【文献】
伊藤正江,河合清,昆布の茹で調理時におけるヨウ素の溶出に関する研究,ヨウ素,2007年,No.10,Page.(JA)105,(EN)105-106
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
未処理褐藻類原料を細断後、90℃〜100℃の熱水により90秒〜300秒間加熱処理を行い、得られた加熱処理済み褐藻類を60%〜100%濃度の含水エタノールを用いて抽出することを特徴とする、褐藻類中の色素成分を保持した状態でヨウ素を低減化させてなる褐藻類抽出物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上述したように、本発明は、未処理褐藻類原料を細断後、90℃〜100℃の熱水により90秒〜300秒間加熱処理を行うことを特徴とする褐藻類中の色素成分を保持した状態でヨウ素を低減化させてなる褐藻類の製造方法である(第一工程)。
【0016】
本発明の原料として使用できる褐藻類は特に限定されない。褐藻類は不等毛植物門褐藻綱に属する海藻であり、下記の海藻が含まれる。すなわち、しおみどろ目しおみどろ科アキネトスポラ属の
Ectocarpus filamentosus、
Ectocarpus ugoensis、アステロネマ属のたまがたしおみどろ、
Ectocarpus breviarticulatus、
Feldmannia breviarticulata、
Hincksia breviarticulata、しおみどろ属のけなししおみどろ、
confervoides、つむがたしおみどろ、ちゃぼしおみどろ、しおみどろ、ひめみるしおみどろ、えぞしおみどろ、フェルドマニア属のなんかいしおみどろ、
Ectocarpus formosanus、みるしおみどろ、
Ectocarpus irregularis、
Ectocarpus izuensis、ヒンクシア属の
Ectocarpus granulosus、
Giffordia granulosa、ながみしおみどろ、
Ectocarpus indicus、
Feldmannia indica、
Giffordia indica、たわらがたしおみどろ、
Ectocarpus mitchellae、
Giffordia mitchellae、
Ectocarpus ovatus、
Giffordia ovata、
Ectocarpus sandrianus、
Giffordia sandriana、ラミナリオコラックス属のわかめやどりみどろ、
Gononema aecidioides、
Streblonema aecidioides、ラミナリオネマ属、かぎしおみどろ属のかぎしおみどろ、やどりみどろ属のこぶやどりみどろ、ぴらえら科みなみしおみどろ属のみなみしおみどろ、ぴらえら属のぴらえら、いそぶどう科いそぶどう属のいそぶどう、
micromora、
Sorocarpus uvaeformis、きたしおみどろ属のきたしおみどろ、
Ectocarpus intricatus、
Ectocarpus iwadatensis、
Ectocarpus recurvatus、いそがわら目にせいしのかわ科にせいしのかわ属のにせいしのかわ、いそがわら科まつも属のいとまつも、ぐんじまつも、
Chordaria gunjii、まつも、
Heterochordaria abietina、くろはんもん属のくろはんもん、きんいろはんもん属のきんいろはんもん、ハパロスポンギディオン属の
Mesospora schmidtii、いしつきごびあ属のいしつきごびあ、
Gobia saxicola、
Saundersella saxicola、いそがわら属のいそがわら、いそいわたけ(いそはんもん,はんもんそう)、うすばおおき目うすばおおぎ科うすばおおぎ属のうすばおおぎ、くろがしら目くろがしら科くろがしら属のはねぐんせんくろがしら、ほそぐんせんくろがしら、よつでくろがしら、わいじがたくろがしら、ひじきのくろがしら、にっぽんまたざきくろがしら、こもんくろがしら、
tenuis、ながぐんせんくろがしら、はねくろがしら、みつでくろがしら、
apicalis、
caespitosa、じゅうたんくろがしら、
furcigera、ぎんあんくろがしら、えちごくろがしら、
linearis、
sessilis、みつまたくろがしら、またざきくろがしら、ほそえくろがしら、
divaricata、
f. japonica、
shiiyaensis、
viridis、ぐんせんくろがしら、つくばねくろがしら、なしのみくろがしら、くびれくろがしら、かしらざき科かしらざき属のかしらざき、えぞかしらざき属のえぞかしらざき、あみじぐさ目あみじぐさ科やはずぐさ属のえぞやはず、おおばやはず、やはずぐさ、りぼんやはず、すじやはず、うらぼしやはず、
membranacea、へらやはず、うすばやはず、ひめやはず、しわやはず、あみじぐさ属のおおまたあみじ、とげあみじ、あみじぐさ、さきびろあみじ、かずのあみじ、はいあみじぐさ、いとあみじ、おおばあみじぐさ、こもんあみじ、へらあみじぐさ、はりあみじぐさ、ふたえおおぎ属のふたえおおぎ、
Chlanidophora repens、
Chlanidote decumbens、やれおおぎ属のやれおおぎ、はいおおぎ属のはいおおぎ、
Gymnosorus collaris、
Pocockiella variegata、さなだぐさ属のさなだぐさ、うみうちわ属のうみうちわ、うすばうみうちわ、あかばうみうちわ、こなうみうちわ、しまめうみうちわ、おきなうちわ、こがねうみうちわ、うすゆきうちわ、もふぃっとうみうちわ、おきなわうみうちわ、りゅうきゅううみうちわ、えつきうみうちわ、つちいろうみうちわ、しわうみうちわ、にせあみじ属のふくりんあみじ、
Dilophus okamurae、
Dilophus marginatus、こもんぐさ属のあつばこもんぐさ、
variabile sensu Yendo、ひろはこもんぐさ、こもんぐさ、ほそばこもんぐさ、
solieri sensu Yendo、じがみぐさ属のじがみぐさ、
lobatum、しまおおぎ属のしまおおぎ、えつきしまおおぎ、ながまつも目にせもずく科にせもずく属のきたにせもずく、にせもずく、ながまつも科ながまつも属のひもながまつも、ながまつも、ほそまつも、おきなわもずく属のおきなわもずく、
Eudesme virescens sensu Okamura、きしゅうもずく、にせふともずく属のにせふともずく、からふともずく属のからふともずく、ふさもずく属のふさもずく、くろも属のくろも、
Myriocladia kuromo、もつきちゃそうめん属のもつきちゃそうめん、
Gobia simplex、くろもずく属のくろもずく、いしもずく属のいしもずく、
japonica、おけさもずく、
Castagnea divaricata、くさもずく、
Chordaria firma、ふともずく属のふともずく、
Eudesme crassa、なみまくら科なみまくら属のすぎもくのなみまくら、まるがたごのけのり、
Gonodia orbicularis、なみまくら、
fucicola sensu Okamura、
globosa Takamatsu、ひるなみまくら、
crassa、
flaccida auct. Japon.、
sadoensis、ほそなみまくら、そめわけぐさ属のそめわけぐさ、ひなのそめわけぐさ、
tortuosa、なみまくらもどき属のなみまくらもどき、ねばりも科いそぐるみ属のいそぐるみ、ねばりも属のえだうちねばりも、ねばりも、なんきんねばりも、いとねばりも、ひなねばりも、おけさねばりも、いわねばりも、
granulosa、ひめねばりも属のひなねばりも、ひめねばりも、こごめねばりも属のこごめねばりも、ミリアクチュラ属のごのけのり、もくのつゆ、しわのかわ科しわのかわ属のしわのかわ、
Cylindrocarpus rugosus、ミリオネマ科コンプソネマ属のもくのはりも、ヘカトネマ属のそろいへかとねま、へかとねま、ミクロスポンギウム属の
Myrionema globosum、ミリオネマ属のみりおねま、むかししおみどろ属のむかししおみどろ、てんいこんぷそねま、もずく科もずく属のもずく、ひもまくら属のひもまくら、
rhizodes、ういきょう目こもんぶくろ科こもんぶくろ属のこもんながぶくろ、
turneri、きたいわひげ属のきたいわひげ、
Myelophycus intestinalis、えぞぶくろ科えぞふくろ属のほそえぞぶくろ、えぞふくろ、
cystoseirae sensu Yendo、にせかやも科にせかやも属のにせかやも、シチャポビア属、ういきょうも科ういきょうも属のふとばういきょうも、ういきょうも、
hippuroides、はばもどき科こぶのひげ属のこぶのひげ、
Litosiphon yesoense、はばもどき属のちしまはばもどき、おおばはばもどき、うすばはばもどき、はばもどき、ごあんめ、がさがさはばもどき、
chartacea sensu Umezaki、ひだはばもどき、けぶかはばもどき、はばだまし、
rubescens sensu Yendo、ゆるじはばもどき、いそひげも属のいそひげも、よこじまのり科おしょろぐさ属のおしょろぐさ、さめずぐさ属のさめずぐさ、
Kjellmania arasakii、よこじまのり属のよこじまのり、かやものり目むらちどり科むらちどり属のむらちどり、ぼうがたむらちどり、
pacifica、かやものり科ふくろのり属のわたも、
sinuosa f. deformans、うすかわふくろのり、ほそくびわたも、ふくろのり、かごめのり属のかごめのり、ほそかごめのり、いわひげ属 のうつろいわひげ、いわひげ、
caespitosus、せいようはばのり属のはばのり、
Endarachne binghamia、せいようはばのり、
Ilea fascia、ほそばのせいようはばのり、もさくだふくろ属のもさくだふくろ、かやものり属のかやもどき、うすかやも、かやものり、ひらかやも、むちも目むちも科むちも属のけべりぐさ、むちも、ひらむちも、けやりも目けやりも科いちめがさ属のいちめがさ、
cabrerae、うみぼっす属のうみぼっす、けやり属のけやり、
scoparius、うるしぐさ目うるしぐさ科うるしぐさ属のうるしぐさ、たばこぐさ、けうるしぐさ、こんぶ目こんぶもどき科こんぶもどき属のこんぶもどき、ちがいそ科あいぬわかめ属のほそばわかめ、ちがいそ、ふうちょうわかめ、
Pleuropterum paradiseum、あいぬわかめ、くしろわかめ、おにわかめ属のおにわかめ、わかめ属のあおわかめ、わかめ、ひろめ、つるも科つるも属のつるも、
Chora filum auct. japon.、あなめ属のあなめ、
cribrosum、おおのあなめ、すじめ属のすじめ、こんぶ科かじめ属のかじめ、くろめ、つるあらめ、あんとくめ属のあんとくめ、かじめ属のさがらめ、あらめ、ねこあしこんぶ属のねこあしこんぶ、みすじこんぶ属のあつばすじこんぶ、
crassifolia sensu Miyabe et Nagai、ごへいこんぶ属のごへいこんぶ、こんぶ属のみついしこんぶ、
Laminaria angustata、ちぢみこんぶ、
Laminaria cichorioides、がっがらこんぶ、
Laminaria coriacea、おにこんぶ、
Laminaria diabolica、とろろこんぶ、
Laminaria gyrata、
Kjellmaniella gyrata、まこんぶ、
Laminaria japonica、あつばすじこんぶ、
Cymathaere japonica Miyabe et Nagai、からふとこんぶ、
Laminaria saccharina、えながこんぶ、
Laminaria longipepedalis、ながこんぶ、
Laminaria longissima、りしりこんぶ、
Laminaria ochotensis、ほそめこんぶ、
Laminaria religiosa、がごめこんぶ、
Kjellmaniella crassifolia、
Saccharina crassifolia、えんどうこんぶ、
Laminaria yendoana、くろしおめ属のくろしおめ、
Hedophyllum kuroshioense、にせつるも科にせ
つるも属のほそつるも、にせつるも、
Chordaria nagaii、いしげ目いしげ科いしげ属のいしげ、いろろ、
foliacea、ひばまた目ひばまた科ひばまた属のひばまた、
evanescens、えぞいしげ属のえぞいしげ、
Pelvetia babingtonii、
Pelvetia wrightii、ほんだわら科すぎもく属のすぎもく、うがのもく属のねぶともく、
Cystophyllum crassipes、えぞもく、
Cystophyllum geminatum、うがのもく、
Cystophyllum hakodatense、やばねもく属のやばねもく、
triquetra、
Cystoseira prolifera、じょろもく属のじょろもく、
yendoi、かいふもく、
Cystophyllum sisymbrioides、ひえもく、ほんだわら属のきればもく、かたわもく、すなびきもく、えちごねじもく、つくしもく、あきよれもく、ほっかいもく、たまえだもく、まじりもく、ほそばもく、
vulgare var. linearifolium sensu Yendo、ふしすじもく、あつばもく、べりべりもく、こぶくろもく、とさかもく、とげみもく、ふたえもく、ひめこもく、なんかいもく、しだもく、ほんだわら、
enerve、ひじき、
Hizikia fusiformis、おおばのこぎりもく、こなふきもく、いそもく、あかもく、ふたえひいらぎもく、しまうらもく、とさもく、しろこもく、ながみもく、のこぎりもく、
serratifolium auct. japon.、とげもく、ふしいともく、みやべもく、
kjellmanianum、たまははきもく、
kjellmanianum f. muticum、ひめはもく、
opacum、ならさも、たまなしもく、ひらねじもく、うすいろもく、やつまたもく、まめたわら、からくさもく、こばもく、たまきればもく、おおばもく、やなぎもく、ちゅらしまもく、ねじもく、ふくれみもく、ひゅうがもく、ながしまもく、
racemosum Yamada et Segi、まるばのがらも、うすばのこぎりもく、よれもく、
tortile、きしゅうもく、へらならさも、うすばもく、うみとらのお、たつくり、いとよれもく、なんきもく、あずまねじもく、よれもくもどき、えんどうもく、えながもく、えぞのねじもく、
sagamianum var. yezoense、らっぱもく属のかさもく、らっぱもく、たかつきもく、
trialata、などの褐藻類が挙げられる。本発明の方法では、あかもく、かじめ、くろめおよびこんぶが好ましく、あかもくが最も好ましい。
【0017】
本発明の方法で原料として使用する褐藻類は、収穫した後、乾燥処理を行うことなく、1m位の大きさに切断してそのまま水洗し、水切りをして速やかに使用するか、1m位の大きさに切断した褐藻類をそのまま−20℃以下で冷凍保存し、使用時に解凍して使用する。このような収穫したままの、または冷凍保存した褐藻類を、本明細書では未処理褐藻類原料と呼ぶ。乾燥処理をした乾燥品からヨウ素を低減するためには、一旦、水戻ししたものを水または熱水処理を行ってヨウ素を除去する必要があり、工程が煩雑になる。またこの手法では、海藻の種類によってヨウ素の除去効果がまちまちとなり、安定したヨウ素の低減が得られなくなり、ヨウ素低減が不十分になり、さらに乾燥過程の間に色素成分が分解する恐れがあるので好ましくない(非特許文献6参照)。
【0018】
本発明は、未処理褐藻類原料を細断処理することを必要とする。冷凍した原料の場合、流水解凍後細断する。細断は、例えば、目皿9.6mm上で1〜3cm程度の大きさにカッター等を使用して行う。細断した褐藻類を90℃以上の熱水中に加えて撹拌して熱水処理を行う。この細断および熱水処理を組み合わせることにより、効率よくヨウ素を低減できる。すなわち、細断のみで熱水処理をしない場合、または細断しないで熱水処理のみの場合のいずれも本発明の効果が得られない。熱水処理時間は、色素成分の所望の残存率およびヨウ素の所望の残存率になるように選択する。すなわち、色素成分について人が摂取するのに有用な量であって、ヨウ素が過剰摂取とならないような量を選択する。例えば、色素成分クロロフィルcの有効摂取量は乾燥重量として0.1〜100mg/日、望ましくは0.7〜0.9mg/日とされており(特許文献1段落番号[0036])、ヨウ素の摂取基準量は、2.2mg/日以下(成人)とされている(日本人の食事摂取基準2010、厚生労働省参照)ので、加熱処理終了時点でクロロフィルc/ヨウ素が0.32〜0.41以上であれば健康を害せずに有効量のクロロフィルcを摂取できる。なお、ヨウ素の摂取基準量は各国において異なり、米国では1.1mg/日(Dietary Reference Intakes(2001)、The National Akademies)、EUでは0.6mg/日(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部 食品安全情報(化学物質)No.5/2013(2013.03.06)P10)に定められている。また、色素成分フコキサンチンの場合有効摂取量は0.5〜1.0mg/日とされており(特開2008−291004号公報)、フコキサンチン/ヨウ素比が0.23〜0.45以上であれば健康を害せずに有効量のフコキサンチンを摂取できる。前記の摂取基準を達成するための処理時間は、例えば、0.5分〜5分、より好ましくは、1.5分〜5分である。0.5分未満だとヨウ素を十分に低減できない。一方、5分を超えると色素成分の分解がすすみ、本発明の効果を得ることができない。熱水の温度は90℃〜100℃が好ましい。90℃未満だと、ヨウ素が十分に溶出しないため好ましくない。熱水の使用量は、処理する褐藻類の5倍量以上が望ましい。5倍量未満の場合でも、ヨウ素の低減が不十分となる。
【0019】
このように、本発明では、褐藻類を細断後90℃以上の熱水中に加えて撹拌して熱水処理を行っても色素成分は分解されないことが見出された。これに関連し、褐藻類に存在する色素成分であるクロロフィルcに構造が類似するものにクロロフィルa、b、dがあり、熱に対する安定性はその構造により異なる。その構造を下記に示す。
【0021】
熱に対する安定性は、ポルフィリン骨格にCHO−基をもつクロロフィルbやdは安定であるのに対し、ポルフィリン骨格にCHO−基をもたないクロロフィルaは不安定であることが知られている(Chem.Biodiver.Vol.9、1659〜1683、2012)。したがって、クロロフィルcは、クロロフィルaと同様にポルフィリン骨格にCHO−基をもたないので、熱に対して不安定であると予測できる。それにもかかわらず、驚いたことに、褐藻類を熱水処理しても、緑色野菜中に存在する熱安定性の高いクロロフィルbと同等以上に安定であることが見出された。すなわち、100℃で5分間加熱時のクロロフィル残存率が春菊で90%程度、サヤエンドウで92%程度、ホウレンソウで85%程度、グリンピースで70%程度と報告されているのに対し(調理科学、Vol.9No2、53〜58頁(1976))、90℃以上の熱水中で処理した褐藻類アカモクは95%以上の残存率であった。
【0022】
上述したように、未処理褐藻類中のヨウ素は、細断および熱水処理を組み合わせることにより、効率よくヨウ素を低減できる。いずれかの処理をしない場合、ヨウ素の低減が十分でない。
【0023】
さらに具体的に第一工程を説明する。
上記のように保存しておいた未処理褐藻類(水分含量90重量%)を流水解凍後、1〜3cm程度の大きさに細断(目皿9.6mm上)する。得られた細断物を90℃〜100℃の熱水中に加えて、90秒〜300秒ゆるやかに攪拌する。その後、処理した褐藻類を取り出し、10℃以下の冷水中に浸漬して、冷却・水洗を行う。水洗後、回収した褐藻類を遠心脱水し、乾燥する。所望に応じ、得られた乾燥褐藻類を所望の寸法、例えば、200メッシュ以下程度に粉砕することで褐藻類粉末を得る。
【0024】
上記製造方法により得られた褐藻類粉末は、未処理海藻と比較してヨウ素含量を90%以上低減することができ、かつ色素成分は殆ど分解されないで残留させることができる。
さらに、本発明は、上述のようにして得られた加熱処理済み褐藻類を60%〜100%濃度のエタノールを用いて抽出することを特徴とする、褐藻類中の色素成分を保持した状態でヨウ素を低減化させてなる褐藻類抽出物の製造方法にある。
【0025】
この抽出工程は、色素成分の含量を高め、ヨウ素をさらに低減させることを目的とする。エタノールの濃度は、60〜100%、好ましくは、80〜100%、最も好ましくは90%〜100である。エタノール濃度が60%未満だと色素成分の抽出液への移行率が十分でない上、ヨウ素の移行率が高く、本発明の目的を達成することができない。さらに、粘り成分が多量に抽出されてしまい、操作性が悪くなる。抽出時間および抽出温度は、ヨウ素が抽出されるのを押さえ、色素成分を十分に抽出するのに足る温度であり、例えば、抽出時間は1時間〜16時間、好ましくは、1時間〜2時間、最も好ましくは2時間であり、抽出温度は常温〜80℃、好ましくは約70℃である。
【0026】
ヨウ素(I
2)は、エタノールに溶けやすく(24g/100g、25℃)、一方、水には溶けにくい(0.029g/100mL、20℃)ことが知られている(安全データシート、昭和化学試薬情報)。アカモクなどの褐藻類に含まれるヨウ素は、I
2やHOI分子として、硫酸多糖類などにキレート化された状態で細胞の外(アポプラスト)に存在していることが報告されている(2012年 秋季藻類シンポジウム 講演要旨集 海藻資源 No.27「海藻に含まれるヨウ素やヒ素の健康への影響」)。またコンブ中には揮発性ヨウ素化合物(下式参照)が存在することが報告されている(日本食品科学工学会誌 第49巻第4号2002年 )。
【0028】
揮発性ヨウ素化合物もI
2と同じように水には溶けにくく、エタノールに溶解することから、褐藻類に含まれるヨウ素は、いずれも水やエタノールに対して似た挙動を示すと考えられる(安全データシート(純正化学)、試薬情報(メルク))。したがって、これらの公知情報からヨウ素はエタノールに溶けやすく、容易にエタノールにより抽出されることが予測される。それにもかかわらず、驚いたことに、本発明では、60%〜100%濃度のエタノール中でヨウ素は抽出されにくいということが見出された。
【0029】
理論に拘束されることを好まないが、褐藻類中のヨウ素は、水溶性の多糖類にキレートされた状態で存在しているため、高濃度のエタノールでは、多糖類が妨害してヨウ素が溶けにくくなっていることが考えられる。
【0030】
さらに具体的に第二工程を説明する。
第一工程で得られた褐藻類抽出物末を60%〜100%エタノール濃度の所定温度(例えば、70℃)の抽出液を加えて所定時間(例えば、1〜2時間)にわたって攪拌抽出をする。抽出後、濾過により残渣を除去して抽出液を回収し、これを減圧乾燥することで褐藻類抽出物を得る。必要に応じて,前記回収物に賦形剤を投入してから減圧乾燥して粉末状にすることができる。
【0031】
上記のようにして第二工程で回収された抽出エキス粉末は、100g当たり50mg以上のクロロフィルcを含有し、より好ましい態様においては100mg以上の色素成分を含有している。一方、ヨウ素含量は100g当たり100mg以下に低減することができ、これによりクロロフィルc/ヨウ素比が0.32以上の抽出エキス粉末を得ることができる。なお、クロロフィルcおよびフコキサンチンは、HPLC法により定量測定することが出来る。また、ヨウ素は、ガスクロマトグラフ法などにより定量測定することができる。
【0032】
このように、本発明の抽出方法により、第一工程を経た褐藻類または褐藻類粉末中に残っている過剰のヨウ素を抽出することなく、効率よく色素成分を抽出することができる。
本発明は、上記の方法により得られた褐藻類または褐藻類抽出物にも関する。これらの褐藻類または褐藻類抽出物は、そのまま、または適切な添加剤を添加していろいろな形態にして飲食品等として使用することができる。その形態は特に限定されない。例えば、粉末剤、顆粒剤、錠剤、シロップ剤、散剤、懸濁剤などが挙げられる。上記製剤は、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、着色剤等の添加剤を含んでいても良い。賦形剤としては例えば乳糖、ブドウ糖、コーンスターチ、ソルビット、結晶セルロースなどが、崩壊剤としては例えばデンプン、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン末、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、デキストリンなどが、結合剤としては例えばジメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、メチルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが、滑沢剤としては例えばタルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、硬化植物油などがそれぞれ挙げられる。
【0033】
本発明の製剤は、その剤型に応じて異なるが、通常全製剤中にクロロフィルcやフコキサンチンのような色素成分が乾燥重量として0.1〜100mg程度含まれている。
摂取量は使用者の年齢、体重、性別、体調などを考慮して、個々の場合に応じて適宜決定され、1日1回又は数回に分けて摂取すればよい。例えば、一日当たり、クロロフィルcが乾燥重量として0.1〜100mg、クロロフィルcを活性成分として含む藻類粉末または藻類抽出物は0.1g〜10g、好ましくは1g〜3g程度摂取すればよい。フコキサンチンの場合は、使用量は、使用方法、使用者の体調、年齢等によって変化し得るが、大人では、通常、1日当たり有効成分として5〜200mg、子供では通常0.5〜100mg程度使用することができる(特開2008−291004号公報)
本発明の褐藻類または褐藻類抽出物をそのまま、または当該褐藻類または褐藻類抽出物を加工食品に添加することによって、当該食品を脱顆粒抑制活性、アレルギー抑制活性、変形性関節症抑制活性の有する機能性飲食品にすることができるが、対象となる飲食品の種類は、活性成分であるクロロフィルcの脱顆粒抑制作用、アレルギー抑制作用、変形性関節症抑制作用が阻害されないものであれば特に限定されない。フコキサンチンの場合は、飲食品、化粧品、動物用飼料等に含有させることができる(特開2008−291004号公報、特開2010−275265号公報、特開2012−224602号公報)。
【0034】
加工食品の例として、例えば、菓子・パン類;穀粉・麺類;水産加工品;農産・林産加工食品;畜産加工品;乳・乳製品;油脂・油脂加工品;酒類;飲料;調味料;調理冷凍食品;レトルト食品;インスタント食品;魚介せんべいなどの調味乾燥品;魚卵塩蔵品などの塩蔵品;甘露煮、しぐれ煮、角煮などの佃煮;焼き加工品;茹で加工品;魚介味噌などの調味加工品;蒸しかまぼこ、焼きかまぼこ、揚げかまぼこ、茹でかまぼこ、風味かまぼこ、包装かまぼこ、細工かまぼこ、燻製かまぼこなどのかまぼこ;醤油漬、味噌漬、粕漬、酢漬、麹漬などの漬け物;かつお塩辛、うに塩辛、いか塩辛などの塩辛;缶詰;瓶詰;魚醤油;エキス製品などが挙げられる。
【0035】
本発明の飲食品は、健康飲食品、健康補助飲食品、特定保健用食品、栄養機能食品、等を含む。ここで、特定保健用食品とは、食生活において特定の保健の目的で摂取をし、その摂取により当該保健の目的が期待できる旨の表示をする飲食品をいう。これらの飲食品には、例えば、アレルギーの症状を緩和する、花粉症の症状を緩和する、アトピー性皮膚炎の症状を緩和する、変形性関節症の症状を緩和する、アレルギーが気になる方の食品、変形性関節症が気になる方の食品などの表示が付されていてもよい。フコキサンチンの場合は、メタボリック対応、生体内抗酸化、美容食品素材、化粧品素材などの表示が付されていてもよい。
【0036】
本発明の褐藻類または褐藻類抽出物をそのまま、または当該褐藻類または褐藻類抽出物を飼料またはペットフードに添加することによって、当該飼料またはペットフードを脱顆粒抑制活性、アレルギー抑制活性、変形性関節症抑制活性を有する飼料またはペットフードにすることができるが、対象となる飼料またはペットフードの種類は、活性成分であるクロロフィルcの脱顆粒抑制作用、アレルギー抑制作用、変形性関節症抑制作用が阻害されないものであれば特に限定されない。
【0037】
本発明の飼料またはペットフードは、牛、豚、鶏等の家畜・家禽用飼料、甲殻類や魚介類等の養殖用飼料であってもよいし、犬、猫、ハムスター、リス等の愛玩動物用ペットフードであってもよく、特に限定されない。本発明の飼料またはペットフードの形態は特に限定されることはなく、例えばペレットタイプ、クランブルタイプ、フレークタイプ、バルキータイプ、ドライタイプ、ウェットタイプ、セミモイストタイプ、ビスケットタイプ、ソーセージタイプ、ジャーキータイプ、粉末タイプ、顆粒タイプ、カプセルタイプなどが挙げられる。
【実施例】
【0038】
以下に実施例を記載して本発明をさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例によって、本発明の範囲は限定的に解釈されるべきでない。
(クロロフィルcおよびフコキサンチン含量の測定)
検量線を基に、上記抽出エキス中のクロロフィルcおよび/またはフコキサンチン含量を下記HPLC条件にて定量し、海藻加工品、海藻加工粉末および抽出エキス粉末中のクロロフィルcおよびフコキサンチンを算出した。
<HPLC条件>
ポンプ:2695 Separations Module(日本ウォーターズ株式会社)
検出器:2998 Photodiode Array Detector(日本ウォーターズ株式会社)
カラム:X Bridge BEH300 C183.5μm 4.6×150mm カラム(日本ウォーターズ株式会社)
移動相:90%アセトニトリル/80%メタノール0.1M酢酸アンモニウム溶液/酢酸エチル
流速:1mL/min
カラム温度:30℃
検出波長:450nm
(ヨウ素の定量)
ヨウ素の定量は、ガスクロマトグラフ法(6890N(Agilent Technologies Company))で実施した。検出限界は0.5ppmであった。
(実施例1)
(第一工程における熱水処理工程)
収穫したアカモクそのままを−20℃以下で冷凍し、保存した未処理アカモク(水分含量90重量%)100gを流水解凍後、目の大きさ9.6mmの目皿上で1〜3cm程度の大きさ細断した。得られた細断物を90℃以上の熱水1000mL撹拌しながら、0.5分、1.5分、3分、5分、10分、20分、30分間にわたって、熱水加熱処理に付した。得られた熱水処理後のアカモクを室温に冷却し、10℃以下の真水1000mLに浸漬して5分間冷却・水洗した後、アカモクを回収し、遠心分離器で9分間脱水し、70℃で6時間乾燥させた。その後、200メッシュ以下程度に粉砕することでアカモク加工粉末を得た。当該アカモク加工粉末のクロロフィルc、フコキサンチンおよびヨウ素を測定し、未処理アカモクの数値を100としたときの残存率を
図1に示した。また、各試験群のクロロフィルc/ヨウ素比を表1に示した。
【0039】
【表1】
【0040】
(結果)
図1より、実施例1における海藻加工品のクロロフィルcの残存率は、未処理海藻100に対して熱水処理0.5〜5分では80%以上であった。しかし、10分以上でクロロフィルcの残存率は減少し始め、熱水処理30分で40%以下となった。フコキサンチンについても同様の傾向が認められたため、色素成分を維持するための最適処理時間は5分以内であることが分かった。
【0041】
一方、ヨウ素の残存率は、未処理海藻100に対して熱水処理0.5分で40%以下となり、さらに1.5分以上の処理で10%前後に大きく減少した。
以上のことから、第一工程の熱水処理工程において、1.5〜5分間の熱水処理によって、色素成分含量を維持したままヨウ素を大幅に減少することが明らかとなった。
【0042】
さらに、クロロフィルcの有効摂取量0.7mg/日およびヨウ素の摂取基準2.2mg/日から算出したクロロフィルc/ヨウ素比0.32を基に、上記の1.5〜5分間の熱水処理での数値を算出すると、1.2以上になることが明らかとなった。
【0043】
したがって、本発明の方法(第一工程)を用いれば、ヨウ素が低減され、かつ機能性を有する色素成分を含む褐藻類を簡便に製造することができる。
(実施例2)
(第二工程における抽出処理工程)
抽出処理工程では、第一工程で得られたアカモク加工粉末10gを0〜100%の含水エタノール各50mLに加え、70℃の加温で2時間抽出処理した。抽出後、ろ紙濾過で除去した残渣を回収し、残渣に含まれるクロロフィルc、フコキサンチンおよびヨウ素を測定した。10℃以下の冷水で冷却・洗浄した。その後、脱水したアカモク加工品抽出物のクロロフィルc、フコキサンチンおよびヨウ素を測定した。アカモク加工粉末抽出物のクロロフィルc、フコキサンチンおよびヨウ素を100としたときの、抽出液への移行率を
図2に示した。また、各試験群のクロロフィルc/ヨウ素比を表2に示した。
【0044】
【表2】
【0045】
(結果)
図2より、実施例2における抽出液へのクロロフィルcの移行率は、海藻加工粉末100に対してエタノール濃度60〜100%では80%以上であった。しかし、エタノール濃度40%以下になると移行率が40%以下に減少し、抽出効率が大きく低下することが分かった。また、フコキサンチンも同様にエタノール濃度60〜100%での抽出により効率よく回収できることが分かった。
【0046】
一方、ヨウ素の抽出液移行率は、海藻加工粉末100に対してエタノール濃度が90%で移行率27.5%、エタノール濃度100%で1.2%となった。これに対し、エタノール濃度60〜80%では移行率50%となり、色素成分と共にヨウ素も抽出していることが分かった。低濃度のエタノールを用いた場合でもクロロフィルc/ヨウ素比は0.32以上であるものの、粘り成分である多糖類も抽出されるため操作性が非常に悪く、本発明の方法には適していないことが分かった。
【0047】
以上のことから、第二工程の抽出処理工程において、60〜100%エタノールを用いることによって、ヨウ素がエタノールで抽出されるのを抑え、かつ色素成分を効率良く抽出できることが明らかとなった。
【0048】
従って、本発明を用いれば、ヨウ素が低減され、かつ機能性を有する色素成分を高濃度に含む褐藻類抽出エキス粉末を簡便に製造することができる。
【解決手段】未処理褐藻類原料を細断後、90℃〜100℃の熱水により90秒〜300秒間加熱処理を行うことを特徴とする褐藻類中の色素成分を保持した状態でヨウ素を低減化させてなる褐藻類の製造方法。さらに、前記で得られた褐藻類を60%〜100%濃度の含水エタノールを用いて抽出することを特徴とする、褐藻類中の色素成分を保持した状態でヨウ素を低減化させてなる褐藻類抽出物の製造方法。