(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明するが、本発明はかかる実施形態に限定されない。
<色素増感太陽電池>
本発明にかかる色素増感太陽電池の第一実施形態は、
図1に示すように、色素が担持された酸化物半導体層3を有する光電極11、対極12、及び光電極11と対極12との間に配置された、電解質を含む電荷輸送層5を有する色素増感太陽電池10であって、電解質と会合し、前記会合の平衡定数が温度に対して負の相関を有する物質A(以下、単に「物質A」という。)を含む部材8が電荷輸送層5と接する領域に設けられている。
【0011】
(光電極)
色素増感太陽電池10の光電極11の構成としては、従来の光電極と同様の構成が適用可能であり、例えば、透明基板1、導電層2、色素が担持された酸化物半導体層3が、この順で積層された構成が挙げられる。
【0012】
透明基板1は、増感色素が吸収する可視光を透過させる基板であれば特に制限されず、例えば、ガラス基板、プラスチック基板などが挙げられる。
【0013】
前記ガラスは、特に限定されず、ソーダライムガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、バイコールガラス、無アルカリガラス、青板ガラス、白板ガラス等が例示できる。
前記プラスチックは、特に限定されず、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアクリル、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリイミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド等が例示できる。これらのなかでは、ポリエステル、PET、PENが耐熱性に優れるので好ましい。
薄く、軽く、かつフレキシブルな色素増感太陽電池を製造する観点からは、透明基板は、PETフィルム又はPENフィルムであることが好ましい。
【0014】
導電層2は、導電性を有し、且つ可視光を透過させるものであれば良く、公知の透明導電層が適用できる。前記透明導電層の材料としては、金属酸化物、導電性高分子等が例示できる。
【0015】
前記金属酸化物としては、酸化インジウム/酸化スズ(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化亜鉛、酸化スズ、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、酸化インジウム/酸化亜鉛(IZO)、酸化ガリウム/酸化亜鉛(GZO)、酸化チタン等が例示できる。これらの中でも、伝導度が高いITO、耐熱性及び耐候性に優れたFTOが特に好ましい。
導電層2は、単層及び複数層のいずれであっても良い。導電層2が複数層の場合、すべての層が同じ材料で構成されていても良いし、各層が異なる材料で構成されていても良い。
【0016】
(酸化物半導体層)
酸化物半導体層3は、増感色素が担持された酸化物半導体からなる多孔質層(多孔質膜)である。
前記酸化物半導体としては、酸化チタン(TiO
2)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO
3)等が挙げられる。これらの中でも、多孔質層を形成した時に電子伝導性に優れる酸化チタンが好ましい。
【0017】
前記多孔質層は前記基材の上に製膜されたものであり、前記多孔質層の厚さは、1μm〜200μmであることが好ましく、2μm〜100μmであることが好ましく、5μm〜50μmであることが更に好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、前記多孔質層に担持させた色素が光エネルギーを吸収する確率を一層高めることができ、色素増感太陽電池における光電変換効率を一層向上できる。また、上記範囲の上限値以下であると、バルクの電解質(太陽電池セル内の電解質)と多孔質層内の電解質との交換が、拡散によって一層効率よく行われ、光電変換効率を一層向上できる。
【0018】
前記増感色素は、特に限定されず、通常の色素増感太陽電池で使用されているもので良い。具体的には、シス−ジ(チオシアナト)−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸)ルテニウム(II)、シス−ジ(チオシアナト)−ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸)ルテニウム(II)のビス−テトラブチルアンモニウム塩(以下、N719と略記する)、トリ(チオシアナト)−(4,4’,4’ ’−トリカルボキシ−2,2’:6’,2’ ’−ターピリジン)ルテニウムのトリス−テトラブチルアンモニウム塩(ブラックダイ)等のルテニウム系色素が例示できる。また、クマリン系色素、ポリエン系色素、シアニン系色素、ヘミシアニン系色素、チオフェン系色素、インドリン系色素、キサンテン系色素、カルバゾール系色素、ペリレン系色素、ポルフィリン系色素、フタロシアニン系色素、メロシアニン系色素、カテコール系色素、スクアリリウム系色素等の各種有機色素が例示できる。さらに、これらの色素を組み合わせたドナー−アクセプター複合色素等が例示できる。
酸化物半導体層3に担持されている前記色素は、一種のみでも良いし、二種以上でも良い。二種以上の場合、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0019】
(対極)
色素増感太陽電池10の対極12の構成としては、従来の対極と同様の構成が適用可能であり、例えば、基板7、導電層6が、この順で積層された構成が挙げられる。
基板7及び導電層6は、不透明、透明の何れであってもよいが、透明であることが好ましい。具体的には、前述の光電極11の材料として例示したものが、同様に適用可能である。その中でも、基板7の材料としては、ポリエチレンナフタレート(PEN)、かつ導電層6の材料としては、酸化インジウム/酸化スズ(ITO)であることが好ましい。
【0020】
対極12の表面には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の炭素材料を導電助剤として設けても良い。前記炭素材料を含むバインダー樹脂を対極表面に塗布することにより、従来公知のいわゆる触媒層を形成しても良い。触媒層を対極表面に配置することにより、電解質との電子授受を促進することができる。触媒層の厚さは特に制限されず、例えば0.1μm〜10μmとすることができる。
【0021】
(電荷輸送層)
電荷輸送層5は少なくとも電解質を含むものである。電荷輸送層5は、溶媒を含んでいても良いし、含んでいなくても良い。また、必要に応じてゲル化剤等を含んでいても良い。電荷輸送層5の状態は、液体、ゲル、固体のいずれの状態であっても良い。これらの中でも、電荷輸送層5における電解質の拡散効率が良く、部材8に含まれる物質Aとの接触効率が高まるため、液体の状態が好ましい。
【0022】
(溶媒)
前記溶媒としては、前記電解質を溶解可能であり、部材8に含まれる物質Aが後述する会合体を形成する機能を阻害しないものであれば特に制限されず、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート化合物、アセトニトリル、メトキシプロピオニトリルなどのニトリル化合物が挙げられる。前記ニトリル化合物は、ヨウ素及びヨウ化物塩からなる前記電解質を溶解することが可能であり、イオン電導性に優れているので好ましい。
また、前記溶媒の主成分又は添加剤として、イオン液体を用いても良い。前記イオン液体としては、例えば、t−ブチルピリジンを含む常温溶融塩、メチルプロピルイミダゾリウム、ジメチルプロピルイミダゾリウムを含む常温溶融塩、グアニジウムチオシアナート、N−アルキルベンズイミダゾールなどを含む常温溶融塩が挙げられる。
【0023】
(ゲル化剤)
前記ゲル化剤としては、高分子ゲル化剤および低分子ゲル化剤を例示できる。これらの中でも、特に転移点以上での粘度が低く、流動性の高い電解質が得られる、低分子ゲル化剤が好ましい。ここで低分子ゲル化剤とは、分子量が1000以下のゲル化剤を指す。
【0024】
前記低分子ゲル化剤としては、種々の公知のものが使用可能であり、例えば、12−ヒドロキシステアリン酸などの脂肪酸類、ジベンジリデンソルビトール(新日本理化株式会社製、商品名「ゲルオールD」)などの糖誘導体、ヘキサトリアコンタンなどの炭化水素類、その他アミド類などが挙げられる。
前記低分子ゲル化剤及び高分子ゲル化剤の濃度は、使用するゲル化剤の種類及び電荷輸送層に含まれる他の成分(電解質、溶媒等)によって適宜調整される。
【0025】
(電解質)
電荷輸送層5に含まれる電解質は、従来公知の色素増感太陽電池で使用されるものが適用できる。前記電解質としては、前記物質Aと可逆的に会合及び脱離することが可能なものが好ましい。また、前記会合及び脱離は、温度依存的に変化する平衡状態を示すことが好ましい。前記平衡状態は、前記電解質と前記物質Aとが、温度が高い場合には脱離し、温度が低い場合には会合する平衡反応を生じることが好ましい。つまり、前記電解質は、物質Aと会合し、前記会合の平衡定数が温度に対して負の相関を有することが好ましい。
【0026】
前記電解質は、ヨウ素分子(I
2)とヨウ化物の組み合わせ又は臭素分子(Br
2)と臭素化合物の組み合わせが好適に用いられる。
前記ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化リチウム(LiI)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、ヨウ化カリウム(KI)などの金属ヨウ化物、又はテトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイドなどのヨウ素塩が、好適なものとして挙げられる。
前記臭素物としては、例えば、臭化リチウム(LiBr)、臭化ナトリウム(NaBr)、臭化カリウム(KBr)などの金属臭化物、又はテトラアルキルアンモニウムブロマイド、ピリジニウムブロマイド、イミダゾリウムブロマイドなどの臭素塩が、好適なものとして挙げられる。
これらの電解質の中でも、ヨウ素分子とLiI、又はヨウ素分子とイミダゾリウムヨーダイドを組み合わせた酸化還元対が好ましい。
【0027】
前記ピリジニウムヨーダイド及びイミダゾリウムヨーダイドを構成するピリジニウム環及びイミダゾール環に結合する水素原子は、アルキル基で置換されていても良い。具体的には、1−ブチル−4―メチルピリジニウムヨーダイド、1−メチル−3―プロピルイミダゾリウムヨーダイドなどが挙げられる。これらのヨウ化物塩を使用する場合、N-メチルベンゾイミダゾール等を添加剤として用いても良い。
また、前記電解質は一種を単独で用いても良いし、複数種を混合して用いてもよい。
【0028】
前記電解質(酸化還元対)としては、酸化型のイオン種(酸化種)、酸化種及び還元種と平衡反応を生じる物質(平衡反応種)、及び還元型のイオン種(還元種)の組み合わせで構成されるものが好ましい。例えば、ヨウ素イオン(I
−)/ヨウ素分子(I
2)/三ヨウ化物イオン(I
3−)の組み合わせからなる電解質、臭素イオン(Br
−)/臭素素分子(Br
2)/三臭素化物イオン(Br
3−)の組み合わせからなる電解質が挙げられる。これらのなかでも、一般的に使用されている色素に対して、酸化還元電位が適した高さにあるヨウ素イオン(I
−)/ヨウ素分子(I
2)/三ヨウ化物イオン(I
3−)の組み合わせからなる電解質が好ましい。平衡反応種であるヨウ素分子(I
2)は、還元種であるヨウ素イオン(I
−)と反応して、酸化種である三ヨウ化物イオン(I
3−)を生じる。つまり、ヨウ素分子は、三ヨウ化物イオン及びヨウ素イオンと平衡反応を生じる。この平衡反応は、後述する式(a´)で表すことができる。
その他、チオシアネート系(SCN
−/(SCN)
3−)、金属系(Co(II)/Co(III)、Cu(I)/Cu(II)等)などの電解質が使用できる。
【0029】
前記電解質(酸化還元対)として、ヨウ素イオン(I
−)と、ヨウ素分子(I
2)と、三ヨウ化物イオン(I
3−)との組み合わせを使用する場合、その混合比率は、電解質中に加えるヨウ化物イオン(I
−)とヨウ素(I
2)の比率により決定できる。ヨウ素はヨウ化物イオンと反応し、ほぼ定量的に三ヨウ化物イオン(I
3−)になると考えてよい。また、別途三ヨウ化物イオン又はヨウ化物イオンを含むイオン液体等を電解質に添加する場合は、その混合比率も考慮する。
【0030】
電荷輸送層5における前記電解質中の、ヨウ素イオン(I
−)を含有するヨウ化物塩等の還元種を含む塩類の濃度は、好ましくは0.1〜10mol/L(以下、この単位をMと記載することがある。)であり、より好ましくは0.5〜5mol/Lである。上記範囲の下限値以上であると酸化還元反応を充分に行うことができる。上記範囲の上限値以下であると、逆電子移動反応による性能低下を充分に抑制できる。また、電荷輸送層5にヨウ素(I
2)を添加する場合の好ましいヨウ素の濃度は0.001〜1mol/Lである。
【0031】
(部材)
部材8は、前記物質Aを含んでおり、電荷輸送層5と接する領域に設けられている。
前記物質Aは、前記電解質と会合し、前記会合の平衡定数が温度に対して負の相関を有する物質である。つまり、前記物質Aは、前記電解質を構成する、前記酸化種又は平衡反応種と可逆的に会合して会合体(複合体)を形成可能な物質であり、且つ、前記物質Aは、前記会合体の会合状態と非会合状態(解離状態)とが平衡状態にある。さらに、前記平衡状態は、温度に対して負の相関を有する。ここで、「温度に対して負の相関を有する」とは、具体的には、低温時には会合状態に平衡が傾き、高温時には非会合状態に平衡が傾くことを意味する。
また、前記平衡定数は、下記一般式(B)で表される平衡状態の会合及び解離を表す。
・物質A+電解質⇔会合体・・・(B)
【0032】
本発明において、部材8に含まれる前記物質Aは、反応式(b)で前記平衡反応種と会合し、電荷輸送層5の温度が上昇すると共に、平衡定数K1が小さくなるものであることが好ましい。
・反応式(b)
物質Aと平衡反応種とが解離した状態⇔物質Aと平衡反応種とが会合した状態・・・(b)
・平衡定数K1
K1=[前記物質Aと前記平衡反応種の会合体の濃度]/[前記平衡反応種の濃度]・[前記物質Aの濃度]…(1)
【0033】
[前記物質Aと前記平衡反応種の会合体の濃度]、[前記平衡反応種の濃度]、[前記物質Aの濃度]の各濃度は、電荷輸送層5及び部材8を合わせた空間における濃度、すなわち電荷輸送層5と部材8が接触する領域における濃度を意味する。
【0034】
ここで、好ましい具体例を挙げる。前記電解質がI
3−(酸化種)、I
2(平衡反応種)及びI
−(還元種)を含む場合、糖類は、これらを十分に会合及び解離する性質を有することができるから、前記物質Aとして、糖類を用いることが好ましい。
【0035】
より具体的には、前記糖類は、アミロース、オリゴ糖、アミロペクチン、又はシクロデキストリンが挙げられ、アミロース、オリゴ糖、又はシクロデキストリンであることが好ましい。これらの糖類であると、前記平衡定数K1が温度上昇に伴って小さくなり、温度下降に伴って大きくなる機構を容易に実現することができる。
【0036】
前記アミロースは、一般に、α‐グルコースがグリコシド結合(α1→4)により、直鎖状に結合(重合)した基本構造を有する。
前記糖類としてアミロースを使用する場合、当該アミロースは、必ずしも完全な直鎖構造でなくても良く、分岐構造を有していても良い。前記アミロースの本体部分、すなわち前記直鎖構造を構成するグルコースの重合度は、10〜5000が好ましい。前記アミロースが分岐構造を有する場合、その分岐構造を構成するグルコースの重合数は3〜20程度が好ましい。
【0037】
前記糖類としてオリゴ糖を使用する場合、当該オリゴ糖は、グルコース、ガラクトース、マンノース等の単糖がグリコシド結合により、3〜20個結合した基本構造を有するオリゴ糖が好ましい。
前記オリゴ糖を構成する単糖は1種でも良いし、2種以上でも良い。
【0038】
前記アミロペクチンは、一般に、α‐グルコースがグリコシド結合(α1→4及びα1→6結合)により結合(重合)した基本構造を有し、さらに前記基本構造が複雑に分岐した高次構造を形成したものである。
前記糖類としてアミロペクチンを使用する場合、その分子量としては、例えば前記グルコースが9万〜250万個重合した程度の分子量を有するアミロペクチンが用いられる。
【0039】
前記糖類としてシクロデキストリンを使用する場合、当該シクロデキストリンは、D−グルコースがグリコシド結合(α1→4)により5〜8個結合した環状オリゴ糖が好ましい。
【0040】
部材8に含有させる前記糖類は、1種を単独で含有させても良いし、2種以上を併用して含有させても良い。部材8における前記糖類の含有量としては、電荷輸送層5中の電解質の濃度、特に平衡反応種の濃度にもよるが、例えば、0.01〜1.0mol/Lが好ましい。これらの濃度範囲であると、電化輸送層5中の酸化種の濃度を、高温時に高め、低温時に低めることがより容易となり、温度変化に影響されずに、より安定した光電変換を実現できる。
【0041】
(温度変化による電解質組成の変化)
以下では、電解質がI
3−(酸化種)、I
−(還元種)、及びI
2(平衡反応種)を含み、部材8に物質Aとして糖類A´が含有される場合を例として、温度が高いときに電荷輸送層5中の酸化種濃度が増加し、温度が低いときには酸化種濃度が減少するメカニズムを説明する。このメカニズムは主に2通りある。
【0042】
電荷輸送層5中のI
3−、I
−、及びI
2は、電荷輸送層5中及び電荷輸送層5と部材8が接触する領域において、下記式(a´)のような平衡反応を生じているとされる。
I
3−⇔I
−+I
2 ・・・(a´)
【0043】
本発明の色素増感太陽電池が温度変化に影響されず安定な光電変換を行うためには、前記I
3−の濃度は、高温時に増加し、低温時に減少することが望ましい。つまり、前記I
2の濃度が、高温時に増加することで、前記式(a´)の反応は左に偏り、結果として、I
3−の濃度が増加し、前記I
2の濃度が、低温時に減少することで、前記式(a´)の反応は右に偏り、結果として、I
3−の濃度が減少することが好ましい。
【0044】
<第一のメカニズム>
本発明では、式(a´)中のI
2の濃度を増加させる機構として、下記式(b´)で表される糖類A´との会合反応を利用している。
I
2+A´⇔I
2‐A´ ・・・(b´)
前記式(b´)中、「A´」は糖類A´を表し、「I
2‐A´」はI
2と糖類A´が会合した会合体を表す。
【0045】
前記式(b´)の左向き平衡定数K1´は、下記式(1´)のように定義される。
K1´=[I
2‐A´]/[I
2][A´] ・・・(1´)
【0046】
前記式(b´)で表される会合反応は温度に依存し、温度が上昇すると左向きに偏る、ということが知られている。例えば前記糖類A´がアミロースである場合、アミロースとヨウ素は前記式(b´)のように会合体(複合化合物)を生成すること、及び、この平衡定数(K1´)は温度に依存し、温度が高いほど遊離したヨウ素が多くなること、つまり前記式(b´)が左に偏ることが知られている。例えば、下記参考文献に記載されている。
参考文献;Biopolymers vol 6. 1 27-41 1968. "Molecular configuration of amylose and its complexes in aqueous solutions. Part IV. Determination of DP of amylose by measuring the concentration of free iodine in solution of amylose-iodine complex."
【0047】
したがって、前記糖類A´(物質A)を含有する部材8を電荷輸送層5に接触させた本発明の構成において、電荷輸送層5および部材8の温度が高くなると、前記会合体が減少し、遊離したヨウ素I
2が増える。この結果、前記式(a´)の右辺のI
2が増加し、それに合わせて、左辺のI
3−が増加する。この際、前記式(a´)の平衡は温度に依存して偏ることはない。
【0048】
<第二のメカニズム>
糖類A´がI
2と会合できる場合は、前述の第一のメカニズムによってI
3−の温度依存的な濃度調整が行われる。一方、糖類A´がI
3−と直接会合できる場合は、以下に説明するように、I
3−の温度依存的な濃度調整が行われる。
【0049】
本発明では、式(a´)中のI
3−の濃度を増加させる機構として、下記式(c)で表される糖類A´との会合反応も利用できる。
I
3−+A´⇔I
3−‐A´ ・・・(c)
前記式(c)中、「A´」は糖類A´を表し、「I
3−‐A´」はI
3−と糖類A´が会合した会合体を表す。
【0050】
前記式(c)の左向き平衡定数K2は、下記式(2)のように定義される。
K2=[I
3−‐A´]/[I
3−][A´] ・・・(2)
【0051】
ここで、第一のメカニズムと同様に、前記式(c)で表される会合反応は温度に依存し、温度が上昇すると左向きに偏る、と考えられる。例えば前記糖類A´がアミロースである場合、アミロースと三ヨウ化物イオンは前記式(c)のように会合体(複合化合物)を生成すること、及び、この平衡定数(K2)は温度に依存し、温度が高いほど遊離した三ヨウ化物イオンI
3−が多くなること、つまり前記式(c)が左に偏ると考えられる。
【0052】
したがって、前記糖類A´(物質A)を含有する部材8を電荷輸送層5に接触させた本発明の構成において、電荷輸送層5および部材8の温度が高くなると、前記会合体が減少し、遊離した三ヨウ化物イオンI
3−が増える。この結果、前記式(c)の右辺のI
3−が増加し、直接的にI
3−を温度変化により増減することが可能である。この際、前記式(a´)の平衡は温度に依存して偏ることはない。
【0053】
以上で説明した電荷輸送層5及び部材8を備えた色素増感太陽電池を、温度変化と光量変化が正の相関を有する環境、例えば屋外、で使用すると、光量に適した電解質濃度に自動的に調整されるため、高温時の出力を維持したまま、低温時の出力を増加できる。
【0054】
(部材の設置領域)
部材8が設けられる前記領域は、光電極11と対極12の間に配置された電荷輸送層5に接触する箇所であれば特に制限されない。具体的には、前記領域として、対極12の表面の少なくとも一部、光電極11の表面の少なくとも一部、及び封止材4の表面の少なくとも一部が例示できる。また、部材8が電荷輸送層5を封止する封止材4であっても良い。この場合、封止材4の内部に前記物質Aが含有された構成となる。また、部材8を電荷輸送層5の内部に設置しても良い。
これらの中でも、光が増感色素に吸収されることを阻害する虞が殆ど無く、電解質の拡散効率を低下させる虞が殆ど無い、対極11の表面の少なくとも一部に部材8を設けることが好ましい。
対極11の表面は、比較的面積が広く、部材8を大面積化した場合にも電荷輸送層5と電解液5の接触面積は十分に確保することが可能である。前記対極11の表面は、部材8の被覆率も比較的自由に選択でき、電流が流れにくくなることを防げることができる。よって、部材8は、対極11の表面の少なくとも一部に設けることが好ましい。
また、前記部材8の対極11の表面上の被覆率は、対極表面の面積に対して、1〜50%が好ましく、3〜40%がより好ましく、5〜30%が特に好ましい。
なお、
図1に示した断面図では、対極11の全体に渡って部材8を配置しているが、
図2に示した第二実施形態の断面図のように、対極11の一部にのみ部材8を設けて、対極11の表面が電荷輸送層5と直接接する領域に設けても良い。
【0055】
前述した導電助剤を含む従来公知の触媒層が対極11に設けられている場合、その触媒層の表面が対極11の表面に相当する。つまり、「部材8を対極11の表面に設ける」とは、対極11を構成する導電層6の表面に部材8を設けることだけを意味するのではなく、対極11として機能する構成材料の表面(例えば、触媒層の表面)に設けることも同様に意味する。
図1に示した実施形態では、対極11を構成する導電層6の表面の少なくとも一部に部材8が設けられている。この際、当該部材8に炭素材料が含有されることにより、部材8が前記触媒層の機能を兼ね備えることが可能となる。
【0056】
(部材の導電性)
部材8を対極12の表面の少なくとも一部、又は光電極11の表面の少なくとも一部に設ける場合、電極の導電性を損なうことを防ぐために、部材8が導電性を有することが好ましい。導電性を有する部材8の構成材料として、前記物質Aの他に、ケッチェンブラックやアセチレンブラックなどの導電性炭素材料を含有させることが好ましい。
一方、部材8を封止材4の表面の少なくとも一部に設ける場合、部材8が導電性を有する必要はなく、絶縁性である方が好ましい。絶縁性の部材8の構成材料として、前記物質Aの他に、例えば、熱硬化性樹脂等の樹脂組成物を含有させることが好ましい。樹脂組成物を含有させることにより、物質Aが封止材4の表面に充分に接着して、表面から剥離する可能性が少なくすることができる。
【0057】
(部材8の形成方法)
部材8を前記領域に設ける方法としては、部材8に前記物質Aが担持され、且つ、電荷輸送層5中の電解質が部材8中の物質Aに可逆的に会合されることが可能な状態で設けられる方法であれば特に制限されない。具体的には、前記糖類及び前記導電性炭素材料をバインダー樹脂に混合したペーストを調製し、これを前記領域に塗布する方法が例示できる。
【0058】
前記バインダー樹脂としては、例えばポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。
前記ペースト中の前記糖類の質量としては、1〜40wt%が好ましく、5〜20wt%が更に好ましい。
前記ペースト中の前記導電性炭素材料の含有量としては、1〜50wt%が好ましく、5〜20wt%が更に好ましい。
前記ペーストを前記領域に塗布する方法は特に制限されず、例えば公知のスクリーン印刷法を適用することができる。
【0059】
前記ペーストを層状に塗布した後、公知方法で樹脂を硬化させることにより、層状の部材8を前記領域に形成することができる。本発明においては、部材8を層状に形成することが好ましい。部材8を層状にすることによって、部材8と電荷輸送層5との接触面積をより広くすることが可能であり、さらに太陽電池セル内の狭い空間を有効に利用することができる。
【0060】
前記ペーストの厚さは、部材8の厚さが、好ましくは1〜50μm、更に好ましくは5〜30μmとなるように設定すれば良い。
部材8の厚さが上記範囲の下限値以上であると、前記電解質を会合する前記物質Aが、前記領域における会合反応に十分な存在量とすることができる。部材8の厚さが上記範囲の上限値以下であると、部材8が前記領域から剥離することを防止できる。
【0061】
以上で説明したように、本発明では前記物質Aを部材8に担持させた状態にすることが好ましい。前記物質Aを、電荷輸送層5を構成する溶媒に直接溶解させる方法も考えられるが、この場合には電荷輸送層5の粘度が高くなり、電解質の拡散効率が低下し、イオン電導が阻害され(立体障害が起こる)、光電変換効率が低下してしまうことがあるため好ましくない。
【0062】
(封止材)
封止材4は、光電極11と対極12の間に配置された電荷輸送層5を封止することが可能な材料からなるものであれば特に制限されず、例えば、光硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などの材料からなる封止材が挙げられる。封止材4を形成する方法としては、例えば、前記樹脂を含む溶液を光電極11または対極12の所定の部位に塗布し、硬化させる方法が挙げられる。また、別の方法として、予め硬化させた前記樹脂を所定のサイズに成形した部材を封止材4として準備し、電荷輸送層5と接触する封止材4の領域に触媒層8を形成し、これを光電極11と対極12の間に配置して接着させる方法も例示できる。
【0063】
封止材4の厚さは、特に限定されないが、光電極11と対極12が所定の間隔を置いて離隔し、且つ、電荷輸送層5が必要とされる厚さとなるように適宜調整される。
【0064】
通常、封止材4は電荷輸送層5と接触する部位を有する。このため、封止材4に前記物質Aを含有させることにより、封止材4に前述した部材8の機能を付与することができる。したがって、封止材4を部材8として機能させる構成、すなわち部材8が封止材4である構成としても良い。この構成を実現する具体的な方法としては、前記樹脂を含む溶液中に、前記物質Aを所定の濃度で含有させる方法が挙げられる。
【実施例】
【0065】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0066】
<色素増感太陽電池作製方法>
導電膜にITOを用い、透明基板であるPENに積層させ、PEN/ITO(シート抵抗10Ω/cm
2)基板を作製した。その基板上に低温焼成酸化チタン(TiO
2)ペースト(Ti−Nanoxide T/SP、Solaronix社製)をスクリーン印刷法にて塗布し、窒素大気圧雰囲気下、500℃で30分間加熱して焼成することで、膜厚10μmの酸化物半導体層を成膜した。
次いで、アセトニトリル/tert−ブタノール(1/1、体積比)の混合溶媒に濃度が0.5mMとなるように色素N719を溶解させたN719溶液を調製した。そして、窒素ガス雰囲気下、室温において、この基板を150℃の乾燥雰囲気下で乾燥したのち、N719溶液に20時間浸漬させ、光電極を作製した。
また、導電膜にITOを用い、透明基板であるPENに積層させ、PEN/ITO(シート抵抗10Ω/cm
2)基板を対極として作製した。
この対極の上に、熱硬化型カーボンペースト(JELCON CH−8 十条ケミカル(株))に10wt%のアミロース(平均重合度:約18、平均分子量:約2900 、amylose EX−I 和光純薬工業(株))を添加したものを、スクリーン印刷にて塗布し、120℃の乾燥雰囲気下で20分間の乾燥をしたのち、部材を膜厚8.2μm、被覆率10%になるように対極表面上に形成した。
そして、1−メチル−3―プロピルイミダゾリウムヨージド(1mol/L)、N-メチルベンゾイミダゾール(0.5mol/L)、及びヨウ素(0.05mol/L)をメトキシプロピオニトリル(○mol/L)に溶解して、電荷輸送層である電解液を調製した。
光電極と対極を向かい合わせて、両電極の隙間を電荷輸送層で満たし、これを光硬化樹脂で封止して光電変換素子(色素増感太陽電池)を作製した。
【0067】
<実施例1>
得られた電極の光電変換素子の出力を測定した。Xeランプを光源とした疑似太陽光を照射して、各電圧での電流を実測することで出力を得た。光の強度は100mW/cm
2と12mW/cm
2の2種類で測定をおこなった。光を当ててから5分経過したのちに測定を行い、その時の基板の温度は100mW/cm
2では38℃、12mW/cm
2では28℃であった。このとき、実施例で作成した色素増感太陽電池の出力は100mW/cm
2照射時で7.2mW/cm
2, 12mW/cm
2照射時で1.1mW/cm
2であった。
【0068】
<比較例1>
10wt%のアミロースを添加しないこと以外は実施例1と同じ条件にて色素増感太陽電池を作成した。
得られた光電変換素子の出力を測定した。実施例1と同様の条件で測定をおこなった。測定時の基板の温度は100mW/cm
2では38℃、12mW/cm
2では28℃であった。比較例1で作成した色素増感太陽電池の出力は100mW/cm
2照射時で7.1mW/cm
2、12mW/cm
2照射時で0.8mW/cm
2であった。
【0069】
以上のように、高温時における実施例1の出力(38℃,7.2mW/cm
2)は、比較例1(38℃,1.1mW/cm
2)の出力を維持している。また、低温時における実施例1の出力(28℃,1.1mW/cm
2)は高温時に比べて低下しているものの、比較例1の低温時における出力(28℃,0.8mW/cm
2)より高い。つまり、実施例1の色素増感太陽電池では、高温時の出力を維持したまま、低温時における出力低下の程度を軽減できている。