特許第5892481号(P5892481)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友林業株式会社の特許一覧 ▶ 独立行政法人森林総合研究所の特許一覧

特許5892481サクラのクローン識別のためのDNAプライマーセット
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5892481
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】サクラのクローン識別のためのDNAプライマーセット
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20160310BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALI20160310BHJP
【FI】
   C12N15/00 A
   C12Q1/68 AZNA
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2010-228445(P2010-228445)
(22)【出願日】2010年10月8日
(65)【公開番号】特開2012-80807(P2012-80807A)
(43)【公開日】2012年4月26日
【審査請求日】2013年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183428
【氏名又は名称】住友林業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501186173
【氏名又は名称】国立研究開発法人森林総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100066692
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 皓
(74)【代理人】
【識別番号】100072040
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100124969
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100088926
【弁理士】
【氏名又は名称】長沼 暉夫
(74)【代理人】
【識別番号】100102897
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 幸弘
(74)【代理人】
【識別番号】100097870
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 斎子
(74)【代理人】
【識別番号】100140556
【弁理士】
【氏名又は名称】新村 守男
(74)【代理人】
【識別番号】100114719
【弁理士】
【氏名又は名称】金森 久司
(74)【代理人】
【識別番号】100143258
【弁理士】
【氏名又は名称】長瀬 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100132492
【弁理士】
【氏名又は名称】弓削 麻理
(74)【代理人】
【識別番号】100163485
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 義敬
(74)【代理人】
【識別番号】100112243
【弁理士】
【氏名又は名称】下村 克彦
(72)【発明者】
【氏名】石尾 将吾
(72)【発明者】
【氏名】松本 麻子
(72)【発明者】
【氏名】勝木 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】加藤 珠理
(72)【発明者】
【氏名】吉丸 博志
【審査官】 渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−141368(JP,A)
【文献】 特開2007−037468(JP,A)
【文献】 Breed. Sci., 2007, Vol. 57, No. 1, pp. 1-6
【文献】 Conserv. Genet., 2009, Vol. 10, No. 3, pp. 685-688
【文献】 J. Jpn. For. Soc., 2004, Vol. 86, No. 2, pp. 191-198
【文献】 Mol. Ecol. Notes, 2002, Vol. 2, No. 3, pp. 211-213
【文献】 Breed. Sci., 2012, Vol. 62, No. 3, pp. 248-255
【文献】 J. Plant Res., 2001, Vol. 114, No. 3, pp. 381-385
【文献】 J. Amer. Soc. Hort. Sci., 2003, Vol. 128, No. 6, pp. 904-909
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12Q 1/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の6種類から選ばれる2種以上のプライマーセットを用いてサクラ属に属する植物の組織より抽出したDNA について PCR 法により増幅し、増幅された DNAの塩基長の相違により、サクラ属に属する植物のクローンを識別する識別によって得られた2個体以上のサクラのクローン名、
前記クローン名に対応する栽培品種名と、
前記クローン名により示されるクローンのそれぞれについての前記プライマーセットを用いて増幅されたDNA の塩基長
とを示すデータベースを用いて、サクラ属に属する植物のクローンおよび栽培品種を特定する方法:
配列番号1で示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号2で示される塩基配列を有するプライマーとからなるプライマーセット;
同様に、配列番号3で示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号4で示される塩基配列を有するプライマーとからなるプライマーセット;
同様に、配列番号5で示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号6で示される塩基配列を有するプライマーとからなるプライマーセット;
同様に、配列番号7で示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号8で示される塩基配列を有するプライマーとからなるプライマーセット;
同様に、配列番号9で示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号10で示される塩基配列を有するプライマーとからなるプライマーセット;および
同様に、配列番号11で示される塩基配列を有するプライマーと、配列番号12で示される塩基配列を有するプライマーとからなるプライマーセット。
【請求項2】
選ばれるプライマーセットが、下記プライマーセットの少なくとも1つを含む、請求項1の方法:
・配列番号3で示される塩基配列を有するプライマーと配列番号4で示される塩基配列を有するプライマーを含むプライマーセット、
・配列番号7で示される塩基配列を有するプライマーと配列番号8で示される塩基配列を有するプライマーを含むプライマーセットおよび
・配列番号11で示される塩基配列を有するプライマーと配列番号12で示される塩基配列を有するプライマーを含むプライマーセット。
【請求項3】
配列番号1〜12で示される塩基配列を有するプライマーをすべて含む、請求項1の方法。
【請求項4】
2個体以上のサクラの個体数が50個体以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サクラのクローン識別用プライマーセットおよびそれを用いるクローン識別方法に関する。更に詳細には、PCR 法によりサクラ属に属する植物のマイクロサテライト領域を増幅するためのプライマーセット、および該プライマーセットを用いて、サクラ属に属する植物の組織より抽出した DNA について PCR 法により増幅し、増幅された DNA の塩基長の相違により、サクラ属に属する植物のクローンを識別するサクラのクローン識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サクラ(サクラ属、Cerasus)は、日本全国の街路、公園、庭、河川敷および神社や寺において植栽されている、日本国民に最も親しまれている花木の一つである。
サクラは花の色や花弁の数・大きさなどの形態に変異が多い植物として知られており、数多くの品種改良が多く行われ、また、代を重ねることや接木によって、花の形態を固定化することも行われている。
【0003】
近時において、サクラの栽培品種の同定の需要が、園芸産業や緑化産業において増大している。また、寺社等において古くから植えられているサクラが接ぎ木によって正しく増殖されているかについて鑑定する需要も生じている。しかしながら、上記のように栽培されているサクラのクローンの数は膨大である一方、クローンの識別は外観からは困難である。
また、クローンは、一般に適切な遺伝学的マーカーを構築することにより区別でき、植物において生化学的手法を用いたアイソザイム分析のほかにPCR マーカーを用いたクローン識別方法が報告され(特許文献1〜5)、サクラにおいてもPCRマーカーを用いたクローン識別について報告されている(非特許文献1)。しかしながら、同文献において報告されている方法では、21種類のマーカーを用いているにもかかわらず、特定のクローン(‘ソメイヨシノ’)を含む7栽培品種という、数少ない品種のクローン識別が行われているにすぎない。
なお、「栽培品種」は、その形態価値により人が判断した分類群であり、植物の「クローン」は、1個体から栄養繁殖によって増殖した同一の遺伝子型をもった一の植物個体群である。花を観賞するサクラの場合、栽培品種の多くは接ぎ木で増殖されるため、一つの栽培品種が一つのクローンに対応することが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−57073号公報
【特許文献2】特開2002−34562号公報
【特許文献3】特開2004−135554号公報
【特許文献4】特開2006−141368号公報
【特許文献5】特開2008−154465号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hiroyuki Iketani et al., “ Analyses of Clonal Status in ‘Somei-yoshino’ and Confirmation of Genealogical Record in Other Cultivars of Prunus × yedoensis by Microsatellite Markers”, Breeding Science, 2007, p. 1-6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の方法より効率および精度が高いサクラのクローン識別方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み、本発明者らは鋭意研究を行い、PCR 法によりサクラ属に属する植物のマイクロサテライト領域を増幅するための新たなプライマーセットを構築したところ、驚くべきことに該プライマーセットを用いたPCR 法により得られるDNA増幅断片の長さに、サクラ属のクローン間で極めて大きな相違と多型性があることを見出し、さらに研究を進めることによって本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、PCR 法によりサクラ属に属する植物のマイクロサテライト領域を増幅するための、サクラ属に属する植物のクローン識別方法に用いられる2種以上のプライマーセットであって、以下の6種類から選ばれるプライマーセットに関する:
配列番号1で示される塩基配列を有するプライマーまたは配列番号1で示される塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を有し同様にプライマーとしての機能を有するその変異体と、配列番号2で示される塩基配列を有するプライマーまたは配列番号2で示される塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を有し同様にプライマーとしての機能を有するその変異体とからなるプライマーセット;
同様に、配列番号3で示される塩基配列を有するプライマーまたは配列番号3で示される塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を有し同様にプライマーとしての機能を有するその変異体と、配列番号4で示される塩基配列を有するプライマーまたは配列番号4で示される塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を有し同様にプライマーとしての機能を有するその変異体とからなるプライマーセット;
同様に、配列番号5で示される塩基配列を有するプライマーまたは配列番号5で示される塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を有し同様にプライマーとしての機能を有するその変異体と、配列番号6で示される塩基配列を有するプライマーまたは配列番号6で示される塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を有し同様にプライマーとしての機能を有するその変異体とからなるプライマーセット;
同様に、配列番号7で示される塩基配列を有するプライマーまたは配列番号7で示される塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を有し同様にプライマーとしての機能を有するその変異体と、配列番号8で示される塩基配列を有するプライマーまたは配列番号8で示される塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を有し同様にプライマーとしての機能を有するその変異体とからなるプライマーセット;
同様に、配列番号9で示される塩基配列を有するプライマーまたは配列番号9で示される塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を有し同様にプライマーとしての機能を有するその変異体と、配列番号10で示される塩基配列を有するプライマーまたは配列番号10で示される塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を有し同様にプライマーとしての機能を有するその変異体とからなるプライマーセット;および
同様に、配列番号11で示される塩基配列を有するプライマーまたは配列番号11で示される塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を有し同様にプライマーとしての機能を有するその変異体と、配列番号12で示される塩基配列を有するプライマーまたは配列番号12で示される塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を有し同様にプライマーとしての機能を有するその変異体とからなるプライマーセット。
【0009】
また、本発明は、選ばれるプライマーセットが、下記プライマーセットの少なくとも1つを含む、前記プライマーセットに関する:
・配列番号3で示される塩基配列を有するプライマーと配列番号4で示される塩基配列を有するプライマーを含むプライマーセット、
・配列番号7で示される塩基配列を有するプライマーと配列番号8で示される塩基配列を有するプライマーを含むプライマーセットおよび
・配列番号11で示される塩基配列を有するプライマーと配列番号12で示される塩基配列を有するプライマーを含むプライマーセット。
さらに、本発明は、配列番号1〜12で示される塩基配列を有するプライマーをすべて含む、前記いずれかのプライマーセットに関する。
またさらに、本発明は、前記6種類のプライマーセットから選ばれる2種以上のプライマーセットを用いて、サクラ属に属する植物の組織より抽出した DNA について PCR 法により増幅し、増幅された DNA の塩基長の相違により、サクラ属に属する植物の個体を識別する、サクラのクローン識別方法に関する。
さらにまた、本発明は、選ばれるプライマーセットが、下記プライマーセットの少なくとも1つを含む、前記サクラのクローン識別方法に関する。
・配列番号3で示される塩基配列を有するプライマーと配列番号4で示される塩基配列を有するプライマーを含むプライマーセット、
・配列番号7で示される塩基配列を有するプライマーと配列番号8で示される塩基配列を有するプライマーを含むプライマーセットおよび
・配列番号11で示される塩基配列を有するプライマーと配列番号12で示される塩基配列を有するプライマーを含むプライマーセット。
また、本発明は、選ばれるプライマーセットが、配列番号1〜12で示される塩基配列を有するプライマーをすべて含む、前記いずれかのサクラのクローン識別方法に関する。
さらに、本発明は、前記いずれかのサクラ属に属する植物のクローン識別方法によって得られた2個体以上のサクラのクローン名および存在する場合には栽培品種名と、前記6種類のプライマーセットから選ばれる2種以上のプライマーセットを用いてPCR 法により増幅された前記クローンのそれぞれについての DNA の塩基長とを示すデータベースを用いる、サクラ属に属する植物のクローンおよび栽培品種を特定する方法に関する。
またさらに本発明は、前記2個体以上のサクラの個体数が50個体以上である前記方法に関する。
さらにまた本発明は、前記いずれかのサクラ属に属する植物のクローン識別方法によって得られた2個体以上のサクラのクローン名、栽培品種名と、前記の6種類のプライマーセットから選ばれる2種以上のプライマーセットを用いてPCR 法により増幅された前記クローンのそれぞれについての DNA の塩基長とを示すデータベースに関する。
そして本発明は、2個体以上のサクラの個体数が50個体以上である、前記データベースに関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、サクラ属に属する植物のゲノム中のマイクロサテライト領域を得るためのプライマーセットが提供され、このプライマーセットを2種以上使用して PCR 法によってマイクロサテライト領域を増幅し、そのサイズを特定し遺伝子型を決定し、もってサクラ属に属する植物のクローン識別を従来の方法より高い効率および精度で行うことができる。
本発明の方法は、採取後間もない葉等の新鮮な組織に限定されず、伐採後に長時間経過した丸太や、合板等の加工品についてのクローン識別も可能である。また、成長や材質などの形質パラメーターと遺伝的な特性とを比較検討することにより、集団における遺伝的特性と形質との関連についての知見を得ることが期待されるばかりでなく、育種の効率化も期待される。
【0011】
また、本発明によれば、サクラの苗および/または成木の供給において、それぞれの苗および/または成木の遺伝子型を特定することによりサクラの苗および/または成木に付加価値を付与することもできる。サクラの増幅はさし木や接ぎ木で行われることが多いため、いずれかの栽培品種または名木のクローンであるものが多い。すなわち、本発明のプライマーセットを用いる方法は、サクラの苗および/または成木に付加価値を付与するために好適に用いることができる。
【0012】
なお、植物や動物のゲノム中には、シトシンとアデニン、チミンとグアニンなどの数塩基からなるモチーフの繰り返し配列であるマイクロサテライトと呼ばれる領域が、高頻度で広く分布することが知られている。マイクロサテライトを含む領域を増幅するように設計された PCR マーカーの多くは、多型性が抜きん出て高くしかも共優性であることから、精密な遺伝子解析に適しており、近年、育種学、集団遺伝学などの分野に重用されている。例えば、特許文献1には、イネの DNA を鋳型とし、マイクロサテライトを含むマイクロサテライトマーカーを PCR によって増幅し、増幅されたマイクロサテライトマーカーのサイズによってイネの品種を特定することが記載されている。特許文献2には、ナシ類植物のマイクロサテライト DNA に基づき、ナシ類植物の種や栽培品種の識別、有用形質の選択などに利用することが記載されている。
本発明は、サクラのゲノムに含まれるマイクロサテライト領域を増幅するためのプライマーセットのうち、PCRによる増幅の効率および得られる増幅断片の多型性が高い、とくに好適なものを選抜したことに基礎をおくものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のプライマーセットを特定するために用いた dual suppression-PCR 法を説明した概略図である。
図2】dual suppression-PCR 法で用いる不等長アダプター、プライマー AP2 およびプライマー AP1 を示す。プライマー AP1 は、不等長アダプターの長鎖1本鎖部分の 5'末端配列と同じ配列を含む。AP2 プライマーは、不等長アダプターの長鎖1本鎖部分の 3'よりの部分と同じ配列をもつ。
図3-1】本発明において用いられるデータベースの例の部分である。なお、図中において「クローン」および「栽培品種」は、それぞれ記号で示した。例えば、クローン「aa」は望月桜のクローンを示し、栽培品種「AB」は‘枝垂大臭桜’を示す。また、記号「−」は、相当する栽培品種名が存在しないことを示す。
図3-2】本発明において用いられるデータベースの例の他の部分である。
図3-3】本発明において用いられるデータベースの例のさらに他の部分である。
図3-4】本発明において用いられるデータベースの例のさらに他の部分である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(1)プライマーセット
本発明のプライマーセットは、上記のとおりのものである。該プライマーセットを構成するプライマーおよびその変異体は、市販されている DNA シンセサイザーを用いて容易に合成することができる。本発明においては、これらのプライマーおよびその変異体は、いかなる機器あるいは方法によってこのプライマーが合成されたかは問題とならず、その機器・方法等の相違によって本発明の目的とする効果が左右されることはない。
【0015】
本発明のプライマーセットは、以下のようにして特定した。
本発明では、サクラ属に属する植物のゲノム中に存在するマイクロサテライト領域に隣接する両端の塩基配列を、dual-suppression-PCR 法(練春蘭ら、日林誌 86(2), 191-198, 2004; Chunlan Lian et al., Journal of Plant Research, 114, 381-386, 2001; Chunlan Lian et al., Molecular Ecology Notes 2, 211-213, 2002)により特定した。この dual-suppression-PCR 法は、以後に記載する実施例1において詳細に説明されており、また、図1に示した通り、マイクロサテライト領域の一端に隣接する塩基配列の決定(第1段階目)と、suppression-PCR 法(Sibert, P.D., et al., Nucleic Acids Res., 23, 1087-1088, 1995)による反対側の一端に隣接する塩基配列の決定(第2段階目)からなっている。
【0016】
より詳細には、図1に示されるように、dual-suppression-PCR 法では、先ずマイクロサテライト(SSR)部位を含むゲノム DNA を抽出し、制限酵素により DNA 断片を作製する。次いで、図2に示す不等長アダプターを DNA 断片にライゲーションして不等長アダプター付き制限酵素断片を作製する。次いで、図2に示したアダプタープライマー AP2 と、マイクロサテライト中の配列として予想される配列に基づいて作製されたマイクロサテライト(SSR)プライマー(具体的には、アデニンとシトシンの2塩基の繰り返し配列である 5'-ACACACACACACACACACAC-3'を用いた)とを用いて、マイクロサテライト領域の一端を含む配列を増幅し、次いで、サブクローニング、シーケンシング、プライマー IP2 および IP1 による増幅、シーケンシングにより、マイクロサテライト領域の一端に隣接する塩基配列を決定する。次いで、nested PCR 法により、マイクロサテライト領域のもう一端に隣接する塩基配列を決定する。すなわち、図1に示すように、不等長アダプター付き制限酵素断片を、図2に示したアダプタープライマー AP1 と、プライマー IP1 で増幅し、次いで、図2に示すように増幅を繰り返して、シーケンシングにより、マイクロサテライト領域のもう一端に隣接する塩基配列を決定する。かくして、マイクロサテライト領域に隣接する両端に位置する塩基配列が決定される。
【0017】
このようにして、マイクロサテライト領域の両端に位置する塩基配列として、12種類の塩基配列が特定された。さらに、増幅の効率および増幅断片長の多型性によってスクリーニングを行い、表1に示す6種類(6セット)のプライマーセットを選抜した。
これらのプライマーセットは、増幅の効率がよく、増幅断片長の多型性も高いため、サクラ属に属する植物のゲノム中のマイクロサテライト領域を PCR により増幅するためのプライマーセットとなるものである。
これらのプライマーセットは、下記表1に示すように、本明細書においては、それぞれSK1-1、SK3-1、SK4-1、SK7-1、SK8-1およびSK9-2と呼ぶこともある。プライマーセットSK1-1の塩基配列をそれぞれ配列番号1および2に、プライマーセットSK3-1の塩基配列をそれぞれ配列番号3および4に、プライマーセットSK4-1の塩基配列をそれぞれ配列番号5および6に、プライマーセット SK7-1の塩基配列をそれぞれ配列番号7および8に、プライマーセット SK8-1 の塩基配列をそれぞれ配列番号9および10に、プライマーセット SK9-2の塩基配列をそれぞれ配列番号11および12に示した。
【0018】
【表1】
【0019】
なお、これらのプライマーは、それぞれのプライマーの配列番号1から12に示す塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を有し同様にプライマーとしての機能を有するその変異体であってもよい。ここでいうストリンジェントな条件でハイブリダイズするとは、PCR 法による増幅における、2本鎖 DNA の変性後のアニーリングの工程で、アニーリングと同様の条件下で、配列番号1から12に示す塩基配列に相補的な塩基配列とハイブリダイズすることを指す。このようなアニーリングと同様の条件としては、例えば、通常の PCR 反応用緩衝液中で、dNTP (dATP、dTTP、dGTP、dCTP)および DNA ポリメラーゼと混合し、混合物を、例えば 43℃から 68℃の温度で反応させる条件が挙げられる。より具体的には、以後に説明する本発明のクローン識別方法において採用される PCR におけるアニーリング条件が挙げられる。
また、同様にプライマーとしての機能を有するとは、PCR による同一個体からのゲノム DNA の増幅において、プライマーとして使用した場合に、変異していない元のプライマーと同様にマイクロサテライト領域を増幅できることを指す。
上記のような変異体の設計は、本技術分野における当業者であれば容易に行うことができる。したがって、当該変異体も当然に本願発明の範囲に包含されるのである。
これらのプライマーおよびその変異体は、市販されている DNA シンセサイザーを用いて容易に合成することができる。本発明においては、これらのプライマーおよびその変異体は、いかなる機器あるいは方法によってこのプライマーが合成されたかは問題とならず、その機器・方法等の相違によって本発明の目的とする効果が左右されることはない。
【0020】
(2)識別方法
本発明においては、上記6つ(6種類)のプライマーセットSK1-1、SK3-1、SK4-1、SK7-1、SK8-1およびSK9-2およびそれぞれのプライマーの変異体から構成されるプライマーセットから2種以上のプライマーセットを選択し、該選択されたプライマーセットを用いて、識別対象であるそれぞれのサクラの組織より抽出した DNA を鋳型として PCR を行い、次いで、この PCR により増幅した DNA について増幅断片長の分析を行うことにより、サクラのクローンの識別を行う。本発明のプライマーセットはいずれも、PCR においてサクラのマイクロサテライト領域を増幅することができ、この結果より、サクラのクローン識別が可能となるのである。
本発明のプライマーセットにより増幅されるマイクロサテライト領域は、より具体的には、上記したプライマーセットの塩基配列を決定する際に用いたマイクロサテライト(SSR)プライマーが、アデニンとシトシンの2塩基の繰り返し配列であるため、アデニンとシトシンの2の繰り返し配列を含むマイクロサテライト領域である。
【0021】
なお、本発明が適用されるサクラは限定されず、いかなるサクラであってもよい。これらは生木であっても伐採された材であっても加工品であっても構わない。また、いずれの組織から抽出された DNA であってもよい。
さらに、本発明の方法において識別の対象となるサクラの植物体はとくに限定されず、苗または成木であってよい。また、かかる対象は、植栽前のものであっても植栽後のものであってもよい。
【0022】
サクラの組織からの DNA 抽出は、CTAB 法や SDS 法等の定法、またはこれらの方法を適宜改良した方法により実施することができる。抽出法の相違によって本発明の目的とする効果が左右されることはない。PCR は、こうして得られたDNA を、PCR 反応用緩衝液中で、上記のようにして選択されたプライマーセット、dNTP (dATP、dTTP、dGTP、dCTP)および DNA ポリメラーゼと混合し、この混合物を適当な温度サイクルで繰返し反応させることにより行えばよい。なお、このときの PCR 条件は、最もクリアな電気泳動パターンが得られるよう、適宜設定すればよい。通常は、DNA 25 〜50 ng、10×PCR 反応用緩衝液 1〜10 μl、プライマーをそれぞれ 0.2〜2μM、dNTP 20〜200μM、DNA ポリメラーゼ 0.5〜25 U を混合した後、全液量が 10〜100μl となるように希釈したものについて、次に示すような温度サイクルで反応させた場合に、良好な結果を得ることができる。10×PCR 反応用緩衝液、dNTP および DNA ポリメラーゼについては市販されているので、これを用いることができる。
【0023】
PCR における温度条件
ステップ1:94〜96℃ 約 9 分 1 サイクル
ステップ2:94〜96℃ 約 0.5 分→52〜58℃ 約 0.5〜1 1分→70〜74℃
約 0.5〜1 分 28〜40 サイクル
ステップ3:70〜74℃ 約 3〜5 分 1 サイクル
【0024】
PCR 反応後の増幅した DNA 断片長の解析は、DNA シークエンサーを用いたキャピラリー電気泳動や、ガラス板を用いたポリアクリルアミド電気泳動、マススペクトル法等によって行うことができる。キャピラリー電気泳動の場合には、プライマーの片側を蛍光標識して蛍光検出器で検出すればよく、ガラス板を用いたポリアクリルアミド電気泳動の場合には、エチジウムブロマイドや銀染色等の定法を用いて検出することができる。
上記したように、本発明の上記6つのプライマーセットSK1-1、SK3-1、SK4-1、SK7-1、SK8-1およびSK9-2およびそれぞれのプライマーの変異体から構成されるプライマーセットは、これを用いて PCR を行った場合、マイクロサテライト領域を増幅するが、その増幅される部分は、プライマーセットごとに異なっている。したがって、同一個体の組織より抽出された DNA であっても、プライマーセットが異なれば、PCR により増幅される DNA は異なってくる。一方、異なる個体の組織より抽出された DNA に対しては、同じプライマーセットを用いても、PCR により増幅される DNA は、塩基数の違いが互いに異なる場合が生じる。本発明によるサクラのクローン識別方法は、このようなプライマーセットごとの挙動の相違を指標として行われるのである。
【0025】
本発明によるサクラのクローン識別方法には、上記6つのプライマーセットから選択される2種以上のプライマーセットが用いられるところ、用いられるプライマーセットの種類の数は識別対象であるサクラの個体数に応じて改変することができる。例えば、識別対象であるサクラの個体数が約50個体の場合、3〜6種類のプライマーセットを用いればよく、かかる方法は好ましい。本発明によるサクラのクローン識別方法のうち、3〜5種類のプライマーセットを用いるものはより好ましく、3〜4種類のプライマーセットを用いるものは一層より好ましい。個体数がより少ない場合には、2種類のプライマーセットを用いるものが好ましい。
【0026】
用いられるプライマーセットとして、以下のプライマーセットを含むものは、増幅断片長の多型性が比較的高く、識別能がより高いため好ましい:
・配列番号3で示される塩基配列を有するプライマーと配列番号4で示される塩基配列を有するプライマーを含むプライマーセット(SK3-1)
・配列番号7で示される塩基配列を有するプライマーと配列番号8で示される塩基配列を有するプライマーを含むプライマーセット(SK7-1)
・配列番号11で示される塩基配列を有するプライマーと配列番号12で示される塩基配列を有するプライマーを含むプライマーセット(SK9-2)
上記3種類のプライマーセットの少なくとも1つを含む本発明によるサクラのクローン識別方法は、遺伝子型についてより詳細な情報が得られるため好ましく、これら3種のプライマーセットをすべて含む本発明によるサクラのクローン識別方法は、より好ましい。
【0027】
また、本発明によるサクラのクローン識別方法のうち、上記6種類のプライマーセットをすべて用いるものは、識別の精度がより高いため好ましい。
さらに、本発明によるサクラのクローン識別方法のうち、本発明において特定される遺伝子型におけるDNA長についての誤差が、0.1%以下であるものは好ましく、0.05%以下であるものはより好ましく、0.01%以下であるものは一層より好ましい。
【0028】
(3)クローンを特定する方法
上記いずれかの本発明によるサクラのクローン識別方法を用いて種々のサクラについての遺伝子型のデータベースを作成することができる。また、分類が不明なサクラについて、その遺伝子型(PCR 法により増幅されたDNA の塩基長)を上記データベースのデータと比較することによって、当該サクラの種・栽培品種を特定することができる。
【0029】
かかるデータベースの作成には、前記6種類のプライマーセットから選ばれる2種以上のプライマーセットを用いる。かかるデータベースの作成のうち、3〜6種類のプライマーセットを用いるものはより好ましく、5〜6種類のプライマーセットを用いるものは一層より好ましい。
用いられるプライマーセットとして、以下のプライマーセットを含むものは、増幅断片長の多型性が比較的高く、識別能がより高いため好ましい:
・配列番号3で示される塩基配列を有するプライマーと配列番号4で示される塩基配列を有するプライマーを含むプライマーセット(SK3-1)
・配列番号7で示される塩基配列を有するプライマーと配列番号8で示される塩基配列を有するプライマーを含むプライマーセット(SK7-1)
・配列番号11で示される塩基配列を有するプライマーと配列番号12で示される塩基配列を有するプライマーを含むプライマーセット(SK9-2)
また、上記6種類のプライマーセットをすべて用いて得られたデータベースを用いる方法は、識別の精度がより高く、かつ、より多くのサクラの遺伝子型の相違が特定されるため好ましい。
【0030】
データベースに示されるサクラのクローンの数は限定されないところ、かかるクローンの数として、50クローン以上は好ましく、100クローン以上はより好ましく、150クローン以上は一層より好ましい。
本発明において用いられるデータベースの例を図3に示す。
【0031】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。本発明は以下の実施例によってなんら限定されるものではなく、本発明の属する技術分野における通常の変更を加えて実施することができることはいうまでもない。
【実施例1】
【0032】
サクラ属に属する植物のゲノム DNA 中に存在するマイクロサテライト領域に隣接する両端の塩基配列を、図1に示す dual-suppression-PCR 法により特定した。このdual-suppression-PCR 法は、図1に示した通り、マイクロサテライト領域の一端に隣接する塩基配列の決定(第1段階目)と、suppression-PCR 法による反対側の一端に隣接する塩基配列の決定(第2段階目)からなっている。
1.サクラからの全 DNA の抽出
全 DNA の抽出は、DNeasy plant mini kit(キアゲン社製)を用いて行った。すなわち、サクラの葉を乳鉢と乳棒を使用して液体窒素中で粉末状にすり潰し、すり潰した粉末を2mlマイクロチューブに移した。これに400μl のBuffer AP1と4μl の100mg/ml RNase A を加え、激しくボルテックスした後、インキュベート(65℃、10 分、途中で2〜3 回転倒混和)した。さらに、130μl のBuffer AP2 を加え、混和し、インキュベート(氷上、5 分)した後、遠心(14,500rpm (20,000×g)、5 分、室温)し、上清をQIAsherdder Mini スピンカラムに移した。これをさらに遠心(14,500rpm (20,000×g)、2 分、室温)し、上清をカラムに通し、通過したろ液画分を新しい2ml マイクロチューブに移した。これに1.5 倍容量のBuffer AP3/E を加え、ピペットで混和し、混和液650μl をDNeasy Mini スピンカラムに移し、遠心(8,000rpm (6,000×g)、1 分、室温)し、ろ液を捨て、DNeasy Mini スピンカラムを新しい2ml マイクロチューブに移し、500μl のBuffer AW を加えた。これをさらに遠心(8,000rpm (6,000×g)、1 分、室温)し、ろ液を捨て、DNeasy Mini スピンカラムに500μl のBuffer AW を加えた後、さらに遠心(14,500rpm (20,000×g)、2 分、室温)し、フィルタを乾燥させた。DNeasy Mini スピンカラムを新しい1.5ml のマイクロチューブに移し、100μl のBuffer AE を加え、インキュベート(室温、5 分)し、遠心(8,000rpm (6,000×g)、1 分、室温)した。得られたペレットを以後の操作に供した。
【0033】
2.全 DNA の制限酵素処理
抽出した全 DNA を、各制限酵素(AluI、AfaI、EcoRV、HaeIII、HincII、SspI (宝酒造(株)製)で処理した。すなわち、7μg の DNA に、10μl の 10×buffer と 2μl の酵素を加え、滅菌蒸留水で全液量を 100μl とし、37℃で 3 時間加温した。反応液に 100μl の TE と 200μl のクロロホルム:イソアミルアルコール(24:1) 混液を添加し、混和してから遠心 (15,000rpm、5min、4℃) して上清を回収した。上清に 1/10倍量の 3M NaOAc と3倍量の 99.5% エタノールを加え、よく混和した後、10 分間氷上に静置した。遠心 (15,000rpm、10min、4℃) して得られたペレットに 80% エタノールを加えて、遠心 (15,000rpm、10min、 4℃) し、上清を捨てた。得られたペレットに 36μl の TE 緩衝液を加えて溶解し、以後の操作に供した。
【0034】
3.不等長アダプターのライゲーション
アダプターライゲーションキット(宝酒造(株)製)を用いて、図2に示すように、以下の配列からなる不等長アダプターをライゲーションした。
長鎖: 5'-GTAATACGACTCACTATAGGGCACGCGTGGTCGACGGCCCGGGCTGGT-3'
短鎖: 5'-ACCAGCCC-NH2-3'(3'末端にアミノ基を付加)
すなわち、制限酵素処理した DNA 液 5μl(0.5μg)に、Ligation Solution A を 40μl、 Ligation Solution B を 10μl、Adaptor Solution を1.61μl(1.4μgの DNA を含む)加え、滅菌蒸留水で全液量を 60μl として、反応液を 16℃ で 1 時間置いた。次に 140μl の TE 緩衝液および 200μl のクロロホルム:イソアミルアルコール(24:1) 混液を添加して混和し、遠心 (15,000rpm、5min、4℃) し、上清を回収した。上清に 1/10 倍量の 3M NaOAc と3 倍量の 99.5%エタノールを加え、よく混和した後、10 分間氷上に静置した。遠心(15,000rpm、10min、4℃)して得られたペレットに80%エタノールを加えて、遠心 (15,000rpm、10min、4℃) し、上清を捨てた。得られたペレットに 100μl の TE 緩衝液を加え溶解した。
【0035】
4.不等長アダプター短鎖 3'末端のddGTP 処理
PCR における DNA 伸長反応を防ぐため、不等長アダプター短鎖 3'末端を完全にブロックする目的で GeneAmp AmpliTaq Gold PCR Reagent kit(アプライドバイオシステムズ(株)製)を用いて反応を行った。
すなわち、50μl の 5ng/μl DNA 溶液に、10×buffer を 10μl、25mM MgCl2 を 6μl、2mM ddGTP を 1μl、AmpliTaq Gold DNA Polymerase (5U/μl) を 0.5μl加え、滅菌蒸留水で全液量を 100μl として、反応液を 94℃で 9 分間、続いて50℃で 10 分間加温した。次に 140μl の TE 緩衝液および 200μl のクロロホルム:イソアミルアルコール (24:1) 混液を添加して混和し、遠心 (15,000rpm、5min、4℃) し、上清を回収した。上清に 1/10 倍量の 3M NaOAc と3 倍量の 99.5%エタノールを加え、よく混和した後、10 分間氷上に静置した。遠心 (15,000rpm、10min、4℃) して得られたペレットに 80% エタノールを加えて、遠心 (15,000rpm、10min、4℃) し、上清を捨てた。得られたペレットに 50μl の TE 緩衝液を加え溶解した。
【0036】
5.マイクロサテライト領域の一端に隣接する塩基配列の決定
(1)CA リピートを含む断片の増幅
GeneAmp AmpliTaq Gold PCR Reagent kit(アプライドバイオシステムズ(株)製)を用いて、以下に示すように、アデニンとシトシンの2塩基の繰り返し配列のプライマー (AC)10 と、図2に示すプライマー AP2 で PCR を行った。プライマー AP2 は、不等長アダプターの長鎖1本鎖部分の 3'よりの部分と同じ配列をもつ。
プライマー(AC)10:5'-ACACACACACACACACACAC-3'
プライマー AP2: 5'-CTATAGGGCACGCGTGGT-3'
すなわち、2μl の 5ng/μl DNA 溶液に、10×buffer を 10μl、25mM MgCl2 を 6μl、10mM dNTP を 10μl、0.4μM のプライマーを各 2μl ずつ、AmpliTaq Gold DNA Polymerase (5U/μl) を0.5μl を加え、滅菌蒸留水で全液量を 100μl とした。PCR 条件は、以下の通りとした。
【0037】
ステップ1:94℃ 9分→62℃ 30秒→72℃ 1分 1サイクル
ステップ2:94℃ 30秒→62℃ 30秒→72℃ 1分 5サイクル
ステップ3:94℃ 30秒→60℃ 30秒→72℃ 1分 35サイクル
ステップ3:94℃ 30秒→60℃ 30秒→72℃ 5分 1サイクル
【0038】
この際、不等長アダプター内には、プライマー AP2 が結合できる相補塩基配列がなく、しかも短鎖の 3'末端がブロックされているので DNA 伸長反応が起こらず、相補的なマイクロサテライト配列をもつ制限酵素断片に結合したプライマー(AC)10 の 3'末端からしか DNA 伸長反応は起こらない。この伸長反応が起こると、不等アダプターの長鎖の相補鎖上にプライマー AP2 の相補配列が生じ、プライマー(AC)10 とプライマー AP2 との間が PCR により増幅され、マイクロサテライト領域とその隣接配列を含む部分が増幅される。
【0039】
(2)PCR 断片のサブクローニング
pT7 Blue perfectly blunt cloning kit(Novagen社, USA)を用いて、以下の操作を行った。
a) エンドコンバージョン
2μl の PCR 産物に、3μl の Nuclease-free water と 5μl の End Conversion Mix を加えてゆっくり混和し、22℃で 15 分間静置した。次に 75℃で 5 分間加温した後、氷上に 2 分間静置した。
b) ライゲーション
氷冷したエンドコンバージョン反応物に、1μl の Blunt Vector および 1μlの T4 DNA Ligase を加え、22℃で 15 分間静置した後、氷上に 15 分間静置した。
c) トランスフォーメーション
氷上で 50μl の NovaBlue Singles Competent cell にライゲーション反応物を 2μl 加え、5 分間静置してすばやく 42℃で 30 秒間加温した後、氷上で2分間冷やした。クリーンベンチ内で SOC Medium を300μl 加え、37℃で 30 分間、200rpm で振とうした。LB 寒天プレートに 30μl の菌液をまき、37℃で 15時間培養した。
d) コロニー PCR
培養して形成されたコロニーのうち、白いポジティブコロニーを滅菌した爪楊枝で取り、10μl の PCR 反応液を含むチューブに懸濁した。反応液は TaKaRa LA Taq (宝酒造(株)製)を用いて、10×buffer を 1μl、25mM MgCl2 を 1.6μl、2.5mM dNTP mixture を 1.6μl、0.2μM の Primer U-19 (5'-CAGGAAACAGCTATGAC-3')および 0.2 のμM の Primer M13-RV (5'-GGTTTTCCCAGTCACGACG-3') を各 0.1μl、TaKaRa LA Taq (5U/μl) を 0.1μl を加え、滅菌蒸留水で全液量を 10μl とした。PCR 条件は、以下の通りとした。
【0040】
ステップ1:94℃ 5分 1サイクル
ステップ2:94℃ 30秒→54℃ 30秒→72℃ 45秒 29サイクル
ステップ3:94℃ 30秒→54℃ 30秒→72℃ 5分 1サイクル
【0041】
(3)PCR 産物のサイズ確認
PCR 産物 2μl をアガロースゲル (1.5%) で電気泳動し、インサート部位のサイズを確認した。インサート部分が 150bp 以上の産物について、次のシークエンスを行った。
(4)シークエンス1(片側)
12の産物についてシークエンスを行った。
BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit (アプライドバイオシステムズ(株)製)を用いた。反応液の組成は、2μl の PCR 産物に 1μl の 0.08μM の Texas Red-T7 primerと 10μl の滅菌蒸留水を加え、2μl ずつ 4 つに分注した。dNTP mix 2μl をそれぞれ加え、以下の条件で PCR 反応を行った。
【0042】
ステップ1:95℃ 5分 1サイクル
ステップ2:95℃ 30秒→51℃ 30秒→72℃ 1分 25サイクル
【0043】
反応産物は、ABI PRISM 3130 Genetic Analyzer (アプライドバイオシステムズ(株)製)を用いて塩基配列を決定した。決定した12種の塩基配列を元に、それぞれ AP2 と SSR の間の AP2 側に IP1、SSR 側に IP2 の 2 つのプライマーを設計し、いずれか一方をそれぞれ各プライマーセットの左側とした。プライマーを設計するにあたり、IP1 は長さ 24〜27 塩基で、GC 含量が 35〜60%になるようにし、IP2 は長さ 19〜24 塩基で、GC 含量が 35〜60%になるようにした。
【0044】
6.マイクロサテライト領域のもう一端に隣接する塩基配列の決定
図1の4に示すように、nested PCR により、マイクロサテライト領域のもう一端に隣接する塩基配列を決定した。
(1)nested PCR
プライマー AP1 (5'-CCATCGTAATACGACTCACTATAGGGC-3') と IP1 をプライマーとして先に不等長アダプターをライゲーションして ddGTP 処理した DNA (6 つの制限酵素で処理したそれぞれの DNA) を鋳型として、PCR を行った。図2に示すようにプライマー AP1 は、不等長アダプターの長鎖1本鎖部分の 5'末端配列と同じ配列を含む。次にその PCR 産物を 100 倍に希釈した DNA を鋳型として、AP2 と IP2 をプライマーとして再度 PCR を行った。
反応液は、GeneAmp AmpliTaq Gold PCR Reagent kit(アプライドバイオシステムズ(株)製)を用いて調製した。すなわち、0.5μl の DNA 溶液に、10×buffer を 2μl、25mM MgCl2 を 2μl、10mM dNTP を 2μl、0.5μM のプライマーを各 0.5μl ずつ、AmpliTaq Gold DNA Polymerase (5U/μl)を0.6μl を加え、滅菌蒸留水で全液量を 20μl とした。PCR 条件は、以下の通りとした。
【0045】
ステップ1:94℃ 9分→Tann. 30秒→72℃ 1分 1サイクル
ステップ2:94℃ 30秒→Tann. 30秒→72℃ 1分 38サイクル
ステップ3:94℃ 30秒→Tann. 30秒→72℃ 5分 1サイクル
【0046】
(2)シークエンス2(逆側)
nested PCR産物 4μlをアガロースゲル (1.5%) で電気泳動し、増幅産物を確認した。クリアで十分な長さのある産物が1つだけ得られたものについて、前述の方法でシークエンスを行った。シークエンスの結果より、SSRとAP2 の間にIP3 を設計し、それぞれプライマーセットの右側とした。
上記の手法により12セットのプライマーセットを得た。
【実施例2】
【0047】
プライマーセットのスクリーニング
上記12セットのプライマーセットのうち、6セットのプライマーセット(表1を参照)は、PCRでの増幅効率および/または増幅断片長の多型性の高さ等の点で、他の6セットのプライマーセットより優れていた。
【実施例3】
【0048】
得られた上記6セットのプライマーセット(マーカー)を用いて、以下のような手順によりサクラのクローン識別を行った。
(1)全DNA の抽出
DNeasy plant mini kit(キアゲン社製)を用い、以下のようにして DNA を抽出した。
サクラの葉の50個体のサンプルを乳鉢と乳棒を使用して液体窒素中で粉末状にすり潰し、すり潰した粉末を2mlマイクロチューブに移した。これに400μl のBuffer AP1と4μl の100mg/ml RNase A を加え、激しくボルテックスした後、インキュベート(65℃、10 分、途中で2〜3 回転倒混和)した。さらに、130μl のBuffer AP2 を加え、混和し、インキュベート(氷上、5 分)した後、遠心(14,500rpm (20,000×g)、5 分、室温)し、上清をQIAsherdder Mini スピンカラムに移した。これをさらに遠心(14,500rpm (20,000×g)、2 分、室温)し、上清をカラムに通し、通過したろ液画分を新しい2ml マイクロチューブに移した。これに1.5 倍容量のBuffer AP3/E を加え、ピペットで混和し、混和液650μl をDNeasy Mini スピンカラムに移し、遠心(8,000rpm (6,000×g)、1 分、室温)し、ろ液を捨て、DNeasy Mini スピンカラムを新しい2ml マイクロチューブに移し、500μl のBuffer AW を加えた。これをさらに遠心(8,000rpm (6,000×g)、1 分、室温)し、ろ液を捨て、DNeasy Mini スピンカラムに500μl のBuffer AW を加えた後、さらに遠心(14,500rpm (20,000×g)、2 分、室温)し、フィルタを乾燥させた。DNeasy Mini スピンカラムを新しい1.5ml のマイクロチューブに移し、100μl のBuffer AE を加え、インキュベート(室温、5 分)し、遠心(8,000rpm (6,000×g)、1 分、室温)した。得られたペレットを以後の操作に供した。
【0049】
(2)クローンの識別
上記抽出した DNA を用い、実施例2に記載の方法で PCR を行った。プライマーセットSK1-1、SK3-1、SK4-1、SK7-1、SK8-1およびSK9-2を用いたPCR 産物を実施例2と同様に、ABI PRISM 3130 Genetic Analyzer (アプライドバイオシステムズ(株)製) を用いて増幅断片長を求めた。その結果、50サンプルのすべてについて、上記6セットのプライマーセットのうち任意の2セットによってクローン識別が可能であった(表2)。とくに、SK3-1、SK7-1およびSK9-2における増幅断片長の多型性が高く、これら3セットのプライマーセットのうち少なくとも1セットを用いると識別の効率が一層高かった。
また、表2に示される各サンプルについてのクローンおよび栽培品種と対応する各増幅断片長とのデータにより、当該50種のクローンについてのデータベースが構築された。
【0050】
【表2】
【0051】
同データベースを用いることによって、同一種についてのクローン識別による栽培品種および栽培ラインの同定も可能であった。例えば、サンプルNo.12、13、15、19、20、23、24、25、26、27、28、29、30、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43および44の合計26サンプルは、種はいずれもエドヒガンであったところ、これらのクローンならびに栽培品種および栽培ラインをいずれか2セットのプライマーセットによって識別することができた。なお、本明細書において、「栽培ライン」とは、同じ由来を有する増殖個体群を意味する。
上記のとおり、本発明によれば、サクラのクローン識別を高精度かつ高い効率で、行うことができる。
【実施例4】
【0052】
実施例3と同様にして、さらに130サンプルについてクローンの特定を行い、合計180サンプルについてのデータベースを構築した(図3)。同データベースを用いることによってさらに多くのサンプルのクローンの特定が可能となった。
なお、図3においてはクローン名および栽培品種名は記号で示したが、それぞれの記号に対応するクローン名および栽培品種名は明らかになっている。
【実施例5】
【0053】
実施例4において構築したデータベースを用いて、クローンが不明なサンプルについてクローンの同定を行った。すなわち、同サンプルについて本発明の6セットのプライマーセットに対する増幅断片長を上記の方法と同様にして求め、上記データベースによって前記増幅断片長と一致する増幅断片長を有するクローンを探索した。その結果、同サンプルの増幅断片長は、いずれのプライマーセットについても図3のes(クローン:江戸、栽培品種:‘江戸’)の増幅断片長に一致した。したがって、当該サンプルのクローンは江戸であり、栽培品種も‘江戸’であると同定された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明により提供される、マイクロサテライト領域を増幅するためのプライマーセットを複数使用してPCR 法によって、サクラ属に属する植物のゲノム DNA を増幅し、増幅されるマイクロサテライト DNA のサイズを調べることで、サクラのクローン識別および種の栽培品種の同定を精度高く、かつ高い効率で行うことができる。葉等の新鮮な組織に限定されず、伐採後、長時間経過した丸太や、合板等の加工品ですらクローン識別することができる。また、成長や材質などの形質パラメーターと遺伝的な特性とを比較検討することにより、集団における遺伝的特性と形質との関連についての知見を得ることが期待される。育種の効率化が期待される。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図3-4】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]