【実施例】
【0030】
以下、本発明例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0031】
1.コージェライト原料粉末の作製
(原料粉末A〜I)
コージェライト原料粉末A〜Hの作製には、市販の平均粒径1μm以下、純度99.9%以上の高純度なマグネシア、アルミナ、シリカ粉末を用いた。また、比較として、原料粉末Iでは、天然原料であるカオリン、タルクをアルミナ、マグネシア、シリカ源の一部に用いた。
【0032】
・コージェライト原料粉末A
マグネシア、アルミナ、シリカの各粉末を、コージェライト組成になるように秤量し、1400℃で5時間大気雰囲気下で加熱し、コージェライト粗粒物を得た。得られたコージェライト粗粒物に対し、アルミナを玉石(φ3mm)とし、溶媒にイオン交換水を用いたポットミルにて70時間粉砕し、平均粒径0.5〜0.6μm程度のコージェライト粉砕物を作製した。この粉砕物を後述する方法にて組成分析し、粉砕過程で混入したアルミナ分に対し、マグネシア、シリカ粉末を適宜追加することでコージェライト組成になるように再調整し、再度4時間混合した。得られたスラリーを窒素ガスフロー下、110℃で乾燥をし、乾燥物を篩に通してコージェライト原料粉末Aとした。
【0033】
・コージェライト原料粉末B,C
粉砕工程におけるアルミナメディアからのアルミナ混入量分を、予めコージェライト組成から減量した組成となるように、マグネシア、アルミナ、シリカの各粉末を秤量し、粉砕後にマグネシア、シリカ粉末の追加を行わなかった以外は、コージェライト原料粉末Aと同様の方法で作製した。
【0034】
・コージェライト原料粉末D
粉砕後にマグネシア、シリカの追加を行わなかった以外は、コージェライト原料粉末Aと同様の方法で作製した。
・コージェライト原料粉末E〜H
粉砕後にマグネシア、シリカの調整を過剰または過少とした以外は、コージェライト原料粉末Aと同様な方法で作製した。
【0035】
・コージェライト原料粉末I
アルミナ、マグネシア、シリカ源の一部に天然原料であるカオリン、タルクを用いた他はコージェライト原料粉末Aと同様の方法で作製した。
【0036】
表1に、作製したコージェライト原料粉末A〜Iの最終的な組成、不純物成分量、平均粒径を示した。
【0037】
【表1】
【0038】
2.コージェライト焼結体の作製及び評価
上記のようにして作製したコージェライト原料粉末A〜Iのそれぞれを、50kgf/cm
2にて一軸金型プレス成形をし、φ100mmで厚さ25mm程度の成形体を得た。得られた成形体を黒鉛製のモールドに収容し、ホットプレス炉を用いて、プレス圧力20〜200kgf/cm
2下で最高温度1400〜1425℃で5時間焼成をし、コージェライト焼結体を作製した。焼成雰囲気はアルゴン雰囲気とし、昇温速度は200℃/hr、降温速度は200℃/hrとし、降温時は1200℃以下を炉冷とした。得られた各コージェライト焼結体から、抗折棒、及び、φ100mm×厚さ1mmの円盤状の試料等を切り出し、評価試験に供した。評価試験は以下のとおり。
【0039】
・組成分析
高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法により、コージェライト原料粉末、コージェライト焼結体の粉砕物のMgO、Al
2O
3、SiO
2、不純物成分の量を測定した。
【0040】
・焼結体の嵩密度
抗折棒を用い、純水を用いたアルキメデス法により、嵩密度を測定した。
【0041】
・結晶相
コージェライト焼結体を粉砕し、X線回折装置により、コージェライト、異相の同定と各相のピークトップ強度の算出を行った。測定条件はCuKα、50kV、300mA、2θ=5−70°とし、回転対陰極型X線回折装置「理学電機製「RINT」を用いた。X線回折図から、コージェライトの(110)面のピークトップ強度(Ic)に対する、検出された各異相(P、Q、R、・・・)の最大ピークの強度(Ip、Iq、Ir、・・・)の総和の比(Ix)を求めた。なお、第一ピーク(最強線)が重なる場合は第二ピークを採用した。
Ix=(Ip+Iq+Ir・・・)/Ic
【0042】
・表面平坦性
4×3×10mmのコージェライト焼結体の試験片に対し、一面を研磨によって鏡面状に仕上げた。鏡面状に仕上げた表面に対し、AFMを用いて中心性平均粗さRaと、最大山高さRpを測定した。それぞれの測定範囲は、10μm×10μm、70μm×70μmとした。なお、研磨は、3μmのダイヤモンド砥粒、0.5μmのダイヤモンド砥粒の順に進め、最終仕上げにはコロイダルシリカスラリー(pH=11、粒径80nm)と不織布パッドを用いたバフ研磨とした。
【0043】
・焼結粒子の平均粒径
上記のように仕上げた焼結体の研磨面を、1400℃で2hrサーマルエッチングをし、SEMにてコージェライト焼結粒子の大きさを平均粒径として算出した。算出には線分法を用い、測定値に対して1.5倍した値を平均粒径とした。
【0044】
・気孔の数
上記のように仕上げた焼結体の研磨面に対し、任意の4μm×4μm範囲をAFM観察し、最大長さが0.1μm以上の気孔の数を測定した。
【0045】
・光学特性
厚さ0.5mmのコージェライト焼結体の試験片に対し、波長200〜3000nmの光に対する全透光率、直線透過率を測定した。測定には分光光度計を用い、試料面の法線方向から平行に近い光線束を入射させて試料の透過光を測定した。標準試料は、光路中に試料を挿入しない場合の空気層とし、その分光透過率を1として、試料の透過光を積分球で受けることで全透光率を、試料面の法線方向の透過光から直線透過率をそれぞれ算出した。550nmの波長に対する全透光率、直線透過率を代表値とした。
【0046】
コージェライト焼結体の作製及び評価の詳細について、以下の実験例1〜17で説明する。表2には、各実験例の焼結体作製条件及び得られたコージェライト焼結体の組成を示し、表3には、各実験例の評価試験の結果つまりコージェライト焼結体の特性を示す。なお、実験例1〜3,12〜17が本発明の実施例に相当し、実験例4〜11が本発明の比較例に相当する。本発明は、これらの実験例に限定されるものではない。
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
(実験例1)
実験例1のコージェライト焼結体は、コージェライト原料粉末Aを、プレス圧力200kgf/cm
2下で1425℃で5hr焼結したものである。得られたコージェライト焼結体のMgO/Al
2O
3、SiO
2/Al
2O
3のモル比はそれぞれ1.00、2.50であり、コージェライトの量論比からのずれは非常に小さく、不純物量も少なかった。焼結体の嵩密度は2.507g/cm
3であり、コージェライト真密度の2.505g/cm
3に極めて近く、閉気孔が殆ど含まれないことがわかった。
図4に、実験例1のコージェライト焼結体粉砕物のXRD回折図を示す。コージェライト以外の相としてコランダム(図中●)のみが検出されたが、コージェライト(110)(図中○)のピークトップ強度に対するピーク強度比Ixは0.0020であり、極めて小さかった。
図5に、コージェライト焼結体の研磨面をサーマルエッチングし、SEM観察した結果を示す。これより、コージェライト焼結粒子の平均粒径は0.6μmであり、非常に微細なコージェライト粒子が緻密に焼結していることがわかった。また、研磨面の4μm×4μm範囲において、最大長さが0.1μm以上の気孔の数は3個であった。研磨面の表面平坦性は、中心線平均粗さRaが0.8nmで小さく、最大山高さも20nmで小さいことがわかった。
図6には光学特性として透過率曲線を示す。直線透過率は500〜3000nmで60%以上で極めて高く、非常に透明性の高い材料であることがわかった。得られたコージェライト焼結体のサンプルの外観写真を
図7に示した。
図7に描かれたNGKのロゴ入りマークは日本碍子(株)の登録商標である。
【0050】
(実験例2,3)
実験例2,3のコージェライト焼結体は、コージェライト原料粉末B,Cをそれぞれ、実験例1と同様な条件で焼結したものである。得られたコージェライト焼結体の組成、成分のモル比は表2の通りであり、いずれもコージェライトの量論比からのずれは非常に小さかった。他の特性においても、実験例1と類似の特性が得られており、異相が少ない状態で緻密性が高く気孔が少なく焼結できており、表面平坦性の高い材料ができていることがわかった。透明性も実験例1と同様に高かった。
【0051】
(実験例4)
実験例4では、焼成温度を1400℃とした以外は、実験例1と同様な条件でコージェライト焼結体を作製した。焼成温度が低いため、アルミナやシリカ等原料成分のコージェライト化反応が十分進まず、コランダムやクリストバライトの異相が多く残っていることがわかった。研磨面の表面平坦性は、中心線平均粗さRaが1.8nm、最大山高さRpが28nmと大きかった。これらより、コージェライトと異相成分との間で研磨のされ易さが異なり、特に異相成分が研磨され難いことによって凸状に残り易いと推定される。
【0052】
(実験例5)
実験例5では、焼成温度を1400℃とした以外は、実験例2と同様な条件でコージェライト焼結体を作製した。実験例4と同様、焼成温度が低いため、コランダムとクリストバライトが異相として残り、研磨面の表面平坦性は、Raが1.3nm、Rpが31nmで共に良くなかった。
【0053】
(実験例6)
実験例6では、コージェライト原料粉末Dを用いた以外は、実験例1と同様な条件でコージェライト焼結体を作製した。原料中のアルミナが過剰であるため、焼結体でもアルミナ過剰となり、MgO/Al
2O
3のモル比が0.94、SiO
2/Al
2O
3のモル比が2.36で、コージェライト組成よりも小さかった。異相として検出されるコランダムやクリストバライトの量が多く、研磨面の表面平坦性は、Raが3.5nm、Rpが88nmで大きく、平坦性高く仕上げることができなかった。
【0054】
(実験例7)
実験例7では、コージェライト原料粉末Eを用いた以外は、実験例1と同様な条件でコージェライト焼結体を作製した。コージェライト焼結体のMgO/Al
2O
3のモル比が0.93とMgOが不足しており、コランダムやクリストバライトが異相として検出され、ピーク強度比Ixからその量も多いことがわかった。そのため研磨面の表面平坦性は、Raが3.3nm、Rpが67nmで大きく、平坦性高く仕上げることができなかった。
【0055】
(実験例8)
実験例8では、コージェライト原料粉末Fを用いた以外は、実験例1と同様な条件でコージェライト焼結体を作製した。コージェライト焼結体のSiO
2/Al
2O
3のモル比が2.42とSiO
2が不足しており、コランダムが異相として検出され、ピーク強度比Ixからその量も多いことがわかった。そのため研磨面の表面平坦性は、Raが2.1nm、Rpが40nmで大きく、平坦性高く仕上げることができなかった。
【0056】
(実験例9)
実験例9では、コージェライト原料粉末Gを用いた以外は、実験例1と同様な条件でコージェライト焼結体を作製した。コージェライト焼結体のMgO/Al
2O
3のモル比が1.09とMgOが過剰に存在しており、XRDからエンスタタイトが異相として検出され、他に少量のコランダム、クリストバライトが認められた。XRDでのピーク強度比Ixは高く、異相量は多かった。そのため研磨面の表面平坦性は、Raが1.5nm、Rpが29nmで大きく、平坦性高く仕上げることができなかった。
【0057】
(実験例10)
実験例10では、コージェライト原料粉末Hを用いた以外は、実験例1と同様な条件でコージェライト焼結体を作製した。コージェライト焼結体のSiO
2/Al
2O
3のモル比が2.65であり、SiO
2が過剰に存在していた。
図8に実験例10のコージェライト焼結体の粉砕物のXRD回折図を示す。
図8から、XRDからクリストバライトと少量のコランダムが異相として検出され、ピーク強度比Ixより異相量が多いことがわかった。そのため研磨面の表面平坦性は、Raが3.1nm、Rpが47nmで大きく、平坦性高く仕上げることができなかった。
【0058】
(実験例11)
実験例11では、コージェライト原料粉末Iを用い、焼成温度を1400℃とした以外は、実験例1と同様な条件でコージェライト焼結体を作製した。天然原料由来の不純物であるFe
2O
3やTiO
2成分が多く含まれていた。XRDから、酸化鉄、コランダム、サフィリンが異相として検出され、ピーク強度比Ixは高く、異相量は多かった。そのため研磨面の表面平坦性は、Raが3.5nm、Rpが84nmとなり、平坦性高く仕上げることができなかった。
【0059】
(実験例12〜14)
実験例12,13,14では、プレス圧力をそれぞれ20,50,100kgf/cm
2とした以外は、実験例1と同様な条件でコージェライト焼結体を作製した。得られたコージェライト焼結体の組成、成分のモル比は表2の通りであり、いずれもコージェライトの量論比からのずれは非常に小さかった。また、他の特性は、表3の通りであり、実験例1と類似の特性が得られており、異相が少ない状態で緻密性が高く気孔が少なく焼結できており、表面平坦性の高い材料ができていることがわかった。透明性も実験例1と同様の高かった。低いプレス圧力でコージェライト焼結体を作製できるため、ホットプレス治具を小型化、長寿命化することができる。
【0060】
(実験例15〜17)
実験例15,16,17では、実験例1のコージェライト焼結体をそれぞれ1200℃、1300℃、1400℃で2時間アニール処理を行い、光学特性を評価した。全透光率がそれぞれ80%、83%、84%、直線透過率がそれぞれ70%、70%、71%となり、高温でアニール処理することで透光性、透明性の向上が見られた。
【0061】
3.複合基板の作製及び評価
コージェライト焼結体を支持基板として用いて複合基板を作製した。具体的な作製例を実験例18〜23に示す。なお、実験例18〜21が本発明の実施例に相当し、実験例22,23が本発明の比較例に相当する。
【0062】
(実験例18〜21)
実験例18〜21は、実験例1のコージェライト焼結体を支持基板として用いて、複合基板を作製した。支持基板は、φ100mm×厚さ230μm又は500μmの形状とし、表面をダイヤラップ研磨及びCMP研磨により、Ra=0.4〜0.9nm、Rp=6〜20nmに仕上げたものを使用した。CMP研磨後の支持基板は、一般的に用いられるアミン溶液、SPM(硫酸加水)とRCA洗浄液を用いた洗浄処理をし、基板表面の有機物やパーティクル等の除去を行い、接合に供した。一方、機能性基板にはタンタル酸リチウム(LT)、ニオブ酸リチウム(LN)、窒化ガリウム(GaN)、シリコン(Si)のいずれも単結晶基板を用い、形状、表面仕上げ共に支持基板と同様にしたものを使用した。
【0063】
実験例18では、厚さ230μmの支持基板に対し、厚さ250μmのLT基板の接合を試みた。接合前の表面の活性化処理には、イオンガンを用いてアルゴンイオンビームを両基板に照射した。その後、両基板を貼り合わせた後、接合荷重10tonで1分間プレスをし、支持基板とLT基板を室温で直接接合をした。得られた複合基板は、接合界面に気泡は殆ど観察されず、接合界面のうち実際に接合している面積の割合(接合面積割合)が95%以上であり、良好に接合されていた。なお、接合面積は、透明な支持基板側から接合界面をみたときの気泡のない部分の面積であり、接合面積割合は、接合界面全体の面積に対する接合面積の割合である。
【0064】
実験例19では、LT基板の代わりにLN基板を用い、実験例18と同様にして厚さ500μmの支持基板との直接接合を試みた。接合面積割合は90%以上であり、実験例18と同様に良好に接合されていた。
【0065】
実験例20では、LT基板の代わりにシリコン基板を用い、実験例18と同様にして厚さ230μmの支持基板との直接接合を試みた。接合面積割合はほぼ100%であり、非常に良好に接合されていた。
【0066】
実験例21では、LT基板の代わりに窒化ガリウム基板を用い、実験例18と同様にして厚さ230μmの支持基板との直接接合を試みた。接合面積割合は80%以上であり、良好に接合されていた。
【0067】
(実験例22〜23)
実験例22では、実験例5のコージェライト焼結体を支持基板として用いて、複合基板を作製した。支持基板の厚さは230μm、表面はRa=1.4nm、Rp=35nmに仕上げたものを使用した。この支持基板に対して、実験例18と同様にしてLT基板との直接接合を試みたが、接合面積割合は60%に届かず、界面には空隙が見られ、十分な接合が得られなかった。
【0068】
実験例23では、実験例11のコージェライト焼結体を支持基板として用いて、複合基板を作製した。この支持基板は、不純物相やコランダム、サフィリンといった異相が多く、CMP研磨後の表面は、Ra=3.6nm、Rp=90nmであり、いずれも上述の実験例18〜21の材料よりも悪かった。この支持基板(厚さ230μm)に対し、実験例18と同様にしてLT基板との直接接合を試みたが、接合面積割合は20%以下であり、十分な接合が得られなかった。
【0069】
表4に実験例18〜23で使用した材料、接合面積割合及び接合性良否についてまとめた。
【0070】
【表4】
【0071】
なお、上述した実施例は本発明を何ら限定するものでないことは言うまでもない。
【0072】
本出願は、2014年6月6日に出願された日本国特許出願第2014−117926号及び2015年3月23日に出願された日本国特許出願第2015−059873号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。