(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5890803
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】車両の運転支援制御装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20160308BHJP
B60R 21/00 20060101ALI20160308BHJP
B60T 8/00 20060101ALI20160308BHJP
B60T 8/1755 20060101ALI20160308BHJP
B60T 8/1761 20060101ALI20160308BHJP
B60T 8/172 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
G08G1/16 C
B60R21/00 626D
B60R21/00 624F
B60T8/00 C
B60T8/1755 A
B60T8/1761
B60T8/172 Z
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-138084(P2013-138084)
(22)【出願日】2013年7月1日
(65)【公開番号】特開2015-11615(P2015-11615A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2014年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】富士重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 進
(74)【代理人】
【識別番号】100101661
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100135932
【弁理士】
【氏名又は名称】篠浦 治
(72)【発明者】
【氏名】松野 浩二
(72)【発明者】
【氏名】堀口 陽宣
【審査官】
小川 恭司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−233470(JP,A)
【文献】
特開2003−016597(JP,A)
【文献】
特開平10−250545(JP,A)
【文献】
特開2007−290539(JP,A)
【文献】
特開2005−162045(JP,A)
【文献】
特開2005−056025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00−99/00
G01C21/00−21/36
23/00−25/00
B60R21/00
B60T 7/12−8/1769
8/32−8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバの視程を推定する視程推定手段と、
上記視程の時間的な変化量を算出する視程変化量算出手段と、
上記視程の時間的な変化量に基づいて制御手段を作動させる制御手段とを備え、
上記制御手段は、少なくとも許容スリップ率で作動して制動時における車輪のロックを防止するアンチロックブレーキ制御手段であって、
上記アンチロックブレーキ制御手段は、上記視程の時間的な変化量と予め設定する第2の閾値とを比較して上記許容スリップ率の変更を行うことを特徴とする車両の運転支援制御装置。
【請求項2】
ドライバの視程を推定する視程推定手段と、
上記視程の時間的な変化量を算出する視程変化量算出手段と、
上記視程の時間的な変化量に基づいて制御手段を作動させる制御手段とを備え、
上記制御手段は、少なくとも車両にヨーモーメントを発生させて車両の横すべりを防止する横すべり防止制御手段であって、
上記横すべり防止制御手段は、上記視程の時間的な変化量と予め設定する第3の閾値とを比較して上記ヨーモーメントの発生タイミングと発生するヨーモーメントの強さの少なくともどちらか一方を変更することを特徴とする車両の運転支援制御装置。
【請求項3】
ドライバの視程を推定する視程推定手段と、
上記視程の時間的な変化量を算出する視程変化量算出手段と、
上記視程の時間的な変化量に基づいて制御手段を作動させる制御手段とを備え、
上記制御手段は、少なくともドライバによるブレーキ力をアシストするブレーキアシスト制御手段であって、
上記ブレーキアシスト制御手段は、上記視程の時間的な変化量と予め設定する第4の閾値とを比較してアシストブレーキの付加タイミングを変更することを特徴とする車両の運転支援制御装置。
【請求項4】
上記制御手段は、上記視程の時間的な変化量と予め設定する第1の閾値とを比較してドライバに対する警報の実行を判定することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載の車両の運転支援制御装置。
【請求項5】
上記制御手段は、少なくとも算出した目標減速度を車両に付加して車両を減速させる減速制御手段であって、
上記減速制御手段は、上記視程の時間的な変化量と予め設定する第5の閾値とを比較して上記算出した目標減速度を車両に付加して車両を減速させることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1つに記載の車両の運転支援制御装置。
【請求項6】
上記目標減速度は、上記車速と上記予め設定する閾値とに基づいて算出することを特徴とする請求項5記載の車両の運転支援制御装置。
【請求項7】
上記予め設定される各閾値は、車速に応じて可変設定されることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1つに記載の車両の運転支援制御装置。
【請求項8】
画像情報に基づき前方の走行レーンの白線情報を検出する環境認識手段を備え、
上記視程推定手段は、上記白線情報に基づいてドライバの視程を推定することを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか一つに記載の車両の運転支援制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載した車両の各制御装置が前方環境に応じて適切に作動する車両の運転支援制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両においては、前方の走行路形状や前方に存在する車両や障害物等の立体物をカメラやレーダ等を用いて検出し、走行路を安定して走行し、また、立体物との衝突を防止する様々な運転支援制御装置が開発され、実用化されている。例えば、特開2003−16597号公報(以下、特許文献1という)では、走行路の形状情報を検出し、路車間通信により走行路に存在する障害物情報を検出し、走行路の形状情報に基づいてドライバが目視可能な視程距離を算出し、障害物を走行路上に検出したときに、所定の減速度をもって障害物手前で停止可能な減速距離に相当するタイミングで警報を発する警報装置で、視程距離が減速距離以下のときに、警報の発生タイミングを減速距離に相当するタイミングより早める障害物情報呈示装置の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−16597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献1に開示されるような警報装置によれば、ドライバの視程により警報の発生タイミングが変更されるため、単に一定の減速距離で警報を行う従来の警報装置に比較して、よりドライバの感覚に近い警報行うことができる。しかし、ドライバの視程は、霧や吹雪等により時々刻々変化するため、このような変化を考慮せずに警報の発生タイミング等の変更を行うと、警報の発生タイミングも視程の変化に影響されて不安定になり、誤作動や不要なON/OFFを繰り返す虞がある。また、近年、車両においては、車両の安定性、安全性を向上させるべく、アンチロックブレーキシステム(ABS:Antilock Brake System)、横すべり防止制御装置、ブレーキアシスト制御装置等の様々な制御装置が搭載されている。このような制御装置においてもドライバの視程を考慮した制御を行わせる方がより自然で、精度の良い制御が可能となるが、やはり、視程の変化を考慮することなく車載の各制御装置を可変すると、その動作も視程の変化に影響されて不安定になり、誤作動や不要なON/OFFを繰り返してしまう可能性がある。一方、急な霧や吹雪等が発生すると視程は短くなる(視程が悪化する)が、このような視程不良時に最も危険なのは、視程の悪化に対するドライバの認知、判断、対応の遅れであり、視程が悪化しつつあるのか、回復してきているのかを考慮した警報や制御が必要である。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、車載の様々な制御装置をドライバの視程を考慮して実行させることにより、自然で適切なタイミングで作動させることができ、また、たとえ視程が悪化する場合であっても、状況に応じた制御を事前に適切なタイミングで行うことができる車両の運転支援制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様による車両の運転支援制御装置は、ドライバの視程を推定する視程推定手段と、上記視程の時間的な変化量を算出する視程変化量算出手段と、上記視程の時間的な変化量に基づいて制御手段を作動させる制御手段とを備え
、上記制御手段は、少なくとも許容スリップ率で作動して制動時における車輪のロックを防止するアンチロックブレーキ制御手段であって、上記アンチロックブレーキ制御手段は、上記視程の時間的な変化量と予め設定する第2の閾値とを比較して上記許容スリップ率の変更を行う。
また、本発明の一態様による車両の運転支援制御装置は、ドライバの視程を推定する視程推定手段と、上記視程の時間的な変化量を算出する視程変化量算出手段と、上記視程の時間的な変化量に基づいて制御手段を作動させる制御手段とを備え、上記制御手段は、少なくとも車両にヨーモーメントを発生させて車両の横すべりを防止する横すべり防止制御手段であって、上記横すべり防止制御手段は、上記視程の時間的な変化量と予め設定する第3の閾値とを比較して上記ヨーモーメントの発生タイミングと発生するヨーモーメントの強さの少なくともどちらか一方を変更する。
更に、本発明の一態様による車両の運転支援制御装置は、ドライバの視程を推定する視程推定手段と、上記視程の時間的な変化量を算出する視程変化量算出手段と、上記視程の時間的な変化量に基づいて制御手段を作動させる制御手段とを備え、上記制御手段は、少なくともドライバによるブレーキ力をアシストするブレーキアシスト制御手段であって、上記ブレーキアシスト制御手段は、上記視程の時間的な変化量と予め設定する第4の閾値とを比較してアシストブレーキの付加タイミングを変更する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の車両の運転支援制御装置によれば、車載の様々な制御装置をドライバの視程を考慮して実行させることにより、自然で適切なタイミングで作動させることができ、また、たとえ視程が悪化する場合であっても、状況に応じた制御を事前に適切なタイミングで行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施の一形態に係る車両に搭載される車両の運転支援制御装置の概略構成図である。
【
図2】本発明の実施の一形態に係る制御ユニットの機能ブロック図である。
【
図3】本発明の実施の一形態に係る車両運転支援制御プログラムのフローチャートである。
【
図4】本発明の実施の一形態に係る自車両と視程の説明図である。
【
図5】本発明の実施の一形態に係る車速と視程悪化率の説明図である。
【
図6】本発明の実施の一形態に係る車速に応じて設定される各閾値の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1において、符号1は自動車等の車両(自車両)で、自車両1には、運転支援制御装置2が搭載されている。この運転支援制御装置2は、環境認識手段としてのステレオカメラユニット3と制御ユニット5とから主要に構成されている。そして、運転支援制御装置2には、自車速Vを検出する車速センサ6の各種センサ類が接続され、制御ユニット5による制御信号が警報装置(警報ランプ)11、及び、ブレーキ制御装置12に必要に応じて出力される。
【0010】
ステレオカメラユニット3は、ステレオカメラ31と該ステレオカメラ31からの信号を処理する環境認識部32から構成されている。
【0011】
ステレオカメラ31は、ステレオ光学系として例えば電荷結合素子(CCD)等の固体撮像素子を備えた左右1組のCCDカメラで構成されている。このステレオカメラ31を構成する各CCDカメラは、車室内の天井前方に一定の間隔を持って取り付けられ、車外の対象を異なる視点からステレオ撮像し、撮像した画像情報を環境認識部32に出力する。
【0012】
環境認識部32は、ステレオカメラ31からの画像情報が入力され、前方の白線データ等を認識して自車線を推定する。ここで、環境認識部32は、ステレオカメラ31からの画像情報の処理を、例えば、以下のように行う。すなわち、ステレオカメラ31で自車進行方向を撮像した左右1組の画像(ステレオ画像対)に対し、対応する位置のずれ量から三角測量の原理によって距離情報を生成する。具体的には、環境認識部32は、基準画像(例えば、右側の画像)を小領域に分割し、それぞれの小領域の輝度或いは色のパターンを比較画像と比較して対応する領域を見つけ出し、基準画像全体に亘る距離分布を求める。更に、環境認識部32は、基準画像上の各画素について隣接する画素との輝度差を調べ、これらの輝度差がともに閾値(コントラストの閾値)を超えているものをエッジとして抽出するとともに、抽出した画素(エッジ)に距離情報を付与することで、距離情報を備えたエッジの分布画像(距離画像)を生成する。そして、環境認識部32は、例えば、距離画像に対して周知のグルーピング処理を行い、予め設定された各種テンプレートとのパターンマッチングを行うことにより、自車前方の白線を認識する。この白線の認識は、フレーム間で継続して監視される。ここで、環境認識部32が、白線を認識するにあたり、左右の白線の位置座標から白線の幅W、自車線内での自車両1の幅方向位置(自車両1の左白線までの距離と右白線までの距離)も白線データとして記憶する。また、環境認識部32は、ステレオカメラ31からの画像情報の輝度、コントラストにより得られる上述の白線以外の白線、例えば、何等かの事情により中断された白線部分や、さらに遠方に存在すると推定される自車線の白線については、ステレオカメラ31からの画像情報で得られた白線を、遠方に延出することで補外して座標データとして推定しておく。尚、この補外される白線の座標データは、図示しないナビゲーションシステムの地図データ等で求めるようにしても良い。そして、このようにステレオカメラユニット3で得られた走行レーンの白線情報は、制御ユニット5に出力される。
【0013】
警報装置(警報ランプ)11は、後述する制御ユニット5から警報発生の制御信号が入力されるとインストルメントパネル、或いは、車載ディスプレイ上の所定のランプを点灯(点滅)してドライバに対して、視程が悪化してきていることを報知するようになっている。
【0014】
ブレーキ制御装置12は、4輪独立に作動自在なブレーキ駆動部(図示せず)と接続され、公知のABS機能、横すべり防止制御機能、ブレーキアシスト制御機能、自動ブレーキ制御機能を備えて構成され、制御ユニット5から制御特性変更の信号が入力されると、ABS機能、横すべり防止制御機能、ブレーキアシスト制御機能の制御特性を変更し、また、制御ユニット5から該制御ユニット5で算出した自動ブレーキ目標液圧の信号が入力されると自動ブレーキを付加する制御を実行する。
【0015】
ここで、上述のABS機能、横すべり防止制御機能、ブレーキアシスト制御機能について簡単に説明する。
【0016】
ABS機能は、急制動中に車輪がロックすることによるスリップを防止するための機能で、車輪の速度、車輪の加速度、推定される車体の速度を検出し、適当なスリップ率(許容スリップ率:例えば15%付近)になるようにブレーキ液圧を調整している。すなわち、通常、制動中における車輪のブレーキ力は、スリップ率が高まるにつれ、急激に増加し、ある点で最大値をとり、その後、次第に減少する特性となっている。一方、車輪のコーナリングフォースはスリップ率が低いほど高い値をとる。従って、これらブレーキ力とコーナリングフォースのバランスを考慮して、許容スリップ率が決定されるが、単に制動距離のみに着目した場合、より大きな許容スリップ率で作動させた方が制動距離の短縮につながることがある。
【0017】
横すべり防止制御機能は、例えば、車両モデルを基にハンドル角、車速等から算出した目標ヨーレートと、実際に車両に生じているヨーレート(センサによる計測値)との偏差を求める。そして、このヨーレート偏差が予め設定しておいた閾値(作動タイミング閾値)を超える場合に、実際のヨーレートの絶対値が目標ヨーレートの絶対値よりも大きく、車両がオーバーステア傾向にあると判断できる際には旋回外側車輪にヨーレート偏差の大きさに応じたブレーキ力(付加ブレーキ力)を付加し、車両にヨーモーメントを発生させて車両の安定性を向上させる(オーバーステア傾向を修正させる)。一方、実際のヨーレートの絶対値が目標ヨーレートの絶対値よりも小さく、車両がアンダーステア傾向にあると判断できる際には旋回内側車輪にヨーレート偏差の大きさに応じたブレーキ力(付加ブレーキ力)を付加し、車両にヨーモーメントを発生させて車両の回頭性を向上させる(アンダーステア傾向を修正させる)。
【0018】
ブレーキアシスト制御機能は、急ブレーキなど強いブレーキ力が必要な際に、ブレーキの踏み込み力をさらに補助してブレーキ力を増加させる制御機能で、例えば、ブレーキペダルの踏み込み速度(或いはブレーキ液圧センサの増加速度)が予め設定しておいた閾値(作動閾値)を超えると、緊急なブレーキと判断してブレーキ力を増大させてアシストするようになっている。
【0019】
そして、運転支援制御装置2の制御ユニット5は、上述の環境認識部32から走行レーンの白線情報が入力され、車速センサ6から車速Vが入力されて、後述の
図3に示す車両運転支援制御プログラムに従って、ドライバの視程Lvを推定し、この視程Lvの時間的な変化量として、特に、視程Lvが時間ごとに悪化していく変化量である視程悪化率dLvを算出し、この視程悪化率dLvと予め車速Vに応じて設定しておいた第1の閾値としての警報閾値CdLvalとを比較して、警報装置(警報ランプ)11からのドライバに対する警報の実行を判定し、視程悪化率dLvと予め車速Vに応じて設定しておいた第2、3、4の閾値(尚、本実施の形態では第2の閾値=第3の閾値=第4の閾値)としての制御特性変更閾値CdLvcを比較して、ABS機能、横すべり防止制御機能、ブレーキアシスト制御機能の各制御特性の変更を判定し、視程悪化率dLvと予め車速Vに応じて設定しておいた第5の閾値としての減速制御作動閾値CdLvbとを比較して、自動ブレーキの実行を判定する。従って、制御ユニット5は、
図2に示すように、視程推定部5a、視程悪化率算出部5b、警報制御部5c、制御特性変更部5d、減速制御部5eから主要に構成されている。
【0020】
視程推定部5aは、環境認識部32から走行レーンの白線情報が入力される。そして、例えば、環境認識部32から入力される走行レーンの白線情報(白線の前方の距離情報)を基に、実験等により、路面上の白線を認識する人間の視覚の平均的なコントラストの値を閾値として予め設定しておき、この閾値よりも高いコントラストの値で検出された白線の最遠距離までをドライバの視程Lv(
図4参照)として推定し、視程悪化率算出部5bに出力する。すなわち、視程推定部5aは、視程推定手段として設けられている。
【0021】
視程悪化率算出部5bは、視程推定部5aから視程Lvが入力される。そして、例えば、以下の(1)式により、視程Lvの時間的な変化量として、特に、視程Lvが時間ごとに悪化していく変化量である視程悪化率dLvを算出する。
dLv=(Lvp−Lvc)/T …(1)
ここで、LvpはT秒前の視程で、以下の(2)式で算出され、Lvcは現在の視程で、以下の(3)式で算出される。
【0022】
Lvp=(ΣLv(-T-j・Δt))/(k+1):但し、Σはj=0からj=kまで
…(2)
Lvc=(ΣLv(-j・Δt))/(k+1):但し、Σはj=0からj=kまで
…(3)
尚、(2)式、(3)式におけるLvはそれぞれの添字の時刻における瞬間値であり、Δtはサンプリングタイムを示す。
【0023】
上述の(1)式で示すように、視程悪化率dLvを求めるため、視程悪化率dLvが(+)の符号の時は、霧が立ちこめてきているような視程Lvが悪化しているような状況であることがわかる。逆に、視程悪化率dLvが(−)の符号の時は、霧が晴れてきているような視程Lvが良好になってきている状況であることがわかる。
図5は、例えば、霧が立ちこめているような場所に向かって車両が様々な速度で走行していく概念を示すもので、車速が0であれば視程悪化率dLvも0であるが、車速が高くなるほど、視程悪化率dLvも高くなる。上述の(1)式で算出された視程悪化率dLvは、警報制御部5c、制御特性変更部5d、減速制御部5eに出力される。このように、視程悪化率算出部5bは視程変化量算出手段として設けられている。
【0024】
警報制御部5cは、車速センサ6から車速Vが入力され、視程悪化率算出部5bから視程悪化率dLvが入力される。そして、例えば、予め実験、計算等により設定しておいた、
図6に示すマップに基づいて、車速Vに応じた閾値(第1の閾値としての警報閾値CdLval)を設定する。その後、視程悪化率dLvを警報閾値CdLvalと比較して、視程悪化率dLvが警報閾値CdLvalを超える場合は、警報装置(警報ランプ)11に信号を出力し、例えば、所定のランプを点灯(点滅)してドライバに対し、視程が悪化してきていることを報知するようになっている。このように、警報制御部5c、警報装置(警報ランプ)11は警報制御手段として設けられている。
【0025】
制御特性変更部5dは、車速センサ6から車速Vが入力され、視程悪化率算出部5bから視程悪化率dLvが入力される。そして、例えば、予め実験、計算等により設定しておいた、
図6に示すマップに基づいて、車速Vに応じた閾値(第2、3、4の閾値:本実施の形態では第2の閾値=第3の閾値=第4の閾値)としての制御特性変更閾値CdLvc)を設定する。その後、視程悪化率dLvを制御特性変更閾値CdLvcと比較して、視程悪化率dLvが制御特性変更閾値CdLvcを超える場合は、ブレーキ制御装置12に信号を出力し、上述のABS機能、横すべり防止制御機能、ブレーキアシスト制御機能の制御特性を変更させる。具体的には、ブレーキ制御装置12は、ABS機能における許容スリップ率を大きな値に変更し、急制動時における制動距離の短縮を図る制御特性に変更する。また、ブレーキ制御装置12は、横すべり防止制御機能における作動タイミング閾値を小さくし、より横すべり防止制御が作動し易い方向に制御特性を変更し、更に、付加ブレーキ力も、より大きなブレーキ力が付加されるように変更し、適切に制動距離の短縮と車両安定性の確保ができるように制御特性を変更する。尚、横すべり防止制御機能が選択的にON/OFFができるような装置でOFFになっている場合にはONにし、また、横すべり防止制御機能の介入度合いが選択的に小さく変更できるような場合には、標準設定に戻すようになっている。また、ブレーキ制御装置12は、ブレーキアシスト制御機能における作動閾値を小さくし、適切な早いタイミングでブレーキ力を増大させてアシストできるように制御特性を変更する。このように、制御特性変更部5d、ブレーキ制御装置12は、アンチロックブレーキ制御手段、横すべり防止制御手段、ブレーキアシスト制御手段としての機能を有して設けられている。
【0026】
減速制御部5eは、車速センサ6から車速Vが入力され、視程悪化率算出部5bから視程悪化率dLvが入力される。そして、例えば、予め実験、計算等により設定しておいた、
図6に示すマップに基づいて、車速Vに応じた閾値(第5の閾値としての減速制御作動閾値CdLvb)を設定する。その後、視程悪化率dLvを減速制御作動閾値CdLvbと比較して、視程悪化率dLvが減速制御作動閾値CdLvbを超える場合は、例えば、以下の(4)式により、目標減速度Dtを算出し、(5)式により、自動ブレーキ目標液圧Ptを算出し、この自動ブレーキ目標液圧Ptをブレーキ制御装置12に出力して自動ブレーキを実行させる。このように、減速制御部5e、ブレーキ制御装置12は、減速制御手段としての機能を有して設けられている。
Dt=∫(V−CdLvb)dt …(4)
但し、0<Dt<(予め設定しておいた最大値)
Pt=Cb・Dt …(5)
ここで、Cdはブレーキ諸元で決まる定数である。
【0027】
次に、上述のように構成される制御ユニット5で実行される車両運転支援制御を
図3のフローチャートにより説明する。
まず、S101で、必要情報、すなわち、走行レーンの白線情報、自車速V等を読み込む。
【0028】
次に、S102に進み、視程推定部5aで、上述の如く、例えば、環境認識部32から入力される走行レーンの白線情報(白線の前方の距離情報)を基に、実験等により、路面上の白線を認識する人間の視覚の平均的なコントラストの値を閾値として予め設定しておき、この閾値よりも高いコントラストの値で検出された白線の最遠距離までをドライバの視程Lvとして推定する。
【0029】
次いで、S103に進み、視程悪化率算出部5bで、例えば、前述の(1)式により視程悪化率dLvを算出する。
【0030】
次に、S104に進み、警報制御部5cで、例えば、
図6に示すマップに基づいて、車速Vに応じた警報閾値CdLvalを設定する。
【0031】
そして、S105に進み、警報制御部5cで、視程悪化率dLvを警報閾値CdLvalと比較して、視程悪化率dLvが警報閾値CdLvalを超える場合(dLv>CdLvalの場合)は、S106に進んで、警報装置(警報ランプ)11に信号を出力し、例えば、所定のランプを点灯(点滅)してドライバに対し、視程が悪化してきていることを報知してS107に進む。また、S105の判定の結果、dLv≦CdLvalの場合は、そのままS107に進む。
【0032】
S107に進むと、制御特性変更部5dで、例えば、
図6に示すマップに基づいて、車速Vに応じた制御特性変更閾値CdLvcを設定する。
【0033】
そして、S108に進み、制御特性変更部5dで、視程悪化率dLvを制御特性変更閾値CdLvcと比較して、視程悪化率dLvが制御特性変更閾値CdLvcを超える場合(dLv>CdLvcの場合)は、S109に進んで、ブレーキ制御装置12に信号を出力し、上述のABS機能、横すべり防止制御機能、ブレーキアシスト制御機能の制御特性を変更させ、S110に進む。この制御特性の変更は、具体的には、ブレーキ制御装置12は、ABS機能における許容スリップ率を大きな値に変更し、急制動時における制動距離の短縮を図る制御特性に変更する。また、ブレーキ制御装置12は、横すべり防止制御機能における作動タイミング閾値を小さくし、より横すべり防止制御が作動し易い方向に制御特性を変更し、更に、付加ブレーキ力も、より大きなブレーキ力が付加されるように変更し、適切に制動距離の短縮と車両安定性の確保ができるように制御特性を変更する。尚、横すべり防止制御機能が選択的にON/OFFができるような装置でOFFになっている場合にはONにし、また、横すべり防止制御機能の介入度合いが選択的に小さく変更できるような場合には、標準設定に戻すようになっている。また、ブレーキ制御装置12は、ブレーキアシスト制御機能における作動閾値を小さくし、適切な早いタイミングでブレーキ力を増大させてアシストできるように制御特性を変更する。
【0034】
また、S108の判定の結果、dLv≦CdLvcの場合は、そのままS110に進む。
【0035】
S110に進むと、減速制御部5eで、例えば、
図6に示すマップに基づいて、減速制御作動閾値CdLvbを設定する。
【0036】
そして、S111に進み、減速制御部5eで、視程悪化率dLvを減速制御作動閾値CdLvbと比較して、視程悪化率dLvが減速制御作動閾値CdLvbを超える場合(dLv>CdLvbの場合)は、S112に進んで、前述の(4)式により目標減速度Dtを算出し、S113に進んで、前述の(5)式により自動ブレーキ目標液圧Ptを算出し、この自動ブレーキ目標液圧Ptをブレーキ制御装置12に出力して自動ブレーキを実行させる。
【0037】
また、S111の判定の結果、dLv≦CdLvbの場合は、そのままプログラムを抜ける。
【0038】
このように、本発明の実施の形態によれば、ドライバの視程Lvを推定し、この視程Lvの時間的な変化量として、特に、視程Lvが時間ごとに悪化していく変化量である視程悪化率dLvを算出し、この視程悪化率dLvと予め車速Vに応じて設定しておいた警報閾値CdLvalとを比較して、警報装置11からのドライバに対する警報の実行を判定し、視程悪化率dLvと予め車速Vに応じて設定しておいた制御特性変更閾値CdLvcを比較して、ABS機能、横すべり防止制御機能、ブレーキアシスト制御機能の各制御特性の変更を判定し、視程悪化率dLvと予め車速Vに応じて設定しておいた減速制御作動閾値CdLvbとを比較して、自動ブレーキの実行を判定する。このため、車載の様々な制御装置をドライバの視程を考慮して実行させることにより、自然で適切なタイミングで作動させることができ、また、たとえ視程が悪化する場合であっても、視程の変化の状況に応じた制御を事前に適切なタイミングで行うことができる。
【0039】
尚、本実施の形態では、第2、3、4の閾値を、第2の閾値=第3の閾値=第4の閾値として1つの制御特性変更閾値CdLvcで代表して設定するようにしているが、それぞれ異なる値に設定しても良い。また、制御特性の変更も、ABS機能、横すべり防止制御機能、ブレーキアシスト制御機能の3つの機能の制御特性の変更を例に説明したが、これら3つに限るものではなく、他の、例えば、4輪駆動制御の制御特性等の変更も行うようにしても良い。また、何れか一つの制御機能のみ、或いは、何れか2つの制御機能の特性を変更するものであっても良い。更に、本発明の実施の形態では、白線の検出、視程の設定をステレオカメラユニット3からの画像情報を基に行うようにしたが、他に、単眼カメラユニット、カラーカメラユニットからの画像情報を基に行うようにしても良い。
【符号の説明】
【0040】
1 自車両
2 運転支援制御装置
3 ステレオカメラユニット(環境認識手段)
5 制御ユニット
5a 視程推定部(視程推定手段)
5b 視程悪化率算出部(視程変化量算出手段)
5c 警報制御部(警報制御手段)
5d 制御特性変更部(アンチロックブレーキ制御手段、横すべり防止制御手段、ブレーキアシスト制御手段)
5e 減速制御部(減速制御手段)
6 車速センサ
11 警報装置(警報制御手段)
12 ブレーキ制御装置(アンチロックブレーキ制御手段、横すべり防止制御手段、ブレーキアシスト制御手段、減速制御手段)
31 ステレオカメラ
32 環境認識部