(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記結晶性ポリL−乳酸、及び前記結晶性ポリD−乳酸は、それぞれ質量平均分子量が40,000〜200,000であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリ乳酸ステレオ複合樹脂造成物の成形方法。
前記衝撃補強剤は、アクリレート系コポリマー衝撃補強剤、エチレン−アルファオレフィン系衝撃補強剤、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン系衝撃補強剤、シリコーン系衝撃補強剤、及びポリエステルエラストマー衝撃補強剤からなる群から選択される1種以上の衝撃補強材であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリ乳酸ステレオ複合樹脂造成物の成形方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ポリL−乳酸又はポリD−乳酸単独にて形成されたポリマー(以下、ポリ乳酸ホモポリマー)又はポリ乳酸ステレオ複合樹脂造成物は、結晶化速度が低い場合、成形過程において耐熱性及び耐衝撃性が低下してしまうという問題があった。
【0007】
そこで、例えば、特許文献1には、金型キャビティの表面を100〜110℃に加熱してから冷却することで結晶化速度が改善されたL型及びD型ポリ乳酸ステレオ複合体が開示されている。しかし、特許文献1では、ポリ乳酸ステレオ複合体における結晶保存のために溶融温度を190〜195℃にする技術が開示されているが、溶融温度が低い場合にステレオ複合体の結晶化速度を向上させる適切な核剤に関しては言及していない。
【0008】
また、特許文献2には、適切な含量のL型ポリ乳酸、D型ポリ乳酸及び千枚岩粉末を含み、結晶化速度、耐衝撃性及び熱変形温度が改善されたポリ乳酸造成物が開示されている。ここで、特許文献2では、ポリ乳酸造成物の造核剤として千枚岩粉末を用いる旨について言及している。
【0009】
また、特許文献3には、有機表面処理された千枚岩粉末及び炭素ナノチューブを適用することで機械的物性及び結晶化速度が改善されたポリ乳酸造成物が開示されている。しかし、特許文献3では、物性向上のための造核剤として千枚岩粉末及び炭素ナノチューブを用いる旨について言及しているものの、ポリ乳酸ステレオ複合体については言及していない。
【0010】
さらに、特許文献4には、商用性および耐熱性が改善されたポリ乳酸複合体が開示されている。しかしながら、特許文献4には、ポリ乳酸樹脂造成物の具体的な適用例、及びポリ乳酸樹脂造成物の加工性を向上させるための方法については言及していない。
【0011】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、優れた耐熱性及び耐衝撃性を有し、結晶化速度が改善されたポリ乳酸ステレオ複合樹脂造成物、ポリ乳酸ステレオ複合樹脂造成物の成形方法、及び該成形方法による成形物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、複合樹脂造成物の総質量に対して、40〜91.9質量%の結晶性ポリL−乳酸と、3〜50質量%の結晶性ポリD−乳酸と、5〜30質量%の衝撃補強剤と、0.1〜2質量%の造核剤と、を含むポリ乳酸ステレオ複合樹脂造成物が提供される。
【0013】
前記結晶性ポリL−乳酸は、前記結晶性ポリL−乳酸の総質量に対してL体を95質量%以上含み、前記結晶性ポリD−乳酸は、前記結晶性ポリD−乳酸の総質量に対してD体を98質量%以上含んでもよい。
【0014】
前記結晶性ポリL−乳酸、及び前記結晶性ポリD−乳酸は、それぞれ質量平均分子量が40,000〜200,000であってもよい。
【0015】
前記衝撃補強剤は、アクリレート系コポリマー衝撃補強剤、エチレン−アルファオレフィン系衝撃補強剤、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン系衝撃補強剤、シリコーン系衝撃補強剤及びポリエステルエラストマー衝撃補強剤からなる群から選択される1種以上の衝撃補強材であってもよい。
【0016】
前記造核剤は、タルク系造核剤、又はリン酸ナトリウム塩系造核剤であってもよい。
【0017】
前記複合樹脂造成物は、熱変形温度が100℃以上であり、IZOD衝撃強度が10kg・cm/cm以上であってもよい。
【0018】
上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、ポリ乳酸樹脂造成物を射出成形により成形する方法であって、圧出温度210〜230℃で加工された上記のポリ乳酸ステレオ複合樹脂造成物を表面温度が100〜120℃で維持されるキャビティ内に供給し、3〜6分間維持して結晶化させた後、前記キャビティ表面を40〜60℃まで冷却させて成形物を取り出すことを含むポリ乳酸ステレオ複合樹脂造成物の成形方法が提供される。
【0019】
前記キャビティ表面の冷却は、60℃/分以上の速度で行われてもよい。
【0020】
前記複合樹脂造成物の成形方法は、前記取り出された成形物を90〜120℃にて10〜60分間熱処理することをさらに含んでもよい。
【0021】
上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、上記の方法で成形された成形物が提供される。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように本発明によれば、優れた耐熱性及び耐衝撃性を有し、結晶化速度が改善されたポリ乳酸ステレオ複合樹脂造成物、該造成物による成形方法、及び該成形方法による成形物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、好ましい実施例を参照して本発明を詳細に説明する。ここで、本明細書及び特許請求の範囲に使用された用語又は単語は、通常用いられる意味又は辞書的な意味に限定して解釈されるべきではなく、発明者は自らの発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義するという原則に立脚して、本発明の技術的思想に符合する意味と概念にて解釈されるべきである。また、本明細書に記載された実施例の構成は、本発明の最も好ましい一実施例に過ぎず、本発明の技術的思想は、本明細書に記載された実施例に限定されることはない。本発明は、本出願時点において公知の多様な均等物にて、本発明の各構成を代替した変形例をも含むものである。
【0025】
本発明は、ポリ乳酸ステレオ複合樹脂造成物、ポリ乳酸ステレオ複合樹脂造成物の成形方法、及び成形物に関する。より詳しくは、本発明は、優れた結晶化速度及び機械的物性を有するポリ乳酸樹脂造成物、当該造成物の成形方法、及び当該成形方法による成形物に関するものである。
【0026】
ポリ乳酸のステレオ複合体は、ポリ乳酸ホモポリマーに比べ結晶化速度が高い。これは、D型ポリ乳酸が造核剤として作用して結晶化度及び結晶化速度を増加させる役割をするためである。しかし、D型ポリ乳酸は、高価格であり、添加した含量に対する結晶化速度の向上の程度は、他の特定の造核材に比べると低いという問題があった。そのため、本発明者らは、ポリ乳酸ステレオ複合体の結晶化速度を高めるために、さらに以下で説明する特定の造核剤を添加する必要があることを見出した。また、ポリ乳酸ステレオ複合体を利用した射出成形において、一般的な低温金型で成形してから冷却する場合、結晶化温度以下で冷却されることにより無定形状態で成形されるため、耐熱性及び耐衝撃性が低下し、かつ、取り出しが困難になり寸法安定性が低くなるという問題があった。本発明者らは、ポリ乳酸ステレオ複合体の溶融温度を考慮した加工条件で製造したポリ乳酸樹脂造成物を用い、さらに、該造成物を射出成形において、キャビティ表面を該造成物のガラス転移温度以上溶融温度以下で温度調節しながら結晶化し、取り出された成形物に対する熱処理を行うことにより、結晶化速度及び結晶化度の増加に応じて成形物の耐熱性、耐衝撃性及び寸法安定性が劇的に向上することを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいて本発明に至った。以下、本発明によるポリ乳酸樹脂造成物について詳細に説明し、さらにポリ乳酸樹脂造成物の成形方法について詳細に説明する。
【0027】
本発明は、複合樹脂造成物の総質量に対して、(A)結晶性ポリL−乳酸を40〜91.9質量%、(B)結晶性ポリD−乳酸を3〜50質量%、(C)衝撃補強剤を5〜30質量%、(D)造核剤を0.1〜2質量%、にて含むポリ乳酸ステレオ複合樹脂造成物である。以下、本発明によるポリ乳酸ステレオ複合樹脂造成物の各構成成分についてより詳細に説明する。
【0028】
(A)、(B)ポリ乳酸(Polylactic acid,PLA)樹脂
ポリ乳酸は、一般にトウモロコシ澱粉等を分解して得られた乳酸(Lactic acid)をモノマーとしてエステル反応によって生成されるポリエステル系樹脂であり、その構造は下記化学式1で表される。
【0030】
ポリ乳酸樹脂は、L体乳酸から誘導された反復単位で構成されるポリL−乳酸、D体乳酸から誘導された反復単位で構成されるポリD−乳酸が含まれ、このようなポリL−乳酸及びポリD−乳酸は単独に、又は組み合わせて使用されてもよい。ただし、本発明では高温での力学特性を向上させるためにポリL−乳酸及びポリD−乳酸を組み合わせて使用する。
【0031】
ポリL−乳酸樹脂は、耐熱性及び成形性のバランス面、およびステレオコンプレックスの形成の点において、L体乳酸から誘導された反復単位がポリL−乳酸樹脂の総質量に対して95質量%以上であることが好ましく、97質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることが最も好ましい。また、ポリD−乳酸樹脂も同様に、D体乳酸から誘導された反復単位がポリD−乳酸樹脂の総質量に対して98質量%以上であることが好ましく、99質量%以上であることがより好ましい。
【0032】
また、ポリL−乳酸樹脂及びポリD−乳酸樹脂は、成形加工が可能であれば分子量や分子量分布に特に制限はないが、成形体の機械的強度及び耐熱性のバランスを考慮すると、質量平均分子量が40,000以上であるものを使用することが好ましく、質量平均分子量が40,000〜200,000であるものを使用することがより好ましい。
【0033】
本発明において、ポリL−乳酸樹脂は、複合樹脂造成物の総質量に対して40〜91.9質量%含まれ、好ましくは50〜83.9質量%含まれる。ポリL−乳酸樹脂含量が40質量%未満である場合には、ポリD−乳酸樹脂含量が相対的に増加して、原料コストが上昇するため、好ましくない。また、ポリL−乳酸樹脂含量が91.9質量%を超過する場合には、ステレオコンプレックス形成及び結晶化度が低下し、複合樹脂造成物の衝撃強度及び成形性が低下するため、好ましくない。また、ポリD−乳酸樹脂は、複合樹脂造成物の総質量に対して3〜50質量%含まれ、好ましくは7〜30質量%含まれる。ポリD−乳酸樹脂の含量が3質量%未満である場合には、ポリL−乳酸樹脂含量が相対的に増加してステレオコンプレックスの形成が難しくなるため好ましくない。また、ポリD−乳酸樹脂の含量が50質量%を超過する場合には、ステレオコンプレックスの形成に有利であるものの、原料コストが上昇するため、好ましくない。
【0034】
(C)衝撃補強剤
本発明で使用される衝撃補強剤は、ポリ乳酸のヒドロキシ基及びカルボキシ基との商用性を向上させてポリ乳酸ステレオ複合樹脂造成物内で衝撃強度を向上させる。衝撃補強剤は、適切な衝撃強度を維持するために、複合樹脂造成物の総質量に対して5〜30質量%、好ましくは9〜20質量%含まれる。衝撃補強剤の含量が5質量%未満である場合には、樹脂造成物の剛性は増加するものの、耐衝撃性が低下し、包装材や自動車用プリスチック部品などへの適用が難しくなるため好ましくない。また、衝撃補強剤の含量が30質量%を超過する場合には、複合樹脂造成物の耐衝撃性は増加するものの、剛性が低下し、物性のバランスが悪化するため、製品への適用が難しくなり好ましくない。
【0035】
衝撃補強剤としては、具体的には、アクリレート系コポリマーが好ましい。ただし、本発明は、上記例示に限定されず、例えば、エチレン−n−ブチルアクリレート−グリシジルメタクリレート系衝撃補強剤、エチレン−アルファオレフィン系衝撃補強剤、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン系衝撃補強剤、シリコーン系衝撃補強剤、ポリエステルエラストマー衝撃補強剤などを使用してもよい。
【0036】
(D)造核剤
本発明で使用される造核剤は、ポリ乳酸、及びポリ乳酸ステレオ複合樹脂の結晶の大きさを減少させ、結晶化度の増加による結晶化時間を減少させる。これにより、造核剤は、射出及びその他の加工の際に加工時間を短縮させることで加工生産性を向上させることができる。ここで、D体ポリ乳酸も造核剤としての役割をするが、樹脂価格が高く、含量に対する造核剤としての効果が本発明で使用される造核剤に比べ低いため、成形速度を増加させるために造核剤をさらに添加することが好ましい。適切な結晶化速度を実現するためには、造核剤は複合樹脂造成物の総質量に対して0.1〜2質量%含まれる。造核剤の含量が0.1質量%未満である場合には造核剤の性能を発揮することが難しく、好ましくない。また、造核剤の含量が2質量%を超過する場合には、樹脂の結晶化度が増加すると共に樹脂造成物の剛性が増加して衝撃強度が低下し、樹脂造成物の物性バランスが悪化するため好ましくない。
【0037】
造核剤としては、タルク系造核剤又はリン酸ナトリウム塩系造核剤が好ましい。リン酸ナトリウム塩系造核剤としては、具体的には、メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェノール)リン酸ナトリウム塩(methylenebis(4,6−tert−butylphenol)phosphate sodium salt)が使用される。
【0038】
以下、本発明によるポリ乳酸樹脂造成物の成形方法について詳細に説明する。
【0039】
本発明は、ポリ乳酸樹脂造成物を射出成形条件で成形する方法であり、表面温度が100〜120℃に維持されたキャビティ内に圧出温度210〜230℃にて加工されたポリ乳酸ステレオ複合樹脂造成物を供給し、3〜6分間維持及び結晶化させた後、前記キャビティ表面を40〜60℃まで冷却させて成形物を取り出すポリ乳酸ステレオ複合樹脂造成物の成形方法である。
【0040】
本発明による成形方法は、ポリ乳酸樹脂造成物において、特にポリ乳酸ステレオ複合樹脂造成物を適用する場合に好適であり、特に、複合樹脂造成物の総質量に対して(A)結晶性ポリL−乳酸を40〜91.9質量%、(B)結晶性ポリD−乳酸を3〜50質量%、(C)衝撃補強剤を5〜30質量%、(D)造核剤を0.1〜2質量%にて含むポリ乳酸ステレオ複合樹脂造成物を適用する場合に最も好適である。以下では、前述した特定の組成を有するポリ乳酸ステレオ複合樹脂造成物を適用する場合を例に挙げて説明する。
【0041】
本発明によると、前述の(A)〜(D)成分が混合される際に圧出スクリューの温度は、210〜230℃に維持される。これは、ステレオ結晶の溶融温度が214〜216℃であることを考慮すると、溶融温度以上の温度で混練することによりポリ乳酸、衝撃補強剤及び造核剤の混練度が増加し、造成物の機能の発揮により有利であるためである。一方、圧出温度が210℃未満である場合にはポリ乳酸、衝撃補強剤及び造核剤の混練度が低下し、機械的物性及び結晶化速度が向上せず、好ましくない。また、圧出温度が230℃を超過する場合には樹脂の熱分解が生じ、加工性及び樹脂の機械的物性が低下するため、好ましくない。
【0042】
本発明では、温度調節が可能な金型を使用し、ポリ乳酸樹脂造成物を金型キャビティに供給する際、金型キャビティ内の表面温度を100〜120℃、好ましくは110〜120℃に維持し、樹脂造成物の結晶化速度を向上させる。これによれば、ステレオ複合樹脂が結晶化温度(110℃)領域で冷却される際に樹脂の結晶化度が向上するため、耐熱性及び耐衝撃性を向上させることができる。金型キャビティ内の表面温度が100℃未満である場合には、結晶化の時間が長くなるため、樹脂停留による劣化の可能性があるため、好ましくなく、金型キャビティ内の表面温度が120℃を超過する場合には、ポリ乳酸複合樹脂造成物の融点に近接するため、結晶化の進行が困難になり、好ましくない。
【0043】
次に、前記キャビティ内にポリ乳酸樹脂造成物を供給した後、成形品の冷却の際に表面温度を100〜120℃とした状態で、停留時間を3〜6分間、好ましくは4〜5分間として樹脂造成物の結晶化が十分に行われるようにする。停留時間が3分未満である場合には、結晶化が十分に行われず成形物の耐熱性が低下するため好ましくなく、停留時間が6分を超過する場合には結晶化は十分に進められるものの、成形時間が増加して生産効率性が低下するため好ましくない。
【0044】
次に、成形物の円滑な取り出し(離型)のためにキャビティ表面を40〜60℃、好ましくは40〜50℃まで急冷させて5〜20秒間維持してから成形物を取り出す。急冷温度が40℃未満である場合には離型性の向上の程度に対して金型の冷却時間が長くなり、生産効率性が低下するため好ましくなく、急冷温度が60℃を超過する場合には成形物の離型性及び成形性が低下するため、好ましくない。また、急冷後の維持時間が5秒未満である場合には冷却時間が十分ではないため成形物の離型性及び成形性が低下するため好ましくなく、急冷後の維持時間が20秒を超過する場合には生産効率性が低下するため好ましくない。なお、成形サイクルを短縮するためには、急冷の際の冷却速度は60℃/分以上の速度で行われることが好ましい。
【0045】
次に、成形物の結晶化度の増加及び耐熱性の向上のために取り出された成形物に対して熱処理を行うことが好ましい。熱処理はポリ乳酸樹脂造成物のガラス転移温度と融点との間の温度にて行われる。具体的には、取り出された成形物を90〜120℃、好ましくは100〜110℃にて、10〜100分間、好ましくは20〜60分間熱処理する。熱処理温度が90℃未満、または熱処理時間が10分未満である場合には結晶化度の増加が十分ではないため好ましくなく、熱処理温度が120℃を超過する、または熱処理時間が100分を超過する場合にはポリ乳酸樹脂造成物の融点に近接し、結晶化度が低下するため好ましくない。
【0046】
このような方法で製造されたポリ乳酸ステレオ複合樹脂造成物を利用した成形物は熱変形温度が100℃以上、アイゾット(IZOD)衝撃強度が10kg・cm/cm以上の優秀な耐熱性及び耐衝撃性を備える。よって、本発明は、従来のポリ乳酸を適用した成形物による問題を解決し、環境にやさしくて経済的な原料を使用し、かつ優れた機械的物性を有するポリ乳酸樹脂を利用した成形物を提供することができる。
【0047】
以下、本発明による具体的な実施例を挙げて説明する。
【0048】
まず、本発明の実施例及び比較例において、以下の(A)ポリL−乳酸樹脂、(B)ポリD−乳酸樹脂、(C)衝撃補強剤、(D)造核剤の各成分を使用した。
【0049】
(A)ポリL−乳酸樹脂
米国NatureWorks LLC社で製造されたIngeo 3001D(溶融指数22g/10min(210℃、2.16kg)、質量平均分子量40,000〜200,000)を使用した。なお、使用したポリL−乳酸樹脂におけるL体の割合は、樹脂の総質量に対して97質量%である。
【0050】
(B)ポリD−乳酸樹脂
ロッテケミカル(株)で製造されたポリD−乳酸(溶融指数95g/10min(190℃、2.16kg)、分子量40,000〜200,000)を使用した。なお、使用したポリD−乳酸樹脂におけるD体の割合は、樹脂の総質量に対して99質量%である。
【0051】
(C)衝撃補強剤
米国DuPont社のElvaloy PTW(溶融指数12g/10min(190℃、2.16kg)であるエチレン−n−ブチルアクリレート−グリシジルメタクリレートコポリマーをアクリレート系コポリマー衝撃補強剤として使用した。
【0052】
(D−1)タルク系造核剤
KOCH社で生産されたタルク(KCM6300)を使用した。
【0053】
(D−2)リン酸ナトリウム塩系造核剤
ADEKA社のNA902(メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェノール)リン酸ナトリウム塩)を使用した。
【0054】
実施例1
(A)複合樹脂造成物の総質量に対して、ポリL−乳酸樹脂を81質量%、(B)ポリD−乳酸樹脂を9質量%、(C)衝撃補強剤を9質量%、(D−1)タルク系造核剤を1質量%にて混合した。混合物をL/D 25、直径40mmの2軸圧出器で190〜200℃の温度範囲で圧出した後、圧出物をペレット状に成形した。圧出されたペレットを80℃で12時間乾燥した後、金型の温度調節が可能な制御装置(NX−1)が備えられた150トンの射出器(ドンシン油圧、韓国)にてASTM試験の規格に沿った樹脂片を射出形成して物性試片を製造した。この際、射出温度は190〜200℃とした。また、金型キャビティ表面温度は、100〜120℃にて4〜5分間維持し、その後、キャビティ表面温度を40〜50℃まで冷却させてから成形品を取り出した。さらに、結晶化度を上昇させるために射出形成した試片に対して、90〜120℃で60分間の熱処理を実施した。
【0055】
比較例1
(A)樹脂造成物の総質量に対して、ポリL−乳酸樹脂を82質量%、(B)ポリD−乳酸樹脂を9質量%及び(C)衝撃補強剤を9質量%にて混合した。混合物をL/D 25、直径40mmの2軸圧出器で210〜230℃の温度範囲で圧出した後、圧出物をペレット状に成形した。圧出されたペレットを80℃で12時間乾燥した後、金型の温度調節が可能な制御装置(NX−1)が備えられた150トンの射出器(ドンシン油圧、韓国)にてASTM試験の規格に沿った樹脂片を射出形成して物性試片を製造した。この際、射出温度は210〜230℃とした。また、金型キャビティ表面温度は、100〜120℃にて4〜5分間維持し、その後、キャビティ表面温度を40〜50℃まで冷却させてから成形品を取り出した。さらに、結晶化度を上昇させるために射出形成した試片に対して、90〜120℃で60分間の熱処理を実施した。
【0056】
実施例2
樹脂造成物の総質量に対して、(A)ポリL−乳酸樹脂を81質量%、(B)ポリD−乳酸樹脂を9質量%、(C)衝撃補強剤を9質量%、(D−1)タルク系造核剤を1質量%にて混合したことを除いては、比較例1と同じ方法で試片を成形した。
【0057】
実施例3
樹脂造成物の総質量に対して、(A)ポリL−乳酸樹脂を78質量%、(B)ポリD−乳酸樹脂を9質量%、(C)衝撃補強剤を12質量%、(D−1)タルク系造核剤を1質量%にて混合したことを除いては、比較例1と同じ方法で試片を成形した。
【0058】
実施例4
樹脂造成物の総質量に対して、(A)ポリL−乳酸樹脂を74質量%、(B)ポリD−乳酸樹脂を8質量%、(C)衝撃補強剤を17質量%及び(D−1)タルク系造核剤を1質量%にて混合したことを除いては、比較例1と同じ方法で試片を成形した。
【0059】
実施例5
樹脂造成物の総質量に対して、(A)ポリL−乳酸樹脂を78質量%、(B)ポリD−乳酸樹脂を7.7質量%、(C)衝撃補強剤を14質量%、(D−2)リン酸ナトリウム塩系造核剤を0.3質量%にて混合したことを除いては、比較例1と同じ方法で試片を成形した。
【0060】
実施例6
樹脂造成物の総質量に対して、(A)ポリL−乳酸樹脂を75質量%、(B)ポリD−乳酸樹脂を7.7質量%、(C)衝撃補強剤を17質量%、(D−2)リン酸ナトリウム塩系造核剤を0.3質量%にて混合したことを除いては、比較例1と同じ方法で試片を成形した。
【0061】
実施例7
樹脂造成物の総質量に対して、(A)ポリL−乳酸樹脂を78質量%、(B)ポリD−乳酸樹脂を7.4質量%、(C)衝撃補強剤を14質量%、(D−2)リン酸ナトリウム塩系造核剤を0.6質量%にて混合したことを除いては、比較例1と同じ方法で試片を成形した。
【0062】
実施例8
樹脂造成物の総質量に対して、(A)ポリL−乳酸樹脂を81.5質量%、(B)ポリD−乳酸樹脂を9質量%、(C)衝撃補強剤を9質量%、(D−1)タルク系造核剤を0.5質量%にて混合したことを除いては、比較例1と同じ方法で試片を成形した。
【0063】
実施例9
樹脂造成物の総質量に対して、(A)ポリL−乳酸樹脂を80.5質量%、(B)ポリD−乳酸樹脂を9質量%、(C)衝撃補強剤を9質量%、(D−1)タルク系造核剤を1.5質量%にて混合したことを除いては、比較例1と同じ方法で試片を成形した。
【0064】
実施例10
樹脂造成物の総質量に対して、(A)ポリL−乳酸樹脂を81.5質量%、(B)ポリD−乳酸樹脂を9質量%、(C)衝撃補強剤を9質量%、(D−2)リン酸ナトリウム塩系造核剤を0.5質量%にて混合したことを除いては、比較例1と同じ方法で試片を成形した。
【0065】
実施例11
樹脂造成物の総質量に対して、(A)ポリL−乳酸樹脂を81質量%、(B)ポリD−乳酸樹脂を9質量%、(C)衝撃補強剤を9質量%、(D−2)リン酸ナトリウム塩系造核剤を1質量%にて混合したことを除いては、比較例1と同じ方法で試片を成形した。
【0066】
実施例12
樹脂造成物の総質量に対して、(A)ポリL−乳酸樹脂を80.5質量%、(B)ポリD−乳酸樹脂を9質量%、(C)衝撃補強剤を9質量%、(D−2)リン酸ナトリウム塩系造核剤を1.5質量%にて混合したことを除いては、比較例1と同じ方法で試片を成形した。
【0067】
ここで、前記実施例及び比較例によって製造された樹脂造成物の成分組成、及び加工条件を下記表1に示した。
【0069】
試験例1
本発明によるポリ乳酸複合樹脂造成物において、造核剤の含量による結晶化の挙動を確認するために、比較例1、実施例2及び実施例8〜12によって製造された試片に対して下記方法で熱分析を実施し、等温結晶化(isothermal crystallization)測定を行った。その結果を
図1〜
図5に示す。さらに、ポリ乳酸ステレオ複合樹脂の結晶形成を確認するために、下記条件で光−角X線回折分析(WAXD analysis,D/MAX−2500,RIGAKU)を実施した。その結果を
図6及び
図7に示した。
【0070】
[熱分析測定方法]
示差走査熱量計(differential scanning calorimetry;DSC)(DSC Q200、TA Instrument)を利用して、窒素雰囲気下で熱分析を行った。各試片に対してi)20℃/分の速度で30℃から190℃まで昇温(
図1及び
図2を参照)、または、ii)20℃/分の速度で30℃から250℃まで昇温(
図3及び
図4を参照)してから80℃/分の速度で急冷を行い、等温結晶化温度別に測定結果を比較して
図1〜
図4に示した。
【0071】
また、等温結晶化温度100℃で測定したリン酸ナトリウム塩系造核剤の含量に対するポリ乳酸複合樹脂の結晶性の時間変化を示す偏光顕微鏡写真(LV100 POL,NIKON,日本)を
図5に示した。
【0072】
[X線回折分析条件]
単色CuKα放射線(λ=0.1542nm)をX線ビームとして使用し、α−aluminum oxideの屈折角を基準とした。屈折パターンの角度は、α−aluminum oxideの屈折角を利用して補正される。
【0073】
まず、
図1〜
図4を参照すると、造核剤の含量増加によって、ピーク位置が高温側へ移動しており、結晶化温度が増加することが分かる。これによれば、示差走査熱量計の温度が250℃に上昇してから下降する際の結晶部分の熱量は、190℃上昇してから下降する際の結晶部分の熱量より高いことが分かる。したがって、核剤の効果の発現のための十分な温度が必要であり、ポリ乳酸ステレオ複合樹脂の溶融温度より高い温度が適切であることが確認される。
【0074】
また、
図5を参照すると、造核剤が添加されていないポリ乳酸ステレオ複合樹脂に対してリン酸ナトリウム塩系造核剤が添加された複合樹脂は、結晶化速度が増加していることがわかる。具体的には、造核剤が添加された複合樹脂では、30秒後の測定において、結晶が形成されたことから確認することができる。
【0075】
なお、
図6および7を参照すると、造核剤の種類及び含量によらず、ポリ乳酸ステレオ複合樹脂の結晶に起因するピークが、2thetaにおいて、12.0°、20.9°、及び24.0°にて確認することができる。
【0076】
試験例2
比較例1及び実施例1〜7によって製造された試片に対して、下記方法によって熱変形温度、常温IZOD衝撃強度及び結晶化時間を測定し、その結果を下記表2に示した。
【0077】
[測定方法]
(1)熱変形温度:ASTM D648に準じて測定した。
(2)常温IZOD衝撃強度:ASTM D256に準じて測定した。
(3)結晶化時間:試験例1で等温結晶化温度100℃での結晶化時間を測定した。
【0079】
表2を参照すると、まず210〜230℃の温度で加工された樹脂を利用した試片(実施例2)の熱変形温度及びIZOD衝撃強度は、190〜200℃の温度で加工された樹脂を利用した試片(実施例1)の物性と同等な水準であり、さらに、結晶化時間が短くなっていることが分かる。これによれば、210〜230℃の温度で加工された樹脂を利用した実施例2では、核剤が十分に機能していることが確認される。
【0080】
また、比較例1及び実施例2の結果から、タルク系核剤が添加された場合、添加されていない場合に対して、熱変形温度が6%程度、及びIZOD衝撃強度が13%程度向上することがわかる。また、核剤を添加することにより、樹脂の結晶化時間が19%程度向上することが分かる。
【0081】
また、実施例2〜4の結果から、衝撃補強剤の含量が増加するほど樹脂の衝撃強度は増加するものの、逆に熱変形温度は減少し、結晶化時間が増加する傾向を示すことが分かる。
【0082】
また、実施例5〜7の結果から、リン酸ナトリウム塩系造核剤を0.3質量%添加する場合にはタルク系核剤を1質量%添加する場合に対して、結晶化時間が短くなることが分かる。これは、リン酸ナトリウム塩系造核剤は、単位含量に対して結晶化速度の増加及び結晶化度の増加による結晶化時間減少および熱変形温度増加の効果が高いことを示す。
【0083】
さらに、実施例7による樹脂造成物は、造核剤が添加されていない比較例1に対して、熱変形温度が10%程度向上し、IZOD衝撃強度が73%程度向上し、結晶化時間が29%程度向上していることから、樹脂の剛性、衝撃強度及び加工速度を考慮して最も優秀な物性を示すといえる。
【0084】
以上の結果をまとめると、本発明によるポリ乳酸ステレオ複合樹脂造成物において、リン酸ナトリウム塩系造核剤は樹脂の結晶化速度を増加させ、衝撃補強剤は樹脂の衝撃強度を向上させることができる。したがって、本発明によるポリ乳酸ステレオ複合樹脂造成物は、加工温度210〜230℃によるポリ乳酸、衝撃補強剤、及び造核剤の混練性の増加によって樹脂造成物の全体的な物性がバランスよく向上していることが確認される。
【0085】
以上説明した本発明によるポリ乳酸ステレオ複合樹脂造成物、および該樹脂造成物を利用した成形方法は、アクリレート系コポリマーを衝撃補強剤として適用することで衝撃強度を向上させ、特定の造核剤により樹脂の結晶化速度を増加させ、成形性を向上させることができる。また、本発明によれば、金型キャビティ表面の温度操作及び成形物の熱処理を含む射出成形における最適の成形方法、および該成形方法に最も適合したポリ乳酸ステレオ複合樹脂造成物が提供される。このような射出成形方法によれば、成形の際の結晶化速度が向上し、耐熱性、衝撃強度及び射出成形速度が従来のポリ乳酸樹脂造成物に比べて優秀な成形物を提供することができる。
【0086】
したがって、本発明によるポリ乳酸ステレオ複合樹脂造成物は、自動車の内装材、部品の素材、家電製品などの産業用素材として多様に適用することができる。よって、本発明は、今後の行われると予想される二酸化炭素低減規制にも対応可能であり、環境に配慮した素材として産業的な波及効果が大きいと予想される。
【0087】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。