特許第5890756号(P5890756)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5890756
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】磁気記録媒体及び磁気記憶装置
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/738 20060101AFI20160308BHJP
   G11B 5/66 20060101ALI20160308BHJP
   G11B 5/82 20060101ALI20160308BHJP
   G11B 5/667 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
   G11B5/738
   G11B5/66
   G11B5/82
   G11B5/667
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2012-145641(P2012-145641)
(22)【出願日】2012年6月28日
(65)【公開番号】特開2014-10852(P2014-10852A)
(43)【公開日】2014年1月20日
【審査請求日】2015年3月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】高星 英明
(72)【発明者】
【氏名】網屋 大輔
(72)【発明者】
【氏名】酒井 浩志
【審査官】 中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−018949(JP,A)
【文献】 特開2010−287260(JP,A)
【文献】 特開2003−173514(JP,A)
【文献】 特開2004−022138(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0075288(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0287031(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/738
G11B 5/66
G11B 5/667
G11B 5/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軟磁性層、配向制御層、下層記録層、中間層、及び上層記録層が順に積層された構造を有し、
前記下層記録層及び前記中間層の間に設けられた第2軟磁性層を備える
ことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記下層記録層は、前記上層記録層より高い保持力を有する
ことを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記第1軟磁性層及び前記第2軟磁性層の各層は、CoFe系合金、FeCo系合金、FeNi系合金、FeAl系合金、FeCr系合金、FeTa系合金、FeMg系合金、FeZr系合金、FeC系合金、FeN系合金、FeSi系合金、FeP系合金、FeNb系合金、FeHf系合金、及びFeB系合金のグループから選択された1つの合金で形成されている
ことを特徴とする請求項2記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記第1軟磁性層及び前記第2軟磁性層の各層は、Feを60at%以上含有する微結晶構造、又は、微細な結晶粒子がマトリクス中に分散されたグラニュラ構造を有する材料で形成されている
ことを特徴とする請求項2記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記第1軟磁性層及び前記第2軟磁性層の各層は、Coを80at%以上含有し、Zr、Nb、Ta、Cr、Moのうち少なくとも1種を含有するアモルファス構造を有するCo合金で形成されている
ことを特徴とする請求項2記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体の前記上層記録層及び前記下層記録層で形成された垂直磁性層に対する情報の読み書きを行う磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドから、又は、前記磁気ヘッドへの信号を処理する信号処理系
を備えることを特徴とする、磁気記憶装置。
【請求項7】
前記磁気ヘッド及び前記信号処理系は、前記下層記録層に記録されたサーボ情報を読み取り、データの読み書きを前記上層記録層に対して行う機能を有することを特徴とする、請求項6記載の磁気記憶装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体及び磁気記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)などの磁気記憶装置の適用範囲は増大しており、磁気記憶装置の重要性が増している。又、磁気ディスクなどの磁気記録媒体では、記録密度が年率50%以上増えており、今後も増加傾向が続くと考えられる。このような記録密度の増加傾向に伴い、高記録密度化に適した磁気ヘッド及び磁気記録媒体の開発が進められている。
【0003】
磁気記憶装置には、記録層内の磁化容易軸が主に垂直に配向した、いわゆる垂直磁気記録媒体が搭載された磁気記憶装置がある。垂直磁気記録媒体では、高記録密度化した際にも記録ビット間の境界領域における反磁界の影響が小さく、鮮明なビット境界が形成されるため、ノイズの増加が抑えられる。又、垂直磁気記録媒体では、高記録密度化に伴う記録ビット体積の減少が少ないため、耐熱揺らぎ特性も優れている。
【0004】
磁気記録媒体の更なる高記録密度化の要望に応えるべく、垂直記録層に対する書き込み能力に優れた単磁極ヘッドを用いることが検討されている。具体的には、垂直記録層と非磁性基板との間に軟磁性材料で形成された裏打ち層を設け、単磁極ヘッドと磁気記録媒体との間の磁束の出入りの効率を向上させた磁気記録媒体が提案されている。
【0005】
又、磁気記録層の下に軟磁性層を設けることにより、磁気記録層の磁化遷移領域の漏れ磁場や磁気ヘッドからの磁場を軟磁性層に引き込み、磁気記録層に記録された磁化を安定化させ、磁気ヘッドからの書き込み磁場をより効果的に引き出すことが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−250223号公報
【特許文献2】特開2003−228801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の磁気記録媒体又は磁気記憶装置では、記録容量の向上と、記録再生特性の向上を両立することは難しい。
【0008】
そこで、本発明は、記録容量の向上と、記録再生特性の向上を両立可能な磁気記録媒体及び磁気記憶装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一観点によれば、第1軟磁性層、配向制御層、下層記録層、中間層、及び上層記録層が順に積層された構造を有し、前記下層記録層及び前記中間層の間に設けられた第2軟磁性層を備えることを特徴とする磁気記録媒体が提供される。
【0010】
本発明の一観点によれば、上記の磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体の前記上層記録層及び前記下層記録層で形成された垂直磁性層に対する情報の読み書きを行う磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドから、又は、前記磁気ヘッドへの信号を処理する信号処理系を備えることを特徴とする磁気記憶装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
磁気記録媒体及び磁気記憶装置によれば、記録容量の向上と、記録再生特性の向上を両立可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態における磁気記録媒体の一例の構成の一部を示す断面図である。
図2】配向制御層及び下層記録層の柱状晶が基板面に対して垂直に成長した状態を拡大して示す断面図である。
図3】下層記録層を形成する磁性層と非磁性層の積層構造の一部を拡大して示す断面図である。
図4】中間層及び上層記録層の柱状晶が基板面に対して垂直に成長した状態を拡大して示す断面図である。
図5】上層記録層を形成する磁性層と非磁性層の積層構造の一部を拡大して示す断面図である。
図6】本発明の一実施形態における磁気記憶装置の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
磁気ディスクなどの磁気記録媒体では、記録容量を向上する要求に対して記録密度を更に高めることが求められている。一般的な磁気ディスクでは、記録面の独立した領域に、サーボ情報を記録したサーボ情報領域と、情報(又は、データ)を読み書きするデータ領域とが設けられている。磁気ヘッドは、サーボ情報領域のサーボ情報を読み取ることで自己の位置を検知できるので、検知された位置に応じてデータを読み書きする指定位置に磁気ヘッドを移動させてデータの読み書きを行うことができる。このため、サーボ情報領域は、磁気ディスクの比較的大きな部分を占め、磁気ディスクの記録容量(即ち、データを記録可能な記録容量)の更なる向上の妨げとなっている。
【0014】
例えば、磁気記録媒体の記録層を、下層部と、下層部より保磁力の低い上層部で形成し、サーボ情報を保磁力の高い方の下層部に記録し、データを保磁力の低い方の上層部に記録することが考えられる(例えば、特許文献2)。サーボ情報が記録されるサーボ情報領域とデータが読み書きされるデータ領域とは、磁気記録媒体の平面図上で重なるため、サーボ情報領域とデータ領域が同一記録層に設けられる場合と比較すると、データ領域を増加させることができる。磁気記録媒体から同時に再生されたサーボ情報とデータは、夫々の記録周波数が異なるように記録することで、再生時に異なる周波数帯域に応じて分離可能である。
【0015】
しかし、記録層の上層部と下層部との磁気的な結合を遮断するためには、記録層の上層部と下層部を離して設けることが好ましい。このため、記録層の上層部と、軟磁性層との距離が離れ、磁気ヘッドと軟磁性層との間の磁束の出入りの効率が低下する。従って、軟磁性層が本来有する、記録層の磁化遷移領域の漏れ磁場や磁気ヘッドからの磁場を引き込む効果、及び記録層に記録された磁化を安定化させ、磁気ヘッドからの書き込み磁場をより効果的に引き出す効果が低下し、磁気記録媒体の記録層の上層部への書き込み特性、及び読み込み特性が低下する。
【0016】
そこで、本発明者らは、磁気記録媒体の積層構造について鋭意検討を行った。検討の結果、基板側から、第1軟磁性層、配向制御層、下層記録層、中間層、上層記録層が順に積層された構造を有する磁気記録媒体において、下層記録層と中間層との間に第2軟磁性層を設けることで、この第2軟磁性層が第1軟磁性層の役割を補助し、高密度記録に適した信号対雑音比(S/N比(Signal-to-Noise Ratio))や記録特性(OW:Over-Write特性)で表される記録再生特性を有する磁気記録媒体を実現できることを見出した。磁気記録媒体は、例えば磁気ディスクであっても良い。
【0017】
磁気記憶装置は、上記の如き構成を有する磁気記録媒体と、磁気記録媒体に対して情報(データ)を読み書きを行う機能を有する磁気ヘッドを備える。磁気記録媒体へのデータの読み書きは、磁気ヘッドが下層記録層に記録されたサーボ情報を読み取り、磁気ヘッドが検知した自己の位置を用いて磁気記録媒体上の特定位置に磁気ヘッドを位置づけすることで、磁気ヘッドにより上層記録層に対するデータの読み書きする。
【0018】
以下、本発明の各実施形態における磁気記録媒体、磁気記憶装置、及び磁気記録媒体に対するデータの読み書き方法について、図面と共に説明する。
【0019】
(磁気記録媒体)
図1は、本発明の一実施形態における磁気記録媒体の一例の構成の一部を示す断面図である。図1における各層の膜厚は、実際の寸法に比例した縮尺で図示したものではない。図1に示す磁気ディスク1は、磁気記録媒体の一例である。
【0020】
磁気ディスク1は、図1に示すように、例えば非磁性基板11上に、第1軟磁性層12、配向制御層13、下層記録層14、第2軟磁性層15、中間層16、上層記録層17、保護層18を順次積層し、保護層18上に潤滑層19を設けた構造を有する。配向制御層13は、第1配向制御層13a及び第2配向制御層13bを有する。下層記録層14は、第1下層記録層14a及び第2下層記録層14bを有する。中間層16は、第1中間層16a及び第2中間層16bを有する。上層記録層17は、第1上層記録層17a及び第2上層記録層17bを有する。この例では、第2軟磁性層15及び中間層16を挟む上層記録層17及び下層記録層14が垂直記録層(又は、垂直磁性層)を形成する。
【0021】
(非磁性基板)
非磁性基板11は、アルミニウム、アルミニウム合金などの金属材料で形成された金属基板、ガラス、セラミック、シリコン、シリコンカーバイド、カーボンなどの非金属材料で形成された非金属基板などで形成可能である。又、非磁性基板11は、金属基板又は非金属基板の表面に、例えばメッキ法、スパッタ法などを用いて、NiP層又はNiP合金層が形成されたものであっても良い。
【0022】
更に、非磁性基板11は、Co又はFeを主成分とする第1軟磁性層12と接することで、表面の吸着ガスや、水分の影響、基板成分の拡散などにより、腐食する可能性がある。ここで、主成分とは、合金において最も多い元素を言う。このような腐食を防止する観点からは、非磁性基板11と第1軟磁性層12の間に密着層(図示せず)を設けることが好ましい。なお、密着層は、例えば、Cr、Cr合金、Ti、Ti合金など形成可能である。又、密着層の膜厚は2nm(20Å)以上であることが好ましい。密着層は、スパッタ法などを用いて形成できる。
【0023】
(第1軟磁性層)
非磁性基板11上には、第1軟磁性層12が形成される。第1軟磁性層12の形成方法は特に限定されるものではなく、例えばスパッタ法などを用いることができる。
【0024】
第1軟磁性層12は、後述する磁気ヘッド(図示せず)から発生する磁束の非磁性基板11の表面(以下、基板面とも言う)に対する垂直方向成分を大きくし、情報が記録される垂直磁性層の磁化の方向をより強固に非磁性基板11と垂直な方向に固定するために設けられる。このような第1軟磁性層12の作用は、特に記録再生用の磁気ヘッドとして垂直記録用の単磁極ヘッドを用いる場合に、より顕著なものとなる。
【0025】
第1軟磁性層12は、例えば、Fe、又は、Ni、Coなどを含む軟磁性材料で形成可能である。軟磁性材料は、例えばCoFeTaZr、CoFeZrNbなどのCoFe系合金、FeCo、FeCoVなどのFeCo系合金、FeNi、FeNiMo、FeNiCr、FeNiSiなどのFeNi系合金、FeAl、FeAlSi、FeAlSiCr、FeAlSiTiRu、FeAlOなどのFeAl系合金、FeCr、FeCrTi、FeCrCuなどのFeCr系合金、FeTa、FeTaC、FeTaNなどのFeTa系合金、FeMgOなどのFeMg系合金、FeZrNなどのFeZr系合金、FeC系合金、FeN系合金、FeSi系合金、FeP系合金、FeNb系合金、FeHf系合金、FeB系合金などを含む。
【0026】
又、第1軟磁性層12は、Feを60at%以上含有するFeAlO、FeMgO、FeTaN、FeZrNなどの微結晶構造、又は、微細な結晶粒子がマトリクス中に分散されたグラニュラ構造を有する材料で形成可能である。
【0027】
更に、第1軟磁性層12は、Coを80at%以上含有し、Zr、Nb、Ta、Cr、Moなどのうち少なくとも1種を含有し、アモルファス(amorphous)構造を有するCo合金で形成可能である。アモルファス構造を有するCo合金は、例えばCoZr、CoZrNb、CoZrTa、CoZrCr、CoZrMo系合金などを含む。
【0028】
第1軟磁性層12は、2層の軟磁性膜(図示せず)で形成することが好ましく、2層の軟磁性膜の間にRu膜(図示せず)が設けられることが好ましい。Ru膜の膜厚を0.4nm〜1.0nm、又は、1.6nm〜2.6nmの範囲に調整することで、2層の軟磁性膜が反強磁性結合(AFC:Anti-Ferromagnetically-Coupled)構造を形成し、いわゆるスパイクノイズを抑制することができる。
【0029】
(配向制御層)
第1軟磁性層12上には、配向制御層13が形成される。配向制御層13は、下層記録層14の結晶粒を微細化し、記録再生特性を改善するために設けられる。図1に示すように、本実施形態における配向制御層13は、第1軟磁性層12側に配置された第1配向制御層13aと、第1配向制御層13aの下層記録層14側に配置された第2配向制御層13bを有する。
【0030】
第1配向制御層13aは、配向制御層13の核発生密度を高めるために設けられ、配向制御層13を形成する柱状晶の核となる結晶を含むことが好ましい。本実施形態における第1配向制御層13aでは、後述する図2に示すように、核となる結晶が成長した柱状晶S1の頂部に、ドーム状の凸部が形成される。
【0031】
第1配向制御層13aの膜厚は、3nm以上であることが好ましい。第1配向制御層13aの膜厚が3nm未満であると、下層記録層14の配向性を高め、下層記録層14を形成する磁性粒子42を微細化する効果が不十分となり、良好なS/N比が得られない場合がある。
【0032】
第1配向制御層13aは、磁性材料を含有する飽和磁化が50emu/cc以上のRu合金層で形成することが好ましい。第1配向制御層13aが磁性材料を含有するRu合金層で形成されているものの飽和磁化が50emu/cc未満であり、後述する第2配向制御層13bが磁性材料を含有する飽和磁化が50emu/cc以上のRu合金層で形成されていない場合、高密度記録に適した十分に高い記録特性(OW特性)が得られない場合がある。
【0033】
第1配向制御層13aに含まれるRu合金層には、Co又はFeなどの磁性材料が含まれていることが好ましく、Ru合金層は、CoRu合金層又はFeRu合金層であることが好ましい。Ru合金層に含まれる磁性材料がCoである場合、Ru合金層に含まれるCoの含有量は66at%以上であることが好ましい。又、Ru合金層に含まれる磁性材料がFeである場合、Ru合金層に含まれるFeの含有量は73at%以上であることが好ましい。Ru合金層に含まれるCoの含有量を66at%以上、又は、Feの含有量を73at%以上とすることで、十分な磁性を発現し、且つ、飽和磁化が50emu/cc以上のRu合金層を形成することができる。
【0034】
表1は、Co、CoRu合金、FeRu合金、Feの飽和磁化(Ms)の理論値の一例を示す。表1に示すように、Ru合金層に含まれるCoの含有量が66at%以上、Feの含有量が73at%以上である組成の場合、飽和磁化(Ms)が50emu/cc以上である。
【0035】
又、表1からわかるように、Ru合金層に含まれるCoの含有量が80at%以下であると、飽和磁化(Ms)が700emu/cc以下になる。又、表1に示すように、Ru合金層に含まれるFeの含有量が80at%以下であると、飽和磁化(Ms)が500emu/cc以下になる。
【0036】
【表1】
Ru合金層がCoRu合金層である場合、Coを66at%〜80at%の範囲内で含有し、50emu/cc〜700emu/ccの範囲内の飽和磁化を有することが好ましい。又、Ru合金層がFeRu合金層である場合、Feを73at%〜80at%の範囲内で含有し、50emu/cc〜500emu/ccの範囲内の飽和磁化を有することが好ましい。
【0037】
CoRu合金層に含まれるCoの含有量や、FeRu合金層に含まれるFeの含有量が80at%を超えると、配向制御層13が柱状晶の頂部にドーム状の凸部が形成されたものとなりにくくなり、下層記録層14を形成する磁性粒子42を微細化する効果が不十分となり、下層記録層14の結晶配向が悪化して良好なS/N比が得られない場合がある。
【0038】
又、CoRu合金層及び/又はFeRu合金層の飽和磁化が500emu/ccを超えた場合、CoRu合金層に含まれるCoの含有量及び/又はFeRu合金層に含まれるFeの含有量が80at%を超えてしまうため、好ましくない。
【0039】
第1配向制御層13aは、スパッタ法により、スパッタリングガス圧が0.5Pa〜5Pa未満の範囲内で形成することが好ましい。第1配向制御層13aのスパッタリングガス圧が0.5Pa〜5Pa未満の範囲であると、配向制御層13を形成する柱状晶の核となる結晶を含む第1配向制御層13aを容易に形成することができる。
【0040】
第1配向制御層13aのスパッタリングガス圧が0.5Pa未満であると、形成する膜の配向性が低下し、下層記録層14を形成する磁性粒子42を微細化する効果が不十分となる。
【0041】
又、第1配向制御層13aのスパッタリングガス圧が5Pa以上であると、形成する膜の結晶性が低下し、膜の硬度が低くなり、磁気ディスク1の信頼性が低下する。
【0042】
第2配向制御層13bは、図2に示すように、第1配向制御層13aに含まれる柱状晶S1の核となる結晶に厚み方向に連続し、頂部にドーム状の凸部が形成された柱状晶S2を含む。厚み方向とは、基板面に垂直な方向、即ち、下層記録層14を含む各層が成膜される成膜方向を言う。本実施形態における第2配向制御層13bは、第1配向制御層13aに含まれる核となる結晶が成長されてなる柱状晶S1の凸部上に成長され、第1配向制御層13aを形成する結晶粒子と共に厚み方向に連続した柱状晶S2を含む。
【0043】
第2配向制御層13bの膜厚は、6nm以上であることが好ましい。第2配向制御層13bの膜厚が6nm未満であると、下層記録層14の配向性を高め、下層記録層14を形成する磁性粒子42を微細化する効果が不十分となり、良好なS/N比が得られない場合がある。
【0044】
第2配向制御層13bは、磁性材料を含有する飽和磁化が50emu/cc以上のRu合金層で形成可能である。第2配向制御層13bが磁性材料を含有するRu合金層で形成されているものの飽和磁化が50emu/cc未満であり、上述の第1配向制御層13aが磁性材料を含有する飽和磁化が50emu/cc以上のRu合金層で形成されていない場合、高密度記録に適した十分に高い記録特性(OW特性)が得られない場合がある。
【0045】
第2配向制御層13bに含まれるRu合金層には、第1配向制御層13aに含まれるRu合金層と同様のものを用いることができる。
【0046】
なお、第2配向制御層13bに含まれるRu合金層は、第1配向制御層13aに含まれるRu合金層と同じ材料で形成されていても、異なる材料で形成されていても良い。具体的には、例えば第1配向制御層13a及び第2配向制御層13bのいずれか一方がCoRu合金層で形成され、他方がFeRu合金層で形成されていても良い。
【0047】
第2配向制御層13bは、スパッタ法により、第1配向制御層13aよりも高いスパッタリングガス圧力であり、且つ、スパッタリングガス圧5Pa〜18Paの範囲内で形成することが好ましい。第2配向制御層13bのスパッタリングガス圧が5Pa〜18Paの範囲であると、第1配向制御層13aに含まれる柱状晶S1の核となる結晶に厚み方向に連続し、頂部にドーム状の凸部が形成された柱状晶S2を含む第2配向制御層13bを容易に形成することができる。
【0048】
第2配向制御層13bのスパッタリングガス圧が5Pa未満であると、配向制御層13上に成長される下層記録層14の結晶粒子を分離して、垂直磁性層の磁性粒子を微細化する効果が十分に得られなくなり、良好なS/N比及び耐熱揺らぎ特性が得られない場合がある。又、第2配向制御層13bのスパッタリングガス圧が18Paを超えると、第2配向制御層13bの硬度が不十分となる。
【0049】
本実施形態では便宜上、第1配向制御層13a及び第2配向制御層13bの両方を、磁性材料を含有する飽和磁化が50emu/cc以上のRu合金層で形成するものとしたが、第1配向制御層13a及び第2配向制御層13bのいずれか一方が、このようなRu合金層で形成されていても良い。つまり、第1配向制御層13a及び第2配向制御層13bのうち少なくとも一方が、磁性材料を含有する飽和磁化が50emu/cc以上のRu合金層で形成されていても良い。又、本実施形態では、配向制御層13が第1配向制御層13a及び第2配向制御層13bの2層で形成される2層構造の例について説明したが、配向制御層13は単層構造を有するものでも良い。更に、第1配向制御層13a及び第2配向制御層13bの少なくとも一方が、3層以上で形成された多層構造を有しても良い。
【0050】
第1軟磁性層12と第1配向制御層13aとの間に、第3配向制御層(図示せず)を設けることが好ましい。第3配向制御層を例えばNiW合金で形成すると、第3配向制御層上の六方最密充填(hcp:hexagonal close-packed)構造の第1配向制御層13aを形成する際にc軸配向性の高い結晶粒子を成長させることができる。第3配向制御層をNiW合金で形成する場合は、NiW合金中のWの含有量が3at%〜10at%の範囲内であることが好ましい。NiW合金中のWの含有量が3at%未満又は10at%を越えると、磁気ディスク1の配向や結晶サイズを制御する効果が低下するため好ましくない。なお、NiW合金は僅かに磁性を有するものの、第3配向制御層の飽和磁化を過度に低下させることはない。しかし、第1配向制御層13a及び第2配向制御層13bの場合と同様に、第3配向制御層に用いるNiW合金にCo又はFeが含有させ、飽和磁化を高めても良い。
【0051】
第3配向制御層の膜厚は、2nm〜20nmの範囲であることが好ましい。第3配向制御層の膜厚が2nm未満であると、結晶粒径の微細化の効果を得ることができず、配向も悪化するので好ましくない。一方、第3配向制御層の膜厚が20nmを超えると、結晶サイズが大きくなるために好ましくない。
【0052】
配向制御層13が単層構造を有する場合、配向制御層13は磁性材料を含有する飽和磁化が50emu/cc以上のRu合金層で形成可能である。又、配向制御層13が多層構造を有する場合、磁性材料を含有する飽和磁化が50emu/cc以上のRu合金層は少なくとも1層含まれていれば良く、例えばRu層など、Ru合金層以外の層を含んでも良い。
【0053】
次に、磁気ディスク1において、配向制御層13を形成する結晶粒子と下層記録層14を形成する磁性粒子の関係について、図2と共に説明する。図2は、配向制御層13及び下層記録層14の柱状晶が基板面に対して垂直に成長した状態を拡大して示す断面図である。図2において、配向制御層13を形成する第1配向制御層13a及び第2配向制御層13bと、下層記録層14以外の媒体部分の図示は省略する。
【0054】
図2に示すように、第1配向制御層13a上には、第1配向制御層13aを形成する柱状晶S1の頂部をドーム状の凸とする凹凸面S1aが形成される。第1配向制御層13aの凹凸面S1a上には、凹凸面S1aから厚み方向に第2配向制御層13bを形成する結晶粒子が柱状晶S2となって成長する。又、第2配向制御層13b上には、第2配向制御層13bを形成する柱状晶S2の頂部をドーム状の凸とする凹凸面S2aが形成される。第2配向制御層13bを形成する柱状晶S2の上には、下層記録層14の結晶粒子が柱状晶S3となって厚み方向に成長する。本実施形例では、第2配向制御層13bのドーム状の凸部上に下層記録層14の結晶粒子が成長することにより、成長した垂直磁性層の結晶粒子の分離が促進され、下層記録層14の結晶粒子が孤立化されて柱状に成長する。
【0055】
このように、本実施形態における磁気ディスク1では、第1配向制御層13aの柱状晶S1上に第2配向制御層13bの柱状晶S2と下層記録層14の柱状晶S3とが連続した柱状晶となってエピタキシャル成長する。なお、本実施形態では、図1に示すように下層記録層14が多層構造を有する。多層構造を有する下層記録層14の各層14a,14bを形成する結晶粒子は、配向制御層13から下層記録層14の上層側の第2下層記録層14bに至るまで連続した柱状晶となってエピタキシャル成長を繰り返す。従って、本実施形態では、第1配向制御層13aを形成する結晶粒子を微細化し、柱状晶S1を高密度化することで、柱状晶S1の頂部から厚み方向に柱状に成長する第2配向制御層13bの柱状晶S2及び多層構造を有する垂直磁性層14の柱状晶S3も高密度化される。
【0056】
(下層記録層)
配向制御層13上には、下層記録層14が形成される。図1に示すように、本実施形態の下層記録層14は、非磁性基板11側から、第1下層記録層14aと、第2下層記録層14bを有する。各下層記録層14a,14bを形成する結晶粒子は、配向制御層13の第1配向制御層13a及び第2配向制御層13bの柱状晶と連続した柱状晶としてエピタキシャル成長する。
【0057】
図3は、下層記録層14を形成する2層の磁性層の積層構造の一部を拡大して示す断面図である。図3に示すように、下層記録層14を形成する第1下層記録層14aは、グラニュラ構造を有しても良く、Co、Cr、Ptを含む磁性粒子(磁性を有する結晶粒子)42と、酸化物41を含むことが好ましい。酸化物41には、例えばCr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Coなどを用いることが好ましい。酸化物41には、TiO、Cr、SiOなどを用いることがより好ましい。又、第1下層記録層14aは、酸化物を2種類以上添加した複合酸化物で形成されることが好ましい。複合酸化物には、Cr−SiO、Cr−TiO、Cr−SiO−TiOなど用いることがより好ましい。
【0058】
磁性粒子42は、第1下層記録層14a中に分散していることが好ましい。又、磁性粒子42は、下層記録層14a,14bを上下に貫いた柱状構造を形成していることが好ましい。このような構造を有することにより、第1下層記録層14aの配向及び結晶性が良好なものとなり、結果として高密度記録に適したS/N比が得られる。
【0059】
柱状構造の磁性粒子42を有する下層記録層14を得るためには、第1下層記録層14aに含まれる酸化物41の含有量及び第1下層記録層14aの成膜条件を適切に選定することが好ましい。第1下層記録層14aに含まれる酸化物41の含有量は、磁性粒子42を形成する例えばCo、Cr、Ptなどの合金を1つの化合物として算出したmol総量に対して、3mol%以上、且つ、18mol%以下であることが好ましく、6mol%以上13mol%以下であることがより好ましい。第1下層記録層14a中の酸化物41の含有量が上記mol%の範囲であることが好ましいのは、第1下層記録層14aを形成した際に磁性粒子42の周りに酸化物41が析出し、磁性粒子42の孤立化及び微細化が可能となるためである。
【0060】
一方、酸化物41の含有量が18mol%を超えると、酸化物41が磁性粒子42中に残留し、磁性粒子42の配向性及び結晶性を損ねたり、磁性粒子42の上下に酸化物41が析出して、磁性粒子42が下層記録層14a,14bを上下に貫く柱状構造が形成されなくなるため好ましくない。又、酸化物41の含有量が3mol%未満であると、磁性粒子42の分離及び微細化が不十分となり、結果として記録再生時におけるノイズが増大し、高密度記録に適したS/N比が得られなくなるため好ましくない。
【0061】
第1下層記録層14a中のCrの含有量は、4at%以上、且つ、19at%以下、より好ましくは6at%以上、且つ17at%以下であることが好ましい。第1下層記録層14a中のCrの含有量が4at%以上、且つ、19at%以下の範囲であると、磁性粒子42の磁気異方性定数Kuを下げ過ぎず、又、高い磁化を維持し、結果として高密度記録に適した記録再生特性と十分な耐熱揺らぎ特性が得られる。
【0062】
一方、第1下層記録層14a中のCrの含有量が19at%を超えると、磁性粒子42の磁気異方性定数Kuが小さくなるため、耐熱揺らぎ特性が悪化し、又、磁性粒子42の結晶性及び配向性が悪化することで、結果として記録再生特性が悪くなるため好ましくない。又、Crの含有量が4at%未満であると、磁性粒子42の磁気異方性定数Kuが高くなるため、垂直保磁力が高くなり過ぎてデータを記録する際に、磁気ヘッドで十分に書き込むことができず、結果として高密度記録に適さない記録特性(OW特性)となるため好ましくない。
【0063】
第1下層記録層14a中のPtの含有量は、8at%以上、且つ、20at%以下であることが好ましい。Ptの含有量が8at%未満であると、高密度記録に適した耐熱揺らぎ特性を得るために垂直磁性層14に必要な磁気異方性定数Kuが得られないため好ましくない。Ptの含有量が20at%を超えると、磁性粒子42の内部に積層欠陥が生じ、その結果、磁気異方性定数Kuが低くなる。又、Ptの含有量が20at%を超えると、磁性粒子42中に面心立方格子(fcc:face-centered cubic)構造の層が形成され、結晶性及び配向性が損なわれる可能性があるため好ましくない。従って、高密度記録に適した耐熱揺らぎ特性及び記録再生特性を得るためには、第1下層記録層14a中Ptの含有量は8at%以上、且つ、20at%以下の範囲であることが好ましい。
【0064】
第1下層記録層14aの磁性粒子42には、Co、Cr、Ptの他に、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、Reの中から選ばれる1種類以上の元素が含まれていても良い。これらの中から選ばれる1種類以上の元素を含むことにより、磁性粒子42の微細化を促進、又は、結晶性や配向性を向上させることができ、より高密度記録に適した記録再生特性及び耐熱揺らぎ特性を得ることができる。
【0065】
又、磁性粒子42中に含まれるCo、Cr、Ptの他の上記1種類以上の元素の合計の含有量は、8at%以下であることが好ましい。上記1種類以上の元素の合計の含有量が8at%を超えると、磁性粒子42中にhcp相以外の相が形成されるため、磁性粒子42の結晶性及び配向性が乱れ、結果として高密度記録に適した記録再生特性及び耐熱揺らぎ特性が得られないため好ましくない。
【0066】
第1下層記録層14aに適した材料は、例えば90(Co14Cr18Pt)−10(SiO){Cr含有量14at%、Pt含有量18at%、残部Coを有する磁性粒子を1つの化合物として算出したモル濃度が90mol%、SiOを有する酸化物組成が10mol%}、92(Co10Cr16Pt)−8(SiO)、94(Co8Cr14Pt4Nb)−6(Cr)の他、(CoCrPt)−(Ta)、(CoCrPt)−(Cr)−(TiO)、(CoCrPt)−(Cr)−(SiO)、(CoCrPt)−(Cr)−(SiO)−(TiO)、(CoCrPtMo)−(TiO)、(CoCrPtW)−(TiO)、(CoCrPtB)−(Al)、(CoCrPtTaNd)−(MgO)、(CoCrPtBCu)−(Y)、(CoCrPtRu)−(SiO)などを含む。
【0067】
下層記録層14を形成する上層記録層14bは、図3に示すように、Co、Crを含む磁性粒子(磁性を有した結晶粒子)42を含み、酸化物41を含まないことが好ましい。第2下層記録層14b中の磁性粒子42は、第1下層記録層14a中の磁性粒子42から柱状にエピタキシャル成長することが好ましい。この場合、下層記録層14a,14bの磁性粒子42が、各下層記録層14a,14bにおいて1対1に対応して、柱状にエピタキシャル成長することが好ましい。又、第2下層記録層14bの磁性粒子42が第1下層記録層14a中の磁性粒子42からエピタキシャル成長することで、第2下層記録層14bの磁性粒子42が微細化され、結晶性及び配向性が更に向上する。
【0068】
第2下層記録層14b中のCrの含有量は、10at%以上、且つ、24at%以下であることが好ましい。Crの含有量が10at%以上、且つ、24at%以下の範囲であると、データの再生時における出力を十分確保でき、更に良好な耐熱揺らぎ特性を得ることができる。一方、Crの含有量が24at%を超えると、第2下層記録層14bの磁化が小さくなり過ぎるため好ましくない。又、Cr含有量が10at%未満であると、磁性粒子42の分離及び微細化が十分に生じず、記録再生時のノイズが増大し、高密度記録に適したS/N比が得られなくなるため好ましくない。
【0069】
又、第2下層記録層14bを形成する磁性粒子42が、Co、Crの他にPtを含む材料である場合、第2下層記録層14b中のPtの含有量は、8at%以上、且つ、20at%以下であることが好ましい。Ptの含有量が8at%以上、且つ、20at%以下の範囲であると、高記録密度に適した十分な保磁力を得ることができ、更に記録再生時における高い再生出力を維持し、結果として高密度記録に適した記録再生特性及び耐熱揺らぎ特性が得られる。一方、第2下層記録層14b中のPtの含有量が20at%を超えると、第2下層記録層14b中にfcc構造の相が形成され、結晶性及び配向性が損なわれる可能性があるため好ましくない。又、Ptの含有量が8at%未満であると、高密度記録に適した耐熱揺らぎ特性を得るために垂直磁性層14に必要な磁気異方性定数Kuが得られないため好ましくない。
【0070】
第2下層記録層14bを形成する磁性粒子42は、非グラニュラ構造の磁性層を形成し、Co、Cr、Ptの他に、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、Re、Mnの中から選ばれる1種類以上の元素を含んでいても良い。上記1種類以上の元素を含むことにより、磁性粒子42の微細化を促進、又、は結晶性や配向性を向上させることができ、より高密度記録に適した記録再生特性及び耐熱揺らぎ特性を得ることができる。
【0071】
又、第2下層記録層14bの磁性粒子42中に含まれるCo、Cr、Ptの他の上記1種類以上の元素の合計の含有量は、16at%以下であることが好ましい。上記1種類以上の元素の合計の含有量が16at%を超えると、磁性粒子42中にhcp相以外の相が形成されるため、磁性粒子42の結晶性及び配向性が乱れ、結果として高密度記録に適した記録再生特性、耐熱揺らぎ特性が得られないため好ましくない。
【0072】
第2下層記録層14bに適した材料は、例えばCoCrPt系、CoCrPtB系などを含む。CoCrPtB系は、CrとBとの合計の含有量が18at%以上28at%以下であることが好ましい。
【0073】
第2下層記録層14bに適した材料は、例えばCoCrPt系では、Co14〜24Cr8〜22Pt{Cr含有量14at%〜24at%、Pt含有量8at%〜22at%、残部Co}、CoCrPtB系では、Co10〜24br8〜22Pt0〜16B{Cr含有量10at%〜24at%、Pt含有量8at%〜22at%、B含有量0〜16at%、残部Co}であることが好ましい。更に、第2下層記録層14bに適した材料は、CoCrPtTa系では、Co10〜24br8〜22Pt1〜5Ta{Cr含有量10at%〜24at%、Pt含有量8at%〜22at%、Ta含有量1at%〜5at%、残部Co}、CoCrPtTaB系では、Co10〜24br8〜22Pt1〜5Ta1〜10B{Cr含有量10at%〜24at%、Pt含有量8at%〜22at%、Ta含有量1at%〜5at%、B含有量1at%〜10at%、残部Co}の他にも、CoCrPtBNd系、CoCrPtTaNd系、CoCrPtNb系、CoCrPtBW系、CoCrPtMo系、CoCrPtCuRu系、CoCrPtRe系などの材料を含む。
【0074】
磁気ディスク1は、上層記録層17より保磁力が高い下層記録層14と、下層記録層14より保磁力が低い上層記録層17を有し、サーボ情報は下層記録層14に記録し、データは上層記録層17に対して記録再生される。磁気記憶装置の一例であるHDDに用いられる磁気ディスクでは、サーボ情報の書き込みは通常は1回限りであり、この書き込みはHDDの製造メーカが専用のサーボトラックライタ(STW:Servo Track Writer)を用いて行う。
【0075】
本実施形態では、STWの書き込み力の高い磁気ヘッドを用いて、サーボ情報が保磁力の高い下層記録層14に書き込まれるものとする。これに対し、データは下層記録層14より保磁力の低い上層記録層17に記録するが、データの記録はHDDの製造メーカ又はHDDのユーザー側で行われる。上層記録層17へのデータの読み書きは、STWの磁気ヘッドに比べて書き込み力が低く、下層記録層14にデータを書き込むことがなく、上層記録層17のみにデータを書き込むことが可能な、一般的なHDDに内蔵される磁気ヘッドにより行うことができる。
【0076】
下層記録層14の垂直保磁力(Hc)は、3000(Oe)以上であることが好ましく、且つ、上層記録層17の垂直保磁力(Hc)より高いことが好ましい。下層記録層14の垂直保磁力(Hc)が3000(Oe)未満であると、記録再生特性、特に周波数特性が不良となり、耐熱揺らぎ特性も悪くなるため、高密度記録媒体として好ましくない。
【0077】
下層記録層14を形成する磁性粒子42の平均粒径は、3nm〜12nmであることが好ましい。磁性粒子42の平均粒径は、例えば下層記録層14を透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)で観察し、観察像を画像処理することにより求めることができる。
【0078】
下層記録層14の膜厚は、5nm〜20nmであることが好ましい。下層記録層14の膜厚が5nm未満であると、十分な再生出力が得られず、耐熱揺らぎ特性も低下する。又、下層記録層14の厚さが20nmを超えると、下層記録層14中の磁性粒子42の肥大化が生じ、記録再生時におけるノイズが増大し、S/N比や記録特性(OW特性)に代表される記録再生特性が悪化するため好ましくない。
【0079】
下層記録層14を3層以上の磁性層で形成しても良い。例えば、下層記録層14a,14bに加えて、更にグラニュラ構造の磁性層を形成し、これら3層のグラニュラ構造の磁性層上に、酸化物を含まない下層記録層を設けた構成としても良い。又、酸化物を含まない2層構造の下層記録層を下層記録層14a,14b上に設けても良い。
【0080】
(第2軟磁性層)
下層記録層14上には、第2軟磁性層15が形成される。第2軟磁性層15の形成方法は特に限定されるものではなく、例えばスパッタ法などを用いることができる。
【0081】
第2軟磁性層15は、磁気ヘッドから発生する磁束の非磁性基板11の表面(又は、基板面)に対する垂直方向成分を大きくし、情報が記録される垂直磁性層の磁化の方向をより強固に非磁性基板11と垂直な方向に固定するために設けられ、上記第1軟磁性層12が有する同様の役割を補助する。このような第2軟磁性層15の作用は、特に記録再生用の磁気ヘッドとして垂直記録用の単磁極ヘッドを用いる場合に、より顕著なものとなる。
【0082】
サーボ情報を保磁力の高い方の下層記録層14に記録し、データを保磁力の低い方の上層記録層17に記録する場合、記録層の上層記録層17と下層記録層14との磁気的な結合を遮断するために、上層記録層17と下層記録層14を離して設けることが望ましい。この結果、記録層の上層記録層17と、第1軟磁性層12との距離が離れ、磁気ヘッドと第1軟磁性層12との間の磁束の出入りの効率が低下する。そこで、磁気ヘッドと記録層の上層記録層17と第1軟磁性層12との間の磁束の出入りの効率が低下することに起因して低下する第1軟磁性層12の役割を、第2軟磁性層15の役割により補助することで、高密度記録に適した信号対雑音比(S/N比)や記録特性(OW)で表される記録再生特性、及び耐熱揺らぎ特性を有する磁気ディスク1を実現できる。
【0083】
第2軟磁性層15を形成する材料又は組成は、上記第1軟磁性層12を形成する材料又は組成と同じであっても異なっても良い。又、第2軟磁性層15の膜厚は、上記第1軟磁性層12の膜厚と同じであっても異なっても良い。第2軟磁性層15を形成する材料又は組成と膜厚は、上記第1軟磁性層12の役割を補助するのに適した材料又は組成と膜厚であれば特に限定されない。ただし、第2軟磁性層15を過度に厚くすると下層記録層14と磁気ヘッドとの距離が離れるため好ましくない。よって、第2軟磁性層15の厚さは、上記第2軟磁性層15の機能を発揮できる厚さでなるべく薄くするのが好ましい。
【0084】
第2軟磁性層15は、例えば、Fe、又は、Ni、Coなどを含む軟磁性材料で形成可能である。軟磁性材料は、例えばCoFeTaZr、CoFeZrNbなどのCoFe系合金、FeCo、FeCoVなどのFeCo系合金、FeNi、FeNiMo、FeNiCr、FeNiSiなどのFeNi系合金、FeAl、FeAlSi、FeAlSiCr、FeAlSiTiRu、FeAlOなどのFeAl系合金、FeCr、FeCrTi、FeCrCuなどのFeCr系合金、FeTa、FeTaC、FeTaNなどのFeTa系合金、FeMgOなどのFeMg系合金、FeZrNなどのFeZr系合金、FeC系合金、FeN系合金、FeSi系合金、FeP系合金、FeNb系合金、FeHf系合金、FeB系合金などを含む。
【0085】
又、第2軟磁性層15は、Feを60at%以上含有するFeAlO、FeMgO、FeTaN、FeZrNなどの微結晶構造、又は、微細な結晶粒子がマトリクス中に分散されたグラニュラ構造を有する材料で形成可能である。
【0086】
更に、第2軟磁性層15は、Coを80at%以上含有し、Zr、Nb、Ta、Cr、Moなどのうち少なくとも1種を含有し、アモルファス(amorphous)構造を有するCo合金で形成可能である。アモルファス構造を有するCo合金は、例えばCoZr、CoZrNb、CoZrTa、CoZrCr、CoZrMo系合金などを含む。
【0087】
第2軟磁性層15は、2層の軟磁性膜(図示せず)で形成しても良く、2層の軟磁性膜の間にRu膜(図示せず)を形成しても良い。この場合、Ru膜の膜厚を0.4nm〜1.0nm、又は、1.6nm〜2.6nmの範囲に調整することで、2層の軟磁性膜が反強磁性結合(AFC)構造を形成し、いわゆるスパイクノイズを抑制することができる。
【0088】
(中間層)
第2軟磁性層15上には、中間層16が形成される。中間層16は、上層記録層17と下層記録層14との磁気的な結合を遮断して両記録層14,17の磁化方向が相互に影響することを防止し、又、上層記録層17の結晶粒を微細化し、記録再生特性を改善するために設けられる。図1に示すように、本実施形態における中間層16は、第2軟磁性層15側に配置された第1中間層16aと、第1中間層16aの上層記録層17側に配置された第2中間層16bを有する。
【0089】
第1中間層16aは、中間層16の核発生密度を高めるために設けられ、中間層16を形成する柱状晶の核となる結晶を含むことが好ましい。本実施形態における第1中間層16aでは、図2に示す第1配向制御層13aの場合と同様に、後述する図4に示すように核となる結晶が成長してなる柱状晶S11の頂部に、ドーム状の凸部が形成される。
【0090】
第1中間層16aの膜厚は、3nm以上であることが好ましい。第1中間層16aの膜厚が3nm未満であると、上層記録層17の配向性を高め、上層記録層17を形成する磁性粒子42を微細化する効果が不十分となり、良好なS/N比が得られない場合がある。
【0091】
第1中間層16aは、磁性材料を含有する飽和磁化が50emu/cc以上のRu合金層で形成することが好ましい。第1中間層16aが磁性材料を含有するRu合金層で形成されているものの飽和磁化が50emu/cc未満であり、後述する第2中間層16bが磁性材料を含有する飽和磁化が50emu/cc以上のRu合金層で形成されていない場合、高密度記録に適した十分に高い記録特性(OW特性)が得られない場合がある。
【0092】
第1中間層16aに含まれるRu合金層には、磁性材料としてCo又はFeが含まれていることが好ましく、Ru合金層は、CoRu合金層又はFeRu合金層であることが好ましい。Ru合金層に含まれる磁性材料がCoである場合、Ru合金層に含まれるCoの含有量は66at%以上であることが好ましい。又、Ru合金層に含まれる磁性材料がFeである場合、Ru合金層に含まれるFeの含有量は73at%以上であることが好ましい。Ru合金層に含まれるCoの含有量を66at%以上、又は、Feの含有量の含有量を73at%以上とすることで、十分な磁性を発現し、且つ、飽和磁化が50emu/cc以上のRu合金層を形成することができる。
【0093】
中間層16に用いられるCo、CoRu合金、FeRu合金、Feの飽和磁化(Ms)の理論値は上記の表1で示した通りであり、中間層16における磁性材料の含有量、成膜方法、飽和磁化などは前述の配向制御層13と同様で良い。
【0094】
第2中間層16bは、図4に示すように、第1中間層16aに含まれる柱状晶S11の核となる結晶に厚み方向に連続し、頂部にドーム状の凸部が形成された柱状晶S12を含む。厚み方向とは、基板面に垂直な方向、即ち、上層記録層17を含む各層が成膜される成膜方向を言う。本実施形態における第2中間層16bは、第1中間層16aに含まれる核となる結晶が成長されてなる柱状晶S11の凸部上に成長され、第1中間層16aを形成する結晶粒子と共に厚み方向に連続した柱状晶S12を含む。
【0095】
第2中間層16bは、磁性材料を含有する飽和磁化が50emu/cc以上のRu合金層で形成することが好ましい。第2中間層16bが磁性材料を含有するRu合金層で形成されているものの飽和磁化が50emu/cc未満であり、上述の第1中間層16bが磁性材料を含有する飽和磁化が50emu/cc以上のRu合金層で形成されていない場合、高密度記録に適した十分に高い記録特性(OW特性)が得られない場合がある。
【0096】
中間層16においても、配向制御層13と同様に、第1中間層16a及び第2中間層16bの両方を、磁性材料を含有する飽和磁化が50emu/cc以上のRu合金層で形成しても、第1中間層16a及び第2中間層16bのいずれか一方を磁性材料を含有する飽和磁化が50emu/cc以上のRu合金層で形成しても良い。又、中間層16は単層構造を有しても、第1中間層16a及び第2中間層16bのうち少なくとも一方が3層以上の多層構造を有しても良い。
【0097】
第2軟磁性層15と第1中間層16aとの間に、第3中間層(図示せず)を設けることが好ましい。第3配向制御層の場合と同様に、第3中間層をNiW合金で形成すると、第3中間層上のhcp構造の第1中間層16aを形成する際にc軸配向性の高い結晶粒子を成長させることができる。第3中間層を形成するNiW合金に含まれるW含有量、膜厚、層構造は、第3配向制御層の場合と同様で良い。
【0098】
次に、磁気ディスク1において、中間層16を形成する結晶粒子と上層記録層17を形成する磁性粒子の関係について、図4と共に説明する。図4は、中間層16及び上層記録層17の柱状晶が基板面に対して垂直に成長した状態を拡大して示す断面図である。図4において、中間層16を形成する第1中間層16a及び第2中間層16bと、上層記録層17以外の媒体部分の図示は省略する。
【0099】
図4に示すように、第1中間層16a上には、第1中間層16aを形成する柱状晶S11の頂部をドーム状の凸とする凹凸面S11aが形成される。第1中間層16aの凹凸面S11a上には、凹凸面S11aから厚み方向に第2中間層16bを形成する結晶粒子が柱状晶S12となって成長する。又、第2中間層16b上には、第2中間層16bを形成する柱状晶S12の頂部をドーム状の凸とする凹凸面S12aが形成される。第2中間層16bを形成する柱状晶S12の上には、上層記録層17の結晶粒子が柱状晶S13となって厚み方向に成長する。本実施形例では、第2中間層16bのドーム状の凸部上に上層記録層17の結晶粒子が成長することにより、成長した垂直記録層の結晶粒子の分離が促進され、上層記録層17の結晶粒子が孤立化されて柱状に成長する。
【0100】
このように、本実施形態における磁気ディスク1では、第1中間層16aの柱状晶S11上に第2中間層16bの柱状晶S12と上層記録層17の柱状晶S13とが連続した柱状晶となってエピタキシャル成長する。なお、本実施形態では、図1に示すように上層記録層17が多層構造を有する。多層構造を有する上層記録層17の各層17a,17bを形成する結晶粒子は、中間層16から上層記録層17の上層側の第2上層記録層17bに至るまで連続した柱状晶となってエピタキシャル成長を繰り返す。従って、本実施形態では、第1中間層16aを形成する結晶粒子を微細化し、柱状晶S11を高密度化することで、柱状晶S11の頂部から厚み方向に柱状に成長する第2中間層16bの柱状晶S12及び多層構造を有する垂直磁性層17の柱状晶S13も高密度化される。
【0101】
(上層記録層)
中間層16上には、上層記録層17が形成される。図1に示すように、上層記録層17は、非磁性基板11側から、第1上層記録層17aと、第2上層記録層17bの2層を有する。各上層記録層17a,17bを形成する結晶粒子は、中間層16を形成する第1中間層16a及び第2中間層16bの柱状晶と連続した柱状晶としてエピタキシャル成長される。
【0102】
図5は、上層記録層17を形成する磁性層と非磁性層の積層構造の一部を拡大して示す断面図である。図5に示すように、上層記録層17を形成する第1上層記録層17aは、グラニュラ構造を有し、Co、Cr、Ptを含む磁性粒子(磁性を有する結晶粒子)62と、酸化物61を含むことが好ましい。酸化物61には、例えばCr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Coなどを用いることが好ましい。酸化物61には、TiO、Cr、SiOなどを用いることがより好ましい。又、第1上層記録層17aは、酸化物を2種類以上添加した複合酸化物で形成されることが好ましい。複合酸化物には、Cr−SiO、Cr−TiO、Cr−SiO−TiOなど用いることがより好ましい。
【0103】
磁性粒子62は、第1上層記録層17a中に分散していることが好ましい。又、磁性粒子62は、上層記録層17a,17bを上下に貫いた柱状構造を形成していることが好ましい。このような構造を有することにより、第1上層記録層17aの配向及び結晶性が良好なものとなり、結果として高密度記録に適したS/N比が得られる。
【0104】
本実施形態では、上層記録層17の合金組成、構造、成膜方法、合金組成範囲などは、基本的には下層記録層14と同様で良い。ただし、本実施形態の磁気ディスク1では、下層記録層14は上層記録層17より高い保持力を有し、上層記録層17は下層記録層14より低い保磁力を有し、サーボ情報は保磁力の高い方の下層記録層14に記録し、データは保磁力の低い方の上層記録層17に対して読み書きされるのは前述の通りである。
【0105】
(保護層)
上層記録層17上には保護層18が形成される。保護層18は、上層記録層17の腐食を防ぐと共に、磁気ヘッドが磁気ディスク1と接触したときに媒体表面の損傷又は磁気ヘッド自体の損傷を防ぐために設けられ、公知の材料で形成可能である。保護層18は、例えばC、SiO、ZrOを含む材料で形成可能である。保護層18の膜厚は、例えば1nm〜10nmとすることが、磁気ヘッドと磁気ディスク1との距離を小さくできるので、高記録密度を実現する観点から好ましい。保護層18は、例えば化学気相成長(CVD:Chemical Vapor Deposition)法、物理蒸着(PVD:Physical Vapor Deposition)法などを用いて形成可能である。
【0106】
(潤滑層)
保護層18上には潤滑層19が形成される。潤滑層19は、例えばパーフルオロポリエーテル、フッ素化アルコール、フッ素化カルボン酸などの潤滑剤で形成することが好ましい。潤滑層19は、例えば、ディッピング法などを用いて形成可能である。
【0107】
(磁気記憶装置)
図6は、本発明の一実施形態における磁気記憶装置の一例を示す斜視図である。図6に示す磁気ディスク装置(HDD)100は、磁気記憶装置の一例であり、磁気記録媒体の一例である上記磁気ディスク1を備える。
【0108】
HDD100は、図1に示す構成を有する磁気ディスク1、磁気ディスク1を回転駆動させる媒体駆動部51、磁気ディスク1に対して情報の読み書きを行う(即ち、情報を記録再生する)機能を有する磁気ヘッド52、磁気ヘッド52を磁気ディスク1に対して相対運動させるヘッド駆動部53、及び信号処理系54を備える。
【0109】
信号処理系54は、外部のホスト装置(図示せず)などから入力されたデータに周知の処理を施して磁気ディスク1への記録に適した記録信号を磁気ヘッド52に供給する。磁気ヘッド52には、再生素子として巨大磁気抵抗(GMR:Giant Magneto Resistive)効果を利用したGMR素子などを有する、高記録密度に適した磁気ヘッドを用いることができる。信号処理系54は、磁気ヘッド52が磁気ディスク1から読み取った信号に周知の処理を施して再生データを外部のホスト装置などに出力すると共に、磁気ディスク1上の指定位置と磁気ヘッド52の現在位置を示す再生サーボ情報に応じて磁気ヘッド52を磁気ディスク1上の指定位置に移動させる制御信号をヘッド駆動部53に出力する。磁気ディスク1上の指定位置に位置づけされた磁気ヘッド52は、指定位置からデータの読み取り又はデータの書き込みを行うことができる。
【0110】
媒体駆動部51、記録素子及び再生素子を有する磁気ヘッド52、ヘッド駆動部53、及び信号処理系54には、いずれも周知の構成を用いることができるので、これらの構成の図示及び詳細な説明は省略する。
【0111】
磁気ディスク1において、データの読み書きが行われるデータ領域は垂直磁性層を形成する上層記録層17に設けられ、サーボ情報が記録されたサーボ情報領域は垂直磁性層を形成する下層記録層14に設けられる。つまり、データ領域とサーボ情報領域は、磁気ディスク1の平面図上で別々の領域にあるのではなく、平面図上の記録面で重なる領域に設けられている。これにより、データを読み書きするデータ領域が磁気ディスク1の略全面に広がり、磁気ディスク1の単位面積当たりの記録容量(又は、面記録密度)を高めることが可能となる。
【0112】
下層記録層14に記録されたサーボ情報と上層記録層17に記録されたデータは、磁気ディスク1の記録面内で重なるため、磁気ヘッド52はサーボ情報とデータの両方を同時に読み取ることができる。このため、同時に再生されたサーボ情報とデータを分離する必要がある。例えば、サーボ情報とデータの記録周波数(又は、書き込み周波数)を変えて記録することで、磁気ヘッド52が出力するサーボ情報とデータを含む出力信号を、フィルタ又は異なる周波数帯域のアンプで形成された分離手段を通すことで、再生サーボ情報と再生データを分離することができる。分離手段の少なくとも一部は、信号処理系54内に設けられていても良い。
【0113】
分離手段の一例は、周波数帯域の異なるサーボ情報用ヘッドアンプ及びデータ用ヘッドアンプで形成可能である。この例の場合、磁気ヘッド52が磁気ディスク1から再生した信号を並行してサーボ情報用ヘッドアンプ及びデータ用ヘッドアンプで処理することで、サーボ情報とデータの周波数帯域が異なることから再生信号から分離されたサーボ情報をサーボ情報用ヘッドアンプから出力し、再生信号から分離されたデータをデータ用ヘッドアンプから出力することができる。分離手段の他の例は、磁気ヘッド52が磁気ディスク1から再生した信号が入力される単一のヘッドアンプと、サーボ情報とデータの互いに異なる周波数帯域を利用して、このヘッドアンプの出力をサーボ情報とデータに分離するフィルタで形成可能である。この他の場合、分離手段は、フィルタが出力するサーボ情報を増幅する第1のアンプと、フィルタが出力するデータを増幅する第2のアンプを更に有しても良い。
【0114】
サーボ情報の周波数帯域は、例えば10MHz〜70MHzの範囲内のデータの周波数帯域と重ならないことが好ましく、データの周波数帯域は、例えば50MHz〜150MHzの範囲内のサーボ情報の周波数帯域と重ならないことが好ましい。なお、本実施形態におけるサーボ情報及びデータの周波数帯域とは、HDD100内の磁気ディスク1から情報を読み取る再生時の磁気ヘッド52の出力信号の周波数帯域及び磁気ヘッド52を用いて磁気ディスク1にデータを書き込む記録時の信号の周波数帯域を指す。
【0115】
サーボ情報は、周知の磁気ディスクなどで記録されるサーボ情報と同様に、バースト情報、アドレス情報、プリアンブル情報を含む構成とするのが好ましい。これにより、周知のHDDと同様の手法で磁気ディスク1の指定位置又は特定領域に磁気ヘッド52の位置づけを行い、サーボ情報を再生してデータの読み書きを行うことが可能となる。
【0116】
従って、図6に示すHDD100は、高密度記録に適したS/N比、記録特性(OW特性)、及び耐熱揺らぎ特性が得られる磁気ディスク1を備えた構成となる。
【実施例】
【0117】
次に、以下に示す製造方法により磁気記録媒体の一例である磁気ディスクを作製し、評価した結果について、一実施例を説明する。
【0118】
まず、洗浄済みのガラス基板(コニカミノルタ社製、外径2.5インチ)を、DCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製C−3040)の成膜チャンバ内に収容して、到達真空度1×10−5Paとなるまで成膜チャンバ内を排気した後、このガラス基板上に、Crターゲットを用いてアルゴンスパッタ法(スパッタリングガス圧1Pa)で、膜厚10nmの密着層を成膜した。
【0119】
このようにして得られた密着層上に、アルゴンスパッタ法(スパッタリングガス圧1Pa)で、70Co−20Fe−5Zr−5Ta{Fe含有量20at%、Zr含有量5at%、Ta含有量5at%、残部Co}のターゲットを用いて100℃以下の基板温度で、膜厚25nmの軟磁性層を成膜し、この軟磁性層上にRu層を膜厚0.7nmまで成膜し、更に70Co−20Fe−5Zr−5Taの軟磁性層を膜厚25nmで成膜することで、第1軟磁性層を形成した。なお、第1軟磁性層はアモルファス構造として成膜した。
【0120】
次に、第1軟磁性層上に3層構造の配向制御層を形成した。即ち、アルゴンスパッタ法(スパッタリングガス圧1Pa)で、膜厚10nmの90Ni6W4Co(200emu/cc)、膜厚10nmの67Co33Ru(87emu/cc)、アルゴンスパッタリングガス圧を10Paに変更して、膜厚10nmの67Co33Ru(87emu/cc)を成膜した。
【0121】
この3層構造の配向制御層上に、下層記録層として、アルゴンスパッタ法(スパッタリングガス圧2Pa)で、膜厚10nmの91(Co15Cr16Pt)−6(SiO)−3(TiO){Cr含有量15at%、Pt含有量16at%、残部Coの合金を91mol%、SiOを有する酸化物を6mol%、TiOを有する酸化物を3mol%}で磁性層を成膜し、この磁性層上に65Co−18Cr―14Pt−3Bを6nm成膜した。下層記録層の保磁力は、7000Oeであった。
【0122】
次に、下層記録層上に、アルゴンスパッタ法(スパッタリングガス圧1Pa)で、70Co−20Fe−5Zr−5Ta{Fe含有量20at%、Zr含有量5at%、Ta含有量5at%、残部Co}のターゲットを用いて100℃以下の基板温度で、膜厚10nmの第2軟磁性層を成膜した。なお、第2軟磁性層はアモルファス構造として成膜した。
【0123】
次に、第2軟磁性層上に、3層構造の中間層を形成した。即ち、アルゴンスパッタ法(スパッタリングガス圧1Pa)で、膜厚10nmの90Ni6W4Co(200emu/cc)、膜厚10nmの67Co33Ru(87emu/cc)、アルゴンスパッタリングガス圧を10Paに変更して、膜厚10nmの67Co33Ru(87emu/cc)を成膜した。
【0124】
3層構造の中間層上に、上層記録層として、アルゴンスパッタ法(スパッタリングガス圧1Pa)で、60Co−10Cr−20Pt−10SiOを10nm、65Co−18Cr―14Pt−3Bを6nm成膜した。上層記録層の保磁力は、5000Oeであった。
【0125】
そして、上層記録層上に、イオンビーム法により4nmのカーボンの保護層を形成した後、ディッピング法によりパーフルオロポリエーテルの潤滑層を形成し、上記実施形態における磁気ディスク1を作製した。
【0126】
(サーボ情報の書き込み)
次に、作製した磁気ディスク1に、STWを用いてサーボ情報を記録した。サーボ情報の書き込みは、磁気ディスク1の回転数を7200回転/分、記録周波数は中心周波数が20MHzと40MHzで周波数帯域を±5MHzとした。なお、サーボ情報は、バースト情報、アドレス情報、プリアンブル情報を有する周知の構成とした。サーボ情報の書き込みは、下層記録層14及び上層記録層17の両層に同時に行い、その後、外部磁場を印加して上層記録層17のみを消去(イレーズ)した。
【0127】
(磁気記録媒体の評価)
本実施例で製造した磁気ディスク1の評価を行った。具体的には、下層記録層14への書き込みができない磁気ヘッド52を用いて、磁気ディスク1の上層記録層17へのリードライト評価を行った。評価条件は以下のとおりである。
【0128】
磁気ディスク1の回転数:7200回転/分
評価ヘッド:MR(Magneto Resistive)ヘッド
記録周波数:70MHz(周波数帯域±5MHz)
磁気ディスク1への書き込み、読み込みは、下層記録層14に記録されたサーボ情報に基づいて磁気ヘッド52の位置付けを行いながら行った。その結果、従来の同じトラック密度の磁気ディスクに比べシーク速度が平均で10%高まり、磁気ディスク1枚あたりのリードライト情報の記録量が20%高まることが確認された。又、S/N比は10.7dB、OW特性は42.3dBであり、いずれも良好であることが確認された。
【0129】
従って、上記実施例によれば、記録容量の向上と、記録再生特性の向上を両立可能となることが確認された。
【0130】
又、垂直磁性層を形成する下層記録層が、下層記録層の下の配向制御層を構成する結晶粒子と共に厚み方向に連続した柱状晶を含む構成とした場合、垂直配向性が優れた垂直磁性層を形成可能となることが確認された。更に、垂直磁性層を形成する上層記録層が、上層記録層の下の中間層を構成する結晶粒子と共に厚み方向に連続した柱状晶を含む構成とした場合、垂直配向性が優れた垂直磁性層を形成可能となることが確認された。下の層を構成する結晶粒子と共に厚み方向に連続した柱状晶を含む構成とする垂直磁性層は、下層記録層のみであっても、上層記録層のみであっても良い。配向制御層及び/又は中間層が、磁性材料を含有する飽和磁化が50emu/cc以上の層を含む構成とした場合、配向制御層及び/又は中間層が磁性を発現し、記録時における配向制御層の下の第1軟磁性層と磁気ヘッドとの距離が比較的大きくなっても、高密度記録に適した十分に高い記録特性(OW特性)を得られることが確認された。
【0131】
このように、上記実施例によれば、配向制御層及び/又は中間層を構成する結晶粒子と共に厚み方向に連続した柱状晶を含む垂直磁性層を有する構成とした場合、高密度記録に適したS/N比、記録特性(OW特性)、及び耐熱揺らぎ特性を有する磁気記録媒体を実現できることが確認された。
【0132】
又、このような磁気記録媒体と磁気ヘッドを備えた磁気記憶装置は、磁気記録媒体が上層記録層に設けられたデータ領域と下層記録層に設けられたサーボ情報領域を独立して有するので、高密度記録に適したS/N比、記録特性(OW特性)、及び耐熱揺らぎ特性を実現できることが確認された。
【0133】
(比較例)
比較例では、上記実施例と同様に磁気ディスクを作製する際、第2軟磁性層を形成しなかった。
【0134】
作製した比較例の磁気ディスクについて上記実施例と同様にサーボ情報の書き込み、磁気ディスクの評価を行った。その結果、S/N比は10.5dB、OW特性は42.0dBであった。比較例の磁気ディスクでは、上記実施例の磁気ディスク1に比べ、S/N比及びOW特性が低下することが確認された。言い換えると、第2軟磁性層を設けた上記実施例によれば、第2軟磁性層を設けない比較例と比べてS/N比及びOW特性を向上可能であることが確認された。
【0135】
上記実施例では、磁気記録媒体の一例として磁気ディスクを説明したが、磁気記録媒体はディスク状媒体に限定されるものではない。
【0136】
以上、磁気記録媒体及び磁気記憶装置を実施形態及び実施例により説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変形及び改良が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0137】
1 磁気ディスク
11 非磁性基板
12 第1軟磁性層
13 配向制御層
14 下層記録層
15 第2軟磁性層
16 中間層
17 上層記録層
18 保護層
19 潤滑層
図1
図2
図3
図4
図5
図6