特許第5890707号(P5890707)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5890707
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】波力発電装置
(51)【国際特許分類】
   F03B 13/22 20060101AFI20160308BHJP
   F03B 7/00 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
   F03B13/22
   F03B7/00
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-44663(P2012-44663)
(22)【出願日】2012年2月29日
(65)【公開番号】特開2013-181428(P2013-181428A)
(43)【公開日】2013年9月12日
【審査請求日】2014年8月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】特許業務法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】群馬 英人
(72)【発明者】
【氏名】上野 弘行
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 靖
(72)【発明者】
【氏名】菅原 亮
(72)【発明者】
【氏名】小倉 雅則
【審査官】 田谷 宗隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−044466(JP,A)
【文献】 特開平06−330840(JP,A)
【文献】 特開2013−002410(JP,A)
【文献】 特公昭44−024164(JP,B1)
【文献】 実開昭51−041037(JP,U)
【文献】 実開昭59−13677(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03B 13/22
F03B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸部を有し前記回転軸部の軸線周りに回転する水車と、
前記水車の前記回転軸部に接続され前記水車の回転エネルギーを電気エネルギーに変換して発電を行う発電機とを備えた波力発電装置であって、
少なくともその一部が水中に配置される壁体には長方形状に開口し波が通過可能なスリットが設けられ、
前記スリットの開口縁のうち少なくとも長辺側開口縁には一対の整流部材が相互に対向しつつ波の進行方向に向けて延出され、両整流部材の間に整流路が形成されるとともに、
前記水車は、前記整流路に配置され、回転軸部前記壁体の正面視における前記スリットの投影領域内に配置されていることを特徴とする波力発電装置。
【請求項2】
前記水車の前記回転軸部の軸線が、前記壁体の正面視における前記スリットの両短辺の中間点同士を結ぶ中心線を通過しかつ前記壁体の厚み方向に沿う平面内に配置されていることを特徴とする請求項1記載の波力発電装置。
【請求項3】
前記スリットの長辺方向及び前記水車の前記回転軸部の軸線方向は共に鉛直方向に設定され、前記発電機は前記回転軸部の上端部に接続されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の波力発電装置。
【請求項4】
前記両整流部材は、前記スリットの開口幅とほぼ同幅をもって対向する整流部と、これら整流部の先端部から外方向へ湾曲しつつ拡開する拡散部とを有していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の波力発電装置。
【請求項5】
前記壁体における前記整流部材が配された側には前記壁体に沿うようにして側壁体が設けられるとともに、前記壁体と前記側壁体との間には前記整流部材が配置された消波用の空間が形成されていることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の波力発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は波力発電装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に開示された波力発電装置は揺動可能なパドルが設けられ、その一端側は海水中に沈められている。パドルが波によって揺動すると、これに連動して油圧シリンダが伸縮動作し作動油がアキュムレータへ移送される。アキュムレータは作動油を油圧機械へ送って発電機を駆動させ、これによって電力が生成されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007−534878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した波力発電装置では、パドルの揺動エネルギーの大小は発電力に大きな影響をもたらす。つまり、パドルの揺動エネルギーは専ら波の速度に依存することになる。しかし、上記のものでは波の速度は単に自然状況に任されているに過ぎず、発電効率を高める観点からはまだ改良の余地がある。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、発電効率を高めることができる波力発電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための手段として、本発明は、回転軸部を有し前記回転軸部の軸線周りに回転する水車と、水車の回転軸部に接続され水車の回転エネルギーを電気エネルギーに変換して発電を行う発電機とを備えた波力発電装置であって、少なくともその一部が水中に配置される壁体には長方形状に開口し波が通過可能なスリットが設けられ、スリットの開口縁のうち少なくとも長辺側開口縁には一対の整流部材が相互に対向しつつ波の進行方向に向けて延出され、両整流部材の間に整流路が形成されるとともに、水車は、整流路に配置され、回転軸部壁体の正面視におけるスリットの投影領域内に配置されている構成としてある。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、スリットを通過した波は水車を回転させる。水車の回転エネルギーは発電手段によって電気エネルギーに変換されて電力が生成される。ところで、波は壁体のスリットを通過する際にスリットによる増速作用を受ける。このため、水車はスリットを設けない場合に比較して回転速度が高められ、回転エネルギーが高められる。したがって、その分、発電手段による電力生成量が高まり、従来よりも発電効率が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1参考形態1の波力発電装置を示す正面図
図2】同じく側断面図
図3】軸受け部分を拡大して示す側断面図
図4】水車周辺を示す平断面図
図5】実施形態の波力発電装置を示す側断面図
図6】同じく平断面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
参考形態1>
参考形態1の波力発電装置は、海辺に沿って設置されたコンクリート製の壁体1に設けられている。壁体1は、その壁面が波の進行方向に向き合うようにして形成され、かつ壁体1には複数のスリット2が幅方向に一定間隔毎に貫通して形成されている。各スリット2は波が通過する際に流速を増速させる作用を発揮する。
【0010】
各スリット2は鉛直方向に長い長方形状に形成されている。図1、2に示すように、スリット2の長辺方向の大半部は海中に没するが、上端側の一部は海面(例えば、満潮時の海面高さを基準とする)から露出する設定としてある。
【0011】
各スリット2内には水車3が縦向きに組み付けられている。水車3は、回転軸部4と回転翼部5とを備えて構成されている。水車3は、図1に示す正面視において、壁体1の正面視におけるスリット2の投影領域内に配置されている。本参考形態の場合、具体的には、回転軸部4の軸線がスリット2の両短辺の中間点同士を結ぶ中心線(鉛直線でもある)を通過しかつ壁体1の厚み方向(図4に示すX−X方向)に沿った平面内に配置されている。
【0012】
回転軸部4の途中には上下に一対の取付けフランジ6が設けられている。両取付けフランジ6は円板状をなし、その中心を回転軸部4が貫いている。回転翼部5は図4に示すように、4枚の回転翼5Aが回転軸部4周りに90°間隔毎に放射状に配置され、これらが両取付けフランジ6間で挟まれて構成されている。また、水車3がスリット2内に取り付けられた状態では、図4に示すように、回転翼部5の先端が壁体1から外方へ突出しないようにしてある。
なお、水車3は回転翼部5の全体が海中に没するようにしてある。
【0013】
次に、水車3の軸受け構造について説明する(図2、3参照)。回転軸部4は上側の取付けフランジ6から上方へ突出した後、壁体1中を貫通し上方へ突出している。壁体1内においてスリット2の上端面に臨む部位には軸受けボックス7が組込まれている。軸受けボックス7は、図3に示すように、2つの軸受け8,9を収容するボックス本体7Aと、その下面に張り出した取付け板7Bとから構成され、取付け板7Bをスリット2内の天井面にボルト10等を締め込むことによって固定がなされている。
【0014】
ボックス本体7A内には、第1軸受け8と第2軸受け9とが鉛直方向に並んだ状態で収容されている。上部側に配された第1軸受け8は水車3全体の重量を支えるスラスト軸受けであり、下部側に配された第2軸受け9は回転軸部4を回転可能に支持するラジアル軸受けである。
【0015】
回転軸部4には大径の支持フランジ11が張出し形成され、第1軸受け8の上面に係止している。このことによって、水車3全体は回転可能な状態で吊り下げ支持される。回転軸部4の下端側は、図2に示すように、スリット2内の下端面に固定された振れ止め具12内へ周囲に適度なクリアランスを保有した状態で差し込まれている。
【0016】
なお、図2に示すように、軸受けボックス7が配置されている高さは、満潮時においても海中に没しない高さである。
【0017】
壁体1の上面には支持台13が固定され、発電手段としての発電機14を装着している。発電機14は回転軸部4の軸線上において接続され、回転軸部4の回転に基づいて回転エネルギーを電気エネルギーに変換して発電することができる。
【0018】
次に、上記のように構成された参考形態1の作用効果を具体的に説明する。波が壁体1に対して打ち寄せられると、スリット2を通過する波によって水車3が回転する。これにより、回転軸部4が回転することに基づき、発電機14が回転軸部4の回転エネルギーを電気エネルギーに変換して発電がなされる。なお、参考形態1の波力発電装置は、引き波の場合も上記と同様の作用を営む。
【0019】
ところで、本参考形態によれば、波がスリット2を通過する際に流速が増速するため、水車3の回転速度が高められ発電力を向上させることができる。したがって、波のエネルギーを効果的に利用して発電効率を高めることができる。特に、水車3の回転軸部4をスリット2の長手方向の中心線(壁体1の正面視においてスリット2の両短辺の中間点を結ぶ中心線でかつ壁体1の厚み方向における中心線でもある)に沿って設けるようにしたため、つまりスリット2を通過する波の流速分布を考えた場合、最も流速の早い長手方向の中心領域に回転軸部4を配するようにしたため、スリット2による増速作用をより効果的に得ることができる。また、水車3をスリット2の内部に設置することで、水車3を損傷から保護することもできる。
【0020】
また、本参考形態1には次の効果もある。仮に、スリット2が壁体1において横長に形成されかつ水車3も水平方向に設置されるようにした場合、発電機14は回転軸部4の軸線上に設置されないから、水車3と発電機14との間には水車3の回転力を発電機14に伝達するための何らかの伝達手段が必要になる。そうなれば、発電装置全体の構成が複雑化するとともに、水車3の設置作業も困難となる。その点、参考形態1では、水車3を鉛直方向に取り付けて回転軸部4の上端に発電機14を直結するようにしたため、発電装置全体の構成が簡素であり、設置作業も簡単である。
【0021】
さらに、水車3の軸支部分を海面高さよりも上位としたため、軸支部分の設置作業では海中での作業を強いられずに済み、また軸支部分を海水による腐食から保護することもできる。さらにまた、参考形態1では水車3全体が吊り下げ支持されるようにしたため、軸受けは上部側のみで済む、という効果も挙げることができる。
【0022】
<実施形態
図5及び図6は本発明の実施形態を示している。実施形態では水車3をスリット2の外部に配置している。
【0023】
図5に示すように、壁体1の陸側には側壁体15が設けられている。側壁体15は壁体1の幅方向に沿って配置され、壁体1と側壁体15との間に消波用の空間16を保有するようにしている。この実施形態においては、壁体1と側壁体15とは、上面壁17及び底面壁18によって接続され全体として一体化されたボックス構造となっている。
【0024】
消波用の空間16において、壁体1の陸側の面にはスリット2の高さ範囲よりもさらに拡張された段部19が形成され、ここにはスリット2の両長辺側の開口縁部から波の進行方向に位置する側壁体15に向けて一対の整流部材20が延出している。両整流部材20で挟まれた空間は波の流れを整流するための整流路21となっていて、スリット2の内部と連続している。図5に示すように、両整流部の鉛直方向の長さはスリット2の鉛直方向の長さより長めに形成されている。図6に示すように、両整流部材20は共に板状に形成され、スリット2の開口幅とほぼ同幅をもって対向する整流部20Aと、両整流部20Aの先端部から外方へ湾曲しつつ拡開する拡散部20Bとからなっている。
【0025】
水車3は、両整流部材20の間であって、整流部20Aの陸側へ向けての形成範囲内に設置されている。水車3の回転軸部4の軸線は、壁体1の正面視におけるスリット2の両短辺の中間点同士を結ぶ中心線である鉛直線を通過し、かつ壁体1の厚み方向(図6に示すX−X方向)に沿った平面内に配置されている。水車3の回転軸部4は段部19の天井面を貫く一方、発電機14は上面壁17上に設置され、回転軸部4の軸端と同軸上で接続されている。
【0026】
なお、水車3の支持構造は参考形態1と同様であり、共通する部材については図中に同一符号を付すことで説明を省略する。
【0027】
実施形態は上記のように構成されたものである。本実施形態では水車3をスリット2の外部の整流路21中に配置したが、整流路21はスリット2と同幅で連続しているため、波はスリット2によって増速された流速で整流路中を通過することができる。したがって、本実施形態においても、参考形態1と同様、水車3の回転速度を高めて発電効率を向上させることができる。
【0028】
このように、実施形態では水車3をスリット2の外方に設置することができるため、スリット2の内部に比べて設置空間が広く、その分、設置作業を容易に行うことができる。また、水車3を壁体1と側壁体15とで挟まれた消波用の空間16内に設置するようにしたため、水車3が船舶等と接触して損傷してしまう虞もない。
【0029】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
)実施形態では整流部材20を壁体の陸側に配置したが、水車3と共に海側に配置してもよい。
)実施形態1では共に発電機14を壁体1の上面に設置したが、壁体の内部に埋め込むようにして設置してもよく、こうすることで簡易な防水を図ることができる。
3)実施形態では発電装置を海に設置した場合を示したが、川、湖等に設置することも可能である。
4)実施形態では、水車の回転軸部をスリットの両短辺の中間点を結ぶ中心線に沿って配置したが、壁体の正面視においてスリットを投影したときの領域内であれば、中心線からずれて配置してもよい。
【符号の説明】
【0030】
1…壁体
2…スリット
3…水車
4…回転軸部
14…発電機
15…側壁体
16…消波用の空間
20…整流部材
21…整流路
図1
図2
図3
図4
図5
図6