(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5890943
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】リン酸マグネシウム水和物を用いた吸熱材
(51)【国際特許分類】
C09K 5/14 20060101AFI20160308BHJP
C09K 21/04 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
C09K5/14 Z
C09K21/04
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-539976(P2015-539976)
(86)(22)【出願日】2014年2月14日
(86)【国際出願番号】JP2014000765
(87)【国際公開番号】WO2015121894
(87)【国際公開日】20150820
【審査請求日】2015年11月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000110804
【氏名又は名称】ニチアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086759
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 喜平
(74)【代理人】
【識別番号】100112977
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 有子
(72)【発明者】
【氏名】中間 茂
(72)【発明者】
【氏名】木原 規浩
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 太一
(72)【発明者】
【氏名】津村 大輔
【審査官】
馬籠 朋広
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−191493(JP,A)
【文献】
特開2010−126389(JP,A)
【文献】
特開2008−138032(JP,A)
【文献】
特開2006−160858(JP,A)
【文献】
特開平09−003778(JP,A)
【文献】
特開2008−274253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00
C09K 21/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸マグネシウム水和物と、珪酸ナトリウムを含む無機バインダーを、含む粒子が、
ガラスクロス、シリカクロス又はアルミナクロスである耐熱クロスからなる容器に収容されている吸熱材。
【請求項2】
前記リン酸マグネシウム水和物が、リン酸3マグネシウム8水和物である請求項1記載の吸熱材。
【請求項3】
前記粒子の平均粒径が、0.01mm〜20mmである請求項1又は2記載の吸熱材。
【請求項4】
前記耐熱性クロスが、表面にアルミが蒸着されたクロスである請求項1〜3のいずれか記載の吸熱材。
【請求項5】
前記容器が、複数連続して繋がっている請求項1〜4のいずれか記載の吸熱材。
【請求項6】
リン酸マグネシウム水和物と水ガラスを混合し、造粒して含水粒子を得、
前記含水粒子から水を除去して粒子を得、
前記粒子を、ガラスクロス、シリカクロス又はアルミナクロスである耐熱クロスからなる容器に収容する、吸熱材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸マグネシウム水和物を用いた吸熱材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所、火力発電所、その他火事等の災害により施設内のケーブルに耐熱性又は耐火性を持たせなければならない施設がある。通常、これらのケーブルに吸熱材を被覆することで耐熱性又は耐火性を実現している。
【0003】
従来の吸熱材は、加熱された際に、高分子吸収体に水を含ませたもので吸熱させるか、又は水酸化アルミニウム水和物に含まれる水分子(結晶水)を用いて吸熱させるかによって吸熱していた。
しかしながら、従来の吸熱材は、かさ張ること及び重量が重いこと、又はケーブルを敷設した後ではケーブル被覆を行うだけのスペースが狭いことからケーブル被覆の交換が困難であることが問題となっていた。
【0004】
高分子吸収体による吸熱材は、通常包袋で包まれているが、包袋が破れると常温でも水が蒸発して機能しなくなる。
水酸化アルミニウム水和物を用いた吸熱材は、水和物の分解温度がケーブルの耐熱温度よりも高いため、水和物が分解される前にケーブルが破損してしまうといった問題があった。
【0005】
そこで、交換不要、狭い場所にも施工可能、軽量、効率的に吸熱する吸熱材が求められていた。
一方、リン酸マグネシウム水和物は吸熱材として知られている(特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−274253号公報
【特許文献2】特開2009−191493号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、新規な吸熱材を提供することである。
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、リン酸マグネシウム水和物を含む粒子を用いた吸熱材が、扱い易く吸熱材として優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明によれば、以下の吸熱材及びその製造方法が提供される。
1.リン酸マグネシウム水和物とバインダーを含む粒子を、具備する吸熱材。
2.前記リン酸マグネシウム水和物が、リン酸3マグネシウム8水和物である1記載の吸熱材。
3.前記バインダーが、無機バインダーである1又は2記載の吸熱材。
4.前記バインダーが、珪酸ナトリウムである1〜3のいずれか記載の吸熱材。
5.前記粒子の平均粒径が、0.01mm〜20mmである1〜4のいずれか記載の吸熱材。
6.前記粒子が、容器に収容されている1〜5のいずれか記載の吸熱材。
7.前記容器が、耐熱性クロスからなる6記載の吸熱材。
8.前記耐熱性クロスが、ガラスクロス、シリカクロス又はアルミナクロスである7記載の吸熱材。
9.前記耐熱性クロスが、表面にアルミが蒸着されたクロスである7記載の吸熱材。
10.前記容器が、複数連続して繋がっている1〜9のいずれか記載の吸熱材。
11.リン酸マグネシウム水和物と水ガラスを混合し、造粒して含水粒子を得、
前記含水粒子から水を除去して粒子を得る、吸熱材の製造方法。
12.前記粒子を、容器に収容する11記載の吸熱材の製造方法。
【0010】
本発明によれば、新規な吸熱材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の吸熱材に用いる包袋の一例の斜視図である。
【
図2】実施例2で用いたケーブルを載せたケーブルラックの縦断面図である。
【
図3】実施例2で製造した耐火構造の概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の吸熱材は、リン酸マグネシウム水和物とバインダーを含む粒子からなる。
リン酸マグネシウム水和物として、リン酸3マグネシウム8水和物(Mg
3(PO
4)
2・8H
2O)、3、5、10、22水和物が例示されるが、リン酸3マグネシウム8水和物が好ましい。リン酸マグネシウム水和物は100℃付近から分解し吸熱反応が進む。
【0013】
バインダーとして無機バインダーや有機バインダーを用いることができる。
無機バインダーは、珪酸ナトリウム(水ガラス由来物、Na
2SiO
3、Na
2O・SiO
2又はNa
2O・nSiO
2・mH
2O)、コロイダルシリカ、ベントナイト等が例示されるが、珪酸ナトリウムが好ましい。
有機バインダーは、PVA(ポリビニルアルコール)、CMC(カルボキシメチルセルロース)、澱粉等が例示される。
【0014】
本発明の吸熱材は、不可避不純物を除いて、リン酸マグネシウム水和物とバインダーのみから構成してもよい。
粒子において、通常、リン酸マグネシウム水和物は1〜99重量%、バインダーは1〜99重量%含まれ、好ましくは、リン酸マグネシウム水和物は50〜99重量%、バインダーは1〜50重量%含まれ、より好ましくは、リン酸マグネシウム水和物は70〜99重量%、バインダーは1〜30重量%含まれる。
【0015】
本発明では、造粒した吸熱材を用いる。リン酸マグネシウム水和物を粉の状態で用いると袋詰めし難く(シールし難い等)、袋の中で下方に偏りやすい。上記粒子の平均粒径は、好ましくは0.01mm〜20mmであり、より好ましくは0.1mm〜15mmである。粒径が小さいほど表面積が大きくなり、吸熱材として優れるが、扱い難くなる。
【0016】
本発明の吸熱材は、通常、粒子を、袋、ケース等の容器に入れて用いる。袋状の耐熱性クロス(布、シート、フィルム等)に入れて閉じたものが好ましい。耐熱性クロスとして、ガラスクロス、シリカクロス又はアルミナクロス等が挙げられる。表面にアルミが蒸着されたクロスが耐火性に優れ好ましい。容器は気密性は求められない。
【0017】
図1に本発明の吸熱材に用いる包袋の一例の斜視図を示す。この包袋2は、複数の袋4が、マチ6を介してその側辺で並んで繋がったものである。上方の開口部から粒子を入れて閉じる。このような構造の包袋であると、狭い場所に持ち運ぶとき、畳んだり丸めたりして運べるため便利である。また、対象物の形状に合わせて、配置できる。さらに、図に示す点線から、即ち袋4と袋4を繋ぐマチ6の部分を切断して使用することもできる。
【0018】
本発明の吸熱材に用いる粒子は、リン酸マグネシウム水和物と水ガラス(Na
2O・nSiO
2・mH
2O)を混合し、造粒して含水粒子を得、この含水粒子から水を除去して得ることができる。さらに、必要により、得られた粒子を、容器に収容する。
【0019】
本発明の吸熱材は、それだけで断熱材として利用できるが、他の断熱材と組み合わせてもよい。組み合わせることにより、さらに効果的な断熱構造を構成でき、強力な断熱性及び耐火性を発揮できる。
【実施例】
【0020】
実施例1
リン酸3マグネシウム8水和物と、水ガラス3号(珪酸ナトリウム)(Na
2O・nSiO
2・mH
2O(n=3.0〜3.4))を重量比91:9で混合し、造粒して、平均粒径2mm〜7mmの含水粒子を得た、これを90℃での乾燥により水を除去して粒子を得た。得られた粒子を、ガラスクロス製の包袋に収容して吸熱材を製造した。包袋は、
図1に示すように、縦160mm、横160mmの長方形を、10mmのマチを介して、横方向に複数繋げた形状であった。厚さは25mmであった。
【0021】
実施例2
(1)耐火構造の組み立て
実施例1で製造した吸熱材及び以下の第1及び第2の断熱材を用いて、
図2,3に示す耐火構造を組み立てて、耐火試験を実施した。
図2は、実験に用いたケーブルを載せたケーブルラックの縦断面図であり、
図3は、耐火構造の概略縦断面図である。
【0022】
図2に示すように、ケーブルラック100の脚102を立て、段104をケーブルラック付属の架台に固定し、ケーブルラック100を組み立てた。ケーブルラックの段104に、ケーブル200が入ったケースを載せた。
図3に示すように、実施例1で製造した吸熱材10で、ケーブルラックの脚102、段104の周囲を囲んだ。さらに、その周囲を、積層断熱材20で囲った。積層断熱材20は、ケーブルのある内側から、以下の第1の断熱材22を1層(20mm)、及び以下の第2の断熱材24を3層(25mm×3)を積層し、外側全体をシリカクロスで包んだものである。
縦型炉中に、ケーブルラック100を設置した。
【0023】
・第1の断熱材:エアロゲル・無機繊維複合材(パイロジェル、アスペン(株))
・第2の断熱材:生体溶解性繊維ブランケット(生体溶解性繊維組成:SiO
2含有量約73質量%、CaO含有量約25質量%、MgO含有量約0.3質量%、Al
2O
3含有量約2質量%)
【0024】
(2)耐火構造の評価
図3に、熱電対の設置位置を示す。
熱電対は、第2の断熱材24の内側から2層目と3層目の間(
図4中、48)、第2の断熱材24の内側から1層目と2層目の間(
図4中、46)、第2の断熱材24と第1の断熱材22の間(
図4中、44)、第1の断熱材22と吸熱材10の間(
図4中、42)、及び上段に載ったケーブルケースの直上(
図4中、40)に設置した。
縦型炉において、バーナーにより、ISO標準耐火曲線で3時間加熱を行った後、2時間放冷した。それぞれの熱電対の設置位置における、1,2,3,5,8,10時間後の測定温度(℃)を、表1に示す。
【0025】
表1に示すように、外側が1000℃を超える温度であっても、ケーブルケースの直上40の温度は163℃程度であり、ケーブルの導通が確保されることが確認された。さらに、ケーブルケースの直上40の温度は、加熱後3時間経過付近で約20分100℃を維持したが、これは吸熱材に含まれる水が蒸発する作用によると考えられる。
【0026】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の吸熱材は、原子力発電所等、耐火性が求められる場所又は設備に用いる吸熱材として使用できる。
【0028】
上記に本発明の実施形態及び/又は実施例を幾つか詳細に説明したが、当業者は、本発明の新規な教示及び効果から実質的に離れることなく、これら例示である実施形態及び/又は実施例に多くの変更を加えることが容易である。従って、これらの多くの変更は本発明の範囲に含まれる。
この明細書に記載の文献の内容を全てここに援用する。