(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5892485
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】降水降下物などの自動蒸発濃縮器
(51)【国際特許分類】
G01N 1/10 20060101AFI20160310BHJP
B01D 3/10 20060101ALI20160310BHJP
G01T 1/167 20060101ALI20160310BHJP
【FI】
G01N1/10 E
B01D3/10
G01T1/167 J
G01T1/167 K
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-282885(P2011-282885)
(22)【出願日】2011年12月26日
(65)【公開番号】特開2013-134077(P2013-134077A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2014年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100096541
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 孝義
(74)【代理人】
【識別番号】100133318
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 向日子
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 正明
【審査官】
渡邉 勇
(56)【参考文献】
【文献】
実公昭62−032561(JP,Y2)
【文献】
実開平05−007301(JP,U)
【文献】
特公昭63−053844(JP,B2)
【文献】
実公昭38−024193(JP,Y1)
【文献】
特開昭62−213802(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第00236813(EP,A2)
【文献】
斉藤正明,加藤徳雄,降水降下物放射能測定のための自動蒸発濃縮器の開発,RADIOISOTOPES,日本,公益社団法人 日本アイソトープ協会,2006年 4月,第55巻第4号,pp.191-196
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/10 − 1/44
B01D 3/10
G01T 1/167
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
降水降下物を含む試料水を溜めた試料水タンクと、
試料水タンクから供給される試料水を減圧蒸留するための試料水容器と、
試料水容器を加温する加温水槽と、
試料水タンクと試料水容器を接続する試料水送水バルブを有する試料水送水配管と、
試料水容器の頂部に接続した水流により内部の閉鎖空間を減圧状態にするアスピレータ内蔵管と、
試料水タンク内の底部に配置され、試料水タンク内の試料水の有無を検知する第1水検知センサと、
第1水検知センサと電源との間に設けた全電流リレーと、
全電流リレーを開閉制御する第1電気回路と、
試料水容器内の所定位置に配置され、試料水容器内に所定量の試料水があるかないかを検知する第2水検知センサと、
第2水検知センサと電源との間に設けた試料水送水バルブを開閉制御する第2電気回路を備え、
前記アスピレータ内蔵管は、アスピレータであり且つ冷却水が流れる水流管を内蔵し、水流管の下端部からの水流と試料水容器から留出して冷却により水流管外壁に凝縮した凝縮水を全て受け取り、アスピレータ内蔵管の底部壁面を貫通して減圧系から常圧系への外部に排出する水流排出管と、アスピレータ内蔵管の頂部壁面を貫通してアスピレータ内蔵管の外部と内部に開口端部を有し、かつアスピレータ内蔵管の外部に気密開放バルブを取り付けた気密開放管を備え、
前記第1電気回路と第2電気回路に接続し、気密開放バルブを開閉制御する第3電気回路を備え、
前記第1水検知センサが、試料水タンク内に試料水がないことを検知した場合、前記全電流リレーがオフとなることで、蒸発濃縮器全体が自動停止するとともに、前記気密開放バルブが開放され、アスピレータ内蔵管内部の減圧状態が解除され、
前記第2水検知センサが、試料水容器内に所定量の試料水がないことを検知した場合、前記試料水送水バルブが開放されるとともに、前記試料水タンクから前記試料水容器へ試料水が供給される構成としたことを特徴とする降水降下物の蒸発濃縮器。
【請求項2】
アスピレータ内蔵管の水流管に冷却水を供給する冷却水送水バルブを有する冷却水供給配管を設け、
前記第3電気回路は、前記冷却水送水バルブを開閉制御する構成を備え、
前記全電流リレーがオンになると前記気密開放バルブが閉鎖されると共に冷却水送水バルブが開放されて、アスピレータ内蔵管内部が減圧状態になり、
前記第1水検知センサが、試料水タンク内に試料水がないことを検知して、前記全電流リレーがオフになると、前記気密開放バルブが開放されると共に冷却水送水バルブが閉鎖される構成としたことを特徴とする請求項1記載の降水降下物の蒸発濃縮器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、降水降下物などの放射能測定のための自動蒸発濃縮器に関する。
【背景技術】
【0002】
東京電力(株)の原子力発電所の事故により放射能が大気中に放出され、降水降下物の放射能による地上の農作物、運動場などで汚染が検出され、社会の降水降下物の放射能への関心が一気に高まった。降水降下物の放射能測
定はこれまでも文部科学省標準測定マニュアルに基づき全国原子力センターや各地方の衛生研究所で実施されてきた。
【0003】
前記マニュアルによる降水降下物の放射能測定法には、まず総量数十から百リットルの1ヶ月分の貯留降水降下物(以下試料水ということがある)を100ミリリットルの計測容器に収まるように水分を蒸発させて濃縮することが記載されている。
【0004】
しかし、この水分の蒸発濃縮操作は、赤熱ニクロム線ヒータなどの電熱器を使用するために火災予防上、監視が必要であり、職員の勤務時間内の昼間運転に限定されていた。このため降水降下物の蒸発濃縮操作に、例えば4基の電熱器を使用しても、通常2週間程度を要する作業であった。
【0005】
また、大型ビーカなどを用いた蒸発操作で試料水を前記ビーカに手動で補給する必要があり、空焚きによるビーカの破損等のトラブルも生じやすく、また操作が煩雑なことが問題であるだけなく、多量の水分を加熱蒸発させるので、ドラフトチェンバーで作業を行うことで湿気を屋外に排出する必要があった。
【0006】
従来技術では、比較的少量であると考えられる濃縮用の試料液を自動的に濃縮する自動濃縮器として、試料液を収納した既製品のロータリーエバポレータをセットした加熱水槽を用いて、減圧下に溶媒を留出させ、加熱水槽の重量の減少量に基づき試料液を連続供給し濃縮を自動的に行う器が、特開2000−189706号公報、特開平5−273196号公報に開示されている。
【0007】
また本発明者は本発明の先駆的な降水物放射能測定用の自動蒸発濃縮器の開発を行った(非特許文献1及び非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−189706号公報
【特許文献2】特開平5−273196号公報
【非特許文献1】斎藤正明 加藤徳雄 「降水降下物放射能測定のための自動蒸発濃縮器の開発」 Radioisotopes、第55巻 4号、pp.189〜194(2006)
【非特許文献2】斎藤正明 東京都立産業技術研究センター研究報告 「降水物放射能測定用のための自動蒸発濃縮器の開発」 第1号 第62〜65頁 2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記文部科学省標準測定マニュアルに基づく降水降下物の放射能測定法は、大量の試料水を濃縮するために長時間に亘る単調な手動操作が必要であった。
【0010】
上記特許文献1、2記載の自動試料液濃縮器は試料液の濃縮器の重量計測に基づく方法であり、減圧状態を達成するために外部に既製品のアスピレータを別途必要とし、複雑なシステムでありながら凝縮水を外部に直接排出する無限連続システムでなく、大量の降水降下物の蒸発濃縮には不向きであった。
【0011】
また、非特許文献1、2記載の自動蒸発濃縮器では、ロータリーエバポレータに降水降下物集積タンクからチューブポンプを用いて試料水を供給する構成で気密性を完全にするのが容易でなく、また完全に自動化したシステムではなく、さらに市販の外部アスピレータを利用した構成であるので、全体のサイズも大きく、構造も既成概念を超えるものでなかった。
【0012】
本発明の課題は、上記本発明者の自動蒸発濃縮器をさらに改良して、簡素な構造によって、安全で大量の降水降下物の蒸発濃縮が行える降水降下物放射能測定などの試料水の自動蒸発濃縮器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の課題を解決するために次の構成を有する。
請求項1記載の発明は、降水降下物を含む試料水を溜めた試料水タンク(1)と、試料水タンク(1)から供給される試料水を減圧蒸留するための試料水容器(10)と、試料水容器(10)を加温する加温水槽(11)と、試料水タンク(1)と試料水容器(10)を接続する試料水送水バルブ(14)を有する試料水送水配管(9)と、試料水容器(10)の頂部に接続した水流により内部の閉鎖空間を減圧状態にするアスピレータ内蔵管(15)と、試料水タンク(1)内の底部に配置され、試料水タンク(1)内の試料水の有無を検知する第1水検知センサ(S1)と、第1水検知センサ(S1)と電源との間に設けた全電流リレー(7)と、全電流リレー(7)を開閉制御する第1電気回路(A)と、試料水容器(10)内の所定位置に配置され、該試料水容器(10)内に所定量の試料水があるかないかを検知する第2水検知センサ(S2)と、第2水検知センサ(S2)と電源との間に設けた試料水送水バルブ(14)を開閉制御する第2電
気回路(B)を備え
、前記アスピレータ内蔵管(15)は、アスピレータであり且つ冷却水が流れる水流管(15c)を内蔵し、水流管(15c)の下端部からの水流と試料水容器(10)から留出して冷却により水流管(15c)外壁に凝縮した凝縮水を全て受け取り、アスピレータ内蔵管(15)の底部壁面を貫通して減圧系から常圧系への外部に排出する水流排出管(15d)と、アスピレータ内蔵管(15)の頂部壁面を貫通してアスピレータ内蔵管(15)の外部と内部に開口端部を有し、かつアスピレータ内蔵管(15)の外部に気密開放バルブ(20)を取り付けた気密開放管(19)を備え、前記第1電気回路(A)と第2電気回路(B)に接続し、気密開放バルブ(20)を開閉制御する第3電気回路(C)を備え、前記第1水検知センサ(S1)が、試料水タンク(1)内に試料水がないことを検知した場合、前記全電流リレー(7)がオフとなることで、蒸発濃縮器全体が自動停止するとともに、前記気密開放バルブ(20)が開放され、アスピレータ内蔵管(15)内部の減圧状態が解除され、前記第2水検知センサ(S2)が、試料水容器(10)内に所定量の試料水がないことを検知した場合、前記試料水送水バルブ(14)が開放されるとともに、前記試料水タンク(1)から前記試料水容器(10)へ試料水が供給される構成としたことを特徴とする降水降下物の蒸発濃縮器である。
【0014】
請求項2記載の発明は、
アスピレータ内蔵管(15)の水流管(15c)に冷却水を供給する冷却水送水バルブ(26)を有する冷却水供給配管(25)を設け、 前記第3電気回路(C)は、前記冷却水送水バルブ(26)を開閉制御する構成を備え、 前記全電流リレー(7)がオンになると前記気密開放バルブ(20)が閉鎖されると共に冷却水送水バルブ(26)が開放されて、アスピレータ内蔵管(15)内部が減圧状態になり、前記第1水検知センサ(S1)が、試料水タンク(1)内に試料水がないことを検知して、前記全電流リレー(7)がオフになると、前記気密開放バルブ(20)が開放されると共に冷却水送水バルブ(26)が閉鎖される構成としたことを特徴とする請求項1記載の降水降下物の蒸発濃縮器である。
【0015】
請求項1記載の発明によれば、試料水容器(10)内の試料水がないか、又は試料水が減少して第2水検知センサ(S2)だけがオフになる場合には試料水送水バルブ(14)が開き、アスピレータ内蔵管(15)内と試料水容器(10)内が減圧状態であることから試料水タンク(1)内の試料水が試料水送水配管(9)から試料水タンク(1)内に自動的に吸引される。
【0016】
また、第2水検知センサ(S2)がオンになる量だけ試料水容器(10)内に試料水があると、試料水送水バルブ(14)が閉じ、さらに再び試料水容器(10)内の試料水が減少して第2水検知センサ(S2)がオフになると、試料水送水バルブ(14)が開き、減圧下の試料水容器(10)内に試料水タンク(1)から試料水が供給される。
【0017】
さらに、試料水タンク(1)内の試料水が減少して第1水検知センサ(S1)がオフになる場合には全電源リレー(7)がオフとなり、蒸発濃縮器全体が自動停止する。
【0018】
また、何らかの原因で全電源又は全電源リレー(7)がオフとなると蒸発濃縮器全体が自動停止することで気密開放バルブ(20)が開放され、アスピレータ内蔵管(15)内の減圧状態が解除され、蒸発処理は試料水が試料水タンク(1)内又は試料水容器(10)内に保全されたまま安全に停止される。
【0019】
また、本発明のアスピレータ内蔵管(15)は該アスピレータ内蔵管(15)と試料水容器(10)内を減圧状態とするために用いるアスピレータとして用いる水流管の水流
により、そのまま減圧蒸気を冷却凝縮させ、水流と共に常圧の外部に排出することに大きな特徴がある。
【0020】
そして、アスピレータ内蔵管(15)の底部壁面を貫通して外部に水流を排出する既製品のアスピレータ部品を用いることで、アスピレータ内蔵管(15)内だけでなく試料水容器(10)内が減圧となり、試料水容器(10)内の試料水を容易に減圧蒸留することができ、しかも試料水容器(10)内の試料水から留出した蒸気の少なくとも一部はアスピレータ内蔵管(15)内の上部にある水流管(15c)の外壁面で凝縮し、得られた凝縮水及び凝縮しなかった蒸気は水流排出管(15d)内を通り、アスピレータ内蔵管(15)から容易に外部に排出できるので、試料水容器(10)内の試料水の蒸発濃縮が処理量無制限で簡単に行える。
【発明の効果】
【0021】
請求項1記載の発明によれば、アスピレータ内蔵管(15)による減圧作用で、100℃以下の低温で水の高速蒸発が可能となる。
【0022】
試料水容器(10)内の試料水が蒸留により減少すると、試料水タンク(1)内の試料水が、試料水送水配管(9)を経由して試料水容器(10)内に自動的に供給されるので、連続的に試料水の蒸発濃縮が行える。
【0023】
全処理終了時に、試料水タンク(1)内の試料水が減少して第1水検知センサ(S1)がオフになる場合には全電源リレー(7)がオフとなり、蒸発濃縮器全体が自動停止し、また、何らかの原因で全電源又は全電源リレー(7)がオフとなると蒸発濃縮器全体が自動停止するので、多量の試料水の昼夜無人連続運転が可能であり、大幅に労力を省くことができる。その後、得られた濃縮水の放射能などを容易に測定することができる。
【0024】
請求項2記載の発明によっても、大量の試料水でも、長時間に亘って連続的に安全に、かつ自動的に作動及び停止が行える。また、本発明は降水降下物に限らず、その他の多量な水溶液中に含まれていた濃縮物成分の分析が容易に行える。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施例の自動蒸発濃縮器のアスピレータ内蔵管部分を除く全体構成である。
【
図2】
図1の自動蒸発濃縮器の一実施例のアスピレータ内蔵管と試料水フラスコの詳細構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
この発明の一実施例を図面に基づき説明する。
本実施例で示す電磁バルブの常開型、常閉型はオンオフの逆転駆動が他の電子回路により容易に達成可能であり、本実施例は常閉型を例にしたものの、動作が同様な結果となれば常閉型に限定されるものではない。また、水検知センサとして、水の導電率を検出した例を示したが、水面を検知する方式は光学的なもの、誘電的なもの、磁気的なもの、フロート接点など多様であり、同様に動作すれば、その方式は限定されない。さらに、電磁バルブ、磁気リレーの駆動回路においてもセンサ信号を駆動動作に変換することで同様な結果となれば済むので、本実施例で示したFETのみならず、トランジスタ、ICなど限定されない。換言すれば本発明は水の検知、駆動回路及びアスピレータ部品について新規性を提示するものでなく、これら既存の部品を用いたシステム及びアスピレータを内蔵させた新規な蒸発器を示すものである。
【0027】
なお、アスピレータによる減圧、吸引動作は、従来より広く使用され、原理や仕組みは既知であり、詳述しない。
【0028】
図1に本実施例の降水降下物放射能測定のための自動蒸発濃縮器のアスピレータ内蔵管部分を除く全体構成を示す。
【0029】
露天に配置された降水降下物の図示しない受け容器に溜めた1ヶ月分の降水降下物などを試料水タンク1に移し取る。なお、試料水タンク1が一つで足りない場合は複数の試料水タンク1をサイホンで繋ぐなどして試料水が増えても対応可能である。
【0030】
試料水タンク1の底部には水の導電性に基づく一対の電極端子からなる第1水検知センサS1を配置する。該第1水検知センサS1は直流電気回路Aのブリッジ回路2と電磁リレーのソレノイドコイル部3を経由して100Vの交流電流が流れる一対の電線a、bの全電源リレー7に接続している。
【0031】
また試料水タンク1内の降水降下物は試料水送水配管9を経由して試料水フラスコ10に供給される。試料水フラスコ10はウォーターバス11内に浸漬されており、ウォーターバス11内の水は水中に浸漬したヒータ13で、一例として約60℃に定温加熱されている。試料水フラスコ10には図示しない回転器により全体が回転する、いわゆるロータリー式のエバポレータが蒸発器として適しており、ウォーターバス11内に浸漬している。
また減圧蒸留用の試料水フラスコ10は試料水の容量、作業性などに応じて、その大きさ、構成材料は適宜のものを使用可能であり、例えば金属製など試料水容器を用いることもできる。
【0032】
試料水送水配管9には常
開型(「常
閉型」はソレノイドコイルに電流が流れ
てオンになると「開く」バルブNCノーマリークロズ型で、「常
開型」はソレノイドコイルがオンになると「閉じる」バルブNOノーマリーオープンと考えて良い。)電磁式試料水送水バルブ14が取り付けられており、該試料水送水バルブ14より試料水フラスコ10側の前記送水配管9はアスピレータ内蔵管15内を貫通して試料水フラスコ10に達する。アスピレータ内蔵管15による減圧作用により試料水フラスコ10内を減圧にすることができ、試料水送水バルブ14が開いていると試料水タンク1内の試料水が減圧下の試料水フラスコ10に向けて吸引され、ウォーターバス11内で加温された試料水フラスコ10の試料水がアスピレータ内蔵管15による減圧作用及び加熱によって蒸発して濃縮する構成になっている。
【0033】
また、試料水フラスコ10内の所定位置には溶解成分を含む環境水の導電性を利用した一対の電極からなる第2水検知センサS2が配置されおり、該第2水検知センサS2はブリッジ回路17を経由して試料水送水バルブ14の開閉用ソレノイドコイル部18を形成している。このブリッジ回路17とソレノイドコイル部18を備えた電気回路を電気回路Bと呼ぶことにする。
【0034】
また
図1の左上には、電線5、6間に100ボルトの交流電流が流れる交流電気回路Cを示し、電線5、6間にはウォーターバス11で用いられるヒータ13と水流管15c(
図2)内に供給する冷却水を水流とするためのアスピレータポンプ22と気密開放管19に設けた常開型気密開放バルブ20を開閉作動させるソレノイドコイル部23と前記水流管15c(
図2)へ供給する冷却水供給配管25に設けた常閉型冷却水送水バルブ26を開閉作動させるソレノイドコイル部27が配置されている。なお
図1の交流電気回路Cと電気回路A,Bは図示の通り、(a)、(a)同士、(b)、(b)同士、(c)、(c)同士、及び(d)、(d)同士がそれぞれ接続することを示す。
【0035】
図2にアスピレータ内蔵管15と試料水フラスコ10の詳細構成図を示す。
試料水タンク1内から伸びた試料水送水配管9がアスピレータ内蔵管15内部を貫通して試料水フラスコ10内に達しており、アスピレータ内蔵管15の頂部壁面を貫通して内部で鉛直方向に伸びた水流管15cとアスピレータ内蔵管15の底面下端部から外部に排出する水流排出管15dが設けられている。水流管15cには冷却水供給配管25から水流が供給される。
【0036】
アスピレータ内蔵管15の頂部壁面を貫通してアスピレータ内蔵管15の外部と内部に開口端部を有し、かつアスピレータ内蔵管15の外部に常開型気密開放バ
ルブ20を取り付けた気密開放管19を備えているアスピレータ内蔵管15の水流管15cに高速の水流が流れ込むことで、アスピレータ内蔵管15と試料水フラスコ10の内部空間は減圧状態となる。
【0037】
一方、試料水フラスコ10から留出した減圧状態の試料水蒸気の一部は、水流で冷却されている水流管15cの外壁面上に凝縮する。このように水流管15cは減圧蒸留時のコンデンサの機能も奏することになる。
【0038】
本実施例では、アスピレータ内蔵管15内の水流管15cと水流
排出管15dの組合せにより、高速水流によるコンデンサ機能と減圧機能が同時に得られることが大きな特徴である。しかも
図2に示す構成の場合は水流管15c内の高速水流がそのまま水流排出管15dを経由してアスピレータ内蔵管15から減圧系外に排出される。
【0039】
上記構成からなる本実施例の自動蒸発濃縮器の作動を開始する際には、まず、試料水タンク1内に予め試料水が貯留されておき、電
気回路Aの第1水検知センサS1が作動し得る状態としておき、オペレータが手動で全電源リレー7の作動用電磁スイッチ(図示せず)を入れる。全電源がオンになることで全電源リレー7のオン状態が維持される。作動開始時は試料水フラスコ10内には試料水がなく、第2水検知センサS2は導通しないため、試料水送水配管9の常
開型試料水送水バルブ14は開いている。
【0040】
全電源リレー7により電源が投入されると、ウォーターバス11用のヒータ13が加熱され、アスピレータポンプ22も作動して水流管15c内に冷却水供給配管25から高速水流を流し込むので、アスピレータ内蔵管15と試料水フラスコ10内が減圧状態となる。常開型気密開放バルブ20もソレノイドコイル23が作動するので閉じる。
【0041】
そして試料水タンク1内の試料水が減圧下の試料水送水配管9とアスピレータ内蔵管15を経由して試料水フラスコ10に供給される。第1水検知センサS1が作動しなくなるまで、試料水フラスコ10に試料水タンク1から試料水が吸引される。
【0042】
試料水フラスコ10内に流入する試料水が第2水検知センサS2の一対の電極端子まで溜まると、第2水検知センサS2の一対の電極間が導通して電気回路Bのソレノイドコイル18が作動して常
開型試料水送水バルブ14が閉じるので、試料水タンク1から試料水フラスコ10への給水は停止し、フラスコ内は常に一定の水位に保たれる。
【0043】
試料水フラスコ10内の試料水が蒸発すると試料水送水配管9からアスピレータ内蔵管15内に流入して、水流管15cの外壁面で一部が凝縮して、水流管15
cから水流排出管15dの内部に蒸気と共に入り込み、該水流排出管15d内を流れる水流と共にアスピレータ内蔵管15の外部に排出する。
【0044】
次に、試料水フラスコ10内の試料水の蒸発により、所定量が留出して第2水検知センサS2の設置された位置以下にまで水位が低下すると、第2水検知センサS2がオフとなり、試料水送水バルブ14が開く。このとき試料水フラスコ10内は減圧状態であるので試料水タンク1からの試料水が試料水送水配管9を経由して再び試料水フラスコ10内に供給される。試料水フラスコ10内で規定量の試料水が再び貯まると、第2水検知センサS2が再作動して試料水送水バルブ14が閉じて試料水タンク1から試料水フラスコ10への試料水の供給が自動的に停止する。この操作が試料水タンク1の試料水が無くなるまで自動的に繰り返される。
【0045】
また、試料水タンク1内に試料水がある間は試料水タンク1内の第1水検知センサS1が作動しているので電
気回路Cが作動している限り、ウォーターバスヒータ13と水流形成用のアスピレータポンプ22が作動し、ソレノイドコイル部23、27が作動し、常開型気密開放バルブ20が閉じ、常閉型冷却水送水バルブ26が開き、アスピレータ内蔵管15内の水流管15cに前記冷却水供給配管25から高速水流が供給される。
【0046】
試料水タンク1内の試料水が全て試料水フラスコ10に送り出されて正常に試料水の蒸発濃縮が終了する場合に、電
気回路Aのソレノイドコイル部3に電流が流れないので全電源リレー7が切られる。
【0047】
全電源が切られ、電気回路Cの電流が遮断することで、ウォーターバス11のヒータ13とアスピレータポンプ22が非作動となり、常閉型冷却水送水バルブ26が閉じ、ソレノイドコイル部23がオフとなって水流が停止する。さらにソレノイドコイル部23がオフとなって常開
型気密開放バルブ20が開き、アスピレータ内蔵管15内が常圧に戻り、試料水フラスコ10内の減圧状態が解除される。このように全電源リレー7が切られると、自動蒸発濃縮器は手動操作の外に自動的に作動を再開することがない。
また、停電時など異常終了時にも全電源リレー7が切られる。
【0048】
このように本実施例の自動蒸発濃縮器は100リットルを超える大量の試料水でも、長時間に亘って連続的に安全に、かつ自動的に作動及び停止が行える。また、該濃縮器の規模を大きくすることで、その処理能力を常識的な範囲内でいくらでも高めることができる。
【0049】
特に試料水として放射能で汚染された雨水などを自動的に連続蒸発濃縮可能となるので、放射能測定を迅速に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、従来手間の掛っていたマニュアル操作による降水降下物の自動蒸発濃縮が可能となるので利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0051】
1 試料水タンク
2、17 ブリッジ回路
3、18、23、27 ソレノイドコイル部
5、6 電線
7 全電源リレー
9 試料水送水配管
10 試料水フラスコ
11 ウォーターバス
13 ヒータ
14 常
開型試料水送水バルブ
15 アスピレータ内蔵管
15c 水流管
15d 水流排出管
19 気密開放管
20 常開型気密開放バルブ
26 常閉型冷却水送水バルブ
22 アスピレータポンプ
25 冷却水供給配管
S1 第1水検知センサ
S2 第2水検知センサ
A、B、C 電気回路