特許第5891470号(P5891470)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5891470
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】シリコンインゴットの切断方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 27/06 20060101AFI20160310BHJP
   B28D 5/04 20060101ALI20160310BHJP
   H01L 21/304 20060101ALN20160310BHJP
【FI】
   B24B27/06 E
   B28D5/04 C
   !H01L21/304 611W
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-501955(P2014-501955)
(86)(22)【出願日】2012年9月7日
(86)【国際出願番号】JP2012072915
(87)【国際公開番号】WO2013128688
(87)【国際公開日】20130906
【審査請求日】2014年10月6日
(31)【優先権主張番号】特願2012-47171(P2012-47171)
(32)【優先日】2012年3月2日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)【国等の委託研究の成果に係る記載事項】 平成24年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「新エネルギーベンチャー技術革新事業」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】598031268
【氏名又は名称】株式会社クリスタル光学
(73)【特許権者】
【識別番号】508364554
【氏名又は名称】株式会社ツールバンク
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100080182
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 三彦
(72)【発明者】
【氏名】村田 順二
(72)【発明者】
【氏名】桐野 宙治
【審査官】 大山 健
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−298280(JP,A)
【文献】 特開2005−112917(JP,A)
【文献】 米国特許第04343662(US,A)
【文献】 特開2004−047952(JP,A)
【文献】 特開2012−015181(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 27/06
B28D 5/04
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定砥粒を用いていない金属製ワイヤに砥粒を含まないエッチング液を供給した状態で、前記金属製ワイヤをシリコンインゴットに押し当てながら走行させることにより、前記シリコンインゴットを切断するシリコンインゴットの切断方法であって、
前記金属製ワイヤは、ステンレス線又はピアノ線表面がクロム合金で覆われた線で形成されており、
前記金属製ワイヤを電気加熱により加熱した状態で、前記シリコンインゴットに押し当てながら走行させることにより、前記シリコンインゴットを切断することを特徴とするシリコンインゴットの切断方法。
【請求項2】
前記電気加熱は、高周波加熱、マイクロ波加熱、赤外線誘導加熱、又は電気抵抗加熱であることを特徴とする請求項1に記載のシリコンインゴットの切断方法。
【請求項3】
前記エッチング液は、フッ硝酸を主成分とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のシリコンインゴットの切断方法。
【請求項4】
前記フッ硝酸は、硝酸濃度が40wt%以上60wt%以下、フッ酸濃度が10wt%以下(0を含まず)とすることを特徴とする請求項に記載のシリコンインゴットの切断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンインゴットの切断方法に関し、特にワイヤを用いて切断を行うシリコンインゴットの切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコンインゴットからシリコンウェーハを切り出す場合における切断手段として、ワイヤソーを用いることが知られている(例えば、特許文献1参照)。このワイヤソーでは、複数のガイドローラ間に巻回されたワイヤ列を走行させ、そのワイヤ列に遊離砥粒が含有されたスラリーを供給しながら、シリコンインゴットをワイヤ列に押し当てることによって、遊離砥粒の機械的作用(研削作用)により、シリコンインゴットから同時に複数枚のシリコンウェーハを切り出すことができる。しかしながら、このようなワイヤソーでは、遊離砥粒が含有されたスラリーを用いるため、廃液処理等の取り扱いが容易でないという問題がある。
【0003】
そこで、近年は、遊離砥粒を含有させたスラリーを用いなくても直接シリコンインゴット等の切断が行えるように、ワイヤにダイヤモンド砥粒等を樹脂や電着法等で固着させた固定砥粒方式のダイヤモンドワイヤが用いられている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、直流電源装置によって電解液に浸漬された状態のシリコンインゴットを陽極に帯電させ、電極線を陰極に帯電させて、該電極線によりシリコンインゴットをスライス加工する電解作用を利用した加工装置が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
また、切断領域にエッチング液を供給して、複数の切断用ワイヤを有するマルチワイヤソーによってシリコンインゴットを切断する方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。また、金属板から湿式エッチング法により金属製品を製造する方法において、滑らかでバリのない仕上げ面を形成するために、エッチング液を塗布したワイヤを長手方向に駆動し、該ワイヤ側面に被加工材料を押し当てて、ワイヤと被加工材料の摩擦熱によりワイヤに塗布したエッチング液を昇温することが提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−224266号公報
【特許文献2】特開2007−203417号公報
【特許文献3】特開2010−274399号公報
【特許文献4】米国特許第4343662号明細書
【特許文献5】特開平02−298280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のように遊離砥粒を含有させたスラリーを用いるものや特許文献2のようにワイヤにダイヤモンド砥粒等を固着させた固定砥粒方式のダイヤモンドワイヤを用いるものでは、砥粒の機械的作用によりシリコンインゴットを切断しているため、切り出されたシリコンウェーハの表面にダメージが残る。また、近年、より薄膜のシリコンウェーハが求められているが、特許文献1及び特許文献2では、砥粒の機械的作用によりシリコンインゴットを切断するので、シリコンウェーハを薄膜化するのが難しいという問題がある。また、特許文献3では、電解液を用いて加工処理を行うので、電解作用をコントロールするための制御及び廃液処理等が容易ではないため、処理が複雑になる。また、特許文献4では、切断領域にエッチング液を供給して、マルチワイヤソーによってシリコンインゴットの切断を行うだけであるので、エッチングを効率的に促進することができない。また、特許文献5では、ワイヤと被加工材料の摩擦熱によりワイヤに塗布したエッチング液を加熱するので、ワイヤを高速に走行させる必要があるため、ワイヤが磨耗し易くなる。また、所定の温度に達するまでに多くの時間を要するとともに温度調整が困難であるため、このような摩擦熱等の機械的な作用による加熱方式を用いた場合には作業効率が悪くなるという問題がある。
【0008】
本発明は、上記のような種々の課題に鑑みてなされたものであって、砥粒を用いることなく、簡易な処理でシリコンインゴットの切断を効率的に行うことができるとともに、シリコンウェーハの表面のダメージを軽減し、且つ薄膜化を図ることができるシリコンインゴットの切断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による第1のシリコンインゴットの切断方法は、金属製ワイヤにエッチング液を供給した状態で、前記金属製ワイヤをシリコンインゴットに押し当てながら走行させることにより、前記シリコンインゴットを切断するシリコンインゴットの切断方法であって、前記金属製ワイヤは、ステンレス線又はピアノ線表面がクロム合金で覆われた線で形成されており、電気加熱により加熱されることを特徴としている。
【0010】
本発明による第2のシリコンインゴットの切断方法は、前記電気加熱が、高周波加熱、マイクロ波加熱、赤外線誘導加熱、又は電気抵抗加熱であることを特徴としている。
【0011】
本発明による第3のシリコンインゴットの切断方法は、前記金属製ワイヤが、ニクロム線、ピアノ線表面にニッケルクロムめっきが施された線、ピアノ線表面がクロム合金で覆われた線、あるいは表面がクロム合金で覆われた高張力線で形成されていることを特徴としている。高張力線としては、通常の鋼線の他、銅線、タングステン線、モリブデン線、エナメル線等を使用することができる。
【0012】
本発明による第4のシリコンインゴットの切断方法は、前記エッチング液が、フッ硝酸を主成分とすることを特徴としている。
【0013】
本発明による第5のシリコンインゴットの切断方法では、前記フッ硝酸は、硝酸濃度が40wt%以上60wt%以下、フッ酸濃度が10wt%以下(0を含まず)とすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
第1のシリコンインゴットの切断方法によれば、金属製ワイヤにエッチング液を供給しながら、この金属製ワイヤによってシリコンインゴットを擦過することで、砥粒を用いることなく、エッチング液の化学的作用とワイヤの機械的作用によりシリコンインゴットの切断を効率的に行い、加工速度を向上させることができる。また、砥粒を用いることなくシリコンインゴットの切断を行うことができるので、シリコンウェーハの表面のダメージを軽減することができるとともに、薄膜のシリコンウェーハを作製することができる。また、金属製ワイヤは、電気加熱される。従って、金属製ワイヤを必要以上に高速に走行させることなく効率的に加熱することができるので、金属ワイヤの過度な磨耗を抑制しつつエッチングを促進して、更に加工速度を向上させることができる。
【0015】
第2のシリコンインゴットの切断方法によれば、前記電気加熱は、高周波加熱、マイクロ波加熱、赤外線誘導加熱、又は電気抵抗加熱であるので、簡易且つ高速に金属製ワイヤを加熱してエッチングを促進し、加工速度をより向上させることができる。
【0016】
第3のシリコンインゴットの切断方法によれば、金属製ワイヤが、ニクロム線、ピアノ線表面にニッケルクロムめっきが施された線、ピアノ線表面がクロム合金で覆われた線、あるいは表面がクロム合金で覆われた高張力線で形成されることにより、効率的に加熱することができるので、エッチングをより効率的に促進し、加工速度を向上させることができる。また、金属製ワイヤとしてニクロム線を用いることにより、加工処理に掛かるコストを軽減することができる。
【0017】
第4のシリコンインゴットの切断方法によれば、エッチング液としてフッ硝酸を主成分とするものを用いることにより、シリコンインゴットに対して、より効率的に化学的作用を与えることができるので、加工速度を向上させることができる。
【0018】
第5のシリコンインゴットの切断方法によれば、前記フッ硝酸において、カーフロスに影響するフッ酸濃度を10wt%以下(0を含まず)に抑えることにより、シリコンインゴットの切断時のカーフロス(切断代)を軽減するとともに、カーフロスにあまり影響しない硝酸濃度を40wt%以上60wt%以下とすることにより、カーフロスを軽減しつつ加工速度を更に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】加工装置を用いた本発明に係るシリコンインゴットの切断方法の一例について説明するための概略説明図である。
図2】フッ硝酸に対する加工速度・カーフロスの関係を示すグラフであって、(a)は加工速度・カーフロスの硝酸濃度依存性を示すものであり、(b)は加工速度・カーフロスのフッ酸濃度依存性を示すものである。
図3】本発明に係るシリコンインゴットの切断方法を用いた場合のシリコンインゴットの切断状態について説明するための概略断面図である。
図4】ワイヤ走行速度と加工速度との関係を示すグラフである。
図5】電熱作用と加工速度との関係を示すグラフである。
図6】本発明にシリコンインゴットの切断方法を用いた場合のシリコンインゴットの切断状態を示す図であって、(a)は切断溝を示すものであり、(b)は切断溝の一部を拡大した形状を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るシリコンインゴットの切断方法について、図面を参照しつつ説明する。本発明に係るシリコンインゴットの切断方法は、例えば図1に示すような加工装置1を用いてシリコンインゴット2を切断するものであって、一方のリール3aから金属製ワイヤ(以下、ワイヤという)4が繰り出され、該ワイヤ4にエッチング供給部5からエッチング液6が供給された状態で、ワイヤ4をガイドローラ7a、7bによってシリコンインゴット2に押し当てながら走行させることによりシリコンインゴット2をウェハ状に切断する。その後、シリコンインゴット2を通過したワイヤ4は、ガイドローラ7bを介して他方のリール3bによって巻き取られる。また、加工装置1は、シリコンインゴット2を固定する支持台8と、ガイドローラ7a、7bを介してワイヤ4を通電させる電源9と、ワイヤ4へと供給されたエッチング液6を回収する回収タンク10とを備えている。
【0021】
シリコンインゴット2は、例えば不図示のカーボンベッド等を介して支持台8に下面が固定されている。支持台8は、不図示の駆動モータ等によって上下方向に昇降可能に設けられており、シリコンインゴット2を固定させた状態で支持台8を上昇させることで、走行するワイヤ4にシリコンインゴット2が押し当てられる。
【0022】
リール3a、3bは、それぞれ不図示の駆動モータ等によってワイヤ4を繰り出し又は巻き取りするためのものである。図1では、矢印方向にワイヤ4が走行するように、リール3bがワイヤ4を巻き取るための巻き取りリールとして機能し、リール3aはワイヤを繰り出すための繰り出しリールとして機能する場合の例を示しているが、ワイヤ4がリール3bに所定距離分以上巻き取られた後は、駆動モータによって逆方向にリール3a、3bを回転させることにより、矢印と逆方向にワイヤ4を走行させてシリコンインゴット2を切断することができる。
【0023】
ワイヤ4は、シリコンインゴット2に押し当てられながら走行することによって、シリコンインゴット2を擦過して機械的作用により切断するためのものである。このワイヤ4としては、例えば、ニクロム線により形成されたものを用いることができる。ニクロム線は、エッチング液6としてフッ硝酸等を用いた場合にも溶解しないとともに、比較的安価に入手することができるので、コストを軽減することができる。また、ニクロム線は、電熱線として用いられるものであり、優れた電熱作用を有しているので、電源9によって通電させることによって容易に電気抵抗加熱させることができる。尚、ニクロム線と同様に電熱線として従来から用いられているカンタル線等をワイヤ4として用いても良い。また、その他、ワイヤ4としては、白金(Pt)やチタン(Ti)等により形成されたものやピアノ線等の鋼線の表面にニクロムクロムめっきが施された線、あるいはピアノ線表面がクロム合金で覆われた線等を用いることができるが、必ずしもこれらに限定されるものではなく、耐熱性及びエッチング液6に対して耐酸性のある膜をコーティングした線や耐熱性及びエッチング液6に対して耐(腐)食性のある金属製の線であれば良く、表面がクロム合金で覆われた高張力線を好適に用いることができる。高張力線としては、例えば、通常の鋼線の他、銅線、タングステン線、モリブデン線、エナメル線等を使用することができる。また、ワイヤ4としては、前述のピアノ線の代わりに金属線表面にニッケルクロムめっきが施された線、金属線表面がクロム合金で覆われた線、ステンレス線等のクロム合金線等を用いても良い。また、前述の高張力線をそのままワイヤ4として用いることも可能である。
【0024】
ワイヤ4の直径としては、0.01〜0.5mm程度のものを用いることが好ましい。ニクロム線の場合には、例えば、最も細いものとして0.025mmのものを用いることができる。これにより、カーフロスを軽減するとともに、表面にダメージの少ないシリコンウェーハを作製することができる。
【0025】
エッチング液供給部5は、走行するワイヤ4に対してエッチング液6を供給するためのものであり、走行するワイヤ4がシリコンインゴット2を切断する切断位置の上方に配置されている。このエッチング液供給部5は、詳しくは図示しないが、走行するワイヤ4へ満遍なくエッチング液6を供給するための噴出口が複数形成されており、エッチング液6が貯蔵されているエッチング液貯蔵タンクからポンプやホース等を介して所定流量のエッチング液6を噴出口から切断位置のワイヤ4に対して供給する。また、シリコンインゴット2の下方へと落ちたエッチング液6は、支持台8の下方に設けられた回収タンク10に溜められ回収される。
【0026】
エッチング液供給部5からワイヤ4に供給されるエッチング液6としては、例えば、シリコンウェーハ製造工程のエッチング工程等で用いられるシリコン(Si)の等方性エッチングが可能なフッ硝酸を所定量の酢酸(例えば、フッ酸:硝酸:酢酸=1:3:8の割合)で希釈したエッチング液6を用いる。また、フッ硝酸を希釈するために添加する弱酸として、酢酸の他にリン酸やホウ酸等を用いても良い。このように、フッ硝酸にこれらの弱酸を添加することにより、エッチング面の粗さを改善することができる。図2は、フッ硝酸の硝酸(HNO)濃度及びフッ酸(HF)濃度が、シリコンインゴット2を切断する際の加工速度とカーフロスに及ぼす影響を示すものであり、それぞれワイヤ4を100m/minで走行させた場合の加工速度とカーフロスを縦軸に示している。図2(a)は、フッ酸濃度を4wt%とし、硝酸濃度を変更させた場合の加工速度とカーフロスを示しており、図2(b)は、硝酸濃度を20wt%とし、フッ酸濃度を変更させた場合の加工速度とカーフロスを示している。図2(a)に示すように、硝酸濃度を上げていった場合には、加工速度は向上するが、カーフロスはほとんど変化しない。つまり、フッ硝酸の硝酸濃度は、カーフロスにあまり影響していない。一方、図2(b)に示すように、フッ酸濃度を上げていった場合には、加工速度が向上するとともに、カーフロスも増えてしまう。従って、本発明のシリコンインゴット2の切断方法では、フッ酸濃度を10wt%以下(0を含まず)に抑え、硝酸濃度を40wt%以上60wt%以下としたフッ硝酸を用いることが好ましく、より好ましくはフッ酸濃度を0.5wt%以上6wt%以下、硝酸濃度を40wt%以上60wt%以下のフッ硝酸を用いる。これにより、このフッ硝酸の化学的作用とワイヤ4の機械的作用によりシリコンインゴット2の切断を効率的に行うことができるので、加工速度を向上させることができるとともに、カーフロスを軽減させることができる。尚、エッチング液6は、必ずしもフッ硝酸に限定されるものではなく、例えば、過酸化水素水、リン酸、硫酸、過マンガン酸カリウム、過硫酸カリウム、オゾン水等の酸化剤とフッ酸、フッ化アンモニウム、フッ化水素アンモニウム等の酸化膜を溶解する薬液の混合液、あるいは水酸化カリウム、4メチル水酸化アンモニウム(TMAH)等の塩基性薬液等の従来公知のエッチング液6を用いても良い。
【0027】
ガイドローラ7a、7bは、ワイヤ4をシリコンインゴット2に押し当てた状態で走行するように案内するためのものである。このガイドローラ7a、7bの外周面には、例えば、その円周方向に沿って複数のワイヤ溝(不図示)が形成されている。ワイヤ溝は、所定ピッチで形成されており、このワイヤ溝に複数のワイヤ4がそれぞれ巻き付けられて所定ピッチのワイヤ列が形成され、このワイヤ列をシリコンインゴット2に押し当てながら走行させることにより、図3に示すように、シリコンインゴット2を複数同時に切断することができる。
【0028】
また、ワイヤ4にエッチング液6を供給しながら、シリコンインゴット2を切断する際の加工速度は、図4に示すように、ガイドローラ7a、7b間を走行するワイヤ4の走行速度に依存するため、ワイヤ4を100m/min以上で走行させることが好ましい。図4は、エッチング液6として、フッ酸濃度:4wt%、硝酸濃度:60wt%のフッ硝酸を用いたシリコンインゴット2の切断時におけるワイヤ4の走行速度と加工速度との関係を示すものである。この図4に示すように、シリコンインゴット2を切断する際の加工速度は、ワイヤ4の走行速度に依存しており、ワイヤ4の走行速度が速くなるのに伴って、加工速度も上昇する。そのため、本発明のシリコンインゴット2の切断方法では、ワイヤ4を100m/min以上、より好ましくは200m/min以上で走行させることにより、エッチングを機械的に促進し、加工速度を向上させることができる。
【0029】
電源9は、導電性のガイドローラ7a、7bを介してワイヤ4を通電により電気抵抗加熱させるためのものである。この電源9によって所定の電圧が、ガイドローラ7a、7b間に加えられることにより、ガイドローラ7a、7b間を走行するワイヤ4に電流が流れる。これにより、ジュール熱が発生し、ワイヤ4が所定温度に加熱される。また、ワイヤ4としてニクロム線を用いた場合には、電熱作用に優れているので、効率的に加熱させることができる。
【0030】
図5は、電源9によって10Vの電圧を加えることにより、ニクロム線で形成された線径が160μmのワイヤ4に0.55Aの電流を流して加熱させた状態でシリコンインゴット2を切断した際の加工速度とワイヤ4を通電していない状態の加工速度とを示している。ここでは、エッチング液6として、フッ酸濃度:4wt%、硝酸濃度:60wt%のフッ硝酸を用いて、ワイヤ4の走行速度を10m/minとしてシリコンインゴット2の切断を行った結果を示している。図5に示すように、ワイヤ4を通電させて加熱させた場合には、ワイヤ4を通電させなかった場合に比べて、電熱作用によってエッチングが熱的に促進され、加工速度が5倍以上向上している。尚、ワイヤ4を加熱するための機構は、これに限定されるものではなく、例えば、加熱ヒータ等によりワイヤ4を加熱するようにしても良い。
【0031】
尚、図1では、切断位置の上方からエッチング液供給部5によってワイヤ4へエッチング液6を供給しているが、ワイヤ4の走行方向の上流側であるガイドローラ7a側にエッチング液供給部5を配置し、ワイヤ4に対してエッチング液6を供給するようにしても良い。また、エッチャント浴等に予めエッチング液6を溜めておき、その中にシリコンインゴット2を浸漬させて、ワイヤ4をこのエッチャント浴内を走行させることにより、ワイヤ4にエッチング液6が供給された状態でシリコンインゴット2を擦過するようにしても良い。
【0032】
また、図1では、導電性のガイドローラ7a、7bを介してワイヤ4を通電により電気抵抗加熱させているが、ワイヤ4の電気加熱方式は、これに限定されるものではなく、高周波加熱、マイクロ波加熱、赤外線誘導加熱等の高速加熱方法を好適に用いることができる。このように、機械的な作用のワイヤ4の摩擦による加熱ではない加熱方式によって、ワイヤ4を必要以上に高速に走行させることなく効率的に加熱することができる。これにより、ワイヤ4の過度な磨耗を抑制しつつエッチングを熱的に促進して、加工速度を向上させることができる。また、その他、電子ビーム加熱、レーザ加熱等の従来公知の種々の電気加熱方式を適宜用いても良い。また、複数のワイヤ4を支持するガイドローラ7a、7bを加熱して、伝導でワイヤ4を加熱するよう構成しても良い。
【0033】
次に、本発明のシリコンインゴット2の切断方法を用いた場合のシリコンインゴット2の切断状態について説明する。図6は、太陽電池用の150mm角の四角柱状のシリコンインゴット2を下記の表1に示す加工条件にてスライス加工した際の切断状態を示すものである。表1に示すように、線径が160μmのニクロム線から形成されるワイヤ4を用いてシリコンインゴット2の切断を行った場合には、図6(a)に示すように、切断溝のカーフロスWは175μmであり、ワイヤ4によってシリコンインゴット2が機械的に擦過された方向に直交する横方向にはほとんど広がることなく、シリコンインゴットを切断することができている。また図6(b)は、図6(a)の切断溝の円で囲む箇所の一部を拡大したものであり、図6(b)に示すように、切断面形状は従来の砥粒による研削作用により切断した場合に比べてダメージが少なく、滑らかに切断することができている。従って、このような本発明のシリコンインゴットの切断方法を用いることにより、薄膜のシリコンウェーハを作製することができる。また、ワイヤ4として、線径がより小さいものを用いることによって、カーフロスを更に軽減することができる。また、ワイヤ4の走行速度を上げるとともに、ワイヤ4を通電させて加熱することにより、エッチングを機械的及び熱的に促進することで、加工速度を向上させることができる。
【0034】
【表1】
【0035】
尚、本発明の実施の形態は上述の形態に限るものではなく、本発明の思想の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0036】
2 シリコンインゴット
4 ワイヤ
6 エッチング液
図1
図2
図3
図4
図5
図6