(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
軸孔を有する絶縁碍子と、自身の先端が前記絶縁碍子の先端面から突出する状態で前記軸孔に保持された中心電極と、前記絶縁碍子の先端を突出させた状態で前記絶縁碍子を保持する主体金具と、前記中心電極との間に火花放電ギャップを形成する接地電極とを備えるスパークプラグの製造方法であって、
前記主体金具は、下記の工程により得られた主体金具であることを特徴とするスパークプラグの製造方法。
(A)ニッケルめっき処理が施された主体金具に対して、ラック式によるクロメート処理を下記の条件で行なうことにより、三価のクロメート皮膜を形成する工程
条件(a):前記クロメート処理における電流密度は、0.6A/dm2以上14.5A/dm2以下
条件(b):前記クロメート処理に用いられる陽極と、前記主体金具のうち前記陽極に最も接近している部分との距離は、100mm以上400mm以下
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した従来の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、主体金具の耐食性を確保しつつ、主体金具に生じる変色を抑制することのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するために、以下の形態または適用例を取ることが可能である。
【0007】
[適用例1]
軸孔を有する絶縁碍子と、自身の先端が前記絶縁碍子の先端面から突出する状態で前記軸孔に保持された中心電極と、前記絶縁碍子の先端を突出させた状態で前記絶縁碍子を保持する主体金具と、前記中心電極との間に火花放電ギャップを形成する接地電極とを備えるスパークプラグの製造方法であって、
前記主体金具は、下記の工程により得られた主体金具であることを特徴とするスパークプラグの製造方法。
(A)ニッケルめっき処理が施された主体金具に対して、ラック式によるクロメート処理を下記の条件で行なうことにより、三価のクロメート皮膜を形成する工程
条件(a):前記クロメート処理における電流密度は、0.6A/dm
2以上14.5A/dm
2以下
条件(b):前記クロメート処理に用いられる陽極と、前記主体金具のうち前記陽極に最も接近している部分との距離は、100mm以上400mm以下
こうすれば、主体金具の耐食性を確保しつつ、主体金具に生じる変色を抑制することができる。
【0008】
[適用例2]
適用例1に記載のスパークプラグの製造方法であって、
前記クロメート処理に用いられるクロメート液の温度は、20℃以上40℃以下であることを特徴とする、
スパークプラグの製造方法。
こうすれば、主体金具の耐食性をさらに向上させることができるとともに、主体金具に生じる変色をさらに抑制することができる。
【0009】
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載のスパークプラグの製造方法であって、
前記クロメート処理に用いられるクロメート液に含まれる重クロム酸ナトリウムの単位体積当たりの質量は、20g/L以上60g/L以下であることを特徴とする、
スパークプラグの製造方法。
こうすれば、主体金具の耐食性をさらに向上させることができるとともに、主体金具に生じる変色をさらに抑制することができる。
【0010】
[適用例4]
適用例1から適用例3のいずれか一項に記載のスパークプラグの製造方法であって、
前記クロメート処理に用いられるクロメート液に含まれる塩素イオンの単位体積当たりの質量は、500mg/L以下であることを特徴とする、
スパークプラグの製造方法。
こうすれば、主体金具の耐食性をさらに向上させることができるとともに、主体金具に生じる変色をさらに抑制することができる。
【0011】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能である。例えば、スパークプラグの製造装置、製造システム、スパークプラグの製造装置の機能を実現するための集積回路、コンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体等の形態で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.スパークプラグの構成:
B.スパークプラグの製造工程:
B1.組付工程:
B2.ニッケルストライクめっき処理:
B3.電解ニッケルめっき処理:
B4.電解クロメート処理:
B5.防錆油の塗布処理:
C.電解クロメート処理における実験例:
C1.電流密度と距離Xに関する実験例:
C2.クロメート液の温度と距離Xに関する実験例:
C3.クロメート液の重クロム酸ナトリウム濃度と距離Xに関する実験例:
C4.クロメート液の塩素濃度と距離Xに関する実験例:
D.変形例:
【0014】
A.スパークプラグの構成:
図1は、スパークプラグの構造の一例を示す要部断面図である。このスパークプラグ100は、筒状の主体金具1と、先端部が突出するように主体金具1の筒孔1ch内に嵌め込まれた筒状の絶縁体2と、先端部を突出させた状態で絶縁体2の内側に設けられた中心電極3とを備えている。主体金具1には、接地電極4が接合されている。接地電極4は、一端が主体金具1に接合されるとともに、他端が中心電極3の先端と対向するように配置され、中心電極3との間に火花放電ギャップgを形成する。
【0015】
絶縁体2は、例えばアルミナあるいは窒化アルミニウム等のセラミック焼結体により構成され、その内部には絶縁体2の軸方向に沿って中心電極3や端子金具13を嵌め込むための貫通孔6が形成されている。中心電極3は、貫通孔6の先端側(紙面下側)に挿入・固定され、端子金具13は、貫通孔6の後端側(
図1の紙面上側)に挿入・固定される。また、貫通孔6内において、端子金具13と中心電極3との間には、抵抗体15が配置される。この抵抗体15の両端部は、導電性ガラスシール層16,17を介して中心電極3と端子金具13とにそれぞれ電気的に接続される。
【0016】
主体金具1は、炭素鋼等の金属により中空円筒状に形成されており、スパークプラグ100のハウジングを構成する。主体金具1の先端側の外周面には、スパークプラグ100を内燃機関の燃焼室(図示せず)に取り付けるためのねじ部7が形成されている。ねじ部7には、燃焼室に設けられたスパークプラグを取り付けるためのねじ孔に螺合するねじ溝が切られている。ねじ部7の後端側には、六角部1eが設けられている。六角部1eは、主体金具1を燃焼室に取り付ける際に、スパナやレンチ等の工具を係合させる工具係合部であり、六角状の横断面形状を有している。
【0017】
主体金具1の後端側の開口部の内壁面と、絶縁体2の外壁面との間には、タルク等の粉体が充填された充填層61が形成されている。充填層61は、絶縁体2のフランジ状の突出部2eと、主体金具1の開口部端部が内側に加締められた加締め部1dとの間に形成されている。充填層61の突出部2e側と加締め部1d側のそれぞれの端部には、リング状の線パッキン62,60が配置されている。
【0018】
主体金具1の六角部1eとねじ部7との間には、ガスシール部1fが設けられている。ガスシール部1fは、フランジ状、すなわち径方向外側に突出した環状の凸部として形成されている。上述した主体金具1における変色は、特にこのガスシール部1fにおいて生じやすい。しかし、本実施形態による電解クロメート処理によれば、このガスシール部1fに生じやすい変色を効果的に抑制することができる。電解クロメート処理については後述する。
【0019】
ガスシール部1fのねじ部7側には、ガスケット30がはめ込まれている。このガスケット30は、炭素鋼等の金属板素材を曲げ加工したリング状の部品であり、ねじ部7をシリンダヘッド側のねじ孔にねじ込むことにより、ガスシール部1fとねじ孔の開口周縁部との間で、軸線方向に圧縮されてつぶれるように変形し、ねじ孔とねじ部7との間の隙間をシールする役割を果たす。なお、ガスシール部1fと六角部1eとの間には、溝部1hが形成されている。溝部1hは、厚みが主体金具1の中で最も薄く形成されており、外側にわずかに湾曲している。以後、本明細書では、溝部1hを「薄肉部1h」とも呼ぶ。
【0020】
B.スパークプラグの製造工程:
B1.組付工程:
図2(A)〜(D)は、主体金具1の製造工程の一例を工程順に示す説明図である。
図2(A)の工程では、接地電極4が接合された主体金具1の基材1aが準備される。基材1aは、加締め部1dとなるべき加締め予定部1daが、後端側に延びる壁部として形成されている点と、薄肉部1hが湾曲しておらず、接地電極4も屈曲していない直棒状の形状のままである点以外は、
図1で説明した主体金具1とほぼ同じである。なお、基材1aの表面は、防食のためのめっき処理がすでに施された状態である。
【0021】
次に、
図2(B)の工程では、基材1aの貫通孔に絶縁体2を、基材1aの後端側の挿入開口部1pから挿入し、絶縁体2と基材1aのそれぞれに設けられた係合部2h,1cを、板パッキン63を介して互いに係合させる。なお、絶縁体2には、中心電極3及び導電性ガラスシール層16,17、抵抗体15及び端子金具13が予め組みつけられている。
【0022】
図2(C)の工程では、基材1aの挿入開口部1pから線パッキン62を配置し、その後、タルク等の充填層61を形成して、さらに、線パッキン60を挿入開口部1p側に配置する。そして、加締め金型111により、加締め予定部1daを線パッキン62、充填層61及び線パッキン60を介して、突出部2eの端面2nを加締め受部として加締める。これにより、
図2(D)に示すように加締め予定部1daが変形して加締め部1dが形成され、基材1aが絶縁体2に加締め固定される。なお、薄肉部1hは、この加締め時における圧縮応力によって湾曲する。加締め工程の後、接地電極4を中心電極3側に曲げ加工して屈曲部Rを形成することにより、火花放電ギャップgが形成され、
図1のスパークプラグ100が完成する。
【0023】
本実施形態では、主体金具1と絶縁体2とを固定する加締め工程の前に、主体金具1の基材1aの外表面に対して以下に説明する防食処理が施される。
【0024】
図3は、主体金具1の基材1aに対して行われる防食処理の処理手順を示すフローチャートである。以下では、
図3に示したステップT100〜T130の各処理工程について工程順に説明する。
【0025】
B2.ニッケルストライクめっき処理:
ニッケルストライクめっき処理(
図3のステップT100)は、炭素鋼で形成された基材1aの表面を洗浄するとともに、めっき層と下地金属との密着性を向上させるために行われる処理である。ただし、ニッケルストライクめっき処理は省略されても良い。ニッケルストライクめっき処理は、通常利用される処理条件によって行うことができる。具体的な好ましい処理条件の例は、以下の通りである。
【0026】
<ニッケルストライクめっきの処理条件の例>
・めっき浴組成:
塩化ニッケル: 150〜250g/L
35%塩酸: 120〜180ml/L
溶媒: 脱イオン水
・処理温度(浴温度): 25〜35℃
・電流密度: 0.7A/dm
2
・処理時間: 4分
【0027】
B3.電解ニッケルめっき処理:
ニッケルストライクめっき処理が終了すると、電解ニッケルめっき処理が行なわれる(ステップT110)。電解ニッケルめっき処理では、回転バレルを使用したバレル式めっき法を利用可能である。ただし、電解ニッケルめっき処理としては、静止めっき法などの他のめっき方法を利用するものとしても良い。電解ニッケルめっき処理は、通常利用される処理条件によって行うことができる。具体的な好ましい処理条件の例は以下の通りである。
【0028】
<電解ニッケルめっき処理の処理条件の例>
・めっき浴組成:
硫酸ニッケル: 200〜380g/L
塩化ニッケル: 20〜60g/L
ホウ酸: 20〜60g/L
溶媒: 脱イオン水
・浴pH: 2.0〜4.8
・処理温度(浴温度): 45〜65℃
・電流密度: 0.8A/dm
2
・処理時間: 60分
【0029】
電解ニッケルめっき処理では、一般に、ニッケルめっき層の平滑性を向上させるために、めっき浴中に光沢剤が添加される。そして、光沢剤の添加の際には、めっき層の硬度を調整するための1次光沢剤と、光沢作用を担う2次光沢剤とが併用される。光沢剤としては、具体的に以下のものが用いられる。
【0030】
<1次光沢剤の例>
「=C−SO
2−」の構造を分子中に含む有機化合物:
1,3,6ナフタレントリスルホン酸ナトリウムや、1,5ナフタリンジスルホン酸ナトリウムなどの各種のスルホン酸塩/スルホンイミド(例えばサッカリン)/スルホンアミド(例えばパラトルエンスルホンアミド)/スルフィン酸など
<2次光沢剤の例>
「C=O」、「C=C」、「C≡C」、「C=N」、「C≡N」、「N−C=S」、「N=N」あるいは「−CH
2−CH−O−」の少なくともいずれかの構造を分子中に含む有機化合物:
クマリン/2ブチン−1,4ジオール/エチレンシアンヒドリン/プロパギルアルコール/ホルムアルデヒド/チオ尿素/キノリン/ピリジンなど
【0031】
このように、光沢剤には炭素原子が主成分として含まれている。そのため、これらの光沢剤を用いることにより、めっき浴中に炭素原子を含有させることが可能である。即ち、めっき浴に添加される光沢剤の量を調整することにより、形成されるニッケルめっき層の厚みの均一化を促進することができる。具体的には、めっき浴には、以下の量の光沢剤が添加されるものとしても良い。
<電解ニッケルめっき処理のめっき浴に添加される光沢剤の量の例>
・1次光沢剤: 1〜5g/L
・2次光沢剤: 0.1〜0.3g/L
【0032】
B4.電解クロメート処理:
電解ニッケルめっき処理が終了すると、電解クロメート処理が行なわれる(ステップT120)。電解クロメート処理は、ニッケルめっき層の防食のために、ニッケルめっき層の上にクロメート層(クロメート皮膜)を形成する処理である。本実施形態による電解クロメート処理では、三価クロム系のクロメート皮膜が形成される。
【0033】
図4は、電解クロメート処理の様子を示す説明図である。浴槽200にはクロメート液が満たされており、2つの陽極板202,204及び陰極208が配置されている。陽極板202,204は、整流器210のプラス端子に接続されており、陰極208は、整流器210のマイナス端子に接続されている。陰極208には、ラック220が電気的に接続されている。本実施形態の電解クロメート処理では、主体金具1をラック220に掛けてめっき処理を行なう静止めっき法(ラック式めっき法)を利用する。以下では、
図4に示すように、クロメート処理に用いられる陽極板と、主体金具1のうち陽極板に最も接近している部分との距離をXとする。電解クロメート処理の好ましい処理条件の例は以下の通りである。
【0034】
<電解クロメート処理の処理条件の例>
・クロメート液の組成:
重クロム酸ナトリウム:15〜60g/L
溶媒:脱イオン水
塩素イオン: 500mg/L以下
・浴pH: 2〜6
・処理温度(液温): 20〜40℃
・電流密度: 0.6〜14.5A/dm
2
・距離X: 100〜400mm
・処理時間: 10秒〜10分
【0035】
上記したように、電解クロメート処理における電流密度は、0.6A/dm
2以上14.5A/dm
2以下であることが好ましく、距離Xは、100mm以上400mm以下であることが好ましい。この理由について説明する。電流密度が小さすぎると、十分な厚さのクロメート皮膜が形成されないため、主体金具1に変色が発生するだけでなく、主体金具1の耐食性の向上が十分ではない。一方、電流密度が大きすぎると、形成されるクロメート皮膜が過剰な厚さとなってしまうため、主体金具1に変色が発生してしまう。また、距離Xが小さすぎても、形成されるクロメート皮膜が過剰な厚さとなってしまうため、主体金具1における変色の発生を抑制することが困難となり、距離Xが大きすぎても、十分な厚さのクロメート皮膜が形成されないため、主体金具1の耐食性の向上が十分ではない。そこで、距離Xを100mm以上400mm以下とした上で、電流密度を0.6A/dm
2以上14.5A/dm
2以下とすれば、主体金具1の耐食性を確保した上で、主体金具1における変色の発生を抑制することが可能となる。なお、この数値範囲に限定する根拠については後述する。
【0036】
さらに、電解クロメート処理に用いられるクロメート液の温度は、20℃以上40℃以下であることが好ましい。この理由について説明する。クロメート液の温度を20℃以上とすれば、主体金具1の耐食性をさらに向上させることが可能となり、一方、クロメート液の温度を40℃以下とすれば、形成されるクロメート皮膜が過剰な厚さとなってしまうことをさらに抑制することができ、主体金具1における変色の発生をさらに抑制することができる。すなわち、クロメート液の温度を20℃以上40℃以下とすれば、主体金具1の耐食性をさらに向上させた上で、主体金具1における変色の発生をさらに抑制することが可能となる。なお、この数値範囲に限定する根拠については後述する。
【0037】
さらに、クロメート液に含まれる重クロム酸ナトリウムの単位体積当たりの質量は、20g/L以上60g/L以下であることが好ましい。この理由について説明する。クロメート液に含まれる重クロム酸ナトリウムの単位体積当たりの質量を20g/L以上とすれば、主体金具1の耐食性をさらに向上させることが可能となり、一方、クロメート液に含まれる重クロム酸ナトリウムの単位体積当たりの質量を60g/L以下とすれば、形成されるクロメート皮膜が過剰な厚さとなってしまうことをさらに抑制することができ、主体金具1における変色の発生をさらに抑制することができる。すなわち、クロメート液に含まれる重クロム酸ナトリウムの単位体積当たりの質量を20g/L以上60g/L以下とすれば、主体金具1の耐食性をさらに向上させた上で、主体金具1における変色の発生をさらに抑制することが可能となる。なお、この数値範囲に限定する根拠については後述する。
【0038】
さらに、クロメート液に含まれる塩素イオンの単位体積当たりの質量は、500mg/L以下であることが好ましい。この理由について説明する。クロメート液に含まれる塩素イオンが増加すると、クロメート皮膜における塩素の含有量が多くなり、クロメート皮膜の正常な形成が妨げられ、主体金具1における変色の発生を抑制することが困難となる。また、大気中の水分とクロメート皮膜に含まれる塩素とが反応して酸(HCl)が形成されやすくなることにより、耐食性が低下してしまう。したがって、クロメート液に含まれる塩素イオンの単位体積当たりの質量を500mg/L以下とすれば、主体金具1における変色の発生をさらに抑制することができるとともに、主体金具1の耐食性をさらに向上させることができる。なお、この数値範囲に限定する根拠については後述する。
【0039】
B5.防錆油の塗布処理:
電解クロメート処理が終了すると、防錆油の塗布処理が行なわれる(ステップT130)。防錆油としては、炭素、バリウム(Ba)、カルシウム、ナトリウムのうちの少なくとも1種類が含まれるものを用いることができる。なお、この防錆油の塗布処理は省略されるものとしても良い。
【0040】
これらの防食処理の結果、主体金具1の基材1aの外表面には、保護被膜として、ニッケルめっき層が形成され、ニッケルめっき層の上に、クロメート層や防錆油の塗布層が形成される。
【0041】
これらの処理工程の後に、
図2で説明した加締め工程により、主体金具1を備えるスパークプラグ100が製造される。なお、
図2で説明した加締め工程としては、冷間加締めの他、熱加締めも利用可能である。
【0042】
C.電解クロメート処理における実験例:
C1.電流密度と距離Xに関する実験例:
電解クロメート処理における電流密度及び距離Xが主体金具1の外観及び耐食性に与える影響を調べるために、電解クロメート処理における電流密度及び距離Xの異なるサンプルを用いて、主体金具1の外観及び耐食性についての評価を行なった。なお、ニッケルストライクめっき処理、電解ニッケルめっき処理及び防錆油の塗布処理は、上記した条件の範囲で行なった。以下に示す他の実験例においても同様である。
【0043】
図5は、主体金具1の外観及び耐食性の判定基準を表形式で示す説明図である。外観の評価については、主体金具1に変色が発生しなかった場合を最も高い評価として「☆」で示し、変色した面積が5%未満の場合を2番目に高い評価として「◎」で示し、変色した面積が5%以上10%以下の場合を3番目に高い評価として「○」で示し、変色した面積が10%より大きかった場合を好ましくない評価として「×」で示した。なお、十分な厚さのクロメート層が形成されていないことによって主体金具1に変色が発生している場合にも、好ましくない評価として「×」で示した。
【0044】
また、耐食性の評価については、主体金具1に赤錆が発生しなかった場合を最も高い評価として「☆」で示し、主体金具1に発生した赤錆の面積が5%未満の場合を2番目に高い評価として「◎」で示し、主体金具1に発生した赤錆の面積が5%以上10%以下の場合を3番目に高い評価として「○」で示し、主体金具1に発生した赤錆の面積が10%より大きかった場合を好ましくない評価として「×」で示した。なお、これらの評価基準は、以下に説明する他の実験例に対しても同様に適用する。
【0045】
図6は、電流密度及び距離Xによる主体金具の外観及び耐食性への影響を表形式で示す説明図である。なお、電解クロメート処理における他の条件は以下のとおりである。
・クロメート液の組成:
重クロム酸ナトリウム:15g/L
溶媒:脱イオン水
・処理温度(液温): 15℃
・処理時間: 2分
【0046】
図6に示すように、距離Xが80mmの場合には、いずれのサンプルも外観の評価が「×」となった。また、距離Xが420mmの場合には、いずれのサンプルも外観及び耐食性の評価が「×」となった。さらに、距離Xが100mm、200mm、400mmの場合において、電流密度が0.6A/dm
2以上14.5A/dm
2以下の場合には、いずれのサンプルも外観及び耐食性の評価が「○」となった。以上より、スパークプラグの主体金具に対する電解クロメート処理において、距離Xが100mm以上400mm以下であり、電流密度が0.6A/dm
2以上14.5A/dm
2以下であれば、外観及び耐食性について好ましい評価が得られることが理解できる。
【0047】
C2.クロメート液の温度と距離Xに関する実験例:
電解クロメート処理におけるクロメート液の温度及び距離Xが主体金具1の外観及び耐食性に与える影響を調べるために、電解クロメート処理におけるクロメート液の温度及び距離Xの異なるサンプルを用いて、主体金具1の外観及び耐食性についての評価を行なった。
【0048】
図7は、クロメート液の温度及び距離Xによる主体金具の外観及び耐食性への影響を表形式で示す説明図である。電解クロメート処理における他の条件は以下のとおりである。
・クロメート液の組成:
重クロム酸ナトリウム:15g/L
溶媒:脱イオン水
・電流密度: 10A/dm
2
・処理時間: 2分
【0049】
図7に示すように、距離Xが100mm以上400mm以下の場合において、クロメート液の温度が20℃以上40℃以下であれば、いずれのサンプルも外観及び耐食性の評価が「◎」となった。以上より、スパークプラグの主体金具に対する電解クロメート処理において、距離Xが100mm以上400mm以下であり、クロメート液の温度が20℃以上40℃以下であれば、外観及び耐食性についてさらに好ましい評価が得られることが理解できる。
【0050】
C3.クロメート液の重クロム酸ナトリウム濃度と距離Xに関する実験例:
電解クロメート処理におけるクロメート液に含まれる重クロム酸ナトリウムの濃度及び距離Xが主体金具1の外観及び耐食性に与える影響を調べるために、クロメート液に含まれる重クロム酸ナトリウムの濃度及び距離Xの異なるサンプルを用いて、主体金具1の外観及び耐食性についての評価を行なった。
【0051】
図8は、クロメート液に含まれる重クロム酸ナトリウムの濃度及び距離Xによる主体金具の外観及び耐食性への影響を表形式で示す説明図である。電解クロメート処理における他の条件は以下のとおりである。
・電流密度: 10A/dm
2
・処理温度(液温): 30℃
・処理時間: 2分
【0052】
この
図8に示すように、距離Xが100mm以上400mm以下の場合において、クロメート液に含まれる重クロム酸ナトリウムの単位体積当たりの質量が20g/L以上であれば、耐食性の評価が「☆」となった。さらに、距離Xが100mm以上400mm以下の場合において、クロメート液に含まれる重クロム酸ナトリウムの単位体積当たりの質量が20g/L以上60g/L以下であれば、外観の評価が「☆」となった。以上より、スパークプラグの主体金具に対する電解クロメート処理において、距離Xが100mm以上400mm以下であり、クロメート液に含まれる重クロム酸ナトリウムの単位体積当たりの質量が20g/L以上60g/L以下であれば、外観及び耐食性についてさらに好ましい評価が得られることが理解できる。
【0053】
C4.クロメート液の塩素濃度と距離Xに関する実験例:
電解クロメート処理におけるクロメート液の塩素濃度及び距離Xが主体金具1の外観及び耐食性に与える影響を調べるために、電解クロメート処理におけるクロメート液の塩素濃度及び距離Xの異なるサンプルを用いて、主体金具1の外観及び耐食性についての評価を行なった。
【0054】
図9は、クロメート液の塩素濃度及び距離Xによる主体金具の外観及び耐食性への影響を表形式で示す説明図である。この
図9に示すように、クロメート液に含まれる塩素イオンの単位体積当たりの質量が500mg/L以下であれば、耐食性及び外観の評価が「☆」となった。以上より、スパークプラグの主体金具に対する電解クロメート処理において、クロメート液に含まれる塩素イオンの単位体積当たりの質量が500mg/L以下であれば、外観及び耐食性についてさらに好ましい評価が得られることが理解できる。
【0055】
D.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0056】
D1.変形例1:
上記実施形態では、
図4に示すように、2つの陽極板202,204を用いていたが、陽極板は1つであってもよい。
【0057】
D2.変形例2:
上記実施形態の
図1に示した主体金具1の形状は一例であり、主体金具1は他の形状であってもよい。