特許第5892008号(P5892008)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5892008
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】ボールエンドミル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/10 20060101AFI20160310BHJP
   B23P 15/34 20060101ALI20160310BHJP
【FI】
   B23C5/10 B
   B23P15/34
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-193599(P2012-193599)
(22)【出願日】2012年9月3日
(65)【公開番号】特開2014-46441(P2014-46441A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正訓
(72)【発明者】
【氏名】日向野 哲
(72)【発明者】
【氏名】久保 拓矢
【審査官】 五十嵐 康弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−171108(JP,A)
【文献】 特開2001−129715(JP,A)
【文献】 特開2003−275928(JP,A)
【文献】 特開2004−142055(JP,A)
【文献】 特開2012−006135(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/157667(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/10
B23B 51/00−51/02
B23P 15/34
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに回転される工具先端部に、該工具先端部の外周に配置される側刃と、該工具先端部の先端に配置される円弧状のボール刃とからなる一対の切刃部が前記軸線を挟んで互いに反対側に形成されてなり、前記工具先端部の外周部が、前記軸線回りの楕円により形成される楕円柱部と、該楕円柱部の先端に連続して設けられ前記楕円の短径を回転軸とした回転楕円形状により形成される先端ボール部とにより構成され、前記切刃部は、前記側刃が前記楕円の長径の両端に前記軸線に沿って配置され、前記ボール刃が前記先端ボール部の表面に前記側刃の先端から前記楕円の長径方向に沿って内方に向かって配置され、前記楕円は、長径が2mm以下で、且つ長径に対する短径の比率が0.95以下に設定されていることを特徴とするボールエンドミル。
【請求項2】
請求項1記載のボールエンドミルを製造する方法であって、円柱状素材に楕円柱部を形成する楕円柱加工工程と、前記円柱状素材に先端ボール部を形成する先端ボール加工工程と、前記楕円柱加工工程及び先端ボール加工工程後の円柱状素材にギャッシュ及びすくい面を形成するとともに側刃及びボール刃を形成する切刃加工工程とを有し、前記楕円柱加工工程及び前記先端ボール加工工程は、前記円柱状素材をその軸線回りに回転させた状態で、該円柱状素材にレーザビームを前記楕円形状の接線方向から照射するとともに、回転に伴い移動する前記楕円形状の回転位相に合わせて前記レーザビームの照射位置を移動させることを特徴とするボールエンドミルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密金型等をフライス加工するための小径のボールエンドミル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールエンドミルは、外周部に形成される側刃(外周刃)と、エンドミルの先端に球状に形成される底刃とにより構成された切刃部を有している。ボールエンドミルは、鋼や鋳鉄等の被加工物の面加工等に用いられ、主に曲面の切削加工に使用される。また、球状の底刃により垂直面と水平面とが交差するコーナー部のR面加工を行うことができる。
このようなボールエンドミルの切刃部の加工は、一般に砥石を使った切削加工によって形状形成がなされている。例えばその加工工程は、まず、円柱状の素材にギャッシュ及びすくい面を加工した後に、外径加工が施された外周面に逃げ面を形成して、最後に切刃部の形成が行われる。
このように加工されるエンドミルは、例えば、特許文献1及び特許文献2に開示されているように、逃げ面が二番角、三番角等の逃げ角により多段に形成されている。そして、多段に形成された逃げ面は、それぞれの逃げ角に合わせて砥石で研削することにより加工される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010‐162677号公報
【特許文献2】特開2012‐6134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、多段の逃げ角を有する逃げ面を形成するのは、製造工程が複雑になる。また、このような逃げ面が形成されたエンドミルは、被加工物の加工時に、各逃げ角の継ぎ目部分に切りくずが引っ掛かり、円滑に排出され難いという問題があった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、エンドミルの製造工程を簡略化でき、被加工物の切削時において切りくずを円滑に排出することが可能であるボールエンドミル及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のボールエンドミルは、軸線回りに回転される工具先端部に、該工具先端部の外周に配置される側刃と、該工具先端部の先端に配置される円弧状のボール刃とからなる一対の切刃部が前記軸線を挟んで互いに反対側に形成されてなり、前記工具先端部の外周部が、前記軸線回りの楕円により形成される楕円柱部と、該楕円柱部の先端に連続して設けられ前記楕円の短径を回転軸とした回転楕円形状により形成される先端ボール部とにより構成され、前記切刃部は、前記側刃が前記楕円の長径の両端に前記軸線に沿って配置され、前記ボール刃が前記先端ボール部の表面に前記側刃の先端から前記楕円の長径方向に沿って内方に向かって配置され、前記楕円は、長径が2mm以下で、且つ長径に対する短径の比率が0.95以下に設定されていることを特徴とする。
【0007】
工具先端部の外周部は楕円柱部と先端ボール部とにより形成され、切刃部の外径が楕円の長径に設定されている。このように、楕円の最外周部に側刃及びボール刃が形成されていることから、被加工物の加工時には、側刃及びボール刃が最初に被加工物に接触し、側刃及びボール刃に続く外周面は被加工物と接触しないように逃げ面として機能する。このため、外径加工と別に逃げ面を加工する必要がなく、製造工程を簡略化することができる。
また、楕円に形成された外周部は、継ぎ目のない滑らかな曲面で形成されているので、切削時に生じる切りくずを外周部の曲面に沿って円滑に排出することができる。また、切りくずを円滑に排出できるので、切削抵抗を低減することができ、高寿命で安定した切削性能を得ることができる。
【0008】
また、楕円の長径に対する短径の比率は、1に近づくほど外周部の形状が真円に近づくことになるため、比率が0.95を超えて設定された場合には、ボールエンドミルと被加工物とが非臨界的に接触して切削抵抗が大きくなる。したがって、0.95以下に設定している。
なお、比率が小さいほどボールエンドミルと被加工物とは臨界的に接触することになるが、エンドミルの切刃部として作用する刃部の厚みが薄くなり強度の確保が難しくなることから、下限値は必要強度に合わせて設定することが好ましい。
【0009】
本発明のボールエンドミルの製造方法は、円柱状素材に楕円柱部を形成する楕円柱加工工程と、前記円柱状素材に先端ボール部を形成する先端ボール加工工程と、前記楕円柱加工工程及び先端ボール加工工程後の円柱状素材にギャッシュ及びすくい面を形成するとともに側刃及びボール刃を形成する切刃加工工程とを有し、前記楕円柱加工工程及び前記先端ボール加工工程は、前記円柱状素材をその軸線回りに回転させた状態で、該円柱状素材にレーザビームを前記楕円形状の接線方向から照射するとともに、回転に伴い移動する前記楕円形状の回転位相に合わせて前記レーザビームの照射位置を移動させることを特徴とする。
【0010】
円柱状素材に楕円の外周部を形成することで、工具先端部の逃げ面として機能する外周部と、工具先端部の外周に配置される側刃及びボール刃とを同時に形成することができる。そのため、外周部を加工する工程と別に逃げ面及び側刃、ボール刃を加工する工程を設ける必要がなく、製造工程を簡略化することができる。
また、側刃及びボール刃加工工程は、円柱状素材を取り付けたシャンクを自転させながら、その回転位相とレーザビームの照射位置とを同期させながら加工することによって行うことができるので、楕円形状を容易に加工することができる。
さらに、精密な切削加工の用途に用いられる小径のエンドミルの素材には、cBN焼結体や焼結ダイヤモンド、超硬合金等の高硬度の材料が使用される。そのため、研削により逃げ部の形成を行う場合、砥石を強く押し付けることによってたわみが生じて所望の精度で加工することが難しいが、工具先端部全体を力学的な負荷が掛らないレーザ加工で形成することができるので、従来の砥石による加工で生じるたわみ等による加工精度の低下を防止することができる。
また、工具先端部は、レーザ加工によって例えばRz(最大高さ)≦1μmで回転楕円体状に滑らかな逃げ面が形成されるため、ボール刃を鋭利な稜線をもって形成することができる。さらに、ボール刃よりも工具の根元側直下では、逃げ面が同様に楕円柱状に滑らかに加工されているため、側刃を鋭利な稜線をもって形成することができ、切れ味の高いボールエンドミルを製造することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、工具先端部の外周部を楕円形状で形成することにより、被加工物の切削時において切りくずを円滑に排出することができるとともに、ボールエンドミルの製造工程を簡略化することができる。また、工具先端部は、レーザ加工によって例えばRz(最大高さ)≦1μmで回転楕円体状に滑らかな逃げ面が形成されるため、ボール刃を鋭利な稜線をもって形成することができる。さらに、ボール刃よりも工具の根元側直下では、逃げ面が同様に楕円柱状に滑らかに加工されているため、側刃を鋭利な稜線をもって形成することができ、切れ味の高いボールエンドミルを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係るボールエンドミルの一実施形態を示す工具先端部の概略図であり、(a)が斜視図、(b)が正面図、(c)が側面図である。
図2】本発明に係るボールエンドミルの製造方法に使用するレーザ加工装置を示す全体構成図である。
図3】外周部の楕円加工工程を説明する図であり、軸線方向から見た図である。
図4図3に示すA矢視図である。
図5】レーザビーム照射位置及び楕円形状の接点の軌跡と回転角度との関係を示すグラフである。
図6】ボールエンドミルの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るボールエンドミル及びその製造方法の一実施形態を説明する。
図6に示す本実施形態のボールエンドミル1は、図1に示すように、軸線x回りに回転される工具先端部2に、一対の切刃部11が軸線xを挟んで互いに反対側に形成された2枚刃のボールエンドミルである。このボールエンドミル1は、円柱状のシャンク部3の先端部が小径に形成され、その小径の首部4の先端に略円周状のチップ部5が接合された構成とされている。チップ部5は、首部4に接合される超硬合金部6と、その超硬合金部6に接続され、切刃部11が形成されるcBN焼結体、ダイヤモンド焼結体等の工具先端部2とで構成されている。
【0014】
工具先端部2の外周部21は、軸線x回りの楕円により形成される楕円柱部31と、その楕円柱部31の先端に連続して設けられ、楕円の短径aを回転軸とした回転楕円形状により形成される先端ボール部32により構成されており、その楕円は、長径bが2mm以下で、長径bに対する短径aの比率が0.95以下に設定されている。
また、切刃部11は、工具先端部2の外周に配置される側刃12と、工具先端部2の先端に配置される円弧状のボール刃13とにより形成される。側刃12は楕円の長径bの両端に軸線xに沿って配置される。また、ボール刃13は、先端ボール部32の表面に側刃12の先端から楕円の長径b方向に沿って内方に向かって配置され、半径R=b/2の円弧状に形成される。そして、一対の切刃部11は、周方向に180°離間した位置に配置されている。なお、図1の符号15は、ギャッシュ及びすくい面を示している。
【0015】
このように構成されるボールエンドミル1は、図2から図4に示すように、工具先端部2を形成する円柱状素材20にレーザビーム(レーザ光)Lを照射することにより形状形成される。
本実施形態の製造方法に用いるレーザ加工装置100は、図2に示すように、工具先端部2に加工される円柱状素材20にレーザビームLを照射して三次元加工する装置である。このレーザ加工装置100は、レーザビームLをパルス発振して円柱状素材20に一定の繰り返し周波数で照射しながら走査するレーザ光照射機構22と、チップ部5を接合したシャンク部3を保持した状態で回転可能なモータ等の回転機構23と、その回転機構23が設置されてxyz軸方向に移動可能な移動機構24と、これらを制御する制御部25とを備えている。
【0016】
移動機構24は、水平面に平行なx方向に移動なx軸ステージ部24xと、そのx軸ステージ部24x上に設けられx方向に対して垂直で水平面に平行なy方向に移動可能なy軸ステージ部24yと、y軸ステージ部24y上に設けられ回転機構23が固定されてシャンク部3を保持可能であるとともに水平面に対して垂直方向に移動可能なz軸ステージ部24zとで構成されている。また、これらステージ部24x〜24yの駆動部は、例えばステッピングモータが用いられ、エンコーダにより位相をフィードバックすることができるようになっている。
【0017】
レーザ光照射機構22は、QスイッチによりレーザビームLとなるレーザ光をパルス発振するとともにスポット状に集光させる光学系を有するレーザ光源26と、照射するレーザビームLを走査させるガルバノスキャナ27とを備えている。
レーザ光源26は、190nm〜550nmの短波長のレーザ光を照射できる光源を使用することができ、例えば本実施形態では、波長355nmのレーザ光を発振して出射できるものを用いている。また、ガルバノスキャナ27は、移動機構24の真上に配置されている。
【0018】
このように構成されるレーザ加工装置100により、ボールエンドミル1を製造する方法について説明する。
まず、円柱状素材20に外周部21の楕円柱部31を楕円に加工する外径加工を施す(楕円柱加工工程)。楕円柱加工工程は、図3に示すように、円柱状素材20を軸線x回りに回転させた状態でその円柱状素材20にレーザビームLを楕円形状e(加工後の外周形状)の接線方向から照射するとともに、その回転に伴い移動する楕円形状eの回転位相に合わせてレーザビームLの照射位置(焦点位置s)を移動させることにより行う。
楕円形状eの回転位相の軌跡は、回転軸モータの回転軸(軸線x)の位相を、その回転軸モータのエンコーダ信号を読み取ることにより求めることができる。そして、レーザビームLの焦点位置sを、楕円形状eの回転位相に対応させて制御することで、外周部21に楕円柱部31を加工することができる。
【0019】
レーザ加工装置100では、レーザビームLは鉛直方向(z軸方向)から照射されるようになっており、図3及び図4に示すように、楕円形状eの軌跡に沿ってレーザビームLの焦点位置sを走査する。図3(a)に示す回転位相では、y軸と楕円形状eの短径aが一致しており、レーザビームLと楕円形状eとの接点、すなわちレーザビームLの焦点位置sはy軸上に配置される。そして、図3(a)から楕円形状eの回転位相が45°回転した位相では、(b)に示すように、楕円形状eの軌跡は半径方向外方に移動することから、レーザビームLとの接点も半径方向外方に移動される。このように、レーザビームLの焦点位置sは、楕円形状eの短径aに一致した際に最も半径方向内方に配置され、長径bに一致した際には最も半径方向外方に配置される。
【0020】
なお、本実施形態では、レーザビームLの焦点位置sは、ビームウエストの位置を示す。レーザビームLの焦点深度が深く、楕円形状eと鉛直方向から照射されるレーザビームLとの接点が焦点深度範囲内にある場合には、レーザビームLを水平面内(x軸及びy軸方向)で移動することにより外周部21の楕円加工を行うことができる。一方、焦点深度が浅い場合は、楕円形状eとレーザビームLとの接点が焦点深度範囲内から外れてしまうため、接点が焦点深度範囲内に入るように、z軸ステージ部24zの位置を調整する。
【0021】
例えば、図5に示すグラフは、短径aが600μm、長径が1000μmの楕円形状を加工する場合のレーザビームLの照射位置(焦点位置s)と楕円形状eとの接点の軌跡を示している。この場合、レーザビームLの焦点位置sがy軸の短径aの半径位置(300μm)と長径bの半径位置(500μm)との間で走査されるとともに、円柱状素材20のz位置も調整される。
【0022】
このように、円柱状素材20の回転移動とレーザビームLの走査を複数周行うことで、楕円形状eに沿った楕円形状の楕円柱部31が形成される。そして、外径加工が施された円柱状素材20は、先端ボール部32の加工が行われて(先端ボール加工工程)、軸線x回りの楕円により形成される楕円柱部31と、その楕円柱部31の先端に連続して設けられ回転楕円形状により形成される先端ボール部32とにより構成される外周部21が形成される。
先端ボール加工工程は、楕円柱加工工程と同様に、円柱状素材20を軸線x回りに回転させた状態でその円柱状素材20にレーザビームLを加工後の外周形状の接線方向から照射するとともに、その回転に伴い移動する加工後の外周形状の回転位相に合わせてレーザビームLの照射位置(焦点位置s)を移動させることにより行う。
次に、すくい面を形成する位相を求め、外径加工が施された円柱状素材20にギャッシュ及びすくい面15を加工することにより、これらギャッシュ及びすくい面15が形成されるとともに、側刃12及びボール刃13が形成され(切刃加工工程)、ボールエンドミル1が製造される。
【0023】
このように構成されたボールエンドミル1を用いて、被加工物(図示略)に切削加工を施す際には、シャンク部3が工作機械(図示略)の主軸に保持されて軸線x回りに回転される。そして、主軸によってボールエンドミル1を軸線xに交差する方向あるいは軸線x方向に送り出すことにより、切刃部11によって被加工物に切削加工を施すことができる。
【0024】
本実施形態においては、工具先端部2の外周部21は楕円柱部31及び先端ボール部32により形成され、切刃部11の外径が楕円の長径bに設定されており、楕円の最外周部に側刃12及びボール刃13が形成されている。このため、被加工物の加工時には、側刃12又はボール刃13が最初に被加工物に接触し、外周部21は被加工物と接触しないように逃げ面として機能する。また、円柱状素材20に楕円柱部31を形成する楕円柱形成工程及び先端ボール加工工程において、工具先端部2の逃げ面として機能する楕円柱部31及び先端ボール部32を形成することができる。したがって、外周部21を加工する工程と別に逃げ面を加工する工程を設ける必要がなく、製造工程を簡略化することができる。
また、楕円に形成された外周部21は、継ぎ目のない滑らかな曲面で形成されているので、切削時に生じる切りくずを外周部21の曲面に沿って円滑に排出することができる。また、切りくずを円滑に排出できるので、切削抵抗を低減することができ、高寿命で安定した切削性能を得ることができる。
【0025】
さらに、円柱状素材20を取り付けたシャンク部3を軸線x回りに自転させながら、楕円形状eの回転位相とレーザビームLの照射位置(焦点位置s)とを同期させながら加工することにより、外周部21の楕円形状を容易に加工することができる。
また、精密な切削加工の用途に用いられる小径のエンドミルの素材には、cBN焼結体や焼結ダイヤモンド、超硬合金等の高硬度の材料が使用されるが、工具先端部2全体を力学的な負荷が掛らないレーザ加工で形成することができるので、従来の砥石による加工で生じるたわみ等による加工精度の低下を防止することができる。
そして、工具先端部2は、レーザ加工によって例えばRz(最大高さ)≦1μmで回転楕円体状に滑らかな逃げ面が形成されるため、ボール刃13を鋭利な稜線をもって形成することができる。さらに、ボール刃13よりも工具の根元側直下では、逃げ面が同様に楕円柱状に滑らかに加工されているため、側刃12を鋭利な稜線をもって形成することができ、切れ味の高いボールエンドミル1を製造することができる。
【0026】
また、楕円の長径bに対する短径aの比率a/bは、1に近づくほど外周部21の形状が真円に近づくことになるため、比率a/bが0.95を超えて設定された場合には、ボールエンドミル1と被加工物とが非臨界的に接触する。ここで言う非臨界的とは、側刃12の近傍で被加工物と接触する部分が大きくなることを指しており、ボールエンドミル1と被加工物とが非臨界的に接触した場合には切削抵抗が大きくなる。そのため、工具の寿命が短くなる、加工品質が低下する等の影響が大きくなる。したがって、比率a/bを0.95以下に設定している。
なお、比率a/bが小さいほどボールエンドミル1と被加工物とは臨界的に接触することになるが、ボールエンドミル1の切刃部11として作用する刃部の厚みが薄くなり強度の確保が難しくなることから、下限値は必要強度に合わせて設定することが好ましい。そのため、比率a/bは、0.1以上0.9以下に設定することが望ましいが、工具の折損耐性や工具製造を考慮すると、0.4以上0.75以下の範囲に設定されることがさらに望ましい。
【0027】
以上のように工具先端部2に外径加工を施した後に、ボール刃13を加工する。この場合、形成された先端ボール部の楕円形状により逃げ面が形成されているので、このボール刃の加工の際には逃げ面の加工は不要になる。そして、このボール刃13の加工により、側刃12と円弧状のボール刃13とが連続した切刃部11を有するボールエンドミルが製造される。
【0028】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、工具先端部2全体をレーザ加工により形成したが、外周部21の楕円加工工程以外、例えばギャッシュ及びすくい面15等の加工は、研削で行うこともできる。
また、上記実施形態では、楕円柱形成工程により楕円柱部31を形成した後に、先端ボール部32を形成する先端ボール加工工程を行うこととしていたが、これらの工程を逆にして行い、先に先端ボール加工工程を行った後に楕円形成工程を行うこととしてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 ラジアスエンドミル
2 工具先端部
3 シャンク部
4 首部
5 チップ部
6 超硬合金部
11 切刃部
12 側刃
13 ボール刃
14 コーナー刃
15 ギャッシュ及びすくい面
20 円柱状素材
21 外周部
22 レーザ光照射機構
23 回転機構
24 移動機構
24x x軸ステージ部
24y y軸ステージ部
24z z軸ステージ部
25 制御部
26 レーザ光源
27 ガルバノスキャナ
31 楕円柱部
32 先端ボール部
100 レーザ加工装置
L レーザビーム
図1
図2
図3
図4
図5
図6