(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のワイパーラバーの一実施形態について説明する。
図1及び
図2に、本実施形態のワイパーラバーを示す。本実施形態のワイパーラバー1は、基体部10と払拭部20と摺動層30とを備える。
ワイパーラバー1は、
図3に示すように、ワイパーフレーム2に取り付けられて使用される。具体的に、ワイパーラバー1は、ワイパーフレーム2の複数の把持部2a,2b,によって把持されて使用される。
【0009】
本実施形態で使用される基体部10は、長尺で、長手方向に対して垂直な方向(短手方向)に沿って切断した際の断面が、溝が形成された矩形状のものである。
基体部10の第1面11には、払拭部20が取り付けられている。第1面11の裏側に位置する第2面12は、ワイパーフレーム2に対向する面となっている。基体部10の側面である第3面13及び第4面14には、基体部10の長手方向に沿った第1溝15及び第2溝16が形成されている。第1溝15には、バーティブラと称される板ばねが挿入され、第2溝16には、ワイパーフレーム2の把持部2a,2bが挿入される。
また、第2溝16は、その一端部16pに位置する第1挿入部16aと、第1挿入部16a以外の第2挿入部16bとからなっている。第1挿入部16aと第2挿入部16bとは、第2溝16の端部16p近傍に形成された凸部16cによって区分されている。第1挿入部16aには、ワイパーブレード2の一端に最も近い把持部2aが挿入され、第2挿入部16bには、残りの把持部2bが挿入される。
第1挿入部16aに挿入された把持部2aは、ワイパーブレード2を左右に往復動させている最中に第1挿入部16aの表面及び凸部16cの表面のいずれかの部分に接触して、第1挿入部16aよりも外側への移動が阻止されている。これにより、ワイパーラバー1がワイパーフレーム2から抜けないようにされている。
【0010】
基体部10を構成するゴム材料は、シリコーンゴム、天然ゴム、クロロプレンゴム、エチレン・プロピレン・共役ジエン共重合体ゴム等のゴム基材を主成分として含む。これらのうちシリコーンゴムを用いた場合には、本発明の効果がとりわけ発揮される。
シリコーンゴムとしては、ジメチルシリコーンゴム、メチルビニルシリコーンゴム、メチルフェニルビニルシリコーンゴム、フロロシリコーンゴム等が挙げられ、これらは一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
通常、ゴム材料は、加硫剤によって架橋されている。また、ゴム材料は着色顔料が配合されて着色されてもよい。
【0011】
基体部10を構成するゴム材料の伸び率は200〜400%であることが好ましく、140〜350%であることがより好ましい。ゴム材料の伸び率が前記下限値以上であれば、ワイパーフレーム2がワイパーラバー1に食い込みやすくなり、ワイパーフレーム2からのワイパーラバー1の抜けをより防止できる。一方、ゴム材料の伸び率が前記上限値以下であれば、ワイパーラバー1として適度な柔軟性となる。
本発明における伸び率は、ワイパーラバーをダンベル3号にて試験片を作製し、JIS K6251に準拠して測定した値であって、元の長さからどの程度伸びたかを百分率で示した値である。
ゴム材料の硬度は、JIS−K6253で規定されるデュロメータ・タイプAで測定した際に50〜80度の範囲であることが好ましい。ゴム硬度が前記範囲にあれば、良好な払拭性が得られる。
ゴム材料の伸び率または硬度は、ゴム材料の配合、加硫剤の種類、加硫時間などによって調整することができる。
【0012】
本実施形態で使用される払拭部20は、輸送機器の窓に押し当てられて雨滴等を払拭するリップ部21と、リップ部21を基体部10に接続するネック部22とを有する。
リップ部21は、窓に接触する側(先端側)が薄く、ネック部22側が厚くなっている。ネック部22は、その短手方向の厚さがリップ部21の短手方向の厚さよりも薄くなっている。ネック部22が薄いことにより、払拭部20はネック部22にて可撓するようになっている。
【0013】
通常、払拭部20は、基体部10と一体に成形される。払拭部20が基体部10と一体に成形された場合には、払拭部20を構成するゴム材料は基体部10を構成するゴム材料と同一となる。
払拭部20は、基体部10と一体に成形されなくても構わない。払拭部20が基体部10と一体に成形されない場合には、払拭部20を構成するゴム材料が基体部10を構成するゴム材料と異なってもよい。
【0014】
摺動層30は、基体部10及び払拭部20を構成するゴム材料よりも小さい摩擦係数を示す層である。本実施形態では、摺動層30は、基体部10及び払拭部20の全面に設けられている。したがって、摺動層30は、基体部10の第2面12と第1挿入部16aの表面にも設けられている。
具体的な摺動層30としては、バインダと粒子とを含有する層、フッ素樹脂等の摩擦係数の低い樹脂を含有する層が挙げられる。これらのなかでも、低コストであることから、バインダと粒子とを含有する層が好ましい。バインダと粒子とを含有する層においては、粒子によって表面が凹凸状となり、ワイパーフレームとの接触面積が小さくなるため、摩擦係数が小さくなる。
【0015】
バインダとしては、公知の熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーまたは熱可塑性ゴム、公知の熱硬化性樹脂、熱硬化性エラストマーまたは熱硬化性ゴムを一種単独でもしくは二種以上を組み合わせて使用することができる。前記の樹脂、エラストマー及びゴムのなかでも、基体部10を構成するゴム材料との密着性に優れたものを選択することが好ましい。例えば、基体部10を構成するゴム材料がシリコーンゴムである場合には、シリコーン樹脂またはシリコーンゴムが好ましい。
摺動層30内のバインダは、加硫剤によって架橋されていてもよい。
【0016】
粒子としては公知の無機粒子または有機粒子を用いることができる。粒子の中でも、摺動層30の摩擦係数をより小さくできることから、扁平粒子が好ましい。扁平粒子としては、グラファイト(黒鉛)、窒化ホウ素、マイカなどが挙げられるが、ワイパーフレーム2からのワイパーラバー1の抜けとワイパーラバー1の劣化をより抑制できることから、グラファイトが好ましい。
【0017】
前記粒子の平均粒子径は1〜40μmであり、5〜30μmであることが好ましく、10〜20μmであることがより好ましい。粒子の平均粒子径が前記下限値以上であれば、ワイパーフレーム2からのワイパーラバー1の抜けとワイパーラバー1の劣化をより抑制でき、前記上限値以下であれば、粒子の脱落を防止できる。
本発明における平均粒子径は、レーザー回折・散乱法で測定した体積分布のメジアン径(d50)である。
【0018】
摺動層30がバインダ及び粒子を含む場合、摺動層30における粒子の含有量は2〜70質量%であることが好ましく、20〜60質量%であることがより好ましい。摺動層30における粒子の含有量が前記下限値以上であれば、ワイパーフレーム2からのワイパーラバー1の抜けとワイパーラバー1の劣化をより抑制でき、前記上限値以下であれば、粒子の脱落を防止できる。
【0019】
摺動層30の厚みは3〜45μmであることが好ましく、5〜40μmであることがより好ましい。摺動層30の厚みが前記下限値以上であれば、充分に高い摺動性が得られ、前記上限値以下であれば、摺動層30を容易に形成できる。
【0020】
上記ワイパーラバーを製造する方法としては、例えば、成形工程と摺動層形成用塗布液調製工程と摺動層形成工程とを有する方法が挙げられる。
【0021】
成形工程は、ゴム基材を含むゴム組成物を成形して、基体部及び払拭部を備えるワイパーラバー基材を得た後、そのワイパーラバー基材を加熱して、ワイパーラバーを得る工程である。
成形工程では、具体的には、まず、ゴム基材に必要に応じて加硫剤及び着色剤等を配合してゴム組成物を得る。次いで、そのゴム組成物を、ロールやミキサー等の混練機を用いて混練した後、適当な量に分け、成形して、基体部及び払拭部を備えるワイパーラバー基材を得る。次いで、そのワイパーラバー基材を加熱して、ワイパーラバーを得る。
ゴム組成物の成形方法としては、圧縮成形、押出成形、射出成形等から適宜選択される。圧縮成形または射出成形を採用した場合には、成形性及び生産性の点から、加熱温度を150〜190℃とすることが好ましく、160〜180℃とすることがより好ましい。押出成形を採用した場合には、加熱温度を200〜400℃とすることが好ましい。
ワイパーラバー基材の加熱は、180〜210℃の範囲で、1〜4時間行うことが好ましい。ワイパーラバー基材の加熱により二次加硫が生じ、未反応物が除去されて、機械的強度等が向上する。
【0022】
摺動層形成用塗布液調製工程では、バインダと粒子と溶剤と必要に応じて加硫剤とを混合して、摺動層形成用塗布液を調製する。
摺動層形成工程では、ワイパーラバーに摺動層形成用塗布液を塗布した後、加熱して、摺動層30を形成する。
摺動層形成用塗布液の塗布方法としては、例えば、スプレー塗布、浸漬塗布などを適用することができる。
塗布後の加熱温度としては、150〜200℃であることが好ましい。加熱方法としては、加熱オーブンを用いる方法、赤外線を照射する方法などが挙げられる。
【0023】
ワイパーラバー1を使用する際には、第1溝15に板ばね3が挿入され、第2溝16の第1挿入部16aにワイパーフレーム2の把持部2aが挿入され、第2挿入部16bにワイパーフレーム2の把持部2bが挿入される(
図2参照)。これにより、ワイパーブレードが形成される。そのワイパーブレードをワイパーアームに取り付け、ワイパーラバー1のリップ部21を窓に接触させ、ワイパーアームを回動させることによって、ワイパーブレードを窓表面にて左右に往復動させることができる。これにより、リップ部21によって窓に付着した雨滴等を払拭することができる。
ワイパーラバー1の基体部10に摺動層30が設けられていない場合(すなわち、従来品の場合)、ワイパーブレードの往復動の際には、把持部2aが、第1挿入部16aの表面、凸部16cの表面及び基体部10の第2面12に直接接触する。把持部2aが直接接触すると、把持部2aが、第1挿入部16aの表面、凸部16cの表面及び第2面12を擦って、ひびを入れたり、磨耗させたりする。また、ワイパーブレードの往復動の際には、把持部2bが、第2挿入部16bの表面及び基体部10の第2面12に直接接触する。把持部2bが直接接触すると、把持部2bが、第2挿入部16bの表面及び第2面12の表面を擦って、ひびを入れたり、磨耗させたりする。そのため、ワイパーラバー1が長期間使用されると、劣化が進行し、磨耗により凸部16cが低くなりやすい。凸部16cが低くなったときには、把持部2aの第2挿入部16bへの移行を阻止できなくなって、ワイパーラバー1がワイパーフレーム2から抜けて外れやすくなる。
しかし、上記ワイパーラバー1では、基体部10の表面に摺動層30が設けられているため、把持部2a,2bが基体部10に直接接触しない上に、摩擦係数が小さくされている。これにより、ワイパーブレードの往復動の際に把持部2a,2bが擦れても、基体部10にひびが入りにくく、基体部10は磨耗しにくくなっている。そのため、ワイパーラバー1が長期間使用されても、ワイパーラバー1の劣化が抑制され、磨耗によって凸部16cが低くなりにくいため、ワイパーラバー1がワイパーフレーム2から抜けて外れることが防止されている。
【0024】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されない。上記実施形態では、摺動層が基体部及び払拭部の全面に設けられていたが、基体部においては、少なくとも、ワイパーフレームが接触する面に設けられていればよい。具体的には、少なくとも、第2面の、把持部が接触する面と、第1挿入部の表面と、凸部の表面に摺動層が設けられていればよい。しかし、摺動層を容易に形成できる点では、基体部及び払拭部の全面に摺動層が設けられることが好ましい。
また、本発明のワイパーラバーは、上記第1溝を必須としなくてもよい。
【0025】
本発明のワイパーラバーによって払拭する対象物は、雨滴のみならず、雪、みぞれ、ほこり等であってもよい。
本発明のワイパーラバーが使用される輸送機器としては、自動車、鉄道車両、船舶、航空機等が挙げられる。本発明のワイパーラバーが接触する窓の材質は、ガラス、透明樹脂のいずれであってもよい。
【実施例】
【0026】
(製造例1)
シリコーンゴムコンパウンド「KE961u」(商品名、信越化学工業(株)製)100質量部に対し、加硫剤「C−8」(商品名、信越化学工業(株)製、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−ブチルパーオキシ)ヘキサン)を2質量部、着色剤「KE−color−CB」(商品名、信越化学工業(株)製)を0.5質量部添加して、ゴム組成物を得た。
そのゴム組成物を、2本ロールを用いて充分に混練した後、適当な厚み、長さに分け、加熱圧縮成形法(成形温度:170℃、成形時間:4分)を適用して、基体部及び払拭部を備えるワイパーラバー基材を得た。そのワイパーラバー基材を、オーブン中で二次加硫して、ワイパーラバーを得た(加硫温度:200℃、加硫時間:2時間)。
【0027】
(実施例1)
バインダとしてのジメチルシリコーンゴム「KE76VBS」(商品名、信越化学工業(株)製)30質量部、天然黒鉛「BF−18」(商品名、(株)中越黒鉛工業所製、形状は鱗片状、メジアン径18μm、以下、「黒鉛1」という。)2質量部、加硫剤「CAT−PL−2」(商品名、信越化学工業(株)製)0.3質量部をトルエン400質量部に添加し、撹拌して、摺動層形成用塗布液を得た。
この摺動層形成用塗布液を、スプレーによって、製造例1で得たワイパーラバーに噴き付けて塗布した後、風燥させ、さらに180℃、10分間熱処理して、ワイパーラバーの全面に厚さ20μmの摺動層を形成した。これにより、摺動層付きのワイパーラバーを得た。
【0028】
(実施例2)
黒鉛1の含有量を20質量部に変更した以外は実施例1と同様にしてワイパーラバーを得た。
【0029】
(実施例3)
黒鉛1の含有量を60質量部に変更した以外は実施例1と同様にしてワイパーラバーを得た。
【0030】
(実施例4)
黒鉛1の含有量を70質量部に変更した以外は実施例1と同様にしてワイパーラバーを得た。
【0031】
(実施例5)
黒鉛1を2質量部添加する代わりに、天然黒鉛「RA−10000」(商品名、(株)中越黒鉛工業所製、形状は鱗片状、メジアン径3μm、以下、「黒鉛2」という。)を20質量部添加した以外は実施例1と同様にしてワイパーラバーを得た。
【0032】
(実施例6)
黒鉛1を2質量部添加する代わりに、黒鉛2を2質量部添加した以外は実施例1と同様にしてワイパーラバーを得た。
【0033】
(実施例7)
黒鉛1を2質量部添加する代わりに、天然黒鉛「BF−40A/s」(商品名、(株)中越黒鉛工業所製、形状は鱗片状、メジアン径30μm、以下、「黒鉛3」という。)を20質量部添加した以外は実施例1と同様にしてワイパーラバーを得た。
【0034】
(実施例8)
黒鉛1を2質量部添加する代わりに、黒鉛3を70質量部添加した以外は実施例1と同様にしてワイパーラバーを得た。
【0035】
(実施例9)
黒鉛1を2質量部添加する代わりに、窒化ホウ素「GPS」(商品名、電気化学工業(株)製、形状は鱗片状、メジアン径18μm、以下、「BN」という。)を20質量部添加した以外は実施例1と同様にしてワイパーラバーを得た。
【0036】
<評価>
各実施例及び製造例のワイパーラバーについて、耐久試験後のワイパーフレームからの抜け力を測定し、劣化抑制の程度を評価した。それらの結果を表1に示す。
【0037】
[耐久試験後のワイパーフレームからの抜け力低下の測定]
ワイパーラバーをワイパーフレームに取り付け、ワイパーラバーを長手方向に沿って引っ張ってワイパーフレームから抜いた。その際の抜け力を測定した。
また、再度、ワイパーラバーをワイパーフレームに取り付けてワイパーブレードを作製し、そのワイパーブレードをワイパー装置に取り付けて、ガラス表面を50万回払拭して、耐久試験を行った。耐久試験後に、ワイパーラバーを長手方向に沿って引っ張ってワイパーフレームから抜いた。その際の抜け力を測定した。耐久試験後の抜け力が3.0kgf未満であると、実用上の問題が生じる。
【0038】
[劣化抑制の評価]
ワイパーラバーをワイパーフレームに取り付けてワイパーブレードを作製し、そのワイパーブレードをワイパー装置に取り付けて、ガラス表面を50万回払拭した。払拭後のワイパーラバーの劣化の状況、具体的には、ワイパーフレームが接触した面のひび割れ状況を目視により観察し、以下の基準で評価した。
◎:全くひびが見られなかった。
○:長さ1mm以下のひびが見られた。
△:長さ1mm超2mm未満のひびが見られた。
×:長さ2mm以上のひびが見られた。
【0039】
【表1】
【0040】
実施例1〜9のワイパーラバーでは、ワイパーフレームが接触する面に摺動層が設けられているため、抜け力低下が防止されていた。また、耐久試験後も劣化が抑制されており、実用上の問題を有していなかった。
摺動層が設けられていない製造例1のワイパーラバーでは、抜け力低下が大きく、また、耐久試験後には激しく劣化しており、実用上の問題を有していた。