特許第5891229号(P5891229)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5891229
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】表皮材シート
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/00 20060101AFI20160308BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20160308BHJP
   C08F 279/00 20060101ALI20160308BHJP
   C08L 51/00 20060101ALI20160308BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
   C08J7/00 302
   C08J5/18CES
   C08F279/00
   C08L51/00
   C08L23/08
【請求項の数】5
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-526636(P2013-526636)
(86)(22)【出願日】2011年7月29日
(86)【国際出願番号】JP2011067510
(87)【国際公開番号】WO2013018171
(87)【国際公開日】20130207
【審査請求日】2014年5月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101199
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義教
(74)【代理人】
【識別番号】100109726
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 吉隆
(72)【発明者】
【氏名】荒井 亨
(72)【発明者】
【氏名】塚本 歩
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 勝
【審査官】 増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−074187(JP,A)
【文献】 特開2010−043232(JP,A)
【文献】 特開2002−265544(JP,A)
【文献】 特開平11−124420(JP,A)
【文献】 特開2009−299067(JP,A)
【文献】 特開2006−176708(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
C08F 251/00−283/00
283/02−289/00
291/00−297/08
C08J 7/00
C08L 23/08
C08L 51/00− 51/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)(i)シングルサイト配位重合触媒を用いて、オレフィンモノマー、芳香族ビニル化合物モノマーおよび芳香族ポリエンの共重合を行うことにより、芳香族ビニル化合物含量5モル%以上25モル%以下、芳香族ポリエン含量0.01モル%以上0.3モル%以下、残部がオレフィン含量であるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体を合成する配位重合工程、及び
その後の(ii)前記オレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体と芳香族ビニル化合物モノマーとを共存させ、アニオン重合開始剤またはラジカル重合開始剤を用いて重合させるクロス化工
を含んでなる重合工程により、配位重合工程で得られるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の質量割合が50〜99質量%であるクロス共重合体Aを製造する工程と、
(2)チレン含量が60〜90質量%であり、エチレン−オレフィンの共重合体及び/またはエチレン−不飽和カルボン酸またはそのエステルの共重合体であるエチレン系共重合体Bを80〜10質量部、及びクロス共重合体Aを20〜90質量部、の合計100質量部を含んでなる熱可塑性樹脂組成物をエネルギー線照射により架橋する工程と、
を含むことを特徴とする表皮材用シートの製造方法
【請求項2】
エネルギー線照射が電子線照射である請求項1記載の製造方法
【請求項3】
表皮材用シートのゲル分が25質量%以上、70質量%以下である請求項1または2記載の製造方法
【請求項4】
表皮材用シートの粘弾性スペクトル測定による貯蔵弾性率(E’)が3×10Paに低下する温度が、140℃以上である請求項1ないし3の何れか一項記載の製造方法
【請求項5】
表皮材用シートを120℃で120時間加熱処理した後の光沢度が加熱処理前の初期値と比較し+3%以下に保持される請求項1ないし4の何れか一項記載の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のクロス共重合体及びエチレン系共重合体を含んでなる熱可塑性樹脂組成物から形成される表皮材シートに関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車をはじめとする各種自動車、家具や屋内内装、さらにはロボット等、硬質な各種機械と人間の間に位置する表皮材には、種々のレベルの軟質性に加え各種の機能性が求められる。例えば、自動車の内装表皮材としては、耐熱性、耐候性、耐寒性、成形加工時の熱履歴も含めたシボ保持性、人間の接触に対する耐傷つき摩耗性、人間に同伴する化学物質に対する耐油性、耐薬品性が求められる。
【0003】
従来、この様な分野には可塑剤を添加した軟質塩ビからなる表皮材が用いられてきた。軟質塩ビは軟質性と耐油性、耐傷つき性に優れ、価格的に有利な材料であるが、焼却時の管理の問題、近年大量に含まれる可塑剤によるVOCや、一部の可塑剤ではあるが環境ホルモンとしての懸念、含まれる重金属安定剤の点からより環境性に優れる材料が求められている。そこで、TPO(オレフィン系熱可塑性エラストマー)やTPS(スチレン系熱可塑性エラストマー)からなる表皮材が注目され、耐熱性と軟質性、リサイクル性、環境性が特徴であり、広く用いられるようになってきた。これら材料は耐傷つき摩耗性が十分ではないという点で改善が望まれている。軟質成分として用いられる架橋エチレン−プロピレン系ゴム(TPO)や架橋または非架橋スチレン系水添ブロック共重合体(TPS)の耐油性が十分ではなく、上記過酷な環境下で膨潤、変形を起こす場合がある。PPの添加量を減らすなどして耐傷つき摩耗性を向上させた場合、耐熱性、特にシ−ト成形時の表面シボ保持性が低下しシボが消失してしまう可能性がある。また軟質成分及び/または硬質成分に対し架橋を行う場合、コストアップになり、また各種架橋材、助剤に由来する臭い等の点で改善が望まれている。
【0004】
この様な背景から、我々は新しい軟質樹脂であるスチレン−エチレン系クロス共重合体を提案している(特許文献1、2、3)。本樹脂は、可塑剤なしで軟質〜半硬質までの幅広い硬度調節が可能な点と優れた耐傷つき摩耗性、耐油性が特徴である。しかし、本樹脂自体では上記用途に対する耐熱性は不足しており、表皮材としての使用時や成形加工時のシボ保持性の点で更なる改善が望まれる。この様な背景から耐熱樹脂の配合による耐熱性向上が図られてきた。PPの添加ではTPOやTPSと同様、耐傷つき摩耗性が低下してしまう。そこでPPE(ポリフェニレンエーテル)樹脂の添加(特許文献4)やTPEE(ポリエステル系軟質樹脂)の添加(特許文献5)により耐熱性向上が計られている。
【0005】
一方、エチレン−スチレン共重合体の電子線架橋は公知であり、例えば、特許文献6〜8では、エチレン−スチレン共重合体の電子線架橋体について記載されている。また、特許文献9では本願と同様のクロス共重合体にアルキル置換スチレンを共重合することで電子線架橋性が向上することが記載されている。
以下の文献は、それぞれが参照により本明細書に援用される。
【特許文献1】再表00/037517号公報
【特許文献2】WO2007139116号公報
【特許文献3】特開2009−102515号公報
【特許文献4】WO2009−128444号公報
【特許文献5】特願2009−094556号公報
【特許文献6】特公平3−60123号公報
【特許文献7】特開平8−73668号公報
【特許文献8】WO99−10395号公報
【特許文献9】特開平2011−74187号公報
【発明の開示】
【0006】
しかし、PPE添加の場合、耐傷つき摩耗性、耐油性がさらに向上するが、より高いレベルの耐熱性のためその配合量を増やすと硬度が上昇し、フロ−が低下し用途によっては成形加工性が低下してしまう点で改善が望まれている。他方、TPEE添加の場合、より高いレベルの耐熱性のためその配合量を増やすと耐傷つき摩耗性が低下するといった点で改善が望まれている。そこで、クロス共重合体の優れた耐傷つき摩耗性、耐油性及びカレンダ−や押し出し成形加工性を生かしつつ、使用時や成形加工時に耐える十分な耐熱性、特にシボ保持性を付与する方法が求められてきた。しかしながら、クロス共重合体に対するアルキル置換スチレンの共重合にはアニオン重合時の副反応制御等、煩雑な工程が必要であり、必ずしも工業的に満足するものではなかった。
【0007】
なお、クロス共重合体の電子線架橋体、特にテ−プ基材や電線被覆材、発泡剤については特許文献1、2、3に記載がある。しかし、工業的に有利な低照射線量で、特に表皮材シ−トとして十分なシボ保持性を与える組成の材料については知られていなかった。また、表皮材シ−トはシボ等の加飾を施した後に、基材や必要に応じて発泡シ−トへの貼り付け工程が必要で、その際に加熱され、シボが消失または薄れ、または光沢が出てしまうといった点で改善が望まれていた。また、シボ保持性に関し、適切な電子線照射の条件については知られていなかった。
【0008】
本発明は、エネルギー線架橋特性に優れ、軟質性、力学物性、耐熱性、シボ保持性に優れる表皮用シ−トを提供することを目的になされたものである。
即ち、本発明によれば、熱可塑性樹脂組成物をエネルギ−線照射により架橋してなるシ−トが提供される。上記シートは、表皮材用シートとして好適に用いられる。また、上記シートを含む表皮材も提供される。
上記熱可塑性樹脂組成物は、樹脂成分として、クロス共重合体Aを20〜90質量部、エチレン系共重合体Bを80〜10質量部、合計100質量部を含んでなる。ここでクロス共重合体Aは配位重合工程と、その後のクロス化工程とを含んでなる重合工程を含む製造方法により得られる。他方、エチレン系共重合体Bは、エチレン−オレフィンの共重合体及び/またはエチレン−不飽和カルボン酸またはそのエステルの共重合体である。
【0009】
本発明のある態様では、配位重合工程とは、シングルサイト配位重合触媒を用いて、オレフィンモノマー、芳香族ビニル化合物モノマーおよび芳香族ポリエンの共重合を行うことにより、オレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体を合成する工程であり、クロス化工程とは、オレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体と芳香族ビニル化合物モノマーとを共存させ、アニオン重合開始剤またはラジカル重合開始剤を用いて重合させる工程である。
上記配位重合工程で得られるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の組成は、好ましくは、芳香族ビニル化合物含量5モル%以上30モル%以下、芳香族ポリエン含量0.01モル%以上0.3モル%以下、残部がオレフィン含量である。
上記クロス化工程で得られるクロス共重合体に対する配位重合工程で得られるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の質量割合は、好ましくは50〜99質量%である。
【0010】
上記熱可塑性樹脂組成物はエネルギー線架橋特性に優れる。上記熱可塑性樹脂組成物をエネルギー線照射により架橋したシ−トは、軟質性、力学物性、耐熱性、シボ保持性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔用語の説明〕
本明細書における「シングルサイト配位重合触媒」とは、遷移金属化合物と助触媒から構成される重合触媒である。これには、例えば、メタロセン触媒、ハーフメタロセン触媒、可溶性チーグラーナッタ触媒、あるいはFI(フェニキシイミン)触媒等が含まれる。
【0012】
本明細書における「置換」とは、本発明の効果を損なわない範囲で、それぞれの化合物について、一般的に用いられている置換基を意味し、これに限定されるものではないが、例えば、炭素数1〜3の炭化水素基による置換が含まれる。
【0013】
本明細書における「貯蔵弾性率(E’)」とは、動的粘弾性測定装置により、1Hz、昇温速度4℃/分で測定し得られる貯蔵弾性率である。
【0014】
また、本明細書における「を含む」には、「から主としてなる」、「から実質的になる」および「からなる」が含まれ、「から主としてなる」には「から実質的になる」および「からなる」が含まれ、「から実質的になる」には「からなる」が含まれるものとする。
【0015】
また、本明細書における「から主としてなる」には、これに限られるものではないが、言及している対象成分が全質量の70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更により好ましくは98質量%以上、あるいは99質量%以上もしくは100%含有されることが含まれる。
【0016】
本明細書におけるそれぞれの数値範囲については、「〜」、「から」で示された上限値及び下限値をそれぞれ含むものとする。例えば、「A〜B」、「AからB」なる記載は、A以上B以下であることを意味する。また、「A〜B」、「AからB」、「A以上B以下」との記載は、好ましい範囲として用いられている場合、独立して、「A以上が好ましい」ことと、「B以下が好ましい」ことの双方を含む。
【0017】
〔実施の形態〕
以下、本発明を実施するための形態を用いて、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
【0018】
本発明のある形態は、クロス共重合体Aを20〜90質量部及びエチレン系共重合体Bを80〜10質量部の合計100質量部を含んでなる熱可塑性樹脂組成物をエネルギ−線照射により架橋してなる表皮材用シ−トであって、
(1)クロス共重合体Aは、
(i)シングルサイト配位重合触媒を用いて、オレフィンモノマー、芳香族ビニル化合物モノマーおよび芳香族ポリエンの共重合を行うことにより、オレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体を合成する配位重合工程と、
その後の(ii)前記オレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体と芳香族ビニル化合物モノマーとを共存させ、アニオン重合開始剤またはラジカル重合開始剤を用いて重合させるクロス化工程と、
を含んでなる重合工程を含む製造方法により得られ;
(2)配位重合工程で得られるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の組成は、芳香族ビニル化合物含量5モル%以上30モル%以下、芳香族ポリエン含量0.01モル%以上0.3モル%以下、残部がオレフィン含量であり;
(3)クロス化工程で得られるクロス共重合体に対する配位重合工程で得られるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の質量割合は50〜99質量%であり;
(4)エチレン系共重合体Bは、エチレン−オレフィンの共重合体及び/またはエチレン−不飽和カルボン酸またはそのエステルの共重合体である
ことを特徴とする表皮材用シ−トである。
上記シートは、エネルギー線架橋特性、軟質性、力学物性、耐熱性、シボ保持性に優れる。また、耐傷つき摩耗性にも優れる。
【0019】
<クロス共重合体A>
上記形態に係るクロス共重合体Aは、主鎖であるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体に、クロス鎖である芳香族ビニル化合物モノマ−から構成されるポリマ−鎖が、主鎖芳香族ポリエンユニットを介し結合している構造(クロス共重合構造、またはSegregated star copolymer構造)を含むと考えられる。上記製造方法で得られ、上記組成の範囲内である限り、本発明の効果を損なわない範囲で本クロス共重合体Aの構造や含まれる割合は任意である。
本発明のクロス共重合体Aの200℃、荷重98Nで測定したMFR値は、特に限定されないが、一般的には0.01g/10分以上、300g/10分以下である。
【0020】
上記配位重合工程で用いられるオレフィンとしては、これに限定されるものではないが、例えば、エチレン並びに炭素数3〜20のα−オレフィンが挙げられ、これらを1種あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。炭素数3〜20のα−オレフィンには、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、ビニルシクロヘキサンなどの鎖状オレフィン、および、シクロペンテン、ノルボルネンなどの環状オレフィンが含まれる。上記配位重合工程では、好ましくは、エチレン、またはエチレンとα−オレフィン等の混合物が用いられ、更に好ましくは、エチレンが用いられる。
【0021】
上記配位重合工程で用いられる芳香族ビニル化合物モノマーとしては、これに限定される物ではないが、例えば、スチレンおよび置換スチレンが挙げられ、これらを1種あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。置換スチレンには、例えば、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−メチルスチレン、o−t−ブチルスチレン、m−t−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−クロロスチレン、o−クロロスチレン等が含まれる。上記配位重合工程では、工業的には好ましくは、スチレンが単独で用いられる。
【0022】
上記配位重合工程で用いられる芳香族ポリエンとしては、これに限定される物ではないが、例えば、10以上30以下の炭素数を持ち、複数の二重結合(ビニル基)と単数または複数の芳香族基を有し配位重合可能な芳香族ポリエンであって、二重結合(ビニル基)の1つが配位重合に用いられて重合した状態において、残された二重結合がアニオン重合またはラジカル重合可能な芳香族ポリエンが挙げられる。上記配位重合工程では、例えば、オルトジビニルベンゼン、パラジビニルベンゼン及びメタジビニルベンゼンのいずれか1種または2種以上の混合物を好適に用いることができる。
【0023】
上記配位重合工程で得られるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の組成が、芳香族ビニル化合物含量5モル%以上30モル%以下、芳香族ポリエン含量0.01モル%以上0.3モル%以下、かつ残部がオレフィン含量であることにより、高い軟質性(例えば、A硬度が95以下等)を有するクロス共重合体を得ることが出来る。芳香族ビニル化合物含量が5モル%より低いと、エチレン結晶性の為に軟質性が失われる可能性があり、30モル%より高いと、本オレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体のガラス転移温度が0℃より高くなってしまい、低温での軟質性が低下してしまう。上記のオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の組成は、公知の一般的制御方法により達成できるが、最も簡単にはモノマ−仕込み組成比を変更することにより達成できる。
【0024】
上記オレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の組成が、芳香族ビニル化合物含量5モル%以上の場合、オレフィン連鎖構造に由来する結晶構造、例えばエチレン連鎖やプロピレン連鎖に基づく結晶構造を減少させることができ、最終的に得られる本発明の樹脂組成物の軟質性を高め、さらに成型加工時に結晶化による収縮等を防ぎ、成型体の寸法安定性をより確実に保つことができる。芳香族ビニル化合物含量は10モル%以上であれば、より確実に効果を奏することができるため、さらに好ましい。本発明に係るクロス共重合体Aは、本オレフィン結晶性および他の結晶性も含めた総結晶融解熱としては、好ましくは100J/g以下であり、さらに好ましくは50J/g以下である。総結晶融解熱はDSCにより50℃〜ほぼ200℃の範囲に観測される融点に由来するピ−クの面積の総和から求めることが出来る。
【0025】
上記オレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の組成が、芳香族ビニル化合物含量30モル%以下の場合、優れたエネルギー線架橋特性を発揮する。芳香族ビニル化合物含量は25モル%以下が好ましく、より確実に効果を奏することができる。
【0026】
上記配位重合工程で得られるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の芳香族ポリエン含量は0.01モル%以上0.3モル%以下であり、好ましくは0.01モル%以上0.1モル%以下である。芳香族ポリエン含量が上記下限以上であれば、本発明のクロス共重合体Aとしての特性をより確実に奏することができ、芳香族ポリエン含量が上記上限以下であれば、成形加工性を良好に保つことができる。
【0027】
上記形態のクロス共重合体Aについて、上記配位重合工程で得られるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の重量割合は、クロス共重合体A重量の50質量%以上99質量%以下であることが好ましい。上記配位重合工程で得られるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の、クロス共重合体Aに対する質量割合(質量%)が50質量%以上であれば、軟質性が高まり、電子線架橋性も向上し、風合いにも優れる。この割合は、好ましくは90質量%以下であり、この場合、電子線架橋後の耐熱性を奏することができ、例えば、クリ−プ開始温度が150℃以上を示すことができる。上記割合は、さらに好ましくは、60質量%以上90質量%以下であり、この場合、特に軟質性に優れるクロス共重合体が得られ、軟質性に優れる(例えば、A硬度95以下等)樹脂組成物を得ることが出来る。さらに、上記割合は、配位重合終了時に重合液を一部サンプリングし分析して求めた主鎖ポリマ−生成質量と、アニオン重合後の重合液を一部サンプリングし分析して求めたクロス共重合体生成質量から求めることが可能である。または、上記割合は、主鎖オレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の組成と、得られたクロス共重合体Aの組成を比較することで求めることも可能である。
【0028】
上記配位重合工程で得られるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の重量平均分子量は、好ましくは100万以下3万以上であるが、本発明の樹脂組成物の成型加工性を考慮すると、さらに好ましくは3万以上30万以下である。上記配位重合工程で得られるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.5以上8以下、さらに好ましくは1.5以上6以下、最も好ましくは1.5以上4以下である。分子量分布がこの上限以下の場合、オレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体のポリエン部分の自己架橋を抑えることができ、成形加工性の悪化やゲル化を防ぐことができる。
【0029】
上記クロス化工程で用いられる芳香族ビニル化合物モノマーとしては、これに限定される物ではないが、例えば、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−クロロスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等が挙げられ、これらを1種あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。上記クロス化工程で用いられる芳香族ビニル化合物モノマーは、好ましくはスチレンである。配位重合工程で用いられる芳香族ビニル化合物モノマ−とクロス化工程で用いられる芳香族ビニル化合物モノマ−とは同一であることが好ましく、クロス化工程で用いられた芳香族ビニル化合物モノマ−の一部または全部が、配位重合工程における未反応芳香族ビニル化合物モノマ−であることがさらに好ましい。最も好ましくは配位重合工程で用いられる芳香族ビニル化合物モノマ−がスチレンであって、かつクロス化工程で用いられる芳香族ビニル化合物モノマ−がスチレンであり、その一部または全部が配位重合工程における未反応スチレンである。
【0030】
上記クロス化工程では、芳香族ビニル化合物モノマ−に加えて、アニオン重合もしくはラジカル重合可能なモノマ−を添加しても良い。その添加量は、用いる芳香族ビニル化合物モノマ−量に対して最大でも等モル量までであることが好ましい。
また、上記クロス化工程では、上記モノマ−以外に、配位重合工程で重合されずに重合液中に少量残存する芳香族ポリエンも重合されてよい。
【0031】
上記クロス共重合体Aのクロス鎖部分の長さ(分子量)は、クロス化されなかったホモポリマーの分子量から推定することができるが、その長さは、重量平均分子量として、好ましくは5000以上15万以下、さらに好ましくは5000以上10万以下、特に好ましくは5000以上7万以下である。また、その分子量分布(Mw/Mn)は好ましくは5以下、さらに好ましくは3以下、特に好ましくは2以下である。
【0032】
<エチレン系共重合体B>
上記形態に係るエチレン系共重合体Bとしては、エチレン−オレフィン共重合体、すなわちエチレンと単数または複数のオレフィンとの共重合体が好ましく用いられる。このようなオレフィンとしては、これに限られるものではないが、炭素数3〜20の脂肪族もしくは脂環族αオレフィン、または環状オレフィンが好適に用いられる。脂肪族αオレフィンには、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンが含まれ、脂環族αオレフィンには、例えばビニルシクロヘキサンが含まれ、環状オレフィンには、例えばノルボルネンが含まれる。本エチレン系共重合体の比重は、0.91以下0.84以上が好ましい。このような範囲を満たすエチレンとオレフィン共重合体中のエチレン含量は、概ね60〜90質量%の範囲である。本エチレン系共重合体の比重が0.91以下であれば、高いエネルギー線架橋特性が得られ、最終的に得られる表皮材用シートの軟質性や耐傷付き性を良好に保つことができる。本エチレン系共重合体の比重が0.84以上であれば、最終的に得られる樹脂組成物の力学物性を高く保つことができる。また、本エチレン系共重合体の200℃、98Nで測定したMFRは、特に限定されるものではないが、0.2〜30g/10分の範囲が好ましい。MFRが0.2g/10分以上ではより良好な成形加工性を保つことができ、30g/10分以下の場合には、エネルギー線架橋特性が高く、成形加工中のシボ流れ、シボの消失の可能性を更に低減できる。
【0033】
上記形態に係るエチレン系共重合体Bとして、エチレン−不飽和カルボン酸またはそのエステルの共重合体、すなわちエチレンと単数または複数の不飽和カルボン酸またはそのエステルとの共重合体も用いることができる。このような不飽和カルボン酸またはそのエステルの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸グリシジル等を例示することができる。エチレンと不飽和カルボン酸またはそのエステルとの共重合体中の好ましいエチレン含量は概ね60〜90質量%の範囲である。エチレン含量が90質量%以下であれば、最終的に得られる樹脂組成物シートの軟質性や耐傷付き性をより良好に保つことができる。また、エチレン含量が60質量%以上であれば、最終的に得られる樹脂組成物の力学物性をより良好に保つことができる。
【0034】
本発明では、エチレン系共重合体Bとして、エチレンとオレフィンの共重合体の単数または複数、またはエチレンと不飽和カルボン酸またはそのエステルの共重合体の単数または複数を用いるが、これらエチレンとオレフィンの共重合体とエチレンと不飽和カルボン酸またはそのエステルの共重合体を併用しても良い。
【0035】
以下に、本発明の製造方法について詳細に説明する。
<配位重合工程>
本発明に係るシングルサイト配位重合触媒としては、本発明の効果を損なわない限り、任意のシングルサイト配位触媒を用いることができるが、好ましくは、下記の一般式(1)または(2)で表される遷移金属化合物が用いられる。
【0036】
【化1】
上式中、A、Bは同一でも異なっていてもよく、非置換もしくは置換ベンゾインデニル基、非置換もしくは置換シクロペンタジエニル基、非置換もしくは置換インデニル基、または非置換もしくは置換フルオレニル基から選ばれる。好ましくは、A、Bは非置換もしくは置換ベンゾインデニル基、非置換もしくは置換インデニル基から選ばれる。
Yは、A、Bと結合を有し、他に置換基として水素もしくは炭素数1〜15の炭化水素基(1〜3個の窒素、酸素、硫黄、燐、珪素原子を含んでもよい)を有するメチレン基である。置換基は互いに異なっていても同一でもよい。また、Yは環状構造を有していてもよい。
Xは、水素、水酸基、ハロゲン、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜4の炭化水素置換基を有するシリル基、または炭素数1〜20の炭化水素置換基を有するアミド基である。Xが複数の場合、X同士は結合を有しても良い。
Mはジルコニウム、ハフニウム、またはチタンである。
nは、1または2の整数である。
【0037】
上記遷移金属化合物の好適な例としては、それぞれが参照によりここに援用されるEP−0872492A2公報、特開平11−130808号公報、特開平9−309925号公報に具体的に例示した置換メチレン架橋構造を有する遷移金属化合物や、参照によりここに援用されるWO01/068719号公報に具体的に例示した硼素架橋構造を有する遷移金属化合物が挙げられる。
【0038】
【化2】
上式中、Cpは非置換もしくは置換シクロペンタフェナンスリル基、非置換もしくは置換ベンゾインデニル基、非置換もしくは置換シクロペンタジエニル基、非置換もしくは置換インデニル基、または非置換もしくは置換フルオレニル基から選ばれる。
Y’は、Cp、Zと結合を有し、他に置換基として水素もしくは炭素数1〜15の炭化水素基(1〜3個の窒素、酸素、硫黄、燐、珪素原子を含んでもよい)を有するメチレン基、シリレン基、エチレン基、ゲルミレン基、もしくは硼素残基である。置換基は互いに異なっていても同一でもよい。また、Y’は環状構造を有していてもよい。
Zは窒素、酸素またはイオウを含み、窒素、酸素またはイオウでM’に配位する配位子であって、Y’と結合を有し、他に置換基として水素もしくは炭素数1〜15の炭化水素基(1〜3個の窒素、酸素、硫黄、燐、珪素原子を含んでもよい)を有する。
X’は、水素、ハロゲン、炭素数1〜15のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数8〜12のアルキルアリール基、炭素数1〜4の炭化水素置換基を有するシリル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、または炭素数1〜6のアルキル置換基を有するジアルキルアミド基である。
M’はジルコニウム、ハフニウム、またはチタンである。
nは、1または2の整数である。
【0039】
本配位重合工程においては、さらに好ましくは、シングルサイト配位重合触媒と助触媒から構成される重合触媒、特に好ましくは、上記の一般式(1)で表されるシングルサイト配位重合触媒と助触媒から構成される重合触媒が用いられる。
【0040】
本配位重合工程で用いる助触媒としては、本発明の目的を損なわない範囲で、従来遷移金属化合物と組み合わせて用いられている公知の助触媒を使用することができるが、そのような助触媒の例として、これに限定されるものではないが、メチルアルミノキサン(またはメチルアルモキサンまたはMAOと記す)等のアルモキサンまたは硼素化合物が好適に用いられる。用いられる助触媒の更なる例としては、それぞれが参照によりここに援用されるEP−0872492A2号公報、特開平11−130808号公報、特開平9−309925号公報、WO00/20426号公報、EP0985689A2号公報、特開平6−184179号公報に記載されている助触媒やアルキルアルミニウム化合物が挙げられる。なお、遷移金属化合物と助触媒は、重合設備外で混合、調製しても、重合時に設備内で混合してもよい。
【0041】
助触媒としてアルモキサン等を用いる場合は、遷移金属化合物の金属に対し、アルミニウム原子/遷移金属原子比で0.1〜100000、好ましくは10〜10000の比で用いられる。この比が0.1より大きければ、より有効に遷移金属化合物を活性化でき、100000以下であれば経済的にも有利となる。
助触媒として硼素化合物を用いる場合には、硼素原子/遷移金属原子比で0.01〜100の比で用いられるが、好ましくは0.1〜10、特に好ましくは1で用いられる。この比が0.01より大きければ、より有効に遷移金属化合物を活性化でき、100以下であれば経済的にも有利となる。
【0042】
本配位重合工程でオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体を製造するにあたっては、上記の各種モノマーおよび触媒を接触させるが、接触の順番、接触方法等は任意の公知の方法を用いることができる。
共重合の方法としては、溶媒を用いずに液状モノマー中で重合させる方法、あるいはペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、クロロ置換ベンゼン、クロロ置換トルエン、塩化メチレン、クロロホルム等の飽和脂肪族または芳香族炭化水素またはハロゲン化炭化水素の単独または混合溶媒を用いる方法等を用いることができる。好ましくは混合アルカン系溶媒やシクロヘキサンやトルエン、エチルベンゼンが溶媒として用いられる。重合形態は、溶液重合またはスラリ−重合の何れでもよい。また、必要に応じ、バッチ重合、連続重合、予備重合、多段式重合等の公知の方法を用いることができる。
単数や連結された複数のタンク式重合缶やリニアやル−プの単数、連結された複数のパイプ重合設備を用いることも可能である。パイプ状の重合缶は、動的、あるいは静的な混合機や除熱を兼ねた静的混合機等の公知の各種混合機、除熱用の細管を備えた冷却器等の公知の各種冷却器を有してもよい。また、バッチタイプの予備重合缶を有していてもよい。さらには気相重合等の方法も用いることができる。
【0043】
重合温度は、−78℃から200℃が好ましい。重合温度が−78℃以上であれば、工業的に有利となり、200℃以下であれば遷移金属化合物の分解を抑えることができる。重合温度は、さらに工業的に好ましくは、0℃〜160℃、特に好ましくは30℃〜160℃である。
重合時の圧力は、0.1気圧〜100気圧が好ましく、さらに好ましくは1〜30気圧、特に工業的に特に好ましくは、1〜10気圧である。
【0044】
本製造方法で用いられるシングルサイト配位重合触媒の遷移金属化合物が一般式(1)で示される構造を有し、かつA、Bが非置換もしくは置換ベンゾインデニル基、非置換もしくは置換インデニル基から選ばれる基であり、YがA、Bと結合を有し、他に置換基として水素もしくは炭素数1〜15の炭化水素基(1〜3個の窒素、酸素、硫黄、燐、珪素原子を含んでもよい)を有するメチレン基または硼素基であり、かつ本遷移金属化合物がラセミ体である場合、本製造方法で得られるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体は、オレフィン−芳香族ビニル化合物の交互構造、好ましくはエチレン−芳香族ビニル化合物交互構造にアイソタクティックの立体規則性を有し、そのため本発明のクロス共重合体は本交互構造に由来する微結晶性を有することが出来る。この場合、本オレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体は、立体規則性がない場合と比較し交互構造の微結晶性に基づく良好な力学物性や耐油性を有することになり、この特徴は最終的に本発明のクロス共重合体にも受け継がれ得る。
【0045】
オレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体の交互構造の微結晶性による結晶融点は一般に50℃〜120℃の範囲にあり、DSCによるその結晶融解熱は一般に1〜30J/g以下であるので、本発明のクロス共重合体Aは総体として、好ましくは50J/g以下、さらに好ましくは30J/g以下の結晶融解熱を有することができる。本範囲の結晶融解熱の結晶性は、本クロス共重合体Aの軟質性、成型加工性に悪影響は与えず、むしろ優れた力学物性の面で有益である。
【0046】
<クロス化工程>
本発明の製造方法のクロス化工程では、配位重合工程で得られたオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体と芳香族ビニル化合物モノマーとを共存させ、アニオン重合開始剤またはラジカル重合開始剤を用いてアニオン重合またはラジカル重合を行う。
【0047】
上記クロス化工程で、アニオン重合が採用される場合には、公知のアニオン重合開始剤を用いることができる。好ましくは、アルキルリチウム化合物やビフェニル、ナフタレン、ピレン等のリチウム塩あるいはナトリウム塩、特に好ましくは、sec−ブチルリチウム、n(ノルマル)−ブチルリチウムが用いられる。また、多官能性開始剤、ジリチウム化合物、トリリチウム化合物を用いても良い。さらに必要に応じて公知のアニオン重合末端カップリング剤を用いてもよい。
溶媒は、これに限られるものではないが、連鎖移動等の不都合を生じない混合アルカン系溶媒やシクロヘキサンやベンゼン等の溶媒が特に好ましいが、重合温度が150℃以下であれば、トルエン、エチルベンゼン等の他の溶媒も好適に用いることができる。
【0048】
上記クロス化工程でラジカル重合が採用される場合には、芳香族ビニル化合物の重合や共重合に使用できる公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。そのような例として過酸化物系(パ−オキサイド)、アゾ系重合開始剤等を、必要に応じて当業者は自由に選択することが出来る。そのような例は、それぞれが参照によりここに援用される日本油脂カタログ有機過酸化物organic peroxides第10版(http://www.nof.co.jp/business/chemical/pdf/product01/Catalog_all.pdfからダウンロ−ド可能)、和光純薬カタログ等に記載されており、これらの会社より入手することが出来る。
重合開始剤の使用量に特に制限はないが、モノマ−100質量部に対し、0.001〜5質量部が好適に用いられる。過酸化物系(パ−オキサイド)、アゾ系重合開始剤等の開始剤、硬化剤を用いる場合には、その半減期を考慮し、適切な温度、時間で硬化処理を行う。この場合の条件は、開始剤、硬化剤に合わせて任意であるが、一般的には50℃から150℃程度の温度範囲が好ましい。さらに、本ラジカル重合工程では、クロス鎖の分子量制御を主な目的として、公知の連鎖移動剤も用いることができる。そのような連鎖移動剤の例としては、これに限定される物ではないが、t−ドデシルメルカプタン等のメルカプタン誘導体、α−スチレンダイマー等が挙げられる。
溶媒は、アルカン系溶媒やシクロヘキサンやベンゼン等の溶媒が特に好ましいが、トルエン、エチルベンゼン等の他の溶媒も用いることが可能である。
【0049】
本発明のクロス化工程では、芳香族ビニル化合物モノマ−の重合転換率が高いほど好ましい力学物性や光学物性のクロス共重合体が得られる。そのため、比較的短い時間で容易に芳香族ビニル化合物モノマ−の高重合転換率が達成可能なアニオン重合が好ましく採用される。
【0050】
本発明のクロス化工程は、上記配位重合工程の後に実施される。この際、配位重合工程で得られた共重合体を、クラムフォーミング法、スチームストリッピング法、脱揮槽、脱揮押出し機等を用いた直接脱溶媒法等、任意のポリマー回収法を用いて、重合液から分離、精製してクロス化工程に用いても良い。しかし、配位重合後の重合液から、残留オレフィンを放圧後、あるいは放圧せずに、次のクロス化工程に用いるのが、経済的に好ましい。重合体を重合液から分離せずに、重合体を含んだ重合溶液をクロス化工程に用いることができることも、本発明の特徴の1つである。
【0051】
重合の方法や形態等は、ラジカルまたはアニオン重合に用いられる任意の公知のものを用いることができる。重合温度は、−78℃から200℃が好適に用いられる。重合温度が、−78℃以上であれば工業的に有利であり、200℃以下であれば連鎖移動等を抑えることができる。重合温度は、特に好ましくは30℃〜150℃である。
重合時の圧力は、0.1気圧〜100気圧が好ましく、さらに好ましくは1〜30気圧、特に工業的に特に好ましくは、1〜10気圧である。
【0052】
<添加剤等>
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、上記クロス共重合体A及びエチレン系共重合体Bの他に、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、通常の樹脂に用いられる添加剤、例えば、可塑剤、無機質充填材(フィラ−)、難燃材、耐候剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、耐光剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、充填剤、着色剤、滑剤、防曇剤、発泡剤、難燃助剤等を添加しても良い。これらの一部については下記に例示する。本発明の熱可塑性樹脂組成物に用いられるクロス共重合体は、一般にこれらの添加剤に対し比較的良好な親和性や相溶性を示すため、得られる熱可塑性樹脂組成物のエネルギー線架橋体は比較的軟質であり、耐傷つき摩耗性、耐熱性に優れる特徴がある。
この場合、それぞれの添加剤の配合量は、下記に記載がある場合はその範囲で、特に記載がない場合は、熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して、0〜5質量部の範囲で用いられることが好ましい。
【0053】
<可塑剤>
本発明の熱可塑性樹脂組成物には従来塩ビや他の樹脂に用いられる公知の任意の可塑剤を配合することが出来る。好適に用いられる可塑剤は、例えば炭化水素系可塑剤、または含酸素または含窒素系可塑剤である。炭化水素系可塑剤(オイル)の例としては、脂肪族炭化水素系可塑剤、芳香族炭化水素系可塑剤やナフテン系可塑剤が例示でき、含酸素または含窒素系可塑剤としてはエステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤、エ−テル系可塑剤、またはアミド系可塑剤が例示できる。
これらの可塑剤は、本発明の熱可塑性樹脂組成物の硬度、あるいは流動性(成形加工性)の調整に用いることができる。また、これらの可塑剤には、ガラス転移温度を低下させ、脆化温度を下げる効果がある。
【0054】
本発明に好適に用いることができるエステル系可塑剤の例としては、これに限定されるものではないが、フタル酸エステル、トリメリット酸エステル、アジピン酸エステル、セバチン酸エステル、アゼレ−ト系エステル、クエン酸エステル、アセチルクエン酸エステル、グルタミン酸エステル、コハク酸エステル、酢酸エステル等のモノ脂肪酸エステル、リン酸エステルやこれらのポリエステルが上げられる。
本発明に好適に用いることができるエポキシ系可塑剤の例としては、これに限定されるものではないが、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油が挙げられる。
本発明に好適に用いることができるエ−テル系可塑剤の例としては、これに限定されるものではないが、ポリエチレングリコ−ル、ポリプロピレングリコ−ル、これらの共重合物、混合物が挙げられる。
本発明に好適に用いることができるアミド系可塑剤の例としては、これに限定されるものではないが、スルホン酸アミドが挙げられる。
これらの可塑剤は、単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
本発明に特に好ましく用いられるのはエステル系可塑剤である。エステル系可塑剤には、クロス共重合体との相溶性に優れ、可塑化効果に優れ(ガラス転移温度低下度が高い)、ブリ−ドが少ないという利点がある。一般的には可塑剤の配合量は、本発明の熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して、可塑剤1質量部以上25質量部以下、好ましくは1質量部以上15質量部以下である。1質量部以上配合されていれば、可塑剤としての効果をより確実に期待することができ、25質量部以下であれば、ブリ−ドや、過度の軟化、それによる過度のべたつき等を抑制することができる。
【0056】
<無機質充填剤(フィラ−)>
以下、本発明に用いることができる無機質充填剤について示す。
無機質充填剤は、本発明の熱可塑性樹脂組成物に難燃性を付与するためにも用いられる。無機質充填剤の体積平均粒子径は、好ましくは50μm以下、好ましくは10μm以下の範囲であり、また好ましくは0.5μm以上の範囲である。体積平均粒子径が、0.5μm以上50μm以下であれば、フィルム化したときの力学物性(引張強度、破断伸度等)の低下や、柔軟性の低下やピンホールの発生を抑制することができる。体積平均粒子径は、レーザ回析法で測定した体積平均粒子径である。
【0057】
無機質充填剤としては、これに限定されるものではないが、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、トリフェニルホスフィート、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸アミド、酸化ジリコニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化モリブデン、リン酸グアニジン、ハイドロタルサイト、スネークタイト、硼酸亜鉛、無水硼酸亜鉛、メタ硼酸亜鉛、メタ硼酸バリウム、酸化アンチモン、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、赤燐、タルク、アルミナ、シリカ、ベーマイト、ベントナイト、珪酸ソーダ、珪酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムが挙げられ、これらから選ばれる1種又は2種以上の化合物を使用することができる。特に、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、炭酸マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いるのが難燃性の付与効果に優れ、経済的に有利である。
無機質充填剤の配合量は、本発明の熱可塑性樹脂組成物100質量部に対し1〜1000質量部が好ましく、さらに好ましくは5〜200質量部の範囲である。無機質充填剤が1質量部以上であれば、難燃性付与の点で効果を発揮する。一方で、無機質充填剤が1000質量部以下であれば、熱可塑性樹脂組成物の成形性及び強度等の機械的物性を保つことができる。無機質充填剤を非ハロゲン系難燃剤として配合した場合は、チャー(炭化層)の形成を図り、フィルム等の難燃性を向上させることもできる。
【0058】
<難燃剤>
以下、本発明に用いることができる難燃剤について示す。有機難燃剤としては、これに限定されるものではないが、例えば、ペンタブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、ヘキサブロモシクロドデカンなどの臭素化合物、トリフェニルホスフェートなどの芳香族のリン酸エステル、赤リン、ハロゲンを含むリン酸エステル等のリン化合物、1,3,5−トリアジン誘導体等の含窒素化合物、塩素化パラフィン、臭素化パラフィン等のハロゲン含有化合物が例示できる。
無機難燃剤としては、上記無機質充填材でもあるアンチモン化合物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物が例示できる。
これらの難燃剤は、用途に応じ、適切な添加量で用いることが出来る。これらは公知の適当な難燃助剤と共に用いても良い。難燃剤の例は例えば、特開平11−199724、特表2002−533478号公報等(それぞれが参照によりここに援用される)にも記載されている。
【0059】
<耐光剤>
本発明に用いられる耐光剤は、公知の耐光剤である。一般的には耐光剤は、光エネルギーを無害な熱エネルギーに変換する紫外線吸収剤と光酸化で生成するラジカルを捕捉するヒンダードアミン系光安定剤とから構成される。紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤の質量比は0:100〜100:1の範囲が好ましく、紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤の質量の合計量を耐光剤質量とし、その使用量は、一般的には本発明の熱可塑性樹脂組成物100質量部に対し、0.05〜5質量部の範囲であることが好ましい。
【0060】
<その他の樹脂>
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、上記の他に必要に応じてPPE(ポリフェニレンエーテル)系樹脂を上述した成分からなる熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して、0〜30質量部の範囲で添加することができる。この範囲で添加することで熱可塑性樹脂組成物の軟質性が損なわれるのを抑えつつ転嫁することが出来る。PPE系樹脂を添加することで、硬度調整を行うことが可能で、また耐傷つき摩耗性を更に向上させることができる。用いられるPPE系樹脂については、参照によりここに援用されるWO2009−128444号公報に記載されている。
【0061】
<混合方法>
本発明のクロス共重合体、エチレン系共重合体、及び添加剤を混合する方法は特に限定されず、公知の適当なブレンド法を用いることができる。例えば、単軸、二軸のスクリュー押出機、バンバリー型ミキサー、プラストミル、コニーダー、加熱ロールなどで溶融混合を行うことができる。溶融混合を行う前に、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、スーパーミキサー、タンブラーなどで各原料を均一に混合しておくこともよい。溶融混合温度はとくに制限はないが、150〜300℃が好ましく、さらに好ましくは200〜250℃である。
【0062】
<エネルギ−線架橋>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、各種エネルギ−線を用いて架橋することが出来る。配位重合工程で得られるオレフィン−芳香族ビニル化合物−芳香族ポリエン共重合体において芳香族ビニル化合物含量を30モル%以下、特に25モル%以下でエネルギー線架橋性が向上し、低線量においても十分な架橋度(ゲル分、耐熱性)が得られる特徴がある。本特徴は、工業的に見た場合、架橋シートの生産性が高いことを意味し極めて有用である。エネルギ−線を用いての架橋は、成形後に架橋できる点がメリットであり、例えばシボ付きシ−ト成形後に、シボを保持したまま架橋させることができるため、自動車内装用シ−トや高級レザ−シ−ト、各種加飾シートの作成に適している。ここで用いられるエネルギー線としては、粒子線、電磁波、およびこれらの組み合わせが挙げられる。粒子線としては電子線(EB)、α線、電磁波としては紫外線(UV)、可視光線、赤外線、γ線、X線などが挙げられる。これらの中でも、電子線(EB)がその経済性において工業的に好ましい。
【0063】
これらのエネルギー線は、公知の装置を用いて照射することができる。電子線(EB)の場合の加速電圧としては一般的に0.1〜10MeV、照射線量としては10〜500kGyの範囲が好適に用いられる。本加速電圧は、シ−トの厚さにより適切に制御する。表面から1回の照射でシ−ト全体を架橋しようとする場合、シ−ト裏面まで十分に電子線が透過し架橋が進行する必要があり、シ−ト厚さ0.25mmでは概ね加速電圧250kV以上、シ−ト厚さ0.5mmでは概ね500kV以上、シ−ト厚さ1.0mmでは概ね1000kV以上の加速電圧が好適に用いられる。シ−ト両面から電子線を照射してもよい。例えばシート厚さ0.5mmでは加速電圧250kV以上で両面から照射することで、より確実にシート中心部まで架橋させることが可能となる。特に下記に示す光重合開始剤や架橋助剤を用いずに架橋を行うことが、コストや残留するこれら薬剤に対する配慮が必要ない点では好ましい。その際に、本発明のクロス共重合体を用いることで、低照射線量で架橋を行うことが可能となり生産性が向上する。具体的には、表面から1回の照射でシ−ト裏面を含む全体を架橋しようとする場合、上記の加速電圧を満たした条件で、好ましくは40kGy以上、200kGy以下、より好ましくは50kGy以上、150kGy以下、特に好ましくは50kGy以上、100kGy以下程度の低照射線量で架橋を行うことができる。この上限以下の照射線量で架橋を行う場合、過度な架橋の可能性を低く抑え、成形加工時や使用時の伸びを十分に保つことができ、また基材や他のシートへの接着性が低下してしまう可能性も抑えることができる。
【0064】
エネルギー線として紫外線(UV)を用いる場合、その線源として放射波長が200nm〜450nmのランプを好適に用いることができる。また、本発明のクロス共重合体及びその熱可塑性樹脂組成物には必要に応じて、特にエネルギー線として紫外線(UV)を用いる場合には、光重合開始剤をさらに配合することができる。使用できる光重合開始剤としては、例えばベンゾフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、α−メチロールベンゾイン、α−メチロールベンゾインメチルエーテル、α−メトキシベンゾインメチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル、α−t−ブチルベンゾインなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの光重合開始剤は単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。光重合開始剤を配合する場合、共重合体もしくは樹脂成分の合計質量に対して0.01〜5質量%の範囲であるのが好ましい。
【0065】
本発明のクロス共重合体及びその熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて架橋助剤をさらに配合することができる。使用できる架橋助剤には、これに限定されるものではないが、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、N,N’−フェニレンビスマレイミド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの架橋助剤は1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。架橋助剤を配合する場合、その含有量に特に制限はないが、通常、合計質量に対して0.01〜5質量%の範囲であるのが好ましい。
【0066】
上記光重合開始剤、または架橋助剤を配合することにより、上記の加速電圧下、より低い照射線量で架橋させることが可能である。この場合、例えば、10kGy以上100kGy以下の照射線量で十分な架橋を行うことができ、工業的に好ましい。
【0067】
本発明の樹脂組成物のエネルギー線架橋物は、熱可塑性樹脂組成物が本来有する軟質性を維持しつつ、改善された耐熱性を有することが出来る。例えば、エネルギー線架橋物は架橋前と比較し、より高いゲル分を有し、好ましくは25質量%以上、特に好ましくは30質量%以上、70質量%以下のゲル分を有する。この下限以上のゲル分ではより効果的に耐熱性を奏することができ、上限以下のゲル分は、架橋体の伸びの低下を抑え、加工性を保つことができる。また、上限以下のゲル分は、好適なリサイクル適性も保ち、例えばリサイクル材に一定量添加したのちにも肌荒れ等の可能性を抑えることができる。
また、エネルギー線架橋物では、1Hz、昇温速度4℃/分で測定した粘弾性スペクトル測定において貯蔵弾性率(E’)が3×10Paに低下する温度が140℃以上を示すことができる。本明細書で規定するクリ−プ開始温度は150℃以上を示すことができる。上記耐熱性の指標を満たす場合、特にエネルギー線照射後の加熱成形加工時においてシートのたれ、変形が起こる可能性を低く抑えることができる。また、上記耐熱性の指標を満たす場合、照射前に付与されたシボが照射後の熱成形加工時や製品としての長期使用中に消失してしまう恐れを低く抑えることができる。
本発明の樹脂組成物のエネルギー線架橋物は、表皮材としての軟質性と良好な力学物性を有し、例えば、23℃の引張試験における初期弾性率は1〜50MPa、破断点伸びは200〜1500%、破断点強度は10〜50MPaの範囲を示すことができる。
【0068】
本発明の樹脂組成物のエネルギー線架橋物(シ−ト)は、以下の測定法によるシボ保持性も優れた値を示すことが出来る。
シボ保持性については、エネルギー線架橋物(シ−ト)の光沢をJIS K7105に従い、角度60°受光角60°で測定し評価したとき、本発明のエネルギー線架橋物(シ−ト)は、120℃120時間加熱処理した後でもその光沢は、例えば、初期値+5%以下、好ましくは初期値+3%以下に保持されるという特徴を有する。
【0069】
<表皮材用シ−ト>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、基本的に公知の方法によりシートに成形加工されたのちにエネルギー線(電子線)により架橋処理が行われ表皮材用シートとなる。本表皮材用シートの厚みに特に制限はないが、3μm〜3mmが好ましく、さらに好ましくは10μm〜1mmである。
本熱可塑性樹脂組成物で構成される表皮材用シートを製造するには、インフレーション成形、Tダイ成形、カレンダ−成形、ロ−ル成形などの成形法を採用することができる。本発明の表皮材用シートは、物性の改善を目的として、他の適当な表皮材用シート、例えば、アイソタクティックまたはシンジオタクティックのポリプロピレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン(LDPE、またはLLDPE)、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等の表皮材用シートと多層化することができ、多層化したものもまた本発明のシート並びに表皮材用シートに含まれる。
【0070】
必要に応じて各種保護層を上記合成皮革やシボ加飾表面に形成しても良い。特にウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、あるいはエポキシ系樹脂の表面コート材層を塗布またはラミネーションにより形成することは、対スクラッチ性等外観性のさらなる向上や耐久性付与のために好ましい。好ましくは2液硬化型ウレタンコート剤等の熱硬化性樹脂や電子線硬化型硬化性樹脂等の電離放射線硬化性樹脂が用いられる。耐スクラッチ性或いはその他表面物性等の要求物性を容易に向上させ得る事ができる点で好ましい。また、電離放射線硬化性樹脂は硬化速度も熱硬化性樹脂に比べて速く生産性も良い。電子線硬化型のコート層は、その下部の本発明のシート基材をも同時に照射架橋できる点で好ましい。
【0071】
本発明のシート並びに表皮材用シートは必要に応じて、コロナ、オゾン、プラズマ等の表面処理、防曇剤塗布、滑剤塗布、印刷等を実施することができる。本発明の表皮材用シートは、必要に応じて1軸または2軸等の延伸配向を行った延伸表皮材用シートとして作製することが出来る。本発明のシート並びに表皮材用シートは必要に応じて、熱、超音波、高周波等の手法による融着、溶剤等による接着等の手法によりシート同士、あるいは他の熱可塑性樹脂等の材料と接合することができる。
本発明のシートの具体的用途は、特に限定されないが、その優れた軟質性、力学物性、耐熱性から、様々な表皮材として有用である。例えば合成皮革、特に自動車内装用の合成皮革や建材、家電製品の加飾表皮材に好適に用いることができる。最終的に得られる本表皮材シートの硬度は特に限定されないが、A硬度で60〜95程度の範囲内が好ましい。自動車用内装材としては、例えばインパネ、ドアトリム、シ−トの表皮、天井材、床材の表皮、ハンドル、ブレーキ、レバー、グリップ等の表皮が例示できる。また、フロアーマット材としても好適に使用できる。これらの用途の場合、ポリオレフィン系またはポリウレタン系の発泡シートと共に多層化して用いてもよく、それ自体を発泡させて用いることも出来る。
【0072】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により、本発明を説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。なお、実施例で言及されている市販試薬は、特に示さない限りは製造者の使用説明もしくは定法に従い使用した。
【0074】
実施例で得られた共重合体の分析は以下の手段によって実施した。
13C−NMRスペクトルは、日本電子社製α−500を使用し、重クロロホルム溶媒または重1,1,2,2−テトラクロロエタン溶媒を用い、TMSを基準として測定した。ここでいうTMSを基準とした測定は以下のような測定である。先ずTMSを基準として重1,1,2,2−テトラクロロエタンの3重線13C−NMRピークの中心ピークのシフト値を決めた。次いで共重合体を重1,1,2,2−テトラクロロエタンに溶解して13C−NMRを測定し、各ピークシフト値を、重1,1,2,2−テトラクロロエタンの3重線中心ピークを基準として算出した。重1,1,2,2−テトラクロロエタンの3重線中心ピークのシフト値は73.89ppmであった。測定は、これら溶媒に対し、ポリマーを3質量/体積%溶解して行った。
ピーク面積の定量を行う13C−NMRスペクトル測定は、NOEを消去させたプロトンゲートデカップリング法により、パルス幅は45°パルスを用い、繰り返し時間5秒を標準として行った。
【0075】
共重合体中のスチレン含量の決定は、1H−NMRで行い、機器は日本電子社製α−500及びBRUCKER社製AC−250を用いた。重1,1,2,2−テトラクロロエタンに溶解し、測定は、80〜100℃で行った。TMSを基準としてフェニル基プロトン由来のピーク(6.5〜7.5ppm)とアルキル基由来のプロトンピーク(0.8〜3ppm)の面積強度比較で行った。
【0076】
分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を求めた。測定は以下の条件で行った。
カラム:TSK−GEL MultiporeHXL-M φ7.8×300mm(東ソ−社製)を2本直列に繋いで用いた。
カラム温度:40℃
溶媒:THF
送液流量:1.0ml/min.
【0077】
DSC測定は、セイコー電子社製DSC200を用い、窒素気流下で行った。すなわち樹脂組成物10mgを用い、昇温速度10℃/分で−50℃から240℃までDSC測定を行い、融点、結晶融解熱及びガラス転移点を求めた。1回目の測定後液体窒素で急冷した後に行う2度目の測定は行わなかった。
【0078】
<サンプルシ−ト作成>
電子線照射用の試料は加熱プレス法(温度250℃、時間5分間、圧力50kg/cm)により成形した厚さ0.25mmのシ−トを用いた。引っ張り試験等、各種試験、粘弾性スペクトル測定用のサンプルは、同条件で得た厚さ0.25mmのシ−トから切り出すことで得た。
【0079】
<電子線架橋>
岩崎電気EB装置TYPE:CB250/15/180Lを用い、加速電圧250kVで所定の照射線量(kGy)の照射を1回実施した。
【0080】
<ゲル分>
シ−トを1mm幅長さ3mmに細断し、25℃のトルエン中24時間浸漬し、さらに70℃1h加温処理した後に不溶分を100メッシュ金属網フィルタ−で濾別し、その乾燥重量から、トルエン不溶ゲル分を、質量%として算出した。
【0081】
<引張試験>
JIS K−6251に準拠し、シートを2号1/2号型テストピース形状にカットし、島津製作所AGS−100D型引張試験機を用い、引張速度500mm/minにて測定した。
【0082】
<粘弾性スペクトル>
上記加熱プレス法により得た厚み約0.25mmの表皮材用シートから測定用サンプル(3mm×40mm)を切り出し、動的粘弾性測定装置(レオメトリックス社RSA−III)を使用し、周波数1Hz、温度領域−50℃〜+250℃の範囲で測定した。
サンプルの残留伸び(δL)測定に関わるその他測定パラメ−タ−は以下の通りである。
測定周波数1Hz
昇温速度4℃/分
サンプル測定長10mm
Initial Static Force 5.0g
Auto Tension Sensitivity 1.0g
Max Auto Tension Rate 0.033mm/s
Max Applied Strain 1.5%
Min Allowed Force 1.0g
【0083】
<クリ−プ開始温度>
JIS2号小型1/2ダンベルを所定のオ−ブン内に吊し、100℃から170℃までの範囲で5℃毎、所定の温度で1時間加熱処理し、処理前とダンベル縦方向、幅方向で長さを測定し、以下の式により伸び/収縮変形率を求めた。本伸び/収縮変形率が縦方向±2%以内に収まる最高温度を耐熱変形温度(クリ−プ開始温度)とした。
伸び変形率=100×(試験後の長さ−試験前の長さ)/試験前の長さ
収縮変形率=100×(試験前の長さ−試験後の長さ)/試験前の長さ
<シボ保持性試験>
シボ型を用い上記加熱プレス法により厚さ約0.25mmのシボ付きシ−トを作成した。ただし、本試験に用いた各樹脂にはブラックのマスターバッチ(ポリエチレンベース)1質量部を添加し、黒に着色した。所定の条件下、電子線を照射し、あるいは照射せずに、光沢度をJIS 7105に従い、入射角60°受光角60°で測定した。シートサンプルを120℃のオ−ブンに入れ大気中120時間加熱処理した後に、同様に光沢度を測定した。結果を表4に示す。
光沢は、加熱処理前の初期値に対し+5%より大きい場合は×、初期値+5%以下+3%より大きい場合は○、初期値+3%以下は◎とした。加熱処理前の初期値は、今回の実施例、比較例の樹脂、樹脂組成物に依らず1%程度であった。
<耐摩耗試験>
厚さ0.25mmのシ−トを用い、学振型摩擦堅牢度試験機(テスタ−産業株式会社製)により6号帆布、加重0.5kgの条件で3000回往復摩耗を行い、評価を行った。途中、摩耗によりシ−トが貫通した場合は、そこまでの往復摩耗回数を記録した。
摩耗質量(mg)=摩耗試験前の質量(mg)−摩耗試験後の質量(mg)
目視/触感評価
○ 触感で多少凸凹が感じられ表面の傷が見える
× 表面の削れまたは摩耗面の凹みが明らかで、表面が荒れている。または、往復3000回未満でシ−トが貫通した場合。
<ジビニルベンゼン>
ジビニルベンゼンは、アルドリッチ社製(ジビニルベンゼンとしての純度80%、メタ体、パラ体混合物、メタ体:パラ体質量比70:30)である。
【0084】
<触媒(遷移金属化合物)>
以下の実施例1〜11では、触媒(遷移金属化合物)として、rac−ジメチルメチレンビス(4,5−ベンゾ−1−インデニル)ジルコニウムジクロライド(化3)を用いた。
【0085】
【化3】
【0086】
(合成例1)
<クロス共重合体の製造>
触媒としてrac−ジメチルメチレンビス(4,5−ベンゾ−1−インデニル)ジルコニウムジクロライドを用い、以下のように実施した。
容量50L、攪拌機及び加熱冷却用ジャケット付の配位重合用重号缶(オートクレーブ)を用いて重合を行った。シクロヘキサン20.5kg、スチレン3.2kg及び新日鐵化学社製ジビニルベンゼン(メタ、パラ混合品、純度81質量%、ジビニルベンゼン分として61mmol)を仕込み、内温60℃に調整し攪拌(220rpm)した。乾燥窒素ガスを10L/分の流量で約30分、液中にバブリングして系内及び重合液の水分をパージした。次いで、トリイソブチルアルミニウム50mmol、メチルアルモキサン(東ソーアクゾ社製、MMAO−3A/ヘキサン溶液)をAl基準で100mmol(表中ではMAOと記載)加え、ただちにエチレンで系内をパ−ジした。十分にパ−ジした後、内温を80℃に昇温してエチレンを導入し、圧力0.4MPa(3kg/cmG)で安定した後に、オートクレーブ上に設置した触媒タンクから、rac−ジメチルメチレンビス(4,5−ベンゾ−1−インデニル)ジルコニウムジクロライドを100μmol、トリイソブチルアルミニウム1mmolを溶かしたトルエン溶液約50mlをオートクレーブ中に加えた。さらに、流量制御弁を介しエチレンを補給し、内温を85℃、圧力を0.4MPaに維持しながら重合を実施した。エチレンの流速、積算流量から重合進行状況をモニタ−した。所定のエチレン流量に達した後、エチレンの供給を停止し、放圧すると共に内温を70℃まで冷却した(以上配位重合工程)。その後重合液を、容量50L、攪拌機及び加熱冷却用ジャケット付のアニオン重合用重号缶に移送した。同時に分析用重合液を数十ml採取した。n−ブチルリチウム260mmolを触媒タンクから窒素ガスに同伴させてアニオン重合用重合缶内に導入した(クロス化工程)。直ちにアニオン重合が開始し、内温は70℃から一時80℃まで上昇した。そのまま30分間温度を70℃に維持し攪拌を継続し重合を続けた。約百mlのメタノ−ルを重合缶に加え、アニオン重合を停止した。得られたポリマー液を分散剤(プルロニック)とカリミョウバンを含む激しく攪拌した加熱水中にギアポンプにて少しずつ投入し、溶媒を除去し、加熱水中に分散したポリマ−クラム(大きさ約1cm)を得た。このポリマークラムを、遠心脱水し、室温で1昼夜風乾した後に60℃、真空中、質量変化が認められなくなるまで乾燥した。得られたポリマーをP1とする。
【0087】
(合成例2〜4)
合成例1と同様に、表1に示す仕込み、重合条件で重合を実施した。得られたポリマーをそれぞれP2〜P4とする。。
(比較合成例1)
合成例1と同様に、ただしジビニルベンゼンを用いず、配位重合工程のみ、表1に示す仕込み、重合条件で重合を実施した。この場合、得られた共重合体はエチレン−スチレン共重合体である。得られたポリマーをRP1とする。
【0088】
表1に重合条件を、表2〜3に得られたクロス共重合体、エチレン−スチレン共重合体の組成分析値を示す。
配位重合工程で得られたポリマ−の分析値(配位重合工程でのポリマ−収量、組成、分子量等)は、配位重合工程終了時にサンプリングした少量(数十ml)の重合液をメタノールに混合してポリマ−を析出させて回収し、分析を行うことで求めた。配位重合工程で得られたポリマ−のジビニルベンゼンユニット含量は、ガスクロマトグラフィ分析により求めた重合液中の未反応ジビニルベンゼン量と重合に用いたジビニルベンゼン量の差から求めた。
【0089】
また、表中の配位重合行程で得られた共重合体の、クロス共重合体に対する割合(質量%)は、配位重合工程で得られたエチレン−スチレン−ジビニルベンゼン共重合体の組成(スチレン含量及びエチレン含量)と、アニオン重合工程を経て得られたクロス共重合体の組成(スチレン含量及びエチレン含量)から、各組成の変化分がアニオン重合によるクロス鎖ポリスチレンの質量によるとして求めた。また、別法として配位重合終了時に重合液を一部サンプリングし分析して求めた主鎖ポリマ−生成質量とアニオン重合後の重合液を一部サンプリングし分析して求めたクロス共重合体生成質量の比較からも本割合を求めたが、両値は実質的に一致した値であった。
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】
【0092】
(実施例1〜10)
以下のようにして、熱可塑性樹脂組成物を得た。
ブラベンダ−プラスチコ−ダ−(ブラベンダ−社製PL2000型)を使用し、本合成例1〜4で得られたクロス共重合体(P1〜P4)とエンゲージ8100(ダウケミカル社、エチレンー1−オクテン共重合体、比重0.87、MFR200℃、98Nで10g/10分)、酸化防止剤イルガノックス1076(チバスペシャリティケミカルズ社製):0.1質量部、耐光剤LA36(紫外線吸収剤)0.2質量部、LA77Y(ヒンダードアミン系光安定剤)0.2質量部(共に株式会社ADEKA社製)を添加し、100rpmにて180℃、5分間混練を行った。
得られた組成物から上記加熱プレス法により成形した厚さ0.25mmのシ−トを用い、上記条件で表記載の照射量で電子線照射を行った。得られた照射シ−トを用い、引っ張り試験、クリ−プ開始温度試験、粘弾性スペクトル測定を実施した。さらに本組成物で厚さ約0.25mmのシボ付きシ−トを作成し、同様に電子線照射を行いシボ保持性試験を行った。結果を表4に示す。
ただし、実施例5ではエンゲージ8100のかわりに、エバフレックスEEA(エチレンーエチルアクリレート共重合体A703)を用いた。また実施例8では架橋助剤としてTMPTA(トリメチロールプロパントリアクリレート)を添加した。実施例11では、ポリフェニレンエーテル(三菱エンジニアリングプラスチックス社製 PX−100L)を添加した。
【0093】
(比較例1〜12)
比較例1、5は、それぞれ、本合成例で得られたP1、P2に電子線照射を行わなかった例である。
比較例2、6は、それぞれ、本合成例で得られたP1、P2に50kGy電子線照射を行った例である。比較例3及び7は、それぞれ実施例1、2及び実施例6、7と同じ樹脂組成物に対し、電子線照射を行わなかった例である。比較例8はエチレン−スチレン共重合体に、比較例9はエチレン−スチレン共重合体にエンゲージ8100を配合し、共に電子線を照射した例である。比較例10、11、12は、クロス共重合体P1に対し、それぞれ市販のPP系軟質樹脂(PP/EPRコンパウンド)、スチレン−イソプレン水添ブロック共重合体(SEBS)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)を配合した樹脂組成物に電子線を照射した例である。
【0094】
【表4】
【0095】
実施例に示される本発明の熱可塑性樹脂組成物からなるシートの電子線架橋後のシートは、所定のゲル分を示し、貯蔵弾性率(E’)が3×10Paに低下する温度が140℃以上であり、クリープ開始温度も150℃以上であり、耐熱性が大幅に向上していることが示される。光沢度変化も、3%以下であり、高いシボ保持性を有している。力学物性も本発明の条件を満たしている。
一方、クロス共重合体単独では、電子線を照射しない場合、及び実施例と同じ線量の電子線照射では、ゲル分、貯蔵弾性率(E’)、クリープ開始温度、シボ保持性何れも十分に満足できる結果を残せなかった。本発明の条件を満たさない樹脂組成物の場合(比較例8〜12)も、ゲル分、貯蔵弾性率(E’)、クリープ開始温度、何れも十分に満足できる結果を残せなかった。
【0096】
【表5】
【0097】
耐摩耗性試験の結果を表5に示す。
実施例の各シートは耐摩耗性試験でシートが貫通することなく、また比較的少ない摩耗質量であり、目視/触感も○判定であった。これに対し、エンゲージ8100単独品に電子線を照射したシートでは、試験中、摩耗によりシートが貫通してしまい、×判定であった。
本発明の熱可塑性樹脂組成物からなるシートの電子線架橋後のシートは、エチレン系共重合体のみのシートと比較し、高い耐摩耗性を示すことが解る。
【0098】
以上、発明を実施するための形態の記載により説明される各種の形態は、本発明を限定するものではなく、例示することを意図して開示されているものである。本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載により定められるものであり、当業者は、特許請求の範囲に記載された発明の技術的範囲において種々の設計的変更が可能である。
【0099】
なお、本明細書に引用された特許、特許出願、および出版物の開示内容は全て、参照により本明細書に援用される。