特許第5892216号(P5892216)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5892216細胞培養システムにおける送液方法、及び細胞培養システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5892216
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】細胞培養システムにおける送液方法、及び細胞培養システム
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20160310BHJP
   C12M 3/02 20060101ALI20160310BHJP
   C12N 5/02 20060101ALI20160310BHJP
   C12N 5/00 20060101ALI20160310BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20160310BHJP
【FI】
   C12M1/00 C
   C12M3/02
   C12N5/02
   C12N5/00
   C12N5/0783
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-189272(P2014-189272)
(22)【出願日】2014年9月17日
【審査請求日】2015年12月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086759
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 喜平
(74)【代理人】
【識別番号】100142099
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 真一
(74)【代理人】
【識別番号】100154184
【弁理士】
【氏名又は名称】生富 成一
(72)【発明者】
【氏名】小関 修
(72)【発明者】
【氏名】末永 亮
(72)【発明者】
【氏名】柏原 賢
【審査官】 西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−166144(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/114845(WO,A1)
【文献】 国際公開第1987/00548(WO,A1)
【文献】 特開2013−240304(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/059091(WO,A1)
【文献】 特開2007−175028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
C12M 3/02
C12N 5/00
C12N 5/02
C12N 5/0783
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/MEDLINE/BIOSIS(STN)
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培地を培養容器に供給するための培地容器と、細胞培養に用いるための第一の培養容器と、細胞培養に用いるための第二の培養容器と、これらの容器を接続するための移送チューブを備えた細胞培養システムにおける送液方法であって、
前記細胞培養システムにおける各容器を、培地容器、第二の培養容器、第一の培養容器の順で前記移送チューブに接続し、
前記移送チューブにポンプを1つのみ取り付け、
前記第二の培養容器は、前記第二の培養容器と前記移送チューブとを接続する培養容器接続チューブにより、前記移送チューブにおける前記ポンプの両側で、前記移送チューブに接続し、
前記第一の培養容器に細胞を注入し、
前記ポンプにより、前記培地容器から前記第一の培養容器へ培地を移送し、前記第一の培養容器における細胞培養の後、前記第一の培養容器から前記第二の培養容器へ細胞懸濁液を移送して、前記培地容器から前記第二の培養容器へ培地を移送する
ことを特徴とする細胞培養システムにおける送液方法。
【請求項2】
前記第一の培養容器から前記第二の培養容器への細胞懸濁液の移送を、前記ポンプの前記培地容器側における前記移送チューブに接続された前記培養容器接続チューブを経由して行い、
前記培地容器から前記第二の培養容器への培地の移送を、前記ポンプの前記第一の培養容器側における前記移送チューブに接続された前記培養容器接続チューブを経由して行う
ことを特徴とする請求項1記載の細胞培養システムにおける送液方法。
【請求項3】
前記第二の培養容器が送液用のポートを2つ備え、前記第二の培養容器と前記移送チューブとの接続を前記培養容器接続チューブを2本用いて行い、前記培養容器接続チューブの一方の端部を前記2つのポートにそれぞれ接続し、前記培養容器接続チューブの他の端部を前記ポンプの両側で、前記移送チューブに接続する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の細胞培養システムにおける送液方法。
【請求項4】
前記第二の培養容器が送液用のポートを1つ備え、前記培養容器接続チューブが二股に分岐した形状であり、前記第二の培養容器と前記移送チューブとの接続を、前記培養容器接続チューブの一方の端部を前記1つのポートに接続し、前記培養容器接続チューブの他の端部を前記ポンプの両側で、前記移送チューブに接続することにより行う
ことを特徴とする請求項1又は2記載の細胞培養システムにおける送液方法。
【請求項5】
前記細胞培養システムが、前記培地容器を1つ又は2つ以上備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の細胞培養システムにおける送液方法。
【請求項6】
前記細胞培養システムが、細胞懸濁液を回収するための回収容器を1つ又は2つ以上備え、
前記第二の培養容器から前記回収容器への細胞懸濁液の移送を、前記ポンプにより、前記ポンプの前記第一の培養容器側における前記移送チューブに接続された前記培養容器接続チューブを経由して行う
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の細胞培養システムにおける送液方法。
【請求項7】
前記各容器からの流路が閉塞部材によって閉塞され、前記各容器間で送液を行うにあたり、送液を行う2つの容器についての前記閉塞部材のみを取り外して流路を開放し、前記ポンプによる送液を行う
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の細胞培養システムにおける送液方法。
【請求項8】
前記第一の培養容器が、細胞を活性化させるための細胞培養に用いる活性化培養容器であり、前記第二の培養容器が、細胞を増殖させるための細胞培養に用いる増幅培養容器である
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の細胞培養システムにおける送液方法。
【請求項9】
培地を培養容器に供給するための培地容器と、細胞培養に用いるための第一の培養容器と、細胞培養に用いるための第二の培養容器と、これらの容器を接続するための移送チューブを備えた細胞培養システムであって、
前記細胞培養システムにおける各容器が、培地容器、第二の培養容器、第一の培養容器の順で前記移送チューブに接続され、
前記移送チューブにポンプを1つのみ備え、
前記第二の培養容器は、前記第二の培養容器と前記移送チューブとを接続する培養容器接続チューブにより、前記移送チューブにおける前記ポンプの両側で、前記移送チューブに接続された
ことを特徴とする細胞培養システム。
【請求項10】
前記第二の培養容器が送液用のポートを2つ備え、前記第二の培養容器と前記移送チューブとの接続が前記培養容器接続チューブを2本用いて行われ、前記培養容器接続チューブの一方の端部が前記2つのポートにそれぞれ接続され、前記培養容器接続チューブの他の端部が前記ポンプの両側で、前記移送チューブに接続された
ことを特徴とする請求項9記載の細胞培養システム。
【請求項11】
前記第二の培養容器が送液用のポートを1つ備え、前記培養容器接続チューブが二股に分岐した形状であり、前記培養容器接続チューブの一方の端部が前記1つのポートに接続され、前記培養容器接続チューブの他の端部が前記ポンプの両側で、前記移送チューブに接続された
ことを特徴とする請求項9記載の細胞培養システム。
【請求項12】
前記ポンプがチューブローラポンプであることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の細胞培養システム。
【請求項13】
前記第一の培養容器の送液用のポートが、前記第一の培養容器の周縁部における前記移送チューブ側であって、かつ前記第二の培養容器に対して最も反対側に設けられた
ことを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載の細胞培養システム。
【請求項14】
前記第二の培養容器の送液用のポートの1つが、前記第二の培養容器の周縁部における前記移送チューブ側であって、かつ前記培地容器に対して最も反対側に設けられた
ことを特徴とする請求項9〜13のいずれかに記載の細胞培養システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養システムに関し、特に細胞培養システムにおける送液方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬品の生産や、遺伝子治療、再生医療、免疫療法等の分野において、細胞や組織などを人工的な環境下で効率良く大量に培養することが求められている。
このような細胞培養において、培地を培養容器に供給するための培地容器と、細胞培養に用いるための培養容器とをチューブにより接続して細胞培養システムを構成し、この細胞培養システムを用いて閉鎖系で細胞培養を行うことにより、コンタミネーションのリスクを回避して、細胞を増殖させることが行われている。
【0003】
この細胞培養システムでは、一般に培地は冷蔵保存の必要があるため、培地容器は冷蔵室に配置される。また、細胞培養では、温度や空気環境等の制御が必要なため、培養容器はインキュベータ内に配置される。そして、培地容器から培養容器へチューブを経由して培地が移送される。
また、細胞培養では、複数の培養容器を使用して、細胞の培養状況に合わせて培養容器間で細胞懸濁液の移送が行われる場合がある。
このような容器間での内容物の移送は、チューブに取り付けられたポンプを用いて行われることが一般的である。
【0004】
培地容器と複数の培養容器をチューブで接続した細胞培養システムの場合、従来は、複数のポンプを用いて、内容物の移送を行うことが必要であった。
例えば、図7の例では、培地容器110と、最初に細胞培養が行われる第一の培養容器120と、次に細胞培養が行われる第二の培養容器130とが移送チューブ140を用いて接続されており、培地容器110と第二の培養容器130間に第一のポンプ141が配置され、第二の培養容器130と第一の培養容器120間に第二のポンプ142が配置されている。そして、第一の培養容器120に細胞が注入された後に、培地容器110から培地がポンプ141とポンプ142を経由して第一の培養容器120へ移送される。第一の培養容器120での細胞培養の後、次に第一の培養容器120から細胞懸濁液がポンプ142を経由して第二の培養容器130へ移送され、次いで培地容器110から培地がポンプ141を経由して第二の培養容器130へ移送される。
【0005】
ところで、細胞培養システムを閉鎖系として構成するために、ポンプとしてはチューブローラポンプが好適に用いられる。このようなポンプを用いた場合、前述した培地容器110から第一の培養容器120への培地の移送において、ポンプ141とポンプ142は同期をとって作動させる必要がある。
しかしながら、チューブの内径にはバラツキがあることなどの理由によって、このように直列に接続されたポンプを完全に同調させることは難しく、培地の移送効率が悪いという問題があった。
【0006】
これに対して、図8に示すように、培地容器110から第一の培養容器120へ培地を移送するための新たな経路を構成するチューブを追加し、このチューブに第三のポンプ143を取り付けることによって、上記問題を解消することが可能である。
しかしながら、ポンプはバルブ部材などに比べて高価であり、またチューブへのポンプの取り付けは煩雑な作業である。したがって、細胞培養システムにおけるポンプの数は、できるだけ少なくすることが望ましい。
【0007】
ここで、培地容器や培養容器等を備えた細胞培養システムにおいて、培地や細胞懸濁液の移送を行う技術としては、例えば特許文献1に記載の細胞培養システム(同文献における細胞培養キット)を挙げることができる。この細胞培養システムでは、培養容器のポート数に応じた数のポンプを用いることで、容器間の内容物の移送を閉鎖系で効率的に行うことが可能となっている。
【0008】
【特許文献1】国際公開第2013/114845号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の細胞培養システムは、複数の培養容器を用いる場合の送液効率を向上させるためのものではなく、またポンプ数を低減可能にするものではなかった。
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたものであり、培地を培養容器に供給するための培地容器と、細胞培養に用いるための2つの培養容器と、これらの容器を接続するための移送チューブを備えた細胞培養システムにおいて、直列に接続されたポンプの同期が不要で、チューブへのポンプの取り付けという煩雑な作業が最小限に抑えられた送液方法、及び細胞培養システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る細胞培養システムにおける送液方法は、培地を培養容器に供給するための培地容器と、細胞培養に用いるための第一の培養容器と、細胞培養に用いるための第二の培養容器と、これらの容器を接続するための移送チューブを備えた細胞培養システムにおける送液方法であって、前記細胞培養システムにおける各容器を、培地容器、第二の培養容器、第一の培養容器の順で前記移送チューブに接続し、前記移送チューブにポンプを1つのみ取り付け、前記第二の培養容器は、前記第二の培養容器と前記移送チューブとを接続する培養容器接続チューブにより、前記移送チューブにおける前記ポンプの両側で、前記移送チューブに接続し、前記第一の培養容器に細胞を注入し、前記ポンプにより、前記培地容器から前記第一の培養容器へ培地を移送し、前記第一の培養容器における細胞培養の後、前記第一の培養容器から前記第二の培養容器へ細胞懸濁液を移送して、前記培地容器から前記第二の培養容器へ培地を移送する方法としてある。
【0012】
また、本発明に係る細胞培養システムは、培地を培養容器に供給するための培地容器と、細胞培養に用いるための第一の培養容器と、細胞培養に用いるための第二の培養容器と、これらの容器を接続するための移送チューブを備えた細胞培養システムであって、前記細胞培養システムにおける各容器が、培地容器、第一の培養容器、第二の培養容器の順に、前記移送チューブに接続され、前記移送チューブにポンプを1つのみ備え、前記第二の培養容器は、前記第二の培養容器と前記移送チューブとを接続する培養容器接続チューブにより、前記移送チューブにおける前記ポンプの両側で、前記移送チューブに接続された構成としてある。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、培地を培養容器に供給するための培地容器と、細胞培養に用いるための2つの培養容器と、これらの容器を接続するための移送チューブを備えた細胞培養システムにおいて、1つのポンプのみを用いて送液を行うことが可能となる。従って、ポンプの同期が不要となり、チューブへのポンプの取り付けという煩雑な作業が最小限に抑えられた安価なシステムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第一実施形態に係る細胞培養システムの概略を示す説明図である。
図2】本発明の第一実施形態に係る細胞培養システムにおける送液手順を示す説明図である。
図3】本発明の第二実施形態に係る細胞培養システムの概略を示す説明図である。
図4】本発明の第三実施形態に係る細胞培養システムの概略を示す説明図である。
図5】本発明の第三実施形態に係る細胞培養システムにおける送液手順を示す説明図である。
図6】本発明の第四実施形態に係る細胞培養システムの概略を示す説明図である。
図7】従来の細胞培養システム(1)の概略を示す説明図である。
図8】従来の細胞培養システム(2)の概略を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る細胞培養システムにおける送液方法、及び細胞培養システムの好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0016】
[第一実施形態]
まず、本発明の第一実施形態に係る細胞培養システムにおける送液方法、及び細胞培養システムについて、図1及び図2を参照して説明する。
本実施形態の細胞培養システムは、図1に示すように、培地を培養容器に供給するための培地容器10と、細胞培養に用いるための第一の培養容器20及び第二の培養容器30と、これらの容器を接続するための移送チューブ40とを備えている。
第一の培養容器20は、細胞を注入して、最初に細胞培養が行われる培養容器であり、例えば細胞を活性化させるための細胞培養に用いる活性化培養容器などとして好適に用いることができる。第一の培養容器20を活性化培養容器として用いてリンパ球などの浮遊系細胞を活性化させる場合、第一の培養容器20内の底面には、抗CD3抗体などの細胞を活性化させる物質が固相化される。
第二の培養容器30は、第一の培養容器での細胞培養の後に、第一の培養容器における細胞懸濁液を移し変えて細胞培養を行うための容器であり、例えば細胞を増殖させるための細胞培養に用いる増幅培養容器などとして好適に用いることができる。
このように、第一の培養容器20を活性化培養容器として用いると共に、第二の培養容器30を増幅培養容器として用いることで、リンパ球などの浮遊系細胞を好適に増殖させることが可能となる。
【0017】
本実施形態の細胞培養システムにおいて、これらの容器は、培地容器10、第二の培養容器30、第一の培養容器20の順に、移送チューブ40に接続されている。なお、裏側から見た場合には、第一の培養容器20、第二の培養容器30、培地容器10の順に、移送チューブ40に接続されており、これらの順は同一である。
培地容器10は、送液用(送入及び送出を含む)のポート11を備え、このポート11において移送チューブ40に接続されている。なお、本実施形態の細胞培養システムにおいて、培地容器10の接続個数は特に限定されず、1つ又は2つ以上の培地容器10を移送チューブ40に接続して、本実施形態の細胞培養システムを構成することができる。
【0018】
第一の培養容器20は、送液用のポート21を備え、このポート21において移送チューブ40に接続されている。
ポート21は、図1に示すように、第一の培養容器20の周縁部における移送チューブ40側であって、かつ第二の培養容器30に対して最も反対側に設けることが好ましい。このようにすれば、第一の培養容器20から内容物を送出するにあたり、すなわち、第一の培養容器20から細胞懸濁液を第二の培養容器30に移送するにあたり、細胞培養システムをこのポート21が下になるように傾けることで、細胞懸濁液が第一の培養容器20に残留することを抑制することが可能となる。
【0019】
第二の培養容器30は、送液用のポート31及びポート32を備え、2本の培養容器接続チューブ42の一方の端部がこれらのポートに接続され、他の端部が移送チューブ40に接続されている。移送チューブ40における培養容器接続チューブ42の接続部の間には、ポンプ41が取り付けられている。
すなわち、本実施形態に係る細胞培養システムにおいて、ポンプは1つのみ備えられており、第二の培養容器30は、第二の培養容器30と移送チューブ40とを接続する培養容器接続チューブ42により、移送チューブ40におけるポンプ41の両側で、移送チューブ40に接続された構成となっている。
【0020】
ポート31は、図1に示すように、第二の培養容器30の周縁部における移送チューブ40側であって、かつ培地容器10に対して最も反対側に設けることが好ましい。このようにすれば、第二の培養容器30から内容物を送出するにあたり、すなわち、例えば第二の培養容器30から細胞懸濁液を培地容器10に移送して回収する場合には、細胞培養システムをこのポート31が下になるように傾けることで、細胞懸濁液が第二の培養容器30に残留することを抑制することが可能となる。
【0021】
これらの容器におけるポート数は、特に限定されるものではなく、その個数は任意のものにすることができる。図1の例では、第一の培養容器20には、ポート21の他に、細胞注入用のポートが備えられている。また、第二の培養容器30には、ポート31,32の他に、増殖因子などを注入する予備ポートとサンプリング用のポートが備えられている。
容器間で送液を行わない時は、各容器からの流路は、クリップなどの閉塞部材によって閉塞されている。すなわち、図1の例では、各容器とポンプ41間の流路はクリップ止めされている。そして、容器間で送液を行うにあたって、送液を行う2つの容器についての閉塞部材のみを取り外して流路を開放し、ポンプ41による送液を行う。なお、閉塞部材の位置及び個数は図1に限定されず、ポンプ41の際に配置させるなど適宜設定することができる。
【0022】
培地容器10は、一般に、格納している培地のpHが培養期間中に大きく変化しないように、酸素及び二酸化炭素に対するガスバリア性を有するものが用いられる。培地中に含まれている高濃度の炭酸ガスが空気中に抜け、培地中の炭酸ガス濃度が低下し、結果としてpHが上昇することを回避するため、培地容器10の内部から二酸化炭素が外部に漏れ出るのをできるだけ少なくすることが望ましく、また培地の酸化を防ぐことが望ましいためである。
【0023】
第一の培養容器20及び第二の培養容器30は、軟包材を材料として袋状(バッグ型)に形成されており、内容物を確認できるように、一部又は全部が透明性を有している。また、これらの培養容器は、細胞の培養に必要なガス透過性(酸素及び二酸化炭素透過性)を有していることが必要であり、37℃、5%二酸化炭素濃度の培養環境下で使用することが好ましい。さらに、高い細胞増殖効率を実現するために、低細胞毒性、低溶出性、及び放射線滅菌適性を有することが好ましい。
【0024】
このような条件を満たす培養容器の材料としては、ポリエチレン系樹脂が好ましい。このポリエチレン系樹脂としては、ポリエチレン、エチレンとα−オレフィンの共重合体、エチレンと酢酸ビニルの共重合体、エチレンとアクリル酸やメタクリル酸共重合体と金属イオンを用いたアイオノマー等が挙げられる。また、ポリオレフィン、スチレン系エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、シリコーン系熱可塑性エラストマー、シリコーン樹脂等を用いることもできる。
【0025】
培地容器10、第一の培養容器20及び第二の培養容器30の形状及びこれらの収容部の形状は、特に限定されず、図1の例では、長方形状としている。これらの容器は、四辺をヒートシールにより密封して製造でき、またブロー成形による一体成型バッグとして製造することもできる。
各ポートは、移送チューブ40側に配置することが好ましく、収容部を、チューブの取り付け部分に向かって次第に狭くなるようにすることも好ましい。
【0026】
移送チューブ7及び培養容器接続チューブ42の材料は、使用環境に合わせて適宜選択すれば良いが、ガス透過性に優れるものが望ましい。例えば、シリコーンゴム、軟質塩化ビニル樹脂、ポリブタジエン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、シリコーン系熱可塑性エラストマー、スチレン系エラストマー等を用いることができる。また、スチレン系エラストマーとしては、例えば、SBS(スチレン・ブタジエン・スチレン)、SIS(スチレン・イソプレン・スチレン)、SEBS(スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン)、SEPS(スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン)等を用いることができる。
【0027】
図1において、例えば、移送チューブ40におけるポンプ41を取り付ける部分にシリコーンチューブを用い、その他の部分に軟質塩化ビニル樹脂チューブを好適に用いることができる。
また、移送チューブ40におけるチューブ間の接続は、ルアーコネクターやその他の連結手段により行うことができる。さらに、移送チューブ40において、例えばピンチバルブや二方活栓、三方活栓等の流路開閉手段を設けても良い。
【0028】
ポンプ41の種類は特に限定されないが、細胞培養システムにおける閉鎖系を実現しやすいことから、ペリスタポンプ(R)などのチューブローラポンプを好適に用いることができる。
【0029】
なお、図示しないが、細胞培養システムには、各培養容器内の細胞や培地の状態を観察するための観察装置を備えることが好ましい。観察装置としては、例えばCCDカメラ、対物レンズ、照明、及び情報処理装置等からなるものを用いることができる。この場合、観察孔を有する積載台に水平に載置された培養容器の上方から光を照らし、観察孔の下方からCCDカメラと対物レンズにより培養容器内の細胞などを所定のタイミングで自動的に撮影することができる。そして、得られた画像データを情報処理装置に送信し、情報処理装置において画像データを解析して、培養容器内の細胞数や細胞密度などを算出することが可能である。
【0030】
本実施形態の細胞培養システムにおける送液方法では、前述した細胞培養システムを用いて、まず第一の培養容器20に細胞を注入する。
次に、ポンプ41を作動させ、このポンプ41によって、図2に示すように、培地容器10から第一の培養容器20へ培地を移送する(同図矢印(1))。そして、第一の培養容器20において、所定の期間、細胞培養が行われる。
第一の培養容器20における細胞培養の後、ポンプ41によって、第一の培養容器20から第二の培養容器30へ細胞懸濁液を移送し(同図矢印(2))、次いで培地容器10から第二の培養容器30へ培地を移送する(同図矢印(3))。
【0031】
このとき、第一の培養容器20から第二の培養容器30への細胞懸濁液の移送は、ポンプ41の培地容器10側において移送チューブ40に接続された培養容器接続チューブ42を経由して行う。
また、培地容器10から第二の培養容器30への培地の移送は、ポンプ41の第一の培養容器20側において移送チューブ40に接続された培養容器接続チューブ42を経由して行う。
【0032】
このように、本実施形態の細胞培養システムにおける送液方法、及び細胞培養システムによれば、培地容器10から第一の培養容器20への培地の移送と、第一の培養容器20から第二の培養容器30への細胞懸濁液の移送と、培地容器10から第二の培養容器30への培地の移送の3系統の移送を、1台のポンプ41のみを使用することで、適切に行うことができる。このため、細胞培養システムを安価に製造でき、また小型化して製造することが可能である。
【0033】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態に係る細胞培養システムにおける送液方法、及び細胞培養システムについて、図3を参照して説明する。
本実施形態の細胞培養システムは、図3に示すように、第二の培養容器30aが、第一実施形態とは形状の異なる培養容器接続チューブ43を用いて、移送チューブ40に接続されている点で、第一実施形態と異なっている。その他の点は第一実施形態と同様である。
【0034】
第二の培養容器30aは、送液用のポート33を備え、二股に分岐した形状の培養容器接続チューブ43の一方の端部がこのポートに接続され、他の2つの端部が移送チューブ40に接続されている。移送チューブ40における培養容器接続チューブ43の接続部の間には、ポンプ41が取り付けられている。
すなわち、本実施形態に係る細胞培養システムにおいても、ポンプは1つのみ備えられており、第二の培養容器30aは、第二の培養容器30aと移送チューブ40とを接続する培養容器接続チューブ43により、移送チューブ40におけるポンプ41の両側で、移送チューブ40に接続された構成となっている。
【0035】
そして、第一の培養容器20から第二の培養容器30aへの細胞懸濁液の移送は、ポンプ41の培地容器10側における移送チューブ40に接続された培養容器接続チューブ43の流路を経由して行う。
また、培地容器10から第二の培養容器30aへの培地の移送は、ポンプ41の第一の培養容器20側における移送チューブ40に接続された培養容器接続チューブ43の流路を経由して行う。
【0036】
その他の点については第一実施形態と同様であり、本実施形態の細胞培養システムにおける送液方法、及び細胞培養システムによっても、1台のポンプ41のみを使用することで、細胞培養システムを安価で小型化して製造することが可能となっている。
【0037】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態に係る細胞培養システムにおける送液方法、及び細胞培養システムについて、図4及び図5を参照して説明する。
本実施形態の細胞培養システムは、図4に示すように、回収容器50を備えている点で、第一実施形態と異なっている。その他の点は第一実施形態と同様である。
【0038】
すなわち、本実施形態の細胞培養システムは、回収容器50が移送チューブ40に接続されている。図4の例では、回収容器50は1つのみ備えられているが、2つ以上備える構成としても良い。
回収容器50は、第二の培養容器30における細胞培養が終了した後、第二の培養容器30から細胞懸濁液を回収するための容器である。
回収容器50は、送液用のポート51を備え、このポート51において移送チューブ40に接続されている。
【0039】
本実施形態の細胞培養システムにおける送液方法は、第一の培養容器20への細胞の注入から、第二の培養容器30への培地の移送までは、第一実施形態と同様であり、さらに第二の培養容器30から回収容器50への細胞懸濁液の移送が行われる。
すなわち、ポンプ41を作動させ、このポンプ41によって、図5に示すように、培地容器10から第一の培養容器20へ培地を移送する(同図矢印(1))。そして、第一の培養容器20において、所定の期間、細胞培養が行われる。
第一の培養容器20における細胞培養の後、ポンプ41によって、第一の培養容器20から第二の培養容器30へ細胞懸濁液を移送し(同図矢印(2))、次いで培地容器10から第二の培養容器30へ培地を移送する(同図矢印(3))。
【0040】
さらに、第二の培養容器30における細胞培養が終了した後、ポンプ41によって、第二の培養容器30から回収容器50へ細胞懸濁液を移送する(同図矢印(4))。
このとき、第二の培養容器30から回収容器50への細胞懸濁液の移送は、ポンプ41の第一の培養容器20側における移送チューブ40に接続された培養容器接続チューブ42を経由して行われる。
【0041】
本実施形態の細胞培養システムにおける送液方法、及び細胞培養システムによれば、1台のポンプ41のみを使用することで、培地容器10から第一の培養容器20への培地の移送と、第一の培養容器20から第二の培養容器30への細胞懸濁液の移送と、培地容器10から第二の培養容器30への培地の移送と、第二の培養容器30から回収容器50への細胞懸濁液の移送の4系統の移送を適切に行うことが可能となっている。
【0042】
[第四実施形態]
次に、本発明の第四実施形態に係る細胞培養システムにおける送液方法、及び細胞培養システムについて、図6を参照して説明する。
本実施形態の細胞培養システムは、図6に示すように、2つの培地容器10a,10bと、2つの回収容器50a,50bとを備えている点で、第三実施形態と異なっている。その他の点は第三実施形態と同様である。
【0043】
すなわち、本実施形態の細胞培養システムでは、2つの培地容器10a,10bが移送チューブ40aに接続されている。図6の例では、培地容器10a,10bは一体化して形成されているが、別個に構成しても良い。また、本実施形態の細胞培養システムにおいて、3つ以上の培地容器を備えても良い。これらの培地容器には、同一の又は異なる培地を充填しておくことができる。
また、本実施形態の細胞培養システムでは、2つの回収容器50a,50bが移送チューブ40aに接続されている。図6の例では、回収容器50a,50bは一体化して形成されているが、別個に構成しても良い。また、本実施形態の細胞培養システムにおいて、3つ以上の回収容器を備えても良い。
また、図6において、第一の培養容器20aと第二の培養容器30bは一体化して形成されているが、別個に構成しても良い。
【0044】
本実施形態の細胞培養システムにおける送液方法、及び細胞培養システムによれば、第三実施形態と同様に、1台のポンプ41のみを使用することで、4系統(2つの培地容器と2つの回収容器をそれぞれ考慮すれば、さらに多くのパターンの系統がある。)の移送を適切に行うことが可能である。また、複数の培地容器を備えているため、細胞の種類や培養状況に応じて、種類の異なる培地を培養容器に移送することも可能である。
【0045】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、前述した実施形態において、培地容器と培養容器と回収容器を移送チューブに接続した構成について説明したが、例えば接着系細胞の培養にあたって、細胞を容器壁から剥離するための酵素を供給する酵素溶液供給容器や、この酵素の活性を阻害するための阻害剤を供給する阻害剤溶液供給容器などその他の容器をさらに接続して、酵素や阻害剤を培地と同様に培養容器へ移送可能にすることができる。また、第三実施形態や第四実施形態の細胞培養システムにおいて、第二実施形態における二股に分岐した形状の培養容器接続チューブを用いるなど、適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、細胞の培養容器を用いて、閉鎖系で細胞を大量に培養する再生医療、免疫療法や抗体医薬生産などにおいて好適に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0047】
1,1a,1b,1c 細胞培養システム
10,10a,10b 培地容器
11 ポート
20,20a 第一の培養容器
21 ポート
30,30a,30b 第二の培養容器
31,32,33 ポート
40,40a 移送チューブ
41 ポンプ
42,43 培養容器接続チューブ
44 閉塞部材
50,50a,50b 回収容器
51 ポート
【要約】
【課題】 培地を培養容器に供給するための培地容器と、細胞培養に用いるための2つの培養容器と、これらの容器を接続するための移送チューブを備えた細胞培養システムにおいて、1つのポンプのみを用いて送液を行うことを可能にする。
【解決手段】 細胞培養システムにおける各容器を、培地容器、第二の培養容器、第一の培養容器の順で移送チューブに接続し、移送チューブにポンプを1つのみ取り付け、第二の培養容器は、第二の培養容器と移送チューブとを接続する培養容器接続チューブにより、移送チューブにおけるポンプの両側で、移送チューブに接続し、第一の培養容器に細胞を注入し、ポンプにより、培地容器から第一の培養容器へ培地を移送し、第一の培養容器における細胞培養の後、第一の培養容器から第二の培養容器へ細胞懸濁液を移送して、培地容器から第二の培養容器へ培地を移送する。
【選択図】 図2
図1
図2
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図8