(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステルとは、主鎖における主要な結合をエステル結合とする高分子化合物の総称である。そして、ポリエステル樹脂は、通常ジカルボン酸あるいはその誘導体とグリコールあるいはその誘導体を重縮合反応させることによって得ることができる。
【0010】
本発明では、アルミニウム箔を積層した後の成型追従性、耐熱性、寸法安定性、耐電解液性、コストの点から、ポリエステルを構成するグリコール単位の60モル%以上がエチレングリコール由来の構造単位であり、ジカルボン酸単位の60モル%以上がテレフタル酸由来の構造単位であることが好ましい。なお、ここで、ジカルボン酸単位(構造単位)あるいはジオール単位(構造単位)とは、重縮合によって除去される部分を除かれた2価の有機基を意味し、以下の一般式で表される。
【0011】
ジカルボン酸単位(構造単位): −CO−R−CO−
ジオール単位(構造単位): −O−R’―O−
(ここで、R、R’は二価の有機基。RとR’は同じであっても異なっていてもよい。)
なお、トリメリット酸単位やグリセリン単位など3価以上のカルボン酸、あるいは、アルコール、並びに、それらの誘導体についての単位(構造単位)の意味についても同様である。
【0012】
本発明に用いるポリエステルを与える、グリコールあるいはその誘導体としては、エチレングリコール以外に、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジヒドロキシ化合物、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、スピログリコールなどの脂環族ジヒドロキシ化合物、ビスフェノールA、ビスフェノールSなどの芳香族ジヒドロキシ化合物、並びに、それらの誘導体が挙げられる。
【0013】
また、本発明に用いるポリエステルを与えるジカルボン酸あるいはその誘導体としては、テレフタル酸以外には、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、マレイン酸、フマル酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、パラオキシ安息香酸などのオキシカルボン酸、並びに、それらの誘導体を挙げることができる。ジカルボン酸の誘導体としてはたとえばテレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、テレフタル酸2−ヒドロキシエチルメチルエステル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、ダイマー酸ジメチルなどのエステル化物を挙げることができる。
【0014】
本発明のポリエステルフィルムは、アルミニウム箔を積層後の成型追従性の点から25℃におけるフィルムの長手方向および幅方向の5%伸長時応力(F5値)、および、10%伸長時応力(F10値)がそれぞれ下記(I)、(II)式を満たすことが必要である。
1.5≧F10
MD/F5
MD≧1 ・・・(I)
1.5≧F10
TD/F5
TD≧1 ・・・(II)
ここで、F10
MD、F5
MD、F10
TD、F5
TDとは、試験長50mmの矩形型に切り出したフィルムサンプルを25℃、63%Rhの条件下で、300mm/分のひずみ速度で引張試験を行った際のそれぞれ長手方向の10%伸長時の応力、5%伸長時の応力、および、幅方向の10%伸長時の応力、5%伸長時の応力を示し、単位はそれぞれMPaである。なお、ここでフィルムの長手方向と、幅方向は、フィルムの任意の一方向(0°)、該方向から15°、30°、45°、60°、75°、90°、105°、120°、135°、150°、165°の方向の屈折率を測定し、最も屈折率の高かった方向を幅方向とし、幅方向と直交する方向を長手方向とした。
なお、本発明においては、その他の物性についても長手方向、幅方向は上記のように定義する。
【0015】
(I)、(II)式を満たすということは、変形初期の段階で応力が途中で大きく降下しない、つまり明確な降伏点を示さないことを表している。ポリエステルフィルムがこのような物性を示すためには、分子鎖の配向が均一に、高度に進行していることが重要であり、このような構造を形成させることで、フィルムを伸長させる際に延性変形や不均一な変形が発生しにくくなり、明確な降伏点を示さないフィルムとなる。
【0016】
本発明者らは、変形初期の段階で、明確な降伏点を示さないことで、アルミニウム箔といった金属箔を積層後に成型させた際の成型追従性が格段に向上することを見出した。このメカニズムについては明確に解明できていないが、本発明者らは次のように推定している。アルミニウム箔はもともと非常に変形しにくい材料であるため、フィルムに追従して変形されるが、フィルム変形時に明確な降伏点がある、つまり応力が大きく変化する変曲点があると、アルミニウム箔がその応力変化に追従できずに破断しやすくなる。このため、(I)(II)式を満たし、変形初期の段階で明確な降伏点を示さないことで、アルミニウム箔がフィルムの変形にそって追従変形できるものと推定している。
【0017】
F10
MD/F5
MD、F10
TD/F5
TDが1未満の場合は、アルミニウム箔を積層した後の成型追従性が劣ってしまう一方で、F10
MD/F5
MD、F10
TD/F5
TDを1.5より大きくしようとすると分子鎖の配向を非常に高度に進行させる必要があるため、僅かな異物、欠点があっても製膜中にフィルムが破れてしまい、著しく製膜性が低下してしまう。
【0018】
本発明のポリエステルフィルムは、アルミニウム箔を積層後の成型追従性および、製膜性の点から25℃におけるフィルムの長手方向および幅方向の5%伸長時応力(F5値)および、10%伸長時応力(F10値)がそれぞれ下記(I)’、(II)’式を満たすことが好ましく、(I)”、(II)”式を満たすことが最も好ましい。
1.2≧F10
MD/F5
MD≧1.05 ・・・(I)’
1.2≧F10
TD/F5
TD≧1.05 ・・・(II)’
1.2≧F10
MD/F5
MD≧1.1 ・・・(I)”
1.2≧F10
TD/F5
TD≧1.1 ・・・(II)”
一般工業用に用いられているポリエステルフィルムは、変形初期の段階で応力が途中で大きく降下する降伏現象がみられ、例えば、一般的なポリエチレンテレフタレートフィルムのF10
MD/F5
MD、F10
TD/F5
TDは、0.95〜0.98を示し、共重合成分を含んでいくと、さらに低くなる傾向となる。数値だけを比較すると、(I)、(II)式を満たすポリエステルフィルムと、一般的なポリエチレンテレフタレートフィルムとの物性差は大きくないようにみられるが、明確な降伏現象がみられるか否かで、実際のフィルムの構造、物性が大きく異なる。
【0019】
本発明のポリエステルフィルムにおいて、(I)(II)式を満たす方法としては、グリコール単位の90モル%以上がエチレングリコール由来の構造単位であることが好ましく、さらに好ましくは95モル%以上である。また、ジカルボン酸単位の90モル%以上がテレフタル酸由来の構造単位、もしくは2,6−ナフタレンジカルボン酸由来の構造単位であることが好ましく、95モル%以上であればさらに好ましい。生産性、コストの観点からは、ジカルボン酸単位の90モル%以上がテレフタル酸由来の構造単位であることが好ましく、95モル%以上であればさらに好ましい。最も好ましい態様としては、グリコール単位の95モル%以上がエチレングリコール由来の構造単位であり、かつ、ジカルボン酸単位の95モル%以上がテレフタル酸由来の構造単位である。上記のような組成とすることで、ホモのポリエチレンテレフタレートに近い組成となるため、分子鎖の均一配向を阻害する成分が少なくなるため、好ましい。
【0020】
また、本発明のフィルムを製膜する工程において、Tダイより冷却ドラム上にシート状に吐出、押出することで未延伸シートを得るが、その際、ワイヤー状電極、テープ状電極もしくは針状電極を使用して静電印加し冷却ドラムに密着する方法、冷却ドラムと押出したポリマーシート間に水膜を設けたキャスト法、もしくはこれらの方法を複数組み合わせた方法によりシート状ポリマーを冷却ドラムに密着させ冷却固化し未延伸フィルムを得ることができる。
【0021】
本発明のポリエステルフィルムは、このキャスト工程において、(I)(II)式を達成するために、冷却ドラムの温度を低温化することが好ましい。具体的にはキャスト温度を0〜10℃、より好ましくは0〜5℃に制御することが好ましい。また、口金から押出されたシートとの密着性、平面性の観点から、冷却ドラムの表面粗さ(最大高さ)は、0.2μm以下であることが好ましく、表面材質はハードクロムメッキであることが好ましい。さらに、冷却性、生産性の観点から、シートの冷却ドラムの通過速度は、5〜30m/分であることが好ましく、シートの冷却ドラムとの接触長さは、1〜3mとすることが好ましい。さらに、静電印加して冷却ドラムに密着させる方法を採用する場合は、電圧は10kV〜20kVとすることが好ましく、12kV〜18kVとすることがさらに好ましい。また、口金リップと冷却ドラム間は、30mm〜50mmとすることが好ましい。キャスト工程にて、上記のような条件を採用することで、未延伸フィルム中に秩序構造が形成されることが防げるため、キャスト工程以降の延伸工程において、分子鎖がより均一に、より高度に配向できるため、(I)(II)式を満足することが可能となる。
【0022】
また、本発明のポリエステルフィルムは、キャスト工程で得られた未延伸フィルムを長手方向に延伸した後、幅方向に延伸する、あるいは、幅方向に延伸した後、長手方向に延伸する逐次二軸延伸方法により、または、フィルムの長手方向、幅方向をほぼ同時に延伸していく同時二軸延伸方法などにより延伸を行うことで得ることができるが、かかる延伸方法における延伸倍率としては、それぞれの方向に、好ましくは、3.5〜4.5倍、さらに好ましくは3.6〜4.2倍、特に好ましくは3.7〜4倍が採用される。また延伸温度は、延伸ムラが生じない程度に低温とすることが好ましく、例えば、長手方向に延伸した後に、幅方向に延伸する逐次二軸延伸方法を採用する場合は、長手方向の予熱温度は50〜60℃、延伸温度は80〜90℃とすることが好ましく、幅方向の予熱温度は70〜80℃、延伸温度は90〜100℃とすることが好ましい。また、延伸は各方向に対して複数回行ってもよい。
【0023】
本発明のポリエステルフィルムはこの延伸工程において、生産性の観点から長手方向に加熱ロールを用いてロールの速度差を利用して延伸した後、テンター式横延伸機にて幅方向に延伸する逐次二軸延伸法が好ましく用いられるが、(I)(II)式を達成するためには、長手方向の延伸の際、予熱温度は50〜60℃と低温とし、延伸温度は80〜90℃に制御することが好ましく、さらに延伸後に冷却ロールを用いて急冷することが好ましい。このとき、冷却ロールの温度は低温であることが好ましく、具体的には0〜15℃、より好ましくは5〜10℃とすることが好ましい。さらにより冷却効率を上げるために、冷却ロールはロール径150mm以上、好ましくは170mm以上のロールを6本以上、好ましくは8本以上とすることが好ましい。また、冷却効率の観点から、冷却ロールの表面粗さ(最大高さ)は、0.4μm以下であることが好ましく、表面材質はハードクロムメッキであることが好ましい。さらに、冷却性、生産性の観点から、長手方向に延伸後に冷却ロールを通過する速度は、20〜150m/分であることが好ましく、冷却ロールとの接触長さは、3〜5mとすることが好ましい。また、ニップロールを用いてもよい。上記の手法を用いて、長手方向への延伸後に一気に急冷を行うことで、配向結晶化していない非晶部の秩序構造形成を抑制することができるため、長手方向延伸後の幅方向延伸時に、より分子鎖の配向が均一に、高度に進行するため、(I)(II)式を満足することが可能となる。
【0024】
また、本発明のポリエステルフィルムは(I)(II)式を達成するためには、幅方向の延伸の際、予熱温度は70〜80℃と低温とし、延伸温度は90〜100℃とすることが好ましい。また、より分子鎖の配向を均一に進行させるために、テンター内の予熱工程、延伸工程の各工程の区画数を増やし、温度を均一に制御する方法が好ましい。具体的には、予熱工程で3室以上、延伸工程で3室以上とし、それぞれの区画ごとに遮蔽板および熱風を遮断するファンを取り付けて区画ごとの温度を制御する方法が好ましく採用される。さらに一区画の長さは、4000mm長以下とすることが好ましい。上記したようなテンターを用いて幅方向の延伸を行うことで、分子鎖の配向が均一に、さらには高度に進行するため、(I)(II)式を満足することができる。
【0025】
また、本発明のポリエステルフィルムは、幅方向に延伸後に、フィルムの熱処理を行うことが好ましい。熱処理はオーブン中、加熱したロール上など従来公知の任意の方法により行うことができる。熱処理は、180℃〜240℃とすることが好ましい。また、熱処理時間は特性を悪化させない範囲において任意とすることができ、好ましくは10〜60秒間、より好ましくは15〜30秒間行うのがよい。さらに、熱処理はフィルムを長手方向および/または幅方向に弛緩させて行ってもよい。
【0026】
本発明のポリエステルフィルムは、アルミニウム箔積層後の成型追従性をさらに向上させるために、25℃におけるフィルムの長手方向および幅方向の10%伸長時応力(F10値)がそれぞれ下記(III)、(IV)式を満たすことが好ましい。
F10
MD≧120MPa ・・・(III)
F10
TD≧120MPa ・・・(IV)
(III)、(IV)式を満たすということは、フィルム変形初期段階での強度が非常に高いことを示している。ポリエステルフィルムがこのような物性を示すためには、特に非晶鎖の緊張度が非常に高いことが重要であり、この非晶緊張度を高くすることで、フィルムを成型させる際に弾性変形から塑性変形に移行しにくくなるため、非常に高い強度を示すフィルムとなる。フィルムが塑性変形を開始すると、ネッキングが発生するため、アルミニウム箔を積層後に成型する際に、アルミニウム箔が追従変形できたとしても細かいピンホール(以下、PH)が発生する場合があるため、(III)(IV)式を満たすことが重要となる。さらに、(III)(IV)式を満たすことで、電池外装用構成体、医薬包装構成体に適用された際の耐衝撃性が良好となるため、非常に好ましい。
本発明のポリエステルフィルムは、アルミニウム箔積層体の成型後のPH発生を抑制させるために、25℃におけるフィルムの長手方向および幅方向の10%伸長時応力(F10値)がそれぞれ下記(III)’、(IV)’式を満たすことが好ましい。
F10
MD≧125MPa ・・・(III)’
F10
TD≧125MPa ・・・(IV)’
本発明のポリエステルフィルムにおいて、(III)(IV)式を満たす方法としては、(I)(II)式を満たす方法が好ましく適用される。特に、非晶緊張度を高めるためには、幅方向の延伸工程前までにできるだけ結晶前駆体のような非晶部の秩序構造の形成を抑制させることが重要であり、キャスト温度を0〜10℃、より好ましくは0〜5℃に制御することが好ましい。また、長手方向の延伸後に冷却ロールを用いて急冷することが好ましく、このときの冷却ロールの温度を0〜15℃、より好ましくは5〜10℃とし、さらに、冷却ロールはロール径150mm以上、好ましくは170mm以上のロールを6本以上、好ましくは8本以上とすることが好ましい。また、フィルムの長手方向、幅方向の延伸倍率としては、それぞれの方向に、3.6〜4.2倍、特に好ましくは3.7〜4倍が採用されることが好ましい。上記した方法を同時に満足させることで、(III)(IV)式を満たすことが可能となる。このような方法にて達成できる本発明のポリエステルフィルムは、一般的に知られている高倍率延伸された高配向ポリエステルフィルムよりも、特に非晶緊張度を高くなるため、(III)(IV)式を満足することが可能となる。
【0027】
本発明のポリエステルフィルムは、アルミニウム箔積層後の成型追従性をさらに向上させるために、25℃におけるフィルムの長手方向および幅方向の10%伸長時応力(F10値)がそれぞれ下記(III)、(IV)式を満たすことが好ましいが、製膜性の観点から、F10
MD、F10
TDの上限値は、200MPa以下であることが好ましく、
コストの観点から170MPa以下であることが好ましく、生産性の観点から150MPa以下であれば最も好ましい。
本発明のポリエステルフィルムは、均一形状成型性の観点から25℃におけるフィルムの長手方向および幅方向の10%伸長時応力がそれぞれ下記(V)式を満たすことが好ましい。
1.2≧F10
MD/F10
TD≧0.8…(V)
(V)式を満たすということは、フィルムの長手方向と幅方向の強度がバランス化されていることを示している。長手方向と幅方向の強度がバランス化することにより、成型する際に均一な形状を得ることが可能となる。(V)式を満たすためには、長手方向と幅方向の延伸倍率を近くする方法が好ましく用いられる。長手方向と幅方向の延伸倍率の差の絶対値(|長手方向延伸倍率−幅方向延伸倍率|)は、0以上0.2以下であれば好ましく、0以上0.1以下であればさらに好ましい。
【0028】
本発明のポリエステルフィルムは、耐熱性の観点から200℃における熱収縮率が長手方向、幅方向ともに−5〜5%であることが好ましい。本発明のポリエステルフィルムは、電池外装用構成体、医薬包装用構成体として用いられる場合は、ポリエステルフィルム/アルミニウム箔/シーラントフィルムといった構成体として用いられることが好ましいが、加熱してシーラントフィルム部分をヒートシールする際、および電池製品となった後の高温環境下での耐熱性が必要となる場合がある。200℃における熱収縮率が長手方向、幅方向ともに−5〜5%とすることで、ヒートシール時にポリエステルフィルムの収縮が低いため、構成体としてのカールの発生を抑制することが可能となる。さらには、電池製品となった後に、高温環境下にさらした場合にもフィルムの収縮起因によるポリエステルフィルム/アルミニウム箔間での剥離も抑制することが可能となる。より好ましくは、200℃における熱収縮率が長手方向、幅方向ともに−1〜4%であることが好ましく、0〜3%であれば最も好ましい。
【0029】
本発明のポリエステルフィルムの200℃における熱収縮率を長手方向、幅方向ともに−5〜5%とする方法としては、例えば、二軸延伸後のフィルムの熱処理条件を調整する方法が挙げられる。耐熱性、フィルムの品位の観点から二軸延伸後の熱処理温度は200℃〜240℃であれば好ましく、210℃〜230℃であればさらに好ましい。なお、ポリエステルフィルムの熱処理温度は、示差走査型熱量計(DSC)において窒素雰囲気下、20℃/分の昇温速度で測定したときのDSC曲線に熱履歴に起因する微小吸熱ピークより求めることができる。また、好ましい熱処理時間としては、好ましくは10〜60秒間、より好ましくは15〜30秒間行うのがよい。さらに、熱処理はフィルムを長手方向および/または幅方向に弛緩させて行ってもよい。さらに、熱処理は、長手方向及び/又は幅方向に弛緩させながら行うことで、熱収縮率を低減させることができるため好ましい。熱処理時の好ましい弛緩率(リラックス率)は、3%以上であり、寸法安定性、生産性の観点からは、3%以上10%以下であれば好ましく、3%以上5%以下であれば最も好ましい。
【0030】
また、2段階以上の条件で熱処理する方法も非常に好ましい。200℃〜240℃の高温での熱処理後に、熱処理温度より低い温度で、長手方向及び/又は幅方向に弛緩させながら熱処理することで、さらに熱収縮率を低減させることが可能となる。このときの2段階目の熱処理温度は120℃〜180℃であれば好ましく、150℃〜180℃であればさらに好ましい。
【0031】
また、本発明のポリエステルフィルムは、(I)(II)式を満たすことが必要であり、分子鎖が均一に、高度に配向しているため、熱収縮率は通常の二軸延伸ポリエステルフィルムと比較して高くなる傾向となる。このため、上記したような一般的な二軸配向ポリエステルフィルムの熱収縮率を低減させる方法に加えて、二軸延伸後と熱処理の間に、延伸温度同等の温度で一度弛緩させた後に、高温で熱処理する方法が好ましく用いられる。このときの弛緩率(リラックス率)は、分子鎖の配向が低減してしまわない範囲であれば特に問題ないが、好ましくは0.5%〜3%、より好ましくは1%〜2%である。
【0032】
本発明のポリエステルフィルムは、成型性の観点から動摩擦係数μdが0.3〜0.8であることが好ましい。本発明のポリエステルフィルムを電池外装用または、医薬包装用として用いた場合、これらの構成体は、オスメス型のプレス成型によって成型されるが、動摩擦係数μdを0.3〜0.8とすることで、プレス型との滑り性が良好となるためスムーズに成型することが可能となる。より好ましくは、0.3〜0.7であり、0.3〜0.6であれば最も好ましい。本発明における、動摩擦係数とは、フィルムの任意の面と、その面と反対側の面との動摩擦係数のことを示す。
【0033】
本発明のポリエステルフィルムの動摩擦係数μdを0.3〜0.8とする方法としては、フィルム中に粒子を含有させる方法が挙げられる。含有させる粒子としては特に限定されないが、平均粒子径0.01〜5μmの内部粒子、無機粒子または有機粒子が挙げられ、0.01〜1質量%含有することが好ましい。使用する粒子の平均粒子径は0.05〜3μmであれば好ましく、0.1〜2μmであればさらに好ましい。
【0034】
内部粒子の析出方法としては例えば、特開昭48−61556号公報、特開昭51−12860号公報、特開昭53−41355号公報、特開昭54−90397号公報などに記載の技術を採用することができる。さらに、特公昭55−20496号公報や特開昭59−204617号公報などの他の粒子を併用することもできる。また、無機粒子としては、例えば、湿式および乾式シリカ、コロイダルシリカ、ケイ酸アルミ、酸化チタン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化アルミ、マイカ、カオリン、クレーなどを使用することができる。また、有機粒子としては、スチレン、シリコーン、アクリル酸類、メタクリル酸類、ポリエステル類、ジビニル化合物などを構成成分とする粒子を使用することができる。なかでも、湿式および乾式シリカ、アルミナなどの無機粒子およびスチレン、シリコーン、アクリル酸、メタクリル酸、ポリエステル、ジビニルベンゼンなどを構成成分とする粒子を使用することが好ましい。さらに、これらの内部粒子、無機粒子および有機粒子は二種以上を併用してもよい。
【0035】
本発明のポリエステルフィルムは、アルミニウム箔との密着性の観点から、少なくとも片面に易接着層を積層することが好ましい。これにより優れた密着性や接着強度の向上を図ることができる。コーティング層を設ける方法については、特に限定されないが、易接着層の形成方法としては、樹脂をフィルム表面に被覆(複合溶融押出法、ホットメルトコート法、水以外の溶媒、水溶性および/または水分散性樹脂からのインライン、オフラインコート法など)する方法や、同様組成あるいはそのブレンド品の表面積層法などが挙げられる。なかでも、配向結晶化が完了する前のフィルムの一方の面に被膜塗剤を塗布し、少なくとも一方向に延伸し、熱処理して、配向結晶化を完了させるインラインコーティング法が均一な被膜形成や工業上好ましい。また、コーティングにより易接着層を設ける場合、易接着性を付与する樹脂としては、特に限定されるものではないが、たとえば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、オレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、ビニル系樹脂、塩素系樹脂、スチレン系樹脂、各種グラフト系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂などを使用することができ、これらの樹脂の混合物を使用することもできる。密着性の観点からポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、またはウレタン系樹脂を用いるのが好ましい。ポリエステル樹脂を水系塗液として用いる場合には、水溶性あるいは水分散性のポリエステル樹脂が用いられるが、このような水溶性化あるいは水分散化のためには、スルホン酸塩基を含む化合物や、カルボン酸塩基を含む化合物を共重合させることが好ましい。またアクリル樹脂を水性塗液として用いる場合には、水に溶解あるいは分散された状態にする必要があり、乳化剤として界面活性剤(例えば、ポリエーテル系化合物などが挙げられるが、限定されるものではない。)を使用する場合がある。
【0036】
また、本発明に用いられる易接着層には、さらに接着性を向上させるために、樹脂に各種の架橋剤を併用することができる。架橋剤樹脂としては、メラミン系、エポキシ系、オキサゾリン系樹脂が一般に用いられる。
【0037】
本発明の易接着層に含有される粒子としては、無機系粒子や有機系粒子を挙げることができるが、易滑性や耐ブロッキング性が向上するので、無機粒子がより好ましい。この無機粒子としては、シリカ、アルミナ、カオリン、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、チタンなどを用いることができる。
【0038】
本発明のポリエステルフィルムは、アルミニウム箔積層後の成型追従性、PH発生抑制、強度の観点から、厚みは、12μm以上50μmであることが好ましく、16μm以上38μm以下がさらに好ましく、20μm以上30μm以下であれば最も好ましい。
【0039】
本発明のポリエステルフィルムは、少なくとも片面に、厚さ10μm以上100μm以下の金属箔を積層して積層体として好ましく使用される。さらに好ましくは、金属箔は厚さ10μm以上60μm以下である。中でも、ガスバリア性、成型性、コストの観点から、厚さ10μm以上60μm以下のアルミニウム箔が好ましく使用される。アルミニウム箔の材質としては、例えば純アルミニウム系またはアルミニウム−鉄系合金材を使用することができる。アルミニウム箔の厚さを10μm以上60μm以下とすることで、成型追従性と酸素や水分のバリア性を両立することが可能となるため、好ましい。さらに好ましくは、厚さ20μm以上50μm以下であり、25μm以上45μm以下であれば最も好ましい。また、アルミニウム箔は、ラミネートの接着性能を向上させる目的で、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等のアンダーコート、あるいはコロナ放電処理等の前処理を行ってもよい。なお、本発明のポリエステルフィルムに易接着層を積層する場合は、易接着層側にアルミニウム箔を積層することが好ましい。
【0040】
本発明のポリエステルフィルムとアルミニウム箔を積層する方法としては、特に限定されないが、密着性の観点から接着剤を用いたドライラミネーションが好ましく用いられる。用いる接着剤としては、熱硬化タイプでも熱可塑タイプでも構わないが、好ましくは熱硬化タイプが好ましい。例えば、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、スチレン− ブタジエン共重合体、アクリルニトリル− ブタジエン共重合体、メチルメタアクリレート− ブタジエン共重合体、クロロプレン、ポリブタジェン等のゴム系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリブタジエン、あるいはこれらの樹脂のカルボキシル変性物、エポキシ系樹脂、セルロース系誘導体、エチレン酢酸ビニル系共重合体、ポリエチレンオキサイド、アクリル系樹脂、リグニン誘導体等からなる接着剤が挙げられる。ポリエステルフィルムとポリオレフィンフィルムとの密着性の点からは、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂からなる接着剤が好ましい。
【0041】
本発明の積層体は、アルミニウム箔の上にさらにシーラントフィルムを積層することが好ましい。シーラントフィルムとしては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、エチレン−ブテン共重合体等のエチレン系樹脂、ホモポリプロピレン、 エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体等のプロピレン系樹脂の単体ないし混合物等を適宜選択して用いることができる。
【0042】
また、アルミニウム箔と、シーラントフィルムとの密着性を向上させるために、アルミニウム箔とシーラントフィルムの間に変性ポリオレフィン樹脂を介在させる方法も好ましく用いられる。ここで、変性ポリオレフィン樹脂とは、ポリオレフィン樹脂の片末端、両末端及び内部の少なくともいずれかに一つ以上の極性基を含有するポリオレフィン樹脂のことを指す。ここで、極性基とは、酸素原子、窒素原子など電気陰性度の大きな原子を含む官能基であり、具体的には、アミド基、カルボキシル基、ヒドロキシル基などの官能基、およびそれら官能基を含む置換基である。
【0043】
かかる変性ポリオレフィン樹脂としては、不飽和ジカルボン酸による変性、もしくは樹脂の酸化分解により変性されたポリオレフィン樹脂であることが好ましく、不飽和ジカルボン酸により変性された変性ポリオレフィン樹脂がより好ましい。具体的には低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、メタロセン触媒を使用して重合したエチレン−α・オレフィン共重合体、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、メチルペンテンポリマー、その他α−オレフィンモノマーからなるランダム共重合体、ブロック共重合体等のポリオレフィン系樹脂を、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸で変性した変性ポリオレフィン樹脂であることが、ポリエステル層(A層)との層間密着性の点から好ましい。不飽和ジカルボン酸としては、無水マレイン酸が特に好ましく、つまりポリオレフィン樹脂を無水マレイン酸で変性した変性ポリオレフィン樹脂が特に好ましい。
【0044】
このような不飽和ジカルボン酸による変性ポリオレフィン樹脂としては、例えば、三洋化成製“ユーメックス”、三井化学製“アドマー”、三菱化学製“モディック”、アルケマ製“オレバック”、“ロタダー、東洋化成製“トーヨータック”などの各種樹脂が挙げられる。また、樹脂の酸化分解により変性された変性ポリオレフィン樹脂としては、三洋化成製“ビスコール”、“サンワックス”などが挙げられる。
【0045】
本発明のポリエステルフィルムは成型用途に用いられることが好ましい。本発明のポリエステルフィルムは、25℃におけるフィルムの長手方向および幅方向の5%伸長時応力(F5値)および、10%伸長時応力(F10値)が、特定の関係を示すため、明確な降伏点を示さず、特にアルミニウム箔といった金属箔を積層した後に成型される用途に適用した場合、成型追従性が良好であるため、様々な形状への対応が可能となる。
【0046】
本発明のポリエステルフィルムは、上記した通り、アルミニウム箔といった金属箔を積層した後の深絞り成型が可能であるため、高容量化対応の電池外装用に好ましく用いられる。電池外装には、電池性能維持のために、水蒸気の進入を防ぐ水蒸気バリア性、電解液で膨潤しない耐電解液性、高容量化へのニーズに対応する深絞成型性が求められる。高度な水蒸気バリア性を達成するためには、金属箔を有していることが好ましく、本発明においては水蒸気バリア性、成型性、コストの観点から、厚さ10μm以上60μm以下のアルミニウム箔を積層されていることが好ましい。本発明のポリエステルフィルムはアルミニウム箔に積層した後の深絞り成型性に優れているため、電池外装用途に適用することで非常に優れた電池外装用積層体さらには、構成体を得ることが可能である。
【0047】
また、本発明のポリエステルフィルムは、医薬包装用途にも好ましく用いられる。医薬包装は、内容物の劣化を防ぐために、ガスバリア性、水蒸気バリア性が必要であり、印刷を施す仕様に対応できるように印刷適性が求められる。さらに、様々な形状な内容物に対応できるような深絞成型性へのニーズが高まっている。高度なガスバリア性、水蒸気バリア性を達成するためには、金属箔を有していることが好ましく、本発明においては水蒸気バリア性、成型性、コストの観点から、厚さ10μm以上60μm以下のアルミニウム箔を積層されていることが好ましい。本発明のポリエステルフィルムはアルミニウム箔に積層した後の深絞り成型性に優れているため、医薬包装用途に適用することで非常に優れた医薬包装用積層体さらには、構成体を得ることが可能である。
【実施例】
【0048】
以下の方法でポリエステルフィルムの製造、評価を行った。本発明のポリエステルフィルムは、電池外装用途および、医薬包装用途へ好ましく用いられ、電池の高容量化対応、様々な形状の内容物に対応できるためにアルミニウム箔を積層した後の成型追従性が重要な特性である。
【0049】
(1)ポリエステルの組成
ポリエステル樹脂およびフィルムをヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解し、
1H−NMRおよび
13C−NMRを用いて各モノマー残基や副生ジエチレングリコールについて含有量を定量した。
【0050】
(2)フィルム厚み
フィルム全体の厚みを測定する際は、ダイヤルゲージを用いて、フィルムを200mm×300mmに切り出し、各々の試料の任意の場所5ヶ所の厚みを測定し、平均して求めた。
【0051】
(3)屈折率
ナトリウムD線(波長589nm)を光源として、アッベ屈折計を用いて、フィルムの屈折率を測定した。
なお、本発明では、フィルムの任意の一方向(0°)、該方向から15°、30°、45°、60°、75°、90°、105°、120°、135°、150°、165°の方向の屈折率を測定し、最も屈折率の高かった方向を幅方向とし、幅方向と直交する方向を長手方向とした。
【0052】
(4)F10
MD、F5
MD、F10
TD、F5
TD、F10
MD/F5
MD、F10
TD/F5
TD
25℃、63%Rhの条件下で、フィルムを長手方向および幅方向に長さ150mm×幅10mmの矩形に切り出しサンプルとした。引張試験機(オリエンテック製テンシロンUCT−100)を用いてクロスヘッドスピード300mm/分、幅10mm、試料長50mmとしてフィルムの長手方向、幅方向について、引張試験を行い、長手方向の10%伸長時の応力をF10
MD、5%伸長時の応力をF5
MD、また、幅方向の10%伸長時の応力をF10
TD、5%伸長時の応力をF5
TDとした。各測定はそれぞれ5回ずつ行い、その平均を用いた。
【0053】
(5)200℃における熱収縮率
フィルムを長手方向および幅方向にそれぞれ長さ150mm×幅10mmの矩形に切り出しサンプルとした。サンプルに100mmの間隔で標線を描き、3gの錘を吊して200℃に加熱した熱風オーブン内に10分間設置し加熱処理を行った。熱処理後の標線間距離を測定し、加熱前後の標線間距離の変化から下記式により熱収縮率を算出した。測定は各フィルムとも長手方向および幅方向に5サンプル実施して平均値で評価を行った。
熱収縮率(%)={(加熱処理前の標線間距離)−(加熱処理後の標線間距離)}/(加熱処理前の標線間距離)×100。
【0054】
(6)動摩擦係数μd
JIS K7125(1999年)に従い、スリップテスターを用いて、下記条件で動摩擦係数(μd)を測定した。なお、測定はフィルムの任意の面と、その面と反対側の面を接触させて測定を行った。
試料サイズ : 75mm(幅)×100mm(長さ)
すべり速度 : 150mm/分
荷重 : 1.96N。
【0055】
(7)製膜性
各実施例に記載の方法で製膜した際、安定製膜
○:1000m以上、全く破れが発生せずに製膜できた
△:600m以上1000m未満で破れが発生した
×:600m未満で破れが発生した。
【0056】
(8)構成体の成型追従性
本発明のポリエステルフィルムとアルミニウム箔(厚み40μm)をウレタン系の接着剤(東洋モートン社製、AD−502、CAT10L、酢酸エチルを15:1.5:25(質量比))を使用して常法によりドライラミネートして積層体を作成した。さらにアルミニウム箔の上に、シーラントとしてマレイン酸変性ポリプロピレン樹脂とポリプロピレンとを共押出しした2層共押出しフィルム(マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂層:15μm、ポリプロピレン樹脂層:30μm)を、マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂層がアルミニウム箔側に位置するようにし、ラミネーターを用いて加熱圧着(120℃、0.3MPa、2m/min)させることで積層させ、構成体を作成した。得られた構成体を、200mm×200mm大に切り出し、150mm×150mmの矩形状の雄型(R:2mm)とこの雄型とのクリアランスが0.5mmの雌型(R:2mm)からなる金型を用いて、雄型側にシーラント側がくるように雌型上に構成体をセットし、プレス成型(加圧:0.1MPa)を行い、下記の基準で評価を行った。
◎:10mm以上で成型できた(破損なし)
○:7m以上10mm未満で破損が発生
△:5mm以上7mm未満で破損が発生
×:5mm未満で破損が発生。
【0057】
(9)構成体成型後の発生PH
(8)の成型性追従性評価で破損せずに成型できた高さにおいて、成型テストを30回実施し、各成型体について暗室にて、フナテック製透過光検査ランプを用いて、PHの発生状況を目視にて判定し、成型体30個中、PHが発生していた成型体の個数をカウントした。
【0058】
(10)構成体のカール性
(8)と同様にして得られた構成体を、ラミネーターを用いて加熱圧着(200℃、0.3MPa、2m/min)させ、水平な台に置いた後のカール性について、下記の基準で評価を行った。
◎:浮き上がり高さが1cm未満であるもの
○:浮き上がり高さが1cm以上2cm未満であるもの
△:浮き上がり高さが2cm以上3cm未満であるもの
×:浮き上がり高さが3cm以上であるもの
以下に本発明のポリエステルフィルムの具体的製造例を記載する。
【0059】
(ポリエステルの製造)
製膜に供したポリエステル樹脂は以下のように準備した。
【0060】
(ポリエステルA)
テレフタル酸ジメチル100質量部、エチレングリコール70質量部の混合物に酢酸マンガン0.04質量部を加え、徐々に昇温し、最終的には220℃でメタノールを留出させながら、エステル交換反応を行った。次いで、リン酸85%水溶液0.025質量部、二酸化ゲルマニウム0.02質量部を添加し、290℃、1hPaの減圧下で重縮合反応を行い、固有粘度が0.65、副生したジエチレングリコール1モル%共重合されたポリエチレンテレフタレート樹脂を得た。
【0061】
(ポリエステルB)
テレフタル酸ジメチル90質量部、イソフタル酸ジメチル10質量部、およびエチレングリコール70質量部の混合物に、0.09質量部の酢酸マグネシウムと0.03質量部の三酸化アンチモンとを添加して、徐々に昇温し、最終的には220℃でメタノールを留出させながらエステル交換反応を行った。ついで、該エステル交換反応生成物に0.020質量部のリン酸85%水溶液を添加した後、重縮合反応釜に移行した。重合釜内で加熱昇温しながら反応系を徐々に減圧して1hPaの減圧下、287℃で重縮合反応を行い、固有粘度0.7,副生したジエチレングリコールが1モル%共重合されたイソフタル酸10モル%共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂を得た。
【0062】
(粒子マスター)
ポリエステルA中に平均粒子径2.2μmの凝集シリカ粒子を粒子濃度2質量%で含有したポリエチレンテレフタレート粒子マスター(固有粘度0.65)。
【0063】
(塗剤A)
・メチルメタクリレート/エチルアクリレート/アクリル酸/N−メチロールアクリルアミド=63/35/1/1重量%の共重合組成から成るアクリル樹脂: 3.00質量%
・メラミン架橋剤: 0.75質量%
・コロイダルシリカ粒子(平均粒径:80nm): 0.15質量%
・ヘキサノール: 0.26質量%
・ブチルセロソルブ: 0.18質量%
・水: 95.66質量%
(塗剤B)
・テレフタル酸/イソフタル酸/トリメリット酸/セバシン酸/エチレングリコール/ネオペンチルグリコール/1,4−ブタンジオール=28/9/10/3/15/18/17モル%の共重合組成から成るポリエステル樹脂: 6.0質量%
・メラミン架橋剤: 0.3質量%
・コロイダルシリカ粒子(平均粒径:80nm): 0.06質量%
・ブチルセロソルブ: 1.36質量%
・水: 92.28質量%
(実施例1)
各ポリエステル樹脂を真空乾燥機にて180℃4時間乾燥し、水分を十分に除去した後、単軸押出機に表に示した組成で供給、280℃で溶融し、フィルター、ギヤポンプを通し、異物の除去、押出量の均整化を行った後、Tダイより4℃に温度制御した冷却ドラム(最大高さ0.2μmのハードクロムメッキ)上にシート状に吐出し、未延伸フィルムを得た。その際、Tダイのリップと冷却ドラム間の距離は35mmに設定し、直径0.1mmのワイヤー状電極を使用して14kVの電圧で静電印加させ、冷却ドラムに密着をさせた。また、シートの冷却ドラムの通過速度は25m/分、シートの冷却ドラムとの接触長さは、2.5mとした。
【0064】
次いで、長手方向への延伸前に加熱ロールにてフィルム温度を上昇させ、予熱温度を60℃、延伸温度を85℃で長手方向に3.9倍延伸し、すぐにロール表面温度を6℃に設定した8本の冷却ロール(それぞれロール径は180mm、最大高さ0.2μmのハードクロムメッキ)を用いて、急冷却を行った。このとき、冷却ロールの通過速度は90m/分、一軸延伸フィルムの冷却ロールとの接触長さは4mとした。この一軸延伸フィルムに空気中でコロナ放電処理を施し、その処理面に易接着層として以下の塗剤Aを超音波分散させながら混合し、#4メタリングバーにて均一に塗布した。
【0065】
次いでテンター式横延伸機にて、区間温度75℃に設定した3区間(それぞれ2500mm長)で予熱を行い、区間温度95℃に設定した3区間(それぞれ3000mm長)で幅方向に3.8倍延伸し、その次の1区間(3000mm長)で幅方向に2%のリラックスを掛けた。さらに、220℃に設定した5区間(それぞれ3000mm長)で5秒間の熱処理を行い、その後、170℃に設定した3区間(それぞれ2500mm長)で幅方向に5%のリラックスを掛け、フィルム厚み25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0066】
(実施例2)
冷却ドラム温度を7℃に温度制御した以外は、実施例1と同様にしてフィルム厚み25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0067】
(実施例3)
冷却ドラム温度を15℃に温度制御した以外は、実施例1と同様にしてフィルム厚み25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0068】
(実施例4)
長手方向へ延伸した後の冷却工程において、冷却ロールの本数を6本(一軸延伸フィルムの冷却ロールとの接触長さは3m)とした以外は実施例1と同様にしてフィルム厚み25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0069】
(実施例5)
長手方向へ延伸した後の冷却工程において、冷却ロールの本数を4本(一軸延伸フィルムの冷却ロールとの接触長さは2m)とした以外は実施例1と同様にしてフィルム厚み25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0070】
【表1】
【0071】
(実施例6)
幅方向の延伸工程において、予熱区間を2区間(それぞれ2500mm長)で予熱を行った以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0072】
(実施例7)
幅方向の延伸工程において、延伸区間を2区間(それぞれ3000mm長)で予熱を行った以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0073】
(実施例8)
幅方向の延伸後の熱処理工程において、220℃に設定した5区間(それぞれ3000mm長)で5秒間の熱処理を行い、その後、170℃に設定した3区間(それぞれ2500mm長)で幅方向に2%のリラックスを掛けた以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0074】
(実施例9)
幅方向の延伸後の熱処理工程において、200℃に設定した5区間(それぞれ3000mm長)で5秒間の熱処理を行い、その後、170℃に設定した3区間(それぞれ2500mm長)で幅方向に2%のリラックスを掛けた以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0075】
(実施例10)
幅方向の延伸後に、その次の1区間(3000mm長)で幅方向ではリラックスを掛けず、熱処理工程において、200℃に設定した5区間(それぞれ3000mm長)で5秒間の熱処理を行い、その後、170℃に設定した3区間(それぞれ2500mm長)で幅方向に2%のリラックスを掛けた以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムは、200℃の熱収縮率が高かったため構成体とした際にカール性が発生したが、ポリエステルフィルムとしての実用特性としては、問題なかった。
【0076】
【表2】
【0077】
(実施例11)
長手方向の延伸倍率を4.1倍、幅方向の延伸倍率を4.2倍とした以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0078】
(実施例12)
長手方向の延伸倍率を3.6倍、幅方向の延伸倍率を3.6倍とした以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0079】
(実施例13)
長手方向の延伸倍率を3.5倍、幅方向の延伸倍率を3.5倍とした以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0080】
(実施例14)
組成を表の通りに変更した以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0081】
(
参考例15)
組成を表の通りに変更した以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0082】
【表3】
【0083】
(実施例16)
組成を表の通りに変更した以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムは、機械特性は良好であったが、摩擦係数がやや高かったので、若干成型追従性が低下した。
【0084】
(実施例17)
塗剤をBとした以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0085】
(実施例18)
長手方向に一軸延伸後に易接着層を塗布しなかった以外は、実施例1と同様にして、フィルム厚み25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムは、機械特性は良好であったが、易接着層を形成していなかったので、若干成型追従性が低下した。
【0086】
(実施例19)
冷却ドラム温度を10℃に温度制御した以外は、実施例1と同様にして、フィルム厚み25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0087】
(実施例20)
長手方向へ延伸した後の冷却工程において、冷却ロールの本数を7本(一軸延伸フィルムの冷却ロールとの接触長さは3.5m)とした以外は、実施例1と同様にして、フィルム厚み25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0088】
【表4】
【0089】
(
参考例21)
冷却ドラム温度を15℃に温度制御し、長手方向へ延伸した後の冷却工程において、冷却ロールの本数を6本(一軸延伸フィルムの冷却ロールとの接触長さは3m)とし、長手方向の延伸倍率を3.5倍、幅方向の延伸倍率を3.5倍とした以外は、実施例1と同様にして、フィルム厚み25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0090】
(
参考例22)
冷却ドラム温度を15℃に温度制御し、長手方向へ延伸した後の冷却工程において、冷却ロールの本数を4本(一軸延伸フィルムの冷却ロールとの接触長さは2m)とし、長手方向の延伸倍率を3.5倍、幅方向の延伸倍率を3.7倍とした以外は、実施例1と同様にして、フィルム厚み25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
(
参考例23)
冷却ドラム温度を15℃に温度制御し、長手方向へ延伸した後の冷却工程において、冷却ロールの本数を4本(一軸延伸フィルムの冷却ロールとの接触長さは2m)とし、長手方向の延伸倍率を3.7倍、幅方向の延伸倍率を3.5倍とした以外は、実施例1と同様にして、フィルム厚み25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0091】
(実施例24)
フィルム厚みを19μmとした以外は、実施例1と同様にして、二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0092】
(実施例25)
フィルム厚みを15μmとした以外は、実施例1と同様にして、二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0093】
【表5】
【0094】
(比較例1)
冷却ドラム温度を15℃、静電印加電圧を10kVとし、長手方向の予熱温度を65℃、延伸温度を95℃、延伸後の冷却を、冷却ロール温度を15℃に設定した5本(一軸延伸フィルムの冷却ロールとの接触長さは2.5m)の冷却ロールを用いた以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0095】
(比較例2)
長手方向の予熱温度を65℃、延伸温度を95℃、延伸後の冷却を、冷却ロール温度を15℃に設定した5本(一軸延伸フィルムの冷却ロールとの接触長さは2.5m)の冷却ロールを用いて行い、幅方向の予熱温度を90℃、延伸温度を110℃とした以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0096】
(比較例3)
幅方向の延伸工程において、区間温度90℃に設定した1区間(それぞれ5000mm長)で予熱を行い、区間温度110℃に設定した3区間(それぞれ6000mm長)で幅方向に3.8倍延伸した以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0097】
(比較例4)
長手方向の延伸倍率を3.4倍、幅方向の延伸倍率を3.4倍に延伸した以外は実施例1と同様にして、フィルム厚み25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0098】
(比較例5)
長手方向の延伸倍率を4.3倍、幅方向の延伸倍率を4.6倍とした以外は実施例1と同様にして製膜を行った結果、破れが多発して満足のいくフィルムを得ることができなかった。
【0099】
【表6】