【実施例】
【0016】
表2に本発明の実施例として作製した本発明インサート1〜9および比較のために作製した比較インサート10〜18を示す。
まず、本発明インサート1〜9に用いたcBN焼結体の作製方法を示す。
1)原料cBN粉末への粒状TiNの形成
1−1)平均粒径3μmのcBN粉末上にALD(Atomic Layer Deposition)法によってTiNを成膜した。
【0017】
ALD法により、cBN粒末上に2種の原料ガスAとBを用いてコーティングする場合、流動層炉内にcBN粒子を装入し、所定温度に昇温し、原料ガスA流入工程、Arガスパージ工程、原料ガスB流入工程、Arガスパージ工程を1サイクルとして、このサイクルを目標層厚になるまで繰り返すことにより、所望の膜厚のTiN膜を得る。
【0018】
本実施例の場合、具体的には、原料ガスとして、TiCl
4とNH
3を使用し、温度400℃の条件で厚み10、20、35、50、55、75、100nmのTiN層で被覆された7種類のcBN粉末を得た。
ここで、表2に示した本発明インサート1〜9を作製するために使用したcBN粉は、それぞれ、TiN層の厚みが、本発明インサート1は55nm、本発明インサート2は100nm、本発明インサート3は100nm、本発明インサート4は75nm、本発明インサート5は50nm、本発明インサート6は35nm、本発明インサート7は55nm、本発明インサート8は20nm、本発明インサート9は10nmのものを使用した。
【0019】
1−2)1−1)で得られた、TiN層で被覆されたcBN粉末7種類を真空中1Pa以下、温度1000℃、保持時間30分の条件で熱処理し、cBN粒上のTiN層を粒状TiNの集合体にした。
【0020】
2)cBN焼結体の作製
2−1)結合材用の原料粉末としてTiN、TiC、Alを準備した。
2−2)1−2)で得られた粒状TiN層で被覆されたcBN粉末と2−1)にて準備した結合材用の原料粉末を表1に示した配合割合になるように秤量し、超硬製容器内で均一に湿式混合した。
2−3)得られた混合粉末を乾燥後、同条件下で油圧プレスにて成形圧1MPaで成形し成形体を得た。
2−4)成形体を真空中1Pa以下、温度1000℃、保持時間30分の条件で熱処理し、脱ガスした。
2−5)成形体と超硬合金基材を積層し、圧力5.5GPa、温度1400℃、保持時間30分の条件で超高圧高温処理し、本発明インサート1〜9用のcBN焼結体を得た。
【0021】
つぎに、比較のために、同じく表2に示したような比較インサート10〜18に用いるcBN焼結体を作製した。以下に、その作製方法を示す。
【0022】
3)原料cBN粉末への粒状TiNの形成
3−1)平均粒径3μmのcBN粉末上にALD(Atomic Layer Deposition)法によってTiNを成膜した。
【0023】
原料は、TiCl
4とNH
3を使用し、温度400℃の条件で厚み200nmのTiN層で被覆されたcBN粉末を得た。
【0024】
3−2)3−1)で得られたTiN層で被覆されたcBN粉末を真空中1Pa以下、温度1000℃、保持時間30分の条件で熱処理し、cBN粒上のTiN層を粒状TiNの集合体にし、比較インサート17、18用のcBN粉末を得た。
3−3)TiN層を有していないcBN粉末を真空中1Pa以下、温度1000℃、保持時間30分の条件で熱処理を行い、比較インサート10〜16用のcBN粉末を得た。
【0025】
4)cBN焼結体の作製
4−1)結合材用の原料粉末としてTiN、TiC、Al粉を準備する。
4−2)3−2)で得られた粒状TiN層で被覆されたcBN粉末(比較インサート17、18用)と3−3)で得られた粒状TiN層を有していないcBN粉末(比較インサート10〜16用)を4−1)にて準備した結合材用の原料粉末と表1に示した配合割合になるように秤量し、超硬製容器内で均一に湿式混合した。
4−3)得られた混合粉末を乾燥後、同条件下で油圧プレスにて成形圧1MPaで成形し成形体を得た。
4−4)成形体を真空中1Pa以下、温度1000℃、保持時間30分の条件で熱処理し、脱ガスした。
4−5)成形体と超硬合金基材を積層し、圧力5.5GPa、温度1400℃、保持時間30分の条件で超高圧高温処理し、比較インサート10〜18用のcBN焼結体を得た。
【0026】
cBN粒子の含有割合の測定方法
上記で得た各cBN焼結体の断面組織を走査電子顕微鏡にて観察し、二次電子像を得る。得られた画像内のcBN粒子の部分を画像処理によりを抜き出し、画像解析によってcBN粒子が占める面積を算出する。得られたcBN粒子が占める面積を画像の総面積で除して面積比率を算出する。この面積比率をcBNの体積%とみなし、cBN粒子の含有割合を測定した。
上記については、走査電子顕微鏡の5,000倍と10,000倍において各3視野を上記方法にて処理した値の平均値を測定結果とした。その結果を表2に示す。
【0027】
5)cBN焼結体の分析
2)および4)にて作製した焼結体の断面を研磨後、FIB(Focused Ion Beam)を用いて薄片加工し、TEM(Transmission Electron Microscopy)により体積平均径MVを求めるのに使用するため透過電子像を取得する。また、cBN粒界面から結合相に対して100nm以内を構成する結合相内の粒子の成分を特定するため、透過電子像を見た同視野にてEDX(Energy Dispersive X−ray Spectrometry)により元素マッピング像を取得する。
薄片の厚さは、30nm〜130nmが好ましい。30nmより薄いとハンドリングが困難であるためであり、130nmより厚いと像の解析が困難になるため好ましくない。観察倍率は、×200k〜×600k程度であって、結合相内の粒子が20個以上分かる倍率とする。透過電子像は、厚み方向に含まれる情報を投影する事から、2次元の画像から測定した各粒径Dから算出した体積平均径MVを平均径とする。
【0028】
cBN粒界面から結合相方向に100nm以内を構成する結合相内の粒子の成分特定方法:
後述する体積平均径MVの算出に使用する同じ観察場所において、元素マッピング像を取得し、cBN粒界面から結合相に対して100nm以内を構成する結合相内の粒子の成分を特定する。
【0029】
体積平均径MVの算出方法:
結合相内の粒子が20個以上分かる倍率の透過電子像からcBN粒界面から結合相に対して100nm以内を構成する結合相内の粒子の粒径Dmn[単位:nm]を20個以上測定する。
(m:観察場所数、n:測定粒子数)
・測定する粒径Dmnは粒子の最長軸の直径とする。
・100nmの範囲内に粒の一部分が含まれる粒も算出に含める。
・体積Vmnの算出は、測定した各粒径Dmnより、次式より算出する。
体積Vmn=(4/3)π(Dmn/2)
3
・体積平均径MVmは、次式より算出する。
MVm=(v1・d1+v2・d2+・・・+vi・di+・・・+vm・dm)/(v1+v2+・・・+vi+・・・+vm)
・少なくとも5カ所以上観察し、各画像のMVmの平均値を算出し、その値をcBN粒界面100nm以内を構成する組織の体積平均径MVとする。
MV=(MV1+MV2+・・・+MVm)/m
【0030】
以上のようにして、cBN粒界面から100nm以内の結合相組織内の構成粒子を特定するとともに、体積平均径MVを算出した。その結果を表2に示す。
【0031】
6)インサートの作製
6−1)前記のようにして作製したcBN焼結体を各々ワイヤ放電加工機で所定寸法に切断する。
6−2)6−1)にて切断したcBN焼結体を、Co:5質量%、TaC:5質量%、WC:残りの組成およびISO規格CNGA120408のインサート形状を持ったWC基超硬合金製インサート本体のろう付け部(コーナー部)に質量%で、Cu:26%、Ti:5%、Ag:残りからなる組成を有するAg系ろう材を用いてろう付けする。
6−3)上下面および外周研磨にホーニング処理を施すことによりISO規格CNGA120408のインサート形状を持った本発明インサート1〜9および比較インサート10〜18を作製した。
【0032】
前記のようにしてできた本発明インサート1〜9および比較インサート10〜18について、クロム鋼材SCr420(HRC58−62)を用いて、表3のような切削条件にて断続切削試験を行い、欠損を生じるまでの切削時間を確認した。その結果を表2に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
表2に示される結果から、本発明インサートは、立方晶窒化硼素と結合相とを含む焼結体を工具基体としており、立方晶窒化硼素の粒界面から結合相方向に100nm以内の領域に存在するTiの窒化物、炭化物、炭窒化物、硼化物、Alの窒化物、硼化物、酸化物およびこれらの2種以上の固溶体の中から選ばれる1種または2種以上と不可避不純物で構成され、かつ、体積平均径MVが10〜80nmの微細組織であることによって、高負荷な切削条件が要求される高硬度鋼の断続切削加工においても、欠損が生じにくいため、長期に亘りすぐれた切削性能を発揮した。
これに対して、本発明で規定する結晶相組織を有していない比較インサートでは、いずれも、焼結体内部で発生した微小クラックの伝搬により短時間で欠損等が発生するため、短時間で使用寿命に至ることは明らかである。