【実施例】
【0020】
[1]接着剤シート
実施例1の接着剤シートは、ビスフェノールF型エポキシ樹脂を19質量%、ブチルアクリレートを主成分とするエポキシ基含有アクリルゴムを80質量%、DICY(ジシアンジアミド)硬化剤を1質量%含む接着剤シートである。なお、こうした接着剤シートは、各成分を揮発性溶剤(アセトンやヘキサンなど)で希釈した接着剤から揮発性溶剤を揮発させてシート形状にしたものである。
【0021】
実施例2の接着剤シートは、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂を29質量%、エチルアクリレートを主成分とするエポキシ基含有アクリルゴムを70質量%、イミダゾール系硬化剤を1質量%含む接着剤シートである。
【0022】
実施例3の接着剤シートは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を36質量%、ブチルアクリレートを主成分とするカルボキシル基含有アクリルゴムを60質量%、アミン系硬化剤を4質量%含む接着剤シートである。
【0023】
実施例4の接着剤シートは、ビスフェノールF型エポキシ樹脂を57質量%、ブチルアクリレートを主成分とするエポキシ基含有アクリルゴムを40質量%、DICY硬化剤を3質量%含む接着剤シートである。
【0024】
実施例5の接着剤シートは、ビスフェノールF型エポキシ樹脂を76質量%、ブチルアクリレートを主成分とするエポキシ基含有アクリルゴムを20質量%、DICY硬化剤を4質量%含む接着剤シートである。
【0025】
なお、実施例1〜5の接着剤シートは、1質量%未満のCTBN(末端カルボキシル・ブタジエン−アクリロニトリル共重合液状ゴム)を含んでいてもよい。
【0026】
比較例1の接着剤シートは、アクリル樹脂製のシートである。
【0027】
比較例2の接着剤シートは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を90質量%、DICY硬化剤を7質量%、ジメチル尿素を3質量%含むシートである。
【0028】
[2]真空乾燥での重量変化試験
50mm角のアルミニウム板に接着剤シートを貼り付け、硬化前後の重量変化割合を求めた。硬化前後の重量変化割合は、硬化前の接着剤シートの重量から硬化後の接着剤シートの重量を引いた値を硬化前の接着剤シートの重量で除して求めた。硬化後の重量の測定は、10Pa以下の真空下、150℃、20時間経過した時点で大気に戻してから行った。硬化前後の重量変化割合は、実施例1〜5の接着剤シートでは2〜5質量%であったが、比較例1の接着剤シートでは7質量%、比較例2の接着剤シートでは6質量%であった。比較例2の重量減少は、硬化反応でエポキシの縮合により水が生成することに起因するものである。このことから、硬化前後の樹脂重量の変化割合は5質量%以下であることが好ましいといえる。
【0029】
[3]接合体のせん断試験
図2に示すように、縦25mm×横35mm×厚さ10mmのアルミニウム板と同じ寸法の窒化アルミニウム板とをずらした状態で接着剤シートで接合し、せん断試験用の接合体を作製した。接着部分は縦25mm×横25mm×厚さ0.2mmとした。せん断試験は、この接合体をアルミニウム板の25mm×10mmの面が下になるように支持台に載せ、窒化アルミニウム板に鉛直下向きの力を加えることにより行った。試験時の温度は室温とした。せん断試験の結果から強度(応力)−ひずみの関係を表すグラフを作成した(
図3参照)。このグラフから、せん断強度とせん断伸びを求めた。せん断試験は、150℃、1000時間の熱履歴を加える前後で行った。
【0030】
熱履歴前の実施例1〜5では、比較例1に比べて、せん断強度が優れていた。比較例1で用いた接着剤シートは、低分子物質を含んだアクリルのため、熱履歴後のせん断強度の劣化が激しく、アルミニウム板と窒化アルミニウム板とが剥離してしまった。このため、
図3には比較例1の熱履歴後のデータはプロットしていない。また、実施例4,5についても、実施例1〜3の範囲内であったため、プロットしていない。熱履歴後の実施例1〜5のせん断強度は、熱履歴前と比べて同等か上回っていた。
【0031】
また、熱履歴前の実施例1〜5は、比較例2の接着剤シートに比べて、せん断歪みが優れていた。比較例2で用いた接着剤シートはエポキシ材料であったが、エポキシの分量が多かった。そのため、熱履歴の前後で高強度であったが、伸び(せん断歪み)が短かった。なお、
図3には比較例2の熱履歴後のデータはプロットしていない。また、実施例4,5についても、実施例1〜3の範囲内であったため、プロットしていない。熱履歴後の実施例1〜5のせん断歪みは、熱履歴前と比べて同等かやや下回っていた。
【0032】
熱応力計算によれば、せん断歪みは1.4以上必要であり、せん断強度は、0.3MPa以上必要であった。また、実施例1〜5の接着剤シートの熱硬化と後述の[6]〜[9]のアプリケーションの実運転の実績とを合わせて検討を行った結果、弾性率Z(=強度/歪み)が0.048≦Z≦2.350を満たすことが必要であった。下限値である0.048は、熱履歴前の実施例1のデータから求めた値であり、上限値である2.350は、熱履歴後の実施例3のデータから求めた値である。
【0033】
150℃、1000時間の熱履歴の前後における、室温試験での弾性率の変化量は、実施例1〜5で60%以下であった。この変化量は、熱履歴後の室温での弾性率から熱履歴前の室温での弾性率を引いた値を熱履歴前の室温での弾性率で除した値とした。比較例1では、弾性率の変化量が80%程度であったが、せん断歪みが低いため、後述の[6]〜[9]のアプリケーションでは端部より剥がれが発生した。また、比較例2では、弾性率の変化量が100%を超え、後述のアプリケーションではセラミック部分にクラックが発生した。以上のことから、弾性率の変化量が60%以下の接着剤シートは、後述のアプリケーションに適用できることが分かった。
【0034】
なお、実施例1〜5の接着剤シートを使用して、セラミック板の材料として窒化アルミニウムのほかにアルミナ、炭化珪素、窒化ホウ素、イットリア、マグネシアを用いたり、金属板の材料としてアルミニウムのほかにアルミニウム合金、真鍮、モリブデン、SiSiC、AlSiCを用いたりした場合でも、同様の試験を行ったところ、接着性に問題がなかった。
【0035】
[4]接合体の熱伝導率の熱劣化試験
窒化アルミニウム板(直径φ10mm×厚さ1mm)、アルミニウム板(直径φ10mm×厚さ2mm)を各接着剤シートで接合した接合体につき、レーザーフラッシュ法で熱伝導率を測定した。得られた接合体の熱伝導率から既知の窒化アルミニウム(90W/mK)、アルミニウム(160W/mK)の熱伝導率を除き、接着剤シート単体(熱硬化シート単体)の熱伝導率を算出した。その結果、比較例1,2の接着剤シートを用いた場合には、大気中150℃×1000hrの耐久試験後に熱伝導率が低下したのに対し、実施例1〜5の接着剤シートを用いた場合には、そのような熱伝導率の低下が認められなかった。比較例1では、粘着剤が耐熱性の低いアクリルであったことが原因と考えられる。また、比較例2では、アクリル−エポキシの混成であったが、縮合による水の発生により接着性が低下したことが原因と考えられる。これらに対し、実施例1〜5では、基本的に耐熱性を有しかつ、硬化時に水や炭化水素化合物といった低分子物質の発生を伴わないエポキシ−アクリルの混成なので、接着性が十分発現したと考えられる。
【0036】
[5]硬化前の接着剤シートのせり出し量の試験
後述のアプリケーションで耐熱性を発揮するためには、接着剤シートを被着材で挟んだ状態で、0.1MPa〜1.0MPaの圧力を加えつつ100℃〜170℃の熱を加える硬化処理を施す必要がある。ところで、後述のアプリケーションは、各機能を果たすため、被着材には厚さ方向に貫通する孔が設けられることがある。接着剤シートが柔らかすぎると、そうした孔を塞ぎ、アプリケーションの機能に支障をきたしたり、あるいは局地的応力集中により、接着剤シートの厚みにばらつきが発生して均熱性に影響を与えたりすることがある。そこで、各接着剤シートを被着材で挟んだ状態で、0.1MPa〜1.0MPaの圧力を1時間加えつつ130℃の熱を加えたときの、被着材に設けたφ10mmの孔へのせり出し量を求めた。なお、接着剤シートの厚みは0.2mm、被着材の厚みは3mmとした。また、せり出し量は、孔の縁から接着剤が孔の中心に向かって伸び出した長さとした。その結果を表1に示す。表1から明らかなように、最大圧力1.0MPaを加えた場合のはみ出し量は、実施例1〜3では0.51〜1.01mmであり、孔はほとんど埋まらなかったのに対し、実施例4,5では、1.82〜2.45mmであり、孔がやや埋まる傾向が見られた。
【0037】
【表1】
【0038】
[6]製品サイズの接合体の熱サイクル試験(静電チャックヒーター)
アルミナ製のガス穴付き静電チャック(φ300mm×厚さ5mm)とAl製のガス穴付き冷却板(φ300mm×厚さ30mm)とを各接着剤シートで接合して、静電チャックヒーターを作製した。この静電チャックヒーターについて、熱サイクル試験を実施し、実施前後の静電チャックのウエハ載置面の平面度と接合界面のガスリークとを評価した。ガスリーク評価は、静電チャックのガス穴を塞ぎ、冷却板にあるガス穴からHeリークディテクタで排気し、接合部にHeを吹き付けてHeリーク量で評価した。熱サイクル試験は、
図4に示すように、50℃から150℃までを1分かけて昇温し、150℃から50℃までを1分かけて降温するというサイクルを1サイクルとした(以下同じ)。その結果、比較例1の接着剤シートを用いた場合には、100サイクル目でリークしたのに対し、実施例1〜5の接着剤シートを用いた場合には、10000サイクル目でも良好であった。また平面度はいずれも問題ないレベル(50μm未満)であった。また、ヒーターを内蔵しない静電チャックについても同様の特性が得られた。静電チャックの材料を窒化アルミニウムに変更した場合、また静電チャック機能がないヒーターにおいても同様の特性が得られた。
【0039】
[7]製品サイズの接合体の熱サイクル試験(リング)
窒化アルミニウムリング(内径φ310mm、外径φ350mm、厚さ5mm)とアルミニウム冷却板(内径φ310mm、外径φ350mm、厚さ20mm)とを各接着剤シートで接合して、リングを作製した。このリングについて、熱サイクル試験を実施し、実施前後の平面度を評価した。その結果、比較例1の接着剤シートを用いた場合には、100サイクル目で剥離してしまったのに対し、実施例1〜5の接着剤シートを用いた場合には、10000サイクル目でも剥がれが発生せず、平面度に関しても問題ないレベル(50μm未満)であった。リングの材料をアルミナに変更した場合、またヒーターを有するリングにおいても同様の特性が得られた。
【0040】
[8]製品サイズの接合体の熱サイクル試験(シャワーヘッド)
ガス穴付きの炭化珪素部品(φ420mm×厚さ10mm)とガス穴付きのアルミニウム部品(φ420mm×厚さ30)とを各接着剤シートで接合して、シャワーヘッドを作製した。このシャワーヘッドについて、熱サイクル試験を実施し、実施前後の平面度と接合界面のガスリークで評価した。ガスリーク評価は、炭化珪素部品のガス穴を塞ぎ、アルミニウム部品にあるガス穴からHeリークディテクタで排気し、接合部にHeを吹き付けてHeリーク量で評価した。その結果、比較例1の接着剤シートを用いた場合には、100サイクル目でリークしたのに対し、実施例1〜5の接着剤シートを用いた場合には、10000サイクル目でも良好であった。また平面度はいずれも問題ないレベル(50μm未満)であった。
【0041】
[9]製品サイズの接合体の熱サイクル試験(CVD用途ヒーター)
CVD用途ヒーターの窒化アルミニウム製のシャフト端部(φ100mm)に、アルミニウム部品(φ100mm)を接合した。比較例1の接着剤シートを用いた場合には、熱サイクル試験の10サイクル目で外れたが、実施例1〜5の接着剤シートを用いた場合には、1000サイクル目でも外れなかった。