特許第5891303号(P5891303)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5891303
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】金属樹脂成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 19/00 20060101AFI20160308BHJP
   B29C 43/18 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
   B22D19/00 V
   B29C43/18
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-516783(P2014-516783)
(86)(22)【出願日】2013年5月17日
(86)【国際出願番号】JP2013063825
(87)【国際公開番号】WO2013176059
(87)【国際公開日】20131128
【審査請求日】2014年12月8日
(31)【優先権主張番号】特願2012-115641(P2012-115641)
(32)【優先日】2012年5月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115107
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 猛
(74)【代理人】
【識別番号】100151194
【弁理士】
【氏名又は名称】尾澤 俊之
(72)【発明者】
【氏名】金子 徹
(72)【発明者】
【氏名】岡本 日吉
【審査官】 田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−44261(JP,A)
【文献】 特開2000−238073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 19/00
B29C 43/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維と熱可塑性樹脂とからなり、無機繊維がランダムに配向している複合体を成形用の型内に埋設し、該型内に溶融した金属を射出鋳造し前記複合体と一体化することを特徴とする金属樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
無機繊維が炭素繊維である請求項1記載の金属樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
金属がアルミニウム合金、亜鉛合金、マグネシウム合金、銅合金、鉛、錫合金のいずれかである請求項1または2記載の金属樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
複合体における繊維含有量が10〜70重量%である請求項1〜3のいずれか1項記載の金属樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
複合体の金属に接する部分の厚さが25mm以下である請求項1〜4のいずれか1項記載の金属樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
複合体にあらかじめ貫通孔、非貫通孔または溝を設けている請求項1〜5のいずれか1項記載の金属樹脂成形品の製造方法。
【請求項7】
金属樹脂成形品における金属部分が、リブまたはボスの形状を有する請求項1〜6のいずれか1項記載の金属樹脂成形品の製造方法。
【請求項8】
金属の射出スピードが1m/秒以上である請求項1〜7のいずれか1項記載の金属樹脂成形品の製造方法。
【請求項9】
溶融した金属を射出するときの金型の温度が150℃〜300℃の範囲である請求項1〜8のいずれか1項記載の金属樹脂成形品の製造方法。
【請求項10】
無機繊維の繊維の長さ方向の熱伝導率が1W/m・K以上である請求項1〜9のいずれか1項記載の金属樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂材料と金属を一体化した金属樹脂成形品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在では強化繊維によって補強された繊維補強樹脂材料は広く様々な分野に使用されているものの、ボスやタッピングネジなどの繰り返し使用する部分には樹脂よりも金属の方が、一般的に耐久性が高い。また、薄肉のリブや小型のボスなどの複雑な形状は、繊維強化樹脂材料よりも金属材料等の方が製造しやすいことが知られている。例えば射出成形では、樹脂に補強用の繊維を混合した場合、射出する繊維含有樹脂の溶融粘度が高くなり、複雑な形状を得ることが困難であった。
【0003】
そこで繊維強化樹脂材料と金属部品を一体化した成形品が使用されることがある。そしてこのような金属部品と樹脂とを一体化する方法としては、機械的な接合を行うか、接着剤を用いて接合する方法が、一般的には採用されている。しかしこれらの方法では製品設計に制約がある。また強度等を確保するために補助的な部品を取り付ける必要がある。そのため、加工時間やコストの面において課題があるものであった。
【0004】
一方、金属部品をあらかじめ金型に挿入し樹脂を射出成形する方法も知られている。この方法は、強度と高精度が必要な部分を金属部品が担い、その他の残りの部分を樹脂で取り巻くことにより、金属を樹脂により保持、接合する方法である。そして金属部品と樹脂を強く一体化するために、射出成形された樹脂の収縮応力を利用して接合力を保持している。しかしいまだ接着力が不十分であるという問題があった。
【0005】
そこで特許文献1では、金属部品に表面処理を施し、金属と樹脂との接合部における親和性を向上させる方法が開示されている。しかし金属部分に表面処理をしたものであっても、接合面には歪が発生しやすく、成形品の全体や金属部品が歪んだり曲がったりすることや、接合部分における剥離やひび割れが発生する、などの問題があった。また、繊維を含有した樹脂は粘度が高く射出成形は困難であり、この方法では繊維補強樹脂と金属部品を一体化した成形品を得ることはできなかった。
【特許文献1】特開2001−225352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、歪みや接合部分の欠点の無い金属樹脂成形品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の金属樹脂成形品の製造方法は、無機繊維と熱可塑性樹脂とからなり、無機繊維がランダムに配向している複合体を成形用の型内に埋設し、該型内に溶融した金属を射出鋳造し一体化することを特徴とする。
【0008】
さらには、無機繊維が炭素繊維であることが好ましい。また、金属がアルミニウム合金またはマグネシウム合金であることが好ましく、複合体中の繊維含有量が10〜70重量%であることや、複合体の金属に接する部分の厚さが25mm以下であること、複合体にあらかじめ貫通孔または溝が存在すること、金属がリブまたはボスの形状であることが好ましい。
【0009】
そしてもうひとつの本発明の金属樹脂成形品はこれらの製造方法により得られるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、歪みや接合部分の欠点の無い金属樹脂成形品の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
[図1] リブ形状の金属部分を有する金属樹脂成形品
[図2] ボス形状の金属部分を有する金属樹脂成形品
[図3] あらかじめ貫通孔が存在する複合体
[図4] ボス形状の金属部分を有する金属樹脂成形品の断面図
[図5] あらかじめ外枠に溝が存在する複合体
[図6] 溝に沿って金属が存在する金属樹脂成形品
【符号の説明】
【0012】
1 繊維強化樹脂(複合体)
2 アルミ合金
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の金属樹脂成形品の製造方法は、無機繊維と熱可塑性樹脂とからなる複合体(繊維強化樹脂)を成形用の型内に埋設し、溶融した金属を型内の複合体内に射出し一体化する製造方法である。
【0014】
ここで本発明に用いる無機繊維と熱可塑性樹脂からなる複合体は、いわゆる繊維補強樹脂複合体といわれるものであり、一般的には繊維強化基材に熱可塑性樹脂を含浸するなどして得ることができるものである。
【0015】
この複合体に用いる無機繊維は、熱による損傷を受けにくい耐熱性の繊維であり、樹脂の強化に用いられる繊維である。より具体的にはこの無機繊維として、炭素繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、バサルト繊維、金属繊維などを挙げることができる。さらに強度、高剛性の複合体とするためには無機繊維の中でも炭素繊維であることが好ましい。使用する繊維の種類としては、1種または2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0016】
また本発明で用いられる無機繊維には、繊維補強と共に製造工程において熱を逃す役割があり、この観点からは熱伝導率が樹脂よりも高いことが好ましい。一般的には一次元方向に熱伝導性の高い繊維形状のものを添加する方が、複合体全体の熱伝導率は高くなるのであるが、繊維の材質を選択することによりさらに高い熱伝導率を確保することが可能である。具体的には炭素繊維や、ボロン繊維、金属繊維などの高熱伝導性繊維であることが好ましい。また数値的には繊維の長さ方向の熱伝導率が1W/m・K以上であることが好ましく、さらには5W/m・K以上、特には10W/m・K以上であることが好ましい。上限は特に制限は無いが、一般的には上限は900W/m・K程度で足りる。このような熱伝導性の観点からも繊維としては炭素繊維が好ましく、一般的なピッチ系炭素繊維やPAN系炭素繊維を用いることができる。
【0017】
複合体に用いる繊維の平均直径としては4〜9μmの範囲であることが好ましい。また、樹脂を補強するためには繊維の強度も高い方が好ましく、繊維の引張強度は、3500MPa〜7000MPaであることや、モジュラスとしては220GPa〜900GPaであることが好ましい。その意味では高強度の成形品が得られる観点からも繊維としては、炭素繊維が好ましく、PAN系炭素繊維がより好ましい。複合材料に反りが発生することを防止する目的および寸法精度の良い成形品を得る観点からは、繊維の熱膨張係数も小さいことが好ましい。
【0018】
これらの繊維を含む複合体(繊維強化樹脂)中での繊維の形態としては、長繊維(連続繊維)や短繊維(不連続繊維)の形態で用いることが可能である。そして樹脂の補強の観点からは長繊維形状であることが、熱伝導等の異方性が発生しない観点からは短繊維形状であることが好ましい。短繊維である場合には一般的にあらかじめ不織布としたり、熱可塑性樹脂と繊維からなるペレットを用いて成形することができる。長繊維である場合には、一方向性シートや、織物、編物、組紐、などのさまざまな形態で用いることができる。また、これらの繊維形態を1種または2種以上組み合わせて使用することも可能である。
【0019】
織物として用いる場合の織組織としては、平織り、朱子織り、綾織り、多軸織物等を挙げることができる。繊維が平織り、朱子織り、綾織りの場合、200〜800texの繊維束を経糸及び緯糸として用い、織り密度が、経方向で6〜15本/25mm、緯方向で6〜15本/25mmになるように織られたものであることが好ましい。
【0020】
特に多軸織物としては、一般的な一方向に引き揃えた繊維強化材の束をシート状にして角度を変えて積層したもの(多軸織物基材)を、ナイロン糸、ポリエステル糸、ガラス繊維糸等のステッチ糸で、この積層体を厚さ方向に貫通して、積層体の表面と裏面の間を表面方向に沿って往復しステッチした織物を用いることができる。多軸織物の場合では、400〜2000texの繊維束を用い、各層間の繊維重量が50〜300g/mになるように織られたものであることが好ましい。
【0021】
このような多軸織物の例としては、〔+45/−45〕、〔−45/+45〕、〔0/90〕、〔0/+45/−45〕、〔0/−45/+45〕、〔0/+45/90/−45〕等の角度を有する多軸織物を挙げることができる。ここで0、±45、90は、多軸織物を構成する各層の積層角度を表し、それぞれ一方向に引き揃えた強化繊維の繊維軸方向が、織物の長さ方向に対して0°、±45°、90°であることを示している。積層角度はこれらの角度に限定されず、任意の角度とすることができる。
【0022】
一方用いられる繊維が短繊維形状である場合には、その長さとしては、2mmから100mmであることが好ましい。また、あらかじめ不織布状のシート状物などの形態で用いる場合には、平均繊維長が10mmから100mmの繊維から構成されたマット状であることが好ましい。さらには、繊維が実質的に2次元ランダムに配向しているランダムマットの形態であることが好ましい。このような配置であると成形がしやすく、繊維による強度補強がより効率よく発揮される。例えば一旦板状に成形した繊維樹脂複合体を、金型中で熱と圧力を用いて成形すると同時に、溶融金属を射出成形させ、一度に金属がインサートされ成形された複雑な樹脂成形品を得ることも可能である。本発明に用いられる無機繊維と熱可塑性樹脂からなる繊維強化樹脂の複合体は、上記のような繊維と熱可塑性樹脂からなるものである。本発明に用いられる熱可塑性樹脂は、熱により一時的に溶融されても冷却により元の物性に戻るため、金属インサート加工前後においても複合体としての高い物性を保つことができる。例えば結晶性樹脂のように融点を有する場合、その樹脂の融点としては150℃〜300℃であることが好ましい。さらには220℃〜300℃、特には260℃以上の高融点樹脂であることが好ましい。もっとも本発明では融点が存在しない樹脂であっても射出した金属に接したときに形状を保つ樹脂であれば使用することができる。例えば明確な融点が存在しない非結晶樹脂や液晶樹脂も、好ましく使用される。樹脂単体の荷重たわみ温度としては、30℃以上、さらには60〜350℃の範囲が好ましい。なおここで荷重たわみ温度とはISO75に準じ厚さ4mmの試験片を負荷荷重1.8MPaの条件にて測定した温度である。また分解温度としては300℃〜500℃の範囲であることが好ましい。本発明の製造方法においては、樹脂よりも熱伝導率の高い繊維を複合体中に含有するため、例えば比較的低融点のポリアミド樹脂等を用いても、接着性に優れ歪みの少ない金属樹脂成形品を得ることが可能である。
【0023】
より具体的な熱可塑性樹脂の種類としては、例えば塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ボリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)、ポリブチレンナフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂)、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリ乳酸樹脂などが挙げられる。中でもポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ボリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂)、ポリアミド樹脂などが好ましく用いられる。また、これらの熱可塑性樹脂は、単体であっても良いし、2種以上のブレンド物であっても良く、また2種以上からなるポリマーアロイを用いることもできる。
【0024】
特に、成形時に高温の溶融金属と接しても劣化し難い耐熱性樹脂が好ましく、例えばポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂)、ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK樹脂)、ポリサルホン(PSF)樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリアミドイミド樹脂などが好適に使用できる。
【0025】
また、得られる成形品の物性面や作業面からはポリアミド樹脂が好ましく、具体的にはPA6(ポリε−カプロラクタム、ナイロン6樹脂)、PA66(ポリヘキサメチレンアジパミド)、PA69(ポリヘキサメチレンアゼパミド)、PA610(ポリヘキサメチレンセバカミド)、PA611(ポリヘキサメチレンウンデカミド)、PA612(ポリヘキサメチレンドデカミド)、PA11(ポリウンデカンアミド)、PA12(ポリドデカンアミド)、PA6T(ポリヘキサメチレンテレフタルアミド)、PA9T(ポリノナメチレンテレフタラミド)、ポリアミドMXD6(ポリメタキシリレンアジパミド)からなる樹脂が好ましい。また、同様の観点から、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)などの樹脂も好適である。
【0026】
また、本発明で用いられる無機繊維と熱可塑性樹脂からなる複合体には、他の成分を含んでも良い。具体的には樹脂成形品に一般的に用いられる、難燃剤、耐UV剤、光安定剤、酸化防止剤、熱安定剤、顔料、離型剤、軟化剤、可塑剤、界面活性剤等の添加剤を挙げることができる。特に本発明においては、金属をインサートする工程では、部分的にマトッリクス成分である熱可塑性樹脂の融点またはガラス転移点以上の温度に加熱されるため、あらかじめ酸化防止剤や熱安定剤を含有した繊維強化熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0027】
このような本発明で用いられる無機繊維と熱可塑性樹脂からなる複合体は、無機繊維からなる長繊維または短繊維から構成される基材に、熱可塑性樹脂をフィルム状にして加熱溶融含浸を行ったり、粉末状の熱可塑性樹脂を混合し加熱溶融させるなどして得ることが可能である。粉末状の熱可塑性樹脂である場合には、その粒子径は50〜2000μmの範囲であることが好ましい。無機繊維からなる基材に熱可塑性樹脂を固定化する方法としては、加熱とともに加圧する方法が好ましく、特にはプレス成形が好ましい。
【0028】
本発明の複合体中における無機繊維の含有量は、10〜70重量%の範囲が好ましい。さらには20〜60重量%の範囲であることが好ましい。繊維強化基材の含有量が少なすぎると、繊維による補強効果が低く、また複合体の線膨張係数が大きくなる。そのため複合材料に反りが発生しやすく、良好な成形品が得られない傾向にある。また残留応力により強度が低下する傾向にある。また、複合体の熱伝導率が高くならず、成形時の熱が十分に逃げないため、実用に耐えうる金属樹脂成形品を得にくい傾向にある。逆に繊維の含有量が多すぎると、樹脂の含有量が少なくなり、繊維基材中に樹脂が含浸し難く、良好な成形品が得られない傾向にある。
【0029】
金属をインサートする前の複合体の形状としては板状であることが好ましく、さらには薄い板状であることが好ましく、具体的には厚さが25mm以下であることが好ましい。さらに厚みは、1〜10mmが好ましく、特には2〜8mmがより好ましい。この繊維で補強された熱可塑性樹脂複合体の厚みが厚すぎる場合には、金属インサート加工時の熱が複合体の内部に留まり、物性を低下させる傾向にある。逆に薄すぎると、金属インサート加工時の熱により成形品に反りが発生しやすく良好な成形品が得られない傾向にある。金属インサート加工時のこの繊維樹脂複合体の金属に接する部分の厚さとしては25mm以下、さらには1〜10mm、特には2〜8mmの厚さであることが好ましい。
【0030】
複合材料に反りが発生することを防止する目的および寸法精度の良い成形品を得る観点からは、繊維補強樹脂複合体の熱膨張係数としては15×10−6/℃以下であることが好ましい。さらには0.5×10−6/℃〜15×10−6/℃の範囲であることが、より好ましくは、1×10−6/℃〜10×10−6/℃の範囲である。また、複合体の荷重たわみ温度としては、140〜300℃の範囲が好ましく、特には150〜280℃の範囲が好ましい。なおここで荷重たわみ温度とはISO75に準じ厚さ4mmの試験片を負荷荷重1.8MPaの条件にて測定した温度である。
【0031】
また本発明で用いられる複合体は、無機繊維が含有されていることにより熱を逃しやすい。そのため上記のように複合体の熱膨張係数を低く保つことが可能となった。具体的には繊維樹脂複合体全体の熱伝導率としては、0.5W/m・K以上であることが好ましく、さらには1W/m・K以上、特には2W/m・K以上であることが好ましい。上限は特に制限は無いが、一般的には上限は900W/m・K程度で足りる。
【0032】
本発明の金属樹脂成形品の製造方法は、上記のような無機繊維と熱可塑性樹脂とからなる複合体を型内に埋設し、溶融した金属を型内の複合体内に射出し一体化する方法である。
【0033】
本発明で用いる金属としては、融点が800℃以下であることが好ましく、さらには150℃〜750℃の範囲であることが好ましい。特に本発明が効果的なのは金属の融点が450℃以上、特には550〜650℃の範囲である場合である。本発明は、強化繊維として無機繊維を使用した、熱伝導率の高い複合材料を用いる事により、これまで溶融・一体化できなかったこのような高い融点を持つ材料(アルミニウム等)とも溶融・一体化できるようになったのである。
【0034】
このような本発明に用いる金属としては、具体的にはアルミ合金、亜鉛合金、マグネシウム合金、銅合金、鉛、錫合金を挙げることができる。特に機械的性質や成型鋳造性の観点からは、アルミニウム合金、マグネシウム合金であることが特に好ましい。
【0035】
これらの繊維樹脂複合体にインサートされる金属は、通常それらを単独で成形する場合には、ダイカスト法、またはチクソモールド法を用いて行われることが多い。ちなみにダイカスト法とは、特殊鋼で精度の高い金型を作り、その金型をダイカストマシンに取り付け、これにアルミニウム合金、亜鉛合金、マグネシウム合金などの比較的低融点の金属を溶融し、高圧で注入し、迅速に凝固させ取り出す、高い生産性を持った鋳造方法である。チクソモールド法とは、マグネシウム合金を切削して作ったマグネシウムチップなどを、成形機のシリンダーで加熱し、大気と触れることなくそのまま金型内に射出成形する方法である。
【0036】
本発明の製造方法で用いられる繊維と樹脂からなる複合体を埋設する成形用の金型としては、これらダイカスト法やチクソモールド法で用いられる金型を転用して用いることができる。そしてダイカストマシンやチクソモールドマシンを用いてインサートする金属を溶融し、その溶融した金属を型内の樹脂複合体に射出し一体化する。すなわち金属部分に着目した場合には、本発明は金属を繊維複合体があらかじめ設置された金型内に射出鋳造し、繊維補強された樹脂と金属とを一体化する方法である。また金属の射出スピードとしては、1m/秒以上であることが好ましく、2〜10m/秒の範囲の速度であることが好ましい。また繊維樹脂複合体があらかじめ埋設された金型内への金属の充填時間は、5秒以下が好ましく、特には5〜500ミリ秒の範囲であることが好ましい。このような高速充填を行うことにより、繊維樹脂複合体へのダメージを有効に減少させることができる。
【0037】
溶融した金属を射出するときの金型の温度には特に制限は無い。しかし金型の温度が、樹脂の溶融温度より高い場合、金型からの脱型時、繊維強化熱可塑性樹脂成形品が変形しやすいため、樹脂の溶融温度以下であることが好ましい。一方金型の温度が低すぎると射出する金属の流動性が急速に悪化し、良好な成形品が得られない傾向にある。したがって金型の温度は150℃〜300℃の範囲が好ましく、さらには使用する複合体を構成する樹脂の溶融温度よりも低いことが好ましい。特には複合体の荷重たわみ温度よりも低いことが好ましい。また、金属を射出するときの金型温度と、成形品を脱型する時の金型温度を変更し、工程中で温度を下げて成形品を取り出しやすくする方法を採用することも好ましい方法である。特に、荷重たわみ温度が低い複合体(例えば荷重たわみ温度が150℃以下)を使用する場合には、金型の温度を樹脂の荷重たわみ温度以上、好ましくは150℃〜200℃として、低融点金属を射出鋳造し、金型温度を複合体の荷重たわみ温度以下、できれば荷重たわみ温度未満に下げてから成形品を取り出す方法であることが好ましい。
【0038】
本発明においては無機繊維と熱可塑性樹脂からなる複合体を金型に埋設し、ダイカストマシン、または、チクソモールドマシンを転用して溶融した金属を、樹脂複合体の設置された型内に射出し、繊維強化樹脂の複合体と金属を一体化した、図1のような金属樹脂成形品を得ることができる。通常、樹脂と金属を一体化させるためには、その融点の違い等から、あらかじめ成形した金属部品を金型内に配置し、そのあとに溶融した樹脂を注入する方法が知られている。しかし本願発明のように無機繊維を含有する熱可塑性樹脂を用いる場合、繊維樹脂複合体の流動性の悪さから、均一な成形品を得ることが困難となる。また従来法では金属部品をあらかじめ金型内に設置する際にその金属の表面に汚れが付着しやすく、接着性が低下する傾向にあった。本発明では溶融した金属を用いるので、複合体との接触時の金属表面は清浄である。そして複合体表面に存在する補強繊維のアンカー効果により、複合体と金属の接着性がより向上するのである。特に繊維として耐熱性と補強性を兼ね備えた炭素繊維を用いた場合に、この接着性向上効果は顕著である。
【0039】
また本発明の方法では、この金属インサート加工時に、複合体にあらかじめ貫通孔や溝が存在していることも好ましい。繊維強化樹脂の複合体と金属とが、より強固に結合することが可能になる。型内に埋設する複合体の厚み方向に貫通する孔や、あるいは凹凸を有する溝によって物理的なアンカー効果が生じ、締結力が向上するのである。さらに、繊維強化樹脂複合体の貫通孔には段差が存在することが好ましい。図3のような段差のある形状とすることにより、より機械的に抜けにくい構造となる。また、複合体にあらかじめ溝を設置する場合には、全周にわたる連続した溝であることが好ましい。図5のような溝であることが好ましく例示される。このような複合体の厚み方向に貫通する孔、あるいは溝を設ける方法は、あらかじめ複合体を切削加工して設けることもできるし、金型内で熱と圧力を利用して、金属を射出成形する際に形成する方法も採用できる。
【0040】
属樹脂成形品の金属部品の形状としては特に制限は無いが、幅を有するリブ形状や、突起物であるボス形状であることが好ましい。ボスの形状としては、円柱状や正多角形柱状の突起物であることが好ましい。
【0041】
また金属部品の一部は複合体の表面から露出していることが好ましい。特には複合体が薄い板状の形態をとり、金属部品がその両面に露出していることが好ましい。本発明の製造方法では高温の金属を複合体中に射出し成形するが、金属部品が露出していることにより金属部品から直接金型に熱が伝導し、金属と複合体(繊維強化樹脂)間の高温状態が緩和され、接着力が向上する。特には複合体中に埋没している部分に凹部が存在し、例えば図4のように埋没している体積に対し露出している表面積が比較的大きいことが好ましい。さらには、複合体外に露出している金属部品体積が、埋没している金属部品体積の1倍以上、さらには2倍以上であることが好ましい。
【0042】
特に本発明の製造方法は、特に複合体中の金属インサート部分が小さい場合に効果的で有り、生産効率も高い工業生産に適した製造方法である。例えばボス形状の金属部品であればその直径は20mm以下、特には1〜10mmの範囲のものが好ましい。またリブ形状であればその幅としては10mm以下、特には0.5〜5mmの範囲が好ましく、長さとしては20〜200mmの範囲であることが好ましい。このような小さい金属部品は、あらかじめ金型に設置することも困難であり、金属インサート樹脂成形品としての製造が困難であったが、本発明の製造方法を用いることにより容易に高性能の成形品を得ることが可能となった。
【0043】
そしてもうひとつの本発明の金属インサート部品の製造方法は、上述の本発明の製造方法により得られる物である。このような本発明の製造方法にて得られた金属樹脂成形品は、金属と繊維強化複合体が歪み無く強固に接合されており、自動車、家庭電化製品、産業機器等の部品として広い分野に使用可能である。
【0044】
このような本発明の金属樹脂成形品は、金属部品と繊維強化複合材料が一体化しており、各種機械部品や電気・電子部品として使用することができる。例えば金属部品を電気の端子として用い、両表面にその金属端子が露出し、成形品の内側表面と外側表面とを電気的に接続する電気・電子部品として用いることができる。また、ボスやタッピングネジなどに金属部品を用い、本体に繊維補強樹脂を用いた金属樹脂成形品は、繰り返し使用される部分が摩耗や衝撃に強い金属でありながら軽量の成形品となるため、特に好ましい使用形態である。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。また、荷重たわみ温度は以下の測定法にて求めた値である。
【0046】
<荷重たわみ温度>
ISO75に準拠し、試験片として全長80mm、幅10mm、厚み4mmのサンプルを準備し、スパン64mm、昇温速度120℃/h±10℃、負荷荷重1.8MPaの条件にて試験を実施し、試験片の変形量が0.34mmに達した時の温度を「荷重たわみ温度」とした。
【0047】
[実施例1]
複合体を構成し樹脂を補強するための繊維として、炭素繊維織物(東邦テナックス株式会社製「W−3101」、目付け200g/m、厚み0.25mm、平織、使用繊維;PAN系炭素繊維、3000フィラメント、200tex、強度4000MPa、直径7.0μm)を、幅200mm、長さ200mmにカットしたものを準備した。
【0048】
熱可塑性樹脂として、ポリフェニレンサルファイド樹脂(直鎖型PPS樹脂、ポリプラスチックス株式会社製「フォートロン W−202A」、融点280℃)を加熱プレスでフィルム化し、厚み100μm、幅200mm、長さ200mmのPPSフィルムを準備した。
【0049】
幅200mm、長さ200mmの平板の金型に炭素繊維織物を1枚、PPSフィルムを2枚の割合で、順に炭素繊維織物を7枚、PPSフィルムを14枚となるようにセットし、型温度を320℃に上げ、面圧3MPaで、15分間320℃で保持した後、金型を100℃まで冷却し、厚み2mmのPPS樹脂をマトリックス樹脂とする炭素繊維強化熱可塑性樹脂の複合体を得た。複合体中の炭素繊維の含有量は、50重量%であった。複合体の熱膨張係数は、1×10−6/℃で、熱伝導率は4W/m・K、荷重たわみ温度は280℃であった。
【0050】
次に得られた繊維と熱可塑性樹脂からなる複合体を、幅100mm、長さ100mmの平坦な板状にカットし、リブ形状を有する金型(幅1.5mm、高さ5mm、長さ90mmのリブを形成する金型)に埋設した。金型の温度は180℃であった。ダイカストマシンを用いて、アルミニウム合金を650℃、射出速度2m/秒で射出鋳造し、炭素繊維と熱可塑性樹脂からなる複合体に、アルミニウム合金が一体化した金属樹脂成形品を得た(図1)。得られた製品は、反りが無く、金属も樹脂に密着しており、良好な製品であった。
【0051】
[実施例2]
図1の製品を得る金型に代えて、図2のボス形状を有する製品を得る金型(内径φ2mm、外形φ4mm、高さ5mmのボスを形成する金型)を用いた以外は、実施例1と同様な方法で、繊維樹脂複合体にアルミニウム合金が一体化した金属樹脂成形品を得た(図2)。得られた製品は、反りが無く、金属も樹脂に密着しており、良好な製品であった。
【0052】
[実施例3]
実施例2の平坦なシート状の複合体に代えて、幅100mm、長さ100mmにカットした複合体の中心に、φ2mmとφ4mmの段差を有する貫通孔を設けた板状のシート(図3)を用いた以外は実施例2と同様な方法で繊維樹脂複合体にアルミニウム合金が一体化した金属樹脂成形品を得た(図4)。得られた製品は、反りが無く、実施例2よりもさらにボス部が強固に締結した製品であった。
【0053】
[実施例4]
実施例1の平坦なシート状の複合体に代えて、幅100mm、長さ100mmにカットした複合体の端部から10mmの外周に、幅2mm、深さ0.3mmの溝を設けた板状のシート(図5)を、図6のような形状の製品を得る金型を用い、実施例1と同様な方法で、繊維と樹脂からなる複合体の外周部にアルミニウム合金が一体化した製品を得た(図6)。得られた製品は、反りが無く、強固に締結した製品であった。
【0054】
[実施例5]
複合体を構成し樹脂を補強するための繊維として、炭素繊維(東邦テナックス株式会社製「STS40−24K」、4000MPa、平均繊維径7.0μm、繊維幅10mm)を開繊して、繊維幅を20mmとしたものを準備し、カット装置として超硬合金からなる螺旋状ナイフを表面に配置したロータリーカッターを用い、刃のピッチを10mmとし、繊維を走行させながらロータリーカッターにて、繊維長15mmとなるようにカットした。ロータリーカッターの直下に、径の異なるSUS304製のニップルを溶接した二重管を設置し、内側の管に小孔を設け、外側の管との間にコンプレッサーを用いて圧縮空気を送気した。小孔からの風速は、420m/secであった。さらに、その下部にはテーパ管を溶接し、テーパ管の側面より、マトリックス成分である熱可塑性樹脂を供給した。
【0055】
熱可塑性樹脂としては、ポリフェニレンサルファイド樹脂(直鎖型PPS樹脂、ポリプラスチックス株式会社製「フォートロン W−202A」、融点280℃)を冷凍粉砕し、更に、20メッシュ、及び100メッシュにて分級した粒子を用いた。このPPSパウダーの平均粒径は約700μmであった。
【0056】
次に、テーパ管出口の下部に、XY方向に移動可能なテーブルを設置し、テーブル下部よりブロワにて吸引を行った。そして、繊維の供給量を200g/min、マトリックス樹脂の供給量を300g/min、にセットし、装置を稼動して、炭素繊維とPPS樹脂が混合された繊維の目付け量が240g/mのランダムマットを得た。得られたランダムマットを4枚積層し、320℃に加熱したプレス装置にて、3MPaにて3分間加熱し、厚み2mmのPPS樹脂をマトリックス樹脂とする炭素繊維と熱可塑性樹脂からなる複合体を得た。炭素繊維の含有量は、40重量%であった。複合体の熱膨張係数は、5×10−6/℃で、熱伝導率は2W/m・K、荷重たわみ温度は280℃であった。
【0057】
この複合体を用いた以外は実施例3と同様にして、繊維樹脂複合体にアルミニウム合金が一体化した金属樹脂成形品を得た(図4)。得られた製品は、反りが見られず、さらにボス部が強固に締結した製品であった。
【0058】
[実施例6]
熱可塑性樹脂として、実施例1のポリフェニレンサルファイド樹脂に代えて、ポリアミド樹脂(ナイロン6樹脂、宇部興産株式会社製「UBEナイロン 1015Bペレット」、融点220℃、荷重たわみ温度65℃)を用いた厚み100μm、幅200mm、長さ200mmのナイロン6フィルムを準備した。
【0059】
樹脂補強用の繊維は実施例1と同じ炭素繊維織物(東邦テナックス株式会社製「W−3101」、厚み0.25mm、平織、幅200mm、長さ200mm)を準備した。
【0060】
実施例1と同様に幅200mm、長さ200mmの平板の金型に炭素繊維織物を1枚、ナイロン6フィルムを2枚の割合で、順に炭素繊維織物を7枚、ナイロン6フィルムを14枚となるようにセットし、ただし型温度は260℃に上げ、面圧3MPaで、15分間260℃で保持した後、金型を100℃まで冷却し、厚み2mmのナイロン6樹脂をマトリックス樹脂とする炭素繊維強化熱可塑性樹脂の複合体を得た。複合体中の炭素繊維の含有量は、50重量%であった。複合体の熱膨張係数は、1×10−6/℃で、荷重たわみ温度は220℃あった。
【0061】
次に得られた繊維と熱可塑性樹脂からなる複合体を、幅100mm、長さ100mmにカットし、ボス形状の金型(φ3mm、高さ5mmのボスを形成する金型)を用い、繊維樹脂複合体にアルミニウム合金が一体化した金属樹脂成形品を得た(図4)。得られた製品は、反りが無く、ボス部が強固に締結した製品であった。
【0062】
[実施例7]
熱可塑性樹脂として、実施例6のポリアミド樹脂(ナイロン6)に代えて、PBT樹脂(ポリプラスチックス株式会社製「ジェラネックス 500FPペレット」、融点225℃)を用いた以外は、実施例6と同様にして繊維樹脂複合体にアルミニウム合金が一体化した金属樹脂成形品を得た(図4)。得られた製品は、反りが無く、ボス部が強固に締結した製品であった。
【0063】
[実施例8]
熱可塑性樹脂として、実施例6のポリアミド樹脂(ナイロン6)樹脂に代えて、ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂、SABICイノベーティブプラスチックス社製「ULTEM 1000ペレット」)を用いた厚み100μm、幅200mm、長さ200mmのPEIフィルムを準備した。
【0064】
樹脂補強用の繊維は実施例6と同じ炭素繊維織物(東邦テナックス株式会社製「W−3101」、厚み0.25mm、平織、幅200mm、長さ200mm)を準備した。
【0065】
実施例6と同様に幅200mm、長さ200mmの平板の金型に炭素繊維織物を1枚、PEIフィルムを2枚の割合で、順に炭素繊維織物を7枚、PEIフィルムを14枚となるようにセットし、ただし型温度は340℃に上げ、面圧3MPaで、15分間340℃で保持した後、金型を150℃まで冷却し、厚み2mmのPEI樹脂をマトリックス樹脂とする炭素繊維強化熱可塑性樹脂の複合体を得た。複合体中の炭素繊維の含有量は、50重量%であった。複合体の熱膨張係数は、1×10−6/℃で、荷重たわみ温度は210℃あった。
【0066】
次に得られた繊維と熱可塑性樹脂からなる複合体を、幅100mm、長さ100mmにカットし、ボス形状の金型(φ3mm、高さ5mmのボスを形成する金型)を用い、繊維樹脂複合体にアルミニウム合金が一体化した金属樹脂成形品を得た(図4)。得られた製品は、反りが無く、ボス部が強固に締結した製品であった。
【0067】
[実施例9]
熱可塑性樹脂として、実施例6のポリアミド樹脂(ナイロン6)樹脂に代えて、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂、帝人化成社株式会社製「パンライト 1250Lペレット」)を用いた厚み100μm、幅200mm、長さ200mmのポリカーボネートフィルムを準備した。
【0068】
樹脂補強用の繊維は実施例6と同じ炭素繊維織物(東邦テナックス株式会社製「W−3101」、厚み0.25mm、平織、幅200mm、長さ200mm)を準備した。
【0069】
実施例6と同様に幅200mm、長さ200mmの平板の金型に炭素繊維織物を1枚、ポリカーボネートフィルムを2枚の割合で、順に炭素繊維織物を7枚、ポリカーボネートフィルムを14枚となるようにセットし、ただし型温度は280℃に上げ、面圧3MPaで、15分間280℃で保持した後、金型を100℃まで冷却し、厚み2mmのポリカーボネート樹脂をマトリックス樹脂とする炭素繊維強化熱可塑性樹脂の複合体を得た。複合体中の炭素繊維の含有量は、50重量%であった。複合体の熱膨張係数は、1×10−6/℃で、荷重たわみ温度は150℃あった。
【0070】
次に得られた繊維と熱可塑性樹脂からなる複合体を、幅100mm、長さ100mmにカットし、ボス形状の金型(φ3mm、高さ5mmのボスを形成する金型)を用い、金型の温度を180℃、ダイカストマシンを用いて、アルミニウム合金を650℃で射出鋳造した後、金型の温度を130℃に冷却し、繊維樹脂複合体にアルミニウム合金が一体化した金属樹脂成形品を得た(図4)。得られた製品は、反りが無く、ボス部が強固に締結した製品であった。
【0071】
[実施例10]
複合体を構成し樹脂を補強するための繊維として実施例8の炭素繊維織物の代わりに、ガラス繊維織物(日東紡績株式会社製「WF230N100」、目付け200g/m、厚み0.22mm)を準備した。
【0072】
熱可塑性樹脂としては、実施例8で用いたポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂、SABICイノベーティブプラスチックス社製「ULTEM 1000ペレット」)を用いた厚み100μm、幅200mm、長さ200mmのPEIフィルムを準備した。
【0073】
実施例8と同様に幅200mm、長さ200mmの平板の金型を用い、ただしガラス繊維織物を1枚、PEIフィルムを2枚の割合で、順にガラス繊維織物を9枚、PEIフィルムを18枚となるようにセットし、型温度は340℃に上げ、面圧3MPaで、15分間340℃で保持した後、金型を150℃まで冷却し、厚み2mmのPEI樹脂をマトリックス樹脂とするガラス繊維強化熱可塑性樹脂の複合体を得た。複合体中のガラス繊維の含有量は、40重量%であった。
【0074】
次に得られた繊維と熱可塑性樹脂からなる複合体を、幅100mm、長さ100mmにカットし、ボス形状の金型(φ3mm、高さ5mmのボスを形成する金型)を用い、繊維樹脂複合体にアルミニウム合金が一体化した金属樹脂成形品を得た(図4)。得られた製品は、反りが若干みられるものの、十分実用性に耐えるレベルの製品であった。
【0075】
[比較例1]
樹脂を補強するための繊維を用いなかった以外は実施例6と同様にして、ナイロン6樹脂(熱膨張係数は80×10−6/℃、熱伝導率は0.2W/m・K、荷重たわみ温度65℃)からなるシートを作成し、そのシートを複合体の代わりに用いた以外は実施例6と同様にして樹脂シートにアルミニウム合金が一体化した、繊維を含まない金属樹脂成形品を得た(図4)。得られた製品は反りが多く、また金属と樹脂との間に微細な隙間が生じ、実用に耐えないものであった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6