特許第5892284号(P5892284)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5892284
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】メッキ槽
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/06 20060101AFI20160310BHJP
   C25D 15/02 20060101ALI20160310BHJP
   C25D 17/00 20060101ALI20160310BHJP
【FI】
   C25D7/06 U
   C25D15/02 B
   C25D17/00 C
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-160220(P2015-160220)
(22)【出願日】2015年7月29日
【審査請求日】2015年8月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512096757
【氏名又は名称】西川 省吾
(72)【発明者】
【氏名】西川 省吾
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 実開平05−046962(JP,U)
【文献】 特開2006−055952(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 7/06
C25D 15/02
C25D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤーの表層面に砥粒を固着するのに用いるメッキ槽であって、槽本体が上層面よりも下層面部の面積を狭小にして所定長さに形成され、長手方向の前後に液切り構造を介して補助槽が付設されており、前記槽本体の内下部に配置される噴流管に外部設置の貯槽からメッキ液をポンプで送液して槽本体内に噴流させるようにし、オーバーフローされたメッキ液を前記貯槽に還流させる液循環機能を備え、前記槽本体の前後に配した補助槽内にそれぞれ水平回転するドラムを配して、槽本体内で処理されるワイヤーが液中で滞留時間を長められるように前記両回転ドラム間で複数回巻掛けられ移動できるようにし、前記ドラムが支持軸で昇降可能に吊下げ設置されていることを特徴とするメッキ槽。
【請求項2】
槽本体および補助槽のワイヤー移動方向の前後側板には、被処理ワイヤーの通過部としてそれぞれ上下方向に縦長の切込みが形成されている構成である請求項1に記載のメッキ槽。
【請求項3】
前記槽本体内のワイヤー移動方向における前後両端部には、ワイヤー通過部を備える仕切板で仕切った空間部を液切り構造として設け、この液切り構造に隣接して補助槽を付設する請求項1に記載のメッキ槽。
【請求項4】
メッキ処理されるワイヤーを巻掛け案内する一対の回転ドラムは、その周面に被処理ワイヤーを案内するガイド溝が所定のピッチでらせん状に設けてある請求項に記載のメッキ槽。
【請求項5】
前記回転ドラムは、槽本体の外側方位置に起立設置した支持フレームの前側面に沿って昇降可能に取付く昇降フレームのアーム部で、鉛直に支持される支持軸の下部に取り付けられ、巻き掛けた被処理ワイヤーを移動に応じて回転し、一方の回転ドラムで繰り込むとともに他方の回転ドラムから繰り出すように構成されている請求項またはに記載のメッキ槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定砥粒ワイヤーソーの製造工程において、ワイヤーに砥粒を固着させるためのメッキ槽に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固定砥粒ワイヤーソーは、シリコンや硬質脆性材料を切断加工するための手段として供されている。この固定砥粒ワイヤーソーを製作するには、一般に高張力鋼などによるワイヤーを芯線として、その外周面に超硬粒(主に、ダイヤモンド粒、サファイヤ、SIC砥粒など)を多数個、Niメッキ被膜にて固着させることにより行われている。そして、前記固定砥粒ワイヤーソーの製作工程で採用されているメッキ槽としては、一般的なメッキ槽と同様な箱形の槽内を移動させてメッキ処理が行われている。
【0003】
前記固定砥粒ワイヤーソーの製造過程で採用されるメッキ装置としては、例えば特許文献1あるいは特許文献2などで開示されているように、箱形のメッキ槽を複数直列に並べて、これらメッキ槽を順次通過する間にワイヤーの外周面にニッケルメッキを施すとともに、砥粒をニッケルメッキ槽によって固着するようにされている。
【0004】
しかしながら、従来のメッキ処理方式では多数の前処理槽やメッキ槽を多数配列してこれらの各槽を一直線状に移動させて処理されている。そのために、メッキ処理を有効に施すにはどうしても長い寸法のメッキ槽を必要とする。また、メッキ処理においてもワイヤーの周面に対する砥粒の固着密度を高めて均一化を図ることが不十分であった。そのために、製品(ワイヤーソー)として使用される場合の加工精度を向上させる必要上、砥粒の固着密度を均一化することが要望されている。しかも、各処理槽やメッキ槽を直線状に多数配列する必要があることから、ワイヤーソーの固着メッキ処理の設備が大型になり、設置面積が多く必要となることから、工場建屋も大きくなり、結果的に非常に高価な設備費を要するという問題点がある。
【0005】
また、前述のメッキ処理で用いられている各メッキ処理のための槽のなかでメッキ槽(複合槽)では、特に砥粒をメッキ液中に浮遊させて、移動するワイヤー(芯線)の周面に被膜形成するニッケルを介して付着させる過程でのメッキ液中における砥粒の浮遊密度を適正に保たれることが困難である。言い換えると、メッキ液の攪拌が不十分になり、そのためにメッキ液よりも質量が大きく微粒であるため浮力が小さい砥粒は、移動するワイヤーの周辺に集まりにくく、また、ばらつきが生じることから、メッキ槽の内底部隅などに砥粒が滞留して効率を低下させるなど、結果的にワイヤー表面に対する砥粒の固着密度の精度を高くして均一化できないという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】 特開2012−192465号公報
【特許文献2】 特開平9−150314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前述のような問題点を解決して、ワイヤーの表層面に対する砥粒の付着状況を合理的に高め、固着密度の均一化を容易にし、かつメッキ設備を無理なく小型化して設備費の低減並びに作業の効率化を向上させるメッキ槽の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記問題点を解決するために、本発明によるメッキ槽は、
ワイヤーの表層面に砥粒を固着するのに用いるメッキ槽であって、
槽本体が上層面よりも下層面部の面積を狭小にして所定長さに形成され、長手方向の前後に液切り構造を介して補助槽が付設されており、前記槽本体の内下部に配置される噴流管に外部設置の貯槽からメッキ液をポンプで送液して槽本体内に噴流させるようにし、オーバーフローされたメッキ液を前記貯槽に還流させる液循環機能を備え、前記槽本体の前後に配した補助槽内にそれぞれ水平回転するドラムを配して、槽本体内で処理されるワイヤーが液中で滞留時間を長められるように前記両ドラム間で複数回巻掛けられ移動できるようにし、前記ドラムが支持軸で昇降可能に吊下げ設置されていることを特徴とするものである。
【0009】
前記発明において、槽本体および補助槽のワイヤー移動方向の前後側板には、被処理ワイヤーの通過部としてそれぞれ上下方向に縦長の切込みが形成されている構成であるのがよい。
また、前記発明において、前記槽本体内のワイヤー移動方向における前後両端部には、ワイヤー通過部を備える仕切板で仕切った空間部を液切り構造として設け、この液切り構造に隣接して補助槽を付設するのが好ましい。
【0010】
また、前記発明において、メッキ処理されるワイヤーを巻掛け案内する一対の回転ドラムは、その周面に被処理ワイヤーを案内するガイド溝が所定のピッチでらせん状に設けてあるのがよい。また、前記回転ドラムは、槽本体の外側方位置に起立設置した支持フレームの前側面に沿って昇降可能に取付く昇降フレームのアーム部で、鉛直に支持される支持軸の下部に取り付けられ、巻き掛けた被処理ワイヤーの移動に応じて回転し、一方の回転ドラムで繰り込むとともに他方の回転ドラムから繰り出すように構成されているのがよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、メッキ処理されるワイヤーの移動する槽本体内が上層面から下層面部に向かって狭小化する断面構造にされて、槽内下部に配した噴流管によりメッキ液が噴流するようにされているので、常にメッキ液が攪拌されて砥粒が沈降することなくメッキされるワイヤーの近傍に浮遊滞在することになり、均一な密度で砥粒が固着され、効率よく砥粒を活用できて固着密度の均一な固定砥粒ワイヤーソーを得ることができる。しかも、オーバーフローするメッキ液を循環させ、その循環する過程で噴流させて槽内のメッキ液を攪拌することになるので合理的に処理できるという利点がある。
【0012】
そして、本発明は、メッキ液槽本体の前後(被処理ワイヤーの移動方向)に一対の水平回転するドラムを配し、この両ドラム間に被処理ワイヤーを複数回巻き掛けて、被処理ワイヤーが実質的にその巻き掛け回数メッキ液槽内でメッキ液と接するようにすることで、ワイヤー表面部に対する砥粒の付着条件を高めることができ、メッキ液槽内でのメッキ液の攪拌効果と合わせて砥粒の固着密度の均一化を図ることができる。しかも、1つのメッキ液槽においてのワイヤーの実質的な滞留時間を長めて砥粒の固着密度を高めることで、メッキ液槽を小型化でき、しかも、ワイヤーとメッキ液との接触状態を長くすることが出来るので、高速での加工が可能になり、設備費並びに生産コストを低減できる経済効果は著しいものと言える。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】固定砥粒ワイヤーソーの加工工程の概略を表す工程図である。
図2】本発明メッキ槽(複合メッキ槽)の横断面と回転ドラムの支持装置を示す図である。
図3図2のX−X視拡大断面図である。
図4】回転ドラムの一部を断面で表す正面図である。
図5】複合メッキ槽におけるワイヤーのメッキ処理態様を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明に係るメッキ槽について、その一実施形態に基づく図面を参照しつつ説明する。
【0015】
固定砥粒ワイヤーソーは、極細い高張力鋼などでなる芯線(ワイヤー1)の外周面に錫メッキ槽で錫メッキ(ベース層)が、図示省略した前処理工程として形成される。前処理工程において錫メッキ層を形成された被処理ワイヤー1(以下、単に「ワイヤー1」という)は、以後、図1に例示すような手順で砥粒の付着加工が施される。まず、洗浄処理部4で脱脂・洗浄などを行い、次に前処理メッキ槽5でニッケルメッキを施してニッケル下地層が形成される。その後に複合メッキ槽10においてニッケル下地層の上に、ニッケルメッキによってニッケル層を形成すると同時に、このニッケル層を介してニッケル被膜が施された砥粒(主としてダイヤモンド砥粒、以下同様)がワイヤー周面に分布付着される。しかる後、仕上げメッキ槽7にてワイヤー1に砥粒が付着した状態で外周に薄いニッケルメッキ層を形成することによって、先にニッケルメッキ層にて付着された砥粒の固定を確実にする過程を経て、最後の処理過程8で水洗並びに乾燥処理がなされて製品として巻き取りドラム9に巻取られ、製品とされる。なお、別工程で、前記砥粒の尖端部に付着する被膜を研磨除去することで完成品となる。
【0016】
前記固定砥粒ワイヤーソーの加工工程は、砥粒の研磨処理工程を除いて一連のいわゆるメッキ工程で加工される。したがって、ワイヤー1は一条のものが連続して加工される。なお、前記ワイヤー1は移動する途中で図示省略するが緊張手段(テンションプーリなど)で一定の張力を維持して巻取りドラム9に巻き込まれる。
【0017】
砥粒をワイヤー1(芯線)の外周面に付着させるには、前述のように錫メッキによるベース層の上にニッケル下地層が施される。このニッケル下地層を施されたワイヤー1が、その表面にさらにニッケルメッキを施されると同時に砥粒がそのニッケルメッキによって固着されるのであり、この操作が複合メッキ槽10によって行われる。
【0018】
前記複合メッキ槽10は、図2図5に示されるように、上層面よりも下層面の面積が狭小で所定長さに槽本体11が形成され、その長さ方向の前後に所定容積の補助槽16,16が、それぞれ連結された一体的構造になっている。なお、前記両補助槽16は槽本体11よりも深い寸法になっている。
【0019】
前記槽本体11の前後(ワイヤーの移動方向(矢印aで示す))には、前記補助槽16との連結板12より少しの間隔を取って仕切板13がそれぞれ設けてあり、その仕切板13および前記連結板12には所定の間隔でそれぞれ二条のワイヤー通過用の切込み14,14が所定寸法で縦長に設けてある。前記切込み14,14の間隔としては、後述する回転ドラム20の外径(具体的には案内溝底の直径)に相応して設けてあり、切込み14の深さ寸法については所定寸法(前記回転ドラム20が降下して槽本体11内でワイヤー1を案内する状態でのほぼ最下位までに対応する)としてある。
【0020】
このようにされる槽本体11の内底部には、そのほぼ全長にわたり噴流管17が配置され、外部の給液配管45と接続されている。この噴流管17は両端を閉鎖して多数の噴流孔17′が所定のピッチで全長にわたり二列で斜め下向きに設けてある。なお、噴流管17に対する液入口17aは管の中央部に設けてある。また、槽本体11の側部には液面を維持するためのオーバーフロー19が設けてあり、前記槽本体11内に設けた仕切板13と連結板12との間に形成された空間部15からとオーバーフロー19とは外部の貯槽40に配管43で接続してある。前記空間部15は、液切り構造として仕切板13に設けられたワイヤー通過用の切込み14から移動するワイヤー1とともに漏れ出すメッキ液を回収して貯槽へ戻す働きをする。したがって、前記切込み14は堰の役目を果たし、空間部15内をメッキ液で満たさないようにすることで、槽本体11内から外部にメッキ液の移動を防止するようになっている。
【0021】
また、前記補助槽16は、所定長さ(ワイヤー移動方向への寸法)で内部に前記水平回転ドラム20が収まり得るようにされ、かつ前記したように槽本体11よりも深い寸法になっている。そして、槽本体11と反対面側の端板16′には、それぞれワイヤー1の通過のための切込み14′が上下方向に前記槽本体11側で設けられた切込み14と同要領で一列だけ設けてある。また、この補助槽16には収容される回転ドラム20が運転時巻き掛けられたワイヤー1との接触・離反により発生するスパーク防止のために注水する水配管(図示せず)が付設され、その排水が外部に排出する排水管が接続されている。
【0022】
前記回転ドラム20は、所定の外形寸法でその周面に、処理されるワイヤーが相互に接触しない間隔で複数回巻掛けられるように、らせん状の案内溝21を形成されている。この回転ドラム20は支持軸22を介してドラム支持装置30で支持され、槽内の定位置から準備作業時にワイヤー1を仕込む作業に適した槽上方位置に上昇し作業時に下降するようにされている。
【0023】
前記ドラム支持装置30は、前記メッキ槽本体11の軸線に並行して一方の外側部(メッキ作業時における作業者の行動域と反対の側)に所定の高さで立設される支持フレーム31、この支持フレーム31の前面(メッキ槽本体側)に沿って昇降する昇降フレーム32および昇降フレーム32からメッキ槽上側に突き出して回転ドラム20を支持するアーム33とで構成されている。なお、前記支持フレーム31はメッキ槽(10)を所定高さに載せて定置できるように枠組みされた受台38の上面に、起立するように設けてある。
【0024】
前記昇降フレーム32は、その前面側に回転ドラム20を支持するためのアーム33が一対並行して水平に突き出しており、この両アーム33から垂下支持された支持軸22によって前記回転ドラム20が取り付けられている。なお、前記支持軸22はアーム33に付設した軸受34により回転自在に支持されて、下部に取付く回転ドラム20が水平回転するようにされている。また、昇降フレーム32は、支持フレーム31の背面側において自動で駆動させるとガイドレール36に沿って昇降できるようにした昇降駆動機構(詳細は省略)に繋がれている。
【0025】
前記槽本体11に設けた噴流管17には、外部に設けたメッキ液の貯槽40からポンプ41を介して加圧給液されるように配管され、槽本体11のオーバーフロー19からの戻り配管43と槽内端の空間部15,15からの戻り配管43′とが前記貯槽40に繋がれて、メッキ液の循環が可能なようにされている。なお、この液貯槽40には必要に応じて液温を定常に維持できるように熱交換器(例えばヒーター)を備えておくのが好ましい。
【0026】
前記複合メッキ槽10の前後に配置されるワイヤー1のニッケルメッキ下地層を造成する前処理メッキ槽5と、複合メッキ槽10から送り出される砥粒が固着されたワイヤーの仕上げメッキ処理槽7とでは、それぞれメッキ槽のワイヤー進入側及び出口側の両方に補助槽5a,5aおよび7a,7aが付設されている。そして、槽内仕切板、連結板及び端板に前述のようなワイヤー移動用の切込みが縦長に形成されており、各補助槽内に昇降可能に水平回転するドラム(図2参照)がそれぞれ一対設けられている。もちろん、各水平回転するドラムは周面にワイヤーの巻掛け案内溝が複数条所定のピッチで設けてある。そして、前記ドラムを支持軸で吊下げて昇降可能に支持する昇降フレーム、この昇降フレームを案内支持する支持フレームも前述の複合メッキ槽に付属するものと同様に構成されている。
【0027】
このように構成される本実施形態のメッキ装置では、周面に錫メッキによるベース層を施された芯線(ワイヤー1)を、まずメッキの処理工程の各保持手段(主に、各回転ドラム及び中間位置に配置されたテンションローラやガイドローラなど)に所定の順序で巻き掛けてワイヤーの繰り出し部から巻き取り部(巻取りリール9)まで誘導する部分を掛け渡し、緊張状態に保って作業準備を整える。この準備過程においては、各処理槽に配設されている回転ドラムを、すべて槽内から上方位置に引き上げた状態で前記準備が行われる。したがって、各所の回転ドラムを支持する昇降フレームは、一斉に昇降操作できるようにしておくことが好ましい。必要ならば、手動での昇降を行うことも可能である。
【0028】
前記準備工程でメッキ処理ラインに沿って緊張されたワイヤー1を作業可能な状態となるように各所の回転ドラムを所定位置まで下降させて加工開始状態とする。準備が整いメッキ処理開始となると、ベース層を施されたワイヤー1が前処理工程を経て前処理メッキ槽5に送られる。すると、当該前処理メッキ槽5の前後に付設されている補助槽5a,5a位置で配置されている一対の水平回転するドラム間で巻き掛けられたワイヤー1は、回転ドラム巻き掛け部以外の中間部が前処理メッキ槽5内でメッキ液中に浸たされた状態で所定回数巡回移動することになる。
【0029】
前処理メッキ槽5内に位置するワイヤー1は、巻取り側リール9の巻取り回転によって強制的に移動するので、進行方向に前後一対配された回転ドラム間をらせん状に設けられた案内溝21に沿って順次移動する。したがって、回転ドラム20周面に形成されている案内溝21の数相当で循環して前処理メッキ槽5から次の工程に移行する。この前処理メッキ槽5内を両回転ドラム間に巻掛けられて移動する間メッキ液に接触することで、その間に電解メッキされてワイヤー表面にニッケル被膜層(下地層)が形成される。なお、ワイヤー1の走行に要する動力は、巻取り側リール9以外にメッキラインの中間位置で補助的に同調して駆動するようにしてもよい。
【0030】
ニッケル下地層が形成されたワイヤー1は、次の工程で複合メッキ槽10に移行して砥粒の付着操作がなされる。この複合メッキ槽10では、前工程から送られたワイヤー1が槽本体11の前後に付設される補助槽16,16内に配される一対の回転ドラム20,20の周面案内溝21に沿って複数回巻掛けられているので、例えば回転ドラム20の最上段の案内溝21から一回転するごとに下側の案内溝21に移動し、両回転ドラム20,20間を巻掛けられて巡回する程に次第に下方に移動する。この両回転ドラム20,20間の巻掛けにより巻掛け数だけ槽本体11内の液中を移動する。したがって、最終段に到達すると下流側(移動方向)の回転ドラム20を離れて次の仕上げメッキ槽7へ移行する。
【0031】
このように、複合メッキ槽10においては、ワイヤー1が槽本体11を挟んで前後位置にある両回転ドラム20,20に巻き掛けられて、その回転ドラム20,20を離れた区間がメッキ液中に浸漬された状態で繰り返し移動する間実質的にニッケルメッキがなされる。したがって、複合メッキ槽10自体の処理区間は短いが、ワイヤー1はその処理区間を巻き掛け数に応じた回数繰り返しメッキ液と接して処理されることになる。その結果、複合メッキ槽10でワイヤー1へのメッキ処理時間が長くなり、有効に処理できるのである。
【0032】
しかも、この複合メッキ槽10でのワイヤー1に対する砥粒の付着については、槽本体11が下層面よりも上層面が広い形状(舟形断面形状)にされて、しかもその槽内底部に噴流管17が配置され、その噴流管17の斜め下向き位置には複数の噴出孔17′が並列して設けてあるから、ポンプ41によって貯槽40から圧送されるメッキ液が噴流管17の両脇から上方に噴出される。そのためメッキ液中に混在する砥粒は、前記噴流管17によって噴出される液の攪拌作用によって積極的に浮遊し、メッキ液中を移動するワイヤー1の近辺で局所に集中せず全般的に浮遊密度が高められることから、ワイヤー1周面に形成されつつあるニッケル層に吸着し、砥粒が分布密度を高めてほぼ均等にワイヤー周面に付着することになる。
【0033】
このワイヤー1に対する砥粒の付着操作に際し、メッキ槽本体11内の液中を移動するワイヤー1は、回転ドラム20に巻かれるために一旦メッキ液槽外に移行するとき、仕切板13から補助槽16の連結板12までの間に設けられた液切り構造の空間部15においてメッキ液中から脱出して補助槽16内に位置する回転ドラム20に巻かれるようにされているので、メッキ液がメッキ液槽から持ち出されることはごく少なく、仕切板13に設けた切欠き14を通じて僅かに漏れ出した液はその空間部15で受け止められて戻り配管43′により貯槽40に戻される。したがって、回転ドラム20にも直接的にメッキ液が付着せず、またスパーク防止の水が回転ドラム20に掛けられて安全性が保たれる。またスパーク防止の水はそのまま補助槽16から外部へ排除され、支障をきたすこともない。
【0034】
こうして複合メッキ槽10にて砥粒を固着されたワイヤー1は、隣接する下流側の仕上げメッキ槽7において砥粒を含むワイヤー周面に薄いニッケル被膜層を形成され、以後、付着しているメッキ液を水洗する工程と乾燥工程からなる最後の処理過程8を得て巻取りリール9に巻取られ製品とされる。なお、前記仕上げメッキ槽7は、前記複合メッキ槽10とほぼ同様の構造にされ、メッキ液が外部に漏れ出すのを防止し、また、ワイヤー1を巡らせる回転ドラムもメッキ液と直接接することなく作動するように構成される。
【0035】
以上の説明において、各処理用のメッキ槽と補助槽および配管部分、回転ドラムなどは耐食性の材料によって構成されていることは言うまでもない。また、メッキ槽はワイヤーの移動方向に長さを短くして効果的にメッキ処理ができ、メッキ槽本体を小型化することによってメッキ液の容量も少なくなり、より経済的である。
【0036】
また、前記実施形態の説明においては、メッキラインで1条のワイヤーを加工するものについて記載したが、ワイヤーを2条並列して処理するようにすれば、装置が小さくまとめられ、効率よく実施できる。この場合、メッキ槽本体の構造を二列並べるようにし、各列に水平回転する一対の回転ドラムを、前記ドラム支持装置における昇降フレームに突設のアームにて並列で支持できるようにして配置すればよい。
【符号の説明】
【0037】
1 ワイヤー
5 前処理メッキ槽
7 仕上げメッキ槽
9 巻取りリール
10 複合メッキ槽
11 槽本体
12 連結板
13 仕切板
14,14′ ワイヤー通過用の切込み
15 空間部
16 補助槽
17 噴流管
20 回転ドラム
21 案内溝
30 ドラム支持装置
31 支持フレーム
32 昇降フレーム
33 アーム
40 貯槽
【要約】      (修正有)
【課題】ワイヤーの表層面に対する砥粒の固着密度の均一化を容易にし、かつメッキ設備を無理なく小型化して設備費の低減並びに作業の効率化を向上させるメッキ槽の提供。
【解決手段】槽本体11は上層面よりも下層面部の面積が狭小で所定長さに形成し、長手方向の前後には液切り構造を介して補助槽16が付設されており、槽本体11の内下部に沿って噴流管17が配置され、外部設置の貯槽からメッキ液をポンプにより送液配管を通じて噴流管17から槽本体11内に噴流させるようにし、オーバーフローされたメッキ液は前記貯槽に還流させる構成とした。槽本体11の前後に配した補助槽16内にそれぞれ水平回転するドラム20を配して、槽本体11内で処理されるワイヤー1が液中で滞留時間を長められるように両ドラム20間で複数回巻掛けられ移動できるようにし、ドラム20が支持軸22で昇降可能に吊下げ設置されているメッキ槽。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5