で測定した測定値を用いた。「実施例1」、「実施例2」、「比較例1」、「比較例2」、「比較例3」、「比較例4」の鏡面粗さRaは、『オリンパス株式会社製 3D測定レーザー顕微鏡 LEXT OLS4000』を用いて上記の<手順2−1>〜<手順2−7>で測定した測定値を用いた。なお、本金属を用いて同様の構成で作製した文字板に対して鏡面8を切削/研磨加工によって施したものも実際に作製し、当該鏡面8も同様の手法で測定したが、この場合の振幅Wcを1とした場合の波長Wsmの比率は、「1:2560〜5850」で、かつ、鏡面粗さRaは、「0.259μm」であった。
【0059】
官能評価試験は、上記の「実施例1」、「実施例2」、「比較例1」、「比較例2」、「比較例3」、「比較例4」を評価対象として下記の要領で行った。すなわち、評価対象と本金属とを、(A−1)外光がない室内において、図1に示す車両表示装置100の試作品内の予め定められた位置にそれぞれ並べて配置した場合、(A−2)外光がある室内において、図1に示す車両表示装置100の試作品内の予め定められた位置にそれぞれ並べて配置した場合、(B−1)外光がない室内において、天板アクリルのボックス(展示ケースのようなもの)の中にそれぞれ並べて配置し評価対象以外の周辺を黒い布で覆った場合、及び、(B−2)外光がある室内において、天板アクリルのボックスの中にそれぞれ並べて配置し評価対象以外の周辺を黒い布で覆った場合で、評価者に経験をもとに評価対象の金属質感を官能評価させ、最終的に(A−1)、(A−2)、(B−1)、(B−2)の場合をすべて組み合わせて総合的に評価させた。評価値は、本金属と比較しても作為的にならず十分な金属質感が得られたものを「100」とし、本金属と比較した場合に作為的であり十分な金属質感が得られていないものを「100」未満とした。評価値は、「100」より大きくなるほど金属質感が増すことを意味し、「100」より小さくなるほど金属質感が乏しいことを意味する。評価者は、車両表示装置(メータ)のデザイナとし、評価値は、5人の評価者による評価値の平均値を採用した。当該官能評価試験は、これを各評価対象ごとに行った。
【0060】
官能評価試験の結果、図11からも明らかなように、「比較例1」の評価値が「70」、「比較例2」の評価値が「80」、「比較例3」の評価値が「90」、「比較例4」の評価値が「90」であり金属と比較した場合に作為的であり十分な金属質感が得られていないのに対して、「実施例1」の評価値が「100」、「実施例2」の評価値が「120」であり本金属と比較しても作為的にならず十分な金属質感が得られていることが明らかである。さらには、「実施例1」、「実施例2」のなかでも、振幅Wcを1とした場合の波長Wsmの比率が大きくなるほど映り込んだ像の歪みが小さくなると共に鏡面粗さRaが小さくなるほど映り込んだ像の輪郭が鮮明になり金属質感が増すことが明らかであり、「実施例2」が最も金属質感が高いことが明らかである。以上のように「実施例1」、「実施例2」は、樹脂製の基板本体2の表面に金属薄膜3を設けた構成において視認者に対して与える金属質感を適正に確保することができ、金属調の見栄えを備えることが明らかである。
【符号の説明】
【0061】
1 装飾部品(車両表示装置用金属調装飾部品)
2 基板本体
3 金属薄膜
4、5 溝
6 放射目付模様
7 スピン目付模様
8 鏡面
100 車両表示装置
101 表示部
117 文字板
Ra 鏡面粗さ
Wc 振幅
Wsm 波長
【要約】
【課題】樹脂製の基板本体の表面に金属薄膜を設けた構成において視認者に対して与える金属質感を適正に確保することができる車両表示装置用金属調装飾部品、及び、車両表示装置を提供することを目的とする。
【解決手段】車両表示装置用金属調装飾部品1は、合成樹脂により成形される基板本体2と、金属により形成され基板本体2の表面に被着される金属薄膜3と、基板本体2の表面の形状に応じて金属薄膜3の表面に形成される鏡面8とを備え、鏡面8は、表面形状からカットオフ値を250μmとして得られたうねり曲線において、うねり波形の平均高さである振幅と平均長さである波長の比率で捉えられ振幅を1とした場合の波長の比率が1:600以上1:6000以下で、かつ、鏡面粗さが0より大きく0.35μm以下に形成されることを特徴とする。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11