特許第5891806号(P5891806)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5891806
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】電池ケース用包材及び二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/02 20060101AFI20160310BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20160310BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20160310BHJP
【FI】
   H01M2/02 K
   B32B27/00 D
   B32B27/36
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-10933(P2012-10933)
(22)【出願日】2012年1月23日
(65)【公開番号】特開2013-149562(P2013-149562A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2014年9月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】特許業務法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】文珠 卓也
【審査官】 渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−287971(JP,A)
【文献】 特開2009−299011(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/132545(WO,A1)
【文献】 特開2011−213929(JP,A)
【文献】 特開2011−142092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/02
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性延伸樹脂層、第1接着剤層、アルミニウム層及び熱可塑性無延伸樹脂層が順次積層された構造を有する電池ケース用包材において、
第1接着剤層が、−20〜45℃のガラス転移温度を示すポリエステル樹脂と、ポリエステル樹脂100質量部に対し10〜70質量部のトルエンジイソシアネート系硬化剤とを含有する接着剤組成物の硬化処理物から構成されており、
前記ポリエステル樹脂は、3〜6mgKOH/gの水酸基価と、20000〜30000の範囲の重量平均分子量とを有し、
前記トルエンジイソシアネート系硬化剤は、トルエンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとの付加物である電池ケース用包材。
【請求項2】
接着剤層が4〜45℃のガラス転移温度を示すポリエステル樹脂を含有する請求項1記載の電池ケース用包材。
【請求項3】
ポリエステル樹脂100質量部に対し、15〜50質量部のトルエンジイソシアネート系硬化剤を含有する請求項1または2記載の電池ケース用包材。
【請求項4】
ポリエステル樹脂100質量部に対し、40〜50質量部のトルエンジイソシアネート系硬化剤を含有する請求項1または2記載の電池ケース用包材。
【請求項5】
耐熱性延伸樹脂層が延伸ポリアミドフィルムであり、熱可塑性無延伸樹脂層が無延伸ポリオレフィンフィルムである請求項1〜のいずれかに記載の電池ケース用包材。
【請求項6】
延伸ポリアミドフィルムが延伸ナイロンフィルムであり、無延伸ポリオレフィンフィルムが無延伸ポリプロピレンフィルムである請求項記載の電池ケース用包材。
【請求項7】
アルミニウム層と熱可塑性無延伸樹脂層とが、第2接着剤層により積層されている請求項1〜のいずれかに記載の電池ケース用包材。
【請求項8】
第2接着剤層が、スチレン・ブタジエン系熱可塑性エラストマー接着剤から形成したものである請求項記載の電池ケース用包材。
【請求項9】
請求項1〜のいずれかに記載の電池ケース用包材から、深絞り成形又は張出し成形により形成された電池ケースと、該電池ケースに封入された二次電池素子とを有する二次電池。
【請求項10】
二次電池素子が、リチウムイオン二次電池素子である請求項記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池等の二次電池の電池ケースを製造するための電池ケース用包材に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、スマートフォン、ノートパソコン等の種々の電子機器の電源として、リチウムイオン二次電池等の二次電池が広く用いられているが、これらの二次電池は、二次電池素子が電池ケースに封入された構造を有している。このような電池ケースは、耐熱性延伸樹脂フィルムとアルミニウム箔と熱可塑性無延伸樹脂フィルムとが接着剤を介して積層されたシート状の電池ケース用包材から深絞り加工や張出し加工により作成されている(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−42469号公報
【特許文献2】特開2000−123800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2の電池ケース用包材に深絞り加工や張出し加工を施した場合、絞り量が増加するにつれ、アルミニウム箔にクラックが生ずる可能性が高まるという問題があった。
【0005】
また、絞り加工や張出し加工後の電池ケース用包材またはそれから作成した二次電池を高温高湿環境下で保存した場合、第1接着剤層と耐熱性延伸樹脂フィルムまたはアルミニウム層との間でデラミネーションが生ずるという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、以上の従来の技術の課題を解決しようとするものであり、耐熱性延伸樹脂フィルム、接着剤、アルミニウム箔及び熱可塑性無延伸樹脂フィルムが積層された電池ケース用包材であって、深絞り加工や張出し加工を施してもそのアルミニウム箔にクラックが生じず、しかも深絞り加工や張出し加工後に高温高湿環境下で保存してもデラミネーションが生じない電池ケース用包材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、“電池ケース用包材の深絞り加工や張出し加工の際にアルミニウム箔にクラックが発生しないようにすること”と、“深絞り加工や張出し加工後に高温高湿環境下で保存してもデラミネーションが生じないようにすること”とを同時に達成するためには、深絞り加工の電池ケースの外側となる表面耐熱性延伸樹脂フィルムと、その内側となるアルミニウム箔とを接着する接着剤層を、ガラス転移温度が−20〜45℃のポリエステル樹脂と、ポリエステル樹脂100質量部に対し10〜70質量部のトルエンジイソシアナート系硬化剤とを含有する接着剤組成物の硬化処理物から構成すればよいことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は、耐熱性延伸樹脂層、第1接着剤層、アルミニウム層及び熱可塑性無延伸樹脂層が順次積層された構造を有する電池ケース用包材において、第1接着剤層が、−20〜45℃のガラス転移温度を示すポリエステル樹脂と、ポリエステル樹脂100質量部に対し10〜70質量部のトルエンジイソシアネート系硬化剤とを含有する接着剤組成物の硬化処理物から構成されていることを特徴とする電池ケース用包材を提供する。
【0009】
また、本発明は、上述の電池ケース用包材から、深絞り加工又は張出し加工により成形された電池ケースと、該電池ケースに封入された二次電池素子とを有する二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0010】
耐熱性延伸樹脂層、第1接着剤層、アルミニウム層及び熱可塑性無延伸樹脂層が順次積層された構造を有する本発明の電池ケース用包材は、第1接着剤層が、−20〜45℃のガラス転移温度を示すポリエステル樹脂と、ポリエステル樹脂100質量部に対し10〜70質量部のトルエンジイソシアネート系硬化剤とを含有する接着剤組成物の硬化処理物から構成されている。このため、電池ケース用包材に深絞り加工または張出し加工を施してもそのアルミニウム層にクラックを生じさせず、しかも深絞り加工または張出し加工後の電池ケース用包材を高温高湿環境下(例えば、60℃、90%RH、72時間)に保存してもデラミネーションが発生しないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の電池ケース用包材の断面図である。
図2図2は、本発明の電池ケース用包材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に示すように、本発明の電池ケース用包材10は、耐熱性延伸樹脂層1、第1接着剤層2、アルミニウム層3及び熱可塑性無延伸樹脂層4が順次積層された構造を有する。また、図2に示すように、アルミニウム層3と熱可塑性無延伸樹脂層4とを、第2接着剤層5で積層した構造としてもよい。
【0013】
本発明の電池ケース用包材10の特徴は、第1接着剤層2が、−20〜45℃、好ましくは4〜45℃のガラス転移温度を示すポリエステル樹脂と、ポリエステル樹脂100質量部に対し10〜70質量部、好ましくは15〜50質量部、より好ましくは40〜50質量部のトルエンジイソシアネート系硬化剤とを含有する接着剤組成物の硬化処理物から構成されていることである。
【0014】
なお、ポリエステル樹脂の軟化点は、低すぎると高温での接着信頼性が低下する傾向があり、高すぎると接着不良が発生する可能性が高まる傾向があるので、好ましくは30〜100℃、より好ましくは40℃〜100℃である。
【0015】
本発明において、耐熱性延伸樹脂層1とアルミニウム層3との間の第1接着剤層2の材料として所定のガラス転移温度のポリエステル樹脂を使用する理由は、電池ケース用包材10を深絞り加工または張出し加工した場合に、電池ケースの外側となる耐熱性延伸樹脂層1が、内側の層に比べてより強く引き延ばされてアルミニウム層3にクラックを生じさせるような応力をアルミニウム層3に生じさせるという事実に鑑み、そのような応力を緩和する機能を第1接着剤層2に付与するためである。
【0016】
更に、ポリエステル樹脂として、ガラス転移温度が−20〜45℃を示すものを使用する理由は、このガラス転移温度であると、電池ケース用包材10が実用的上問題のない成型性(換言すればエリクセン値(JIS Z2247))を示すからである。
【0017】
なお、ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、小さすぎると接着強度が低下する傾向があり、大きすぎると溶剤への溶解性が低下する傾向があるので、好ましくは20000〜30000である。また、ポリエステル樹脂の水酸基価は、小さすぎると硬化剤による架橋が進行し難くなる傾向があり、大きすぎると加水分解しやすい傾向があるので、好ましくは3〜6、より好ましくは4〜5である。また、ポリエステル樹脂の軟化点は、低すぎると高温での接着信頼性が低下する傾向があり、高すぎると接着不良が生ずる傾向があるので、好ましくは30〜110℃、より好ましくは40〜80℃である。ポリエステル樹脂の酸価は、低すぎると硬化剤による架橋が進行し難くなる傾向があり、高すぎると加水分解しやすい傾向があるので、好ましくは1〜5、より好ましくは1〜3である。
【0018】
ポリエステル樹脂を構成するジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキシレングリコール等を挙げることができる。これらは、ジオール成分として単独で、または2種以上混合して使用することができる。また、二塩基酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸等を挙げることができる。これらも、二塩基酸成分として単独でまたは2種以上混合して使用することができる。
【0019】
このような成分からなるポリエステル樹脂のガラス転移温度の調整は、ジオール成分や二塩基酸成分のそれぞれの種類やそれらの量比を変更すること、ポリエステル樹脂の重量平均分子量を変化させること等により行うことができる。例えば、ガラス転移温度を下げようとする場合、ジオール成分として1,4−ブタンジオールの使用量を増加させたり、二塩基酸成分としてアジピン酸の使用量を増加させたり、ポリエステル樹脂の重量平均分子量を低下させること等が挙げられる。逆に、ガラス転移温度を上げようとする場合、ジオール成分としてネオペンチルグリコールの使用量を増加させたり、二塩基酸成分としてテレフタル酸の使用量を増加させたり、ポリエステル樹脂の重量平均分子量を増大させること等が挙げられる。
【0020】
また、第1接着剤層2を、−20〜45℃のガラス転移温度を示すポリエステル樹脂に加え、トルエンジイソシアネート系硬化剤とを含有する接着剤組成物の硬化処理物から構成する理由は、深絞り加工や張出し加工後に高温高湿環境下で保存された電池ケース用包材において第1接着層2と耐熱性延伸樹脂層1又はアルミニウム層3との間でデラミネーションが発生しないようにするためである。
【0021】
トルエンジイソシアネート系硬化剤は、それ自体、イソシアヌレート化反応し得るものであり、ポリエステル樹脂に水酸基やカルボキシル基等の活性水素官能基が存在していれば、それらともウレタン化反応し得るものである。このようなトルエンジイソシアネート系硬化剤の好ましい具体例としては、トルエンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとの付加物を挙げることができる。
【0022】
第1接着剤層2を形成するための接着剤組成物中のトルエンジイソシアネート系硬化剤の配合量は、前述したように、ポリエステル樹脂100質量部に対し、10〜70質量部、好ましくは15〜50質量部、より好ましくは40〜50質量部であるが、これは、少なすぎると接着剤組成物の硬化不良が生ずる傾向があり、多すぎると接着剤組成物の硬化物の柔軟性が損なわれ、また接着剤組成物の成形性が低下する傾向があるからである。
【0023】
なお、第1接着剤層2を形成するための接着剤組成物には、公知の粘着付与剤、各種ゴム類、架橋剤、架橋促進剤等を、発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。
【0024】
このような第1接着剤層2の厚みは、薄すぎると応力緩和能が十分とは言えず、厚すぎると体積エネルギー密度が低下する傾向があるので、好ましくは2〜5μm、より好ましくは3〜4μmである。
【0025】
本発明の電池ケース用包材10を構成する耐熱性延伸樹脂層1は、電池ケースを高温環境下でもアルミニウム層が露出しないように保護すると共に、落下衝撃から電池を保護するための層である。このため、耐熱性延伸樹脂層1は、加工性も考慮して、ガラス転移温度が好ましくは30〜100℃、より好ましくは40〜90℃で、軟化点が好ましくは200〜280℃、より好ましくは210〜270℃の耐熱性を示す樹脂であって、良好な耐衝撃性を示すように、破断強度(JIS P8112)が好ましくは150〜350MPa、耐衝撃性(JIS K8134)が好ましくは30000〜80000J/mの樹脂から形成されたものである。
【0026】
このような耐熱性延伸樹脂層1としては、延伸ナイロンフィルムなどの延伸ポリアミドフィルム、延伸ポリイミドフィルム、延伸ポリエステルフィルム等を挙げることができる。中でも、強度並びに伸びの点からの点から、延伸ポリアミドフィルム、具体的には延伸ナイロンフィルムを好ましく使用することができる。ここで、延伸処理としては、好ましくは2軸延伸処理、より好ましくは4軸延伸処理が好ましい。
【0027】
耐熱性延伸樹脂層1の厚みは、薄すぎると、環境温度や落下衝撃により電子性能が損なわれる傾向があり、厚すぎるとシャープな形状に成型することが困難になる傾向があるので、好ましくは9〜50μm、より好ましくは15〜30μmである。
【0028】
本発明の電池ケース用包材10を構成するアルミニウム層3は、電池ケース内に水蒸気や酸素が侵入することを防止し、電池ケースの保形性に寄与するための層である。
【0029】
このようなアルミニウム層3としては、圧延により形成されたアルミニウム箔、ポリエステルやポリイミド等の樹脂フィルムベースに蒸着により形成された複合アルミニウムシートが挙げられる。生産性やコストの面から、圧延により形成されたアルミニウム箔を好ましく使用することができる。また、本発明において“アルミニウム”とは純アルミニウムだけでなく、各種アルミニウム合金を含むものである。
【0030】
アルミニウム層3の厚みは、薄すぎると無視できないピンホールが生じたり、外力によりクラックが発生したりする傾向があり、厚すぎると電池ケース用包材10の成型加工性が低下したりする傾向があるので、好ましくは15〜150μm、より好ましくは20〜80μmである。
【0031】
本発明の電池ケース用包材10を構成する熱可塑性無延伸樹脂層4は、電池ケース内の電子素子と包材のアルミニウム層3とを絶縁すると共に、包材にヒートシール性を付与する層である。
【0032】
この熱可塑性無延伸樹脂層4が熱可塑性である理由は、電池ケースの気密性を保持し、ヒートシール性を示すためであり、また、無延伸である理由は、十分なヒートシール性を確保するためである。
【0033】
熱可塑性無延伸樹脂層4のガラス転移温度は、低すぎると高温での接着信頼性が低下する傾向があり、高すぎるとヒートシール性が低下する傾向があるので、好ましくは−30〜−10℃、より好ましくは−20〜−15℃であり、また、軟化点は、低すぎるとヒートシール性が低下する傾向があり、高すぎると高温での接着信頼性が低下する傾向があるので、好ましくは130〜180℃、より好ましくは140〜170℃である。
【0034】
このような熱可塑性無延伸樹脂層4としては、無延伸ポリオレフィンフィルム、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレン−ポリプロピレン共重合体フィルム、酸(例えばマレイン酸、アクリル酸など)又はエステル(例えば、アクリル酸エステル)変性ポリプロピレンフィルム等を好ましく挙げることができる。中でも無延伸ポリオレフィンフィルムが好ましく、特に無延伸ポリプロピレンフィルムが好ましい。
【0035】
この熱可塑性無延伸樹脂層4が熱可塑性である理由は、電池ケースの気密性を保持し、ヒートシール性を示すためであり、また、無延伸である理由は、十分なヒートシール性を確保するためである。
【0036】
また、熱可塑性無延伸樹脂層4の層厚は、薄すぎると十分なヒートシール強度を得ることができず、厚すぎると体積エネルギー密度が低下する傾向があるので、好ましくは10〜70μm、より好ましくは20〜50μmである。
【0037】
本発明の電池ケース用包材10は、図2に示すように、アルミニウム層3と熱可塑性無延伸樹脂層4との間に、第2接着剤層5を設けてもよい。この場合、第2接着剤層5は、第1接着剤層2と同種の接着剤から形成してもよく、他のアクリル系接着剤、エステル系接着剤、ウレタン系接着剤、スチレン・ブタジエン系熱可塑性エラストマー接着剤等から形成してもよい。中でも、耐電解液性や防水性の観点から、スチレン・ブタジエン系熱可塑性エラストマー接着剤から形成したものが好ましい。
【0038】
第2接着層の厚みは、薄すぎると十分な接着強度を得ることができず、厚すぎると体積エネルギー密度が低下する傾向があるので、好ましくは1〜5μm、より好ましくは2〜4μmである。
【0039】
本発明の電池ケース用包材は、公知の成膜法やドライラミネーション法を利用して製造することができる。例えば、図1の電池ケース用包材は、耐熱性延伸樹脂フィルムに、所定のガラス転移温度のポリエステル樹脂と所定量のトルエンジイソシアネート系硬化剤とを含有する接着剤組成物を塗布し、硬化剤が硬化しない温度で乾燥してプレ接着剤層を形成し、そのプレ接着剤層にアルミニウム箔を貼り付けた後、硬化剤が硬化する温度以上に加熱することにより、耐熱性延伸樹脂フィルムとアルミニウム箔とを接着剤組成物の硬化処理物で接着し、その後、アルミニウム箔に対し、熱可塑性樹脂を溶融押し出し法により熱可塑性無延伸樹脂層として積層することにより製造することができる。また、図2の電池ケース用包材は、図1の電池ケース用包材と同様に、耐熱性延伸樹脂フィルムとアルミニウム箔とを接着剤組成物の硬化処理物で接着した後、アルミニウム箔とそれに対向するように配された熱可塑性無延伸樹脂フィルムとの間に、第2接着剤層形成用組成物を塗布し、あるいは溶融押し出しながら第2接着剤層を形成し、ドライラミネーション法により積層することにより製造することができる。
【0040】
本発明の電池ケース用包材は、公知の深絞り成形又は張出し成形(特許第3567230号参照)により、アルミニウム層にクラックが生じておらず、高温高湿環境下でもデラミネーションが生じない電池ケースに加工することができる。しかも、高温高湿環境下でもデラミネーションの発生を防止することができる。また、この電池ケースに公知のリチウムイオン二次電池素子等の二次電池素子を封入すれば、実用に適した二次電池を得ることができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の電池ケース用包材を実施例に従ってより具体的に説明する。なお、参考例1〜8は、トルエンジイソシアネート系硬化剤を使用せずに作成した電池ケース用包材におけるポリエステル樹脂のガラス転移温度とエリクセン値(深絞り量[mm])との関係を評価するための例である。
【0042】
参考例1〜8
15μm厚の4軸延伸ナイロンフィルム(ON、ユニチカ(株))の片面に、表1に示すポリエステル樹脂(UEシリーズ、ユニチカ(株))のトルエン溶液(ポリエステル15容量%)を、乾燥厚で3μmとなるように塗布し、乾燥させて第1接着剤層を形成し、第1接着剤層が内側となるようにロールに巻き取った。
【0043】
なお、使用したポリエステル樹脂について、ジカルボン酸成分、ジオール成分、ガラス転移温度、重量平均分子量、軟化点、水酸基価及び酸価を表1に併せて示す。
【0044】
得られたロールから巻き出したシートの接着剤層に35μm厚のアルミニウム箔(8021−o材、住軽アルミ箔(株))を、60℃に加熱されたヒートドラムで3.0kg/cmの線圧をかけながら積層し、ロールに巻き取った。次に、巻き取ったロールから再び巻き出したシートのアルミニウム層を、別途用意した30μm厚の無延伸ポリプロピレンフィルム(GLC、三井化学東セロ(株))とを対向させ、それらの間に第2接着剤層となるスチレン/ブタジエン/スチレン(SBS)系接着剤(タフテックM1913、旭化成(株))を層厚が3μmとなるように塗布し、ドライラミネーション法で積層することにより電池ケース用包材を得た。
【0045】
得られた電池ケース用包材の成形性を評価するために、エリクセン試験機(コーティングテスター(株))を用いてエリクセン試験を、絞り速度を1mm/分とすること以外はJIS Z2247に従って行い、包材のアルミニウム層にクラックが生じたか否かを目視で確認し、クラックが生じた絞り量(エリクセン値)[mm]を表1に示し、以下の基準にて評価した。エリクセン価は、実用上9mm以上であることが望まれる。
【0046】
【表1】
【0047】
表1の結果の中から、参考例2〜7におけるポリエステル樹脂のガラス転移温度範囲「−20〜45℃」のときに、エクセリン値が9以上であった。他方、重量平均分子量、軟化点、水酸基価、及び酸価のうち、重量平均分子量、水酸基価については、ガラス転移温度を−20〜45℃であることを前提にすれば、発明の範囲を更に限定することに寄与できることがわかる。その場合、重量平均分子量の好ましい範囲が20000〜30000であり、ポリエステル樹脂の好ましい水酸基価が3〜6であることがわかる。なお、軟化点と酸価については、エリクセン値と明確な相関が観察されないことがわかる。
【0048】
実施例1〜4、及び比較例1〜8
15μm厚の2軸延伸ナイロンフィルム(ON、ユニチカ(株))の片面に、参考例1〜8の中でもっとも良好な成型性を示す参考例6のポリエステル樹脂(UE3500、ユニチカ(株))と、ポリエステル樹脂100質量部に対し表2に示す種類と質量部の硬化剤とを含有する混合接着剤のトルエン溶液(ポリエステル15容量%)を、乾燥厚で3μmとなるように塗布し、乾燥させて接着剤層を形成し、接着剤層が内側となるようにロールに巻き取った。
【0049】
得られたロールから巻き出したシートの接着剤層に35μm厚のアルミニウム箔(8021−o材、住軽アルミ箔(株))を、60℃に加熱されたヒートドラムで3.0kg/cmの線圧をかけながら積層し、ロールに巻き取った。このロールを160℃のオーブン中で48時間加熱し、接着剤層を硬化させた。
【0050】
次に、巻き取ったロールから再び巻き出したシートのアルミニウム層を、別途用意した30μm厚の無延伸ポリプロピレンフィルム(GLC、三井化学東セロ(株))とを対向させ、それらの間に第2接着剤層となるスチレン/ブタジエン/スチレン(SBS)系接着剤(タフテックM1913、旭化成(株))を層厚3μmとなるように塗布し、ドライラミネーション法で積層することにより電池ケース用包材を得た。
【0051】
得られた電池ケース用包材の成形性を評価するために、エリクセン試験機を用いてエリクセン試験を、絞り速度を1mm/分とすること以外はJIS Z2247に従って行い、包材のアルミニウム層にクラックが生じたか否かを目視で確認し、クラックが生じた絞り量(エリクセン値)[mm]を表2にした。エリクセン価は、実用上9mm以上であることが望まれる。
【0052】
また、電池ケース用包材を、「60℃、90%RHの雰囲気中で72時間」、又は「80℃、90%RHの雰囲気中で72時間」保存し、デラミネーションが生ずるか否かを目視観察し、デラミネーションが生じていなかった場合を良好と評価し、表2に「○」と記載した。他方、デラミネーションが生じてしまった場合を不良と評価し、表2に「×」と記載した。
【0053】
【表2】
【0054】
表2の結果から、トルエンジイソシアネート系硬化剤を使用した実施例1〜4の電池ケース用包材の場合、成形性には問題がなく、“60℃、90%RH、72時間保存”という高温高湿条件でもデラミネーションの発生が防止されていることがわかる。特に、ポリエステル樹脂100質量部に対しトルエンジイソシアネート系硬化剤を40〜50質量部の割合で使用した実施例3及び4の電池ケース用包材の場合には、80℃、90%RH、72時間保存という条件でもデラミネーションの発生が防止されていることがわかる。
【0055】
それに対し、比較例1〜8の結果から、硬化剤としてキシレンジイソシアネート系硬化剤やヘキサメチレンジイソシアネート系硬化剤を使用した場合には、60℃又は80℃、90%RH、72時間保存という条件でもデラミネーションの発生が生じてしまったことがわかる。
【0056】
なお、参考例1〜8の電池ケース用包材の場合、60℃又は80℃、90%RH、72時間保存という条件では、デラミネーションの発生が避けられなかったことをここに付言しておく。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の電池ケース用包材は、電池ケース用包材に深絞り加工を施してもそのアルミニウム層にクラックを生じさせず、しかも高温高湿環境下に保存されてもデラミネーションが生じない。従って、リチウムイオン二次電池の電池ケースに有用である。
【符号の説明】
【0058】
1 耐熱性延伸樹脂層
2 第1接着剤層
3 アルミニウム層
4 熱可塑性無延伸樹脂層
5 第2接着剤層
10 電池ケース用包材
図1
図2