特許第5890908号(P5890908)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5890908固体酸化物形燃料電池用電解質シート、電解質支持型セル、固体酸化物形燃料電池用単セル及び固体酸化物形燃料電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5890908
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】固体酸化物形燃料電池用電解質シート、電解質支持型セル、固体酸化物形燃料電池用単セル及び固体酸化物形燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/02 20160101AFI20160308BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20160308BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20160308BHJP
   C04B 35/48 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
   H01M8/02 K
   H01M8/02 E
   H01M8/12
   H01B1/08
   C04B35/48 B
【請求項の数】20
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2014-538196(P2014-538196)
(86)(22)【出願日】2013年9月26日
(86)【国際出願番号】JP2013005745
(87)【国際公開番号】WO2014050124
(87)【国際公開日】20140403
【審査請求日】2015年2月25日
(31)【優先権主張番号】特願2012-212017(P2012-212017)
(32)【優先日】2012年9月26日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-213794(P2012-213794)
(32)【優先日】2012年9月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-213795(P2012-213795)
(32)【優先日】2012年9月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【弁理士】
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】秦 和男
(72)【発明者】
【氏名】西川 洋平
(72)【発明者】
【氏名】相川 規一
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−340240(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/094098(WO,A2)
【文献】 特開2011−79723(JP,A)
【文献】 特開平6−107462(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
C04B 35/48
H01B 1/08
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質成分を含み、
前記電解質成分が、酸化スカンジウム(Sc)及び酸化セリウム(CeO)で安定化され、かつ、0.003モル%以上0.5モル%未満の希土類酸化物を含むジルコニア系酸化物で構成されており、
前記希土類酸化物は、Sc及びCeを除く希土類元素から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物である、
固体酸化物形燃料電池用電解質シート。
【請求項2】
前記ジルコニア系酸化物は、8モル%以上15モル%以下の酸化スカンジウム(Sc)及び0.5モル%以上2.5モル%以下の酸化セリウム(CeO)を含む、
請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質シート。
【請求項3】
前記希土類酸化物が、Y、Sm、Gd及びYbからなる群から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物である、
請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質シート。
【請求項4】
前記ジルコニア系酸化物が、前記希土類酸化物として、0.003モル%以上0.2モル%以下の酸化ガドリニウム(Gd)を含む、
請求項3に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質シート。
【請求項5】
前記ジルコニア系酸化物が、前記希土類酸化物として、0.003モル%以上0.2モル%以下の酸化イットリウム(Y)をさらに含む、
請求項4に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質シート。
【請求項6】
電解質成分を含み、
前記電解質成分が、酸化スカンジウム(Sc)で安定化され、かつ、0.003モル%以上0.5モル%未満の希土類酸化物を含むジルコニア系酸化物で構成されており、
前記希土類酸化物は、Scを除く希土類元素から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物である、
固体酸化物形燃料電池用電解質シート。
【請求項7】
前記ジルコニア系酸化物は、4モル%以上15モル%以下の酸化スカンジウム(Sc)を含む、
請求項6に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質シート。
【請求項8】
前記希土類酸化物が、Y、Ce、Sm、Gd及びYbからなる群から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物である、
請求項6に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質シート。
【請求項9】
燃料極と、空気極と、前記燃料極と前記空気極との間に配置された請求項1又は6に記載の固体酸化物形燃料電池用電解質シートと、を備えた電解質支持型セル。
【請求項10】
燃料極と、空気極と、前記燃料極と前記空気極との間に配置された固体電解質層とを備え、
前記燃料極、前記空気極及び前記固体電解質層から選ばれる少なくとも何れか1つが、酸化スカンジウム(Sc)及び酸化セリウム(CeO)で安定化され、かつ、0.003モル%以上0.5モル%未満の希土類酸化物を含むジルコニア系酸化物を電解質成分として含み、
前記希土類酸化物は、Sc及びCeを除く希土類元素から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物である、
固体酸化物形燃料電池用単セル。
【請求項11】
前記ジルコニア系酸化物は、8モル%以上15モル%以下の酸化スカンジウム(Sc)及び0.5モル%以上2.5モル%以下の酸化セリウム(CeO)を含む、
請求項10に記載の固体酸化物形燃料電池用単セル。
【請求項12】
前記希土類酸化物が、Y、Sm、Gd及びYbからなる群から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物である、
請求項10に記載の固体酸化物形燃料電池用単セル。
【請求項13】
前記ジルコニア系酸化物が、前記希土類酸化物として、0.003モル%以上0.2モル%以下の酸化ガドリニウム(Gd)を含む、
請求項12に記載の固体酸化物形燃料電池用単セル。
【請求項14】
前記ジルコニア系酸化物が、前記希土類酸化物として、0.003モル%以上0.2モル%以下の酸化イットリウム(Y)をさらに含む、
請求項13に記載の固体酸化物形燃料電池用単セル。
【請求項15】
燃料極と、空気極と、前記燃料極と前記空気極との間に配置された固体電解質層とを備え、
前記燃料極、前記空気極及び前記固体電解質層から選ばれる少なくとも何れか1つが、酸化スカンジウム(Sc)で安定化され、かつ、0.003モル%以上0.5モル%未満の希土類酸化物を含むジルコニア系酸化物を電解質成分として含み、
前記希土類酸化物は、Scを除く希土類元素から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物である、
固体酸化物形燃料電池用単セル。
【請求項16】
前記ジルコニア系酸化物は、4モル%以上15モル%以下の酸化スカンジウム(Sc)を含む、
請求項15に記載の固体酸化物形燃料電池用単セル。
【請求項17】
前記希土類酸化物が、Y、Ce、Sm、Gd及びYbからなる群から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物である、
請求項15に記載の固体酸化物形燃料電池用単セル。
【請求項18】
前記固体電解質層に含まれる電解質成分が、前記ジルコニア系酸化物で構成されている、
請求項10又は15に記載の固体酸化物形燃料電池用単セル。
【請求項19】
前記燃料極及び前記空気極から選ばれる少なくとも何れか1つが、前記ジルコニア系酸化物を電極組成物の一部として含んでいる、
請求項10又は15に記載の固体酸化物形燃料電池用単セル。
【請求項20】
請求項9に記載の電解質支持型セル、又は、請求項10又は15に記載の固体酸化物形燃料電池用単セルを備えた、固体酸化物形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池用電解質シートと、それを用いた電解質支持型セルと、固体酸化物形燃料電池用単セルと、前記電解質支持型セル又は前記固体酸化物形燃料電池用単セルを備えた固体酸化物形燃料電池とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池は、クリーンエネルギー源として注目されている。燃料電池のうち、電解質に固体のセラミックを使用している固体酸化物形燃料電池(以下、「SOFC」と記載する。)は、作動温度が高いため排熱を利用でき、さらに高効率で電力を得ることができる等の長所を有しており、家庭用電源から大規模発電まで幅広い分野での活用が期待されている。
【0003】
SOFCは、基本構造として、空気極と燃料極との間にセラミックからなる固体電解質層が配置された構造を有する。SOFCでは、空気極に導入された空気中の酸素が電子を受け取って酸素イオン(O2−)となり、この酸素イオンが固体電解質層中を移動して燃料極へ到達する。燃料極に到達した酸素イオンが燃料極で水素と電気化学的に反応することによって電子が放出されて、電気出力が得られる。
【0004】
このような発電メカニズムでは、固体電解質層には、酸素イオン導電性が高いこと及び材料強度が高いこと等の特性が要求される。したがって、固体電解質層には、一般的に、イットリア(Y)が添加されたジルコニア(イットリア安定化ジルコニア(YSZ))及びスカンジア(Sc)が添加されたジルコニア(スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ))のようなジルコニア系酸化物等の焼結体が用いられている。例えば、特許文献1には、高い酸素イオン導電性及び高い材料強度に加え、安定した結晶相の実現も可能とする固体電解質層の材料が、種々提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−340240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
SOFCの燃料極に供給される燃料としては、水素だけでなく、都市ガス(主成分:メタン)を改質することで生成した水素と一酸化炭素(CO)とを含む燃料も使用可能である。都市ガスを燃料に利用する場合、水素のみを燃料として用いる場合と比較して、SOFCの耐久性が低下することが知られているが、本発明者らがさらに詳しく検討を進めたところ、ガス漏れ検知のために都市ガスに数ppm程度含まれる付臭剤としての硫黄化合物が、SOFCの固体電解質層や電極に含まれる電解質成分と反応するためか、あるいは電解質表面に沈着・付着するためにより、固体電解質層の酸素イオン導電性を低下させたり、電極の活性を低下させたりして、SOFCの耐久性を低下させる大きな要因となっていることが見出された。
【0007】
そこで、本発明は、硫黄成分を含む雰囲気に曝される場合であっても、酸素イオン導電率の経時変化を小さく抑えることが可能なSOFC用電解質シートを提供することを目的とする。さらに、本発明は、硫黄成分を含む燃料が燃料極に供給される場合であっても、耐久性の低下を小さく抑えることができる電解質支持型セル、SOFC用単セル及びSOFCを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、
電解質成分を含み、
前記電解質成分が、酸化スカンジウム(Sc)及び酸化セリウム(CeO)で安定化され、かつ、0.003モル%以上0.5モル%未満の希土類酸化物を含むジルコニア系酸化物で構成されており、
前記希土類酸化物は、Sc及びCeを除く希土類元素から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物である、
SOFC用電解質シートを提供する。
【0009】
本発明の第2の態様は、
電解質成分を含み、
前記電解質成分が、酸化スカンジウム(Sc)で安定化され、かつ、0.003モル%以上0.5モル%未満の希土類酸化物を含むジルコニア系酸化物で構成されており、
前記希土類酸化物は、Scを除く希土類元素から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物である、
SOFC用電解質シートを提供する。
【0010】
本発明の第3の態様は、
燃料極と、空気極と、前記燃料極と前記空気極との間に配置された第1の態様又は第2の態様に係るSOFC用電解質シートと、を備えた電解質支持型セルを提供する。
【0011】
本発明の第4の態様は、
燃料極と、空気極と、前記燃料極と前記空気極との間に配置された固体電解質層とを備え、
前記燃料極、前記空気極及び前記固体電解質層から選ばれる少なくとも何れか1つが、酸化スカンジウム(Sc)及び酸化セリウム(CeO)で安定化され、かつ、0.003モル%以上0.5モル%未満の希土類酸化物を含むジルコニア系酸化物を電解質成分として含み、
前記希土類酸化物は、Sc及びCeを除く希土類元素から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物である、
SOFC用単セルを提供する。
【0012】
本発明の第5の態様は、
燃料極と、空気極と、前記燃料極と前記空気極との間に配置された固体電解質層とを備え、
前記燃料極、前記空気極及び前記固体電解質層から選ばれる少なくとも何れか1つが、酸化スカンジウム(Sc)で安定化され、かつ、0.003モル%以上0.5モル%未満の希土類酸化物を含むジルコニア系酸化物を電解質成分として含み、
前記希土類酸化物は、Scを除く希土類元素から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物である、
SOFC用単セルを提供する。
【0013】
本発明の第6の態様は、
第3の態様に係る電解質支持型セル、第4の態様に係るSOFC用単セル、又は、第5の態様に係るSOFC用単セルを備えた、SOFCを提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1の態様及び第2の態様に係るSOFC用電解質シートは、硫黄成分を含む雰囲気に曝される場合であっても、酸素イオン導電率の経時変化を小さく抑えることができる。また、本発明の第3の態様に係る電解質支持型セルは、そのようなSOFC用電解質シートを備えているので、硫黄成分を含む燃料が燃料極に供給される場合であっても、耐久性の低下を小さく抑えることができる。
【0015】
本発明の第4の態様及び第5の態様に係るSOFC用単セルは、硫黄成分を含む雰囲気に曝される場合であっても、固体電解質層の酸素イオン導電性の経時変化、又は、電極の活性の経時変化を小さく抑えることができるので、耐久性の低下を小さく抑えることができる。
【0016】
本発明の第6の態様に係るSOFCは、第3の態様に係る電解質支持型セル、第4の態様に係るSOFC用単セル又は第5の態様に係るSOFC用単セルを備えているので、硫黄成分を含む雰囲気に曝される場合であっても、耐久性の低下を小さく抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の電解質支持型セルの一実施形態を示す断面図である。
図2】本発明のSOFC用単セルの一実施形態を示す断面図である。
図3】酸素イオン導電率の測定方法を説明する図である。
図4】実施例で用いられた、単セル発電評価装置を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施形態1)
本発明のSOFC用電解質シートの実施形態について、具体的に説明する。
【0019】
本実施形態の電解質シートは、電解質成分を含んでおり、当該電解質成分が、
酸化スカンジウム(Sc)及び酸化セリウム(CeO)で安定化され、かつ、0.003モル%以上0.5モル%未満の希土類酸化物(以下、希土類酸化物Aということがある。)を含むジルコニア系酸化物(スカンジアセリア安定化ジルコニア系酸化物)で構成されており、当該希土類酸化物AがSc及びCeを除く希土類元素から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物である、
又は、
酸化スカンジウム(Sc)で安定化され、かつ、0.003モル%以上0.5モル%未満の希土類酸化物(以下、希土類酸化物Bということがある。)を含むジルコニア系酸化物(スカンジア安定化ジルコニア系酸化物)で構成されており、当該希土類酸化物BがScを除く希土類元素から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物である。
【0020】
ここで、「0.003モル%以上0.5モル%未満の希土類酸化物A」とは、希土類酸化物Aの合計量が0.003モル%以上0.5モル%未満であるということを意味する。また、「0.003モル%以上0.5モル%未満の希土類酸化物B」とは、希土類酸化物Bの合計量が0.003モル%以上0.5モル%未満であることを意味する。以降についても、同様である。
【0021】
換言すると、本実施形態の電解質シートは、電解質成分を含み、当該電解質成分が、酸化スカンジウム(Sc)で安定化されたジルコニアに0.003モル%以上0.5モル%未満の微量の希土類酸化物が添加されたジルコニア系酸化物(スカンジア安定化ジルコニア系酸化物)であること、また、スカンジア安定化ジルコニア系酸化物に希土類酸化物として添加される酸化セリウム(CeO)の含有量が0.5モル%以上となる場合は、酸化セリウム(CeO)はジルコニアの安定化剤として機能し、Ce以外の他の希土類元素の酸化物が0.003モル%以上0.5モル%未満の範囲で添加されたジルコニア系酸化物(スカンジアセリア安定化ジルコニア系酸化物)であること、を特徴としている。
【0022】
以上のような構成を有する本実施形態の電解質シートは、硫黄成分を含む雰囲気に曝された場合であっても、酸素イオン導電率の低下を抑制できる。したがって、都市ガスを改質することで生成した水素が燃料として用いられる場合であって、しかもその燃料に硫黄成分が含まれる可能性がある場合であっても、本実施形態の電解質シートをSOFCの固体電解質層として好適に用いることができる。例えば、都市ガスを燃料に利用するSOFCシステムにおいて、燃料電池外に改質器を設けて都市ガスを改質するシステムの場合、改質器と共に脱硫装置も設けられる場合が多い。しかし、都市ガスをSOFC内で直接改質する内部改質型のSOFCが用いられるシステムでは、脱硫装置が設けられない場合もある。したがって、本実施形態の電解質シートは、特に、内部改質型のSOFCの固体電解質層に適用された場合に、優れた効果を奏する。
【0023】
以下に、本実施形態の電解質シートに含まれる電解質成分が、上記スカンジアセリア安定化ジルコニア系酸化物である形態(形態1−A)と、上記スカンジア安定化ジルコニア系酸化物である形態(形態1−B)とについて、それぞれ説明する。
【0024】
(形態1−A(スカンジアセリア安定化ジルコニア系酸化物))
形態1−Aに係る電解質シートの主成分として含まれる電解質成分は、酸化スカンジウム(Sc)及び酸化セリウム(CeO)で安定化され、かつ、0.003モル%以上0.5モル%未満の希土類酸化物Aを含むジルコニア系酸化物で構成されている。当該希土類酸化物Aは、Sc及びCeを除く希土類元素から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物である。すなわち、希土類酸化物Aは、Y、La、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物である。例えば、形態1−Aに係る電解質シートは、安定化剤として酸化スカンジウム及び酸化セリウムが固溶されたジルコニアに、0.003モル%以上0.5モル%未満の希土類酸化物Aがさらに固溶されているジルコニア系酸化物の焼結体によって形成されている。前記ジルコニア系酸化物における希土類酸化物Aの合計量は、0.005モル%以上0.4モル%以下が好ましく、0.01モル%以上0.3モル%以下がより好ましい。
【0025】
硫黄成分を含む雰囲気下で生じる電解質シートの導電率の低下は、電解質成分が硫黄成分と化合物を形成したり、硫黄成分が電解質表面へ沈着・付着したりすることなどによって起こると考えられる。酸化スカンジウム(Sc)及び酸化セリウム(CeO)で安定化されたジルコニア系酸化物において、0.003モル%以上0.5モル%未満の範囲内で微量に含まれる希土類酸化物Aは、電解質成分と硫黄成分との化合物の形成や、電解質表面への硫黄成分の沈着・付着などを抑制する効果を有する。希土類酸化物Aの含有量が0.003モル%未満の場合、希土類酸化物Aによる硫黄成分が電解質成分に及ぼす悪影響を抑制する効果が十分に発揮されず、電解質シートが硫黄成分を含む雰囲気に曝された場合に、酸素イオン導電率の経時変化を小さく抑えることが困難となる。また、希土類酸化物Aの含有量が0.5モル%以上である場合、硫黄成分が電解質の表面に沈着・付着しやすくなったり、電解質成分と反応し易くなったりすることが予想される。その結果、燃料の流入が進むにつれて、電解質シートの導電率が次第に劣化する。したがって、電解質成分を構成するジルコニア系酸化物が希土類酸化物Aを過剰に含んでいると、電解質シートの導電率の経時変化が大きくなる。
【0026】
硫黄成分に起因する酸素イオン導電率の経時変化をより確実に小さく抑えるために、微量成分として含まれる希土類酸化物Aは、Y、La、Pr、Nd、Sm、Gd及びYbからなる群から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物であることが好ましく、Y、Sm、Gd及びYbからなる群から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物であることがより好ましい。
【0027】
形態1−Aにおけるジルコニア系酸化物では、より一層好ましくは、希土類酸化物Aが酸化ガドリニウム(Gd)であることである。酸化ガドリニウム(Gd)は、形態1−Aにおけるジルコニア系酸化物に希土類酸化物Aとして含まれる場合、他の希土類酸化物の中でも特に、電解質成分と硫黄成分との化合物の形成や、電解質表面への硫黄成分の沈着・付着などを抑制する効果が高い。したがって、形態1−Aにおけるジルコニア系酸化物が希土類酸化物Aとして酸化ガドリニウム(Gd)を含むことにより、硫黄成分に起因する酸素イオン導電率の経時変化をより一層確実に小さく抑えることができる。また、形態1−Aにおけるジルコニア系酸化物が酸化ガドリニウム(Gd)を含む場合、酸化ガドリニウム(Gd)の含有量は0.003モル%以上0.2モル%以下であることが好ましい。酸化ガドリニウム(Gd)の含有量が0.2モル%を超える場合、酸化ガドリニウムの含有量に見合う程度に効果を高めることができないためである。
【0028】
形態1−Aにおけるジルコニア系酸化物が酸化ガドリニウム(Gd)を含む場合、酸化イットリウム(Y)も希土類酸化物Aとしてさらに添加されることが好ましい。形態1−Aの電解質シートの電解質成分が、酸化ガドリニウム(Gd)と酸化イットリウム(Y)との両方を希土類酸化物Aとして含むジルコニア系酸化物で構成されることにより、硫黄成分が電解質成分に及ぼす悪影響を抑制する効果をさらに向上させることができる。酸化ガドリニウム(Gd)と酸化イットリウム(Y)との両方が含まれることによる相乗効果の理由は明らかではないが、酸化イットリウム(Y)の含有量が0.003モル%以上0.2モル%以下の範囲の場合に、特に優れた効果を得ることができる。
【0029】
形態1−Aにおけるジルコニア系酸化物は、酸化スカンジウム(Sc)を、8モル%以上15モル%以下で含んでいることが好ましく、8.5モル%以上12モル%以下で含んでいることがより好ましく、9モル%以上11モル%以下で含んでいることがより一層好ましい。形態1−Aにおけるジルコニア系酸化物は、その結晶構造が立方晶を含んでいることが好ましい。結晶構造が立方晶を含んでいる場合は、形態1−Aにおけるジルコニア系酸化物は、酸化スカンジウム(Sc)を9.5モル%以上12モル%以下で含んでいることが好ましく、10モル%以上11.5モル%以下で含んでいることがより好ましい。
【0030】
形態1−Aにおけるジルコニア系酸化物は、酸化セリウム(CeO)を0.5モル%以上2.5モル%以下で含んでいることが好ましく、0.6モル%以上2モル%以下で含んでいることがより好ましく、0.7モル%以上1.5モル%以下で含んでいることがより一層好ましい。
【0031】
(形態1−B(スカンジア安定化ジルコニア系酸化物))
形態1−Bに係る電解質シートの主成分として含まれる電解質成分は、酸化スカンジウム(Sc)で安定化され、かつ、0.003モル%以上0.5モル%未満の希土類酸化物Bを含むジルコニア系酸化物で構成されている。当該希土類酸化物Bは、Scを除く希土類元素から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物である。すなわち、希土類酸化物Bは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物である。例えば、形態1−Bに係る電解質シートは、安定化剤として酸化スカンジウムが固溶されたジルコニアに、0.003モル%以上0.5モル%未満の希土類酸化物Bがさらに固溶されているジルコニア系酸化物の焼結体によって形成されている。前記ジルコニア系酸化物における希土類酸化物Bの合計量は、0.005モル%以上0.4モル%以下が好ましく、0.01モル%以上0.3モル%以下がより好ましい。
【0032】
硫黄成分を含む雰囲気下で生じる電解質シートの導電率の低下は、電解質成分が硫黄成分と化合物を形成したり、硫黄成分が電解質表面へ沈着・付着したりすることなどによって起こると考えられる。酸化スカンジウム(Sc)で安定化されたジルコニア系酸化物において、0.003モル%以上0.5モル%未満の範囲内で微量に含まれる希土類酸化物Bは、電解質成分と硫黄成分との化合物の形成や、電解質表面への硫黄成分の沈着・付着などを抑制する効果を有する。希土類酸化物Bの含有量が0.003モル%未満の場合、希土類酸化物Bによる硫黄成分が電解質成分に及ぼす悪影響を抑制する効果が十分に発揮されず、電解質シートが硫黄成分を含む雰囲気に曝された場合に、酸素イオン導電率の経時変化を小さく抑えることが困難となる。また、希土類酸化物Bの含有量が0.5モル%以上である場合、硫黄成分が電解質の表面に沈着・付着しやすくなったり、電解質成分と反応し易くなったりすることが予想される。その結果、燃料の流入が進むにつれて、電解質シートの導電率が次第に劣化する。したがって、電解質成分を構成するジルコニア系酸化物が希土類酸化物Bを過剰に含んでいると、電解質シートの導電率の経時変化が大きくなる。
【0033】
硫黄成分に起因する酸素イオン導電率の経時変化をより確実に小さく抑えるために、微量成分として含まれる希土類酸化物Bは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd及びYbからなる群から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物であることが好ましく、Y、Ce、Sm、Gd及びYbからなる群から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物であることがより好ましい。
【0034】
形態1−Bにおけるジルコニア系酸化物では、より一層好ましくは、希土類酸化物Bが酸化セリウム(CeO)であることである。酸化セリウム(CeO)は、形態1−Bにおけるジルコニア系酸化物に希土類酸化物Bとして含まれる場合、希土類酸化物の中でも特に、電解質成分と硫黄成分との化合物の形成や、電解質表面への硫黄成分の沈着・付着などを抑制する効果が高い。したがって、形態1−Bにおけるジルコニア系酸化物が希土類酸化物Bとして酸化セリウム(CeO)を含むことにより、硫黄成分に起因する酸素イオン導電率の経時変化をより一層確実に小さく抑えることができる。また、形態1−Bにおけるジルコニア系酸化物が酸化セリウム(CeO)を含む場合、その含有量は0.1モル%以上が好ましく、0.2モル%以上がより好ましい。また、形態1−Bにおけるジルコニア系酸化物が酸化セリウム(CeO)を含む場合、その含有量は0.48モル%以下が好ましく、0.45モル%以下がより好ましい。
【0035】
また、形態1−Bにおけるジルコニア系酸化物において、希土類酸化物Bが酸化ガドリニウム(Gd)である場合も、酸素イオン導電率の経時変化を抑制する高い効果が得られる。形態1−Bにおけるジルコニア系酸化物が酸化ガドリニウム(Gd)を含む場合、その含有量は0.003モル%以上0.2モル%以下であることが好ましく、0.005モル%以上0.1モル%以下がより好ましい。
【0036】
また、形態1−Bにおけるジルコニア系酸化物において、希土類酸化物Bが酸化イットリウム(Y)である場合も、酸素イオン導電率の経時変化を抑制する高い効果が得られる。形態1−Bにおけるジルコニア系酸化物が酸化イットリウム(Y)を含む場合、その含有量は0.003モル%以上0.2モル%以下であることが好ましく、0.005モル%以上0.1モル%以下がより好ましい。
【0037】
形態1−Bにおけるジルコニア系酸化物が、酸化ガドリニウム(Gd)と酸化イットリウム(Y)との両方を希土類酸化物Bとして含んでいてもよい。形態1−Bの電解質シートの電解質成分が、酸化ガドリニウム(Gd)と酸化イットリウム(Y)との両方を希土類酸化物Bとして含むジルコニア系酸化物で構成されることにより、硫黄成分が電解質成分に及ぼす悪影響を抑制する効果をさらに向上させることができる。酸化ガドリニウム(Gd)と酸化イットリウム(Y)との両方が含まれることによる相乗効果の理由は明らかではないが、酸化ガドリニウム(Gd)と酸化イットリウム(Y)との合計量が0.003モル%以上0.2モル%以下であることが好ましく、0.005モル%以上0.1モル%以下がより好ましい。
【0038】
形態1−Bにおけるジルコニア系酸化物は、酸化スカンジウム(Sc)を、4モル%以上15モル%以下で含んでいることが好ましい。形態1−Bにおけるジルコニア系酸化物の結晶系が正方晶系である場合、当該ジルコニア系酸化物は酸化スカンジウム(Sc)を4モル%以上6.5モル%以下で含んでいることが好ましい。形態1−Bにおけるジルコニア系酸化物の結晶系が立方晶系である場合、当該ジルコニア系酸化物は酸化スカンジウム(Sc)を9モル%以上13モル%以下で含んでいることが好ましく、9.5モル%以上12モル%以下で含んでいることがより好ましく、10モル%以上11.5モル%以下で含んでいることがより一層好ましい。
【0039】
立方晶系とは、結晶構造が立方晶を主体とする安定化ジルコニアを示す。具体的には、固体電解質シートにおけるジルコニア結晶のX線回折パターンから各ピーク強度を求め、各強度値と下記式から求められた立方晶比率(%)が、50%以上であることである。立方晶系の安定化ジルコニアは、立方晶比率が90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、97%以上がさらに好ましい。
立方晶比率(%)=(100−単斜晶比率)×[c(400)]÷[t(400)+t(004)+c(400)]
[式中、c(400)は立方晶(400)面のピーク強度を示し、t(400)は正方晶(400)面のピーク強度を示し、t(004)は正方晶(004)面のピーク強度を示す]
【0040】
正方晶系とは、結晶構造が正方晶を主体とする安定化ジルコニアを示す。具体的には、固体電解質シートにおけるジルコニア結晶のX線回折パターンから各ピーク強度を求め、各強度値と下記式から求められた正方晶比率(%)が、50%以上であることである。正方晶系の安定化ジルコニアは、
正方晶比率(%)=(100−単斜晶比率)×[t(400)+t(004)]÷[t(400)+t(004)+c(400)]
[式中、t(400)は正方晶(400)面のピーク強度を示し、t(004)は正方晶(004)面のピーク強度を示し、c(400)は立方晶(400)面のピーク強度を示す]
【0041】
本実施形態の電解質シート(以下、本実施形態の電解質シートとは、形態1−Aの電解質シート及び形態1−Bの電解質シートの両方を指す。)は、上記成分以外に、例えば、酸化ハフニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化マンガン等の酸化物や、LaAlO、MgAl、AlTiO及びLaGaOなどの複合酸化物を、合計で5質量%以下の範囲でさらに含んでいてもよい。その他、Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba,La,Pr,Nd,Yb,Cr,W,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,B,Ga,Si,Ge、P等が含まれていてもよい。その場合、これら成分の含有量は、酸化物換算で合計1.0質量%以下が望ましい。
【0042】
本実施形態の電解質シートの形態は、特に制限されず、平板状、湾曲状、膜状、円筒状、円筒平板状およびハニカム状が例示される。本実施形態の電解質シートの厚さは、例えば、10μm以上400μm以下とできる。本実施形態の電解質シートが電解質支持型セル(ESC)に適用される場合、電解質シートの厚さは、例えば80μm以上400μm以下が好ましく、90μm以上300μm以下がより好ましい。
【0043】
本実施形態の電解質シートの大きさは、特に制限されないが、例えば50cm以上900cm以下、好ましくは70cm以上500cm以下の平面面積を有する電解質シートが、好適に用いられる。
【0044】
上記電解質シートの場合、シートの形状としては、円形、楕円形およびR(アール)を持った角形など何れでもよい。これらのシート内に、同様の円形、楕円形、R(アール)を持った角形などの穴を1つもしくは2つ以上有するものであってもよい。なお、上記平面面積とは、シートが穴を有する場合は、当該穴の面積を含んだシート表面の面積(シート外形によって決定される面積)を意味する。
【0045】
次に、本実施形態の電解質シートの製造方法について説明する。本実施形態の電解質シートの製造には、一般的なSOFC用電解質シートの製造方法を利用できる。すなわち、電解質シート用のグリーンシートを準備し、このグリーンシートを焼成することによって、本実施形態の電解質シートを得ることができる。
【0046】
まず、本実施形態の電解質シートの電解質成分の原料として用いられる、ジルコニア系酸化物の原料粉末が準備される。原料粉末を製造する方法には、粉体を製造できる方法であれば何れの方法でも用いることができるが、本実施形態では液相プロセスである共沈法が好適に用いられる。本実施形態の電解質シートの原料粉末は、ジルコニウム化合物及びスカンジウム化合物と、必要に応じて適宜選択されるセリウム化合物、ガドリニウム化合物及びイットリウム化合物等の希土類元素の化合物とを含む溶液と、沈殿剤とを混合して共沈させ、得られた沈殿物を酸化性雰囲気下で焼成することにより、得ることができる。
【0047】
本実施形態において用いられる各成分の原料は特に限定されず、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、塩化物及びオキシ塩化物等の無機酸塩、酢酸塩及びシュウ酸塩等の有機酸塩が例示される。特に、硝酸塩、塩化物及びオキシ塩化物が好適に用いられる。なお、各原料を溶媒に溶解して溶液を得る方法は、原料を溶解できる方法であればよいため、特には限定されない。溶媒としては、水及びアルコール類等が例示される。
【0048】
また、添加する沈殿剤は特に限定されず、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム及びアンモニア等の塩基が例示される。これらの中で、特にアンモニアを用いることが好ましい。これらの沈殿剤は、通常、溶液として添加することが好ましい。
【0049】
各成分の原料を含む溶液と沈殿剤との混合方法は特に限定されない。各成分の原料を含む溶液に沈殿剤溶液を滴下する方法、沈殿剤溶液に各成分の原料を含む溶液を滴下する方法等が例示される。
【0050】
上記方法によって生成した沈殿物は、水洗及びろ過等を行い、固液分離することにより回収することができる。得られた沈殿物は、通常、乾燥後に焼成されて、酸化物となる。この焼成は、酸化性雰囲気下で行えばよく、好ましくは大気中で行われる。焼成温度は特に限定されないが、通常500〜1300℃程度、好ましくは600〜1200℃程度とすればよい。焼成温度が500℃未満の場合には、沈殿物が充分に酸化されない場合がある。焼成温度が1300℃を超えると、粒成長により強い凝集が起こる場合がある。得られた酸化物は、必要に応じて粉砕されてもよい。粉砕の方法は特には限定されず、湿式粉砕及び乾式粉砕が例示される。
【0051】
本実施形態のジルコニア系酸化物の結晶構造は、好ましくは立方晶相単相もしくは正方晶単相である。
電解質材料の結晶構造は、強度的および酸素イオン伝導性に問題がない範囲で菱面体晶相を僅かに含んだ、立方晶相と菱面体晶相(R相)との混相であってもよい。本実施形態のジルコニア系酸化物は、典型的には、X線結晶構造解析における2θ=51.3°(菱面体晶相に対応)での回折強度がバックグランドレベルとほぼ同じである。X線結晶構造解析における2θ=51.3°での回折強度は、例えばバックグランドレベルの1.2倍以下であり、好ましくは1.1倍以下であり、より好ましくは1.05倍以下である。さらに、正方晶相や単斜晶相を僅かに含んだ、正方晶相や単斜晶相と立方晶相との混相であってもよい。
【0052】
また、電解質材料の結晶構造は、強度的および酸素イオン伝導性に問題がない範囲で、単斜晶相や立方晶相を僅かに含んだ、単斜晶相や立方晶相と正方晶相との混相であってもよい。
【0053】
次に、得られた原料粉末を用いて、電解質シート用のグリーンシートを作製する。電解質シート用のグリーンシートの作製には、テープ成形法が好適に用いられ、特にドクターブレード法及びカレンダー法が好適に用いられる。具体的には、まず、上記方法で得られたジルコニア系酸化物の原料粉末に、バインダー及び添加剤を添加し、さらに必要に応じて分散媒等を添加して、スラリーを調製する。このスラリーを、支持板又はキャリヤフィルム上に敷き延べてシート状に成形し、これを乾燥させて分散媒を揮発させて、グリーンシートを得る。このグリーンシートを切断及び/又はパンチング等により適切なサイズに揃えて、電解質シート用のグリーンシートを作製する。なお、スラリーの作製に用いられるバインダー、溶剤及び分散剤等には、SOFC用電解質シートの製造に用いられる公知のバインダー、溶剤及び分散剤等が使用できる。
【0054】
次に、電解質シート用のグリーンシートを焼成する。上記のとおり得られた電解質シート用のグリーンシートを、棚板上の多孔質セッター上に載置する。例えば、棚板上に、多孔質セッターと、上記のように作製された電解質シート用のグリーンシートとを、最下層及び最上層に多孔質セッターが配置されるように交互に積み重ねて、多孔質セッターとグリーンシートとからなる積層体を配置してもよい。このように配置されたグリーンシートを、例えば1200〜1500℃、好ましくは1250〜1425℃程度の温度で、1〜5時間程度加熱焼成する。焼成時の温度が1500℃を超えると、焼結体中に菱面体晶や単斜晶が生成し、電解質シートの常温での強度(常温強度)と高温耐久性とが共に悪くなる場合がある。一方、焼成温度が1200℃未満では、焼結不足となって緻密質のシートが得られ難くなり、電解質シートが強度不足になるだけでなく、ガスを透過してしまう場合もある。しかし、上記温度範囲で焼成を行うと、単斜晶や菱面体の生成が抑制されると共に、得られるシートの相対密度を97%以上、好ましくは99%以上とすることができるので、常温強度と高温耐久性とに優れた焼結体シートが得られる。なお、相対密度とは、理論密度に対するアルキメデス法で測定した密度の相対値(アルキメデス法で測定した密度/理論密度)である。なお、グリーンシートの焼成に用いられる多孔質セッターには、SOFC用電解質シートの製造に用いられる公知の多孔質セッターが使用できる。
【0055】
なお、上記の電解質シートの製造方法では、ジルコニア系酸化物の原料粉末を準備する工程を実施する製造方法の例を説明したが、この方法に限定されない。例えば、酸化スカンジウム(Sc)及び酸化セリウム(CeO)で安定化されたジルコニア粉末、又は、酸化スカンジウム(Sc)で安定化されたジルコニア粉末と、希土類酸化物、希土類元素を含む金属又は希土類元素を含む化合物とを、それぞれ原料粉末として用いて、スラリーの作製、グリーンシートの作製及び電解質シートの作製を順次実施することも可能である。また、原料粉末として、予め希土類元素を含有している酸化スカンジウム(Sc)及び酸化セリウム(CeO)で安定化されたジルコニア粉末、又は、酸化スカンジウム(Sc)で安定化されたジルコニア粉末を用いることも可能である。
【0056】
(実施形態2)
本発明の電解質支持型セルの実施形態について、具体的に説明する。図1は、本実施形態の電解質支持型セルの構成の一例を示す断面図である。
【0057】
本実施形態の電解質支持型セル1は、燃料極11と、空気極12と、燃料極11と空気極12との間に配置されたSOFC用電解質シート13とを備えている。電解質シート13には、実施形態1で説明したSOFC用電解質シート(形態1−A又は形態1−Bの電解質シート)が用いられる。燃料極11及び空気極12には、公知のSOFCに用いられる燃料極及び空気極が、それぞれ適用できる。
【0058】
本実施形態の電解質支持型セル1は、実施形態1で説明した方法で得られる電解質シートの一方の主面上に燃料極11を形成し、他方の主面上に空気極12を形成することによって製造できる。まず、燃料極11又は空気極12を構成する材料の粉体に、バインダー及び溶剤を添加し、さらに必要に応じて分散剤等を添加してスラリーを調製する。このスラリーを、電解質シート13の一方又は他方の主面上に所定の厚さで塗布し、その塗膜を乾燥させることによって、燃料極11用又は空気極12用のグリーン層が形成される。そのグリーン層を焼成することによって、燃料極11又は空気極12が得られる。焼成温度等の焼成条件は、燃料極11及び空気極12に用いられるそれぞれの材料の種類等に応じて、適宜決定すればよい。燃料極11及び空気極12を構成する材料には、公知のSOFCの燃料極及び空気極に用いられる材料を、それぞれ用いることができる。また、燃料極11及び空気極12用のスラリーの作製に用いられるバインダー及び溶媒等の種類には特に制限がなく、SOFCの燃料極及び空気極の製造方法で公知となっているバインダー及び溶剤等の中から適宜選択できる。
【0059】
本実施形態の電解質支持型セル1は、実施形態1で説明したように、硫黄成分を含む雰囲気に曝された場合であっても酸素イオン導電率の低下を抑制できるSOFC用電解質シートを、固体電解質層として備えている。したがって、本実施形態の電解質支持型セル1は、硫黄成分を含む燃料が燃料極に供給される場合であっても、耐久性の低下を小さく抑えることができる。
【0060】
(実施形態3)
本発明のSOFC用単セルの実施形態について、具体的に説明する。
【0061】
本実施形態のSOFC用単セルは、燃料極と、空気極と、前記燃料極と前記空気極との間に配置された固体電解質層とを備える。前記燃料極、前記空気極及び前記固体電解質層から選ばれる少なくとも何れか1つが、
酸化スカンジウム(Sc)及び酸化セリウム(CeO)で安定化され、かつ、0.003モル%以上0.5モル%未満の希土類酸化物(以下、希土類酸化物Cということがある。)を含むジルコニア系酸化物(スカンジアセリア安定化ジルコニア系酸化物)を電解質成分として含み、当該希土類酸化物CがSc及びCeを除く希土類元素から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物である、
又は、
酸化スカンジウム(Sc)で安定化され、かつ、0.003モル%以上0.5モル%未満の希土類酸化物(以下、希土類酸化物Dということがある。)を含むジルコニア系酸化物(スカンジア安定化ジルコニア系酸化物)を電解質成分として含み、当該希土類酸化物DがScを除く希土類元素から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物である。
【0062】
ここで、「0.003モル%以上0.5モル%未満の希土類酸化物C」とは、希土類酸化物Cの合計量が0.003モル%以上0.5モル%未満であるということを意味する。また、「0.003モル%以上0.5モル%未満の希土類酸化物D」とは、希土類酸化物Dの合計量が0.003モル%以上0.5モル%未満であることを意味する。以降についても、同様である。
【0063】
換言すると、本実施形態のSOFC用単セルは、燃料極、空気極及び固体電解質層から選ばれる少なくとも何れか1つが、電解質成分として、酸化スカンジウム(Sc)で安定化されたジルコニアに0.003モル%以上0.5モル%未満の微量の希土類酸化物が添加されたジルコニア系酸化物(スカンジア安定化ジルコニア系酸化物)を含むこと、また、スカンジア安定化ジルコニア系酸化物に希土類酸化物として添加される酸化セリウム(CeO)の含有量が0.5モル%以上となる場合は、酸化セリウム(CeO)はジルコニアの安定化剤として機能し、Ce以外の他の希土類元素の酸化物が0.003モル%以上0.5モル%未満の範囲で添加されたジルコニア系酸化物(スカンジアセリア安定化ジルコニア系酸化物)を含むこと、を特徴としている。
【0064】
以下、上記ジルコニア系酸化物(上記スカンジアセリア安定化ジルコニア系酸化物及び上記スカンジア安定化ジルコニア系酸化物)を、「本実施形態のジルコニア系酸化物」と記載することがある。
【0065】
固体電解質層が本実施形態のジルコニア系酸化物を含む場合、固体電解質層は、硫黄成分を含む雰囲気に曝された場合であっても、酸素イオン導電率の低下を抑制できる。したがって、このような固体電解質層を備えたSOFC用単セルは、都市ガスを改質することで生成した水素が燃料として用いられる場合であって、しかもその燃料に硫黄成分が含まれる可能性がある場合であっても、耐久性の低下を小さく抑えることができる。例えば、都市ガスを燃料に利用するSOFCシステムにおいて、燃料電池外に改質器を設けて都市ガスを改質するシステムの場合、改質器と共に脱硫装置も設けられる場合が多い。しかし、都市ガスをSOFC内で直接改質する内部改質型のSOFCが用いられるシステムでは、脱硫装置が設けられない場合もある。したがって、本実施形態のSOFC用単セルの構成は、特に、内部改質型のSOFCに適用された場合に、優れた効果を奏する。
【0066】
本実施形態のジルコニア系酸化物は、燃料極及び/又は空気極に電極組成物の一部として含まれていてもよい。例えば燃料極は、一般に、導電性を与えるための導電成分と、骨格成分となる電解質成分とを主たる構成材料として含んでいる。そこで、燃料極に電解質成分として本実施形態のジルコニア系酸化物が含まれることにより、硫黄成分を含む燃料が燃料極に供給される場合であっても、燃料極中の電解質成分と硫黄成分との化合物の形成や、電解質表面への硫黄成分の沈着・付着などが抑制される。したがって、電解質成分と硫黄成分との化合物の形成や、電解質表面への硫黄成分の沈着・付着などに起因する燃料極の特性劣化を抑制することができる。なお、本実施形態のジルコニア系酸化物が空気極に含まれる場合も同様の効果が得られる。
【0067】
以下に、本実施形態のSOFC用単セルが、燃料極、空気極及び固体電解質層から選ばれる少なくとも何れか1つに上記スカンジアセリア安定化ジルコニア系酸化物を電解質成分として含んでいる形態(形態3−A)と、燃料極、空気極及び固体電解質層から選ばれる少なくとも何れか1つに上記スカンジア安定化ジルコニア系酸化物を電解質成分として含んでいる形態(形態3−B)とについて、それぞれ説明する。
【0068】
(形態3−A(スカンジアセリア安定化ジルコニア系酸化物))
形態3−Aに係るSOFC用単セルにおいて、燃料極、空気極及び固体電解質層から選ばれる少なくとも何れか1つに電解質成分として含まれるジルコニア系酸化物は、酸化スカンジウム(Sc)及び酸化セリウム(CeO)で安定化され、かつ、0.003モル%以上0.5モル%未満の希土類酸化物Cを含んでいる。当該希土類酸化物Cは、Sc及びCeを除く希土類元素から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物である。すなわち、希土類酸化物Cは、Y、La、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物である。固体電解質層がこのジルコニア系酸化物を含む場合、例えば固体電解質層に主成分として含まれる電解質成分がこのジルコニア系酸化物で構成されていてもよい。この場合、固体電解質層が、安定化剤として酸化スカンジウム及び酸化セリウムが固溶されたジルコニアに、0.003モル%以上0.5モル%未満の希土類酸化物Cがさらに固溶されているジルコニア系酸化物の焼結体によって形成されていてもよい。前記ジルコニア系酸化物における希土類酸化物Cの合計量は、0.005モル%以上0.4モル%以下が好ましく、0.01モル%以上0.3モル%以下がより好ましい。
【0069】
実施形態1で説明したのと同様に、硫黄成分を含む雰囲気下で生じる固体電解質層の導電率の低下は、電解質成分が硫黄成分と化合物を形成したり、硫黄成分が電解質表面へ沈着・付着したりすることなどによって起こると考えられる。酸化スカンジウム(Sc)及び酸化セリウム(CeO)で安定化されたジルコニア系酸化物において、0.003モル%以上0.5モル%未満の範囲内で微量に含まれる希土類酸化物Cは、電解質成分と硫黄成分との化合物の形成や、電解質表面への硫黄成分の沈着・付着などを抑制する効果を有する。希土類酸化物Cの含有量が0.003モル%未満の場合、希土類酸化物Cによる硫黄成分が電解質成分に及ぼす悪影響を抑制する効果が十分に発揮されず、固体電解質層が硫黄成分を含む雰囲気に曝された場合に、酸素イオン導電率の経時変化を小さく抑えることが困難となる。また、希土類酸化物Cの含有量が0.5モル%以上である場合、硫黄成分が電解質の表面に沈着・付着しやすくなったり、電解質成分と反応し易くなったりすることが予想される。その結果、燃料の流入が進むにつれて、固体電解質層の導電率が次第に劣化する。したがって、電解質成分を構成するジルコニア系酸化物が希土類酸化物Cを過剰に含んでいると、固体電解質層の導電率の経時変化が大きくなる。
【0070】
硫黄成分に起因する酸素イオン導電率の経時変化をより確実に小さく抑えるために、微量成分として含まれる希土類酸化物Cは、Y、La、Pr、Nd、Sm、Gd及びYbからなる群から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物であることが好ましく、Y、Sm、Gd及びYbからなる群から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物であることがより好ましい。
【0071】
形態3−Aにおけるジルコニア系酸化物では、より一層好ましくは、希土類酸化物Cが酸化ガドリニウム(Gd)であることである。酸化ガドリニウム(Gd)は、形態3−Aにおけるジルコニア系酸化物に希土類酸化物Cとして含まれる場合、他の希土類酸化物の中でも特に、電解質成分と硫黄成分との化合物の形成や、電解質表面への硫黄成分の沈着・付着などを抑制する効果が高い。したがって、形態3−Aにおけるジルコニア系酸化物が希土類酸化物Cとして酸化ガドリニウム(Gd)を含むことにより、硫黄成分に起因する酸素イオン導電率の経時変化をより一層確実に小さく抑えることができる。また、形態3−Aにおけるジルコニア系酸化物が酸化ガドリニウム(Gd)を含む場合、その含有量は0.003モル%以上0.2モル%以下であることが好ましい。酸化ガドリニウム(Gd)の含有量が0.2モル%を超える場合、酸化ガドリニウム(Gd)の含有量に見合う程度に効果を高めることができないためである。
【0072】
形態3−Aにおけるジルコニア系酸化物が酸化ガドリニウム(Gd)を含む場合、酸化イットリウム(Y)も希土類酸化物Cとしてさらに添加されることが好ましい。形態3−AのSOFC用単セルが、酸化ガドリニウム(Gd)と酸化イットリウム(Y)との両方を希土類酸化物Cとして含むジルコニア系酸化物を含む場合、硫黄成分が電解質成分に及ぼす悪影響を抑制する効果をさらに向上させることができる。酸化ガドリニウム(Gd)と酸化イットリウム(Y)との両方が含まれることによる相乗効果の理由は明らかではないが、酸化イットリウム(Y)の含有量が0.003モル%以上0.2モル%以下の範囲の場合に、特に優れた効果を得ることができる。
【0073】
形態3−Aにおけるジルコニア系酸化物は、酸化スカンジウム(Sc)を、8モル%以上15モル%以下で含んでいることが好ましく、8.5モル%以上12モル%以下で含んでいることがより好ましく、9モル%以上11モル%以下で含んでいることがより一層好ましい。
【0074】
形態3−Aにおけるジルコニア系酸化物は、酸化セリウム(CeO)を0.5モル%以上2.5モル%以下で含んでいることが好ましく、0.6モル%以上2モル%以下で含んでいることがより好ましく、0.7モル%以上1.5モル%以下で含んでいることがより一層好ましい。
【0075】
形態3−Aにおけるジルコニア系酸化物は、燃料極及び/又は空気極に電極組成物の一部として含まれていてもよい。このジルコニア系酸化物が燃料極及び/又は空気極に含まれる場合に得られる効果は、上述のとおりである。
【0076】
(形態3−B(スカンジア安定化ジルコニア系酸化物))
形態3−Bに係るSOFC用単セルにおいて、燃料極、空気極及び固体電解質層から選ばれる少なくとも何れか1つに電解質成分として含まれるジルコニア系酸化物は、酸化スカンジウム(Sc)で安定化され、かつ、0.003モル%以上0.5モル%未満の希土類酸化物Dを含むジルコニア系酸化物で構成されている。当該希土類酸化物Dは、Scを除く希土類元素から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物である。すなわち、希土類酸化物Dは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物である。固体電解質層がこのジルコニア系酸化物を含む場合、例えば固体電解質層に主成分として含まれる電解質成分がこのジルコニア系酸化物で構成されていてもよい。この場合、固体電解質層が、安定化剤として酸化スカンジウムが固溶されたジルコニアに、0.003モル%以上0.5モル%未満の希土類酸化物Dがさらに固溶されているジルコニア系酸化物の焼結体によって形成されていてもよい。前記ジルコニア系酸化物における希土類酸化物Dの合計量は、0.005モル%以上0.4モル%以下が好ましく、0.01モル%以上0.3モル%以下がより好ましい。
【0077】
硫黄成分を含む雰囲気下で生じる固体電解質層の導電率の低下は、電解質成分が硫黄成分と化合物を形成したり、硫黄成分が電解質表面へ沈着・付着したりすることなどによって起こると考えられる。酸化スカンジウム(Sc)で安定化されたジルコニア系酸化物において、0.003モル%以上0.5モル%未満の範囲内で微量に含まれる希土類酸化物Dは、電解質成分と硫黄成分との化合物の形成や、電解質表面への硫黄成分の沈着・付着などを抑制する効果を有する。希土類酸化物Dの含有量が0.003モル%未満の場合、希土類酸化物Dによる硫黄成分が電解質成分に及ぼす悪影響を抑制する効果が十分に発揮されず、固体電解質層が硫黄成分を含む雰囲気に曝された場合に、酸素イオン導電率の経時変化を小さく抑えることが困難となる。また、希土類酸化物Dの含有量が0.5モル%以上である場合、硫黄成分が電解質の表面に沈着・付着しやすくなったり、電解質成分と反応し易くなったりすることが予想される。その結果、燃料の流入が進むにつれて、固体電解質層の導電率が次第に劣化する。したがって、電解質成分を構成するジルコニア系酸化物が希土類酸化物Dを過剰に含んでいると、固体電解質層の導電率の経時変化が大きくなる。
【0078】
硫黄成分に起因する酸素イオン導電率の経時変化をより確実に小さく抑えるために、微量成分として含まれる希土類酸化物Dは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd及びYbからなる群から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物であることが好ましく、Y、Ce、Sm、Gd及びYbからなる群から選択される少なくとも何れか1種の元素の酸化物であることがより好ましい。
【0079】
形態3−Bにおけるジルコニア系酸化物では、より一層好ましくは、希土類酸化物Dが酸化セリウム(CeO)であることである。酸化セリウム(CeO)は、形態3−Bにおけるジルコニア系酸化物に希土類酸化物Dとして含まれる場合、希土類酸化物の中でも特に、電解質成分と硫黄成分との化合物の形成や、電解質表面への硫黄成分の沈着・付着などを抑制する効果が高い。したがって、形態3−Bにおけるジルコニア系酸化物が希土類酸化物Dとして酸化セリウム(CeO)を含むことにより、硫黄成分に起因する酸素イオン導電率の経時変化をより一層確実に小さく抑えることができる。また、形態3−Bにおけるジルコニア系酸化物が酸化セリウム(CeO)を含む場合、その含有量は0.1モル%以上が好ましく、0.2モル%以上がより好ましい。また、形態3−Bにおけるジルコニア系酸化物が酸化セリウム(CeO)を含む場合、その含有量は0.48モル%以下が好ましく、0.45モル%以下がより好ましい。
【0080】
また、形態3−Bにおけるジルコニア系酸化物において、希土類酸化物Dが酸化ガドリニウム(Gd)である場合も、酸素イオン導電率の経時変化を抑制する高い効果が得られる。形態3−Bにおけるジルコニア系酸化物が酸化ガドリニウム(Gd)を含む場合、その含有量は0.003モル%以上0.2モル%以下であることが好ましく、0.005モル%以上0.1モル%以下がより好ましい。
【0081】
また、形態3−Bにおけるジルコニア系酸化物において、希土類酸化物Dが酸化イットリウム(Y)である場合も、酸素イオン導電率の経時変化を抑制する高い効果が得られる。形態3−Bにおけるジルコニア系酸化物が酸化イットリウム(Y)を含む場合、その含有量は0.003モル%以上0.2モル%以下であることが好ましく、0.005モル%以上0.1モル%以下がより好ましい。
【0082】
形態3−Bにおけるジルコニア系酸化物が、酸化ガドリニウム(Gd)と酸化イットリウム(Y)との両方を希土類酸化物Dとして含んでいてもよい。形態3−Bの固体電解質層の電解質成分が、酸化ガドリニウム(Gd)と酸化イットリウム(Y)との両方を希土類酸化物Dとして含むジルコニア系酸化物で構成されることにより、硫黄成分が電解質成分に及ぼす悪影響を抑制する効果をさらに向上させることができる。酸化ガドリニウム(Gd)と酸化イットリウム(Y)との両方が含まれることによる相乗効果の理由は明らかではないが、酸化ガドリニウム(Gd)と酸化イットリウム(Y)との合計量が0.003モル%以上0.2モル%以下であることが好ましく、0.005モル%以上0.1モル%以下がより好ましい。
【0083】
形態3−Bにおけるジルコニア系酸化物は、酸化スカンジウム(Sc)を、4モル%以上15モル%以下で含んでいることが好ましい。形態3−Bにおけるジルコニア系酸化物の結晶系が正方晶系である場合、当該ジルコニア系酸化物は酸化スカンジウム(Sc)を4モル%以上6.5モル%以下で含んでいることが好ましい。形態3−Bにおけるジルコニア系酸化物の結晶系が立方晶系である場合、当該ジルコニア系酸化物は酸化スカンジウム(Sc)を9モル%以上13モル%以下で含んでいることが好ましく、9.5モル%以上12モル%以下で含んでいることがより好ましく、10モル%以上11.5モル%以下で含んでいることがより一層好ましい。
【0084】
本実施形態のSOFC用単セル(以下、本実施形態のSOFC用単セルとは、形態3−AのSOFC用単セル及び形態3−BのSOFC用単セルの両方を指す。)のタイプは、特に制限されない。本実施形態のSOFC用単セルの構成は、電解質支持型セル(以下、「ESC」と記載することがある。)、燃料極支持型セル(以下、「ASC」と記載することがある。)、空気極支持型セル(以下、「CSC」と記載することがある。)及び金属支持型セル(以下、「MSC」と記載することがある。)等のいずれにも適用可能である。
【0085】
ここでは、本実施形態のSOFC用単セルが燃料極支持型セルの場合を例に挙げて説明する。図2に示すように、本実施形態のSOFC用単セル2は、燃料極活性層(燃料極)21と、空気極22と、燃料極活性層21と空気極22との間に配置された固体電解質層23と、燃料極活性層21の固体電解質層23と反対側の表面に設けられて、燃料極活性層21、固体電解質層23及び空気極22を支持している燃料極支持基板24と、を備えている。
【0086】
燃料極支持基板24及び燃料極活性層21は、導電成分と骨格成分とを含む材料によって形成されている。導電成分は、燃料極支持基板24及び燃料極活性層21に導電性を付与するための成分である。骨格成分は、燃料極支持基板24及び燃料極活性層21の骨格を形成する成分であり、必要な強度を確保する上で重要な成分である。導電成分には、SOFC用単セルの燃料極に用いられる公知の材料を用いることができる。骨格成分には、本実施形態のジルコニア系酸化物が含まれていることが望ましい。骨格成分が、本実施形態のジルコニア系酸化物と、燃料極の骨格成分として公知である他の材料との組み合わせであってもよい。
【0087】
燃料極活性層21の厚さは、特に限定されないが、例えば5μm以上が望ましく、7μm以上がより望ましく、10μm以上がさらに望ましい。また、燃料極活性層11の厚さは、100μm以下が望ましく、50μm以下がより望ましく、30μm以下がさらに望ましい。燃料極活性層21の厚さが上記範囲内であれば、電極反応が効率的に行われ、燃料極支持型セルとした場合に発電性能がより良好となる。
【0088】
燃料極支持基板24の厚さは、特に限定されないが、例えば100μm以上が望ましく、120μm以上がより望ましく、150μm以上がさらに望ましい。また、燃料極支持基板14の厚さは、3mm以下が望ましく、2mm以下がより望ましく、1mm以下がさらに望ましく、500μm以下が特に望ましい。燃料極支持基板34の厚さが上記範囲内であれば、燃料極支持基板24の機械的強度とガス通過性とをバランス良く両立しやすくなる。
【0089】
固体電解質層23は、本実施形態のジルコニア系酸化物を含むことが望ましい。例えば、固体電解質層23は、本実施形態のジルコニア系酸化物の焼結体によって形成されていてもよい。すなわち、固体電解質層23に含まれる電解質成分が、本実施形態のジルコニア系酸化物からなっていてもよい。あるいは、固体電解質層23は、本実施形態のジルコニア系酸化物と、SOFC用の固体電解質層の材料として公知である他の材料との混合物の焼結体であってもよい。すなわち、固体電解質層23に含まれる電解質成分が、本実施形態のジルコニア系酸化物と、SOFC用の固体電解質層の材料として公知である他の材料との混合物であってもよい。電解質成分がこのような混合物である場合、本実施形態のジルコニア系酸化物は、50質量%以上含まれていることが望ましく、70質量%以上含まれていることがより望ましい。
【0090】
固体電解質層23の厚さは、特に限定されないが、例えば3μm以上が望ましく、4μm以上がより望ましく、5μm以上がさらに望ましい。また、固体電解質層23の厚さは、50μm以下が望ましく、30μm以下がより望ましく、20μm以下がさらに望ましい。固体電解質層23の厚さが上記範囲内であれば、燃料極支持型セルとした場合に、ガスのクロスリークを防ぎつつも、発電性能がより良好となる。
【0091】
空気極22は、一般に、電子伝導性に優れ、酸化雰囲気下でも安定な、ペロブスカイト形酸化物が用いられる。具体的には、La0.8Sr0.2MnO、La0.6Sr0.4CoO、La0.6Sr0.4FeO及びLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8等のランタンの一部をストロンチウムで置換したランタンマンガナイト、ランタンフェライト及びランタンコバルタイト等が好適に用いられる。また、空気極22が、本実施形態のジルコニア系酸化物を含んでいてもよい。
【0092】
空気極22の厚さは、特に限定されないが、例えば5μm以上が望ましく、7μm以上がより望ましく、10μm以上がさらに望ましい。また、空気極12の厚さは、80μm以下が望ましく、70μm以下がより望ましく、60μm以下がさらに望ましい。空気極22の厚さが上記範囲内であれば、電極反応が効率的に行われ、燃料極支持型セルとした場合に、発電性能がより良好となる。
【0093】
次に、SOFC用単セル2の製造方法について説明する。
【0094】
本実施形態のジルコニア系酸化物を用いて固体電解質層23等が形成される場合、まず本実施形態のジルコニア系酸化物の原料粉末が準備される。この原料粉末は、実施形態1の電解質シートに含まれるジルコニア系酸化物の原料粉末と同じ方法を利用して製造できるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0095】
SOFC用単セル2を製造する方法の一例は、燃料極支持基板24、燃料極活性層21及び固体電解質層23を含む多層焼成体を作製する工程と、得られた多層焼成体を所定の形状に切断及び/又は打ち抜きする工程と、所定の形状に切断された多層焼成体において、燃料極活性層21と反対側の面に空気極22を作製する工程と、を含む方法である。
【0096】
多層焼成体は、
(1)燃料極支持基板24用のグリーンシート上に、燃料極活性層21用のスクリーン印刷等で形成された層やグリーンシート層などのグリーン層と、固体電解質層23用のスクリーン印刷等で形成された層やグリーンシート層などのグリーン層とが順に積み重ねられた積層体を形成した後、これら全体を一括してあるいは順次焼成する方法、
又は、
(2)燃料極支持基板24用のグリーンシートを焼成して燃料極支持基板24を作製し、その上に燃料極活性層21用のグリーン層と、固体電解質層23用のグリーン層とが順に積み重ねられた積層体を形成した後、これらを焼成する方法、
を用いて作製できる。ここでは、(1)の方法を例に挙げて、多層焼成体の作製方法を説明する。
【0097】
まず、燃料極支持基板24用のグリーンシートを準備する。燃料極支持基板24用のグリーンシートは、原料粉末(導電成分の粉末及び骨格成分の粉末)と、バインダー及び溶剤とを混合し、さらに必要に応じて気孔形成剤、分散剤及び可塑剤等を添加してスラリーを調製し、このスラリーをドクターブレード法、カレンダーロール法、押出し法等の任意の方法で所定の厚さを有するシート状に成形し、これを乾燥させて溶剤を揮発除去することによって、得られる。導電成分及び骨格成分として使用可能な材料は、上記のとおりである。また、気孔形成剤、バインダー、溶剤、分散剤及び可塑剤等は、SOFCの燃料極支持基板の製造方法において公知となっている気孔形成剤、バインダー、溶剤、分散剤及び可塑剤等の中から適宜選択できる。
【0098】
燃料極支持基板24用のグリーンシート上に、燃料極活性層21用のペーストを用いて、燃料極活性層21用のグリーン層が形成される。燃料極活性層21用のペーストは、原料粉末(導電成分の粉末及び骨格成分の粉末)と、バインダー及び溶剤とを混合し、さらに必要に応じて気孔形成剤、分散剤及び可塑剤等を添加することによって、調製される。このペーストを燃料極支持基板24用のグリーンシート上に、スクリーン印刷等の方法を用いて塗布し、これを乾燥させることによって、燃料極活性層21用のグリーン層が形成される。導電成分及び骨格成分として使用可能な材料は、上記のとおりである。また、気孔形成剤、バインダー、溶剤、分散剤及び可塑剤等は、SOFCの燃料極活性層の製造方法において公知となっている気孔形成剤、バインダー、溶剤、分散剤及び可塑剤等の中から適宜選択できる。
【0099】
燃料極活性層21用のグリーン層の上に、固体電解質層23用のペーストを用いて、固体電解質層23用のグリーン層が形成される。固体電解質層23用のペーストは、少なくとも電解質成分の原料となる粉末と溶媒とを混合して作製される。電解質成分として使用可能な材料は、上記のとおりである。固体電解質層23用のペーストに用いられる溶媒には、SOFCの固体電解質層のペーストを作製する際に用いられている公知の材料を使用できる。固体電解質層23用のペーストに、電解質成分の原料となる粉末及び溶媒に加えて、バインダー、分散剤、可塑剤、界面活性剤、消泡剤等を添加してもよい。バインダー、分散剤、可塑剤、界面活性剤、消泡剤等は、SOFCの固体電解質層の製造方法において公知となっているバインダー、分散剤、可塑剤、界面活性剤、消泡剤等の中から適宜選択できる。
【0100】
固体電解質層23用のグリーン層上に、必要であればバリア層用のグリーン層を形成してもよい。バリア層用のグリーン層も、燃料極活性層21及び固体電解質層23と同様に、バリア層を構成する原料粉末を含むペーストを調製し、それを固体電解質層23用のグリーン層上に塗布し、乾燥させることによって形成できる。
【0101】
燃料極支持基板24用のグリーンシート上に、燃料極活性層21用のグリーン層と、固体電解質層23用のグリーン層と、バリア層を設ける構成の場合はバリア層用のグリーン層と、が順に積み重ねられることによって形成された積層体が、一括してあるいは順次焼成される。積層体の焼成温度は、特に限定されないが、1100℃以上が望ましく、1200℃以上がより望ましく、1250℃以上がさらに望ましい。また、焼成温度は、1500℃以下が望ましく、1400℃以下がより望ましく、1350℃以下がさらに望ましい。また、焼成時の焼成時間は、特に限定されないが、0.1時間以上が望ましく、0.5時間以上がより望ましく、1時間以上がさらに望ましい。また、焼成時間は、10時間以下が望ましく、7時間以下がより望ましく、5時間以下がさらに望ましい。
【0102】
以上のような方法によって、多層焼成体が得られる。次に、得られた多層焼成体を所定の形状に切断及び/又は打ち抜きする。
【0103】
次に、所定の形状に切断された多層焼成体において、燃料極支持基板24と反対側の面上に、空気極22を作製する。空気極22用のペーストを用いて空気極22用のグリーン層を形成し、それを焼成することによって空気極22が作製される。空気極22用のペーストは、空気極22を構成する原料粉末、バインダー及び溶媒と、必要により分散剤及び可塑剤等とを共に均一に混合することによって、調製される。空気極22を構成する材料として使用可能な材料は、上記のとおりである。また、バインダー、溶剤、分散剤及び可塑剤等は、SOFCの空気極の製造方法において公知となっているバインダー、溶剤、分散剤及び可塑剤等の中から適宜選択できる。調製したペーストを、多層焼成体上にスクリーン印刷等により塗布し、乾燥させることによって、空気極22用のグリーン層が形成される。これを焼成することによって、空気極22が作製される。焼成温度は、特に限定されないが、800℃以上が望ましく、850℃以上がより望ましく、950℃以上がさらに望ましい。また、焼成温度は、1400℃以下が望ましく、1350℃以下がより望ましく、1300℃以下がさらに望ましい。また、焼成時の焼成時間は、特に限定されないが、0.1時間以上が望ましく、0.5時間以上がより望ましく、1時間以上がさらに望ましい。また、焼成時間は、10時間以下が望ましく、7時間以下がより望ましく、5時間以下がさらに望ましい。
【0104】
以上のような方法により、SOFC用単セル2を製造することができる。
【0105】
なお、ここでは燃料極支持型セルを例に挙げて説明したが、電解質支持型セル、空気極支持型セル及び金属支持型セルの場合であっても、同様に、本実施形態のジルコニア系酸化物を燃料極、空気極及び/又は固体電解質層に用いることが可能である。
【0106】
(実施形態4)
本発明のSOFCの実施形態について説明する。本実施形態のSOFCは、実施形態2で説明した電解質支持型セル、又は、実施形態3で説明したSOFC用単セルを備えている。本実施形態のSOFCは、例えば、積層されて互いに直列接続(スタック化)された複数の単セルを備えている。このとき、隣接する単セルを互いに電気的に接続すると同時に、マニホールドを介して燃料極と空気極とにそれぞれ燃料ガスと酸化剤ガスとを適正に分配する目的で、セル間に金属またはセラミックスからなるセパレータが配置される。なお、セパレータは、インタコネクタとも呼ばれる。
【0107】
本実施形態のSOFCに用いられる単セルは、実施形態2及び3で説明したとおり、硫黄成分を含む雰囲気に曝されても耐久性が低下しにくい。したがって、本実施形態のSOFCも、同様に、硫黄成分を含む雰囲気に曝されても耐久性が低下しにくい。これにより、本実施形態のSOFCは、都市ガスを改質することで生成した水素が燃料として用いられる場合であって、しかもその燃料に硫黄成分が含まれる可能性がある場合であっても、耐久性の低下を小さく抑えることができる。例えば、都市ガスを燃料に利用するSOFCシステムにおいて、燃料電池外に改質器を設けて都市ガスを改質するシステムの場合、改質器と共に脱硫装置も設けられる場合が多い。しかし、都市ガスをSOFC内で直接改質する内部改質型のSOFCが用いられるシステムでは、脱硫装置が設けられない場合もある。したがって、本実施形態のSOFCの構成は、特に、内部改質型のSOFCとした際に優れた効果を奏する。
【実施例】
【0108】
次に、本発明について、実施例を用いて具体的に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。また、以下、例えば、「xSc yCe zGd SZ」との表記は、xモル%の酸化スカンジウム(Sc)と、yモル%の酸化セリウム(CeO)と、zモル%の酸化ガドリニウム(Gd)と、残部の酸化ジルコニウム(ZrO)とを含んだ安定化ジルコニアを意味する。
【0109】
(1)ジルコニア系酸化物粉末の調製
Scが10モル%、CeOが1モル%、微量の希土類酸化物としてのGdが0.1モル%、微量の希土類酸化物としてのYが0.05モル%、残部がZrOとなるように、オキシ塩化ジルコニウムと、塩化スカンジウムと、塩化セリウムと、微量の塩化ガドリニウム及び塩化イットリウムとの混合水溶液を調製した。混合水溶液は、ZrOが0.2モル/Lとなるように調製された。攪拌機付槽型反応器に純水300mLを入れ、さらにアンモニア水を加えて、pH8.5とした。これに上記混合水溶液を液速50mL/分の割合で、また、アンモニア水(28質量%水溶液)を50mL/時の割合で、定量ポンプを用いてそれぞれ攪拌下注加した。反応器内の液量がほぼ一定となるように別の定量ポンプで反応液を排出しながら、中和共沈反応を連続的に行った。反応中pHが8.5±0.2の範囲になるように、該混合水溶液およびアンモニア水の液速を微調整しながら中和共沈反応を行った。排出液中の水酸化物を濾過により母液から分離し、次いで水洗を繰り返すことによって塩化アンモニウムを除去した。得られた水酸化物をn−ブタノール中に分散し、溶液温度が105℃になるまで常圧蒸留を行うことにより脱水を行った。次いで、この脱水された水酸化物を含むn−ブタノール分散液を噴霧乾燥させ、流動性の良い粉末を得た。この粉末を1000℃で1時間焼成することにより、凝集塊の認められない、比表面積が9m/gの10Sc1Ce0.1Gd0.05YSZ粉末(表1の試料1)を得た。
【0110】
試料2〜16のジルコニア系酸化物粉末については、表1に示す試料2〜16の組成となるように、所定量のオキシ塩化ジルコニウムと、塩化スカンジウムと、塩化セリウムと、さらに希土類酸化物としての微量の塩化ガドリニウム、塩化イットリウム、硝酸サマリウム、硝酸ネオジウム及び硝酸イッテルビウムと、硝酸アルミニウムとを適宜用いて混合水溶液を調製し、試料1のジルコニア系酸化物と同様の方法でジルコニア系酸化物粉末を得た。
【0111】
また、試料17〜31のジルコニア系酸化物粉末については、表2に示す試料17〜31の組成になるように、所定量のオキシ塩化ジルコニウムと、塩化スカンジウムと、さらに希土類酸化物としての微量の塩化セリウム、塩化ガドリニウム、塩化イットリウム、硝酸サマリウム、硝酸ネオジウム及び硝酸イッテルビウムと、硝酸アルミニウムとを適宜を用いて混合水溶液を調製し、試料1のジルコニア系酸化物と同様の方法でジルコニア系酸化物粉末を得た。
【0112】
(2)ジルコニア系酸化物粉末の組成分析
試料1〜31の各ジルコニア系酸化物粉末の組成分析については、ジルコニア(ZrO)と、スカンジア(Sc)を除くその他の全希土類酸化物の希土類元素と、その他の元素との定量は、ICP(Thermo Fisher SCIENTIFIC社製、型式:i CAP 6500 Duo)で3回行い、スカンジアの定量はXRF(BRUKER AXS社製、型式:S8 TIGER)で3回行い、それぞれの平均値から、各粉末中の含有量を計算した。なお、希土類酸化物の元素以外にAl、SiO、TiO、Fe、NaO、CaO及びClも不純物として検出されるが、例えば、SiO量はジルコニア粉末に対して0.005質量%以下、SiOを除く不純物はそれぞれ0.001質量%以下と極微量であった。各ジルコニア系酸化物粉末の組成計算法について、以下に述べる。
【0113】
[ジルコニア系酸化物粉末の組成計算法]
(I)各希土類元素分析値の平均値を用いて、X酸化物(Xは希土類元素を示す)に換算した値を、ジルコニア系酸化物粉末中の各希土類元素酸化物の含有量(質量%)とした。ただし、酸化セリウムはCeOとした。
(II)スカンジア(Sc)の分析値の平均値を、ジルコニア系酸化物粉末中のスカンジア含有量(質量%)とした。
(III)ジルコニア系酸化物粉末が、ジルコニア(ZrO)と、各希土類元素の酸化物(X)と、スカンジア(Sc)とのみからなると仮定し、各希土類酸化物(X)含有量(質量%)とスカンジア含有量(質量%)との合計(質量%)を求め、その残部をジルコニアの含有量(質量%)とした。
(IV)(III)で得られた質量基準での含有量(質量%)より、ジルコニア系酸化物粉末の単位質量に含まれる、各希土類元素の酸化物(X、CeO)と、スカンジア(Sc)と、ジルコニア(ZrO)とのそれぞれのモル数を計算する。
(V)各希土類元素の酸化物(X、CeO)及びスカンジア(Sc)のそれぞれのモル数を、各希土類元素の酸化物(X、CeO)、スカンジア(Sc)及びジルコニア(ZrO)のモル数の合計で除することにより得られた値を、各希土類元素の酸化物(X)及びスカンジア(Sc)のジルコニア系酸化物粉末に対する含有量(モル%)とした。
【0114】
(3)グリーンシートの作製
電解質成分として、上記のようにして調製した表1、表2に示す組成を有する試料1〜31のジルコニア系酸化物粉末を用い、それぞれのジルコニア粉末100質量部に対し、メタクリル系共重合体からなるバインダー(数平均分子量;100,000、ガラス転移温度;−8℃)を固形分換算で16質量部、分散剤としてソルビタン酸トリオレート2質量部、可塑剤としてジブチルフタレート3質量部、溶剤としてトルエン/イソプロパノール(質量比=3/2)の混合溶剤50質量部を、ジルコニアボールが装入されたナイロンミルに入れ、40時間ミリングしてスラリーを調製した。得られたスラリーを、碇型の攪拌機を備えた内容積50Lのジャケット付丸底円筒型減圧脱泡容器へ移し、攪拌機を30rpmの速度で回転させながら、ジャケット温度40℃とし、減圧(約4〜21kPa)下で濃縮脱泡し、25℃での粘度を3Pa・sに調整して、塗工用スラリーとした。この塗工用スラリーを、ドクターブレード法によりポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に連続的に塗工した。次いで、40℃、80℃、110℃で乾燥させることによって、長尺のグリーンテープを得た。このグリーンテープを打抜き刃(中山紙器材料社製)で約38mmφの円形に切断し、さらにPETフィルムから剥離して、それぞれのジルコニアグリーンシートを作製した。
【0115】
(4)電解質シートの作製
上記(3)で得たそれぞれのジルコニアグリーンシートを用い、当該グリーンシートの上下をウネリ最大高さが10μmの99.5%アルミナ多孔質板(気孔率:30%)で挟んで、当該グリーンシート5枚を含む積層体を作製した。この積層体を電気炉に搬入して脱脂した後、1420℃で3時間加熱焼成し、30mmφ、厚さ0.28mmの安定化ジルコニア電解質シートを作製した。得られたそれぞれの電解質シートの相対密度(アルキメデス法で測定された密度/理論密度)は、98.1〜99.5%の範囲であった。
【0116】
(5)SOFC用単セルの作製
(i)ESCの作製
上記(4)で得た電解質シート(試料1〜3、6〜9、12、13、15(16)、19〜25、28、29及び31の電解質シート)のそれぞれについて、一方の面に燃料極を、他方の面に空気極を形成し、SOFC用のESCを作製した。詳しくは、30mmφで厚さが0.28mmのそれぞれの電解質シートの一方面において、周縁部3mm幅の領域を除く約24mmφの領域に、塩基性炭酸ニッケルを熱分解して得た酸化ニッケル粉末(d50(メジアン径):0.9μm)65質量部と市販の8YSZ系粉末(第一稀元素社製、HSY−8.0)35質量部とを含む燃料極ペーストをスクリーン印刷で塗布し、乾燥させた。また、それぞれの電解質シートの他方面にも同様に、周縁部3mm幅の領域を除く約24mmφの領域に、市販のストロンチウムドープドランタンマンガン複合酸化物粉末(AGCセイミケミカル社製:La0.6Sr0.4MnO)80質量部と市販の20モル%ガドリニアドープセリア粉末(AGCセイミケミカル社製:GDC20)20質量部とを含む空気極ペーストを、スクリーン印刷で塗布し、乾燥させた。次いで、両面に電極を塗布したそれぞれの電解質シートを、1300℃で3時間焼成して、厚さが40μmの燃料極層と厚さが30μmの空気極層が形成された3層構造の30mmφの、表3および4に示す各ESCを作製した。
【0117】
(ii)ASCの作製
(a)燃料極支持基板の作成
市販の3YSZ系粉末(第一稀元素社製:HSY−3.0)50質量部と、市販の酸化ニッケル粉末(キシダ化学社製、d50(メジアン径):0.6μm)50質量部との合計100質量部に対し、上記(3)で用いたものと同様のバインダー(固形分換算で15質量部)、可塑剤(2質量部)及び混合溶剤(50質量部)と、気孔形成剤として市販のトウモロコシ澱粉5質量部とを、ジルコニアボールが装入されたボールミルポットに入れ、約60rpmで20時間混練することにより燃料極支持基板用スラリーを調製した。このスラリーを減圧脱泡機に入れて、スラリー中に浸された碇型攪拌羽根を10rpmの回転速度で24時間回転させながら濃縮脱泡し、25℃での粘度を8Pa・sに調整して塗工用スラリーとした。この塗工用スラリーを、ドクターブレード法によりPETフィルム上に連続的に塗工し、次いで、40℃、80℃、110℃で乾燥させて長尺のグリーンテープを得た。このグリーンテープを打抜き刃で約38mmφに切断して、さらにPETフィルムから剥離して、3YSZ/NiOグリーンシートを作製した。このグリーンシートを、グリーンシートの周縁がはみ出さない様に、ウネリ最大高さが10μmの99.5%ニッケルアルミネート多孔質板(気孔率:30%)で挟み、厚さ20mmの棚板(東海高熱工業社製、商品名「ダイヤライトDC−M」)上に載置し、1350℃で焼成した。これにより、30mmφの円形で、厚さが0.5mmの燃料極支持基板が作製された。得られた燃料極支持基板に、上記(5)(i)で用いた燃料極ペーストを燃料極支持基板の周縁から3mm幅の周縁部を除いてスクリーン印刷で塗布し、乾燥させた後、1300℃で焼成することによって、燃料極活性層付燃料極支持基板を作製した。
【0118】
(b)電解質層の作製
上記(1)で得た10Sc1Ce0.1GdSZ粉末(試料2)、10Sc1Ce0.1Gd0.05YSZ粉末(試料1)及び10Sc1CeSZ粉末(試料15,16)それぞれ25質量部に、α−テルピネオール30質量部とエチルアルコール100質量部とを混合した後、バインダーとしてのエチルセルロース1.5質量部と分散剤としてソルビタン酸トリオレート1質量部とを添加・混合・攪拌して、3つの電解質層用スラリーを得た。各電解質膜用スラリーを、上記(5)(ii)(a)で作製された燃料極活性層付燃料極支持基板の表面(燃料極活性層の表面)に塗布し、乾燥させた。スラリーの塗布及び乾燥を4回繰りかえした後、1320℃で3時間焼成して、燃料極活性層の上に電解質層を形成し、3つの燃料極支持型ハーフセル(10Sc1Ce0.1GdSZ電解質層を備えたハーフセル、10Sc1Ce0.1Gd0.05YSZ電解質層を備えたハーフセル、10Sc1CeSZ電解質層を備えたハーフセル)を作製した。
【0119】
(c)空気極層の作製
上記(5)(ii)(b)で作製した各燃料極支持型ハーフセルの電解質層の表面に、上記(5)(i)で用いた空気極ペーストをスクリーン印刷で塗布して乾燥させた。その後、1300℃で焼成して、電解質層の上に空気極層を形成し、表5に示す3種のASCを作製した。
【0120】
(iii)MSCの作製
板厚0.3mmの多孔質フェライト系ステンレス鋼(17%Cr−Fe)からなる金属基板の表面に、上記(5)(i)で用いた燃料極ペーストをスクリーン印刷で塗布して、乾燥させた。その後、水素還元雰囲気中において1250℃で焼成して、金属基板上に燃料極層を形成した。この燃料極層の上に、SPD法(熱スプレー分解法)によって、Gdを含む電解質粉末(上記(1)で得た10Sc1Ce0.1GdSZ粉末(試料2)とGdを含まない電解質粉末(上記(1)で得た10Sc1CeSZ粉末(試料15,16))を用いて、それぞれを5μmの厚さに成膜して電解質層を形成した。さらにその上に、市販のストロンチウムドープドランタン鉄コバルト複合酸化物(La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8)の粉末を溶射によって30μmの厚さに積層することによって空気極層を形成し、表6に示す2種のMSCを作製した。
【0121】
(6)評価試験
(i)電解質シートの酸素イオン導電率
上記(3)で作製したグリーンシートを、それぞれ1420℃で3時間加熱焼成し、幅10mm×長さ50mmの短冊状電解質シートを作製した。それぞれの相対密度は表1及び2に示すとおりである。
【0122】
得られた短冊状電解質シートをテストピースとし、800℃に保持した電気炉中で、ターシャリーブチルメルカプタン(硫黄化合物)を10ppm含有する空気(以下、硫黄成分含有空気)を流通させながら、100時間後、1000時間後及び2000時間後、また、試料1、2、15、20、28及び31についてはさらに3000時間経過後の、テストピースの酸素イオン導電率を測定した。
【0123】
具体的には、図3に示すように、テストピース31に1cm間隔で4ヵ所に直径0.2mmの金線32a〜32dを巻付け、金ペーストを塗ってから100℃で乾燥・固定して電流・電圧端子とし、金線32a、32dがテストピース31に密着する様に、金線32a、32dを巻いたテストピース31の両端をアルミナ板33で挟み、その上から約500gの荷重34をかけた状態で800℃に保持し、外側の2端子(金線32a、32d)に0.1mAの一定電流を流し、内側の2端子(金線32b、32c)の電圧をデジタルマルチメーター(アドバンテスト社製、商品名「TR6845型」)(図示せず)を使用し、直流4端子法で測定した。また、リード線(図示せず)にも金線を用いた。
【0124】
なお、テストピースは、管状電気炉に載置したガラス管の中央部に位置するように配置された。このガラス管両端の一方から他方へ硫黄成分含有空気を連続的に流通することによって、テストピースが常に硫黄成分含有空気に暴露される状態とした。
【0125】
酸素イオン導電率の耐久安定性(導電率の低下率)は、硫黄成分含有空気に曝される前のテストピースの導電率(初期導電率)と、硫黄成分含有空気に所定時間曝された後のテストピースの導電率(所定時間後の導電率)との測定結果を用いて、下記式によって求めた。
導電率の低下率=[(初期導電率−所定時間後の導電率)/初期導電率]×100(%)
【0126】
各電解質シートの導電率の低下率の結果は、表1及び表2されている。
【0127】
なお、試料16の電解質シートについての導電率の低下率の結果は、硫黄成分含有空気によって導電率が低下することを確認するための参考例として、試料15と同じグリーンシートを用いて作製されたテストピースを用いて、上記評価試験方法においてテストピースが暴露される空気を硫黄成分含有空気から硫黄成分を含有しない空気へ変更した場合の結果である。
【0128】
表1及び2に示すように、100時間経過後の導電率の低下率は、10Sc1Ce1AlSZ電解質シート(試料14)と9Sc1AlSZ電解質シート(試料30)とでは2%以上であるが、その他の電解質シートでは1.7%以下で大きな差は確認されなかった。
【0129】
しかし、2000時間経過後では、本発明の電解質シートの要件を満たす電解質シート、すなわち、表1に示す、Sc及びCeOで安定化され、かつ、0.003モル%以上0.5モル%未満の希土類酸化物Aを含むジルコニア系酸化物で構成されている電解質シート(試料1〜11の電解質シート(実施例))、及び、表2に示す、Scで安定化され、かつ、0.003モル%以上0.5モル%未満の希土類酸化物Bを含むジルコニア系酸化物で構成されている電解質シート(試料17〜27の電解質シート(実施例))の導電率の低下率は、いずれも8%未満であったのに対し、本発明の電解質シートの要件を満たさない試料12〜15及び28〜31の電解質シート(比較例)の導電率の低下率は、いずれも8%以上であった。このように、本発明の電解質シートの要件を満たす電解質シートは、2000時間経過後の導電率の低下率が小さく、さらに3000時間経過後では導電率の低下率の差がさらに大きくなった。この結果から、本発明の電解質シートは、硫黄成分含有雰囲気下において、酸素イオン導電率の経時変化が小さいということが確認された。
【0130】
また、10Sc1Ce0.1GdSZ電解質シート(試料2)の低下率と、10Sc1Ce0.1Gd0.05YSZ電解質シート(試料1)の低下率とを比較すると、酸化ガドリニウム(Gd)に加えて酸化イットリウム(Y)をさらに含む電解質シートは、酸化イットリウム(Y)を含まない電解質シートよりも、1000時間〜3000時間経過後の導電率の低下率が小さかった。この結果から、酸化ガドリニウム(Gd)と酸化イットリウム(Y)とを共に含む電解質シートは、酸化イットリウム(Y)を含まない電解質シートよりも、酸素イオン導電率の経時変化を抑制する効果が高いことが確認された。
【0131】
なお、同じ10Sc1CeSZ電解質シートを用いて測定された、暴露される空気中に硫黄成分が含まれている場合の導電率の低下率と、硫黄成分が含まれていない場合の低下率とを比較すると(試料15と試料16の電解質シートの導電率の低下率を比較すると)、本発明者が見出した、「硫黄成分含有雰囲気下では、従来の固体電解質層では酸素イオン導電率の経時変化が大きくなる」、という課題の存在が確認できる。
【0132】
(ii)電解質シートの3点曲げ強度
上記(6)(i)と同じテストピースを20本用いて、JIS R1601に準拠して3点曲げ強度を測定した。この測定は、3点曲げ強度試験用治具を取り付けた万能材料試験装置(インストロン社製;型式4301)を用いて行った。スパンは20mmとし、クロスヘッド速度は0.5mm/分とした。そして、各測定値の平均値を計算し、これを3点曲げ強度とした。その結果を表1及び2にまとめて示す。
【0133】
(iii)電解質シートの結晶相
上記の直径30mmφで厚さ0.28mmの各電解質シートについて、X線回折測定を行った。この測定は、理学電器社製の「RU−3000」を用いて行った。X線はCuKα1(50kV/300mA)とし、広角ゴニオメータ及び湾曲結晶モノクロメータを用いて、2θ=25°〜70°の範囲で測定した。そして、立方晶に対応したピークとともに、菱面体晶に特徴的な2θ=30.6°などのピーク、単斜晶に特徴的な2θ=28.2°などのピーク、及び正方晶に特徴的な2θ=30.2°などのピークを観察した。なお、立方晶のメインピーク[(111)面]は、2θ=30.5°付近に現れる。そのため、上記菱面体晶のメインピーク[(101)面]や正方晶のメインピーク[(111)面]は、立方晶のメインピークと重なり確認が困難な場合がある。そこで、菱面体晶の確認は、立方晶のピークに影響され難い2θ=51.3°付近のピークの有無で行った。なお、このときに観察されたピークの半価幅は1°以下であった。観察結果を表1及び2にまとめて示す。
【0134】
(iv)発電特性
表3及び4に示すESC(セル番号:ESC−1〜ESC−20)、表5に示すASC(セル番号:ASC−1〜ASC−3)、さらに、表6に示すMSC(セル番号:MSC−1、MSC−2)の各セルを、各々図4に示す公知の単セル発電評価装置を用いて、100時間、1000時間及び2000時間経過後の電圧(V)を測定した。また、セル番号ESC−1、ESC−2、ESC−10、ESC−14、ESC−18及びESC−19のESCについては、3000時間経過後の電圧(V)も測定した。図4中、41は電気炉、42はジルコニア製外筒管、43はジルコニア製内筒管、44は金リード線、45は固体電解質層、46はシール材、48は空気極、47は燃料極を示す。なお、ESCの場合は作動温度が850℃、ASCの場合は作動温度が750℃、MSCの場合は作動温度が700℃であった。また、電圧測定器としてはアドバンテスト社製の商品名「TR6845」を用い、電流電圧発生器としては高砂製作所社製の商品名「GPO16−20R」を使用した。燃料極側に燃料ガスとしてターシャリーブチルメルカプタンを10ppm含有する水素を1リットル/分、空気極側に酸化剤として空気を1リットル/分流通下、0.3A/cmの一定電流を通電させながら運転を行った。
【0135】
セル発電特性の低下率は、100時間後の電圧に対する所定時間後の電圧の変化率を測定し、下記式によって求めた。結果は、表3〜6に示されている。
発電特性の低下率=[(100時間後の電圧−所定時間経過後の電圧)/(100時間後の電圧)]×100(%)
【0136】
表3に示す、本発明の単セルの要件を満たすセル、すなわち、固体電解質層に、Sc及びCeOで安定化され、かつ、0.003モル%以上0.5モル%未満の希土類酸化物Aを含むジルコニア系酸化物で構成されている電解質シートが用いられているESC(ESC−1〜ESC−7(実施例))は、その発電特性の低下率が、表3に示すように、2000時間経過後でも14%未満であった。これに対し、本発明の単セルの要件を満たさないESC−8〜ESC10のESC(比較例)では、発電特性の低下率が16%以上であった。本発明の単セルの要件を満たすセルと満たさないセルとの発電特性の低下率の差は、3000時間経過後ではますます大きくなり、発電特性の低下率で5%以上になった。
【0137】
表4に示す、本発明の単セルの要件を満たすセル、すなわち、固体電解質層に、Scで安定化され、かつ、0.003モル%以上0.5モル%未満の希土類酸化物Bを含むジルコニア系酸化物で構成されている電解質シートが用いられているESC(ESC−11〜ESC−17(実施例))は、その発電特性の低下率は、表4に示すように、2000時間経過後でも15%未満であった。これに対し、本発明の単セルの要件を満たさないESC−19及びESC20のESC(比較例)では、発電特性の低下率が15%以上であった。なお、ESC−18では、2000時間経過後の発電特性の低下率が低く抑えられているが、これは、1000〜2000時間の間にESC−18のESCの評価に用いられた燃料ガスへの硫黄成分の供給に不備があったためであると考えられる。2000〜3000時間の間では硫黄成分の供給に問題がなかったため、ESC−18のESCは、3000時間経過後にその導電率の低下率がESC−19と同程度の20%以上になった。すなわち、本発明の単セルの要件を満たすセルと満たさないセルとの発電特性の低下率の差は、3000時間経過後では、発電特性の低下率で5%以上になった。
【0138】
これらの結果から、硫黄成分含有雰囲気下における電極への影響を加味しても、本発明の電解質シートを用いたESC、すなわち本発明の電解質支持型セルは、発電特性の低下率が抑制されることが判る。
【0139】
表5に示すASC及び表6に示すMSCの発電特性の低下率も、本発明の単セルの要件を満たすセルと満たさないセルとの発電特性の低下率の差は、2000時間経過でいずれも5%以上になった。
【0140】
以上の結果から、本発明の単セルは、硫黄成分含有雰囲気下において優れた耐久性を示すといえる。
【0141】
【表1】
【0142】
【表2】
【0143】
【表3】
【0144】
【表4】
【0145】
【表5】
【0146】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明のSOFC用電解質シートは、例えば都市ガス等の硫黄化合物が含まれる燃料が利用される場合であっても、耐久性の低下を小さく抑えることができる。したがって、本発明のSOFC用電解質シートは、例えば都市ガス等を燃料に利用する家庭用SOFCの電解質層としても、好適に利用できる。また、本発明のSOFC用単セル及びSOFCは、燃料に硫黄化合物が含まれる場合であっても、耐久性の低下を小さく抑えることができるので、例えば都市ガス等を燃料に利用するSOFCとして好適に利用できる。

図1
図2
図3
図4