特許第5891046号(P5891046)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ テルモ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5891046-バルーンおよびバルーンカテーテル 図000004
  • 特許5891046-バルーンおよびバルーンカテーテル 図000005
  • 特許5891046-バルーンおよびバルーンカテーテル 図000006
  • 特許5891046-バルーンおよびバルーンカテーテル 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5891046
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】バルーンおよびバルーンカテーテル
(51)【国際特許分類】
   A61L 29/00 20060101AFI20160308BHJP
   A61M 25/10 20130101ALI20160308BHJP
【FI】
   A61L29/00 W
   A61M25/10 510
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-11534(P2012-11534)
(22)【出願日】2012年1月23日
(65)【公開番号】特開2013-146505(P2013-146505A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2014年11月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】藤田 陽太郎
(72)【発明者】
【氏名】大西 誠人
(72)【発明者】
【氏名】前田 直之
【審査官】 牧野 晃久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−010846(JP,A)
【文献】 特開2005−246097(JP,A)
【文献】 特開平09−164191(JP,A)
【文献】 特開2005−230578(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/098335(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/059536(WO,A1)
【文献】 特開平04−093323(JP,A)
【文献】 特開2005−319289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00− 33/00
A61M 25/00− 25/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドエラストマー層およびポリアミド層からなる少なくともつ以上の層が積層される膜から形成されたバルーンであって、
前記ポリアミド層の内側に前記ポリアミドエラストマー層が設けられており、
前記ポリアミド層の外側に、さらにポリアミドエラストマー層が設けられており、
前記バルーン全体の分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が3.20〜10であり、
前記バルーンの軸方向中心部における軸直角断面において、当該バルーン全体の断面積に対する前記ポリアミドエラストマー層1層の断面積比率が5〜25%、且つ前記ポリアミド層1層の断面積比率が50〜75%であることを特徴とするバルーン。
【請求項2】
前記バルーン全体の重量平均分子量(Mw)が40,000以上である、請求項1に記載のバルーン。
【請求項3】
前記ポリアミド層、前記ポリアミド層の内側に設けられた前記ポリアミドエラストマー層、および前記ポリアミド層の外側に設けられた前記ポリアミドエラストマー層から構成される、請求項1または2に記載のバルーン。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のバルーンを有する、バルーンカテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルーンおよびバルーンカテーテルに関する。特に、生体内の管腔などに挿入するバルーンおよびバルーンカテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
血管、胆管、食道、気管、尿道、その他の臓器などの生体内の管腔の狭窄部にステントを留置して管腔空間を確保する場合、虚血性心疾患の治療、または排尿が困難な患者に対する導尿として、バルーンの付いたカテーテル(バルーンカテーテル)が使用されている。
【0003】
そのため当該カテーテル用バルーンには、(1)トラッカビリティ(蛇行した血管などに対する追随性)、(2)血管などの狭窄部の通過性、(3)石灰化した血管などの狭窄部の拡張性、(4)コンプライアンス特性(小さな圧力変化によって、大きなバルーン径の変化が生じない適度な非伸展性)、(5)バルーン拡張時の内圧や衝撃に耐えられる十分な強度、耐圧性などといった特性が要求されている。

特にカテーテル用バルーンにおいては、血腫瘍や血管に対して出来うる限りダメージを引き起こす可能性を最小限にする安全性が求められるため、小さな圧力変化によって、大きなバルーン径の変化が生じない特性、すなわちコンプライアンス特性が特に重要な特性の1つである。 このコンプライアンス特性に着目した技術としては、例えば特許文献1がある。当該特許文献1には、6atm〜19atmの膨張圧力範囲で0.025〜0.045mm/atmの順応性を示すポリウレタンブロック共重合体から形成された半順応性バルーン、および6atm〜14atmの膨張圧力範囲で0.01〜0.25mm/atmの順応性を示すポリウレタンブロック共重合体から形成された軸方向非順応性バルーンが開示されている。
【0004】
特許文献1では、ナイロンなどの非順応性材料で形成されたバルーンは、そのコンプライアンス特性から収縮状態でも十分大きな径を有する必要があるため、バルーンを折り畳んだ状態でステントを配備して患者に実際に導入した際に、この折り畳まれたバルーンがステントの不均一な膨張を引き起こすという従来からの問題点を解決するものであるとしている。
【0005】
その他の技術として特許文献2には、最も外側の壁をポリアミド、最も内側の壁をポリエチレンテレフタレートで構成する二重壁管状部材から形成され、8〜18気圧の圧力範囲にわたって13%以下のコンプライアンス係数を示すバルーンが開示されている。
【0006】
これにより特許文献2のバルーンは、ステント配送での使用の際にバルーンとステントとの摩擦的現象に起因する摩耗を抑制したり、血管に対するステントの過度な膨張を抑制する非伸展性やバースト強度に優れたバルーンであるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−110392号公報
【特許文献2】特開平10−234845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、特許文献1の発明は、折り畳まれたバルーンがステントの不均一な膨張を引き起こすことを抑制・防止する観点で創作されたものであり、ナイロン(ポリアミド)などの非伸展性を示す非順応性材料の代替として、半順応性のポリウレタン共重合体からなる単層膜を用いてバルーンを形成している。しかしながら、生体と接触する外壁はポリウレタン共重合体であるため、不均一な膨張を抑制する代わりにトラッカビリティや通過性能が損なわれる。また、半順応性材料を使用しているため、生体内でのバルーン拡張の際に非伸展性が担保されなく、安全面でも不安が残る。
【0009】
さらに、特許文献2の発明は、高強度材料のポリエチレンテレフタレート層を内壁側に、当該ポリエチレンテレフタレートより柔軟なポリアミドを外壁側に積層した膜によりバルーンを形成しているため、トラッカビリティを上げるには薄膜状のバルーンにする必要がある。そのため、バルーンと結石や石灰化病変との接触により生体内での破損の虞がある。
【0010】
そこで、本発明は、かかる問題点を解決するために、コンプライアンス特性が向上し、かつ耐圧性能と通過性能とを損なうことがないバルーンおよびバルーンカテーテルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するために、本発明者らは、バルーンを形成する各層ごとの分子量やその分布ではなく、バルーン膜全体を構成する高分子を巨視的に捉えた場合、当該バルーン全体としての高分子の分子量分布が所定の範囲であると、耐圧性能と通過性能を損なうことなくコンプライアンス特性が向上する知見を見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0012】
本発明のバルーンは、径の膨らみやすさを示すコンプライアンスが0.013mm/atm以下と低く(すなわち、コンプライアンス特性が向上し)、従来のものに比べて耐圧性能と通過性能を維持したまま加圧によるバルーン部の伸びを劇的に抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】本発明に係るバルーンの一例を示す模式図である。
図1B】本発明に係るバルーンの他の例を示す模式図である。
図2】本発明に係るバルーンの成形金型の説明用の模式図である。
図3】本発明に係るバルーンカテーテルの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の第一は、ポリアミドエラストマー層およびポリアミド層からなる少なくとも2つ以上の層が積層される膜から形成されたバルーンであって、前記ポリアミド層の内側に前記ポリアミドエラストマー層が設けられており、前記バルーン全体の分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が3〜10であることを特徴とするバルーンである。
【0015】
これにより、従来のものに比べて耐圧性能・通過性能を維持したまま、コンプライアンス特性が向上する(コンプライアンスが0.013mm/atm以下となる)ため、加圧によるバルーン部の伸びを劇的に抑えることが可能となり、病変部をしっかりと拡張できる上に粘膜や血管内面への損傷を抑制できる。また、ステントが留置された部位を拡張する際に、ステント自体の破損を確実に防止することができる。
【0016】
なお、本明細書では径の膨らみやすさを示すコンプライアンスという用語を、12atmから22atmの作動レンジで内部圧力を加えた時の径の増大との関係を示したコンプライアンス曲線の傾きを示す。
【0017】
以下、本発明に係るバルーンの構造について図を用いて説明するが、図1Aおよび図1Bは、それぞれバルーンの一例であり本発明の範囲はこれに限定されることはない。
【0018】
「バルーン」
図1Aは、本発明のバルーンがポリアミド層およびポリアミドエラストマー層からなる2層構造の一例の断面図であり、図1Bは、本発明のバルーンがポリアミドエラストマー層、ポリアミド層、およびポリアミドエラストマー層が順次積層された3層構造の一例の断面図である。
【0019】
本発明に係るバルーン11は、カテーテルから供給される流体により拡張収縮可能な筒状の膜状本体2と、前記膜状本体の軸方向両端から伸延され、かつ前記カテーテルと接続する接続部7a,7bとから構成されていることが好ましい。また、前記両端の接続部7a,7bにはそれぞれカテーテルから挿通される開口部3a,3bが形成されている。一方の接続部の開口部3bは、他方の接続部の開口部3aより大径に形成されていることが好ましい。また、バルーン11は、血管、尿管、胆管などの生体内の管腔の狭窄部を拡張するためのほぼ均一外径を有する筒状の部分を有している。
【0020】
さらに、当該筒状の膜状本体の両端部の形状は、図1Aおよび図1Bに示すように、それぞれテーパー状(先細状)であってもよい。また、本発明に係るバルーンは、両端が先細状に形成されたテーパー部6a,6bを備えた筒状の膜状本体と、前記テーパー部6a,6bのそれぞれと連設して、かつ軸方向外方に伸延されたカテーテルとの接続部7a,7bと、を有していることが好ましい。さらに、前記両端の接続部7a,7bにはそれぞれカテーテルから挿通される開口部3a,3bが形成されている。
【0021】
また、筒状の膜状本体の両端部の形状がテーパー状の場合、筒状の膜状本体の中央部は、バルーンの最大径部が続く部分であり、テーパー部6a,6bは、上記の筒状の膜状本体の中央部と連続し直径が連続的に端部に向かって縮小するように変化している部分である。
【0022】
さらに、カテーテルとの接続部7a,7bは、上記テーパー部6a,6bとそれぞれ連続し、外径がほぼ同一な小径部となっている部分であり、カテーテルへのバルーンの取り付け部分となる部分であり、それぞれ開口部3a,3bが形成されている。そして、テーパー部6a,6bおよびカテーテルとの接続部7a,7bは、バルーンの筒状の膜状本体の両側にそれぞれあり、それぞれのテーパー部およびそれぞれの接続部の形状は異なっていてもよい。
【0023】
本発明に係るバルーンは、ポリアミドエラストマー層およびポリアミド層からなる少なくとも2つ以上の層が積層された多層構造の膜から形成されたものであり、好ましくは、前記ポリアミドエラストマー層を1〜3層有し、かつ前記ポリアミド層を1〜3層有する膜から形成されたものであり、より好ましくは、前記ポリアミドエラストマー層を2層有し、かつ前記ポリアミド層を1層有する膜から形成されたものである。
【0024】
このようにポリアミドエラストマーとポリアミドとを積層することで、後述のパリソンを共押出により容易に成形することが可能である。また、バルーンとしての柔軟性・通過性能と耐圧性能とを両立させることが可能となる。
【0025】
上記ポリアミドエラストマー層および上記ポリアミド層が積層される順序は、最内側にポリアミドエラストマー層が設けられ、かつ当該ポリアミドエラストマー層の表面にポリアミド層が積層されていれば、その他の層の積層順序は特に制限されることはないが、本発明に係るバルーンにおいて、前記ポリアミド層の外側にさらにポリアミドエラストマー層を設けることが好ましい。
【0026】
そして、本発明に係るバルーンは、ポリアミドエラストマー層、ポリアミド層、およびポリアミドエラストマー層が順次積層された3層構造の膜から構成されたものであること、すなわち最外層がポリアミドエラストマー層であることが特に好ましい。
【0027】
最外層がポリアミドエラストマー層である場合、ポリアミドエラストマーはポリアミドと比較して柔軟であるため、最外層が石灰化病変等の硬くて鋭い病変と接触してもバルーンが破損することはない。
【0028】
さらに、最外層として設けられたポリアミドエラストマー層またはポリアミド層の表面に生体適合性材料や抗血栓材料を必要により被覆してもよい。当該生体適合性材料や抗血栓材料としては、公知の各種の高分子を単独または混合して使用することができるが、例えば、天然高分子(コラーゲン、ゼラチン、キチン、キトサン、セルロース、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリリジン、カゼインなど)、合成高分子(リン脂質ポリマー、リン酸基を側鎖に持つMPC(メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)ブロックポリマー、ポリヒドロキシエチルメタアクリレート、ヒドロキシエチルメタアクリレートとスチレンとの共重合体(例えば、HEMA−St−HEMAブロック共重合体)、ポリメタクリル酸メチル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸−グリコール酸共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレンなど)が好適に使用できる。
【0029】
また、本発明に係るバルーンを血管内さらにはガイドカテーテル内への挿入を容易にするために、バルーンや膜状本体の外面に血液等と接触したときに、潤滑性を呈するようにするための処理を施すことが好ましい。このような処理としては、例えば、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ジメチルアクリルアミド−グリシジルメタアクリレートのランダムもしくはブロック共重合体等の親水性樹脂を表面コーティング、または表面に固定する方法などが挙げられる。
【0030】
また、上記ポリアミド層の表面に密着してポリアミドエラストマー層が形成されていることが好ましく、前記ポリアミド層の表面の全面にわたって前記ポリアミドエラストマー層が密着して形成されていることが好ましい。
【0031】
これにより、石灰化病変等の硬くて鋭い病変と接触しても破損することがなく、耐圧性を向上したバルーンを提供することができる。
【0032】
本発明に係るバルーンにおいて、バルーン全体の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は3〜10であり、好ましくは3〜8であり、より好ましくは3〜7である。
【0033】
当該分子量分布が3未満であると、バルーン全体の重量平均分子量が小さくなって、バルーンの破裂圧力およびコンプライアンス特性が共に低下する。一方、当該分子量分布が10超であると、バルーン各層において分子鎖の長さが揃わずに様々な鎖長の分子が存在し、その結果ランダムに存在する分子鎖末端が構造欠陥の起点となって破壊が進み、耐圧性能が低下する恐れがある。
【0034】
ここでいう「バルーン全体の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)」とは、当該膜を構成する各層の分子量分布ではなく、製品であるバルーンを構成する膜に使用されている高分子全体の分子量分布をいう(ただし、バルーンの表面に前述の生体適合性材料や抗血栓材料、親水性樹脂をコーティングしている場合、それらの分子量分布は包含しない)。したがって、上述したようにポリアミドエラストマー層およびポリアミド層からなる少なくとも2つ以上の層が積層された多層構造の膜から形成された本発明のバルーンの場合は、多層を構成する高分子全体の分子量分布をいい、例えば、図1Aに示す2層構造の場合は、2層の全体の高分子の分子量分布であり、図1Bに示すように3層構造の場合は3層の全体の高分子の分子量分布をいう。また、バルーン全体の分子量分布は、各種重合条件を調整することでも制御できる。例えば重合温度を変更することで分子量分布の制御ができる。
【0035】
本発明に係るバルーン全体の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、分子量と分子数でプロットした分子量分布関数において、単一のピークを有する形状が好ましく、また当該分布形状は、ポアソン分布、シュルツ‐フローリー分布など挙げられるが、シュルツ‐フローリー分布に当てはまる重量平均分子量/数平均分子量を有することが好ましい。
【0036】
本発明に係る分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、ゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)法により、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を測定し、MwをMnで除した値(Mw/Mn)である。また、本発明で使用しているGPC法での測定条件としては、例えば、次の条件をあげることができる。
(1)前処理:0.2μmメンブレンフィルターで濾過
(2)装置:ポンプ Shodex DS−4
(3)分離カラム:Shodex GPC HFIP−806M−+HFIP−803(昭和電工製)
(4)測定温度:40℃
(5)キャリア:ヘキサフルオロイソプロパノール(+5mmol/L CFCOONa)
(6)流量:1.0mL/min
(7)注入量:100μL
(8)検出器:Shodex RI−71(昭和電工製)
(9)濃度:0.1w/v%
(10)分子量標準物質:標準ポリメチルメタクリレート、ジメチルテレフタレート
本発明に係るバルーンの大きさとしては、拡張したときの筒状の膜状本体の外径が、1〜35mm、好ましくは、1.5〜30mmであり、当該筒状の膜状本体の長軸方向の長さは、3〜80mm、好ましくは、10〜75mmであり、当該バルーンの全体の長さ(筒状の膜状本体と接続部との長軸方向の合計長さ)が、5〜120mm、好ましくは、15〜100mmである。
【0037】
本発明に係るバルーンの軸直角の断面形状は、特に制限されることはなく、円、楕円、略楕円、多角柱状であってもよい。
【0038】
本発明に係るバルーンの収縮時の平均厚みは、5〜50μmが好ましく、10〜30μmがより好ましい。
【0039】
当該バルーンの収縮時の平均厚みが5〜50μmの範囲であると、トラッカビリティや血管や体腔などの狭窄部位への通過性の観点で好ましい。
【0040】
本発明のバルーンの接続部は、上記図1A図1Bに示すような膜状本体2と一体化されたもの(一体成形されたもの)であっても、別途筒状の膜状本体2より小径の略円筒状の膜体を接合したものであってもよい。
【0041】
本発明に係るバルーンは、カテーテルから供給される流体により拡張収縮可能な膜状本体を備えているため、折り畳み可能なものであり、収縮状態では、カテーテルの本体チューブの外周に折り畳まれた状態となることができる。
【0042】
本発明のバルーンは、ポリアミドエラストマー層およびポリアミド層からなる少なくとも2つ以上の層の積層体からなる膜により形成されたものである。以下、各構成要素であるポリアミドエラストマー層およびポリアミド層について説明する。
【0043】
(ポリアミド層)
本発明に係るバルーンを構成するポリアミド層の平均厚さは、0.5〜49.5μmが好ましく、5〜25μmがより好ましい。当該平均厚さを所定範囲にすると、バルーンとしての柔軟性・通過性能と耐圧性能とを両立することが可能となるためである。
【0044】
本発明に係るポリアミド層は、ポリアミドを有し、必要により公知の添加剤やX線不透過性物質を含んでもよく、またはポリアミドのみから構成されてもよく、当該ポリアミド層において、ポリアミドを50〜100重量%含んでいれば、バルーンに必要な耐圧性能やコンプライアンス特性を確保することができる。
【0045】
本発明に係るポリアミド層において好適に使用できるポリアミドは、主鎖に酸アミド結合(−CO−NH−)を有するものであれば、特に限定されることはなく、通常、環構造のラクタムまたはアミノ酸の重合(単独重合)、あるいは、ジカルボン酸およびジアミンの縮重合により製造される。従って、ポリアミドとしては、ホモポリアミドを用いることが好ましい。単独で重合可能な単量体としては、ε−カプロラクタム、アミノカプロン酸、エナントラクタム、7−アミノヘプタン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、9−アミノノナン酸、ピペリドン等が挙げられる。
【0046】
また、ジカルボン酸及びジアミンを縮重合させる場合のジカルボン酸としては、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、グルタル酸、テレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。ジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン等が挙げられる。
【0047】
また、前記ポリアミドしては、ナイロン4、6、7、8、11、12、6.6、6.9、6.10、6.11、6.12、6T、6/6.6、6/12、6/6T、6T/6I等が挙げられる。
【0048】
なお、ポリアミドの末端は、カルボキシル基、アミノ基等で封止されていてもよい。前記ポリアミドは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
本発明に係るポリアミドは、上記のうち特にナイロン11、ナイロン12が好ましい。
【0050】
本発明に係るポリアミドの重量平均分子量は、10,000〜500,000であることが好ましく、15,000〜400,000であることがより好ましく、20,000〜300,000であることがさらに好ましい。
【0051】
本発明に係るポリアミド層に使用されるポリアミドの分子量が10,000〜500,000であると、延性が良好であり、バルーン全体として良好なコンプライアンス特性を示す。
【0052】
なお、本発明に係るポリアミドの重量平均分子量は、MSスペクトル法、光散乱法、GPC法等の液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーなどで公知の方法で測定することができ、本明細書では、GPC法により測定した分子量である。測定条件は、上記のバルーン全体のMw/Mnを算出した条件で行ったのでここでは省略する。
【0053】
必要によりポリアミド層に含有される添加剤としては、高級アルコール、ヒドロシキ安息香酸エステル、芳香族スルホンアミドなど挙げることができるが必ずしもこれらに限定されることはない。
【0054】
また、必要によりポリアミド層に含有されるX線不透過性物質は、X線に対して不透過であれば特に制限されず、公知のX線不透過性物質が使用できる。具体的には、ヨウ素、バリウム、ビスマス、ホウ素、臭素、カルシウム、金、白金、銀、鉄、マンガン、ニッケル、ガドリニウム、ジスプロシウム、タングステン、タンタル、ステンレス鋼、ニチノール、硫酸バリウム、もしくはこれらの化合物、ならびにこれらの溶液/分散液(例えば、生理食塩水);アミドトリゾ酸(amidotrizoic acid、3,5−diacetamino−2,4,6−triiodobenzoic acid)、アミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン、アミドトリゾ酸メグルミン、イオタラム酸ナトリウム、イオタラム酸メグルミン、イオトロクス酸メグルミン、イオトロラン、イオキサグル酸、イオキシラン、イオパミドール、イオプロミド、イオヘキソール、イオベルソール、イオメプロール;ヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステル(例えば、炭素原子がヨウ素化されているケシ種油であるLipiodol(登録商標))などが挙げられる。これらのX線不透過性物質は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。または、上記したような造影剤を基剤とする造影剤層をさらに膜状体に積層して設けてもよい。
【0055】
これにより、X線透視下でバルーンの拡張度合いを確認できるため、確実にかつ容易にバルーンの位置を確認可能できる。
【0056】
本発明に係るバルーンの軸方向中心部における軸直角断面において、バルーン全体の断面積に対するポリアミド層1層の断面積比率は、40〜90%が好ましく、50〜75%がより好ましい。
【0057】
この範囲であれば、バルーン全体の分子量分布を容易に3〜10の範囲内に設定することができる。
【0058】
(ポリアミドエラストマー層)
本発明に係るポリアミドエラストマー層は、ポリアミドエラストマーを有し、必要により公知の添加剤やX線不透過性物質を含んでもよく、または少なくとも1種以上のポリアミドエラストマーのみから構成されてもよい。したがって、ポリアミドエラストマーは1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。当該ポリアミドエラストマー層において、ポリアミドエラストマーを50〜100重量%含んでいれば、バルーンに必要なトラッカビリティ、血管などの狭窄部の通過性、および石灰化病変等の拡張性に必要な柔軟性を確保することができる。
【0059】
本発明に係るカテーテル用バルーンを構成するポリアミドエラストマー層の平均厚さは、0.5〜10μmが好ましく、1〜5μmがより好ましい。
平均厚さが0.5〜10μmの範囲であると、バルーンとしての柔軟性・通過性能と耐圧性能を両立することが可能となる。
【0060】
本発明に係るポリアミドエラストマー層に好適に用いられるポリアミドエラストマーは、ポリアミドブロック共重合体であることが好ましく、ハードセグメントとソフトセグメントを有する2元のブロック共重合体がより好ましい。2元のブロック共重合体としては、例えばポリアミド(ハードセグメント)とポリエーテル(ソフトセグメント)のブロック重合体、具体的には、ナイロン11とポリテトラメチレングリコールのブロック共重合体、ナイロン12とポリテトラメチレングリコールのブロック共重合体が挙げられる。
【0061】
本発明に係るポリアミドエラストマーのソフトセグメントの含有率は、1〜50wt%が好ましく、10〜30wt%がより好ましい。
【0062】
本発明に係るポリアミドエラストマーのショアD硬度は、50〜80が好ましく、55〜63がより好ましい。
【0063】
本発明に係るポリアミドエラストマーの引張弾性率は、200〜600MPaが好ましく、230〜500MPaがより好ましい。
【0064】
本発明に係るポリアミドエラストマーは、以下の化学式(1)もしくは以下の化学式(2)のブロック共重合体を高分子鎖に有することが好ましい。
【0065】
【化1】
【0066】
(上記化学式(1)中において、a、b、c、d、p、およびqはそれぞれ独立しており、aは4〜12の整数、bは4〜10の整数、cは0〜100の整数、dは0〜100の整数、pは2〜4の整数、qは1〜100の整数であり、Lnは、リンカー部位であり、−C(O)−R−O−C(O)−であり、前記Rは、メチレン数が2〜12からなるアルキレン基である。)
【0067】
【化2】
【0068】
(上記化学式(2)中において、n、m、l、p、およびqはそれぞれ独立しており、nは5〜11の整数、lは0〜100の整数、mは0〜100の整数、pは2〜4の整数、qは1〜100の整数であり、Lnは、リンカー部位であり、−C(O)−R−O−C(O)−であり、前記Rは、メチレン数が2〜12からなるアルキレン基である。)
すなわち、本発明に係るポリアミドエラストマーは、上記の化学式(1)もしくは化学式(2)のポリアミドエラストマーブロック共重合体自体であっても、上記の化学式(1)もしくは化学式(2)のポリアミドエラストマーブロック共重合体を溶融重合によりさらに高分子化したものであってもよいが、本発明に係るポリアミドエラストマーは、上記の化学式(1)もしくは化学式(2)のポリアミドエラストマーブロック共重合体を溶融重合によりさらに高分子化したものが好ましい。したがって溶融重合によりさらに高分子化した場合、上記の化学式(1)もしくは化学式(2)のポリアミドエラストマーブロック共重合体がいわば“繰り返し単位”となる。
【0069】
また、上記化学式(1)および化学式(2)中の前記Rは、メチレン数が2〜12からなるアルキレン基であれば、直鎖であっても、分岐であっても、環状であってもよく特に制限されないが、具体的には、テトラメチレン基、2−メチルプロピレン基、1,1−ジメチルエチレン基、n−ペンチレン基、n−ヘキシレン基、n−ノニレン基、1−メチルオクチレン基、6−メチルオクチレン基、1−エチルヘプチレン基、1−(n−ブチル)ペンチレン基、4−メチル−1−(n−プロピル)ペンチレン基、1,5,5−トリメチルヘキシレン基、1,1,5−トリメチルヘキシレン基、n−デシレン基、1−メチルノニレン基、1−エチルオクチレン基、1−(n−ブチル)ヘキシレン基、1,1−ジメチルオクチレン基、3,7−ジメチルオクチレン基、n−ウンデシレン基、1−メチルデシレン基などが挙げられる。
【0070】
上記のさらに高分子化したものは、両末端が封止されていないポリアミドエラストマーを溶融重合することにより得ることができる。当該溶融重合は、冷却機能(冷却機:EYELA製UT−4000L)を付属した真空乾燥機(EYELA製VOS301SD)を用いて、一定時間(5〜80時間)、真空ポンプ(ULVAC製GCD136XN)により真空下にして200〜2820℃で加熱することで行なうことができる。
【0071】
また、本発明に係るポリアミドエラストマー層に、上記の化学式(1)もしくは化学式(2)のポリアミドエラストマーブロック共重合体を使用する場合は、上記の化学式(1)もしくは化学式(2)のポリアミドエラストマーブロック共重合体を1種単独であるいは2種を組み合わせて用いてもよい。また、上記の化学式(1)もしくは化学式(2)のポリアミドエラストマーブロック共重合体が “繰り返し単位”となるさらに高分子化したポリマーを、本発明のポリアミドエラストマーとして使用する場合も、上記の化学式(1)もしくは化学式(2)のポリアミドエラストマーブロック共重合体をそれぞれ高分子化したポリマーにを混合してもよく、さらに高分子化したポリマーの高分子鎖に上記の化学式(1)および化学式(2)の繰り返し単位を含んでもよい。
【0072】
本発明に係るポリアミドエラストマーの重量平均分子量は、10,000〜500,000であることが好ましく、15,000〜400,000であることがより好ましく、20,000〜300,000であることがさらに好ましい。なお、当該ポリアミドエラストマーの分子量の測定方法は、ポリアミドと同様の方法で測定している。
【0073】
ポリアミドエラストマーの重量平均分子量が10,000〜500,000であると、伸張粘度が高く、加圧に伴う伸びが抑制されるため、コンプライアンス特性が向上する。
【0074】
本発明に係るポリアミドエラストマーは、合成しても市販のものを購入してもよく、例えば、ELG5660(EMS社製、商品名;Grilflex、)、ELG6260(EMS社製、商品名;Grilflex)、前記ELG5660を溶融重合した高分子量体(溶融粘度1260〜3489Pa・s)、前記ELG6260を溶融重合した高分子量体(溶融粘度5282〜7391Pa・s)などが挙げられる。
【0075】
また、本発明に係るポリアミドエラストマーの末端は、カルボキシル基、アミノ基等で封止されていてもよい。
【0076】
本発明に係るポリアミドエラストマーの溶融粘度は500以上であることが好ましく、500〜20000Pa・sであることがより好ましい。加圧に伴う伸びがより抑制され、バルーン全体としてより高いコンプライアンス特性を示すためである。なお、本発明において溶融粘度は、フロテスター「島津製 CFT−500D」を用いて測定した。
【0077】
必要によりポリアミドエラストマー層に含んでもよい添加剤やX線不透過性物質については、ポリアミド層と同一であるのでここでは省略する。
【0078】
本発明に係るバルーンの軸方向中心部における軸直角断面において、バルーン全体の断面積に対するポリアミドエラストマー層1層の断面積比率は、5〜25%が好ましく、10〜20%がより好ましい。
【0079】
この範囲であれば、バルーン全体の分子量分布を容易に3〜10の範囲内に設定することができる。
【0080】
本発明に係るバルーンの材料の特に好ましい実施形態は、ポリアミドの重量平均分子量が、20,000〜50,000であり、かつポリアミドエラストマーの重量平均分子量が、20,000〜500,000であり、さらに、前記ポリアミドとしてナイロン12、ポリアミドエラストマーとしてナイロン12とポリテトラメチレングリコールのブロック共重合体を選定すると容易に分子量分布(Mw/Mn)を3以上10以下にすることができる。
【0081】
「バルーンの製造方法」
以下、本発明に係るバルーンの製造方法の好ましい実施形態について説明する。本発明のバルーンの製造方法は、ポリアミド層とポリアミドエラストマー層とを共押出してなる二色(二層)または三色(三層)のポリマーチューブ(パリソン)を形成する工程(1)と、当該パリソンを常温(25℃)以上かつ両ポリマーの融点未満の範囲の温度下にて軸方向に延伸し、さらに延伸されたパリソンを半径方向に膨張させて二軸延伸する工程(2)と、膨張されたパリソンを常温に冷却し、内径がほぼ均一な筒状の膜状本体、該膜状本体の前後にそれぞれ設けられたテーパー部、および前記テーパー部の前後にそれぞれ設けられたカテーテルとの接続部を有する二軸延伸されたバルーンを形成する工程(3)と、を含むことが好ましい。
【0082】
本発明において、バルーン膜を構成する高分子全体の分子量分布に着目し、二軸延伸法によりバルーンを製造すると、製造過程の熱履歴により原料である高分子材料が分解し、分子量および分子量分布が低下することがある。例えば、製造されたバルーンの分子量が原料の分子量に対して20〜40%低下し、分子量分布が3未満になることがある。したがって、このような熱履歴を考慮して原料のポリアミドおよびポリアミドエラストマーを選択する必要がある。
【0083】
以下、各工程(1)〜(3)について詳説する。
【0084】
工程(1)
延伸可能なポリマーによりチューブ状パリソンを形成する工程1は、ダイスを取り付けた汎用の押出成形機によって行うことができる。ポリアミドエラストマーを上述の方法により溶融重合して高分子化したポリアミドエラストマー、または高分子化していないポリアミドエラストマー、およびポリアミドを成形用ポリマーとし、当該成形用のポリマーをそれぞれ、ポリアミド100重量部に対してポリアミドエラストマーを1〜30重量部となるよう押出成形機内にて180〜300℃で加熱溶融し、ダイスより前記ポリマーを共押出して、チューブ状パリソン27を成形する。このときの押出成形温度は、前記ポリマーが溶融可能な温度であれば、特に制限はないが、好ましくは180〜300℃、より好ましくは200〜280℃である。
【0085】
工程(2)
そして、このパリソン27を図2に示す金型20内に挿入し、パリソン27の一端を閉塞する。閉塞は、加熱溶融、高周波によるシール、鉗子などを用いて行う。図2は、バルーン成形金型20の断面図であり、この金型20は、加温手段であるヒーター22と冷却手段である冷却管23とを有している。そして、金型20は分離型25,26となっており、分離型25,26を組み合わせた際に形成される内面形状が、形成するバルーンの基本外面形状となっている。
【0086】
そして、図2に示すように、ヒーター22を作動させ、バルーン11を形成する部分のパリソン27を常温以上かつポリマー(チューブ27を形成しているポリアミドおよびポリアミドエラストマー)の融点未満の範囲の温度、好ましくは70〜140℃、より好ましくは80〜130℃の範囲の温度まで加熱する。パリソン27を加熱された状態に維持し、チューブ27を矢印X,Y方向に延伸し、さらに、矢印Z方向よりパリソン27内に気体を加圧しながら送り、金型20内で加熱されている部分のパリソン27を分離型25,26の内壁面に密着させる。
【0087】
パリソン27内に気体を送る際の圧力は、2.0〜6.0MPaが好ましく、2.5〜5.0MPaがより好ましく、3.0〜4.5MPaが最も好ましい。
【0088】
また、パリソン27を矢印X,Y方向に延伸する際の距離は、それぞれ1〜100mmが好ましく、2〜80mmがより好ましく、3〜50mmが最も好ましい。
【0089】
また、パリソン27を分離型25,26の内壁面に密着させる際の拡張倍率は、金型20内に挿入する前のパリソン27の径に対して、内径で7〜9倍、外径で2〜5倍である。
【0090】
工程(3)
そして、冷却管23内に冷却液を循環して、パリソン27を常温に冷却する。また、この冷却は、冷却液を循環することなく、単に放置して自然冷却してもよい。その後パリソン27内部を常圧にし、金型20内より、パリソン27を抜去する。そして、パリソン27の先端部および基端部にてパリソン27を切断することにより、図1Aおよび図1Bに示すようなバルーンの基本形状が形成される。また、上記延伸処理を2回以上行うことによって、目的とする肉厚のバルーンを形成してもよい。
【0091】
「バルーンカテーテル」
本発明の好ましい実施形態として、以下本発明に係るバルーンカテーテルについて説明するが、以下の実施形態のみには制限されない。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0092】
本発明のバルーンカテーテルについて図面を用いて説明する。図3は、本発明に係るバルーンカテーテルの一例を示す模式図である。
【0093】
本発明のバルーンカテーテル10は、図3に示すように、流体を移送可能な長尺状の外管12を備えたカテーテル本体1と、カテーテル本体1の先端に接続されたバルーン11と、カテーテル本体1の基端に取り付けられたハブ13とを有する。また、バルーンカテーテル10は、外管12内に形成されたルーメン120を通る内管14と、内管14の先端に設けられた先端部材15と、を有する。先端とは使用の際に血管内に挿入される側に位置する端部(近位端)であり、基端とは使用の際にバルーンカテーテル10を操作する術者側に位置する端部(遠位端)である。
【0094】
なお、図3では、カテーテルの基端部側がシングルルーメンとなっており、先端と基端との間にガイドワイヤーが挿入できるワイヤーポートが備えたラピッドエクスチェンジ型カテーテルを示しているが、カテーテルの基端部側が同軸の二重ルーメンになっており、内管がハブまで延びているオーバーザワイヤー型であってもよい。
【0095】
このバルーンカテーテル10は、血管拡張用カテーテルに応用した一例であり、本発明のバルーンおよびバルーンカテーテルは尿道カテーテルなど他のカテーテルにも適用できる。
【0096】
当該カテーテルからバルーンに供給される流体としては、造影剤、ヘリウムガス、生理食塩水、COガス、Oガス、Nガス、空気など公知のものが挙げられる。
【0097】
本発明のバルーンカテーテル10の構造についてより詳細に説明すると、図3に示すように、当該バルーンカテーテル10は、先端が開口している第1のルーメン150を有する内管14と、当該内管14の先端より所定長基端側に後退した位置に当該内管14と同軸的に設けられ、かつ内管14の外面との間に第2のルーメン120を形成する外管12と、カテーテルとの接続部(バルーンの先端部側)7a,カテーテルとの接続部(バルーンの基端部側)7bを有し、接続部7bが外管12に取り付けられ、接続部7aが内管14に取り付けられ、基端部近傍にて第2のルーメン120と連通する折り畳み可能なバルーン1と、前記第2のルーメンと連通する開口部を備えたハブと、を具備している。
【0098】
本発明のバルーンカテーテル10は、内管14および外管12を備えたカテーテル本体1と、ハブ13と、バルーン11とにより構成されている。内管14は、先端が開口した第1のルーメン150(内側のアウタールーメン)を有している。第1のルーメン150は、ガイドワイヤーを挿通するためのルーメンであり、ガイドワイヤーポートを形成する開口部であるワイヤーポート18と連通している。そして、ワイヤーポート18より、ガイドワイヤー17を挿通することができる。
【0099】
内管14としては、外径が0.30〜2.50mm、好ましくは0.40〜2.00mmであり、内径が0.20〜2.35mm、好ましくは0.25〜1.70mmである。内管24の形成材料としては、ある程度の可撓性を有するものが好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンープロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー等の熱可塑性樹脂が使用できる。
【0100】
外管12は、内部に内管14を挿通し、先端が内管の先端よりやや後退した位置に設けられており、この外管12の内面と内管14の外面により第2のルーメン120が形成されている。よって、第2のルーメン120は、十分な容積を有するルーメンとすることができる。そして、第2のルーメン120は、その先端において上述するバルーン11内とその基端部において連通し、第2のルーメン120の基端は、バルーンを膨張させるための流体(例えば、造影剤、ヘリウムガス、生理食塩水、COガス、Oガスなど)を注入するためのインジェクションポートを形成するハブ13の開口部130と連通している。外管12としては、外径が0.50〜4.30mm、好ましくは0.60〜4.00mmであり、内径が0.40〜3.80mm、好ましくは0.50〜3.00mmである。
【0101】
また、必要によりバルーン拡張時にバルーン内に上記のX線不透過性物質を注入してもよい。
【0102】
外管12の形成材料としては、ある程度の可撓性を有するものが好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー等の熱可塑性樹脂が使用できる。
【0103】
また、図3において、本発明のバルーンカテーテル10の先端には、血管に追随するのを助ける役割を果たすとともに、血管壁に損傷を与えないようにするため、球面状の先端部材15を有することが好ましい。
【0104】
バルーン11は、折り畳み可能なものであり、拡張させない状態では、内管14の外周に折り畳まれた状態となることができるものである。そして、バルーン11は、血管の狭窄部を容易に拡張できるように少なくとも一部が円筒状となっているほぼ同径の筒状本体を有する折り畳み可能なものである。そして、バルーン11は、その接続部7bが外管12の先端部に接着剤または熱融着などにより液密に固着されている。接続部7aも、内管14の先端部に同様に液密に固着されている。
【0105】
バルーン11は、図3に示すように、拡張時、バルーン11の内面と内管14の外面との間に空間112を形成する。この空間112の基端側ではその全周において第2のルーメン120と連通している。このように、バルーン11の基端側に比較的大きい容積を有する第2のルーメンを連通させているため、第2のルーメンよりバルーン11内へ流体を注入するのが容易である。バルーン11としては、上述したものが使用される。また図3においては、バルーン11は3層の膜から構成されているが、上記のように少なくともポリアミド層とポリアミドエラストマー層からなる2層以上の膜で構成されていれば特に制限されない。
【0106】
また、バルーン11の筒状の膜状本体の位置をX線造影により確認できるようにするために、内管14の外面に、X線マーカー44を一つ以上設けることが好ましい。X線マーカー44は、図3に示すように、バルーン11の内管14との固着部より基端側近傍の位置およびバルーン11と外管12との固着部より先端側近傍の位置、つまり、バルーン11の筒状の膜状本体2の両端に位置する部分に設けることが好ましい。
【0107】
当該X線マーカー44は、X線不透過材料(例えば、金、白金、イリジウム、タングステンあるいはそれらの合金等)により形成されることが好ましい。
【0108】
本発明に係るハブ13は、第2のルーメン120と連通し、流体を注入排出する通路の入口であるインジェクションポートを形成する開口部130を有する。そのため、開口部130は、流路としての役割も担い、例えばインデフレーター、シリンジ、ポンプ等の流体給排部(不図示)に連通される。これらによって流体が開口部130および第2のルーメン120を経てバルーン11に供給され、またはバルーン11から排出される。すなわち、開口部130およびルーメン120は、バルーン11を拡張収縮させる駆動流体の供給、排出経路として機能する。
【0109】
本発明に係るハブの形成材料としては、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリサルホン、ポリアリレート、メタクリレート‐ブチレン‐スチレン共重合体等の熱可塑性樹脂が好適に使用できる。
【実施例】
【0110】
以下、本発明の具体的実施例について説明する。
【0111】
実施例において分子量測定は、全て以下の条件で実施した。
移動相;ヘキサフルオロイソプロパノール(+5mmol/L CFCOONa)、標準物質;標準ポリメチルメタクリレート(PMMA),ジメチルテレフタレート、注入量;100μL、流速;1.0ml/min、カラム温度(測定温度);40℃、濃度;0.1w/v%、前処理;0.2μmメンブレンフィルターでろ過、使用装置;ポンプ・・・Shodex DS−4(昭和電工製)、カラム(分離カラム)・・・Shodex GPC HFIP−806M−+HFIP−803(昭和電工製)、検出器・・・Shodex RI−71(昭和電工製)
以下、Mnは数平均分子量、Mwは重量平均分子量、Mw/Mnは分子量分布を示す。
【0112】
(実施例1)
ポリアミドエラストマー(EMS社製グリルアミドELG5660、Mn;10,300、Mw;27,200、Mw/Mn;2.64)の溶融重合によって得られたポリアミドエラストマー(Mn;19,200、Mw;86,500、Mw/Mn;4.51)樹脂(PAE1)を作製し、内層と外層にPAE1、中層にポリアミド(EMS社製グリルアミドL25、Mn;19,100、Mw;42,700、Mw/Mn;2.24)を用いた3層チューブ(内径拡張倍率;8.2倍、φ0.37×0.47×0.82×0.88mm)を250℃で成形した。その後、得られたチューブ内に110℃で乾燥窒素を3.9MPaの圧力で30秒間吹き込むことによりブロー成形を行い、外径3.00mm,肉厚22.4μm、長さ15mmのバルーンを作製した。その後、当該バルーンをそのままヘキサフロオロイソプロパノール(HFIP)に溶解してGPC法により分子量を測定した結果、Mnは12,800、Mwは41,000、Mw/Mnは3.20であった。またバルーンの耐圧(破裂圧力)は35.9atm、コンプライアンスは0.010mm/atmであった。
【0113】
(実施例2)
ポリアミドエラストマー(EMS社製グリルアミドELG5660、Mn;10,300、Mw;27,200、Mw/Mn;2.64)の溶融重合によって得られたポリアミドエラストマー(Mn;19,200、Mw;86,500、Mw/Mn;4.51)樹脂(PAE1)を作製し、内層と外層にPAE1、中層にポリアミド(EMS社製グリルアミドL25、Mn;19,100、Mw;42,700、Mw/Mn;2.24)を用いた3層チューブ(内径拡張倍率;8.6倍、φ0.35×0.46×0.77×0.83mm)を250℃で成形した。その後、得られたチューブ内に110℃で乾燥窒素を3.9MPaの圧力で120秒間吹き込むことによりブロー成形を行い、外径3.00mm,肉厚22.1μm、長さ15mmのバルーンを作製して、上記と同様の方法で分子量を測定した結果、Mnは12,800、Mwは42,100、Mw/Mnは3.29であった。またバルーンの耐圧(破裂圧力)は36.9atm、コンプライアンスは0.010mm/atmであった。
【0114】
(実施例3)
ポリアミドエラストマー(EMS社製グリルアミドELG6260、Mn;10,600、Mw;24,700、Mw/Mn;2.33)の溶融重合によって得られたポリアミドエラストマー樹脂(PAE2、Mn;18,600、Mw;120,600、Mw/Mn;6.48)を作製し、内層と外層にPAE2、中層にポリアミド(EMS社製グリルアミドL25、Mn;19,100、Mw;42,700、Mw/Mn;2.24)を用いた3層チューブ(内径拡張倍率;8.6倍、φ0.35×0.47×0.82×0.88mm)を250℃で成形した。その後、得られたチューブ内に110℃で乾燥窒素を3.7MPaの圧力で30秒間吹き込むことによりブロー成形を行い、外径3.00mm,肉厚23.0μm、長さ15mmのバルーンを作製して、上記と同様の方法で分子量を測定した結果、Mnは12,700、Mwは49,300、Mw/Mnは3.88であった。またバルーンの耐圧(破裂圧力)は34.1atm、コンプライアンスは0.011mm/atmであった。
【0115】
(実施例4)
ポリアミドエラストマー(EMS社製グリルアミドELG6260、Mn;10,600、Mw;24,700、Mw/Mn;2.33)の溶融重合によって得られたポリアミドエラストマー樹脂(PAE2、Mn;18,600、Mw;120,600、Mw/Mn;6.48)を作製し、内層と外層にPAE2、中層にポリアミド(EMS社製グリルアミドL25、Mn;19,100、Mw;42,700、Mw/Mn;2.24)を用いた3層チューブ(内径拡張倍率;8.6倍、φ0.35×0.47×0.82×0.88mm)を250℃で成形した。その後、得られたチューブ内に110℃で乾燥窒素を3.7MPaの圧力で30秒間吹き込むことによりブロー成形を行い、外径3.00mm,肉厚23.0μm、長さ15mmのバルーンを作製して、上記と同様の方法で分子量を測定した結果、Mnは12,700、Mwは49,300、Mw/Mnは3.88であった。またバルーンの耐圧(破裂圧力)は33.3atm、コンプライアンスは0.012mm/atmであった。
【0116】
(実施例5)
上記実施例1の中層ポリアミド(EMS社製グリルアミドL25、Mn;19,100、Mw;42,700、Mw/Mn;2.24)を溶融重合したポリアミド(PA1、Mn;23,000、Mw;142,200、Mw/Mn;6.18)を用いた以外は実施例1と同じ組成を用いた3層チューブ(内径拡張倍率;8.2倍、φ0.37×0.47×0.82×0.88mm)を250℃で成形した。その後、得られたチューブ内に110℃で乾燥窒素を3.7MPaの圧力で30秒間吹き込むことによりブロー成形を行い、外径3.00mm,肉厚21.9μm、長さ15mmのバルーンを作製して上記と同様の方法で分子量を測定した結果、Mnは14,700、Mwは93,100、Mw/Mnは6.33であった。またバルーンの耐圧(破裂圧力)は39.1atm、コンプライアンスは0.009mm/atmであった。
【0117】
(実施例6)
上記実施例1の中層ポリアミド(EMS社製グリルアミドL25、Mn;19,100、Mw;42,700、Mw/Mn;2.24)を溶融重合したポリアミド(PA1、Mn;23,000、Mw;142,200、Mw/Mn;6.18)を用いた以外は同じ組成を用いた3層チューブ(内径拡張倍率;8.6倍、φ0.35×0.46×0.77×0.83mm)を250℃で成形した。その後、得られたチューブ内に110℃で乾燥窒素を3.9MPaの圧力で30秒間吹き込むことによりブロー成形を行い、外径3.00mm,肉厚23.4μm、長さ15mmのバルーンを作製して、上記と同様の方法で分子量を測定した結果、Mnは14,600、Mwは91,700、Mw/Mnは6.28であった。またバルーンの耐圧(破裂圧力)は38.7atm、コンプライアンスは0.010mm/atmであった。
【0118】
(比較例1)
内外層にポリアミドエラストマー(EMS社製グリルアミドELG5660、Mn;10,300、Mw;27,200、Mw/Mn;2.64)、中層にポリアミド(EMS社製グリルアミドL25、Mn;19,100、Mw;42,700、Mw/Mn;2.24)を用いた3層チューブ(内径拡張倍率;8.6倍、φ0.35×0.47×0.82×0.88mm)を250℃で成形した。その後、得られたチューブ内に90℃で乾燥窒素を4.2MPaの圧力で30秒間吹き込むことによりブロー成形を行い、外径3.00mm,肉厚22.4μm、長さ15mmのバルーンを作製して、上記と同様の方法で分子量を測定した結果、Mnは11,000、Mwは28,000、Mw/Mnは2.55であった。またバルーンの耐圧(破裂圧力)は30.9atm、コンプライアンスは0.016mm/atmであった。
【0119】
(比較例2)
内外層がポリアミドエラストマー(EMS社製グリルアミドELG6260、Mn;10,600、Mw;24,700、Mw/Mn;2.33)、中層にポリアミド(EMS社製グリルアミドL25、Mn;19,100、Mw;42,700、Mw/Mn;2.24)を用いた3層チューブ(内径拡張倍率;8.6倍、φ0.35×0.47×0.82×0.88mm)を250℃で成形した。その後、得られたチューブ内に90℃で乾燥窒素を4.2MPaの圧力で30秒間吹き込むことによりブロー成形を行い、外径3.00mm,肉厚21.7μm、長さ15mmのバルーンを作製して、上記と同様の方法で分子量を測定した結果、Mnは11,000、Mwは27,500、Mw/Mnは2.50であった。またバルーンの耐圧(破裂圧力)は23.1atm、コンプライアンスは0.019mm/atmであった。
【符号の説明】
【0120】
1 カテーテル本体、
2 筒状の膜状本体、
3a,3b 開口部、
7a,7b カテーテルとの接続部、
8 ポリアミドエラストマー層、
9 ポリアミド層、
10 カテーテル、
11 カテーテル用バルーン、
12 外管、
13 ハブ、
14 内管、
18 ワイヤーポート、
130 開口部(インジェクションポート)、
120 第2のルーメン、
150 第1のルーメン。
図1A
図1B
図2
図3