【実施例】
【0024】
原料粉末として、平均粒径0.8μmのWC粉末、同2.3μmのCr
3C
2粉末、同1.5μmのVC粉末および同1.8μmのCo粉末を用意し、これら原料粉末をそれぞれ表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、100MPaの圧力で所定形状の各種の圧粉体にプレス成形し、これらの圧粉体を、6Paの真空雰囲気中、7℃/分の昇温速度で1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に昇温し、この温度に1時間保持後、炉冷の条件で焼結して、ドリル基体形成用丸棒焼結体を形成し、さらに前記の丸棒焼結体から、研削加工にて、溝形成部の直径×長さが10mm×80mmの寸法、並びにねじれ角30度の2枚刃形状をもったWC基超硬合金製のドリル基体D−1〜D−4をそれぞれ製造した。
【0025】
ついで、これらのドリル基体D−1〜D−4の切刃に、ホーニングを施し、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、
図1の概略図に示される物理蒸着装置の1種である圧力勾配型Arプラズマガンを利用したイオンプレーティング装置に装着し、
ドリル基体温度:400〜430℃、
プラズマガン放電電力:3kW、
放電ガス流量:アルゴンガス(Ar)ガス 40sccm、
ドリル基体に印加する直流バイアス電圧:−400V、
という表2に示す特定の条件でボンバード処理を行った後、
ドリル基体温度:400〜430℃、
蒸発源1:金属Tiまたは金属Cr
蒸発源1に対するプラズマガン放電電力:8〜11kW、
蒸発源2:金属Al、
蒸発源2に対するプラズマガン放電電力:7〜8kW、
反応ガス流量割合:窒素(N
2)ガス 100sccm、
放電ガス流量割合:アルゴン(Ar)ガス 35sccm、
ドリル基体に印加する直流バイアス電圧:−5V、
蒸着時間:30〜150min.
という表2に示す特定の条件下で下部層を形成し、さらに、
ドリル基体温度:400〜430℃、
蒸発源1:金属Ti、
蒸発源1に対するプラズマガン放電電力:7〜8kW、
蒸発源2:金属Al、
蒸発源2に対するプラズマガン放電電力:10〜11kW、
反応ガス流量割合:窒素(N
2)ガス 50sccm、
反応ガス流量割合:酸素(O
2)ガス 3〜4sccm、
放電ガス流量割合:アルゴン(Ar)ガス 40sccm、
ドリル基体に印加するパルスバイアス電圧:+3V/−10V、周期5〜8kHz、負電圧のデューティーサイクル15〜30%
蒸着時間:10〜30min、
という表2に示す特定の条件で最表面層を形成することにより、表4に示される組成および表4に示される目標層厚を有する下部層と最表面層を有し該最表面層が、表4に示される組成と粒径範囲を有する微細結晶粒とその周りに表4に示される組成の金属相領域を有する本発明表面被覆ドリル1〜15をそれぞれ製造した。
【0026】
また、比較の目的で、前記ドリル基体D−1〜D−4の切刃に、ホーニングを施し、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、本発明表面被覆ドリルの製造に使用したのと同じ
図1の概略図に示される物理蒸着装置の1種である圧力勾配型Arプラズマガンを利用したイオンプレーティング装置に装着し、
ドリル基体温度:400〜430℃、
プラズマガン放電電力:3kW、
放電ガス流量:アルゴンガス(Ar)ガス 40sccm、
ドリル基体に印加する直流バイアス電圧:−400V、
という表3に示す特定の条件でボンバード処理を行った後、
ドリル基体温度:400〜430℃、
蒸発源1:金属Tiまたは金属Cr、
蒸発源1に対するプラズマガン放電電力:8〜11kW、
蒸発源2:金属Al、
蒸発源2に対するプラズマガン放電電力:10〜11kW、
反応ガス流量割合:窒素(N
2)ガス 100sccm、
放電ガス流量割合:アルゴン(Ar)ガス 35sccm、
ドリル基体に印加する直流バイアス電圧:−5V、
蒸着時間:30〜150min.
という表3に示す特定の条件下で下部層を形成し、さらに、
ドリル基体温度:400〜430℃、
蒸発源1:金属Ti、
蒸発源1に対するプラズマガン放電電力:7〜8kW、
蒸発源2:金属Al、
蒸発源2に対するプラズマガン放電電力:10〜11kW、
反応ガス流量割合:窒素(N
2)ガス 50sccm、
反応ガス流量割合:酸素(O
2)ガス なし、
放電ガス流量割合:アルゴン(Ar)ガス 40sccm、
ドリル基体に印加する直流バイアス電圧: −10V
蒸着時間:10〜30min.、
という表3に示す特定の条件で最表面層を形成することにより、表5に示される組成および表5に示される目標層厚を有する下部層と最表面層を有し該最表面層が、表5に示される組成と粒径範囲を有する微細結晶粒とその周りに表5に示される組成の金属相領域を有する比較表面被覆ドリル1〜15をそれぞれ製造した。
【0027】
つぎに、本発明表面被覆ドリル1〜15および比較表面被覆ドリル1〜15について、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:80mmのJIS・SUS304(HB230)の板材、
主軸回転速度:2100回転/min.
送り:0.20mm/rev.、
穴深さ:50mm、
の条件でのステンレス鋼の乾式高速深穴あけ切削加工試験(通常の、直径が10mmであるドリルの回転速度および送りは、それぞれ、1700回転/min.および0.20mm/rev.)、
を行い、5穴ごとに、工具刃先の逃げ面摩耗幅を測定し、先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまで、若しくは切り屑つまりや欠損等が原因で、工具としての使用が困難な状態に至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を表4、5にそれぞれ示した。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
【表3】
【0031】
【表4】
【0032】
【表5】
【0033】
この結果得られた本発明表面被覆ドリル1〜15の硬質被覆層を構成する下部層および最表面層、さらに、比較表面被覆ドリル1〜15の硬質被覆層を構成する下部層および最表面層の平均層厚を、走査型電子顕微鏡を用いて断面測定したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均値(5ヶ所の平均値)を示した。
【0034】
さらに、本発明表面被覆ドリル1〜15、比較表面被覆ドリル1〜15を集束イオンビーム加工装置により、層厚方向に
高さ:層厚の2倍相当 × 幅:50μm × 厚さ:100nm
の薄片に加工した後、透過型電子顕微鏡を用いて、観察加速電圧200kVの条件のもと、本発明表面被覆ドリル1〜15および比較表面被覆ドリル1〜15の硬質被覆層の下部層および最表面層を構成する混相組織層(微細結晶粒および金属相領域)を観測し、さらに、直径が混相組織層の層厚相当の電子線を混相組織層に照射してエネルギー分散型分光分析装置を用いて、各層の組成をもとめたところ、各層での組成が表4、5に示す目標組成と実質的に同じ組成を有していることを確認した。さらに、電子線を直径5nmの面積まで絞って、視野中に含まれる微細結晶粒のうち10個に照射し、エネルギー分散型分光分析装置を用いて組成を測定し、その平均組成を、微細結晶粒の組成とし、それぞれの元素割合から、x、yおよびzの値を算出した。同様に、視野中に含まれる金属相領域のうち、10点に対して電子線を照射し、エネルギー分散型分光分析装置を用いて組成を測定し、その平均組成を、金属相領域の組成とし、それぞれの元素割合から、x、yおよびzの値を算出した。
さらに、混相組織層に含まれる微細結晶粒の粒径を測定し、平均粒径を求めた、すなわち、混相組織層に含まれる微細結晶粒の面積と同じ面積をもつ真円の直径を、その微細結晶粒の粒径とした。混相組織層のうち、高さ:層厚相当 × 幅:10μmの視野に含まれる結晶粒について同様の測定を行い、その平均値を平均粒径とした。その結果、本発明表面被覆ドリル1〜15のいずれも混相組織層に含まれる微細結晶粒の平均粒径は、表4に示すように30〜100nmの範囲内であることが確認できた。一方、比較表面被覆ドリル1〜15の測定結果については、表5に示した。また、最表面層のドリル基体に垂直な断面研磨面を1μm×1μmの範囲で走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、その観察像から微細結晶粒と金属相領域の面積割合(%)を測定した。その結果を、同じく、表4、5に示した。
【0035】
表4に示される結果から、本発明表面被覆ドリル1〜15は、所定の下部層の上に粒径が30〜100nmで(Ti
1−xAl
x)
1-z(N
1−yO
y)
z(x<0.5、y<0.2)の成分系からなる微細結晶粒と(Ti
1−xAl
x)
1-z(N
1−yO
y)
z(0.6≦x、0.8≦y)の成分系からなる金属相領域とからなる混相組織で構成された最表面層が形成されていることによって、熱伝導率および潤滑特性が向上することによって、高硬度材の高速穴あけ加工において、長期間に亘りすぐれた切削性能を維持することが明らかである。
これに対して、表5に示される結果から、硬質被覆層の最表面層の成分組成、微細結晶粒の粒径などが本発明表面被覆ドリルと異なるもの、あるいは、下部層あるいは最表面層の平均層厚が所定の範囲内に制御されていない硬質被覆層を有する比較表面被覆ドリルにおいては、熱伝導特性および潤滑特性が十分でないために、チッピング、欠損、剥離の発生等により、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。