特許第5891215号(P5891215)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5891215
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】表皮付き製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/06 20060101AFI20160308BHJP
   B60R 7/04 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
   B32B5/06 A
   B60R7/04 C
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-241738(P2013-241738)
(22)【出願日】2013年11月22日
(65)【公開番号】特開2015-100955(P2015-100955A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2015年2月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】永田 武司
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 千春
(72)【発明者】
【氏名】戸田 稔
(72)【発明者】
【氏名】薮押 正人
【審査官】 中尾 奈穂子
(56)【参考文献】
【文献】 実開平01−136044(JP,U)
【文献】 特開2005−212589(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B60R 3/00− 7/14
B60R 13/01−13/04
B60K 35/00−37/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に設けられ、かつ表皮の裏側に、同表皮よりも柔らかいクッション層を積層してなる積層材と、
前記表皮の表面に沿って線状をなすように配列された複数の縫い目からなるステッチラインと
を備える表皮付き製品を製造する方法であって、
前記積層材における前記クッション層の一部が前記表皮側へ窪むように前記クッション層及び前記表皮を共縫いすることにより、前記表皮の表面に前記ステッチラインを形成するステッチライン形成工程と、
前記積層材の裏側の面であって、前記共縫いされた箇所の裏側の面を含む面の略全面を前記基材に対し密着させた状態で貼付ける貼付け工程と
が少なくとも行なわれ、
前記ステッチライン形成工程及び前記貼付け工程では、前記積層材として、前記表皮に立体編クッション層が積層されたものが用いられ、
前記ステッチライン形成工程では、前記立体編クッション層の剛性を利用することにより、前記クッション層の圧縮が抑制されることを特徴とする表皮付き製品の製造方法。
【請求項2】
前記貼付け工程では、前記基材及び前記積層材の少なくとも一方に対し、互いに接近させる方向へ押付ける力が加えられ、前記積層材が前記基材に貼付けられた後に前記力が解除される請求項1に記載の表皮付き製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮の表面の一部にステッチラインが形成された表皮付き製品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のインストルメントパネル、コンソール等の内装品として、基材と、基材上に設けられ、かつ表皮の裏側にクッション層を積層してなる積層材と、表皮の表面に沿って線状をなすように配列された複数の縫い目からなるステッチラインとを備えるもの(以下、表皮付き製品という)が知られている。この表皮付き製品では、表皮の一部に窪み部を有し、その窪み部の底部にステッチラインが位置していてステッチラインが沈み込んだように見えることが、質感を高めるうえで有効である。
【0003】
そこで、例えば特許文献1に記載された「車両内装部材の製造方法」では、図7に示すように、積層材51としてステッチライン形成部55が設けられたものが用いられる。ステッチライン形成部55では、表皮52及びクッション層53の各表面が基材56側へ窪み、各裏面が基材56側へ突出している。ステッチライン形成部55においてクッション層53と表皮52とが共縫いされることで、表皮52の表面にステッチライン54が形成される。
【0004】
一方、基材56として、ステッチライン対応部57が設けられたものが用いられる。ステッチライン対応部57では、基材56の表面が裏側に向けて窪んでいる。
そして、上記ステッチライン形成部55がステッチライン対応部57に貼り合わされることで、積層材51が基材56に固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−43571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記特許文献1に記載された製造方法では、積層材51を基材56に固定する際に、ステッチライン対応部57に対するステッチライン形成部55の位置合わせ作業を厳密に行なわなければならず、位置合わせに手間がかかる問題がある。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、表皮の一部に窪み部を有し、その窪み部の底部にステッチラインを有する表皮付き製品を、厳密な位置合わせ作業をせずに製造することのできる表皮付き製品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する表皮付き製品の製造方法は、基材と、前記基材上に設けられ、かつ表皮の裏側に、同表皮よりも柔らかいクッション層を積層してなる積層材と、前記表皮の表面に沿って線状をなすように配列された複数の縫い目からなるステッチラインとを備える表皮付き製品を製造する方法であって、前記積層材における前記クッション層の一部が前記表皮側へ窪むように前記クッション層及び前記表皮を共縫いすることにより、前記表皮の表面に前記ステッチラインを形成するステッチライン形成工程と、前記積層材の裏側の面であって、前記共縫いされた箇所の裏側の面を含む面の略全面を前記基材に対し密着させた状態で貼付ける貼付け工程とが少なくとも行なわれ、前記ステッチライン形成工程及び前記貼付け工程では、前記積層材として、前記表皮に立体編クッション層が積層されたものが用いられ、前記ステッチライン形成工程では、前記立体編クッション層の剛性を利用することにより、前記クッション層の圧縮が抑制される
【0009】
ステッチライン形成工程では、積層材におけるクッション層及び表皮が共縫いされる。クッション層が表皮よりも柔らかいことから、上記共縫いの際に、積層材におけるクッション層の一部が糸によって表皮側へ引張られる。そのため、クッション層の裏側では、同クッション層のうち糸の周辺部分が表皮側へ窪む。また、表皮の表面に、同表面に沿って線状をなすように配列された複数の縫い目からなるステッチラインが形成される。
【0010】
貼付け工程では、積層材の裏側の面であって、共縫いされた箇所の裏側の面を含む面の略全面が基材に対し密着させられた状態で貼付けられる。この際、クッション層のうち、貼付け工程の前に、共縫いにより表皮側へ引張られて窪んでいた箇所も基材側へ引き戻されて、共縫いされず窪んでいない箇所と同様に基材の表面に沿った形状にされて、同基材に貼付けられる。この貼付けに際しては、積層材を基材に対し厳密に位置合わせする必要はない。
【0011】
上記の貼付けにより、積層材の一部に、貼付け工程の前の形状を反転したような形状、すなわち、基材側へ窪み、かつ底部にステッチラインを有する窪み部が形成される。
前記ステッチライン形成工程及び前記貼付け工程で用いられる積層材としては、表皮に立体編クッション層が積層されたものが適している。立体編クッション層は、他の種類のクッション層に比べ圧縮特性に優れる(剛性が高い)。そのため、ステッチライン形成工程で立体編クッション層及び表皮が共縫いされた場合、立体編クッション層のうちステッチラインの近くの箇所のみが表皮側へ引張られる。
【0012】
また、貼付け工程で、積層材が基材に密着状態で貼付けられた場合、ステッチラインの近くの箇所のみに明確な窪み部が形成される。
上記表皮付き製品の製造方法において、前記貼付け工程では、前記基材及び前記積層材の少なくとも一方に対し、互いに接近させる方向へ押付ける力が加えられ、前記積層材が前記基材に貼付けられた後に前記力が解除されることが好ましい。
【0013】
上記の製造方法によれば、貼付け工程では、基材及び積層材の少なくとも一方に対し、互いに接近させる方向へ押付ける力が加えられる。この力により、クッション層が、その弾性に抗して基材側へ圧縮されて、積層材の裏側の面であって、共縫いされた箇所の裏側の面を含む面の略全面が基材に密着した状態で好適に貼付けられる。この際、クッション層のうち、貼付け工程の前に、共縫いにより表皮側へ引張られて窪んでいた箇所も基材側へ引き戻されて、共縫いされず窪んでいない箇所と同様に基材の表面に沿った形状にされて、同基材に貼付けられる。
【0014】
積層材が基材に貼付けられた後に上記力が解除される。すると、クッション層を圧縮させようとする力がなくなり、同クッション層が自身の弾性復元力により元の状態に戻ろうとする。但し、クッション層のうち共縫いされた箇所では、糸により弾性復元が制限される。そのため、積層材の一部に、貼付け工程の前の形状を反転したような形状、すなわち、基材側へ窪み、かつ底部にステッチラインを有する窪み部が形成される。
【発明の効果】
【0015】
上記表皮付き製品の製造方法によれば、表皮の一部に窪み部を有し、その窪み部の底部にステッチラインを有する表皮付き製品を、厳密な位置合わせ作業をせずに製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】表皮付き製品の製造方法の一実施形態を示す図であり、(a)〜(e)は同製造方法の内容を示す工程図。
図2図1の製造方法により製造される表皮付き製品の部分斜視図。
図3】表皮付き製品の変形例を示す部分断面図。
図4】表皮付き製品の変形例を示す部分断面図。
図5】表皮付き製品の変形例を示す部分断面図。
図6】変形例の表皮付き製品を製造する途中の状態を示す図であり、一対の積層材が縫合された状態を示す部分断面図。
図7】従来の表皮付き製品を製造する途中の状態を示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、表皮付き製品の製造方法の一実施形態について、図1及び図2を参照して説明する。
まず、本実施形態の製造方法が適用されて製造される表皮付き製品について説明する。本実施形態では、自動車のインストルメントパネル、コンソール、ドアトリム、グローブボックス、ピラーガーニッシュ等の各種自動車用内装品を、表皮付き製品の対象としている。なお、説明の便宜上、表皮付き製品を単純な形状で例示する。
【0018】
図2に示すように、表皮付き製品10は、基材11、積層材12及びステッチライン17を主要な構成部材として備えている。次に、表皮付き製品10の各構成部材について説明する。
【0019】
<基材11>
基材11は、表皮付き製品10の骨格部分をなす部材であり、表皮付き製品10の剛性を担保している。基材11は、ポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂材料を用い、射出成形等の樹脂成形を行なうことによって、製品形状に形成されている。基材11は、曲面、屈曲面、凹凸面等といった非平面状の表面(三次元表面)を有するものであってもよい。
【0020】
なお、基材11には、特許文献1のステッチライン対応部57(図7参照)に相当する部分は形成されていない。
<積層材12>
積層材12は、表皮付き製品10の外殻(表層)部分をなす部材であり、基材11上に配置されている。積層材12は、基材11の表面に沿わされており、自身の裏面において基材11の表面に密着させられた状態で貼付けられている。
【0021】
積層材12としては、表皮付き製品10の意匠面を構成する表皮13と、その表皮13の裏側(図2の下側)に積層され、かつ表皮13よりも柔らかいクッション層14とからなるものが用いられている。
【0022】
表皮13は、主として表皮付き製品10の質感向上、触感向上等を図る目的で用いられている。表皮13は、塩化ビニル、熱可塑性エラストマ(TPO)等からなる合成皮革(合皮)によって、厚みの均一なシート状に形成されており、厚み方向等に変形し得る。
【0023】
表皮13としては、0.35〜1.5mmの厚みを有するものが用いられることが望ましい。表皮13の厚みが0.35mmよりも薄いと、表皮付き製品10の製造の過程で表皮13においてステッチライン17の近くにシワが入るおそれがある。これに対し、表皮13の厚みが1.5mmよりも厚いと、表皮13が硬くなる。積層材12が基材11に貼付けられる際に、表皮13が基材11に沿って変形しにくく、窪み部15が形成されにくい。なお、表皮13は、皮革製品に見られるようなシボ(皺模様)を、自身の表面に有していてもよい。
【0024】
クッション層14は立体編クッション層によって構成されており、弾力性を有している。クッション層14は、表皮付き製品10の触感向上のために用いられており、例えば、ダブルラッセル編機等を用いて形成され、所定間隔をおいて位置する一対のグランド編地間に連結糸を往復させることにより編成される。
【0025】
クッション層14としては、1.5〜3.5mmの厚みを有するものが用いられることが望ましい。厚みが上記範囲から外れていると、表皮付き製品10の見栄えが低下する。より具体的には、クッション層14の厚みが1.5mmよりも薄いと、同クッション層14が基材11に貼付けられたときに基材11側へ引き戻される量が不足する。クッション層14の厚みが3.5mmよりも厚いと、共縫いされたときに同クッション層14が表皮13側へ過剰に窪むおそれがある。この場合、積層材12が基材11に貼付けられたときのクッション層14の基材11側への引き戻し量が多く、積層材12の表面に、意図するよりも大きな窪み部15が形成されるおそれがある。
【0026】
上記積層材12の表側には、クッション層14の一部が基材11側へ圧縮変形させられることにより、一対の壁面16からなる窪み部15が形成されている。この窪み部15が形成された箇所では、クッション層14の厚みが、他の箇所の厚みよりも小さくなっている。両壁面16は、窪み部15の底部に向けてなだらかに傾斜している。両壁面16の間隔は、窪み部15の底部に近づくに従い狭くなっている。
【0027】
なお、積層材12には、特許文献1のステッチライン形成部55(図7参照)に相当する部分は形成されていない。
<ステッチライン17>
ステッチライン17は、表皮13において、その表皮13のパーツの縫い合わせを擬似的に再現することで、本革を使用しているような外観を表皮付き製品10に持たせて高級感を演出するためのものであり、装飾(加飾)を目的として設けられている。こうした形態のステッチライン17は、飾りステッチとも呼ばれる。
【0028】
ステッチライン17は、表皮13及びクッション層14を、上糸18及び下糸19を用いて共縫いすることによって形成されており、表皮13の表面のうち窪み部15の底部に沿って線状をなすように配列された複数の縫い目21からなる。表現を変えると、上糸18が断続的に窪み部15の底部に現出しており、この現出部分が縫い目21を構成している。本実施形態のステッチライン17は、複数の縫い目21が、窪み部15の延びる方向(延出方向)に沿って一直線をなすように配列されることによって構成されている。このような縫い目21の配列形態は、ストレートステッチとも呼ばれる。
【0029】
次に、本実施形態の作用として、上記のように構成された表皮付き製品10を製造する方法について、図1を参照して説明する。
この製造方法では、積層材形成工程、ステッチライン形成工程及び貼付け工程が順に行なわれる。次に、各工程について説明する。
【0030】
<積層材形成工程>
積層材形成工程では、図1(a)に示すように、表皮13とクッション層14とが準備される。クッション層14が表皮13の裏側に配置され、同クッション層14が接着剤によって表皮13に接着される。この接着により、図1(b)に示すように、クッション層14が表皮13に接合され、表皮13の裏側にクッション層14を積層してなる積層材12が形成される。
【0031】
<ステッチライン形成工程>
ステッチライン形成工程では、積層材12がミシンにより、図1(c)に示すように上糸18及び下糸19で同積層材12の表裏にわたって縫われることで、表皮13及びクッション層14が共縫いされる。
【0032】
ここで、クッション層14が表皮13よりも柔らかいことから、上記共縫いは、クッション層14が表皮13側へ引張られながら行なわれる。この共縫いにより、クッション層14の裏側では、同クッション層14のうち上糸18及び下糸19の周辺部分が表皮13側へ窪む。また、表皮13の表面に、同表面に沿って全体として線状をなすように配列された複数の縫い目21からなるステッチライン17(図2参照)が形成される。
【0033】
立体編クッション層からなるクッション層14は、他の種類のクッション層に比べ圧縮特性に優れる(剛性が高い)。そのため、クッション層14及び表皮13が共縫いされた場合、クッション層14のうちステッチライン17の近くの箇所のみが表皮13側へ引張られて、同方向に圧縮される。クッション層14のうち上記ステッチライン17の近くの箇所の厚みが他の箇所よりも薄くなる。
【0034】
<貼付け工程>
貼付け工程の実施に先立ち、図1(d)に示すように基材11が準備される。基材11としては、射出成形等の樹脂成形方法によって所定の製品形状に成形されたものが対象とされる。
【0035】
貼付け工程では、基材11の表面及び積層材12(クッション層14)の裏面の少なくとも一方に接着剤が塗布される。そして、積層材12の裏側の面であって、共縫いされた箇所の裏側の面を含む面の略全面、ここでは、クッション層14の裏面の略全面が基材11の表面に対し密着させられた状態で貼付けられる。
【0036】
本実施形態では、互いに重ね合わされた基材11及び積層材12が、それらの厚み方向についての両側から、プレス機(図示略)によって互いに接近する方向へ押付けられる。この押付けにより、積層材12のクッション層14が、その弾性に抗して基材11側へ圧縮される。この際、クッション層14のうち、貼付け工程の前に、共縫いにより表皮13側へ引張られて窪んでいた箇所も基材11側へ引き戻されて、共縫いされず窪んでいない箇所と同様に基材11の表面に沿った形状にされて、すなわち基材11に密着した状態にされて、同基材11に好適に貼付けられる。この貼付けに際しては、積層材12を基材11に対し厳密に位置合わせする必要はない。
【0037】
積層材12(クッション層14)が基材11に貼付けられた後に、プレス機による上記押付け力が解除される。すると、クッション層14を圧縮させようとする力がなくなり、クッション層14が自身の弾性復元力により元の状態に戻ろうとする。但し、クッション層14のうち共縫いされた箇所では、上糸18及び下糸19により弾性復元が制限される。そのため、図1(e)に示すように、積層材12(表皮13、クッション層14)の一部に、貼付け工程の前の形状を反転したような形状、すなわち、基材11側へ窪み、かつ底部にステッチライン17を有する窪み部15が形成される。
【0038】
ここで、上述したように立体編クッション層からなるクッション層14は、他の種類のクッション層に比べ圧縮特性に優れる(剛性が高い)ため、積層材12が基材11に密着状態で貼付けられた場合、ステッチライン17の近くの箇所のみに明確な窪み部15が形成される。
【0039】
以上詳述した本実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)ステッチライン形成工程では、積層材12におけるクッション層14の一部が表皮13側へ窪むようにクッション層14及び表皮13を共縫いすることにより、表皮13の表面にステッチライン17を形成する(図1(c))。貼付け工程では、積層材12の裏側の面であって、共縫いされた箇所の裏側の面を含む面の略全面(クッション層14の裏面の略全面)を基材11に対し密着させた状態で貼付けるようにしている(図1(e))。
【0040】
そのため、表皮13の一部に窪み部15を有し、その窪み部15の底部にステッチライン17を有する表皮付き製品10を、厳密な位置合わせ作業をせずに製造することができる。
【0041】
(2)ステッチライン形成工程及び貼付け工程では、積層材12として、立体編クッション層からなるクッション層14を表皮13に積層したもの(図1(b))を用いるようにしている。
【0042】
そのため、ステッチライン形成工程(図1(c))では、立体編クッション層のうちステッチライン17の近くの箇所のみを表皮13側へ引張り、貼付け工程(図1(e))では、ステッチライン17の近くの箇所のみに明確な窪み部15を形成することができる。
【0043】
(3)貼付け工程では、基材11及び積層材12に対し、それらの厚み方向についての両側から、互いに接近させる方向へ押付ける力を加え、積層材12が基材11に貼付けられた後に上記押付け力を解除するようにしている。
【0044】
そのため、上記押付け力を加えることにより、クッション層14を基材11側へ圧縮して、積層材12の裏側の面であって、共縫いされた箇所の裏側の面を含む面の略全面(クッション層14の裏面の略全面)を基材11に密着させた状態で好適に貼付けることができる。
【0045】
また、上記貼付けの後に押付け力を解除することにより、クッション層14のうち共縫いされていない箇所では、自身の弾性復元力により復元させつつ、共縫いされた箇所では、糸により弾性復元を制限することで、積層材12の一部に、基材11側へ窪み、かつ底部にステッチライン17を有する窪み部15を好適に形成することができる。
【0046】
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。
・表皮13として、合成皮革に代えて本革からなるものが用いられてもよい。
【0047】
・クッション層14として、立体編クッション層に代えて、ウレタンフォーム、エチレンフォーム、プロピレンフォーム等の発泡材からなるものが用いられてもよい。これらの発泡材には、気泡が連通していて柔らかく、復元性を有するという特徴がある。
【0048】
・積層材形成工程において、クッション層14は表皮13に対し、接着剤に代えて両面テープ又は粘着剤により貼付けられてもよい。
同様に、貼付け工程において、積層材12は基材11に対し、接着剤に代えて両面テープ又は粘着剤により貼付けられてもよい。
【0049】
・ステッチライン17は、複数の縫い目21が、窪み部15の延びる方向に対し、それぞれ一定の角度で傾斜した状態で配列されることにより、全体として線状をなすように配列されたものであってもよい。このような縫い目21の配列形態は、斜めステッチ、傾斜ステッチ等と呼ばれることもある。さらには、ステッチライン17は、上述したストレートステッチと傾斜ステッチとが交互に配列されたものであってもよい。
【0050】
・上記製造方法は、「シングルステッチ」、「ダブルステッチ」と呼ばれる形態で一対の積層材12が結合された表皮付き製品10にも適用可能である。
なお、以下の説明では、積層材12、表皮13、クッション層14をはじめとして一対ずつ用いられるものが出てくるため、それらを区別する目的で、図面の左側に位置するものについては符号の後に「L」を付し、図面の右側に位置するものについては符号の後に「R」を付すことにする。
【0051】
上記形態によって一対の積層材12L,12Rが結合される場合には、途中の段階として、図6に示す「インステッチ」と呼ばれる形態が採られる。
インステッチでは、各表皮13L,13Rが隣り合わされた状態で一対の積層材12L,12Rが重ねられる。両積層材12L,12Rは、周縁部同士が縫合されることで結合される。両積層材12L,12Rにおいて縫い代31L,31Rを除く箇所(以下、「一般部32L,32R」という)が開かれることにより、表皮13L,13Rの多くが表側に位置させられる。各縫い代31L,31Rは重なった、又は接近した状態となり、一般部32L,32Rに対し、それらの裏側(図6の下側)で略直交した状態となる。この場合、縫合部33及び両縫い代31L,31Rは、表側(図6の上側)からは見えない、又は見えにくい。
【0052】
図3は、シングルステッチと呼ばれる形態で一対の積層材12L,12Rが結合された状態を示している。この例では、上記「インステッチ(図6参照)」で結合された一対の積層材12L,12Rのうち、両縫い代31L,31Rが重ねられた状態で、一方(図3の左方)の一般部32L側へ折り曲げられ、その一般部32Lの裏側に重ねられる。そして、これらの一般部32L及び両縫い代31L,31Rに対し、ステッチライン形成工程が行なわれる。また、積層材12L,12Rの裏側の面であって、共縫いされた箇所の裏側の面を含む面の略全面、この場合、一般部32L(クッション層14L)の裏面の大部分と、縫い代31R及び一般部32R(ともにクッション層14R)の各裏面とが、貼付け工程において、基材11に貼付けられる対象とされる。
【0053】
なお、この例では、段差部34を有する基材11が用いられ、両積層材12L,12Rのうち共縫いされた部分(縫い代31L,31R)が段差部34に配置されて、上記の貼付けが行なわれる。この貼付けに伴い、底部にステッチライン17Lを有する窪み部15Lは、一方の一般部32Lのうち縫い代31L,31Rの上側に形成される。
【0054】
図4は、ダブルステッチと呼ばれる形態で、一対の積層材12L,12Rが結合された状態を示している。この例では、上記「インステッチ(図6)」で結合された一対の積層材12L,12Rのうち、両縫い代31L,31Rが開かれる。
【0055】
一方(図4の左方)の縫い代31Lが一般部32L側へ折り曲げられ、その一般部32Lの裏側に重ねられる。そして、これらの一般部32L及び縫い代31Lに対し、ステッチライン形成工程が行なわれる。また、積層材12Lの裏側の面であって、共縫いされた箇所の裏側の面を含む面の略全面、この場合、縫い代31Lの表皮13Lと一般部32L(クッション層14L)の裏面の大部分とが、貼付け工程において、基材11に貼付けられる対象とされる。
【0056】
他方(図4の右方)の縫い代31Rが一般部32R側へ折り曲げられ、その一般部32Rの裏側に重ねられる。そして、これらの一般部32R及び縫い代31Rに対し、ステッチライン形成工程が行なわれる。また、積層材12Rの裏側の面であって、共縫いされた箇所の裏側の面を含む面の略全面、この場合、縫い代31Rの表皮13と一般部32R(クッション層14R)の裏面の大部分とが、貼付け工程において、基材11に貼付けられる対象とされる。
【0057】
なお、この例では、凹部35を有する基材11が用いられ、各積層材12L,12Rのうち共縫いされた部分の一部(縫い代31L,31R)が凹部35内に配置されて、上記の貼付けが行なわれる。この貼付けに伴い、底部にステッチライン17L,17Rを有する窪み部15L,15Rは、各一般部32L,32Rのうち縫い代31L,31Rの上側に形成される。
【0058】
・上記「インステッチ(図6)」と呼ばれる形態で結合された一対の積層材12L,12Rの一般部32L,32Rのそれぞれに対し、上記実施形態と同様の飾りステッチが形成されてもよい。その一例を図5に示す。
【0059】
この場合、両縫い代31L,31Rは、上記シングルステッチやダブルステッチとは異なり折り曲げられず、両一般部32L,32Rに対し、それらの裏側(図5の下側)で略直交している。各一般部32L,32Rに対し、ステッチライン形成工程が行なわれる。また、積層材12L,12Rの裏側の面であって、共縫いされた箇所の裏側の面を含む面の略全面、この場合、少なくとも各一般部32L,32Rの裏面が、貼付け工程において、基材11に貼付けられる対象とされる。この貼付けに伴い、底部にステッチライン17L,17Rを有する窪み部15L,15Rは、各一般部32L,32Rに形成される。
【0060】
なお、この場合には、凹部36を有する基材11が用いられ、両縫い代31L,31Rが凹部36内に配置される。
・上記製造方法は、自動車用内装品に限らず、ステッチライン17を表皮13の表面に有する表皮付き製品に広く適用可能である。
【0061】
その他、前記各実施形態から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに記載する。
(A)請求項1〜3のいずれか1項に記載の表皮付き製品の製造方法において、前記積層材として、前記表皮が0.35〜1.5mmの厚みを有するものが用いられる。
【0062】
上記の条件を満たす積層材が用いられて、ステッチライン形成工程及び貼付け工程が行なわれることで、表皮のうちステッチラインの近くにシワが少ない又は無い見栄えのよい窪み部が形成される。
【0063】
(B)請求項1〜3及び上記(A)のいずれか1項に記載の表皮付き製品の製造方法において、前記積層材として、前記クッション層が1.5〜3.5mmの厚みを有するものが用いられる。
【0064】
上記の条件を満たす積層材が用いられて、ステッチライン形成工程及び貼付け工程が行なわれることで、積層材の一部に、基材側へ適度に窪む、見栄えのより窪み部が形成される。
【符号の説明】
【0065】
10…表皮付き製品、11…基材、12,12L,12R…積層材、13,13L,13R…表皮、14,14L,14R…クッション層、15,15L,15R…窪み部、17,17L,17R…ステッチライン、21…縫い目。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7