特許第5890945号(P5890945)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5890945コージェライト焼結体、その製法、複合基板及び電子デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5890945
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】コージェライト焼結体、その製法、複合基板及び電子デバイス
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/195 20060101AFI20160308BHJP
   C04B 37/02 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
   C04B35/16 A
   C04B37/02 C
【請求項の数】13
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-550108(P2015-550108)
(86)(22)【出願日】2015年5月26日
(86)【国際出願番号】JP2015065096
【審査請求日】2015年10月7日
(31)【優先権主張番号】特願2014-117926(P2014-117926)
(32)【優先日】2014年6月6日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-59873(P2015-59873)
(32)【優先日】2015年3月23日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】磯田 佳範
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋介
(72)【発明者】
【氏名】勝田 祐司
【審査官】 立木 林
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−026543(JP,A)
【文献】 特開2008−007341(JP,A)
【文献】 特開2012−087026(JP,A)
【文献】 特開2001−110841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/195
C04B 37/00−37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回折図において、コージェライトの(110)面のピークトップ強度に対する、コージェライト成分以外の各成分の最大ピークの強度の総和の比が、0.0025以下であり、コージェライト焼結粒子の平均粒径が1μm以下である、コージェライト焼結体。
【請求項2】
MgO/Al23のモル比が0.96〜1.04、SiO2/Al23のモル比が2.46〜2.54である、請求項1に記載のコージェライト焼結体。
【請求項3】
MgO,Al23及びSiO2の3成分が全体に占める割合が99.9質量%以上である、請求項1又は2に記載のコージェライト焼結体。
【請求項4】
波長550nmの光に対する全透光率が60%以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のコージェライト焼結体。
【請求項5】
波長550nmの光に対する直線透過率が50%以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のコージェライト焼結体。
【請求項6】
鏡面状表面を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のコージェライト焼結体。
【請求項7】
前記表面は、10μm四方の測定範囲における中心線平均粗さRaが1nm以下である、請求項6に記載のコージェライト焼結体。
【請求項8】
前記表面は、70μm四方の測定範囲における最大山高さRpが30nm以下である、請求項6又は7に記載のコージェライト焼結体。
【請求項9】
MgO成分、Al23成分及びSiO2成分を含むコージェライト原料粉末を不活性雰囲気下、ホットプレス法で焼結することによりコージェライト焼結体を製造する方法であって、
前記コージェライト原料粉末は、MgO/Al23のモル比が0.96〜1.04、SiO2/Al23のモル比が2.46〜2.54、MgO、SiO2及びAl23の3成分が全体に占める割合が99.9質量%以上、平均粒径D50が1μm以下であり、
前記ホットプレス法で焼結する際の条件は、プレス圧力が20〜300kgf/cm2、焼成温度が1410〜1450℃である、
コージェライト焼結体の製法。
【請求項10】
前記コージェライト焼結体は、請求項1〜8のいずれか1項に記載のコージェライト焼結体である、
請求項9に記載のコージェライト焼結体の製法。
【請求項11】
機能性基板と、コージェライト焼結体製の支持基板とが接合された複合基板であって、接合界面のうち実際に接合している面積の割合(接合面積割合)が80%以上であり、前記コージェライト焼結体は、請求項6〜8のいずれか1項に記載のコージェライト焼結体である、複合基板。
【請求項12】
前記接合が直接接合である、請求項11に記載の複合基板。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の複合基板を利用した電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コージェライト焼結体、その製法、複合基板及び電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
コージェライト焼結体は、耐熱性が高く、熱膨張係数が小さい材料であることから、熱衝撃性の高い材料として知られ、特に多孔質状に焼結された構造体が自動車等の排ガス浄化用の触媒担体やフィルターとして広く用いられている。
【0003】
緻密なコージェライト焼結体は、低熱膨張性と軽量性の特長も活かし、近年では露光装置等のステージ用部材(特許文献1)や超精密なミラー用基材(特許文献2)としての利用が進められている。特許文献1では、特に高い剛性を得るため、コージェライト焼結体中のCaO含有量を0.2〜0.8質量%とし、かつ、副結晶として所定量のAl23を含有させる改良を行っている。CaOはコージェライトの粒成長と焼結性を促進することでヤング率を向上させる効果があり、Al23はコージェライトの異常粒成長を抑制し緻密化させる効果があるとされている。特許文献2では、高剛性に加えて表面粗さを小さくすることを課題とし、特定の希土類金属成分を焼結助剤として所定量添加して緻密なコージェライト焼結体を作製している。得られた焼結体は、コージェライト以外の結晶相を含まず、希土類金属含有成分はアモルファス相としてコージェライト粒子の粒界に沿って膜状に存在している。コージェライト以外の結晶成分が無いことで異なる粒子間の研磨特性の違いによる凹凸の発生を回避することができるとされている。
【0004】
焼結助剤を添加せずに緻密なコージェライト焼結体を作製した例として、特許文献3がある。この例では、平均粒径0.7μm以下のコージェライト粉末を一軸金型プレス成形して得た成形体を、窒素雰囲気で1400℃で12時間焼成し、コージェライト含有量97.6質量%、嵩密度2.54g/cm3、開気孔率0%、全気孔率0.1%、異相にムライト、スピネル、サフィリンを有する等の特徴を有したコージェライト焼結体が作製されている(実施例1)。この焼結体は、全気孔率及び開気孔率から閉気孔率が0.1%であると共に、図2に示された研磨面のサーマルエッチング後の写真より、約20μm2の面において長径が0.2〜0.5μm程度の閉気孔が20個程度存在することがわかる。
【0005】
一方、近年、弾性表面波素子として、主基板と補助基板とを接合した構造のものが開発されている。例えば、特許文献4には、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム等からなる主基板と、ガラス又はシリコンからなる補助基板とが直接接合された弾性表面波素子が示されている。この弾性表面波素子では、補助基板の熱膨張係数が主基板の熱膨張係数よりも小さく、補助基板の厚さが主基板よりも厚い。このような主基板と補助基板を組合せることによって、基板の温度が上昇した場合に主基板の表面近傍では圧縮応力が作用し、主基板本来の熱膨張よりも小さな熱膨張となる。その結果、主基板の弾性表面波素子の周波数温度依存性が改善されると説明されている。また、補助基板がガラスの場合の熱膨張係数は4.5ppm/℃であり、ガラスの非晶質性によって単結晶である主基板との接合が容易になるとも説明されている。但し、接合に供する主基板及び補助基板の表面状態の詳細な記載はない。
【0006】
特許文献5には、特許文献4と同様、弾性表面波素子の温度依存性改良技術が記載されている。圧電基板(主基板)はタンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウムのいずれかであり、支持基板(補助基板)はサファイヤ、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化シリコン(熱膨張係数2.6ppm/℃)のいずれかであり、直接接合によって接合基板を作製している。但し、支持基板等に必要とされる表面状態については記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−173878号公報
【特許文献2】特開2012−87026号公報
【特許文献3】特開2005−314215号公報
【特許文献4】特開平11−55070号公報
【特許文献5】特許第3774782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1,2に記載されたコージェライト焼結体では、コージェライト成分以外に所定量の焼結助剤成分を含有するため、コージェライト以外の相が結晶相、或いはアモルファス相として存在し、焼結体組織はコージェライト相と他の相の混合形態となる。これら相は化学的性質や物理的性質が異なるため、表面研磨等の加工をした際に相間での研磨のされ易さに違いを生ずる。特に、酸性やアルカリ性のスラリーを使って化学機械研磨(CMP)を行う場合にその違いが顕著となり、表面の凹凸の原因となる。このため、特許文献1,2のようなコージェライト焼結体では、表面平坦性を高くすることは非常に難しい。一方、特許文献3のコージェライト焼結体では、焼結助剤成分の添加はないが、ムライトやスピネル等のコージェライト化しなかった成分の異相が存在し、かつ、緻密度は進んでいるがそれでも閉気孔が多く存在する。これら異相と閉気孔によって、十分な表面平坦性が得られない。
【0009】
また、特許文献4,5の弾性表面波素子では、支持基板として、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化シリコン等の多結晶材料(焼結体)が用いられているが、上述のような異相や気孔についての記載は一切なく、表面平坦性の程度は不明である。この弾性表面波素子においては、周波数温度依存性が小さいほど、環境温度変化に対する特性安定性が高く、性能の高い素子となる。従来の素子よりも更に高性能な素子を実現するには、素子の熱膨張を更に小さく抑えることが必要である。
【0010】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、鏡面状に研磨したときの表面平坦性が高いコージェライト焼結体を提供することを主目的とする。また、こうしたコージェライト焼結体を支持基板とする複合基板を提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のコージェライト焼結体は、X線回折図において、コージェライトの(110)面のピークトップ強度に対する、コージェライト成分以外の各成分の最大ピークの強度の総和の比が、0.0025以下のものである。このコージェライト焼結体は、コージェライト成分以外の異相が極めて少ないため、表面を鏡面状に研磨したときの表面平坦性が高くなる。
【0012】
本発明のコージェライト焼結体の製法は、MgO成分、Al23成分及びSiO2成分を含むコージェライト原料粉末を不活性雰囲気下、ホットプレス法で焼結することによりコージェライト焼結体を製造する方法であって、前記コージェライト原料粉末は、MgO/Al23のモル比が0.96〜1.04、SiO2/Al23のモル比が2.46〜2.54、MgO、SiO2及びAl23の3成分が全体に占める割合が99.9質量%以上、平均粒径D50が1μm以下であり、前記ホットプレス法で焼結する際の条件は、プレス圧力が20〜300kgf/cm2、焼成温度が1410〜1450℃であるものである。この製法は、上述した本発明のコージェライト焼結体を製造するのに適している。
【0013】
本発明の複合基板は、機能性基板と、コージェライト焼結体製の支持基板とが接合されたものであって、接合界面のうち実際に接合している面積の割合(接合面積割合)が80%以上のものである。この複合基板は、コージェライト焼結体が上述した本発明のコージェライト焼結体の場合、このように接合面積割合が大きくなり、良好な接合性を示す。
【0014】
本発明の電子デバイスは、上述した複合基板を利用したものである。この電子デバイスは、支持基板であるコージェライト焼結体の熱膨張係数が1.1ppm/K(40−400℃)程度と非常に小さいため、弾性表面波デバイスとした場合の周波数温度依存性が大きく改善される。また、光導波路デバイス、LEDデバイス、スイッチデバイスにおいても支持基板の熱膨張係数が非常に小さいことで、性能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】コージェライト焼結体の製造フロー。
図2】複合基板10の斜視図。
図3】複合基板10を用いて作製した電子デバイス30の斜視図。
図4】実験例1のコージェライト焼結体粉砕物のXRD回折図。
図5】実験例1のコージェライト焼結体の研磨面のSEM画像。
図6】実験例1のコージェライト焼結体の透過率曲線。
図7】実験例1のコージェライト焼結体の外観写真。
図8】実験例10のコージェライト焼結体粉砕物のXRD回折図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0017】
本発明のコージェライト焼結体は、X線回折図において、コージェライトの(110)面のピークトップ強度に対する、コージェライト成分以外の各成分の最大ピークの強度の総和の比が、0.0025以下のものである。なお、X線回折図の測定条件はCuKα、50kV、300mA、2θ=5−70°である。このコージェライト焼結体は、コージェライト成分以外の異相が極めて少ないため、表面を鏡面状に研磨したときの表面平坦性が高い。表面平坦性については、例えば、鏡面状に研磨仕上げした表面をAFM観察したとき、10μm四方の測定範囲における中心線平均粗さRaが1nm以下であること、70μm四方の測定範囲における最大山高さRpが30nm以下であること、任意の4μm×4μm範囲における最大長さが0.1μm以上の気孔の数が10個以下であることの少なくとも1つを満たすことが好ましい。ちなみに、異相成分が多いと、コージェライトと異相成分との間で研磨のされ易さが異なり、特に異相成分が研磨され難く凸状に残り易いことから、表面平坦性が十分高くならない。
【0018】
本発明のコージェライト焼結体は、MgO/Al23のモル比が0.96〜1.04、SiO2/Al23のモル比が2.46〜2.54であることが好ましい。また、MgO,Al23及びSiO2の3成分が全体に占める割合が99.9質量%以上であること、換言すれば、これら3成分以外の成分の割合が0.1質量%未満であることが好ましい。更に、コージェライト焼結粒子の平均粒径が1μm以下であることが好ましい。更にまた、嵩密度が2.495〜2.515g/cm3(真密度は2.505g/cm3)であることが好ましい。このようにすることにより、コージェライト焼結体中の異相成分を一層少なくすることができる。
【0019】
本発明のコージェライト焼結体は、波長550nmの光に対する全透光率、直線透過率がそれぞれ60%以上、50%以上であることが好ましく、それぞれ70%以上、60%以上であることがより好ましい。こうすれば、透光性が高く、更に直線透過率が高く透明なため、複合基板にした場合に光透過性の支持基板としての機能を発現できる。更に、本発明のコージェライト焼結体は、コージェライトが持つ高い熱安定性、耐熱衝撃性のため、高温炉窓材や集光炉反応管のような耐熱透光性機器の材料として利用可能である。こうした材料としては、従来、石英ガラスや透光性アルミナが利用されている。しかし、石英ガラスは、1000℃以下で使用する必要がある。また、透光性アルミナは、1000℃以上で使用可能だが、熱衝撃のケアが必要である。これに対して、本発明のコージェライト焼結体は、石英ガラスと比べて耐熱性が高いため1000℃以上で使用可能であり、透光性アルミナに比べて耐熱衝撃性が高いため熱衝撃のケアを施す必要はなく耐熱透光性機器の材料として利用可能である。また、コージェライト焼結体を1200〜1400℃でアニール処理することによって、更に透光性、透明性を高めることができる。
【0020】
次に、本発明のコージェライト焼結体の製造方法の実施の形態について説明する。コージェライト焼結体の製造フローは、図1に示すように、コージェライト原料粉末を作製する工程と、コージェライト焼結体を作製する工程とを含む。
【0021】
(コージェライト原料粉末の作製)
MgO成分、Al23成分、SiO2成分が所定の割合で配合された混合粉末を焼成してコージェライト粗粒物にする(図1のS1)。ここで、混合粉末とは、焼成によりコージェライトとなる3成分を混合した粉末を意味し、例えばMgO成分が13.8質量%、Al23成分が34.9質量%、SiO2成分が51.3質量%となるように配合された混合粉末であることが好ましい。ないしは、予め粉砕工程で混入する成分の量が想定できる場合、例えば粉砕工程で使用するアルミナメディア(アルミナボールやアルミナポットなど)からのアルミナ成分の混入量が想定できる場合、混合粉末に配合するAl23成分の量を少なくしておいてもよい。更に本発明のコージェライト焼結体では、不純物成分が異相を形成するのを避けることが重要であるため、できるだけ高純度な原料を使用することが好ましく、混合粉末に配合する各成分の純度は99.9%以上であることが好ましい。但し、加熱により飛散する成分、例えばCO2、H2O等は不純物には含めていない。
【0022】
次に、混合粉末を焼成して得られたコージェライト粗粒物を粉砕してコージェライト粉砕物を作製する(図1のS2)。混合粉末の焼成は、例えば大気雰囲気下、1300〜1450℃に加熱することにより行うことができる。コージェライト粗粒物を粉砕する際、コージェライト粉砕物の平均粒径(D50)が2μm以下、好ましくは1μm以下、更に好ましくは0.8μm以下となるように粉砕する。このように、コージェライト粉砕物の平均粒径を小さくすることにより、焼結助剤成分を添加しなくても、高密度なコージェライト焼結体の作製が可能となる。コージェライト粉砕物の平均粒径の下限に特に制限はないが、小さければ小さいほど粉砕時間が長時間に及ぶことと、粉砕工程で粉砕メディア(ボールやポットなど)から混入する成分量が増えるため、平均粒径は、0.1μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることが更に好ましい。なお、この平均粒径は、レーザー回折法により測定することができる。
【0023】
粉砕方法に特に制限はなく、例えばボールミル、アトライター、ビーズミル、ジェットミル等を利用することができる。但し、この際、粉砕メディアから混入する成分とその量には十分な注意が必要である。すなわち、混入しても不純物とはならないアルミナ製の玉石やポットをメディアに用いることが好ましい。また、樹脂製のポットや玉石も、焼成工程等で除去することができるため使用可能であるが、玉石使用の場合は粉砕に長時間が必要となる。一方、ジルコニア製のメディアを使用する場合は粉砕時間を短くし、特に混入を多量にしないようにする必要がある。金属製のメディアは不純物量が多くなるため好ましくない。
【0024】
このようなコージェライト粉砕物を乾燥し、乾燥後のコージェライト粉砕物中のMgO成分量、Al23成分量、SiO2成分量を分析し、各成分の割合がコージェライト組成に合うよう必要な成分を必要な量だけ乾燥後のコージェライト粉砕物に添加し、それをコージェライト原料粉末とする(図1のS3)。例えば、アルミナメディアによってコージェライト粗粒物を粉砕した場合は、コージェライト組成に対しAl23成分量が過剰になる。そのため所定量のMgO粉末、及び、SiO2粉末を乾燥後のコージェライト粉砕物に添加しコージェライト組成になるように再調整し、再調整後の粉末をコージェライト原料粉末とする。なお、再調整後の粉末に対しても、粉砕処理と類似の混合処理を行うが、この際にメディアからの混入を抑えるため混合を短時間にすることが重要である。あるいは、乾燥後のコージェライト粉砕物に含まれる各成分量がコージェライト組成になるように、予め混合粉末の各成分量を調整しておくことにより、乾燥後のコージェライト粉砕物をそのままコージェライト原料粉末としてもよい。例えば、アルミナメディアによってコージェライト粗粒物を粉砕する場合は、粉砕メディアから混入するAl23成分の量を見込んで、混合粉末のAl23成分を予め減量しておいてもよい。こうすれば、乾燥後のコージェライト粉砕物をそのままコージェライト原料粉末とすることができる。このようにして、組成と粉末粒径を調整した高純度なコージェライト原料粉末が準備される。このようにして得られたコージェライト原料粉末は、例えば、MgO/Al23のモル比が0.96〜1.04、SiO2/Al23のモル比が2.46〜2.54、MgO、SiO2及びAl23の3成分が全体に占める割合が99.9質量%以上、平均粒径D50が1μm以下である。
【0025】
(コージェライト焼結体の作製)
得られたコージェライト原料粉末を所定形状に成形する(図1のS4)。成形の方法に特に制限はなく、一般的な成形法を用いることができる。例えば、上記のようなコージェライト原料粉末をそのまま金型によってプレス成形してもよい。プレス成形の場合は、コージェライト原料粉末をスプレードライによって顆粒状にしておくと、成形性が良好になる。他に、有機バインダーを加えて坏土を作製し押出し成形したり、スラリーを作製しシート成形することができる。これらのプロセスでは焼成工程前あるいは焼成工程中に有機バインダー成分を除去することが必要になる。また、CIP(冷間静水圧プレス)にて高圧成形をしてもよい。
【0026】
次に、得られた成形体を加熱してコージェライト焼結体を作製する(図1のS5)。この際、焼結粒子を微細に維持し、焼結中に気孔を排出することがコージェライト焼結体の表面平坦性を高めるために重要である。その手法として、ホットプレス法が非常に有効である。このホットプレス法を用いることで常圧焼結に比べて低温で微細粒の状態で緻密化が進み、常圧焼結でよく見られる粗大な気孔の残留を抑制することができる。このホットプレス時の焼成温度は1410〜1450℃が好ましく、異相を極力少なくするためには1420〜1440℃であることが更に好ましい。また、ホットプレス時のプレス圧力は20〜300kgf/cm2とすることが好ましい。特に低いプレス圧力では、ホットプレス治具の小型化や長寿命化が可能であるため更に好ましい。焼成温度(最高温度)での保持時間は、成形体の形状や大きさ、加熱炉の特性などを考慮し、適宜、適当な時間を選択することができる。具体的な好ましい保持時間は、例えば1〜12時間、更に好ましくは2〜8時間である。焼成雰囲気にも特に制限はなく、ホットプレス時の雰囲気は窒素、アルゴン等の不活性雰囲気が一般的である。
【0027】
本発明の複合基板は、機能性基板と、コージェライト焼結体製の支持基板とが接合されたものであって、接合界面のうち実際に接合している面積の割合(接合面積割合)が80%以上のものである。この複合基板は、コージェライト焼結体が上述した本発明のコージェライト焼結体の場合、このように接合面積割合が大きくなり、良好な接合性を示す。機能性基板としては、特に限定されないが、例えばタンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、窒化ガリウム、シリコンなどが挙げられる。接合方法は、直接接合でもよいし、接着層を介して接合してもよいが、直接接合が好ましい。直接接合の場合には、機能性基板と支持基板とのそれぞれの接合面を活性化した後、両接合面を向かい合わせにした状態で両基板を押圧する。接合面の活性化は、例えば、接合面への不活性ガス(アルゴンなど)のイオンビームの照射のほか、プラズマや中性原子ビームの照射などで行う。一方、接着層を介して接合する場合には、接着層として、例えばエポキシ樹脂やアクリル樹脂などを用いる。機能性基板と支持基板の厚みの比(機能性基板の厚み/支持基板の厚み)は0.1以下であることが好ましい。図2に複合基板の一例を示す。複合基板10は、機能性基板である圧電基板12と支持基板14とが直接接合により接合されたものである。
【0028】
本発明の電子デバイスは、上述した複合基板を利用したものである。こうした電子デバイスとしては、弾性波デバイス(弾性表面波デバイスやラム波素子、薄膜共振子(FBAR)など)のほか、LEDデバイス、光導波路デバイス、スイッチデバイスなどが挙げられる。弾性波デバイスに上述した複合基板を利用する場合には、支持基板であるコージェライト焼結体の熱膨張係数が1.1ppm/K(40−400℃)程度と非常に小さいため、周波数温度依存性が大きく改善される。図3に複合基板10を用いて作製した電子デバイス30の一例を示す。電子デバイス30は、1ポートSAW共振子つまり弾性表面波デバイスである。まず、複合基板10の圧電基板12に一般的なフォトリソグラフィ技術を用いて多数の電子デバイス30のパターンを形成し、その後、ダイシングにより1つ1つの電子デバイス30に切り出す。電子デバイス30は、フォトリソグラフィ技術により、圧電基板12の表面にIDT(Interdigital Transducer)電極32,34と反射電極36とが形成されたものである。
【0029】
なお、ムライト焼結体も有望である。ムライト焼結体は、コージェライト焼結体やシリコンよりも高強度、高ヤング率のため、反りにくく割れにくいという利点がある。また、ムライト焼結体は、熱膨張係数がシリコンやGaNに近いため、既存のシリコンやGaNのプロセスにおいても適用可能であり、また、絶縁性も有しているため、既存の高抵抗シリコンを利用したデバイスの支持基板として適用可能である。ムライト焼結体は、鏡面状に研磨仕上げした表面を有していてもよく、その表面は、10μm四方の測定範囲における中心線平均粗さRaが1nm以下であること、あるいは、70μm四方の測定範囲における最大山高さRpが30nm以下であること、あるいは、任意の4μm×4μm範囲における最大長さが0.1μm以上の気孔の数が10個以下であることが好ましい。さらに、ムライト焼結体は、ホットプレスによって焼結されていることが好ましい。さらにまた、ムライト焼結体は、副相としてコージェライト、アルミナ、シリカ、スピネル、サフィリンの少なくとも1つを含有していてもよい。こうしたムライト焼結体製の支持基板と機能性基板とを接合して複合基板を作製してもよく、その場合の両基板の厚みの比(機能性基板の厚み/支持基板の厚み)は、0.1以下であることが好ましい。また、こうした複合基板を上述した電子デバイスに利用してもよい。
【実施例】
【0030】
以下、本発明例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0031】
1.コージェライト原料粉末の作製
(原料粉末A〜I)
コージェライト原料粉末A〜Hの作製には、市販の平均粒径1μm以下、純度99.9%以上の高純度なマグネシア、アルミナ、シリカ粉末を用いた。また、比較として、原料粉末Iでは、天然原料であるカオリン、タルクをアルミナ、マグネシア、シリカ源の一部に用いた。
【0032】
・コージェライト原料粉末A
マグネシア、アルミナ、シリカの各粉末を、コージェライト組成になるように秤量し、1400℃で5時間大気雰囲気下で加熱し、コージェライト粗粒物を得た。得られたコージェライト粗粒物に対し、アルミナを玉石(φ3mm)とし、溶媒にイオン交換水を用いたポットミルにて70時間粉砕し、平均粒径0.5〜0.6μm程度のコージェライト粉砕物を作製した。この粉砕物を後述する方法にて組成分析し、粉砕過程で混入したアルミナ分に対し、マグネシア、シリカ粉末を適宜追加することでコージェライト組成になるように再調整し、再度4時間混合した。得られたスラリーを窒素ガスフロー下、110℃で乾燥をし、乾燥物を篩に通してコージェライト原料粉末Aとした。
【0033】
・コージェライト原料粉末B,C
粉砕工程におけるアルミナメディアからのアルミナ混入量分を、予めコージェライト組成から減量した組成となるように、マグネシア、アルミナ、シリカの各粉末を秤量し、粉砕後にマグネシア、シリカ粉末の追加を行わなかった以外は、コージェライト原料粉末Aと同様の方法で作製した。
【0034】
・コージェライト原料粉末D
粉砕後にマグネシア、シリカの追加を行わなかった以外は、コージェライト原料粉末Aと同様の方法で作製した。
・コージェライト原料粉末E〜H
粉砕後にマグネシア、シリカの調整を過剰または過少とした以外は、コージェライト原料粉末Aと同様な方法で作製した。
【0035】
・コージェライト原料粉末I
アルミナ、マグネシア、シリカ源の一部に天然原料であるカオリン、タルクを用いた他はコージェライト原料粉末Aと同様の方法で作製した。
【0036】
表1に、作製したコージェライト原料粉末A〜Iの最終的な組成、不純物成分量、平均粒径を示した。
【0037】
【表1】
【0038】
2.コージェライト焼結体の作製及び評価
上記のようにして作製したコージェライト原料粉末A〜Iのそれぞれを、50kgf/cm2にて一軸金型プレス成形をし、φ100mmで厚さ25mm程度の成形体を得た。得られた成形体を黒鉛製のモールドに収容し、ホットプレス炉を用いて、プレス圧力20〜200kgf/cm2下で最高温度1400〜1425℃で5時間焼成をし、コージェライト焼結体を作製した。焼成雰囲気はアルゴン雰囲気とし、昇温速度は200℃/hr、降温速度は200℃/hrとし、降温時は1200℃以下を炉冷とした。得られた各コージェライト焼結体から、抗折棒、及び、φ100mm×厚さ1mmの円盤状の試料等を切り出し、評価試験に供した。評価試験は以下のとおり。
【0039】
・組成分析
高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法により、コージェライト原料粉末、コージェライト焼結体の粉砕物のMgO、Al23、SiO2、不純物成分の量を測定した。
【0040】
・焼結体の嵩密度
抗折棒を用い、純水を用いたアルキメデス法により、嵩密度を測定した。
【0041】
・結晶相
コージェライト焼結体を粉砕し、X線回折装置により、コージェライト、異相の同定と各相のピークトップ強度の算出を行った。測定条件はCuKα、50kV、300mA、2θ=5−70°とし、回転対陰極型X線回折装置「理学電機製「RINT」を用いた。X線回折図から、コージェライトの(110)面のピークトップ強度(Ic)に対する、検出された各異相(P、Q、R、・・・)の最大ピークの強度(Ip、Iq、Ir、・・・)の総和の比(Ix)を求めた。なお、第一ピーク(最強線)が重なる場合は第二ピークを採用した。
Ix=(Ip+Iq+Ir・・・)/Ic
【0042】
・表面平坦性
4×3×10mmのコージェライト焼結体の試験片に対し、一面を研磨によって鏡面状に仕上げた。鏡面状に仕上げた表面に対し、AFMを用いて中心性平均粗さRaと、最大山高さRpを測定した。それぞれの測定範囲は、10μm×10μm、70μm×70μmとした。なお、研磨は、3μmのダイヤモンド砥粒、0.5μmのダイヤモンド砥粒の順に進め、最終仕上げにはコロイダルシリカスラリー(pH=11、粒径80nm)と不織布パッドを用いたバフ研磨とした。
【0043】
・焼結粒子の平均粒径
上記のように仕上げた焼結体の研磨面を、1400℃で2hrサーマルエッチングをし、SEMにてコージェライト焼結粒子の大きさを平均粒径として算出した。算出には線分法を用い、測定値に対して1.5倍した値を平均粒径とした。
【0044】
・気孔の数
上記のように仕上げた焼結体の研磨面に対し、任意の4μm×4μm範囲をAFM観察し、最大長さが0.1μm以上の気孔の数を測定した。
【0045】
・光学特性
厚さ0.5mmのコージェライト焼結体の試験片に対し、波長200〜3000nmの光に対する全透光率、直線透過率を測定した。測定には分光光度計を用い、試料面の法線方向から平行に近い光線束を入射させて試料の透過光を測定した。標準試料は、光路中に試料を挿入しない場合の空気層とし、その分光透過率を1として、試料の透過光を積分球で受けることで全透光率を、試料面の法線方向の透過光から直線透過率をそれぞれ算出した。550nmの波長に対する全透光率、直線透過率を代表値とした。
【0046】
コージェライト焼結体の作製及び評価の詳細について、以下の実験例1〜17で説明する。表2には、各実験例の焼結体作製条件及び得られたコージェライト焼結体の組成を示し、表3には、各実験例の評価試験の結果つまりコージェライト焼結体の特性を示す。なお、実験例1〜3,12〜17が本発明の実施例に相当し、実験例4〜11が本発明の比較例に相当する。本発明は、これらの実験例に限定されるものではない。
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
(実験例1)
実験例1のコージェライト焼結体は、コージェライト原料粉末Aを、プレス圧力200kgf/cm2下で1425℃で5hr焼結したものである。得られたコージェライト焼結体のMgO/Al23、SiO2/Al23のモル比はそれぞれ1.00、2.50であり、コージェライトの量論比からのずれは非常に小さく、不純物量も少なかった。焼結体の嵩密度は2.507g/cm3であり、コージェライト真密度の2.505g/cm3に極めて近く、閉気孔が殆ど含まれないことがわかった。図4に、実験例1のコージェライト焼結体粉砕物のXRD回折図を示す。コージェライト以外の相としてコランダム(図中●)のみが検出されたが、コージェライト(110)(図中○)のピークトップ強度に対するピーク強度比Ixは0.0020であり、極めて小さかった。図5に、コージェライト焼結体の研磨面をサーマルエッチングし、SEM観察した結果を示す。これより、コージェライト焼結粒子の平均粒径は0.6μmであり、非常に微細なコージェライト粒子が緻密に焼結していることがわかった。また、研磨面の4μm×4μm範囲において、最大長さが0.1μm以上の気孔の数は3個であった。研磨面の表面平坦性は、中心線平均粗さRaが0.8nmで小さく、最大山高さも20nmで小さいことがわかった。図6には光学特性として透過率曲線を示す。直線透過率は500〜3000nmで60%以上で極めて高く、非常に透明性の高い材料であることがわかった。得られたコージェライト焼結体のサンプルの外観写真を図7に示した。図7に描かれたNGKのロゴ入りマークは日本碍子(株)の登録商標である。
【0050】
(実験例2,3)
実験例2,3のコージェライト焼結体は、コージェライト原料粉末B,Cをそれぞれ、実験例1と同様な条件で焼結したものである。得られたコージェライト焼結体の組成、成分のモル比は表2の通りであり、いずれもコージェライトの量論比からのずれは非常に小さかった。他の特性においても、実験例1と類似の特性が得られており、異相が少ない状態で緻密性が高く気孔が少なく焼結できており、表面平坦性の高い材料ができていることがわかった。透明性も実験例1と同様に高かった。
【0051】
(実験例4)
実験例4では、焼成温度を1400℃とした以外は、実験例1と同様な条件でコージェライト焼結体を作製した。焼成温度が低いため、アルミナやシリカ等原料成分のコージェライト化反応が十分進まず、コランダムやクリストバライトの異相が多く残っていることがわかった。研磨面の表面平坦性は、中心線平均粗さRaが1.8nm、最大山高さRpが28nmと大きかった。これらより、コージェライトと異相成分との間で研磨のされ易さが異なり、特に異相成分が研磨され難いことによって凸状に残り易いと推定される。
【0052】
(実験例5)
実験例5では、焼成温度を1400℃とした以外は、実験例2と同様な条件でコージェライト焼結体を作製した。実験例4と同様、焼成温度が低いため、コランダムとクリストバライトが異相として残り、研磨面の表面平坦性は、Raが1.3nm、Rpが31nmで共に良くなかった。
【0053】
(実験例6)
実験例6では、コージェライト原料粉末Dを用いた以外は、実験例1と同様な条件でコージェライト焼結体を作製した。原料中のアルミナが過剰であるため、焼結体でもアルミナ過剰となり、MgO/Al23のモル比が0.94、SiO2/Al23のモル比が2.36で、コージェライト組成よりも小さかった。異相として検出されるコランダムやクリストバライトの量が多く、研磨面の表面平坦性は、Raが3.5nm、Rpが88nmで大きく、平坦性高く仕上げることができなかった。
【0054】
(実験例7)
実験例7では、コージェライト原料粉末Eを用いた以外は、実験例1と同様な条件でコージェライト焼結体を作製した。コージェライト焼結体のMgO/Al23のモル比が0.93とMgOが不足しており、コランダムやクリストバライトが異相として検出され、ピーク強度比Ixからその量も多いことがわかった。そのため研磨面の表面平坦性は、Raが3.3nm、Rpが67nmで大きく、平坦性高く仕上げることができなかった。
【0055】
(実験例8)
実験例8では、コージェライト原料粉末Fを用いた以外は、実験例1と同様な条件でコージェライト焼結体を作製した。コージェライト焼結体のSiO2/Al23のモル比が2.42とSiO2が不足しており、コランダムが異相として検出され、ピーク強度比Ixからその量も多いことがわかった。そのため研磨面の表面平坦性は、Raが2.1nm、Rpが40nmで大きく、平坦性高く仕上げることができなかった。
【0056】
(実験例9)
実験例9では、コージェライト原料粉末Gを用いた以外は、実験例1と同様な条件でコージェライト焼結体を作製した。コージェライト焼結体のMgO/Al23のモル比が1.09とMgOが過剰に存在しており、XRDからエンスタタイトが異相として検出され、他に少量のコランダム、クリストバライトが認められた。XRDでのピーク強度比Ixは高く、異相量は多かった。そのため研磨面の表面平坦性は、Raが1.5nm、Rpが29nmで大きく、平坦性高く仕上げることができなかった。
【0057】
(実験例10)
実験例10では、コージェライト原料粉末Hを用いた以外は、実験例1と同様な条件でコージェライト焼結体を作製した。コージェライト焼結体のSiO2/Al23のモル比が2.65であり、SiO2が過剰に存在していた。図8に実験例10のコージェライト焼結体の粉砕物のXRD回折図を示す。図8から、XRDからクリストバライトと少量のコランダムが異相として検出され、ピーク強度比Ixより異相量が多いことがわかった。そのため研磨面の表面平坦性は、Raが3.1nm、Rpが47nmで大きく、平坦性高く仕上げることができなかった。
【0058】
(実験例11)
実験例11では、コージェライト原料粉末Iを用い、焼成温度を1400℃とした以外は、実験例1と同様な条件でコージェライト焼結体を作製した。天然原料由来の不純物であるFe23やTiO2成分が多く含まれていた。XRDから、酸化鉄、コランダム、サフィリンが異相として検出され、ピーク強度比Ixは高く、異相量は多かった。そのため研磨面の表面平坦性は、Raが3.5nm、Rpが84nmとなり、平坦性高く仕上げることができなかった。
【0059】
(実験例12〜14)
実験例12,13,14では、プレス圧力をそれぞれ20,50,100kgf/cm2とした以外は、実験例1と同様な条件でコージェライト焼結体を作製した。得られたコージェライト焼結体の組成、成分のモル比は表2の通りであり、いずれもコージェライトの量論比からのずれは非常に小さかった。また、他の特性は、表3の通りであり、実験例1と類似の特性が得られており、異相が少ない状態で緻密性が高く気孔が少なく焼結できており、表面平坦性の高い材料ができていることがわかった。透明性も実験例1と同様の高かった。低いプレス圧力でコージェライト焼結体を作製できるため、ホットプレス治具を小型化、長寿命化することができる。
【0060】
(実験例15〜17)
実験例15,16,17では、実験例1のコージェライト焼結体をそれぞれ1200℃、1300℃、1400℃で2時間アニール処理を行い、光学特性を評価した。全透光率がそれぞれ80%、83%、84%、直線透過率がそれぞれ70%、70%、71%となり、高温でアニール処理することで透光性、透明性の向上が見られた。
【0061】
3.複合基板の作製及び評価
コージェライト焼結体を支持基板として用いて複合基板を作製した。具体的な作製例を実験例18〜23に示す。なお、実験例18〜21が本発明の実施例に相当し、実験例22,23が本発明の比較例に相当する。
【0062】
(実験例18〜21)
実験例18〜21は、実験例1のコージェライト焼結体を支持基板として用いて、複合基板を作製した。支持基板は、φ100mm×厚さ230μm又は500μmの形状とし、表面をダイヤラップ研磨及びCMP研磨により、Ra=0.4〜0.9nm、Rp=6〜20nmに仕上げたものを使用した。CMP研磨後の支持基板は、一般的に用いられるアミン溶液、SPM(硫酸加水)とRCA洗浄液を用いた洗浄処理をし、基板表面の有機物やパーティクル等の除去を行い、接合に供した。一方、機能性基板にはタンタル酸リチウム(LT)、ニオブ酸リチウム(LN)、窒化ガリウム(GaN)、シリコン(Si)のいずれも単結晶基板を用い、形状、表面仕上げ共に支持基板と同様にしたものを使用した。
【0063】
実験例18では、厚さ230μmの支持基板に対し、厚さ250μmのLT基板の接合を試みた。接合前の表面の活性化処理には、イオンガンを用いてアルゴンイオンビームを両基板に照射した。その後、両基板を貼り合わせた後、接合荷重10tonで1分間プレスをし、支持基板とLT基板を室温で直接接合をした。得られた複合基板は、接合界面に気泡は殆ど観察されず、接合界面のうち実際に接合している面積の割合(接合面積割合)が95%以上であり、良好に接合されていた。なお、接合面積は、透明な支持基板側から接合界面をみたときの気泡のない部分の面積であり、接合面積割合は、接合界面全体の面積に対する接合面積の割合である。
【0064】
実験例19では、LT基板の代わりにLN基板を用い、実験例18と同様にして厚さ500μmの支持基板との直接接合を試みた。接合面積割合は90%以上であり、実験例18と同様に良好に接合されていた。
【0065】
実験例20では、LT基板の代わりにシリコン基板を用い、実験例18と同様にして厚さ230μmの支持基板との直接接合を試みた。接合面積割合はほぼ100%であり、非常に良好に接合されていた。
【0066】
実験例21では、LT基板の代わりに窒化ガリウム基板を用い、実験例18と同様にして厚さ230μmの支持基板との直接接合を試みた。接合面積割合は80%以上であり、良好に接合されていた。
【0067】
(実験例22〜23)
実験例22では、実験例5のコージェライト焼結体を支持基板として用いて、複合基板を作製した。支持基板の厚さは230μm、表面はRa=1.4nm、Rp=35nmに仕上げたものを使用した。この支持基板に対して、実験例18と同様にしてLT基板との直接接合を試みたが、接合面積割合は60%に届かず、界面には空隙が見られ、十分な接合が得られなかった。
【0068】
実験例23では、実験例11のコージェライト焼結体を支持基板として用いて、複合基板を作製した。この支持基板は、不純物相やコランダム、サフィリンといった異相が多く、CMP研磨後の表面は、Ra=3.6nm、Rp=90nmであり、いずれも上述の実験例18〜21の材料よりも悪かった。この支持基板(厚さ230μm)に対し、実験例18と同様にしてLT基板との直接接合を試みたが、接合面積割合は20%以下であり、十分な接合が得られなかった。
【0069】
表4に実験例18〜23で使用した材料、接合面積割合及び接合性良否についてまとめた。
【0070】
【表4】
【0071】
なお、上述した実施例は本発明を何ら限定するものでないことは言うまでもない。
【0072】
本出願は、2014年6月6日に出願された日本国特許出願第2014−117926号及び2015年3月23日に出願された日本国特許出願第2015−059873号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のコージェライト焼結体は、例えば多孔質状に焼結された構造体が自動車等の排ガス浄化用の触媒担体やフィルターとして利用可能である。
【符号の説明】
【0074】
10 複合基板、12 圧電基板、14 支持基板、30 電子デバイス、32,34 IDT電極、36 反射電極。
【要約】
本発明のコージェライト焼結体は、X線回折図において、コージェライトの(110)面のピークトップ強度に対する、コージェライト成分以外の各成分の最大ピークの強度の総和の比が、0.0025以下のものである。このコージェライト焼結体は、コージェライト成分以外の異相が極めて少ないため、表面を鏡面状に研磨したときの表面平坦性が高くなる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8