(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5890758
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】サーモフォーム成形方法および成形装置
(51)【国際特許分類】
B29C 43/36 20060101AFI20160308BHJP
B29C 33/76 20060101ALI20160308BHJP
B29C 51/08 20060101ALI20160308BHJP
B29C 51/30 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
B29C43/36
B29C33/76
B29C51/08
B29C51/30
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-149923(P2012-149923)
(22)【出願日】2012年7月3日
(65)【公開番号】特開2014-12346(P2014-12346A)
(43)【公開日】2014年1月23日
【審査請求日】2015年2月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(73)【特許権者】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 務
(72)【発明者】
【氏名】稲田 貴臣
(72)【発明者】
【氏名】秋元 豊晴
【審査官】
田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】
特開平5−8291(JP,A)
【文献】
特開平10−324591(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/36
B29C 33/76
B29C 51/08
B29C 51/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の繊維を樹脂で一体化して成る板状のブランクを、前記樹脂が軟らかくなる温度まで加熱し、型の転写面に密着させるようにしたサーモフォーム成形方法であって、
転写面が凹設された型に、加熱した板状のブランクを、前記転写面を覆うように載置し、
前記型に前記ブランクを挟んでシリンダを載置して、前記ブランクを前記型と前記シリンダとの間に引き出し可能に挟持し、
前記シリンダのシリンダ孔に、少なくとも前記転写面を覆うことができる数の複数の粒体を相互に移動自在に収容し、
前記シリンダ孔に押付部材を挿入して前記転写面に向けて移動することで、
前記ブランクを前記型と前記シリンダとの間から引き出し、引き出したブランクを、前記粒体を介して前記転写面に密着させ、
このとき前記粒体が、相互に移動しつつ、前記ブランクを前記転写面に沿って密着させることを特徴とするサーモフォーム成形方法。
【請求項2】
前記粒体が、金属製またはセラミックス製の球体であることを特徴とする請求項1に記載のサーモフォーム成形方法。
【請求項3】
前記ブランクの前記粒体が接する側の面に、前記粒体よりも軟らかい材質から成るクッション板を配設し、前記ブランクに前記粒体の形状が転写されることを抑えたことを特徴とする請求項1または2に記載のサーモフォーム成形方法。
【請求項4】
前記クッション板と前記ブランクとの間に、離型フィルムを配設し、前記クッション板が前記ブランクに付着することを抑えたことを特徴とする請求項3に記載のサーモフォーム成形方法。
【請求項5】
前記粒体を、前記樹脂が軟らかくなる温度で使用可能な耐熱袋に移動自在に複数収容し、該耐熱袋を、前記押付部材と前記ブランクとの間に介在させたことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のサーモフォーム成形方法。
【請求項6】
複数の繊維を樹脂で一体化して成る板状のブランクを、前記樹脂が軟らかくなる温度まで加熱し、型の転写面に密着させるようにしたサーモフォーム成形装置であって、
転写面が凹設され、加熱された板状のブランクが前記転写面を覆って載置される型と、
該型の前記転写面に対向して配置され、前記転写面に対して近接離間移動する押付部材と、
前記型に前記ブランクを挟むように装着され、前記型側の端部とその反対側の端部とを貫通するシリンダ孔を有し、該シリンダ孔の前記型側の端部が前記ブランクで塞がれそれとは反対側の端部に前記押付部材が挿入されるシリンダと、
該シリンダの前記シリンダ孔内に収容され、少なくとも前記転写面を覆うことができる数の複数の粒体と、を備え、
前記粒体を、前記樹脂が軟らかくなる温度で使用可能な耐熱袋に移動自在に複数収容し、該耐熱袋を前記シリンダ孔内に収容したことを特徴とするサーモフォーム成形装置。
【請求項7】
前記粒体が、金属製またはセラミックス製の球体であることを特徴とする請求項6に記載のサーモフォーム成形装置。
【請求項8】
前記シリンダ孔と前記押付部材との隙間が、前記粒体の直径よりも狭いことを特徴とする請求項6または7に記載のサーモフォーム成形装置。
【請求項9】
前記ブランクの前記粒体が接する側の面に、前記球体よりも軟らかい材質から成るクッション板を配設したことを特徴とする請求項6から8の何れか1項に記載のサーモフォーム成形装置。
【請求項10】
前記クッション板と前記ブランクとの間に、前記クッション板が前記ブランクに付着することを抑える離型フィルムを配設したことを特徴とする請求項9に記載のサーモフォーム成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の繊維を樹脂で一体化して成る板状のブランクを、樹脂が軟らかくなる温度まで加熱して、型に密着させるようにしたサーモフォーム成形方法および成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂を主成分とする板状のブランクを、樹脂が軟らかくなる温度まで加熱し、型に密着させるようにしたサーモフォーム成形方法として、(a)板状のブランクを加熱して軟らかくした状態で2つの型で挟む、(b)加熱した板状のブランクを型に被せた状態で外側からブランクに圧縮空気を吹き付けてブランクを型に密着させる、(c)加熱した板状のブランクを型に被せた状態でブランクと型との間の空気を排出してブランクを型に吸着させる、といった方法が知られている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−179720号公報
【特許文献2】特開平6−239340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ブランクに、複数平行に配向された繊維を樹脂で一体化した複合材(例えばFRP:Fiber Reinforced Plastics、CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics等)の板を用いた場合、前記(a)、(b)、(c)の何れの方法においても、製品に皺が発生してしまうという問題が生じる。すなわち、上述した複合材から成る板状ブランクにおいては、樹脂は加熱によって変形可能となるものの、繊維は伸びないため、型に密着した状態で引き込まれるに伴い、皺が生じ易い。
【0005】
製品の皺を抑えるためには、ブランクを型の転写面に出来るだけ均等な力で密着させることが求められる。しかし、前記(a)、(b)、(c)の何れの方法においても、ブランクの転写面への片当たり(ブランクが部分的に転写面に強く当たってしまうこと)が避けられないため、ブランクが転写型に密着した状態で引き込まれるに伴い、製品に皺が発生してしまう。
【0006】
上述した複合材から成る板状ブランクを、型の転写面に均等な力で密着させる方法として、液体自体をプレスのパンチとして利用してブランクに押し付けるようにしたダイアフラム成形、液圧成形、ハイドロフォーム成形等も考えられる。しかし、これらの成形方法を利用してサーモフォーム成形する場合、複合材から成る板状ブランクを樹脂が軟らかくなる温度まで加熱すると、液体が沸騰してしまうため、実際上は成立しない。
【0007】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、複合材製の板状のブランクを樹脂が軟らかくなる温度まで加熱する加熱環境下においても、ブランクを型の転写面に可及的に均等な力で密着させることができ、皺の発生を抑制できるサーモフォーム成形方法および成形装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために創案された本発明によれば、複数の繊維を樹脂で一体化して成る板状のブランクを、樹脂が軟らかくなる温度まで加熱し、型の転写面に密着させるようにしたサーモフォーム成形方法であって、
転写面が凹設された型に、加熱した板状のブランクを、転写面を覆うように載置し、型にブランクを挟んでシリンダを載置して、ブランクを型とシリンダとの間に引き出し可能に挟持し、シリンダのシリンダ孔に、少なくとも転写面を覆うことができる数の複数の粒体を相互に移動自在に収容し、シリンダ孔に押付部材を挿入して転写面に向けて移動することで、ブランクを型とシリンダとの間から引き出し、引き出したブランクを、粒体を介して転写面に密着させ、このとき粒体が、相互に移動しつつ、ブランクを転写面に沿って密着させることを特徴とするサーモフォーム成形方法が提供される。
【0009】
本発明のサーモフォーム成形方法においては、粒体が、金属製またはセラミックス製の球体であってもよい。
【0010】
本発明のサーモフォーム成形方法においては、ブランクの粒体が接する側の面に、粒体よりも軟らかい材質から成るクッション板を配設し、ブランクに粒体の形状が転写されることを抑えるようにしてもよい。
【0011】
本発明のサーモフォーム成形方法においては、クッション板とブランクとの間に、離型フィルムを配設し、クッション板がブランクに付着することを抑えるようにしてもよい。
【0012】
本発明のサーモフォーム成形方法においては、粒体を、樹脂が軟らかくなる温度で使用可能な耐熱袋に移動自在に複数収容し、耐熱袋を、押付部材とブランクとの間に介在させてもよい。
【0013】
また、上記目的を達成するために創案された本発明によれば、複数の繊維を樹脂で一体化して成る板状のブランクを、樹脂が軟らかくなる温度まで加熱し、型の転写面に密着させるようにしたサーモフォーム成形装置であって、転写面が凹設され、加熱された板状のブランクが転写面を覆って載置される型と、型の転写面に対向して配置され、転写面に対して近接離間移動する押付部材と、型にブランクを挟むように装着され、型側の端部とその反対側の端部とを貫通するシリンダ孔を有し、シリンダ孔の型側の端部がブランクで塞がれそれとは反対側の端部に押付部材が挿入されるシリンダと、シリンダのシリンダ孔内に収容され、少なくとも転写面を覆うことができる数の複数の粒体と、を備え、
粒体を、樹脂が軟らかくなる温度で使用可能な耐熱袋に移動自在に複数収容し、耐熱袋をシリンダ孔内に収容したことを特徴とするサーモフォーム成形装置が提供される。
【0014】
本発明のサーモフォーム成形装置においては、粒体が、金属製またはセラミックス製の球体であってもよい。
【0015】
本発明のサーモフォーム成形装置においては、シリンダ孔と押付部材との隙間が、粒体の直径よりも狭く設定されていてもよい。
【0016】
本発明のサーモフォーム成形装置においては、ブランクの粒体が接する側の面に、球体よりも軟らかい材質から成るクッション板を配設してもよい。
【0017】
本発明のサーモフォーム成形装置においては、クッション板とブランクとの間に、クッション板がブランクに付着することを抑える離型フィルムを配設してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、押付部材とブランクとの間に介在された複数の粒体が、相互に移動しつつブランクを転写面に沿って密着させ、疑似流体として機能する。よって、これら粒体の疑似流体効果によってブランクを転写面に可及的に均等な力で密着させることができ、皺の発生を抑制できる。
【0020】
また、粒体は、ブランクの樹脂が軟らかくなる温度まで加熱されても、液体とは異なり沸点等の制限を受けないので、加熱環境下でも問題なく安定して使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】(a)は本発明の一実施形態に係るサーモフォーム成形装置の各構成要素を示す分解側断面図、(b)はサーモフォーム成形装置の型とシリンダを示す斜視図である。
【
図2】(a)は
図1に示すサーモフォーム成形装置を用いたサーモフォーム成形方法の最初の工程を示す断面図、(b)は続く工程を示す断面図である。
【
図3】(a)は
図2(b)に続く工程を示す断面図、(b)は更に続く工程を示す断面図である。
【
図4】
図3(b)の工程の後、型から外された製品の斜視図である。
【
図5】本発明の第1変形例を示し、(a)は第1変形例に係るサーモフォーム成形装置を用いたサーモフォーム成形方法の工程の一部を示す断面図、(b)は続く工程を示す断面図である。
【
図6】本発明の第2変形例を示し、球体を耐熱袋に収容した様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0023】
(サーモフォーム成形装置1)
図1(a)に本発明の一実施形態に係るサーモフォーム成形装置1の分解側断面図を示し、
図1(b)にそのサーモフォーム成形装置1の型2とシリンダ3の斜視図を示す。本実施形態に係るサーモフォーム成形装置1は、複数の繊維を樹脂で一体化して成る板状のブランクBを、予め樹脂が軟らかくなる温度(例えば280〜390℃)まで加熱しておき、加熱された板状のブランクBを、複数の粒体(球体4)を介して型2の転写面21に押し付けて密着させるようにしたものである。
【0024】
このサーモフォーム成形装置1は、転写面21が凹設され転写面21を覆って板状のブランクBが載置される型2と、型2の上方に配置され転写面21に対して近接離間移動する押付部材(ピストン)5と、型2に転写面21を囲んでブランクBを挟むように装着され下端がブランクBで塞がれ上端にピストン5が挿入されるシリンダ3と、シリンダ3内に収容される複数の金属製の球体4とを備えている。
【0025】
(ブランクB)
ブランクBは、複数平行に配向された繊維(長繊維)を樹脂(ポリマー)で一体化した複合材(FRP、CFRP等)の板からなっている。板の形状は、本実施形態では、
図1(b)に示すように、平面視八角形状となっているが、如何なる形状でもよい。複合材中の繊維は、複数平行なもの同士が織物状にまたはNCF(Non Crimp Fabric)状に配向されている。かかるブランクBをサーモフォーム成形することで、例えば、ジェットエンジンのファンブレードの一部(部品、例えば中空ファンブレードの正圧側または負圧側)やノーズコーン等が成形される。
【0026】
ブランクBの球体4が接する側の面には、ブランクBに球体4の形状が転写されることを抑えるため、球体4よりも軟らかい材質(ゴム、樹脂等)から成るクッション板Cが配設されている。また、クッション板CとブランクBとの間には、クッション板CがブランクBに付着することを抑える離型フィルムRが配設されている。離型フィルムRは、主として、ナフサ(Hydrotreated Heavy Naphtha)やジブチルエーテル(Dibutyl Ether)等から成っている。
【0027】
(型2)
ブランクBが載置される型2は、図示しない基盤に固定されており、全体が略円柱状に形成されている。型2の頂面には、シリンダ3が着脱される断面円形の凹部22が形成されており、凹部22の底面には転写面21が凹設され、この転写面21を覆うようにしてブランクBが載置される。転写面21は、サーモフォーム成形される製品の外面が転写された形状となっており、本実施形態では半球状となっているが、この形状に限定されるものではない。
【0028】
(シリンダ3)
型2には、ブランクBを挟むようにして、シリンダ3が着脱されるようになっている。シリンダ3の外径は、凹部22の内径に合わせて設定されている。シリンダ3には、型2側の端部(下端部)とその反対側の端部(上端部)とを貫通するシリンダ孔31が形成されている。シリンダ孔31は、下端部がブランクBで塞がれ、上端部にピストン5が挿入されるようになっている。また、シリンダ3には、シリンダ孔31を囲繞するようにして、軸方向に沿って貫通された孔32が、周方向に間隔を隔てて複数形成されている。各孔32には、上方からボルト6が挿入され、ボルト6の下部のネジ部が、凹部22の底面に形成されたネジ孔23にネジ込まれるようになっている。これにより、
図2(a)に示すように、シリンダ3がブランクBを挟んで型2に取り付けられる。
【0029】
図2(a)に示すように、シリンダ3の下端部の下面と凹部22の底面との間には、シム(スペーサー)7が介設されており、シム7の厚さや枚数を調節することで、ボルト6によるブランクBの挟持力を調整できるようになっている。ボルト6によるブランクBの挟持力は、
図2(b)、
図3(a)、
図3(b)に示すように、下降するピストン5によって球体4を介してブランクBが転写面21に密着するにつれて、シリンダ3と型2との間に挟まれたブランクBが徐々に滑って引き出されるように設定されている。
【0030】
(球体4)
シリンダ3のシリンダ孔31の内部には、複数の球体4が収容されている。球体4は、
図2(b)に示すように、ピストン5で押圧されることで、
図3(a)、
図3(b)に示すように、ブランクBを型2の転写面21に沿って押し付けて密着させる機能を発揮する。球体4の直径は、シリンダ3とピストン5との隙間G(例えば1mm)以上に設定されており、本実施形態では5〜10mm程度となっているが、この数値範囲に限定されるものではない。なお、球体4は1種類の直径のみならず、直径の異なった複数種類を混合して使用してもよい。
【0031】
球体4は、少なくとも転写面21を覆うことができる数以上の数が、相互に移動自在に纏まった状態でシリンダ3内に収容される。また、球体4は、ブランクBの樹脂が軟らかくなる温度(サーモフォーム成形可能な温度:例えば280〜390℃)にまで加熱されても使用できる耐熱性を有し、且つ、ピストン5によってブランクBを転写面21に沿って押し付ける圧力で押圧されても破損しない強度を有する材料、例えば鋼等の金属、セラミックス等から成る。
【0032】
(ピストン5)
シリンダ3の上方には、ピストン5が配設されている。ピストン5は、プレス装置等に接続されており、型2に対して近接離間移動し、シリンダ3のシリンダ孔31に挿抜されるようになっている。ピストン5の外径は、シリンダ孔31の内径に基づいて設定されている。
【0033】
図2(b)に示すように、ピストン5とシリンダ孔31との隙間Gは、ピストン5をシリンダ孔31にスムーズに挿入することができる隙間以上で、且つ球体4の直径よりも狭く設定されており、ピストン5により押し付けられた球体4が、隙間Gを通って外部に排出されないようになっている。なお、球体が隙間Gに挟まる事態を確実に回避するには、隙間Gを球体4の半径よりも狭く設定することが好ましい。
【0034】
(サーモフォーム成形方法)
上述したサーモフォーム成形装置1を用いたサーモフォーム成形方法を説明する。
【0035】
先ず、
図1(a)に示すブランクBを、予め樹脂が軟らかくなりサーモフォーム成形可能な温度(例えば280〜390℃)まで加熱しておき、そのブランクBに離型フィルムRおよびクッション板Cを載せ、
図2(a)に示すように、ブランクB、離型フィルムRおよびクッション板Cが一体となったもの(以下ブランクアッシーBAという)を、型2に転写面21を覆うようにして載置する。なお、ブランクアッシーBAを型2に載置する前に、転写面21には離型剤(シリコーン、フッ素系等)を塗布しておく。また、ブランクアッシーBAを加熱するようにしてもよい。
【0036】
図2(a)に示すように、ブランクアッシーBAの上にシリンダ3を載置し、シリンダ3をボルト6によって型2の凹部22に装着する。これにより、ブランクアッシーBAが、シリンダ3と型2との間に挟持される。この際、シリンダ3の下面と型2の凹部22の底面との間に、ブランクアッシーBAの挟持力を調節するためのシム7を介設しておく。シム7の厚さ、数は、
図2(b)、
図3(a)、
図3(b)に示すように、下降するピストン5によって球体4を介してブランクアッシーBAが転写面21に押し付けられるにつれて、シリンダ3と型2との間に挟まれたブランクアッシーBAが徐々に引き出されるように設定されている。シリンダ3を型2に装着したならば、シリンダ孔31の内部に複数の金属製の球体4を相互に移動自在に収容する。
【0037】
その後、
図2(b)、
図3(a)、
図3(b)に示すように、ピストン5を下降させ、シリンダ孔31に挿入する。すると、ピストン5によって、複数の球体4を介してブランクアッシーBAが型2の転写面21に押し付けられ、各球体4が、相互に移動しつつ、ブランクアッシーBAを転写面21に沿って密着させる。ここで、シリンダ孔31内に収容されピストン5で押圧された複数の球体4は、ピストン5下面とシリンダ孔31内面とブランクアッシーBA上面とで区画された空間内を相互の球面を滑るように移動しつつ、ブランクアッシーBAを転写面21に沿って押し付けて密着させ、疑似流体として機能する。かかる球体4の疑似流体効果によってブランクアッシーBAを転写面21に可及的に均等な力で密着させることができる。この結果、ブランクアッシーBAのブランクBが、加熱された際に繊維が伸びずに皺が生じ易い複合材製であっても、皺の発生を抑制して製品を成形できる。
【0038】
また、疑似流体として機能する球体4は、複合材製のブランクBの樹脂が軟らかくなりサーモフォーム成形可能な温度(例えば280〜390℃)まで加熱されても、沸点等の制限を受けない金属製なので、加熱環境下でも使用することができる。すなわち、金属製の球体4は、サーモフォーム成形中に樹脂が軟らかくなる温度まで加熱されても、液体自体をプレスのパンチ(液体パンチ)として利用してブランクBに押し付けるようにしたダイアフラム成形、液圧成形、ハイドロフォーム成形等における液体とは異なり、沸点等の制限を受けないので、加熱環境下でも疑似流体としての機能が問題なく安定して発揮される。
【0039】
また、本実施形態においては、
図1(a)に示すように、ブランクBの球体4が接する側の面に、球体4よりも軟らかい材質から成るクッション板Cを配設しているので、ブランクBに球体4の形状が転写されることを抑えることができる。また、クッション板CとブランクBとの間に、離型フィルムRを配設しているので、クッション板CがブランクBに付着することを抑えることができる。
【0040】
図3(b)に示すように、ブランクアッシーBAのサーモフォーム成形が完了したならば、ピストン5を上昇させ、シリンダ3を型2から取り外し、転写面21から成形品を取り外す。取り外された成形品からクッション板C、離型フィルムRを取り外すことで、
図4に示すように製品Sとなる。製品Sからは、後工程でフランジ状のバリの部分SBが切り離される。
【0041】
(第1変形例)
本発明の第1変形例を
図5(a)、
図5(b)に示す。
図5(a)は第1変形例に係るサーモフォーム成形装置1xを用いたサーモフォーム成形方法の工程の一部(
図3(a)に相当)を示す断面図、
図5(b)は続く工程(
図3(b)に相当)を示す断面図である。この変形例においては、型2に凹設された転写面21xが、上部の開口よりも中程の方が広い上窄まり(口窄まり)に成形されている点が前実施形態と異なる。
【0042】
このように、シリンダ孔31よりも型2に凹設された転写面21xの中程の方が広いオーバーハングした形状の転写面21xであっても、ピストン5で押圧された球体4が疑似流体として機能し転写面21xに沿って自由に移動するため、ブランクアッシーBAが転写面21xに沿って略均等な力で密着される。よって、ブランクアッシーBAのブランクBが複合材製(FRP、CFRP等)であっても、皺の発生を抑制しつつオーバーハングした形状の製品を精度よくサーモフォーム成形することができる。
【0043】
なお、型2は、上下左右方向に沿った分割面で分割されるようになっており、分割された後に製品が転写面21xから取り出されるようになっている。この変形例においては、転写面21xの形状をオーバーハング形状とした以外は、上記実施形態と同様の構成となっており、基本的な作用効果は上記実施形態と同様である。
【0044】
(第2変形例)
本発明の第2変形例として、
図6に示すように、球体4を、複合材の樹脂が軟らかくなる温度(例えば280〜390℃)で使用可能な耐熱袋8に移動自在に複数収容し、耐熱袋8を上述したシリンダ孔31内に収容したものが考えられる。耐熱袋8としては、ガラスクロス等が考えられる。この変形例においては、複数の球体4が耐熱袋8に纏まった状態で収容されているので、上記実施形態と比べて球体4の取扱性が向上する。なお、この変形例は、球体4を耐熱袋8に収容した以外は、上記実施形態と同様の構成となっているため、基本的な作用効果は上記実施形態と同様であり、詳しい説明は省略する。
【0045】
以上、添付図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した各実施形態に限定されないことは勿論であり、特許請求の範囲に記載された範疇における各種の変更例又は修正例についても、本発明の技術的範囲に属することは言うまでもない。例えば、ボルト6およびシム7を削除し、代わりにシリンダ3を型2の凹部22の底面に押圧する押圧手段(油圧シリンダ機構、バネ機構等)を設け、この押圧手段によりシリンダ3と型2との間に挟持されるブランクアッシーBAの挟持力を制御するようにしてもよい。また、粒体には、金属製の球体のみならず、セラミック製の球体や、径の大きな砂利を使用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、複数の繊維を樹脂で一体化して成る板状のブランクを、樹脂が軟らかくなる温度まで加熱して、型に密着させるようにしたサーモフォーム成形方法および成形装置に利用できる。
【符号の説明】
【0047】
1 サーモフォーム成形装置
1x サーモフォーム成形装置
2 型
21 転写面
21x 転写面
3 シリンダ
31 シリンダ孔
4 粒体としての球体
5 押付部材(ピストン)
8 耐熱袋
G 隙間
B ブランク
C クッション板
R 離型フィルム