(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0014】
図1〜7は、本発明が適用される液圧モータの一例として、車両の走行装置を構成するピストンモータ1を示す。
【0015】
例えばロードローラや油圧ショベル等には、エンジンの動力を作動油圧によって走行装置に伝達する静油圧伝達装置(HST)が搭載されている。この静油圧伝達装置は、油圧源としてエンジンに駆動される可変容量タイプのピストンポンプ(図示せず)を備えるととともに、車輪を駆動する液圧モータとして可変容量タイプのピストンモータ1を備え、このピストンポンプとピストンモータ1の間を作動油が循環するようになっている。
【0016】
ピストンモータ1は、作動流体として、作動油(オイル)を用いるが、作動油の代わりに例えば水溶性代替液等の作動液を用いてもよい。
【0017】
図1は、ピストンモータ1に設けられる油圧回路図である。これに示すように、ピストンモータ1は、作動油圧によって回転作動するモータ機構40と、このモータ機構40に作動油を給排する第一、第二モータ通路41、42と、を備える。第一、第二モータ通路41、42は、図示しない油圧源に接続されて静油圧伝達装置の閉回路を構成する。
【0018】
油圧源から第一モータ通路41に導かれる作動油の圧力P1が第二モータ通路42に導かれる作動油の圧力P2より高められることによって、ピストンモータ1が反時計方向に回転作動する。
【0019】
一方、油圧源から第二モータ通路42に導かれる作動油の圧力P2が第一モータ通路41に導かれる作動油の圧力P1より高められることによって、ピストンモータ1が時計方向に回転作動する。
【0020】
ピストンモータ1は、モータ機構40の容量(押しのけ容積)を変える容量可変機構として、一対の傾転アクチュエータ31を備える。この傾転アクチュエータ31は、アクチュエータ通路32、33を通じて導かれる作動油圧によって作動する。
【0021】
ピストンモータ1は、傾転アクチュエータ31に導かれる作動油圧を切り換える速度切換弁43を備える。この速度切換弁43は、アクチュエータ通路32、33をモータ内ドレン通路49に連通する低速ポジションaと、アクチュエータ通路32、33をそれぞれ第一、第二モータ通路41、42に連通する高速ポジションbとを有する。
【0022】
速度切換弁43には、油圧源に設けられる図示しないチャージポンプから吐出される作動油圧が速度切換パイロット圧通路44を通して導かれる。速度切換パイロット圧通路44を介して導かれる作動油の油圧が速度切換弁43のポジションa、bを切り換えるパイロット圧P3となる。
【0023】
油圧源に設けられるチャージポンプは、エンジン等によって駆動される。
【0024】
パイロット圧P3が低い運転時には、速度切換弁43が低速ポジションaに切り換えられ、傾転アクチュエータ31にモータ内ドレン通路49を通じてドレン圧Drが導かれる。このドレン圧Drによる推進力と2速スプリング
(図示省略)による推進力の和が、斜板7(
図2参照)を介して伝わるピストン6(
図2参照)の作動圧等による推進力より低くなると、傾転アクチュエータ31が引き込まれ、モータ機構40の容量が大きくなる。
【0025】
パイロット圧P3が所定値を越えて上昇する運転時には、速度切換弁43が高速ポジションbに切り換えられ、傾転アクチュエータ31に第一、第二モータ通路41、42からモータ駆動圧P1、P2がそれぞれ導かれる。このモータ駆動圧P1またはP2によって傾転アクチュエータ31が伸長作動し、斜板7(
図2参照)の傾転角が小さくなってモータ機構40の容量が小さくなる。
【0026】
ピストンモータ1は、車両の走行停止後にモータ機構40が、外力により回転されることを自動的に制動する駐車ブレーキ20を備える。この駐車ブレーキ20は、モータ機構40の回転停止時にブレーキスプリング26の付勢力によってモータ機構40の回転を制動するブレーキ機構25と、モータ機構40の回転作動時にブレーキ機構25の制動を解除するブレーキ解除アクチュエータ29と、を備える。
【0027】
ブレーキ解除アクチュエータ29は、ブレーキ解除圧通路48からブレーキ解除圧室28に導かれるブレーキ解除圧Ppによって作動する。ブレーキ解除圧通路48には、油圧源に設けられるチャージポンプから吐出される作動油圧が導かれる。なお、これに限らず、ブレーキ解除圧通路48は、油圧源に設けられる静油圧伝達装置を構成するピストンポンプから吐出される作動油が導かれる構成としてもよい。また、ブレーキ解除圧圧通路48は、図示しない切換弁を介してタンク圧と油圧源からの油圧が選択的に導かれる構成としてもよい。
【0028】
ブレーキ解除圧通路48には、絞り30が介装される。この絞り30によってブレーキ解除圧室28の圧力変動が緩和される。
【0029】
車両の走行停止時には、ブレーキ解除圧通路48に導かれるブレーキ解除圧Ppが低下し、ブレーキスプリング26の付勢力によってブレーキ機構25が停止後のモータ機構40の回転を制動する。
【0030】
一方、車両の走行時には、ブレーキ解除圧Ppが高められ、ブレーキスプリング26の付勢力に抗してブレーキ解除アクチュエータ29が収縮方向に作動し、ブレーキ機構25の制動が解除される。
【0031】
ピストンモータ1のケーシング59内には、モータ機構40及び駐車ブレーキ20を収容するケーシング室58が設けられる。
【0032】
ケーシング室58には、モータ機構40及びブレーキ機構25に洩れ出す作動油(リーク油)が流入するが、この作動油をタンクに戻すために、ケーシング室58とタンクの間を結ぶドレン通路39が設けられる。このドレン通路39として、ケーシング59に形成されるモータ内ドレン通路49と、ケーシング59に接続されるモータ外ドレン通路(図示せず)とが設けられる。
【0033】
モータ外ドレン通路には、作動油を冷却するオイルクーラ(図示せず)と、作動油を濾過するオイルフィルタ(図示せず)とが介装される。作動油がオイルクーラによって冷却されることによって、タンクに貯留される作動油は、第一、第二モータ通路41、42を循環する作動油より低温に保たれる。
【0034】
モータ機構40と油圧源を結ぶ閉回路を循環する作動油を冷却するために、第一、第二モータ通路41、42には、低圧選択弁45を介してフラッシング通路47が接続される。このフラッシング通路47には、リリーフ弁46が介装される。
【0035】
低圧選択弁45は、第二モータ通路42をフラッシング通路47に接続するポジションaと、第一モータ通路41をフラッシング通路47に接続するポジションbと、第一、第二モータ通路41、42とフラッシング通路47の連通を遮断するポジションcとを有する。
【0036】
第一モータ通路41の圧力が第二モータ通路42の圧力より所定値を越えて上昇するピストンモータ1の正転時に、低圧選択弁45がポジションaに切り換えられる。
【0037】
一方、第二モータ通路42の圧力が第一モータ通路41の圧力より所定値を越えて上昇するピストンモータ1の逆転時には、低圧選択弁45がポジションbに切り換えられる。
【0038】
こうして第一、第二モータ通路41、42の低圧側を流れる作動油の一部が、低圧選択弁45を介してフラッシング通路47から取り出され、リリーフ弁46が開弁してフラッシング通路47からモータ内ドレン通路49とモータ外ドレン通路とを通ってタンクに戻される。
【0039】
モータ外ドレン通路を通ってタンクに戻される作動油は、モータ外ドレン通路に介装されたオイルクーラにて放熱することにより、タンクに貯留される作動油の温度が低く保たれる。
【0040】
図示しない油圧源は、チャージポンプがタンクから吸込んだ作動油をモータ機構40の閉回路(第一、第二モータ通路41、42)に充填するようになっている。これにより、タンクから比較的低温の作動油が第一、第二モータ通路41、42に補充され、モータ機構40を循環する作動油の温度上昇が抑えられる。
【0041】
車両の走行装置は、ピストンモータ1のケーシング59に隣接して減速機が設けられ、この減速機がモータ機構40の回転を減速して図示しないホイール(ドラム)を駆動するようになっている。ロードローラ車両等に搭載される走行装置にあっては、ピストンモータ1の高速回転作動が連続して行われると、減速機の温度が上昇し、減速機によってピストンモータ1のケーシング59が加熱されるため、ケーシング59に介装されるベアリング17やオイルシール37(
図2参照)が過熱されないようにする必要がある。
【0042】
これに対処して、本実施形態では、フラッシング通路47をピストンモータ1のモータ機構40を収容するケーシング室58に接続し、フラッシング通路47から流出する作動油がケーシング室58に導かれる構成とする。
【0043】
フラッシング通路47から流出する作動油がケーシング室58を循環してケーシング59の熱を吸収し、ケーシング59の冷却が行われる。
【0044】
こうしてケーシング59が冷却されることにより、ケーシング59に隣接した減速機も冷却することができ、減速機の温度上昇が抑えられる。
【0045】
モータ機構40が回転作動するのに伴って、第一、第二モータ通路41、42の低圧側からフラッシング通路47に作動油の一部が取り出されるため、モータ機構40の回転作動時にフラッシング通路47からケーシング室58に流入する作動油の流量が十分に確保され、ケーシング59の冷却がピストンポンプ1の作動条件によらず十分に行われる。
【0046】
以下、ピストンモータ1の具体的な構成を
図2〜7に基づいて説明する。
【0047】
図2は、ピストンモータ1の縦断面図である。これに示すように、ピストンモータ1は、そのケーシング59として、ケース60とベースプレート70を備え、両者の間にケーシング室58が画成される。このケーシング室58にモータ機構40と駐車ブレーキ20が収容される。
【0048】
ピストンモータ1では、出力軸2の一端部がケース60にベアリング17を介して回転自在に支持され、その他端部がベースプレート70にベアリング18を介して回転自在に支持される。
【0049】
ケース60は、円筒状のケース側部60Aと、円盤状のケース底部60Bとを有する。ケース底部60Bの中央には、ケース開口部60Cが形成され、このケース開口部60Cに出力軸2の一端が臨む。この出力軸2の一端に減速機の入力軸が連結され、出力軸2の動力が取り出されるようになっている。ケース開口部60Cと出力軸2の間には、オイルシール37が介装され、このオイルシール37によってケーシング室58が密封される。
【0050】
モータ機構40は、出力軸2と、この出力軸2と一体に回転するシリンダブロック3とを備える。シリンダブロック3には複数のシリンダ4が形成される。各シリンダ4は、出力軸2と平行に延び、かつ出力軸2を中心とする略同一円周上に並んで配置される。各シリンダ4にはピストン6が挿入される。シリンダ4とピストン6の間には、容積室5が画成される。
【0051】
各ピストン6の先端に球面座10を介してシュー9が回動可能に連結される。シリンダブロック3が回転するのに伴って、各シュー9が斜板7に摺接し、各ピストン6が斜板7の傾転角度に応じたストローク量で往復動する。
【0052】
ケース60とベースプレート70との間には、バルブプレート8が介装される。バルブプレート8は、図示しない油圧源に連通する二つのポート91を有する。シリンダブロック3の端面には、各容積室5に連通するポート90(
図5参照)が開口する。油圧源から各ポート91、90を介して各容積室5に導かれる作動油圧によって、各ピストン6がシリンダ4から突出し、各ピストン6がシュー9を介して斜板7を押すことにより、シリンダブロック3が回転作動する。
【0053】
ケース底部60Bには、斜板7を傾転可能に支持する一対のボール(支持軸)34が設けられるとともに、斜板7の背面側を押圧する一対の傾転アクチュエータ31が設けられる。
【0054】
各傾転アクチュエータ31に導かれるパイロット圧Psが低いときに、斜板7は、各ピストン6から作用する押圧力の合力により
図1に示す大傾転位置に保持される。斜板7が大傾転位置にあるときには、ピストン6のストローク量が増大することにより、出力軸2が高トルクで低速回転する。
【0055】
各傾転アクチュエータ31に導かれる一方のパイロット圧Psが高められるときに、斜板7は、傾転アクチュエータ31に押圧されることにより傾転し、小傾転位置へ切り換えられる。斜板7が小傾転位置にあるときには、ピストン6のストローク量が減少することにより、出力軸2が低トルクで高速回転する。
【0056】
図3は、
図2のG−G線に沿う断面図である。これに示すように、ベースプレート70に速度切換弁43が介装される。速度切換弁43は、前述したように、傾転アクチュエータ31に導かれるパイロット圧Psを切り換えるものである。
【0057】
圧力室51に導かれるパイロット圧Psが所定値より低いときに、図示のように、速度切換弁43のスプール52がスプリング53の付勢力によって低速ポジションa(
図1参照)に保持され、アクチュエータ通路32、33がモータ内ドレン通路49の通孔79に連通される。
【0058】
一方、パイロット圧Psが所定値を越えて上昇すると、スプール52がスプリング53に抗して
図3にて右方向に移動して高速ポジションb(
図1参照)に切り換わり、アクチュエータ通路33、32が第一、第二モータ通路41、42に連通される。
【0059】
図2に示すように、駐車ブレーキ20のブレーキ機構25は、シリンダブロック3とともに回転する3枚のブレーキディスク21と、ケース60に取り付けられる2枚のフリクションプレート22と、ブレーキディスク21をフリクションプレート22に押圧するブレーキスプリング26と、を備える。
【0060】
円環状の各ブレーキディスク21は、その内周端部に複数の歯21Aが周方向に並んで形成される。シリンダブロック3の外周には、軸方向に延びるスプライン19が形成される。各ブレーキディスク21は、その歯21Aがスプライン19に噛み合うことにより、シリンダブロック3とともに回転し、シリンダブロック3の回転軸方向に移動可能に支持される。
【0061】
ブレーキ解除アクチュエータ29は、前述したように、ブレーキスプリング26の押圧力に抗して駐車ブレーキ20の制動を解除するものである。ブレーキ解除アクチュエータ29は、ケース60に対して軸方向に移動可能に支持される環状のブレーキピストン27と、このブレーキピストン27をブレーキスプリング26に抗して駆動するブレーキ解除圧Ppが導かれるブレーキ解除圧室28とを備える。ブレーキピストン27の端面には、ブレーキスプリング26を着座させる複数のスプリング受け凹部88(
図5参照)が形成される。
【0062】
ケース側部60Aの内壁にカラー38が取り付けられる。このカラー38の内側にブレーキピストン27が摺動可能に嵌合される。ブレーキ解除圧室28は、ブレーキピストン27とカラー38の間に環状の空間として画成される。ブレーキ解除圧室28には、ベースプレート70に形成されるブレーキ解除圧通路48(
図1参照)からブレーキ解除圧Ppが導かれる。
【0063】
車両の走行停止時において、ブレーキ解除圧室28に導かれるブレーキ解除圧Ppが低下した状態では、ブレーキスプリング26の付勢力によってブレーキディスク21がフリクションプレート22に押し付けられ、ブレーキディスク21に働く摩擦力によってシリンダブロック3の回転が制動される。
【0064】
一方、車両の走行時には、ブレーキ解除圧Ppが上昇するのに伴って、ブレーキスプリング26の付勢力に抗してブレーキピストン27がブレーキディスク21から離れ、ブレーキディスク21がフリクションプレート22から離れる。これにより、ブレーキディスク21に摩擦力が働かなくなり、シリンダブロック3の制動が解除される。
【0065】
図3に示すように、ベースプレート70には、低圧選択弁45とリリーフ弁46が介装される。
【0066】
低圧選択弁45は、前述したように、第一、第二モータ通路41、42の低圧側をフラッシング通路47に接続するように切り換わるものである。
【0067】
第一、第二モータ通路41、42の圧力が略等しいピストンモータ1の停止時には、低圧選択弁45のスプール55がポジションc(
図1参照)に保持され、第一、第二モータ通路41、42とフラッシング通路47の連通が遮断される。
【0068】
圧力室95に導かれる第一モータ通路41の圧力が上昇するピストンモータ1の正転時には、スプール55が
図3にて右方向に移動してポジションa(
図1参照)に切り換わり、第二モータ通路42がフラッシング通路47に接続される。
【0069】
一方、圧力室96に導かれる第二モータ通路42の圧力が上昇するピストンモータ1の逆転時に、スプール55が
図3にて左方向に移動してポジションb(
図1参照)に切り換わり、第一モータ通路41がフラッシング通路47に接続される。
【0070】
リリーフ弁46は、低圧選択弁45の出口圧に応じてフラッシング通路47を開閉する。低圧選択弁45の出口圧が所定値以下のときに、リリーフ弁46のスプール35が図示のように閉弁位置に保持される。
【0071】
前述したように、フラッシング通路47は、ケーシング室58に連通され、流出する作動油をケーシング室58に導く構成である。低圧選択弁45の出口圧が所定値を越えて上昇すると、リリーフ弁46はスプール35がスプリング36の付勢力に抗して
図2、3にて上方向に移動して開弁作動する。こうしてリリーフ弁46が開弁作動してフラッシング通路47が開通すると、前述したように、低圧選択弁45から吐出する作動油が、
図2に流線(2点鎖線)Dで示すように、フラッシング通路47を通ってケーシング室58に導かれる。
【0072】
モータ機構40が回転作動するのに伴って、第一、第二モータ通路41、42の低圧側に生じる圧力によって、低圧選択弁45と、リリーフ弁46がそれぞれ開弁作動するように設定される。これにより、モータ機構40が回転作動するのに伴って、第一、第二モータ通路41、42の一方から取り出された作動油がフラッシング通路47を通ってケーシング室58に流入し、この作動油によるケーシング室58の冷却が作動条件によらず十分に行われる。
【0073】
フラッシング通路47は、
図2に破線で示すように、ベースプレート70に形成されるベース側フラッシング通孔71と、ケース60に形成されるケース側フラッシング通孔61によって画成される。
【0074】
図4は、
図2のK−K線に沿う図である。これに示すように、ベースプレート70のフランジ端面72には、ベース側フラッシング通孔71が開口する。
【0075】
図5は、
図2のM−M線に沿う図である。これに示すように、ケース60のフランジ端面62には、ケース側フラッシング通孔61が開口する。ケース側フラッシング通孔61のまわりには環状凹部63が形成される。環状凹部63とベースプレート70のフランジ端面72の間には、シールリングが介装され、両者間の密封がはかられる。
【0076】
フラッシング通路47の通路長は、任意に設定され、第一、第二モータ通路41、42の一方からフラッシング通路47に取り出される作動油の流量が適正に得られるように構成される。これにより、作動油の温度が低い作動時に、作動油の粘性が高まるのに伴って、フラッシング通路47が作動油の流れに付与する流路抵抗が増し、作動油の流量が適度に減少する。一方、作動油の温度が上昇するのに伴って、フラッシング通路47が作動油の流れに付与する流路抵抗が減少し、作動油の流量が次第に増やされ、作動油の温度上昇が抑えられる。
【0077】
図2に示すように、フラッシング通路47の出口47Aは、ケース側部60Aの内壁面に開口する。出口47Aは、ケース底部60Bの近傍に位置し、斜板7の外周面7Aに対峙して開口する。
【0078】
出口47Aは、斜板7とケース底部60Bの間に画成される斜板背後空間64に向けられ、出口47Aから流出する作動油が斜板背後空間64に導かれる構成とする。これにより、出口47Aからケーシング室58に流入する作動油が、斜板7とケース底部60Bの内壁面及びベアリング17に沿って流れ、ケース底部60Bとベアリング17が有効に冷却される。
【0079】
なお、フラッシング通路47をケース底部60B内にてベアリング17、オイルシール37の近傍を通るように形成し、フラッシング通路47を流れる作動油によってケース底部60Bの熱を吸収し、過熱しやすいベアリング17、オイルシール37が冷却される構成としてもよい。
【0080】
ケーシング室58は、駐車ブレーキ20のブレーキディスク21及びフリクションプレート22によって斜板収容室58Aとブレーキ前室58Bに仕切られる。フラッシング通路47の出口47Aは、斜板7を収容する斜板収容室58Aに開口され、出口47Aから流出する作動油が斜板背後空間64に導かれる構成とする。
【0081】
これにより、出口47Aからケーシング室58に流入する作動油が、斜板7とケース底部60Bの内壁面及びベアリング17に沿って流れ、ケース底部60Bとベアリング17が有効に冷却される。
【0082】
ケーシング室58の作動油は、前述したように、モータ内ドレン通路49とモータ外ドレン通路とを通ってタンクに戻される。
【0083】
モータ内ドレン通路49は、ケース側部60Aに形成される第一、第二ドレン通孔67、68(
図5参照)によって画成される。
【0084】
モータ内ドレン通路49にケーシング室58から作動油に流入させるドレン入口として、第一、第二ドレン通孔67、68は、ケース側部60Aの内壁面に開口する。第一ドレン通孔67の開口端である入口67Aは、斜板7を収容する斜板収容室58Aに開口され、斜板7を挟んで出口47Aに対向する位置に形成される。第二ドレン通孔68の開口端(図示せず)も、同様に斜板7を挟んで出口47Aに対向する位置に形成される。
【0085】
これにより、ケーシング室58にて出口47Aから第一、第二ドレン通孔67、68に向かう作動油が、斜板7を収容する斜板収容室58Aを通り、駐車ブレーキ20のブレーキディスク21及びフリクションプレート22を横切らないため、回転するブレーキディスク21によって抵抗が付与されることを抑えられ、ケーシング室58を循環する作動油の流量が十分に得られる。
【0086】
図5に示すように、ケース60のフランジ端面62には、モータ内ドレン通路49を画成する第一、第二ドレン通孔67、68が開口する。第一、第二ドレン通孔67、68のまわりには環状凹部77、78がそれぞれ形成される。環状凹部77、78とベースプレート70のフランジ端面72の間には、シールリングがそれぞれ介装され、両者間の密封がはかられる。
【0087】
図4に示すように、ベースプレート70のフランジ端面72には、第一、第二ドレン通孔67、68に接続する通孔73、74の一端がそれぞれ開口している。また、ベースプレート70のフランジ端面72には、ドレン溝75、76が開口している。ドレン溝75、76は、ブレーキピストン27に対峙するように円弧状に延びる。ドレン溝75、76の内壁には、ブレーキスプリング26が着座する複数のスプリング受け凹部80が形成される。
【0088】
図6は、
図4のF−F線に沿う断面図である。これに示すように、通孔73は、通孔81、82を介してドレン溝75に連通される。通孔82は、速度切換弁43に接続する通孔79と同軸上に形成される。
【0089】
図7は、
図4のH−H線に沿う断面図である。これに示すように、通孔74は、通孔83、84を介してドレン溝76に連通される。
【0090】
ドレン溝76には、モータ内ドレン通路49を画成する通孔85が開口する。この通孔85の一端は、ベースプレート70の外壁面に開口し、これにモータ外ドレン通路が接続される。
【0091】
ケーシング室58の作動油は、流線(2点鎖線)E1、E2で示すように、モータ内ドレン通路49を通って流出する。モータ内ドレン通路49は、第一、第二ドレン通孔67、68によって、ケース60からベースプレート70に渡って2系統の作動油流E1、E2をつくるため、ケーシング室58から流出する作動油に対して十分な流路断面積が確保される。これにより、ケーシング室58の圧力上昇が抑えられ、駐車ブレーキ20の作動が維持される。なお、モータ内ドレン通路49は、これに限らず、ドレン通孔の本数を増やして3系統以上の作動油流をつくる構成としてもよい。
【0092】
以上の実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0093】
(1)本発明実施形態による液圧モータは、作動液圧源から第一、第二モータ通路41、42を通して給排される作動液によって回転作動するモータ機構40を備える液圧モータ(ピストンモータ1)であって、モータ機構40を収容するケーシング室58を画成するケーシング59と、ケーシング室58に連通され、第一、第二モータ通路41、42の低圧側から作動液の一部を取り出すフラッシング通路47と、を備え、フラッシング通路47から取り出した作動液がケーシング室58に導かれる構成である(
図1〜7参照)。
【0094】
上記構成によれば、モータ機構40が回転作動するのに伴って、第一、第二モータ通路41、42の低圧側からフラッシング通路47に取り出される作動液が、ケーシング室58を流れてケーシング59の熱を吸収する。これにより、ケーシング59の冷却が液圧モータの作動条件によらず十分に行われる。
【0095】
(2)本発明実施形態によるモータ機構40は、斜板7と、作動液圧によって斜板7に追従して往復動する複数のピストン6と、このピストン6を介して回転するシリンダブロック3と、このシリンダブロック3の回転を出力する出力軸2と、を備え、ケーシング59は、第一、第二モータ通路41、42が設けられるベースプレート70と、出力軸2を支持するケース60と、を備え、フラッシング通路47は、ベースプレート70に形成されるベース側フラッシング通孔71と、ケース60に形成されるケース側フラッシング通孔61と、によって画成される構成である(
図1〜5参照)。
【0096】
上記構成によれば、フラッシング通路47は、ベースプレート70とケース60に渡って延び、第一、第二モータ通路41、42から分流した作動液をケーシング室58の奥部(ケース底部60Bの近傍)に流入させることが可能となる。これにより、ケース60のベースプレート70から離れた部位(ケース底部60B)が減速機によって加熱される場合に、ケース60の冷却が十分に行われる。
【0097】
(3)本発明実施形態による液圧モータは、シリンダブロック3とともに回転するブレーキディスク21と、ケーシング室58の作動液を排出するドレン通路39と、を備え、ケーシング室58は、ブレーキディスク21によって斜板7を収容する斜板収容室58Aと、斜板7を収容しないブレーキ前室58Bと、に仕切られ、フラッシング通路47の出口47Aとドレン通路39の入口67Aがそれぞれ斜板収容室58Aに開口する構成である(
図1〜5参照)。
【0098】
上記構成によれば、ケーシング室58にてフラッシング通路47の出口47Aとドレン通路39の入口67Aに向かう作動液が、斜板7を収容する斜板収容室58Aを通り、ブレーキディスク21を横切らないため、回転するブレーキディスク21によって付与される抵抗が減少し、ケーシング室58を循環する作動液の流量が十分に得られる。
【0099】
(4)本発明実施形態によるドレン通路39は、ケーシング室58に開口する複数本のドレン通孔67、68によって画成される構成である(
図1〜5参照)。
【0100】
上記構成によれば、ドレン通路39は複数本のドレン通孔67、68によって複数系統の作動液流E1、E2がつくられるため、ケーシング室58から流出する作動液に対して十分な流路断面積が確保される。これにより、ケーシング室58の圧力上昇が抑えられ、ブレーキディスク21に摩擦力を与えるブレーキ駆動機構25(駐車ブレーキ20)の作動が維持される。
【0101】
本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。