特許第5891829号(P5891829)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5891829
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】サージアブソーバ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01T 1/22 20060101AFI20160310BHJP
   H01T 4/12 20060101ALI20160310BHJP
【FI】
   H01T1/22
   H01T4/12 F
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-26838(P2012-26838)
(22)【出願日】2012年2月10日
(65)【公開番号】特開2013-164946(P2013-164946A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2014年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】田中 芳幸
【審査官】 出野 智之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−329029(JP,A)
【文献】 特開2008−152948(JP,A)
【文献】 特開昭55−049877(JP,A)
【文献】 実開昭62−112880(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 1/22
H01T 4/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性管と、
該絶縁性管の両端開口部を閉塞して内部に放電制御ガスを封止する一対の封止電極と、
前記一対の封止電極の一方に基端が導電性融着材で固着され先端が他方に向けて突出した突出電極部材とを備え、
前記突出電極部材が、基端から先端まで形成された溝部又は孔部を有し、
前記導電性融着材が、前記封止電極よりも電子放出能の高い金属を含有し、前記溝部内又は前記孔部内に基端から先端まで延在していることを特徴とするサージアブソーバ。
【請求項2】
請求項1に記載のサージアブソーバにおいて、
前記突出電極部材の先端に、前記導電性融着材の溜まり部が形成されていることを特徴とするサージアブソーバ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のサージアブソーバにおいて、
前記突出電極部材が、内部に前記孔部として貫通孔が形成された筒状部材であることを特徴とするサージアブソーバ。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のサージアブソーバにおいて、
前記突出電極部材が、側面に前記溝部が形成された柱部材であることを特徴とするサージアブソーバ。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のサージアブソーバにおいて、
前記突出電極部材が、折れ曲がった板材により隙間状の前記溝部が形成された金属板部材であることを特徴とするサージアブソーバ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のサージアブソーバにおいて、
前記突出電極部材が、Cuで形成され、
前記導電性融着材が、Agを含有したロウ材であることを特徴とするサージアブソーバ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のサージアブソーバを製造する方法であって、
内部に放電制御ガスと突出電極部材とを入れた状態で絶縁性管の両端開口部を一対の封止電極で閉塞する組み込み工程と、
前記一対の封止電極の内面に設けた導電性融着材で前記一対の封止電極と前記絶縁性管とを固着させると共に前記一対の封止電極の一方と前記突出電極部材の基端とを固着させる固着工程とを有し、
前記突出電極部材が、基端から先端まで形成された溝部又は孔部を有し、
前記導電性融着材が、前記封止電極よりも電子放出能の高い金属を含有し、
前記固着工程で、加熱溶融させた前記導電性融着材を毛細管現象により前記溝部内又は前記孔部内を前記突出電極部材の基端から先端まで延ばして延在させることを特徴とするサージアブソーバの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のサージアブソーバの製造方法において、
前記溝部又は前記孔部が、前記突出電極部材の基端から先端までの最短距離となる経路で形成されていることを特徴とするサージアブソーバの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落雷等で発生するサージから様々な機器を保護し、事故を未然に防ぐのに使用するサージアブソーバ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電話機、ファクシミリ、モデム等の通信機器用の電子機器が通信線との接続する部分、電源線、アンテナ或いはCRT駆動回路等、雷サージや静電気等の異常電圧(サージ電圧)による電撃を受けやすい部分には、異常電圧によって電子機器やこの機器を搭載するプリント基板の熱的損傷又は発火等による破壊を防止するために、サージアブソーバが接続されている。
【0003】
従来、例えば特許文献1に示すように、互いに対向配置された一対の端子電極部材と、一対の端子電極部材を両端に配して内部に放電制御ガスを封止する絶縁性管とを備え、一対の端子電極部材の内表面に、中央部が盛り上がった膨出電極材が形成され、該膨出電極材に、前記端子電極部材よりも電子放出能の高い金属が含まれているサージアブソーバが提案されている。このサージアブソーバでは、膨出電極材の盛り上がった中央部に電界が集中して容易に放電させることができ、波尾長の長いサージにも耐えることができる。また、膨出電極材に、端子電極部材よりも電子放出能の高い金属が含まれているので、放電助剤を塗布する必要が無く、放電開始電圧が安定するものである。
【0004】
また、特許文献2には、一対の端子電極部材の間に放電空間を囲む絶縁性管がロウ付けによって固着されるとともに、一対の端子電極部材の内表面に、他方の端子電極部材に向けて突出する突出電極がそれぞれ固着され、該突出電極に、その放電開始面への溶融ロウ材の這い上がりを規制するロウ材ストッパ手段として凹部が形成されているサージアブソーバが提案されている。
【0005】
このサージアブソーバは、ロウ付け時に溶融状態となったロウ材が端子電極部材の表面を這い上がって先端の放電開始面に付着し易く、電極部材としての材質がロウ材に変わってしまうことになるため、放電開始電圧が変化することを防ぐものである。すなわち、このサージアブソーバでは、ロウ付け時に突出電極の基端部まで溶融ロウ材が達したとしても、ロウ材ストッパ手段の凹部によって放電開始面への這い上がりが規制されているので、放電開始面自体は電極部材のまま維持することができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−170917号公報
【特許文献2】特開2007−329029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、従来の構造では、電極間距離を短くして放電開始電圧が低電圧のものを作製しようとした際に、放電ギャップを小さくする必要があるが、特許文献1の技術では、サージアブソーバ自体の大きさを小さく(短く)しなければならず、放電空間が小さくなってサージ耐量が低下してしまう不都合があった。また、放電電極を成形して突起を設けた突出電極を形成することで電極間距離を短くする方法もあるが、この方法では突出電極の表面に溶融したロウ材が不均一に這い上がって放電開始電圧が変化する場合があった。これに対して特許文献2の技術では、溶融したロウ材の這い上がりを途中で規制するロウ材ストッパ手段として凹部を突出電極の外表面に形成しているが、この場合、突出電極を構成する材料の電子放出能が低い場合、放電特性を向上させるには、電極の先端に別途、電子放出剤を塗布する必要があり、製造工程及び製造コストが増大してしまう問題があった。
【0008】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、安定して低電圧の放電開始電圧を有し、低コストで作製可能なサージアブソーバ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係るサージアブソーバは、絶縁性管と、該絶縁性管の両端開口部を閉塞して内部に放電制御ガスを封止する一対の封止電極と、前記一対の封止電極の一方に基端が導電性融着材で固着され先端が他方に向けて突出した突出電極部材とを備え、前記突出電極部材が、基端から先端まで形成された溝部又は孔部を有し、前記導電性融着材が、前記封止電極よりも電子放出能の高い金属を含有し、前記溝部内又は前記孔部内に基端から先端まで延在していることを特徴とする。
【0010】
このサージアブソーバでは、導電性融着材が、封止電極よりも電子放出能の高い金属を含有し、突出電極部材の基端から先端まで形成された溝部内又は孔部内に基端から先端まで延在しているので、電子放出能が高い導電性融着材が放電開始面となる突出電極部材の先端まで達して延在していることで、電子放出剤を塗布する必要が無く安定して低い放電開始電圧が得られる。すなわち、上記特許文献2の技術では、突出電極の途中で這い上がったロウ材を規制してロウ材が放電開始面にならないように設定しているのに対し、本発明では、電子放出能の高い導電性融着材を積極的に突出電極部材の先端まで延在させているので、突出電極部材の先端から安定して低電圧で放電を開始させることが可能になる。
【0011】
第2の発明に係るサージアブソーバは、第1の発明において、前記突出電極部材の先端に、前記導電性融着材の溜まり部が形成されていることを特徴とする。
すなわち、このサージアブソーバでは、突出電極部材の先端に、導電性融着材の溜まり部が形成されているので、電子放出能の高い金属が先端にまとまって存在することで、さらに安定して低電圧で放電を開始させることができる。
【0012】
第3の発明に係るサージアブソーバは、第1又は第2の発明において、前記突出電極部材が、内部に前記孔部として貫通孔が形成された筒状部材であることを特徴とする。
すなわち、このサージアブソーバでは、突出電極部材が、内部に孔部として貫通孔が形成された筒状部材であるので、筒状部材の貫通孔内に延在して先端まで達している導電性融着材により放電させることができる。
【0013】
第4の発明に係るサージアブソーバは、第1又は第2の発明において、前記突出電極部材が、側面に前記溝部が形成された柱部材であることを特徴とする。
すなわち、このサージアブソーバでは、突出電極部材が、側面に溝部が形成された柱部材であるので、溝部内に延在して先端まで達している導電性融着材により放電させることができる。
【0014】
第5の発明に係るサージアブソーバは、第1又は第2の発明において、前記突出電極部材が、板材を折り曲げて隙間状の前記溝部が形成された金属板部材であることを特徴とする。
すなわち、このサージアブソーバでは、突出電極部材が、板材を折り曲げて隙間状の溝部が形成された金属板部材であるので、板材の隙間状の溝部内に延在して先端まで達している導電性融着材により放電させることができる。
【0015】
第6の発明に係るサージアブソーバは、第1から第5のいずれかの発明において、前記突出電極部材が、Cuで形成され、前記導電性融着材が、Agを含有したロウ材であることを特徴とする。
すなわち、このサージアブソーバでは、突出電極部材が、Cuで形成され、導電性融着材が、Agを含有したロウ材であるので、Cuよりも高い電子放出能を有するAgを含有したロウ材により放電させることができ、安価で安定した低い放電開始電圧を得ることができる。
【0016】
第7の発明に係るサージアブソーバの製造方法は、第1から第6のいずれかの発明に係るサージアブソーバを製造する方法であって、内部に放電制御ガスと突出電極部材とを入れた状態で絶縁性管の両端開口部を一対の封止電極で閉塞する組み込み工程と、前記一対の封止電極の内面に設けた導電性融着材で前記一対の封止電極と前記絶縁性管とを固着させると共に前記一対の封止電極の一方と前記突出電極部材の基端とを固着させる固着工程とを有し、前記突出電極部材が、基端から先端まで形成された溝部又は孔部を有し、前記導電性融着材が、前記封止電極よりも電子放出能の高い金属を含有し、前記固着工程で、加熱溶融させた前記導電性融着材を毛細管現象により前記溝部内又は前記孔部内を前記突出電極部材の基端から先端まで延ばして延在させることを特徴とする。
【0017】
すなわち、このサージアブソーバの製造方法では、固着工程で、加熱溶融させた導電性融着材を毛細管現象により溝部内又は孔部内を突出電極部材の基端から先端まで延ばして延在させるので、組み込み工程前に、別途、溝部内又は孔部内に導電性融着材を設けた突出電極部材を作製する必要が無く、固着工程で同時に導電性融着材を突出電極部材の先端まで延在させることができる。したがって、製造工程の削減及び製造コストの低減が可能になる。
【0018】
第8の発明に係るサージアブソーバの製造方法は、第7の発明において、前記溝部又は前記孔部が、前記突出電極部材の基端から先端までの最短距離となる経路で形成されていることを特徴とする。
すなわち、このサージアブソーバの製造方法では、溝部又は孔部が、突出電極部材の基端から先端までの最短距離となる経路で形成されているので、固着工程で溶融した導電性融着材が毛細管現象により最短距離で先端まで這い上がることができ、確実に導電性融着材を基端から先端まで延在させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るサージアブソーバ及びその製造方法によれば、導電性融着材が、封止電極よりも電子放出能の高い金属を含有し、突出電極部材の基端から先端まで形成された溝部内又は孔部内に基端から先端まで延在するので、電子放出剤を塗布する必要が無く安定して低い放電開始電圧が得られる。
したがって、放電開始電圧の低電圧化と応答性の高速化とが可能になると共に、低コストで作製することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係るサージアブソーバ及びその製造方法の第1実施形態を示す斜視図(a)、分解斜視図(b)及び突出電極部材の手前で切断した縦断面図(c)である。
図2】本発明に係るサージアブソーバ及びその製造方法の第2実施形態を示す斜視図(a)、分解斜視図(b)及び突出電極部材の手前で切断した縦断面図(c)である。
図3】本発明に係るサージアブソーバ及びその製造方法の第3実施形態を示す斜視図(a)、分解斜視図(b)及び突出電極部材の手前で切断した縦断面図(c)である。
図4】本発明に係るサージアブソーバ及びその製造方法の比較例1を示す斜視図(a)、分解斜視図(b)及び縦断面図(c)である。
図5】本発明に係るサージアブソーバ及びその製造方法の比較例2を示す斜視図(a)、分解斜視図(b)及び突出電極部材の手前で切断した縦断面図(c)である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係るサージアブソーバ及びその製造方法の第1実施形態を、図1を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能又は認識容易な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0022】
本実施形態のサージアブソーバ1は、図1に示すように、絶縁性管2と、該絶縁性管2の両端開口部を閉塞して内部に放電制御ガスを封止する一対の封止電極3と、一対の封止電極3の一方に基端が導電性融着材Hで固着され先端が他方に向けて突出した突出電極部材4とを備えている。
【0023】
上記突出電極部材4は、基端から先端まで形成された孔部4aを有している。本実施形態では、突出電極部材4が、内部に孔部4aとして貫通孔が中心軸上に形成された円筒状部材であり、Cuで構成されている。
上記導電性融着材Hは、封止電極3よりも電子放出能の高い金属を含有し、孔部4a内に基端から先端まで延在している。また、突出電極部材4の先端には、導電性融着材Hの溜まり部Haが形成されている。この導電性融着材Hは、封止電極3よりも電子放出能の高い金属としてAgを含有したロウ材であって、例えばAgを含むロウ材としてAg−Cuロウ材で形成されている。
【0024】
上記絶縁性管2は、セラミックス筐体であって、外形が角柱で中空な角筒形状のセラミックス材で形成されている。なお、絶縁性管2は、アルミナなどの結晶性セラミックス材が好ましいが、鉛ガラス等のガラス管を採用しても構わない。
また、絶縁性管2の内周面であって一対の封止電極3の中間部分には、導電性材料で形成されたトリガ部5が設けられている。該トリガ部5は、例えば炭素材で形成されたカーボントリガである。また、このトリガ部5は、図1のような楕円膜状以外に、点状や絶縁性管2の軸線方向又は周方向への線状に形成しても構わない。なお、このトリガ部5は、要望される特性に応じて形成しなくても構わない。
【0025】
上記封止電極3は、四角板状の電極部であり、絶縁性管2の両端開口部に導電性融着材Hにより加熱処理によって密着状態に固定されている。
上記絶縁性管2内に封入される放電制御ガスは、不活性ガス等であって、例えばHe,Ar,Ne,Xe,Kr,SF,CO,C,C,CF,H,大気等及びこれらの混合ガスが採用される。
【0026】
次に本実施形態のサージアブソーバ1の製造方法について説明する。
このサージアブソーバ1の製造方法は、内部に放電制御ガスと突出電極部材4とを入れた状態で絶縁性管2の両端開口部を一対の封止電極3で閉塞する組み込み工程と、一対の封止電極3の内面に設けた導電性融着材Hで一対の封止電極3と絶縁性管2とを固着させると共に一対の封止電極3の一方と突出電極部材4の基端とを固着させる固着工程とを有している。
【0027】
このサージアブソーバ1を作製するには、まず内面にトリガ部5が形成された絶縁性管2を用意すると共に、基端から先端まで形成された孔部4aとして貫通孔が形成された円筒状の突出電極部材4を用意する。
次に、絶縁性管2の接合面及び封止電極3の内面に所定厚さの導電性融着材Hを配すると共に、突出電極部材4を一方の封止電極3の内面の導電性融着材H上に立てた状態で、絶縁性管2内の空気を所定の放電制御ガス(例えば、Ar)で置換した後に、加熱処理により密着固定する。
【0028】
すなわち、加熱ヒータの穴内に、一方の封止電極3、板状の導電性融着材H、絶縁性管2、突出電極部材4、板状の導電性融着材H及び他方の封止電極3の順番で挿入する。そして、この状態で絶縁性管2の空気を所定の放電制御ガス(例えばAr)で置換した後、封止電極3を絶縁性管2の両端に加圧密着させて加熱する。
【0029】
この際、加熱溶融された導電性融着材Hは、毛細管現象により孔部4a内を突出電極部材4の基端から先端まで延びて延在する。すなわち、突出電極部材4の孔部4aが、溶融した導電性融着材Hが毛細管現象で先端まで這い上ることができる内径に設定されている。なお、導電性融着材Hは、突出電極部材4の先端でロウ材たまりを形成するまで這い上がらせることが好ましい。
これにより、導電性融着材Hで封止電極3と絶縁性管2とを密着させて封止を行うことで、放電制御ガスを絶縁性管2内に封入すると共に突出電極部材4を固着し、さらに導電性融着材Hを突出電極部材4の先端まで登らせることで、サージアブソーバ1が作製される。
【0030】
このサージアブソーバ1では、過電圧又は過電流が侵入すると、まずトリガ部5と突出電極部材4の先端の導電性融着材H(溜まり部Ha)との間でトリガ放電が行われ、このトリガ放電をきっかけに、さらに放電が進展して一対の封止電極3間で放電が行われることでサージが吸収される。
【0031】
このように本実施形態のサージアブソーバ1では、導電性融着材Hが、封止電極3よりも電子放出能の高い金属を含有し、突出電極部材4の基端から先端まで形成された孔部4a内に基端から先端まで延在しているので、電子放出能が高い導電性融着材Hが放電開始面となる突出電極部材4の先端まで達して延在していることで、電子放出剤を塗布する必要が無く安定して低い放電開始電圧が得られる。
【0032】
すなわち、突出電極部材4が、内部に孔部4aとして貫通孔が形成された筒状部材であるので、筒状部材の孔部4a内に延在して先端まで達している電子放出能の高い導電性融着材Hにより放電させることができる。
特に、突出電極部材4の先端に、導電性融着材Hの溜まり部Haが形成されているので、電子放出能の高い金属が先端にまとまって存在することで、さらに安定して低電圧で放電を開始させることができる。
【0033】
また、固着工程で、加熱溶融させた導電性融着材Hを毛細管現象により孔部4a内を突出電極部材4の基端から先端まで延ばして延在させるので、組み込み工程前に、別途、孔部4a内に導電性融着材Hを設けた突出電極部材4を作製する必要が無く、固着工程で同時に導電性融着材Hを突出電極部材4の先端まで延在させることができる。したがって、製造工程の削減及び製造コストの低減が可能になる。
さらに、孔部4aが、突出電極部材4の基端から先端までの最短距離となる経路で形成されているので、固着工程で溶融した導電性融着材Hが毛細管現象により最短距離で先端まで這い上がることができ、確実に導電性融着材Hを基端から先端まで延在させることができる。
【0034】
次に、本発明に係るサージアブソーバの第2及び第3実施形態について、図2及び図3を参照して以下に説明する。なお、以下の各実施形態の説明において、上記実施形態において説明した同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0035】
第2実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、突出電極部材4が、内部に孔部4aとして貫通孔が形成された筒状部材であるのに対し、第2実施形態のサージアブソーバ21では、図2に示すように、突出電極部材24が、側面に溝部24aが形成された柱部材である点である。すなわち、第2実施形態の突出電極部材24は、円柱状に形成された部材の外周面に断面略V字状に切り込まれた溝部24aが中心軸に沿って形成され、該溝部24a内に固着工程で溶融して毛細管現象で這い上がった導電性融着材Hが延在している。
したがって、第2実施形態のサージアブソーバ21では、突出電極部材24が、側面に溝部24aが形成された柱部材であるので、溝部24a内に延在して先端まで達している電子放出能の高い導電性融着材Hにより放電させることができる。
【0036】
第3実施形態と第1実施形態との異なる点は、突出電極部材4が、内部に孔部4aとして貫通孔が形成された筒状部材であるのに対し、第3実施形態のサージアブソーバ31では、図3に示すように、突出電極部材34が、板材を折り曲げて隙間状の溝部34aが形成された金属板部材である点である。
【0037】
第3実施形態の突出電極部材34は、長方形状のCu板を、溶融した導電性融着材Hが毛細管現象で這い上がれる隙間状の溝部34aが得られるように、2箇所で折り曲げて形成されている。すなわち、山折りと谷折りとを行うことで折り返した段折りをしてCu板を折り畳み、この状態でCu板を立てることで、サージアブソーバ31の軸線に沿った2つの折り目と溝部34aとを有する突出電極部材34が得られる。なお、Cu板を折り曲げる際に、導電性融着材Hが毛細管現象で這い上がれる隙間状の溝部34aが少なくとも1つ得られるように曲げ角度を設定すると共に、突出電極部材34が立設可能なように折り曲げる。
【0038】
したがって、第3実施形態のサージアブソーバ31では、突出電極部材34が、板材を折り曲げて隙間状の溝部34aが形成された金属板部材であるので、板材の隙間状の溝部24a内に延在して先端まで達している電子放出能の高い導電性融着材Hにより放電させることができる。
【実施例】
【0039】
次に、本発明に係るサージアブソーバ及びその製造方法を、上記実施形態に基づいて実際に作製した実施例により評価した結果を具体的に説明する。
【0040】
代表的に上記第3実施形態のサージアブソーバ31の実施例として、高さ2.8mmの突出電極部材34を、長さ3.3mm、断面寸法3.2mm×2.3mmの絶縁性管2内に立設させた実施例1を作製した。なお、突出電極部材34の先端から対向する導電性融着材Hまでの距離は、0.5mmである。
この実施例1について、直流放電開始電圧V(単位V)と、1.2/50 6kV印加時の放電開始電圧Vimp(単位V)とを測定し、さらに応答性の目安としてVimp/Vを求めた。なお、Vimp/Vは、「1」に近いほど応答性に優れている。
【0041】
また、比較のため、特許文献1に記載のサージアブソーバ101として、図4に示すように、封止電極3の内表面に、中央部が盛り上がった導電性融着材Hからなる膨出電極材が形成された比較例1を作製した。また、比較例2として、互いに対向状態に突出して一対の封止電極3の内面に内側電極106を介して立設した一対のCuの円柱状電極部材104を備え、これら円柱状電極部材104の表面に電子放出剤(セシウム化合物)を塗布したサージアブソーバ121も作製した。そして、これらの比較例についても、実施例1と同様の測定を行った。
なお、比較例1及び2の絶縁性管2の寸法は、実施例1と同様としている。また、比較例2の一対の円柱状電極部材104は、高さ1.4mm、直径1.0mmであり、互いの間隔を0.5mmとした。これらの結果を、表1に示す。
【表1】
【0042】
これらの結果からわかるように、突出電極部材4が無いだけで、ほぼ同じ構造である比較例1に比べて、本発明の実施例1は直流放電開始電圧V及び6kV印加時の放電開始電圧Vimpが大幅に低下している。また、本発明の実施例1と比較例2とを比べると、実施例1は直流放電開始電圧Vが100V程度高いのにかかわらず、6kV印加時の放電開始電圧Vimpが低くなっており、応答性に優れていることがわかる。
【0043】
なお、本発明の技術範囲は上記各実施形態および上記各実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0044】
1,21,31,101,121…サージアブソーバ、2…絶縁性管、3…封止電極、4,21,31…突出電極部材、4a…孔部、24a,34a…溝部、5…トリガ部、H…導電性融着材、Ha…溜まり部
図1
図2
図3
図4
図5