(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5890599
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】プロスタグランジンE1を含む安定な脂肪乳剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/5575 20060101AFI20160308BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20160308BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20160308BHJP
A61P 9/08 20060101ALI20160308BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20160308BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
A61K31/5575
A61K9/10
A61P7/02
A61P9/08
A61P17/02
A61P43/00 112
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2009-523535(P2009-523535)
(86)(22)【出願日】2008年7月11日
(86)【国際出願番号】JP2008001865
(87)【国際公開番号】WO2009011112
(87)【国際公開日】20090122
【審査請求日】2011年7月1日
【審判番号】不服2014-14024(P2014-14024/J1)
【審判請求日】2014年7月18日
(31)【優先権主張番号】特願2007-184358(P2007-184358)
(32)【優先日】2007年7月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002956
【氏名又は名称】田辺三菱製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】福山 剛之
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 和彦
(72)【発明者】
【氏名】平井 賢一
【合議体】
【審判長】
村上 騎見高
【審判官】
前田 佳与子
【審判官】
佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−188474(JP,A)
【文献】
国際公開第99/09992(WO,A1)
【文献】
特開平7−69897(JP,A)
【文献】
特開平9−235230(JP,A)
【文献】
特開平6−263481(JP,A)
【文献】
特開平2−175630(JP,A)
【文献】
特開平8−104620(JP,A)
【文献】
特開2001−328612(JP,A)
【文献】
特開平8−175998(JP,A)
【文献】
Teagarden,D.L. et al.,Dehydration Kinetics of Prostaglandin E1 in a lipid Emulsion, Pharm. Res.,1989年3月,Vol.6,No.3,P.210−215
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/33-33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルプロスタジルを含有する脂肪乳剤であって、内部表面に皮膜コートが施されたガラス製容器に密封された後に加熱滅菌されており、5℃で16ヶ月間保存後にプロスタグランジンE1活性の残存量が保存開始時の65%以上100%以下である脂肪乳剤において、加熱滅菌後のpHが4.9から5.3の範囲であり、かつ内部表面に皮膜コートが施されたガラス製容器がガラスアンプルであり、該ガラスアンプル中にアルプロスタジルが4μg以上6.25μg以下又は8μg以上12.5μg以下充填されている脂肪乳剤。
【請求項2】
皮膜コートが酸化ケイ素皮膜コートである請求項1に記載の脂肪乳剤。
【請求項3】
脂肪乳剤全量に対して5〜50w/v%の植物油を含む請求項1又は2のいずれか1項に記載の脂肪乳剤。
【請求項4】
1mlの脂肪乳剤中にアルプロスタジルを5μg、精製ダイズ油を100mg、高度精製卵黄レシチンを18mg、オレイン酸を2.4mg、及び濃グリセリンを22.1mg含有する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の脂肪乳剤。
【請求項5】
脂肪乳剤中にアルプロスタジルを5μg、精製ダイズ油を100mg、高度精製卵黄レシチンを18mg、オレイン酸を2.4mg、及び濃グリセリンを22.1mg含有し、液量が1mlである請求項1ないし3のいずれか1項に記載の脂肪乳剤。
【請求項6】
2mlの脂肪乳剤中にアルプロスタジルを10μg、精製ダイズ油を200mg、高度精製卵黄レシチンを36mg、オレイン酸を4.8mg、濃グリセリンを44.2mg含有する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の脂肪乳剤。
【請求項7】
脂肪乳剤中にアルプロスタジルを10μg、精製ダイズ油を200mg、高度精製卵黄レシチンを36mg、オレイン酸を4.8mg、及び濃グリセリンを44.2mg含有し、液量が2mlである請求項1ないし3のいずれか1項に記載の脂肪乳剤。
【請求項8】
5℃で16ヶ月間保存後の脂肪乳剤1ml中におけるプロスタグランジンA1量が3.0μg以下である請求項4ないし7のいずれか1項に記載の脂肪乳剤。
【請求項9】
pH4.8から5.2の範囲に調節されたアルプロスタジルを含有する脂肪乳剤を、内部表面に皮膜コートが施されたガラス製容器に密封された後に加熱滅菌することにより、5℃で16ヶ月間保存後にプロスタグランジンE1活性の残存量が保存開始時の65%以上100%以下であるガラス製容器入り脂肪乳剤を製造する方法であって、加熱滅菌後のpHが4.9から5.3の範囲であり、かつ内部表面に皮膜コートが施されたガラス製容器がガラスアンプルであり、該ガラスアンプル中にアルプロスタジルが4μg以上6.25μg以下又は8μg以上12.5μg以下充填されている方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプロスタグランジンE
1を含む安定な脂肪乳剤に関する。
【背景技術】
【0002】
プロスタグランジンE
1(以下、「PGE
1」と略す場合がある。)、は一般名「アルプロスタジル」であり、強力な血管拡張作用及び血小板凝集抑制作用を有しており、慢性動脈閉塞症(バージャー病、閉塞性動脈硬化症)における四肢潰瘍及び安静時疼痛の改善、進行性全身性硬化症などにおける皮膚潰瘍の改善、糖尿病における皮膚潰瘍の改善などを効能として臨床的に用いられている。プロスタグランジンE
1含有製剤としては微細な脂肪粒子中にPGE
1を溶解したいわゆるリポ化製剤(例えば「リプル注」、田辺三菱製薬株式会社製造及び販売)が知られている。この製剤は、薬物の担体として利用された脂肪粒子が特に障害された血管に分布しやすい特性を有することを利用して、ドラッグデリバリーシステム(DDS)の考えにより病変部位に効率よくPGE
1を集積させ、かつ生体内での有効成分の不活化を生じにくくした製剤であり、添加物として精製ダイズ油、高度精製卵黄レシチン、オレイン酸、濃グリセリン、及び水酸化ナトリウムを含み、pHが4.5から6.0に調整されている。
【0003】
しかしながら、上記のPGE
1のリポ化製剤は有効成分であるPGE
1が溶液中で分解しやすいため、凍結を避けて5℃以下の遮光下に保存する必要があり、有効期間は通常の製剤よりも短い1年間と定められている。このような製剤は流通段階や臨床現場における薬剤管理コストの増大を招く事から、薬剤管理コストの低減に繋がる有効期間の長い製剤の開発が切望されている。なお、プロスタグランジンE
1の肺通過による失活を脂肪乳剤により抑制する手段は特開昭58-222014号公報(特許文献1)に開示されており、脂肪乳剤により化学的安定性を改善する手段は特開昭60-149524号公報(特許文献2)に開示されており、脂肪乳剤として調製された血管造影補助剤は特開平4-66540号公報(特許文献3)に開示されている。また、脂肪乳剤中のPGE
1に対するpHの影響については、pH 5.0付近で最も安定であり、それ以上又はそれ以下のpHでは不安定化することが知られている(Pharmaceutical Research, 6, pp.210-215, 1989;非特許文献1)。
【特許文献1】特開昭58-222014号公報
【特許文献2】特開昭60-149524号公報
【特許文献3】特開平4-66540号公報
【非特許文献1】PharmaceuticalResearch, 6, pp.210-215, 1989
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題はより長い有効期間を持つプロスタグランジンE
1活性を有する化合物を含有する製剤を提供することにある。より具体的には、プロスタグランジンE
1含有製剤として市販されているリポ化製剤(例えば「リプル注」など)の有効期間を長期化する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記の課題を解決すべく、鋭意研究した結果、製剤製造工程の最終段階において、ガラスアンプル中に密封された製剤(充填時にpHを約5.0に調整)をオートクレーブ(125℃)で加熱滅菌すると、ガラスアンプルの内部表面からアルカリ成分が溶出し、製剤のpHが滅菌前に比べて上昇することを見出した。この知見を基にして本発明者らはさらに研究を続けた結果、滅菌時のガラスアンプルからのアルカリ成分の溶出を抑制する手段を採用することにより、ガラスアンプルの特性(材質)の影響を受けずに容易に製造でき、長期間にわたって安定なリポ化製剤を提供できることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明により、プロスタグランジンE
1活性を有する化合物を含有する脂肪乳剤であって、ガラス製容器に密封された後に加熱滅菌されており、5℃で16ヶ月間保存後にプロスタグランジンE
1活性の残存量が保存開始時の65%以上100%以下である脂肪乳剤が提供される。
【0007】
上記発明の好ましい態様によれば、保存開始時においてプロスタグランジンE
1活性を有する化合物を5μg以上含有しており、5℃で16ヶ月間保存後にプロスタグランジンE
1活性を有する化合物の残存量が4μg以上である上記の脂肪乳剤;保存開始時においてプロスタグランジンE
1活性を有する化合物を10μg以上含有しており、5℃で16ヶ月間保存後にプロスタグランジンE
1活性を有する化合物の残存量が8μg以上である上記の脂肪乳剤が提供される。また、加熱滅菌後の保存開始時のpHが4.9から5.3の範囲である上記の脂肪乳剤が提供される。
【0008】
さらに好ましい態様によれば、ガラス製容器が内部表面に皮膜コートが施された容器である上記の脂肪乳剤;ガラス製容器が内部表面に皮膜コートが施されたガラスアンプルである上記の脂肪乳剤;皮膜コートが酸化ケイ素皮膜コートである上記の脂肪乳剤;ガラス製容器がガラス表面のアルカリ成分を化学的処理により除去した容器である上記の脂肪乳剤;ガラス製容器がガラス表面のアルカリ成分を化学的処理により除去したガラスアンプルである上記の脂肪乳剤が提供される。また、脂肪乳剤全量に対して5〜50 w/v%の植物油を含む上記の脂肪乳剤が提供される。
【0009】
別の観点からは、本発明により、プロスタグランジンE
1活性を有する化合物を含有する脂肪乳剤の製造方法であって、プロスタグランジンE
1活性を有する化合物を含有するpHが4.8から5.2の範囲に調節された脂肪乳剤をガラス製容器に密封して加熱滅菌する工程を含み、好ましくは当該容器が加熱滅菌後の当該脂肪乳剤のpH上昇を抑制する手段を備えている方法が提供される。
【0010】
上記発明の好ましい態様によれば、当該ガラス製容器がガラスアンプルであり、pH上昇を抑制する上記手段がガラスアンプル内部表面の皮膜コート、好ましくは酸化ケイ素皮膜コートである上記の方法;当該ガラス製容器がガラスアンプルであり、pH上昇を抑制する上記手段がガラス表面のアルカリ成分の化学的処理による除去である上記の方法が提供される。また、加熱滅菌後の脂肪乳剤のpHが4.9から5.3の範囲である上記の方法;及び加熱滅菌後に各ガラスアンプル中の当該脂肪乳剤中に残存するPGE
1活性を有する化合物の量の相対標準偏差が1.0%以下である上記の方法が提供される。なお、ここでPGE
1活性を有する化合物の量とは、有効成分として「PGE
1」を含有する脂肪乳剤にあっては有効成分である「PGE
1」の量を、有効成分として「PGE
1以外のPGE
1活性を有する化合物」を含有する脂肪乳剤にあっては有効成分である「PGE
1以外のPGE
1活性を有する化合物」の量を意味する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の脂肪乳剤はプロスタグランジンE
1活性を有する化合物の安定性が従来の脂肪乳剤に比べて向上しており、長期間にわたって保存しても有効成分の含有量が低下しないという特徴がある。また、本発明の製造方法によれば、滅菌後のPGE
1量についてガラス製容器の特性(材質)による影響を受けない(受け難い)製品を提供できるという特徴がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の脂肪乳剤はプロスタグランジンE
1活性を有する化合物を含有する脂肪乳剤であって、容器に密封された後に加熱滅菌されており、5℃で16ヶ月間保存後にPGE
1活性の残存量が保存開始時の65%以上100%以下であることを特徴としている。PGE
1活性を有する化合物としては、PGE
1活性を有し、医薬の有効成分として適合するものであればいかなる化合物を用いてもよい。例えば、特開昭59-206349号公報や特開昭59-216820号公報などに開示されるPGE
1誘導体が好適に使用される。これらのうち、例えば、7-{(1R,2R,3R)-3-ヒドロキシ-2-[(1E,3S)-3-ヒドロキシオクト-1-エン-1-イル]-5-オキソシクロペンチル}ヘプタン酸(一般名「アルプロスタジル」)が特に好ましい。
【0013】
本発明におけるプロスタグランジンE1活性を有する化合物として特に好ましいものは、前述の通り7-{(1R,2R,3R)-3-ヒドロキシ-2-[(1E,3S)-3-ヒドロキシオクト-1-エン-1-イル]-5-オキソシクロペンチル}ヘプタン酸(アルプロスタジル)であるが、当該化合物は脱水反応により7-{(1R,2S)-2-[(S,E)-3-ヒドロキシオクト-1-エニル]-5-オキソシクロペント-3-エニル}ヘプタン酸(プロスタグランジンA1)に変化しやすい。プロスタグランジンA1への変化により、本発明における脂肪乳剤の薬理活性が低下すると考えられる。本発明においては、5℃で16ヵ月間保存後の本発明の脂肪乳剤1ml中のプロスタグランジンA1量が3.0μg以下であることが望ましい。特に望ましいのは、0μg以上1.5μg以下である。
【0014】
PGE
1活性を有する化合物を含有する脂肪乳剤は、例えば、特開昭58-222014号公報、特開昭60-149524号公報、及び特開平4-66540号公報などに記載されており、当業者は容易に脂肪乳剤を調製することが可能である。脂肪乳剤は、例えば、植物油、リン脂質、水、及びPGE
1活性を有する化合物を含むように調製することができる。さらに、必要に応じて、乳化補助剤、安定化剤、高分子物質、等張化剤等を添加することもできる。
【0015】
脂肪乳剤は種々の方法により調製できるが、例えば、次の方法によって製造することができる。所定量の植物油(好ましくは大豆油)、リン脂質、PGE
1活性を有する化合物、及びその他前記の添加剤などを混合し、必要に応じて加熱した後、常用のホモジナイザー(例えば、加圧噴射型ホモジナイザー、超音波ホモジナイザーなど)を用いて均質化処理することにより油中水型分散液を調製し、次いでこの分散液に必要量の水を加え、ホモジナイザーで均質化を行って水中油型乳剤に変換することにより脂肪乳剤を製造することができる。脂肪乳剤の調製後に安定化剤や等張剤などの添加剤をさらに加えてもよい。脂肪乳剤は、加熱滅菌の前にpHが4.8から5.2の範囲となるように調節される。pHの調整には水酸化ナトリウムなどの塩基性物質を適量用いればよい。浸透圧比は生理食塩水に対する比として約1となるように調整することができる。
【0016】
本発明における脂肪乳剤の平均粒子径は、動的光散乱法を原理とした粒子径測定装置を用いて測定することができる。本発明における脂肪乳剤の好ましい平均粒子径は0.1μm以上0.4μm以下である。
【0017】
本発明の脂肪乳剤は、例えば上記のようにして調製した脂肪乳剤をガラス製容器に密封した後に加熱滅菌処理することにより製造することができる。ガラス製容器としては、密封に適しており、かつ加熱滅菌処理において内部に充填された脂肪乳剤中にアルカリ成分を溶出しない性質を有するものであれば任意のガラス製容器を使用することができるが、例えば、加熱滅菌後の当該脂肪乳剤のpH上昇を抑制する手段を備えているガラス製容器が好ましく、上記手段を備えているガラスアンプルが特に好ましい。
【0018】
加熱滅菌後の当該脂肪乳剤のpH上昇を抑制する手段は特に限定されず、例えば、加熱滅菌時において脂肪乳剤中にアルカリ成分の溶出を防止する手段、あるいは加熱滅菌時において脂肪乳剤中に酸性成分を溶出させる手段などを採用できるが、加熱滅菌時において脂肪乳剤中にアルカリ成分の溶出を防止する手段が好ましい。加熱滅菌時において脂肪乳剤中にアルカリ成分の溶出を防止する手段としては、例えば、容器内部表面に皮膜コートを施す手段が挙げられる。好ましくはガラスアンプルの内部表面に酸化ケイ素皮膜コートを施す手段を採用することができる。あるいは、pH上昇を抑制する手段として、ガラス表面のアルカリ成分を化学的処理により除去する手段を採用することも可能である。このような技術は、例えば特開平2-175630号公報などに記載されており、当業者が容易に採用することができる。
【0019】
本発明の脂肪乳剤は、pHが4.8から5.2の範囲に調節された上記脂肪乳剤を容器に密封して加熱滅菌することにより調製することができる。加熱滅菌は、例えばオートクレーブ中で125℃で数分間から10分程度行うことができるが、温度及び時間は特に限定されず、十分な滅菌が達成できる処理であれば任意の処理を採用することができる。加熱滅菌後の脂肪乳剤のpHは4.9から5.3の範囲であることが好ましい。加熱滅菌の前後におけるpHの上昇は0.3未満であることが好ましく、0.2未満であることがさらに好ましく、0.1未満であることが特に好ましい。また、滅菌後のPGE
1量に関して、各アンプルごとのばらつきはPGE
1量(μg)の相対標準偏差が1.0%以下であることが望ましく、さらに望ましくは0.5%以下である。
【0020】
本発明におけるプロスタグランジンE1活性を有する化合物を含有する脂肪乳剤は、例えばプロスタグランジンE1活性を有する化合物の重量として5μgまたは10μgを含有する製剤としてアンプルに充填して提供することができる。本発明においては、5μg充填されたアンプル中に、その量の80%〜125%の重量の当該化合物が充填されていることが望ましい。すなわちアンプル中に当該化合物が4μg以上6.25μg以下充填されていることを意味する。あるいは本発明においては、10μg充填されたアンプル中に、その両の80%〜125%の重量の当該化合物が充填されていることが望ましい。すなわちアンプル中に当該化合物が8μg以上12.5μg以下充填されていることを意味する。
【0021】
なお、本発明の脂肪乳剤の適用疾患及び使用方法などについては、例えば「リプル注5μg」の添付文書(田辺三菱製薬株式会社、2008年4月改訂、第16版)に具体的かつ詳細に記載されている。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
例1
精製ダイズ油に、アルプロスタジル(PGE
1)、オレイン酸、及びホスファチジルエタノールアミン(PE)を除去した卵黄レシチンを溶解し、別途用意したグリセリンと注射用蒸留水との混合物を添加し、ホモミキサーで攪拌して懸濁液を調製した。得られた懸濁液をマントンゴーリン型乳化機(マントンゴーリン製)で乳化し、水酸化ナトリウム及び塩酸を用いてpHを4.90に調整した。調製した乳化物をシリコートアンプル(不二硝子製、アンプル内部に厚さ70〜100Åの酸化ケイ素皮膜コートを施したガラス製アンプル)に充填し、アンプルの空隙部分を窒素置換して熔閉することにより密封した。得られたアンプルを高圧蒸気滅菌機を用いて125℃で2.2分間滅菌して本発明の脂肪乳剤を得た。
【0023】
例2
例1と同様の方法で乳化物を調製し、水酸化ナトリウムを用いてpHを5.01に調整した後、例1と同様にしてシリコートアンプルに充填及び密封し、滅菌を行って本発明の脂肪乳剤を得た。
例3
例1と同様の方法で乳化物を調製し、水酸化ナトリウムを用いてpHを5.15に調整した後、例1と同様にしてシリコートアンプルに充填及び密封し、滅菌を行って本発明の脂肪乳剤を得た。
【0024】
例4(比較例)
例1で調製した乳化物を通常のガラスアンプル(酸化ケイ素皮膜コートが施されていないガラス製アンプル)に充填し、アンプルの空隙部分を窒素置換して熔閉することにより密封した。得られたアンプルを高圧蒸気滅菌機を用いて125℃で2.2分間滅菌して脂肪乳剤を得た。
【0025】
例5
例1と同様の方法で乳化物を調製し、水酸化ナトリウムを用いてpHを5.09から5.15に調整した後、例1と同様にしてシリコートアンプルに充填および密封したサンプルを9例作製し、滅菌を行なって本発明の脂肪乳剤を得た。
【0026】
例6(比較例)
例5と同様の方法で、通常のガラスアンプルに充填したサンプルを10例作製し、例5と同様の方法で滅菌して脂肪乳剤を得た。
表1に加熱滅菌前のpHを変化させた脂肪乳剤を25℃で保存した場合におけるPGE
1の安定性試験の結果を示す。PGE
1の残存率はポストカラム反応を用いた高速液体クロマトグラフィーによって測定した(日本薬局方フォーラム(JP Forum), 15(3), pp.233-235, 2006に記載された方法に従って測定した)。表2に30℃、及び40℃で保存した場合におけるPGE
1の安定性試験の結果を示す。この結果から明らかなように、30℃及び40℃で保存した場合にも、シリコートアンプルに密封充填された本発明の脂肪乳剤のPGE
1安定性は、通常のガラスアンプルに密封充填された例5の脂肪乳剤よりも優れていた。上記の結果を用いて、pH 5.0付近に調製した脂肪乳剤を用いた場合の5℃でのPGE
1安定性をアレニウスプロットを用いて計算した。表3に示すように、シリコートアンプルに密封充填された本発明の脂肪乳剤では16ヶ月目で開始時に対して65%以上の含有量を維持することができた。
【0027】
表4に、滅菌後の各サンプル中に残存するPGE
1量と、それらの平均値、標準偏差値および相対標準偏差値を示す。シリコートアンプルに密封充填された本発明の脂肪乳剤残量の標準偏差値は、通常のガラスアンプルに密封充填された例7の脂肪乳剤量の相対標準偏差値よりも小さく、サンプルごとのばらつきが小さい均一な製品であることが示された。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
【表3】
【0031】
【表4】
【0032】
例7
例2と同様の方法で調製した乳化物を1 ml採取し、1 mlの内標準溶液(1-ナフトール50 mgを99.5%エタノール20 mlに溶解し、この溶解液3 mlに移動相を加えて100 mlとしたもの)を加えて混合し、試料溶液とした。別にアルプロスタジル標準液をデシケーターで乾燥し、10 mgを量り取り正確に秤量し、99.5%エタノールに溶解して100 mlとして標準原液(E1)とした。また、プロスタグランジンA1標準液をデシケーターで乾燥し、10 mgを量り取り、99.5%エタノールに溶解して100 mlとして標準原液(A1)とした。E1およびA1を2.5 mlずつ採取し、移動相を加えて50 mlとし、この混合液1 mlを採取して内標準液1 mlと混合して標準溶液とした。試料溶液および標準溶液それぞれ40μlにつき、液体クロマトグラフィーを実施した。
【0033】
内標準物質のピーク面積に対するプロスタグランジンA1のピーク面積の比を求めた。試料溶液におけるプロスタグランジンA1の面積比はQTとし、標準溶液におけるプロスタグランジンA1の面積比はQSとした。これら面積比を用いて、次式によりアルプロスタジルに換算したプロスタグランジンA1の量を求めた。
プロスタグランジンA1の量(μg)=(プロスタグランジンA1の正確な秤取量(mg))× QT/QS × 0.5 × 1.054
【0034】
例2と同様の方法で調製した乳化物については、プロスタグランジンA1の正確な秤量は10.05 mg、試料溶液の内標準物質のピーク面積に対するプロスタグランジンA1のピーク面積の比(QT)は0.180931、標準溶液の内標準物質のピーク面積に対するプロスタグランジンA1のピーク面積の比(QT)は0.778099であった。これを上記式にあてはめて計算したところ、当該乳化物中のプロスタグランジンA1の量は1.23μgであった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の脂肪乳剤はプロスタグランジンE
1活性を有する化合物の安定性が従来の脂肪乳剤に比べて向上しており、長期間にわたって保存しても有効成分の含有量が低下しないので、プロスタグランジンE
1含有製剤として極めて有用である。