特許第5890835号(P5890835)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5890835
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】ガラスを強化する二段階法
(51)【国際特許分類】
   C03C 21/00 20060101AFI20160308BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20160308BHJP
   C03C 3/097 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
   C03C21/00 101
   C03C3/091
   C03C3/097
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-526171(P2013-526171)
(86)(22)【出願日】2011年8月26日
(65)【公表番号】特表2013-536155(P2013-536155A)
(43)【公表日】2013年9月19日
(86)【国際出願番号】US2011049329
(87)【国際公開番号】WO2012027660
(87)【国際公開日】20120301
【審査請求日】2014年8月19日
(31)【優先権主張番号】61/377,136
(32)【優先日】2010年8月26日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】ゴメス,シニュー
(72)【発明者】
【氏名】ランバーソン,リサ エー
(72)【発明者】
【氏名】モリーナ,ロバート エム
【審査官】 山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2010/0047521(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0142568(US,A1)
【文献】 特開平01−239036(JP,A)
【文献】 特公昭46−007591(JP,B1)
【文献】 特開2004−253074(JP,A)
【文献】 米国特許第03410673(US,A)
【文献】 特開平11−328601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00−14/00
C03C 15/00−23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリアルミノホウケイ酸ガラスを強化する方法において、
a. アルカリ金属陽イオンを含むアルカリアルミノホウケイ酸ガラスを提供する工程;
b. より小さいアルカリ金属陽イオンをより大きいアルカリ金属陽イオンで交換することにより、前記ガラスの表面から層の深さまで延在する、圧縮応力下にある圧縮層を形成する工程;および
c. 前記圧縮層中の前記アルカリ金属陽イオンの少なくとも一部を、前記層の深さより浅い、5μmから20μmの範囲にある第2の深さまでより大きいアルカリ金属陽イオンで置換して、前記圧縮応力を増加させる工程であって、前記圧縮層中の前記アルカリ金属陽イオンを前記より大きいアルカリ金属陽イオンで置換した後、前記圧縮応力が少なくとも500MPaであり、前記層の深さが少なくとも50μmである工程;
を有してなり、
前記圧縮層を形成する工程が、リチウム陽イオンをナトリウム陽イオンで前記ガラスの層の深さまで置換する工程を含み、
前記圧縮層中の前記アルカリ金属陽イオンを前記より大きいアルカリ金属陽イオンで置換する工程が、ナトリウム陽イオンとリチウム陽イオンの少なくとも一方を前記第2の深さ内でカリウム陽イオンと交換する工程を含む、
方法。
【請求項2】
前記圧縮層中の前記アルカリ金属陽イオンを前記より大きいアルカリ金属陽イオンで置換する工程が、前記ガラスを、カリウム塩を含む第2のイオン交換浴中に浸漬する工程を含む、請求項記載の方法。
【請求項3】
前記アルカリアルミノホウケイ酸ガラスを提供する工程が、50〜70モル%のSiO2;5〜15モル%のAl23;5〜20モル%のB23;2〜15モル%のLi2O;0〜20モル%のNa2O;および0〜10モル%のK2Oを含むアルカリアルミノホウケイ酸ガラスを提供する工程を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記アルカリアルミノホウケイ酸ガラスが、0〜10モル%のP25;0〜5モル%のMgO;0〜1モル%のCeO2;および0〜1モル%のSnO2の内の少なくとも1種類をさらに含む、請求項記載の方法。
【請求項5】
前記圧縮層中の前記アルカリ金属陽イオンを前記より大きいアルカリ金属陽イオンで置換した後、前記ガラスの表面が、ビッカース圧子による圧入の際に少なくとも3000g重の亀裂発生閾値を有する、請求項1からいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、その内容が依拠され、ここに全てが引用される、2010年8月26日に出願された米国仮特許出願第61/377136号の米国法典第35編第119条の下での優先権の恩恵を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本開示は、強化されたアルカリアルミノホウケイ酸ガラスに関する。より詳しくは、本開示は、そのようなガラスを強化する方法に関する。さらにより詳しくは、本発明は、そのようなガラスのイオン交換による強化に関する。
【背景技術】
【0003】
ガラスの表面領域に圧縮応力層を形成することによってアルカリ含有ガラスを強化するために、イオン交換プロセスを使用することができる。一般に、リチウムを含有するアルミノケイ酸塩ガラスは、ナトリウムを含有するガラスよりも容易にイオン交換され、より低温かつより短い時間で、リチウムを含有するアルミノケイ酸塩ガラスにおいてより深い圧縮深さを得ることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、そのようなリチウムを含有するアルミノケイ酸塩ガラスは、より低い歪み点と徐冷点を有する傾向にあり、構造緩和を避けるために、処理にはより低い温度が要求される。その上、ガラス中のリチウムをナトリウムで交換すると、ガラス中のナトリウムをカリウムで交換することにより達成される表面圧縮と比べて、表面圧縮が小さくなり、このことは、表面強度がより低いことになる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
アルカリアルミノホウケイ酸ガラスを強化する方法が提供される。ガラスの表面から層の深さまで延在する圧縮層が、ガラス中に存在するより小さい金属陽イオンをより大きい金属陽イオンで交換することによって形成される。第2の工程において、ガラス中の金属陽イオンは、前記層の深さより浅い第2の深さまでより大きい金属陽イオンにより交換される。この第2の工程により、前記圧縮層の圧縮応力が増加する。例えば、ナトリウム陽イオンが、第1の工程において、ガラス中に存在するリチウム陽イオンと層の深さまで交換され、次いで、カリウム陽イオンが、第2の工程において、ガラス中のナトリウム陽イオンおよびリチウム陽イオンと第2の深さまで交換される。カリウム陽イオンのナトリウム陽イオンおよびリチウム陽イオンとの交換により、この層の圧縮応力が増加する。圧縮層の形成および陽イオンのより大きい陽イオンによる置換は、二段階イオン交換プロセスにより行うことができる。圧縮層および少なくとも3000g重の亀裂発生閾値を有するアルカリアルミノホウケイ酸ガラスも提供される。
【0006】
したがって、本開示の1つの態様は、アルカリアルミノホウケイ酸ガラスを強化する方法を提供することにある。この方法は、アルカリ金属陽イオンを含むアルカリアルミノホウケイ酸ガラスを提供する工程;ガラスの表面から層の深さまで延在する、圧縮応力下にある圧縮層を形成する工程;およびアルカリ金属陽イオンの少なくとも一部を、層の深さより浅い第2の深さまでより大きいアルカリ金属陽イオンで置換して、前記圧縮応力を増加させる工程を有してなる。
【0007】
本開示の第2の態様は、アルカリアルミノホウケイ酸ガラスを強化する方法を提供することにある。この方法は、リチウム陽イオンおよびナトリウム陽イオンを含むアルカリアルミノホウケイ酸ガラスを提供する工程;リチウム陽イオンの少なくとも一部をナトリウム陽イオンで置換して、ガラスの表面から層の深さまで延在する、圧縮応力下にある圧縮層を形成する工程;およびナトリウム陽イオンとリチウム陽イオンの少なくとも一部を、層の深さより浅い第2の深さまでカリウム陽イオンで置換して、前記圧縮応力を増加させる工程であって、圧縮層において、第2の深さまでカリウム陽イオンが豊富である工程を有してなる。
【0008】
本開示の第3の態様は、アルカリアルミノホウケイ酸ガラスを提供することにある。このガラスは、リチウム陽イオン、ナトリウム陽イオンおよびカリウム陽イオンを含む。このガラスは、表面から層の深さまで延在する圧縮層であって、この層の深さより浅い第2の深さまでカリウム陽イオンが豊富である圧縮層を有する表面を有する。このガラスの表面は、ビッカース圧子による圧入の際の少なくとも3000g重の亀裂発生閾値を有する。
【0009】
これらの他の態様、利点、および特徴が、以下の詳細な説明、添付図面、および付随の特許請求の範囲から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】強化表面を有する、ここに記載されたガラス板の断面図
図2】強化前と、イオン交換プロセスによる強化後に測定されたアルカリアルミノホウケイ酸ガラスに得られた亀裂発生荷重をプロットしたグラフ
図3a】二段階イオン交換プロセスの第1の工程後のNa2O濃度プロファイルをプロットしたグラフ
図3b】二段階イオン交換プロセスの第1の工程後のK2O濃度プロファイルをプロットしたグラフ
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の説明において、いくつかの図面に亘り、同様の参照番号は同様のまたは対応する部品を称する。別記しない限り、「上」、「下」、「外方」、「内方」などの用語は、便宜上の単語であり、制限する用語と解釈すべきではないことも理解されよう。その上、ある群が、要素およびその組合せの群の内の少なくとも1つを含むと記載されている場合はいつでも、その群は、列挙されたそれらの要素のいくつを、個々にまたは互いの組合せのいずれかで、含んでも、から実質的になっても、またはからなってもよいと理解される。同様に、ある群が、要素またはその組合せの群の内の少なくとも1つからなると記載されている場合はいつでも、その群は、列挙されたそれらの要素のいくつを、個々にまたは互いの組合せのいずれかで、からなってもよいと理解される。別記しない限り、値の範囲は、列挙された場合、その範囲の上限と下限の両方を含む。ここに用いたように、単数形は、別記しない限り、「少なくとも1つ」または「1つ以上」を意味する。
【0012】
一般に図面を、特に図1を参照すると、図解は、特定の実施の形態を説明する目的のためであって、本開示または付随の特許請求の範囲をそれに制限することは意図されていないことが理解されよう。図面は、必ずしも一定の縮尺で描かれておらず、その図面の特定の特徴および特定の視野は、明瞭さおよび簡潔さのために、縮尺または図式で誇張されて示されているかもしれない。
【0013】
ここに用いたように、「豊富な(enriched)」という用語は、別記しない限り、特定の元素またはイオン種の濃度が、ガラス塊の内部のその元素またはイオン種の平均濃度よりも大きいことを意味する。ここに用いたように、「ガラス」という用語は、別記しない限り、アルカリアルミノホウケイ酸ガラスを称する。
【0014】
アルカリアルミノホウケイ酸ガラスを強化する方法が提供される。1つの実施の形態において、この方法は、アルカリアルミノホウケイ酸ガラスを提供する工程;ガラスの表面から層の深さまで延在する圧縮層を最初に形成する工程;およびアルカリ金属陽イオンの少なくとも一部を、層の深さより浅い第2の深さまでより大きいアルカリ金属陽イオンで置換する工程を有してなる。アルカリ金属陽イオンをより大きいアルカリ金属陽イオンで置換することにより、圧縮層の圧縮応力が増加し、ガラスの表面の損傷抵抗が増加する。圧縮層により、表面での傷の導入が妨げられ、亀裂の発生および層の深さを通じての伝搬が防がれる。いくつかの実施の形態において、この方法は、二段階イオン交換プロセスを使用して行われる。
【0015】
この方法の第1の工程において、アルカリアルミノホウケイ酸ガラスが提供される。いくつかの実施の形態において、このガラスは、約2mm以下の厚さを有する板の形状で提供される。そのような板は、スロット・ドロー法またはフュージョン・ドロー法などの当該技術分野で公知のダウン・ドロー法によって、もしくは当該技術分野で公知の他の方法によって形成することができる。ガラスは、いくつかの実施の形態において、一価のリチウム陽イオンおよびナトリウム陽イオンを含む。このガラスは、追加に、一価のカリウム陽イオンを含んでも差し支えない。ガラス中のそのようなアルカリ金属陽イオンの存在は、一般に、酸化物種のLi2O、Na2O、K2Oにより表される。いくつかの実施の形態において、アルカリアルミノホウケイ酸ガラスは、50〜70モル%のSiO2;5〜15モル%のAl23;5〜20モル%のB23;2〜15モル%のLi2O;0〜20モル%のNa2O;および0〜10モル%のK2Oを含む、から実質的になる、またはからなる。いくつかの実施の形態において、このガラスは、0〜10モル%のP25;0〜5モル%のMgO;0〜1モル%のCeO2;および0〜1モル%のSnO2の内の少なくとも1種類をさらに含んでも差し支えない。
【0016】
代表的なガラスの非限定的組成および物理的性質が表1に列記されている。ビッカース圧子による圧入によって決定される亀裂発生閾値も、表1の組成について列記されている。Kg重で表される亀裂発生閾値を測定した;1)ガラスのイオン交換前(表1において「IX前」);2)60質量%のKNO3および40質量%のNaNO3を含有する390℃の溶融塩浴中の10時間に亘るガラスの一段階イオン交換(IX)後;3)390℃の溶融NaNO3塩浴中の10時間に亘るガラスの一段階イオン交換後;および4)390℃の溶融NaNO3塩浴中の10時間に亘るガラスのイオン交換と、その後、390℃の溶融KNO3塩浴中の30分間に亘りイオン交換を含む二段階イオン交換プロセス後。マイクロメートル(μm)で表される、イオン交換プロセスにより形成された圧縮層の層の深さ(DOL)も、表1に列記されている。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【0017】
提供されたアルカリアルミノホウケイ酸ガラスは、固有の高い損傷抵抗を有する。すなわち、このガラスは、どのような化学的または熱的強化または徐冷の前にも−またはそれを行わずに−高い損傷抵抗を有する。そのような損傷抵抗は、ガラスの、ビッカース圧子による圧入の際の亀裂の形成および/または亀裂の伝搬に対する抵抗により測定されるまたは特徴付けられる。いくつかの実施の形態において、このガラスは、強化前に少なくとも約1000g重の、特定の実施の形態において、強化前に、約1000g重から約2000g重の範囲の亀裂発生閾値(すなわち、亀裂が最初に観察されたときのビッカース圧子の荷重)を有する。この範囲の亀裂発生閾値を固有に有するガラス組成の例が、表2に列記されている。比較において、ソーダ石灰ガラスは、低い損傷許容性を有し、100g重ほど低い荷重で圧入されたときに亀裂を形成する。ソーダ石灰ガラスは、イオン交換された場合でさえ、一般に、1000g重未満の損傷許容性を有する。
【表2】
【0018】
ここに記載された圧縮層の形成および損傷抵抗の増加は、いくつかの実施の形態において、二段階イオン交換プロセスにより達成できる。このプロセスにおいて、ガラスの表面層中のイオンは、このガラス中に存在するイオンと同じ価数または酸化状態を有するより大きいイオンにより置換される、すなわち、交換される。金属陽イオンの交換は、一般に、溶融塩浴中で行われ、浴からのより大きいイオンが、ガラス内のより小さい陽イオンを一般に置換する。イオン交換は、ガラス物品の表面から、その表面の下の深さ(層の深さ、または「DOL」)まで延在する領域に限られる。一例として、アルカリ金属含有ガラスのイオン交換は、ガラスを、以下に限られないが、少なくとも1種類のアルカリ金属イオンの硝酸塩、硫酸塩、および塩化物などの塩を含有する少なくとも1つの溶融塩浴中にガラスを浸漬することによって行うことができる。そのような溶融塩浴の温度は、一般に、約380℃から約450℃までの範囲にあり、浸漬時間は約16時間に及ぶ。しかしながら、ここに記載されたものとは異なる温度および浸漬時間を使用しても差し支えない。ガラス内のより小さい陽イオンを浴からのより大きい陽イオンにより置換するまたは交換することによって、ガラスの表面近くから層の深さまでの領域に圧縮応力が生じる。この表面近くの圧縮応力は、ガラス内の力を釣り合わせるように、ガラスの内部領域または中央領域に中央張力を生じる。
【0019】
圧縮層を最初に形成する工程は、非常に深い層の深さを有する圧縮層を提供する。いくつかの実施の形態において、圧縮層を形成する工程は、より小さいアルカリ金属陽イオンを、より大きいアルカリ金属陽イオンと置換する工程を含む。特定の実施の形態において、この工程は、ガラス中のリチウム陽イオンを、例えば、溶融塩浴からのナトリウムイオンで、ガラスの表面の下の層の深さまで、イオン交換により置換する工程を含む。Li+イオンのNa+イオンとの交換は、都合よく深い層の深さ(例えば、図1におけるd1、d2)を達成する。そのような実施の形態において、層の深さは、少なくとも50μmであり、いくつかの実施の形態において、表面から、約70μmから約290μmまでの範囲の深さまで延在し得る。
【0020】
Li+イオンのNa+イオンとの交換は、ガラスを、少なくとも1種類の溶融ナトリウム塩を含む第1のイオン交換浴中に浸漬することによって達成できる。いくつかの実施の形態において、そのナトリウム塩は、硝酸ナトリウム(NaNO3)である。いくつかの実施の形態において、イオン交換浴は、ナトリウム塩しか含有しない;すなわち、その浴には、他の金属塩は意図的に加えられない。しかしながら、他の実施の形態において、第1のイオン交換浴は、以下に限られないが、硝酸カリウム(KNO3)などの他のアルカリ金属の塩をさらに含む。1つの非限定的実施例において、第1のイオン交換浴は、40質量%のNaNO3および60質量%のKNO3を含む。別の非限定的実施例において、第1のイオン交換浴は、20質量%のNaNO3および80質量%のKNO3を含む。
【0021】
圧縮層の形成後、この圧縮層中の小さいアルカリ金属陽イオン(例えば、Li+、Na+)の少なくとも一部は、この層の深さより浅い第2の深さ(例えば、図1におけるd1’、d2’)まで、1種類のより大きいアルカリ金属陽イオンと置換される。いくつかの実施の形態において、これは、ガラス中のナトリウムイオンおよびリチウムイオンの少なくとも一方をカリウムイオンで交換することにより行われる。Na+イオンとLi+イオンの第2の深さまでのK+イオンによる交換によって、ガラスの表面圧縮応力が増加する。いくつかの実施の形態において、第2の深さは、表面から、約5μmから約20μmの範囲の深さまで延在する。そのようなイオン交換は、ガラスを、カリウム塩を含む第2のイオン交換浴中に浸漬することによって行われる。いくつかの実施の形態において、カリウム塩は、硝酸カリウム(KNO3)である。
【0022】
上述した二段階イオン交換プロセスを使用して、深い圧縮層を形成し、より小さいイオンをより大きいイオンとより浅い深さまで置換することによって、ガラスを強化した後、このガラスは、ビッカース圧子で圧入したときの、少なくとも3000g重の亀裂発生閾値、少なくとも500MPaの圧縮応力、および少なくとも50μmの層の深さを有する。
【0023】
リチウム陽イオン、ナトリウム陽イオン、およびカリウム陽イオンを含むアルカリアルミノホウケイ酸ガラスも提供される。このガラスは、ガラスの表面から層の深さまで延在する圧縮応力層を有する。このガラスの圧縮層は、層の深さより浅い第2の深さまでカリウム陽イオンが豊富である。この表面は、ビッカース圧子で圧入したときに、少なくとも3000g重の亀裂発生閾値も有する。
【0024】
ここに記載した方法により強化したアルカリアルミノホウケイ酸ガラスの断面図が図1に示されている。図1に示された非限定的実施例において、強化されたガラス板100は、厚さt、互いに実質的に平行な第1の表面110と第2の表面120、および中央部分115を有する。圧縮層112,122は、第1の表面110および第2の表面120から、各表面の下に、それぞれ、層の深さd1、d2まで延在する。圧縮層112,122は圧縮応力下にあるのに炊いて、中央部分115は、引張応力下、または張力下にある。中央部分115の引張応力は、圧縮層112,122の圧縮応力と釣り合い、それゆえ、強化されたガラス板100内で平衡を維持する。圧縮層112,122の各々は、それぞれ、第2の深さd1’、d2’までカリウム陽イオンが豊富であり、これらの第2の深さd1’、d2’は、層の深さd1、d2より浅い。反対の表面110,120から延在する圧縮層112,122を有するガラス板が図1に示されているが、ここに記載されたガラスは、多数の強化表面ではなく、強化された1つの表面を有しても差し支えない。このことは、例えば、ここに記載されており、ガラス板100を強化するために使用される、二段階イオン交換プロセス中に、表面110,120の一方をマスクキングすることによって行うことができる。
【0025】
いくつかの実施の形態において、層の第1の深さは、ガラスの表面から、約70μmから約290μmの範囲の深さまで延在する。いくつかの実施の形態において、第2の深さd1’、d2’は、表面110,120から、約5μmから約20μmの範囲の深さまで延在する。
【0026】
圧縮層は、いくつかの実施の形態において、例えば、上述した二段階イオン交換プロセスなどの、上述した方法によって形成される。先に記載したように、前記方法は、アルカリアルミノホウケイ酸ガラスを提供する工程;ガラスの表面から層の深さ(図1におけるd1、d2)まで延在する、圧縮応力下にある圧縮層を形成する工程;および圧縮層中のアルカリ金属陽イオンを、層の深さより浅い第2の深さ(図1におけるd1’、d2’)までより大きいアルカリ金属陽イオンで置換する工程を有してなる。アルカリ金属陽イオンをより大きいアルカリ金属陽イオン種と置換すると、圧縮層中の圧縮応力が増加する。
【0027】
いくつかの実施の形態において、前記ガラスは、約2mm以下の厚さを有する板の形態にある。そのような板は、スロット・ドロー法またはフュージョン・ドロー法などの当該技術分野で公知のダウン・ドロー法によって、もしくは当該技術分野で公知の他の方法によって形成することができる。いくつかの実施の形態において、アルカリアルミノホウケイ酸ガラスは、50〜70モル%のSiO2;5〜15モル%のAl23;5〜20モル%のB23;2〜15モル%のLi2O;0〜20モル%のNa2O;および0〜10モル%のK2Oを含む、から実質的になる、またはからなる。いくつかの実施の形態において、このガラスは、0〜10モル%のP25;0〜5モル%のMgO;0〜1モル%のCeO2;および0〜1モル%のSnO2の内の少なくとも1種類をさらに含んでも差し支えない。代表的なガラスの組成および物理的性質、並びに損傷耐性が表1に列記されている。
【0028】
ここに記載されたガラスは、固有に(すなわち、熱的または化学的強化(例えば、イオン交換)前に)、高いレベルの衝撃抵抗を有する。そのような損傷抵抗は、ビッカース圧子による圧入の際の亀裂の形成および/または亀裂の伝搬に対するガラスの抵抗により測定されるまたは特徴付けられる。いくつかの実施の形態において、このガラスは、強化前に少なくとも約1000g重の、特定の実施の形態において、強化前に、約1000g重から約2000g重の範囲の亀裂発生閾値(すなわち、亀裂が最初に観察されたときのビッカース圧子の荷重)を有する。この範囲の亀裂発生閾値を固有に有するガラス組成の例が、表2に列記されている。比較において、ソーダ石灰ガラスは、低い損傷許容性を有し、100g重ほど低い荷重で圧入されたときに亀裂を形成する。ソーダ石灰ガラスは、イオン交換された場合でさえ、一般に、1000g重未満の損傷許容性を有する。
【0029】
固有の損傷抵抗を有するアルカリアルミノホウケイ酸ガラスの損傷許容性および強度は、二段階イオン交換プロセスの使用によって、大幅に向上させることができる。ここに記載鎖垂れ二段階強化/イオン交換プロセスは、高い強度と引っ掻き抵抗性が望ましい家庭用電化製品用途におけるそのようなガラスの使用の新たな機会を提供する。そのような用途としては、以下に限られないが、携帯型または手持ち式の電子通信装置およびエンターテイメント装置のための、カバープレート、ディスプレイ窓、ディスプレイスクリーン、タッチスクリーンなどが挙げられる。
【実施例】
【0030】
以下の実施例は、ここに記載された方法およびガラスの特徴および利点を例証しており、本開示またはそれに付随する特許請求の範囲を制限することを決して意図していない。
【0031】
実施例1
代表的なアルカリアルミノホウケイ酸ガラス組成物について、イオン交換前と、異なる条件下でのイオン交換後に、ビッカース圧子により亀裂発生閾値を測定した。
【0032】
選択された組成を有するガラスサンプルに、1つの溶融塩浴中の浸漬による一段階イオン交換を行った。これらと同じ組成を有する異なるガラスサンプルに、上述した方法にしたがって、複数の塩浴中の二段階イオン交換を行った。
【0033】
使用した一段階イオン交換浴は以下のとおりである:a)390℃の溶融NaNO3塩浴;およびb)60質量%のKNO3および40質量%のNaNO3を含有する390℃の溶融塩浴。純粋なNaNO3浴中でイオン交換したガラスサンプルは、5時間に亘りその浴中に浸漬した。KNO3/NaNO3浴中でイオン交換したガラスサンプルは、10時間に亘りその浴中に浸漬した。
【0034】
二段階の複数のイオン交換浴は、二組を使用した。第一組の多数浴は、390℃での溶融NaNO3浴の第1の浴、その後の、390℃での溶融KNO3浴の第2の浴からなった。ガラスサンプルは、10時間に亘り第1の(NaNO3)浴中に浸漬し、次いで、30分間に亘り第2の(KNO3)浴中に浸漬した。第二組の多数浴は、410℃での溶融NaNO3浴の第1の浴、その後の、410℃での溶融KNO3浴の第2の浴からなった。ガラスサンプルは、10時間に亘り第1の(NaNO3)浴中に浸漬し、次いで、10分間に亘り第2の(KNO3)浴中に浸漬した。
【0035】
比較のために、ソーダ石灰ガラスについての亀裂発生閾値を、イオン交換前と、8時間に亘る410℃でのKNO3浴中のイオン交換後に測定した。
【0036】
亀裂発生閾値は、異なる組成物について、イオン交換の前後にし、図2にプロットされている。比較のために、ソーダ石灰ガラス(図2のSLS)について、亀裂発生閾値を、イオン交換前と、8時間に亘る410℃のKNO3浴中のイオン交換後に測定した。ガラスの一段階イオン交換は、損傷抵抗において、約3倍の改善を提供した。前述した二段階イオン交換プロセスでは、亀裂形成が観察される前に、10,000g重ほど高い荷重の使用が可能であった。
【0037】
実施例2
第2のイオン交換工程の効果が、表3のデータに示されており、この表には、異なるイオン交換(IX)手法後の1mm厚のアルカリアルミノホウケイ酸ガラスサンプルについて測定した層の深さ(DOL)および圧縮応力(CS)が列記されている。表3に列記されたサンプルの組成は、i)65.7モル%のSiO2;12.3モル%のAl23;9.1モル%のB23;5モル%のLi2O;6.6モル%のNa2O;1.3モル%のK2O;0.1モル%のSnO2;および0.15のCeO2;ii)65.7モル%のSiO2;10.3モル%のAl23;12.1モル%のB23;4.6モル%のLi2O;6.2モル%のNa2O;1.1モル%のK2O;0.1モル%のSnO2;および0.15のCeO2;およびiii)57.9モル%のSiO2;12.1モル%のAl23;18.1モル%のB23;4.6モル%のLi2O;6.2モル%のNa2O;1.1モル%のK2O;0.1モル%のSnO2;および0.15のCeO2
【0038】
各組成のサンプルの第一組を、5時間に亘る、80質量%のKNO3および20質量%のNaNO3を含有する390℃の溶融塩浴中の浸漬によって、一段階プロセスにおいてイオン交換した。二段階イオン交換は、5時間に亘る、80質量%のKNO3および20質量%のNaNO3を含有する390℃の溶融塩浴中の浸漬、その後の、1時間に亘る、410℃での溶融KNO3浴中の浸漬からなった。上述した方法による第2のイオン交換浴中の浸漬により、全てのサンプルの圧縮応力が増加した。
【0039】
各組成のサンプルの第二組を、5時間に亘る、60質量%のKNO3および40質量%のNaNO3を含有する390℃の溶融塩浴中の浸漬によって、一段階プロセスにおいてイオン交換した。二段階イオン交換は、5時間に亘る、60質量%のKNO3および40質量%のNaNO3を含有する390℃の溶融塩浴中の浸漬、その後の、1時間に亘る、410℃での溶融KNO3浴中の浸漬からなった。上述した方法による第2のイオン交換浴中の浸漬により、全てのサンプルの圧縮応力が増加した。
【表3】
【0040】
イオン交換前と、一段階と二段階のイオン交換プロセス後のアルカリアルミノホウケイ酸ガラスの強度も、1mm厚のガラスサンプルの研磨表面で行ったリング・オン・リング測定を使用して測定した。全てのサンプルは、65.7モル%のSiO2;10.3モル%のAl23;12.1モル%のB23;4.6モル%のLi2O;6.2モル%のNa2O;および1.1モル%のK2Oを含んだ。イオン交換前のサンプルの測定したリング・オン・リング強度は、131±45MPaであった。6時間に亘る、60質量%のKNO3および40質量%のNaNO3を含有する390℃の溶融塩浴中一段階イオン交換により、491±108MPaのリング・オン・リング強度が生じた。6時間に亘る、60質量%のKNO3および40質量%のNaNO3を含有する390℃の溶融塩浴中の浸漬、その後の、1時間に亘る、410℃での溶融KNO3浴中の浸漬からなる二段階イオン交換により、647±215MPaのリング・オン・リング強度が生じた。それゆえ、上述した方法による二段階イオン交換プロセスにより、一段階プロセスよりも、リング・オン・リング強度が約30%増加した。
【0041】
実施例3
電子顕微鏡分析を使用して、上述した方法にしたがって実施した二段階イオン交換プロセス後のアルカリアルミノホウケイ酸ガラスのサンプル中のNa2OおよびK2O濃度を調査した。図3aは、第1のイオン交換工程(5時間に亘る、390℃の溶融NaNO3塩浴中の浸漬)後の、電子顕微鏡分析により決定されたNa2O濃度プロファイルをプロットしたグラフである。図3bは、第2のイオン交換工程(a)0分間(すなわち、一段階イオン交換に相当する);b)10分間;c)20分間;およびd)60分間:に亘る、410℃の溶融KNO3塩浴中の浸漬)後の、電子顕微鏡分析により決定されたK2O濃度プロファイルをプロットしたグラフである。Na+イオンおよびK+イオンの濃度は、図3aおよび3bに示される、それぞれ、Na2OおよびK2O濃度に対応する。ガラス表面上のK+濃度およびNa+濃度は圧縮応力に関連するのに対して、これらのイオンがガラス中に拡散する距離は、圧縮層の層の深さに関連する。前述したように、二段階プロセスの第1の工程(図3a)は、深い層の深さを生じるのに対し、第2の工程(図3b)は、高い圧縮応力のガラスを提供する浅い層を加える。第2の工程が続行できる時間は、K+表面濃度、それゆえ、最終的に達成できる圧縮応力レベルを決定付ける。例えば、895MPaの表面圧縮応力がサンプルd(図3b)に観察され、このサンプルは、60分間に亘り第2のKNO3浴中でイオン交換された。
【0042】
説明の目的のために、一般的な実施の形態を述べてきたが、先の説明は、本開示または付随の特許請求の範囲への制限と考えるべきではない。したがって、本開示の精神および範囲または付随の特許請求の範囲から逸脱せずに、様々な改変、適用、および代替例が当業者に想起されるであろう。
【符号の説明】
【0043】
100 強化されたガラス板
110 第1の表面
112,122 圧縮層
115 中央部分
120 第2の表面
図1
図2
図3a
図3b