(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5890972
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】遠心ファン用羽根車
(51)【国際特許分類】
F04D 29/30 20060101AFI20160308BHJP
F04D 29/66 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
F04D29/30 C
F04D29/30 A
F04D29/30 F
F04D29/66 M
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-137443(P2011-137443)
(22)【出願日】2011年6月21日
(65)【公開番号】特開2013-2422(P2013-2422A)
(43)【公開日】2013年1月7日
【審査請求日】2014年5月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219233
【氏名又は名称】東プレ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】高橋 勝巳
(72)【発明者】
【氏名】川浪 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】松本 顕
【審査官】
加藤 一彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−095605(JP,A)
【文献】
特開2001−349297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/30
F04D 29/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源に接続された主板と、該主板から所定間隔をおいて対向配置されると共に吸込口を有する側板と、これらの主板および側板の間に周方向に沿って所定間隔をおいて複数配置された羽根と、を備え、前記羽根は鋼板パネルで形成され、それぞれの羽根は、平面視で回転方向側が凸になるように湾曲した遠心ファン用羽根車であって、
前記羽根における径方向内側と径方向外側とに、羽根の回転方向の反対側に向けて凹む凹部が一体形成され、
前記径方向外側に形成された凹部は、少なくとも径方向外側端に内側壁を備え、
前記径方向外側の凹部を流れる空気が、前記内側壁に当たり、空気の剥離が該内側壁の径方向外側に発生することを特徴とする遠心ファン用羽根車。
【請求項2】
前記羽根の凹部は、羽根における外周縁部の全周に亘って形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の遠心ファン用羽根車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心ファン用羽根車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば空調用設備における熱交換器に空気を送風させる遠心ファン用羽根車が公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に記載された遠心ファン用羽根車では、径方向内側から外側に延びる羽根における回転方向の反対側(湾曲内側)の径方向外側端部に補強板を接合することにより、羽根の強度を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平4−82399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、かかる従来の遠心ファン用羽根車では、回転する羽根の表面および裏面に沿って流れる空気流れを考慮していないため、駆動源の回転運動エネルギーを送風のエネルギーへ変換する全圧効率(以下、一般的な「送風機効率」とも呼ぶ)が低下するおそれがあった。
【0006】
そこで、本発明は、かかる従来の問題点に鑑みて、軽量化、高強度および安価なコストを維持しつつ、駆動源の回転運動エネルギーを送風のエネルギーへ変換する送風機効率を向上させることができる遠心ファン用羽根車を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る遠心ファン用羽根車は、駆動源に接続された主板と、該主板から所定間隔をおいて対向配置されると共に吸込口を有する側板と、これらの主板および側板の間に周方向に沿って所定間隔をおいて複数配置された羽根と、を備え、前記羽根は鋼板パネル
で形成され、それぞれの羽根は、平面視で回転方向側が凸になるように湾曲した遠心ファン用羽根車である。前記羽根における径方向内側と径方向外側とに、羽根の回転方向の反対側に向けて凹む凹部
が一体形成
され、前記径方向外側に形成された凹部は、少なくとも径方向外側端に内側壁を備え、前記径方向外側の凹部を流れる空気が、前記内側壁に当たり、空気の剥離が該内側壁の径方向外側に発生する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る遠心ファン用羽根車によれば、羽根の表面を流れる空気が剥離する剥離部の面積が小さくなり、駆動源の回転運動エネルギーを送風のエネルギーへ変換する送風機効率を向上させることができる。また、鋼板パネルからなる羽根に径方向内側と径方向外側とにプレス成形によって凹部を一体形成しているため、軽量化、高強度および安価なコストを維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明にかかる遠心ファン用羽根車を示す斜視図である。
【
図2】
図2(a)は、
図1に示す遠心ファン用羽根車について側板を省略した状態を示す斜視図であり、
図2(b)は
図2(a)のX−X線による断面図である。
【
図4】
図4は、本実施形態による羽根の正面図である。
【
図5】
図5は、比較例による遠心ファン用羽根車を示す斜視図である。
【
図6】
図6(a)は、
図5に示す遠心ファン用羽根車について側板を省略した状態を示す斜視図であり、
図6(b)は
図6(a)のY−Y線による断面図である。
【
図7】
図7は、本実施形態による羽根における空気流れの剥離部を示す斜視図である。
【
図9】
図9は、比較例による羽根における空気流れの剥離部を示す斜視図である。
【
図11】
図11は、本実施形態による羽根と比較例による羽根における静圧と風量との関係を示すグラフである。
【
図12】
図12は、本実施形態による羽根と比較例による羽根における全圧効率と風量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0011】
図1,2に示すように、本実施形態による遠心ファン用羽根車1は、下側に配置された円盤状の主板3と、該主板3から上方(羽根車1の回転軸方向)に向けて所定間隔をおいて対向配置されると共に中央に吸込口5を有する円盤状の側板7と、これらの主板3および側板7の間に周方向に沿って所定間隔をおいて複数配置された羽根9と、を備えている。これらの主板3、側板7および羽根9は全て鋼板パネルをプレス成形して形成されており、それぞれが溶接やカシメ等によって結合されて一体になっている。
【0012】
前記主板3の中央部は上方に突出する円環部11に形成され、該円環部11の中央には、図外のブッシュおよび駆動源のモータが接続される取付口13が設けられている。
【0013】
また、前記側板7は円環状に形成され、中央には空気を取り入れる前記吸込口5が形成されている。この吸込口5は上方に向けて屈曲している。
【0014】
前記羽根9は、
図3に示すように、複数枚(本実施形態では7枚)配設されている。それぞれの羽根9は、径方向内側から径方向外側に向けて延びており、回転方向となる時計回り方向側が凸になるように一定の曲率をもって湾曲して形成されている。以下、本明細書では、羽根9の湾曲外側を表面側、湾曲内側を裏面側とも呼ぶことにする。
【0015】
また、
図2(a)(b)および
図4に示すように、羽根9の外形は略矩形状に形成されており、羽根9の外周縁部に沿って正面視略矩形状の凹部10がプレス成形によって全周に亘って連続して形成されている。具体的には、前記凹部10は、
図2(b)に示すように羽根9の回転方向の反対側に向けて凹んでいる。換言すれば、羽根9における湾曲内側の裏面側に向けて凹む形状になっている。また、前記凹部10は、
図4に示すように、径方向内側に配設されて上下方向(羽根9の回転軸方向)に延びる内側凹部21と、径方向外側に配設されて上下方向に延びる外側凹部23と、これらの内側凹部21および外側凹部23の上端同士を結ぶ上側凹部25と、内側凹部21および外側凹部23の下端同士を結ぶ下側凹部27と、から正面視略矩形状に形成されている。内側凹部21は上下方向に沿って直線状に延び、外側凹部23は下方に向かうに従って径方向内側に傾斜して直線状に延びる。下側凹部27は径方向に沿って直線状に延び、上側凹部25は径方向中央が下方に湾曲している。なお、
図2(b)に示すように、羽根車1が回転して羽根9の表面および裏面を空気Aが流れる場合に、湾曲外側の表面側の方が湾曲内側の裏面側よりも圧力が高い高圧側となる。
【0016】
以上の構成を有する遠心ファン用羽根車1においては、側板7に設けた吸込口5から空気Aを取り入れたのち、複数の羽根9の間を通って径方向外側に空気Aが排出される。
【0017】
次いで、比較例による遠心ファン用羽根車について説明する。なお、本実施形態による遠心ファン用羽根車と同一構成部位については同一符号を付して説明を省略する。
【0018】
図5,6に示すように、比較例による遠心ファン用羽根車101は、本実施形態とほぼ同一構造に構成されているが、羽根109の形状が異なる。
【0019】
具体的には、
図6(a)(b)に示すように、羽根109の外周縁部の全周に亘って凹部110が形成されている。即ち、この凹部110は、径方向内側に配設されて上下方向(羽根の回転軸方向)に延びる内側凹部121と、径方向外側に配設されて上下方向に延びる外側凹部123と、これらの内側凹部121および外側凹部123の上端同士を結ぶ上側凹部125と、内側凹部121および外側凹部123の下端同士を結ぶ下側凹部127と、から正面視略矩形状に形成されている。ただし、凹部110は、羽根109の回転方向側となる表面側に向けて凹んでいるため、この凹む方向は、本実施形態とは逆の方向である。
【0020】
次に、本実施形態と比較例とを対比させて、羽根の表面を流れる空気流れについて説明する。なお、
図2(b)で説明したように、羽根の表面側の方が高圧になり、後述する送風機効率への寄与率が高いため、表面側における空気流れについて説明する。
【0021】
本実施形態では、
図7の一点鎖線で囲った外側凹部23に空気の剥離部31が発生する。具体的には、
図8の矢印に示すように、羽根9における表面33を径方向外側に向けて移動した空気Aは、外側凹部23内に向けて若干回り込み、外側凹部23の径方向外側端において外側凹部23の内側壁23aに当たり空気Aが剥離を起こす。しかし、
図7に示すように、剥離部31の位置は、後述する比較例に比べ径方向外側端方向に移動するため、空気動力に寄与する羽根の有効面積が拡大する。また、内側凹部21には剥離部が発生しないため、剥離部の減少による摩擦力の低減もあり、性能が向上する。
【0022】
一方、比較例では、
図9の一点鎖線で囲った内側凹部121と外側凹部123に空気Aの剥離部135,137が発生する。具体的には、
図10の矢印に示すように、羽根109における表面133を径方向外側に向けて移動した空気Aは、内側凹部121の裏面側(回転方向側)の壁121aに当たり空気Aが剥離を起こす。また、外側凹部123においても、内側凹部121の裏面側(回転方向側)の壁に当たり空気Aが剥離を起こす。従って、
図9に示すように、剥離を起こさないで通常の流れとなる有効面積が本実施形態よりも小さくなる。
【0023】
図11に示すように、本発明に係る羽根車の方が比較例よりも、通常使用範囲における風量に対する静圧が大きくなる。
【0024】
また、
図12に示すように、本発明に係る羽根車の方が比較例よりも、通常使用範囲における風量に対する全圧効率が大きくなる。ここで、全圧効率(%)とは、JIS B8330「送風機の試験および検査方法」に基づくものであって、全圧空気動力(kW)÷軸動力(kW)で定義される。全圧空気動力は、羽根から排出される空気が有する風のエネルギーであり、軸動力は、駆動源によって羽根を回転させるエネルギーである。即ち、全圧効率は、駆動源の回転運動エネルギーを送風のエネルギーへ変換する効率であり、全圧効率が高いほど省エネとなる。
【0025】
ところで、本発明は、前記実施形態に例をとって説明したが、この実施形態に限ることなく本発明の要旨を逸脱しない範囲で各種の変更が可能である。
【0026】
次いで、本実施形態による作用効果を説明する。
【0027】
(1)本実施形態による遠心ファン用羽根車1は、駆動源に接続された主板3と、該主板3から所定
間隔をおいて対向配置されると共に吸込口5を有する側板7と、これらの主板3および側板7の間に周方向に沿って所定間隔をおいて複数配置された羽根9と、を備え、前記羽根9は鋼板パネルをプレス成形して形成され、それぞれの羽根9は、平面視で回転方向側が凸になるように湾曲している。前記羽根9における径方向内側と径方向外側とに、羽根9の回転方向の反対側に向けて凹む内側凹部21と外側凹部23をプレス成形によって一体形成している。
【0028】
従って、羽根9の表面33を流れる空気Aが剥離する剥離部31の面積が小さくなって空気流れの損失が減少し、駆動源の回転運動エネルギーを送風のエネルギーへ変換する送風機効率を向上させることができる。また、鋼板パネルからなる羽根9に内側凹部21と外側凹部23をプレス成形によって一体形成しているため、軽量化、高強度および安価なコストを維持することができる。
【0029】
(2)前記羽根9の凹部10は、羽根9における外周縁部の全周に亘って形成されている。従って、羽根9の強度がさらに高くなり、羽根車1の耐久性が向上する。
【符号の説明】
【0030】
1…遠心ファン用羽根車
3…主板
5…吸込口
7…側板
9…羽根
10…凹部
21…内側凹部(凹部)
23…外側凹部(凹部)