(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5890675
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】車両用エアサスペンション制御装置
(51)【国際特許分類】
B60G 17/015 20060101AFI20160308BHJP
B60G 17/017 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
B60G17/015 C
B60G17/017
【請求項の数】1
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-273447(P2011-273447)
(22)【出願日】2011年12月14日
(65)【公開番号】特開2013-123982(P2013-123982A)
(43)【公開日】2013年6月24日
【審査請求日】2014年11月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】望月 貴司
【審査官】
倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−123919(JP,A)
【文献】
特開2002−225530(JP,A)
【文献】
特開2009−067246(JP,A)
【文献】
特開昭63−173710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前輪を支持するように配設される左右のフロントエアスプリングと、
車両の後輪を支持するように配設される左右のリヤエアスプリングと、
前記フロントエアスプリングにエアタンク内の圧縮エアを給排するフロント車高調整バルブと、
前記リヤエアスプリングにエアタンク内の圧縮エアを給排するリヤ車高調整バルブと、
前記車両前部における左右の車高を検出するフロント車高センサと、
前記車両後部における左右の車高を検出するリヤ車高センサと、
前記フロント車高センサ並びにリヤ車高センサで検出される車高に基づいてフロント車高調整バルブ並びにリヤ車高調整バルブへ制御信号を出力することにより、車両後部における左右それぞれの車高を一定高さに且つ車軸に対し車体を平行に保持するレベリング制御を行い、乗客の乗降時にはクラウチングスイッチ操作により、乗降口が設けられた車両前部の車高を下げるクラウチング制御を行い、又、車高を所要高さに昇降させる車高調整制御を行うコントローラと
を備えた車両用エアサスペンション制御装置において、
前記左右のリヤエアスプリングをつなぐ連通エア管路途中に、後部左右連通バルブを設け、
前記コントローラは、前記フロント車高センサで検出される車両前部における左右の車高の差の絶対値が予め設定された第一閾値以上で、且つ、前記フロント車高センサで検出される車両前部における左右の車高の差と前記リヤ車高センサで検出される車両後部における左右の車高の差との積が負となる場合、又は、前記フロント車高センサで検出される車両前部における左右の車高の差の絶対値が予め設定された第一閾値以上で、且つ、前記リヤ車高センサで検出される車両後部における左右の車高と基準車高との差の絶対値が予め設定された第二閾値以下となる場合に、車両がうねり路にいると判断し、
走行時或いは停止時にクラウチング制御並びに車高調整制御が行われていない状態である通常モード中に、前記クラウチングスイッチがON操作された場合に車両がうねり路にいないと判断されたときには、前記クラウチング制御を行うと共に、前記後部左右連通バルブを閉じた状態で前記レベリング制御を行い、
前記通常モード中に、前記クラウチングスイッチがON操作された場合に車両がうねり路にいると判断されたときには、前記クラウチング制御を行うと共に、前記後部左右連通バルブを開いて前記車両後部における左右の車高の平均値を基準範囲に収める車両後部左右平均値制御を行うよう構成したことを特徴とする車両用エアサスペンション制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用エアサスペンション制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、エアサスペンション制御装置が搭載され且つ乗降口が前部側面に設けられたバス等の車両の場合、走行時或いは停止時には、路面の凹凸や傾斜によって車輪が上下動したり、或いは車体が傾斜したりしようとしても、左右の車高を独立して一定高さに保持することにより車軸に対し車体を平行に保持するレベリング制御を行うようになっているが、乗客の乗降時には、乗降口が設けられた車両前部の車高を下げるクラウチング制御を行い、乗客の乗降を容易にするようになっている。
【0003】
図5は従来の車両用エアサスペンション制御装置の一例を示す全体概要構成図であって、1はバス等の車両、2は車両1の前輪、3は車両1の後輪であり、この車両用エアサスペンション制御装置は、前記前輪2を支持するように左右一個ずつ合計二個配設されるフロントエアスプリング4と、前記後輪3を支持するように左右二個ずつ合計四個配設されるリヤエアスプリング5と、前記フロントエアスプリング4とエアタンク6とを接続するエア管路7に設けられ且つ前記フロントエアスプリング4にエアタンク6内の圧縮エアをそれぞれ給排するフロント車高調整バルブ8と、前記エア管路7から分岐してリヤエアスプリング5とエアタンク6とを接続するエア管路9に設けられ且つ前記リヤエアスプリング5にエアタンク6内の圧縮エアをそれぞれ給排するリヤ車高調整バルブ10と、車両1前部における左右の車高11aをそれぞれ電気的に検出するポテンショメータ等のフロント車高センサ11と、車両1後部における左右の車高12aをそれぞれ電気的に検出するポテンショメータ等のリヤ車高センサ12と、前記フロント車高センサ11並びにリヤ車高センサ12で検出される車高11a,12aに基づいてフロント車高調整バルブ8並びにリヤ車高調整バルブ10へ制御信号8a,10aを出力するコントローラ13とを備えてなる構成を有している。
【0004】
又、前記バス等の車両1の運転席には、運転者によってON・OFF操作され且つON状態で所定の条件が満たされたときに車両1前部が低くなるようクラウチング制御を行わせるためのクラウチングスイッチ14が設けられ、該クラウチングスイッチ14がコントローラ13に接続されている。
【0005】
尚、図示していないが、前記コントローラ13には、必要に応じて車両1の車高を所要高さに昇降させる車高調整制御を行うための車高調整制御スイッチも接続されており、天井の低い駐車場への駐車時やフェリーへの乗船時等に利用されるようになっている。
【0006】
前記車両用エアサスペンション制御装置においては、走行時或いは停止時、前記フロント車高センサ11により車両1前部における左右の車高11aが検出されてコントローラ13へ入力され、該コントローラ13において、前記車両1前部における左右の車高11aの平均値が演算され、該平均値と予め設定されている基準範囲との比較が行われ、該基準範囲より前記車両1前部における左右の車高11aの平均値が低いときにはフロント車高調整バルブ8への制御信号8aにより左右のフロントエアスプリング4に同時に圧縮エアが供給され、前記基準範囲より前記車両1前部における左右の車高11aの平均値が高いときにはフロント車高調整バルブ8への制御信号8aにより左右のフロントエアスプリング4から同時に圧縮エアが排出される。同時に、前記リヤ車高センサ12により車両1後部における左右の車高12aが検出されてコントローラ13へ入力され、該コントローラ13において、前記車両1後部における左右の車高12aと予め設定されている基準範囲との比較がそれぞれ行われ、該基準範囲より前記車両1後部における左右の車高12aが低いときにはリヤ車高調整バルブ10への制御信号10aにより左右のリヤエアスプリング5に圧縮エアが供給され、逆に前記基準範囲より前記車両1後部における左右の車高12aが高いときにはリヤ車高調整バルブ10への制御信号10aにより左右のリヤエアスプリング5から圧縮エアが排出される。このようにして、レベリング制御が行われ、路面の凹凸や傾斜によって車輪が上下動したり、或いは車体が傾斜したりしようとしても、左右の車高を独立して一定高さに保持することにより車軸に対し車体が平行に保持され、車両1が横転しにくくなって安定性が増すようになっている。尚、前記車両1の傾き修正は、軸荷重が大きく、トレッド(輪距)も広い後軸側で行う方が効果的であることは広く知られている。
【0007】
一方、運転者が車両1を走行させ、停留所等に到着して車両1を停止させ、パーキングブレーキを作動させた状態で、前記クラウチングスイッチ14が運転者によってON操作されると、前述と同様、フロント車高センサ11により車両1前部における左右の車高11aが検出されてコントローラ13へ入力され、該コントローラ13において、前記車両1前部における左右の車高11aの平均値が演算され、該平均値と予め前記基準範囲より低く設定されているクラウチング制御用基準範囲との比較が行われ、前記車両1前部における左右の車高11aの平均値がクラウチング制御用基準範囲に収まるよう、前記コントローラ13からフロント車高調整バルブ8へ出力される制御信号8aにより左右のフロントエアスプリング4から同時に圧縮エアが排出される。このようにして、乗降口が前部側面に設けられたバス等の車両1の場合、クラウチング制御が行われ、乗客の乗降時に、乗降口が設けられた車両1前部の車高が下げられ、乗客の乗降を容易にすることが可能となる。
【0008】
尚、前述の如き車両用エアサスペンション制御装置と関連する一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−205630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、例えば、上り勾配の道路において、
図6(a)に示される如く、車両1の右側の前輪2が接地する路面の高さが左側より著しく高くなっており、車両1の後輪3が接地する路面の高さは、
図6(b)に示される如く、前輪2側とは逆に右側の方が低くなっているような状況となる「うねり路」で、前述と同様に、クラウチング制御が行われて、車両1前部の左右のフロントエアスプリング4から同時に圧縮エアが排出された場合、右側のフロントエアスプリング4に内蔵されているバンプストッパが、該フロントエアスプリング4の上面プレートに接触して高さ方向へそれ以上収縮できなくなる、いわゆるラバーコンタクト状態に陥ってしまうことがあった。
【0011】
前記車両1前部における左右の車高11aの平均値がクラウチング制御用基準範囲に収まる前に、右側のフロントエアスプリング4がラバーコンタクト状態となってしまった場合、左側のフロントエアスプリング4からは更に継続して圧縮エアが排出されることになるが、それでも、前記車両1前部における左右の車高11aの平均値がクラウチング制御用基準範囲まで下がらないと、左側のフロントエアスプリング4内の圧縮エアがほとんどなくなり、該左側のフロントエアスプリング4がスタビライザ反力で更に縮む形となる。
【0012】
しかも、これと同時に、前記車両1後部における左側のリヤエアスプリング5に対しては、圧縮エアの供給が行われると共に、前記車両1後部における右側のリヤエアスプリング5からは圧縮エアが排出され、前記車両1の後輪3が接地する右下がりの路面に対し、
図6(b)の仮想線で示される如く、車体が平行となるようにレベリング制御が働いてしまうため、車両1の左側の前輪2が浮き上がってしまうという不具合が生じていた。
【0013】
又、例えば、
図6(a)に示される如く、車両1の右側の前輪2が接地する路面の高さが左側より著しく高くなっており、車両1の後輪3が接地する路面の高さは、車両1の左側の前輪2が接地する路面の高さと等しく左右で高低差がほとんどないような状況においても、クラウチング制御が行われて車両1前部の左右のフロントエアスプリング4から同時に圧縮エアが排出された場合、前述と同様に、右側のフロントエアスプリング4に内蔵されているバンプストッパが、該フロントエアスプリング4の上面プレートに接触して高さ方向へそれ以上収縮できなくなり、ラバーコンタクト状態に陥ってしまうことがある。前記車両1前部における左右の車高11aの平均値がクラウチング制御用基準範囲に収まる前に、右側のフロントエアスプリング4がラバーコンタクト状態となってしまった場合、左側のフロントエアスプリング4からは更に継続して圧縮エアが排出されることから、この動作に伴って、車両1前部における左側の車高11aだけでなく、車両1後部における左側の車高12aも低くなり、車両1が左側に傾くと、やはりレベリング制御が働いて、車両1後部における左側のリヤエアスプリング5に圧縮エアが供給されてしまい、前述の如く車両1の左側の前輪2が浮き上がるまでには至らないものの、前記車両1前部における左右の車高11aの平均値が高くなり、該左右の車高11aの平均値をクラウチング制御用基準範囲に収めるべく再び左側のフロントエアスプリング4から圧縮エアが排出され、以下、前述と同様の動作が繰り返され、クラウチング制御とレベリング制御が交互に行われて制御が収束せず、エアタンク6内の圧縮エアが全部消費されるまで車体の上下動が継続してしまうという不具合が生じる可能性もあった。
【0014】
更に又、本発明者は、上記の不具合を解消するために、クラウチング制御並びに車高調整制御が行われていない状況で、前記車両1がうねり路にいると判断された場合、前記車両1後部における左右それぞれの車高12aのレベリング制御を強制的に休止させることを提案しているが、このようにした場合、乗客が乗降するために車内を移動したり乗降自体を行ったりすることにより、車両1後部における姿勢変化が生じてしまう可能性があることを見い出した。
【0015】
本発明は、斯かる実情に鑑み、車両の前輪が接地する路面の高さが左右で異なっていても、車両の左右一方の前輪が浮き上がったりすることを防止しつつ、クラウチング制御を確実に行うことができ、且つ圧縮エアの消費を抑制し得、更に、乗客の乗降に伴う車両後部における姿勢変化をも確実に防止し得る車両用エアサスペンション制御装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、車両の前輪を支持するように配設される左右のフロントエアスプリングと、
車両の後輪を支持するように配設される左右のリヤエアスプリングと、
前記フロントエアスプリングにエアタンク内の圧縮エアを給排するフロント車高調整バルブと、
前記リヤエアスプリングにエアタンク内の圧縮エアを給排するリヤ車高調整バルブと、
前記車両前部における左右の車高を検出するフロント車高センサと、
前記車両後部における左右の車高を検出するリヤ車高センサと、
前記フロント車高センサ並びにリヤ車高センサで検出される車高に基づいてフロント車高調整バルブ並びにリヤ車高調整バルブへ制御信号を出力することにより、車両後部における左右それぞれの車高を一定高さに且つ車軸に対し車体を平行に保持するレベリング制御を行
い、乗客の乗降時には
クラウチングスイッチ操作により、乗降口が設けられた車両前部の車高を下げるクラウチング制御を行い、又、車高を所要高さに昇降させる車高調整制御を行うコントローラと
を備えた車両用エアサスペンション制御装置において、
前記左右のリヤエアスプリングをつなぐ連通エア管路途中に、後部左右連通バルブを設け、
前記コントローラは、前記フロント車高センサで検出される車両前部における左右の車高の差の絶対値が予め設定された第一閾値以上で、且つ、前記フロント車高センサで検出される車両前部における左右の車高の差と前記リヤ車高センサで検出される車両後部における左右の車高の差との積が負となる場合、又は、前記フロント車高センサで検出される車両前部における左右の車高の差の絶対値が予め設定された第一閾値以上で、且つ、前記リヤ車高センサで検出される車両後部における左右の車高と基準車高との差の絶対値が予め設定された第二閾値以下となる場合に、車両がうねり路にいると判断し、
走行時或いは停止時にクラウチング制御並びに車高調整制御が行われていない状態である通常モード中に、前記クラウチングスイッチがON操作された場合に車両がうねり路にいないと判断されたときには、前記クラウチング制御を行うと共に、前記後部左右連通バルブを閉じた状態で前記レベリング制御を行い、
前記通常モード中に、前記クラウチングスイッチがON操作された場合に車両がうねり路にいると判断されたときには、前記クラウチング制御を行うと共に、前記後部左右連通バルブを開いて前記車両後部における左右の車高の平均値を基準範囲に収める車両後部左右平均値制御を行うよう構成したことを特徴とする車両用エアサスペンション制御装置にかかるものである。
【0017】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0018】
前述の如く構成すると、
前記コントローラは、前記フロント車高センサで検出される車両前部における左右の車高の差の絶対値が予め設定された第一閾値以上で、且つ、前記フロント車高センサで検出される車両前部における左右の車高の差と前記リヤ車高センサで検出される車両後部における左右の車高の差との積が負となる場合、又は、前記フロント車高センサで検出される車両前部における左右の車高の差の絶対値が予め設定された第一閾値以上で、且つ、前記リヤ車高センサで検出される車両後部における左右の車高と基準車高との差の絶対値が予め設定された第二閾値以下となる場合に、車両がうねり路にいると判断する。走行時或いは停止時にクラウチング制御並びに車高調整制御が行われていない状態である通常モード中に、前記クラウチングスイッチがON操作された場合に車両がうねり路にいると判断されたときには、左右のリヤエアスプリングをつなぐ連通エア管路途中に設けられた後部左右連通バルブが開かれ、この状態からクラウチング制御が行われて、車両前部の左右のフロントエアスプリングから同時に圧縮エアが排出された場合、左右一方の側のフロントエアスプリングに内蔵されているバンプストッパが、該フロントエアスプリングの上面プレートに接触して高さ方向へそれ以上収縮できなくなるラバーコンタクト状態に陥り、左右他方の側のフロントエアスプリングから更に継続して圧縮エアが排出され、それでも、前記車両前部における左右の車高の平均値がクラウチング制御用基準範囲まで下がらないと、左右他方の側のフロントエアスプリング内の圧縮エアがほとんどなくなり、該左右他方の側のフロントエアスプリングがスタビライザ反力で更に縮む形となるが、前記後部左右連通バルブが開かれて前記車両後部における左右の車高の平均値を基準範囲に収める車両後部左右平均値制御が行われているため、前記車両後部における左右のリヤエアスプリングの圧力は連通により一定で、前記車両後部における左右の車高の平均値を基準範囲に収めるべく圧縮エアの給排が行われるのみとなることから、前記車両の後輪が接地する左右一方の側が下がっている路面に車体が平行となるようにレベリング制御が働いてしまうことが避けられ、車両の左右他方の側の前輪が浮き上がってしまう心配はない。
【0019】
そして、車両後部における左右の車高の平均値が基準範囲に保持されつつ、前記車両前部における左右の車高の平均値がクラウチング制御用基準範囲に保持された状態で、乗客は乗降を容易に行うことが可能となる。
【0020】
ここで、仮に前記車両後部における左右それぞれの車高のレベリング制御を強制的に休止した場合、乗客が乗降するために車内を移動したり乗降自体を行ったりすることにより、車両後部における姿勢変化が生じてしまうが、本発明では、前記車両後部における左右の車高の平均値を基準範囲に収める車両後部左右平均値制御が行われているため、該車両後部における姿勢が変化することなく安定し、非常に有効となる。
【0021】
この結果、クラウチング制御とレベリング制御が交互に行われて制御が収束しなくなるようなことが回避され、エアタンク内の圧縮エアが全部消費されるまで車体の上下動が継続してしまうというような不具合も生じなくなり、しかも、単に前記車両後部における左右それぞれの車高のレベリング制御を強制的に休止するのとは異なり、前記後部左右連通バルブが開かれて前記車両後部における左右の車高の平均値を基準範囲に収める車両後部左右平均値制御が行われているため、乗客が乗降するために車内を移動したり乗降自体を行ったりしたとしても、車両後部における姿勢変化が生じてしまう心配は全くない。
【0022】
前記車両用エアサスペンション制御装置においては、前記フロント車高センサで検出される車両前部における左右の車高の差の絶対値が予め設定された第一閾値以上で、且つ、前記フロント車高センサで検出される車両前部における左右の車高の差と前記リヤ車高センサで検出される車両後部における左右の車高の差との積が負となる場合、又は、
前記フロント車高センサで検出される車両前部における左右の車高の差の絶対値が予め設定された第一閾値以上で、且つ、前記リヤ車高センサで検出される車両後部における左右の車高と基準車高との差の絶対値が予め設定された第二閾値以下となる場合に、車両がうねり路にいると
コントローラによって判断しているため、例えば、車両の左右一方の側の前輪が接地する路面の高さが左右他方の側より著しく高く、且つ車両の後輪が接地する路面の高さは、前輪側とは逆に左右一方の側の方が低くなっているような場合、或いは、車両の左右一方の側の前輪が接地する路面の高さが左右他方の側より著しく高く、且つ車両の後輪が接地する路面の高さは、車両の左右他方の側の前輪が接地する路面の高さと等しく左右で高低差がほとんどないような場合に、車両がうねり路にいると判断される。
【発明の効果】
【0023】
本発明の車両用エアサスペンション制御装置によれば、車両の前輪が接地する路面の高さが左右で異なっていても、車両の左右一方の前輪が浮き上がったりすることを防止しつつ、クラウチング制御を確実に行うことができ、且つ圧縮エアの消費を抑制し得、更に、乗客の乗降に伴う車両後部における姿勢変化をも確実に防止し得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の車両用エアサスペンション制御装置の実施例を示す全体概要構成図である。
【
図2】本発明の車両用エアサスペンション制御装置の実施例におけるうねり路判定を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の車両用エアサスペンション制御装置の実施例において、車両がうねり路にいる場合に、後部左右連通バルブが開かれて車両後部左右車高平均値制御が行われる状況を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の車両用エアサスペンション制御装置の実施例において、車両がうねり路にいる場合にクラウチング制御が行われた際、後部左右連通バルブが開かれて車両後部左右車高平均値制御が行われる状況を示すフローチャートである。
【
図5】従来の車両用エアサスペンション制御装置の一例を示す全体概要構成図である。
【
図6】車両がうねり路にいる状況の一例を示す概略図であって、(a)は車両の前輪が接地する右側の路面の高さが左側より高い状態を示す図、(b)は車両の後輪が接地する左側の路面の高さが右側より高い状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0026】
図1〜
図4は本発明の車両用エアサスペンション制御装置の実施例であって、図中、
図5及び
図6と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は
図5及び
図6に示す従来のものと同様であるが、本実施例の特徴とするところは、
図1〜
図4に示す如く、左右のリヤエアスプリング5をつなぐ連通エア管路15途中に、車両1がうねり路にいると判断された場合にコントローラ13からの制御信号16aにより開かれる後部左右連通バルブ16を設け、該後部左右連通バルブ16が開かれた状態で、車両1後部における左右の車高12aの平均値を基準範囲に収める車両後部左右平均値制御を行うよう構成した点にある。
【0027】
先ず、
図2〜
図4のステップS1において通常モードとは、走行時或いは停止時に、クラウチング制御並びに車高調整制御が行われていない状態を指す。
【0028】
図2のステップS2において前記車両1がうねり路にいるか否かの判断は、例えば、
図6(a)に示される如く、車両1の右側の前輪2が接地する路面の高さが左側より著しく高くなっており、車両1の後輪3が接地する路面の高さは、
図6(b)に示される如く、前輪2側とは逆に右側の方が低くなっているような状況、或いは、例えば、
図6(a)に示される如く、車両1の右側の前輪2が接地する路面の高さが左側より著しく高くなっており、車両1の後輪3が接地する路面の高さは、車両1の左側の前輪2が接地する路面の高さと等しく左右で高低差がほとんどないような状況のいずれかの場合に、車両1がうねり路にいると判断することが可能となる。
【0029】
ここで、前記ステップS2におけるうねり路の判断は、数式で表すと、
[数1]
|FR−FL|≧ΔF0
但し、FR:車両1前部における右側の車高
FL:車両1前部における左側の車高
ΔF0:車両1前部における左右の車高の差の絶対値の閾値(第一閾値)
で、且つ
[数2]
(FR−FL)×(RR−RL)≦0
但し、RR:車両1後部における右側の車高
RL:車両1後部における左側の車高
又は
[数3]
(|RR−RS|≦ΔR0で且つ|RL−RS|≦ΔR0)
但し、RS:車両1後部における基準車高
ΔR0:車両1後部における左右の車高と基準車高との差の絶対値の閾値(第二閾値)
となる。
【0030】
即ち、[数1]の条件は、フロント車高センサ11(
図1参照)で検出される車両1前部における左右の車高11aの差の絶対値が予め設定された第一閾値ΔF0以上ということを示し、[数2]の条件は、前記フロント車高センサ11で検出される車両1前部における左右の車高11aの差とリヤ車高センサ12(
図1参照)で検出される車両1後部における左右の車高12aの差との積が負となる場合を示し、[数3]の条件は、前記リヤ車高センサ12で検出される車両1後部における左右の車高12aと基準車高との差の絶対値が予め設定された第二閾値ΔR0以下となる場合を示しており、[数1]で且つ[数2]、或いは[数1]で且つ[数3]という条件を満たす場合に、車両1がうねり路にいると判断し、ステップS3においてうねり路フラグをセットして1とする。
【0031】
又、[数1]で且つ[数2]、或いは[数1]で且つ[数3]という条件を満たしていない場合には、車両1がうねり路にいないと判断し、ステップS4においてうねり路フラグをリセットして0とする。
【0032】
因みに、前記第一閾値ΔF0は、例えば、78[mm]に設定することができるが、この数値に限定されるものではなく、20〜150[mm]の範囲から適宜選定すれば良い。
【0033】
又、前記第二閾値ΔR0は、例えば、5[mm]に設定することができるが、この数値に限定されるものではなく、0〜40[mm]の範囲から適宜選定すれば良い。
【0034】
尚、前記車両1の前輪2が接地する路面に左右で高低差がほとんどないような状況で、且つ前記車両1の後輪3が接地する路面に左右で著しい高低差があるような状況であっても、うねり路であると言えるが、該うねり路の判断に、このような条件も加えようとした場合、制御干渉が発生する可能性があるため、車両1後部における左右の車高差を閾値と比較することは行わないようにしてある。
【0035】
前記うねり路の判定と並行して、
図3に示す如く、前記通常モード中に、ステップS5において、車両1前部における左右の車高11aの平均値が基準範囲に収まっているか否かの判定と、車両1後部における左右それぞれの車高12aが基準範囲に収まっているか否かの判定とを行い、いずれも基準範囲に収まっている場合には、同様の判定をそのまま繰り返すが、いずれか一方が基準範囲に収まっていない場合には、ステップS6において、前記うねり路フラグが0であるか否かの判定を行い、該うねり路フラグが0である即ち車両1がうねり路にいないときには、ステップS7において、前記車両1前部における左右の車高11aの平均値が基準範囲に収まるよう制御を行うと共に、前記車両1後部における左右それぞれの車高12aが基準範囲に収まるようレベリング制御を行う。このとき、前記後部左右連通バルブ16は閉じている。
【0036】
これに対し、前記うねり路フラグが0でない即ち車両1がうねり路にいるときには、ステップS8において、前記車両1前部における左右の車高11aの平均値が基準範囲に収まるよう制御を行うと共に、前記後部左右連通バルブ16を開いて前記車両1後部における左右の車高12aの平均値を基準範囲に収める車両後部左右平均値制御を行う。
【0037】
更に、前記うねり路の判定と並行して、
図4に示す如く、前記通常モード中に、ステップS9において、クラウチングスイッチ14が運転者によってON操作されたか否かを検出し、該クラウチングスイッチ14が運転者によってON操作されていない場合には、その判断を繰り返し行うようにする一方、前記クラウチングスイッチ14が運転者によってON操作された場合には、ステップS10において、前記うねり路フラグが0であるか否かの判定を行い、該うねり路フラグが0である即ち車両1がうねり路にいないときには、ステップS11において、前記車両1前部における左右の車高11aの平均値がクラウチング制御用基準範囲に収まるようクラウチング制御を行うと共に、前記後部左右連通バルブ16を閉じた状態で前記車両1後部における左右それぞれの車高12aが基準範囲に収まるようレベリング制御を行い、前記車両1前部における左右の車高11aの平均値をクラウチング制御用基準範囲に保持した状態で、乗客が乗降を容易に行えるようにし、この後、ステップS12においてクラウチングスイッチ14が運転者によってOFF操作されたか否かを検出し、該クラウチングスイッチ14が運転者によってOFF操作された場合には、ステップS13においてクラウチング制御を終了し、前記車両1前部の車高11aを元に戻し、前記ステップS9へ戻るようにする。
【0038】
これに対し、前記うねり路フラグが0でない即ち車両1がうねり路にいるときには、ステップS14において、前記車両1前部における左右の車高11aの平均値がクラウチング制御用基準範囲に収まるようクラウチング制御を行うと共に、前記後部左右連通バルブ16を開いて前記車両1後部における左右の車高12aの平均値を基準範囲に収める車両後部左右平均値制御を行い、前記車両1前部における左右の車高11aの平均値をクラウチング制御用基準範囲に保持した状態で、乗客が乗降を容易に行えるようにし、この後、ステップS12においてクラウチングスイッチ14が運転者によってOFF操作されたか否かを検出し、該クラウチングスイッチ14が運転者によってOFF操作された場合には、ステップS13においてクラウチング制御を終了し、前記車両1前部の車高11aを元に戻し、前記ステップS9へ戻るようにする。
【0039】
前述の如く構成すると、
図2のステップS1における通常モード中に、例えば、上り勾配の道路において、
図6(a)に示される如く、車両1の右側の前輪2が接地する路面の高さが左側より著しく高い、即ち、前記フロント車高センサ11で検出される車両1前部における左右の車高11aの差の絶対値が予め設定された第一閾値ΔF0以上となっており([数1]参照)、車両1の後輪3が接地する路面の高さは、
図6(b)に示される如く、前輪2側とは逆に右側の方が低い、即ち、前記フロント車高センサ11で検出される車両1前部における左右の車高11aの差と前記リヤ車高センサ12で検出される車両1後部における左右の車高12aの差との積が負となっている([数2]参照)ような場合、
図2のステップS2において車両1がうねり路にいると判断され、ステップS3においてうねり路フラグがセットされて1となる。
【0040】
この状態から、
図4に示す如く、前記通常モード中に、ステップS9において、クラウチングスイッチ14が運転者によってON操作された場合には、ステップS10において、前記うねり路フラグが0であるか否かの判定が行われ、該うねり路フラグは0でなく車両1はうねり路にいるため、ステップS14に進み、前記車両1前部における左右の車高11aの平均値がクラウチング制御用基準範囲に収まるようクラウチング制御が行われると共に、前記後部左右連通バルブ16が開かれて前記車両1後部における左右の車高12aの平均値を基準範囲に収める車両後部左右平均値制御が行われる。これにより、車両1前部の左右のフロントエアスプリング4から同時に圧縮エアが排出された場合、右側のフロントエアスプリング4に内蔵されているバンプストッパが、該フロントエアスプリング4の上面プレートに接触して高さ方向へそれ以上収縮できなくなるラバーコンタクト状態に陥り、左側のフロントエアスプリング4から更に継続して圧縮エアが排出され、それでも、前記車両1前部における左右の車高11aの平均値がクラウチング制御用基準範囲まで下がらないと、左側のフロントエアスプリング4内の圧縮エアがほとんどなくなり、該左側のフロントエアスプリング4がスタビライザ反力で更に縮む形となるが、前記後部左右連通バルブ16が開かれて前記車両1後部における左右の車高12aの平均値を基準範囲に収める車両後部左右平均値制御が行われているため、前記車両1後部における左右のリヤエアスプリング5の圧力は連通により一定で、前記車両1後部における左右の車高12aの平均値を基準範囲に収めるべく圧縮エアの給排が行われるのみとなることから、前記車両1の後輪3が接地する右下がりの路面に車体が平行となるようにレベリング制御が働いてしまうことが避けられ、車両1の左側の前輪2が浮き上がってしまう心配はない。
【0041】
そして、車両1後部における左右の車高12aの平均値が基準範囲に保持されつつ、前記車両1前部における左右の車高11aの平均値がクラウチング制御用基準範囲に保持された状態で、乗客は乗降を容易に行うことが可能となる。
【0042】
ここで、仮に前記車両1後部における左右それぞれの車高12aのレベリング制御を強制的に休止した場合、乗客が乗降するために車内を移動したり乗降自体を行ったりすることにより、車両1後部における姿勢変化が生じてしまうが、本実施例では、前記車両1後部における左右の車高12aの平均値を基準範囲に収める車両後部左右平均値制御が行われているため、該車両1後部における姿勢が変化することなく安定し、非常に有効となる。
【0043】
この後、ステップS12においてクラウチングスイッチ14が運転者によってOFF操作されたか否かが検出され、該クラウチングスイッチ14が運転者によってOFF操作された場合には、ステップS13においてクラウチング制御が終了され、前記車両1前部の車高11aが元に戻され、前記ステップS9へ戻る。
【0044】
又、例えば、車両1の左右一方の側の前輪2が接地する路面の高さが左右他方の側より著しく高い、即ち、前記フロント車高センサ11で検出される車両1前部における左右の車高11aの差の絶対値が予め設定された第一閾値ΔF0以上となっており([数1]参照)、車両1の後輪3が接地する路面の高さは、車両1の左右他方の側の前輪2が接地する路面の高さと等しく左右で高低差がほとんどない、即ち、前記リヤ車高センサ12で検出される車両1後部における左右の車高12aと基準車高との差の絶対値が予め設定された第二閾値ΔR0以下となっている([数3]参照)ような場合も、車両1がうねり路にいると判断され、前記後部左右連通バルブ16が開かれて前記車両1後部における左右の車高12aの平均値を基準範囲に収める車両後部左右平均値制御が行われているため、この状態からクラウチング制御が行われて、車両1前部の左右のフロントエアスプリング4から同時に圧縮エアが排出された場合、左右一方の側のフロントエアスプリング4に内蔵されているバンプストッパが、該フロントエアスプリング4の上面プレートに接触して高さ方向へそれ以上収縮できなくなるラバーコンタクト状態に陥り、左右他方の側のフロントエアスプリング4から更に継続して圧縮エアが排出され、この動作に伴って、車両1前部における左右他方の側の車高11aだけでなく、車両1後部における左右他方の側の車高12aも低くなり、車両1が左右他方の側に傾いても、前記車両1後部における左右のリヤエアスプリング5の圧力は連通により一定で、前記車両1後部における左右の車高12aの平均値を基準範囲に収めるべく圧縮エアの給排が行われるのみとなることから、車両1後部における左右他方の側のリヤエアスプリングだけに圧縮エアが供給されることはなく、前記車両1前部における左右の車高11aの平均値が高くなってしまうようなことが避けられる。
【0045】
この結果、クラウチング制御とレベリング制御が交互に行われて制御が収束しなくなるようなことが回避され、エアタンク6内の圧縮エアが全部消費されるまで車体の上下動が継続してしまうというような不具合も生じなくなり、しかも、単に前記車両1後部における左右それぞれの車高12aのレベリング制御を強制的に休止するのとは異なり、前記後部左右連通バルブ16が開かれて前記車両1後部における左右の車高12aの平均値を基準範囲に収める車両後部左右平均値制御が行われているため、乗客が乗降するために車内を移動したり乗降自体を行ったりしたとしても、車両1後部における姿勢変化が生じてしまう心配は全くない。
【0046】
こうして、車両1の前輪2が接地する路面の高さが左右で異なっていても、車両1の左右一方の前輪2が浮き上がったりすることを防止しつつ、クラウチング制御を確実に行うことができ、且つ圧縮エアの消費を抑制し得、更に、乗客の乗降に伴う車両1後部における姿勢変化をも確実に防止し得る。
【0047】
尚、本発明の車両用エアサスペンション制御装置は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0048】
1 車両
2 前輪
3 後輪
4 フロントエアスプリング
5 リヤエアスプリング
6 エアタンク
8 フロント車高調整バルブ
8a 制御信号
10 リヤ車高調整バルブ
10a 制御信号
11 フロント車高センサ
11a 車高
12 リヤ車高センサ
12a 車高
13 コントローラ
14 クラウチングスイッチ
15 連通エア管路
16 後部左右連通バルブ