特許第5892471号(P5892471)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5892471
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】揺動引込み式チャック
(51)【国際特許分類】
   B23B 31/175 20060101AFI20160310BHJP
【FI】
   B23B31/175
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-85268(P2012-85268)
(22)【出願日】2012年4月4日
(65)【公開番号】特開2013-212565(P2013-212565A)
(43)【公開日】2013年10月17日
【審査請求日】2014年12月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241588
【氏名又は名称】豊和工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】上田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】早川 祥弘
【審査官】 齊藤 彬
(56)【参考文献】
【文献】 実開平05−049207(JP,U)
【文献】 実開昭52−108685(JP,U)
【文献】 米国特許第02722427(US,A)
【文献】 米国特許第02948542(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 31/175
31/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャック本体に固着される支持部には、支持部の内周に沿ってチャック軸線方向に移動すると共にチャック半径方向に揺動するように爪開閉部材が装着され、その爪開閉部材の先端には把握爪が取付けられ、チャック軸線方向に移動可能な駆動部材により前記爪開閉部材を作動させ、把握爪によってワークをクランプするようにした揺動引込み式チャックにおいて、爪開閉部材の後端に爪開閉部材を前方へ付勢する付勢機構を設け、支持部に保持される軸部材に、爪開閉部材に備えた調整機構の調整部材を当接させるようにしたことを特徴とする揺動引込み式チャック。
【請求項2】
爪開閉部材に、チャック軸線と直交する方向に貫通孔を設け、その貫通孔に挿通し、貫通孔との間に隙間を形成する軸部材の両端が支持部に保持され、その軸部材に、軸部材に対して前方へ付勢される爪開閉部材に備えた調整機構の調整部材を当接させるようにしたことを特徴とする請求項1記載の揺動引込み式チャック。
【請求項3】
爪開閉部材の後端から貫通孔に向けてネジ部を備えた取付孔を設け、調整機構の調整部材が取付孔に摺動自在に装着され、ネジ部に捩じ込んだネジ部材によって調整部材の先端を貫通孔内に突出させるようにしたことを特徴とする請求項記載の揺動引込み式チャック。
【請求項4】
調整部材の先端に、軸部材に係合可能な円弧状の凹溝を形成したことを特徴とする請求項2または3記載の揺動引込み式チャック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランプしたワークをチャック本体の前面に向けて引き込むようにした揺動引込み式チャックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、揺動引込み式チャックは、チャック本体に固着される支持部には、支持部の内周に沿ってチャック軸線方向に移動すると共にチャック半径方向に揺動するように爪開閉部材が装着され、その爪開閉部材の先端には把握爪が取付けられ、チャック軸線方向に移動可能な駆動部材により前記爪開閉部材を作動させ、把握爪によってワークをクランプするようにしたものが知られている。そして、引用文献1記載のように、バネ部材によってチャック軸線方向の前方へ移動させた爪開閉部材の把握爪によりワークをクランプし、爪開閉部材を駆動部材により支持部の内面に沿って後方へ移動させることで、ワークをチャック本体の前面に向けて引き込むようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平5−49207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来では、爪開閉部材の一部を支持部の内周前方に設けた突部に当接させることで、爪開閉部材のチャック軸線方向の前方への移動量が調整されている。ところが、チャック本体に固着される各支持部の組付け精度や突部の加工精度によって各爪開閉部材の前方への移動量が異なり、引き込んだときにワークを歪めるなどの問題が生じ、ワークの加工精度に影響を与える問題があった。また、支持部を交換しなければ爪開閉部材の移動量の調整ができない煩わしさがあった。
そこで本発明の課題は、上記問題点に鑑み、簡単な構成で爪開閉部材のチャック軸線方向の前方への移動量を容易に調整可能とした揺動引込み式チャックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、チャック本体に固着される支持部には、支持部の内周に沿ってチャック軸線方向に移動すると共にチャック半径方向に揺動するように爪開閉部材が装着され、その爪開閉部材の先端には把握爪が取付けられ、チャック軸線方向に移動可能な駆動部材により前記爪開閉部材を作動させ、把握爪によってワークをクランプするようにした揺動引込み式チャックにおいて、爪開閉部材の後端に爪開閉部材を前方へ付勢する付勢機構を設け、支持部に保持される軸部材に、爪開閉部材に備えた調整機構の調整部材を当接させるようにしたことを特徴とする。
【0006】
前記爪開閉部材に、チャック軸線と直交する方向に貫通孔を設け、その貫通孔に挿通し、貫通孔との間に隙間を形成する軸部材の両端が支持部に保持され、その軸部材に、軸部材に対して前方へ付勢される爪開閉部材に備えた調整機構の調整部材を当接させるようにしたことを特徴とする。具体的に、前記爪開閉部材の後端から貫通孔に向けてネジ部を備えた取付孔を設け、調整機構の調整部材が取付孔に摺動自在に装着され、ネジ部に捩じ込んだネジ部材によって調整部材の先端を貫通孔内に突出させるようにしたことを特徴とする。更に、前記調整部材の先端に、軸部材に係合可能な円弧状の凹溝を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、支持部に保持される軸部材に、爪開閉部材に備えた調整機構の調整部材を当接させるようにしたので、調整機構の調整部材の移動のみで爪開閉部材の前方への移動量を速やかに調整できるようになる。また、爪開閉部材に、チャック軸線と直交する方向に貫通孔を設け、その貫通孔に挿通し、貫通孔との間に隙間を形成する軸部材の両端が支持部に保持され、その軸部材に、軸部材に対して前方へ付勢される爪開閉部材に備えた調整機構の調整部材を当接させるようにしたので、支持部に軸部材を介して爪開閉部材を装着した状態のまま、調整機構の調整部材を移動させることが可能であり、爪開閉部材の前方への移動量の調整を容易に行える。また、爪開閉部材の後端から貫通孔に向けてネジ部を備えた取付孔を設け、調整機構の調整部材が取付孔に摺動自在に装着され、ネジ部に捩じ込んだネジ部材によって調整部材の先端を貫通孔内に突出させるようにしたので、調整機構は簡単な構成となり、チャック全体が安価なものとなる。更に、調整部材の先端に、軸部材に係合可能な円弧状の凹溝を形成したので、調整部材の先端と軸部材とが面当たりとなり、ワークのクランプ、アンクランプを繰り返し行っても調整部材の先端の早期の磨耗が防止されるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態の揺動引込み式チャックを示す図である。
図2図1のII−II線断面図である。
図3図2のIII−III線断面図の一部である。
図4】把握爪をチャック半径方向へ揺動させた状態を示す図である。
図5図4の状態から、爪開閉部材を前方へ移動させた状態を示す図である。
図6】他の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1に示す揺動引込み式チャック1のチャック本体2は、図示しない取付ボルトによって前ボディ3の後端面を後ボディ4で塞ぎ、内側に内部空間5が形成されている。チャック本体2のチャック軸線CL上には駆動部材6が配置され、図示しない駆動源によりチャック軸線CL方向の前、後方へ移動するようになっている。駆動部材6は、軸形状の案内部材6aに、後述する各爪開閉部材11に対応するように形成した係合部材6bが取り付けられたものである。前ボディ3にはガイド孔7が穿設され、そのガイド孔7に前記駆動部材6の先端部が案内されている。また、このガイド孔7を前ボディ3前面から塞ぐようにストッパ部材8が取り付けられている。前ボディ3には、複数(本実施形態では3つ)の段付きの支持孔9が円周方向に等間隔に穿設されている。各支持孔9の小径孔側は前記内部空間5に連通し、大径孔側は前ボディ3の前面に開口している。各支持孔9には段付き形状の支持部10が固着され、各支持部10の内周に沿ってチャック軸線CL方向に移動すると共にチャック半径方向に揺動するように爪開閉部材11が夫々装着されている。各支持部10にはシール部材12が配設され、支持孔9の大径孔を塞ぐように蓋部材13が取り付けられている。
【0010】
前記支持部10の内周には、爪開閉部材11に形成した球状部14と同一径の内周面15及び、爪開閉部材11の球状部14と同一径の球面16が形成されている。爪開閉部材11は先端に把握爪17の取付け部18が形成され、その取付け部18に前記球状部14、軸部19が連設されている。軸部19の後端には、後述する貫通孔24に向けて装着孔20が設けられ、その装着孔20に付勢機構21の付勢部材22が摺動自在に装着されている。付勢機構21は付勢部材22とバネ部材23とから成り、付勢部材22と前記装着孔20の底面との間にバネ部材23を介在させ、付勢部材22を後ボディ4に当接させることでバネ部材23のバネ力により爪開閉部材11がチャック本体2の前方へ移動するようになっている。球状部14には、チャック軸線CLと直交する方向に貫通孔24が設けられている。その貫通孔24に、貫通孔24との間に隙間を形成するような軸径を有する軸部材25が挿通されている。図3に示すように、軸部材25の両端は支持部10に夫々保持されている。このことから、爪開閉部材11は軸部材25に対して前、後方へ移動可能となっている。また、爪開閉部材11は、前記隙間の範囲内で支持孔9の軸線を中心に揺動することができる。
【0011】
爪開閉部材11の先端の取付け部18には、断面T字のナット溝26が形成されている。取付け部18の当接面18aに保持部材27を当接させ、前記ナット溝26に挿入した凸状のナット部材28にボルト部材29を捩じ込むことで、保持部材27が取付け部18に取付けられる。その保持部材27にワークWの外周面に対応する把持面17aが形成された把握爪17が取付けられている。爪開閉部材11の軸部19は、駆動部材6に旋回可能に取付られたロッカボール30に摺動自在に嵌め込まれている。駆動部材6によりロッカボール30はチャック軸線CL方向の前、後方へ移動し、そのロッカボール30の作動により爪開閉部材11の先端の取付け部18はチャック半径方向へ揺動するようになっている。
【0012】
前記爪開閉部材11の後端の装着孔20から貫通孔24に向けてネジ部31aを備えた取付孔31が設けられている。その取付孔31には、爪開閉部材11の移動量Lを調整可能な調整機構32が備えられている。調整機構32は、調整部材33、球部材34、ネジ部材35とから成る。取付孔31の先端側には摺動自在に調整部材33が装着され、ネジ部31aに捩じ込んだネジ部材35を球部材34を介して前記調整部材33に係合させ、ネジ部材35を捩じ込むことで調整部材33の先端が貫通孔24内へ突出するようになっている。よって、爪開閉部材11に備えた調整機構32の調整部材33の先端と軸部材25との距離が爪開閉部材11の前方への移動量Lとなり、具体的には、貫通孔24内への突出量を増やせば爪開閉部材11の前方への移動量Lが小さく、貫通孔24内への突出量を減らせば爪開閉部材11の前方への移動量Lは大きくなる。また、調整部材33の先端には、軸部材25に係合可能な円弧状の凹溝33aが形成され、その円弧状の凹溝33aと軸部材25とが面当りするようになっている。
【0013】
上記構成の揺動引込み式チャック1の動作について説明する。チャック本体2は取付ボルト50により旋盤等の主軸部51前端に固着され、主軸部51の回転と共にチャック本体2が回転するようになっている。そして、主軸部51後端に設置された回転シリンダ(図示しない)のピストン(図示しない)にコネクチングロッド(図示しない)を介して駆動部材6が連結され、ピストンの作動により駆動部材6がチャック軸線CL方向の前、後方へ移動するようになっている。ワークWをクランプする前には、図4に示すように、駆動部材6をチャック軸線CL方向の前方へ移動させ、ロッカボール30の作動により爪開閉部材11の先端の把握爪17をチャック半径方向の外方へ揺動させると共に、図5に示すように、調整機構32の調整部材33の先端が軸部材25に当接するまで、付勢機構21により爪開閉部材11を支持部10の内周面15に沿って前方へ移動させる。この状態にて、チャック本体2の前方にワークWが運ばれてくると、図5から図2に示すように、駆動部材6をチャック軸線CL方向の後方へ移動させ、ロッカボール30の作動により爪開閉部材11の先端の把握爪17をチャック半径方向の内方へ揺動させ、複数の把握爪17によりワークWをクランプする。そして、駆動部材6は後方へ移動し続け、ロッカボール30の作動によりワークWをクランプした爪開閉部材11を後方へ移動させる。支持部10の球面部16に球状部14が当接すると、駆動部材6の移動が停止すると共に、チャック本体2前面に固着されたストッパ部8にワークWの端面が押し付けられる。その後、チャック本体2を回転させ、図示しない工具によってワークWが加工される。ワークWの加工が終了した後、図5に示すように、駆動部材6をチャック軸線方向の前方へ移動させ、各爪開閉部材11の先端の把握爪17をチャック半径方向の外方へ移動させることで、ワークWがアンクランプされるようになっている。
【0014】
尚、本実施形態では、爪開閉部材11に設けた貫通孔24に挿通し、貫通孔24との間に隙間を形成する軸部材25の両端が支持部10に保持され、爪開閉部材11を軸部材25に対して前、後方へ移動するようにしたものであるが、図6に示すように、爪開閉部材11Aに設けた貫通孔24Aに軸部材25A(25B)が一体的に保持され、その軸部材25A(25B)との間に隙間を形成するような保持孔40を支持部10Aおよびチャック本体2A(2B)に設け、爪開閉部材11Aを保持孔40に対して前、後方へ移動するようにしたものであってもよい。この場合には、調整機構32Aを支持部10Aまたはチャック本体2Bに備えることで、調整機構32Aの調整部材33Aの先端を前方へ付勢される爪開閉部材11Aに一体的に保持される軸部材25A(25B)に当接させることになる。
【0015】
以上のように、支持部10に保持される軸部材25に、爪開閉部材11に備えた調整機構32の調整部材33を当接させるようにしたので、従来のように、支持部10の交換により爪開閉部材11の移動量Lの調整に多くの時間が掛かるものに比べ、調整機構32の調整部材33の移動のみで爪開閉部材11の前方への移動量Lを速やかに調整できる。また、爪開閉部材11にはチャック軸線CLと直交する方向に貫通孔24を設け、その貫通孔24に挿通し、貫通孔24との間に隙間を形成する軸部材25の両端が支持部10に保持され、その軸部材25に、軸部材25に対して前方へ付勢される爪開閉部材11に備えた調整機構32の調整部材33を当接させるようにしたので、支持部10に軸部材25を介して爪開閉部材11を装着した状態のまま、調整機構32の調整部材33を移動させることが可能であり、爪開閉部材11の前方への移動量Lの調整を容易にできる。
【0016】
また、爪開閉部材11の後端から貫通孔24に向けてネジ部31aを備えた取付孔31を設け、調整機構32の調整部材33が取付孔31に摺動自在に装着され、ネジ部31aに捩じ込んだネジ部材35によって調整部材33の先端を貫通孔24内に突出させるようにしたので、調整機構32が簡単な構成となり、チャック1全体を安価なものにできる。更に、調整部材33の先端に、軸部材25に係合可能な円弧状の凹溝を形成したので、調整部材33の先端と軸部材25とが面当りとなり、ワークWのクランプ、アンクランプを繰り返し行っても調整部材33の先端の早期の磨耗を防止できる。
【符号の説明】
【0017】
1 揺動引込み式チャック
2 チャック本体
6 駆動部材
10 支持部
11 爪開閉部材
17 把握爪
21 付勢機構
24 貫通孔
25 軸部材
31 取付孔
31a ネジ部
32 調整機構
33 調整部材
33a 凹溝
CL チャック軸線
W ワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6