【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、農林水産省「バイオマス・マテリアル製造技術の開発」委託事業産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
木質新素材ハンドブック,日本,技報堂出版株式会社,1996年 5月30日,第1版,第667頁-第677頁,ISBN 4-7655-0028-4 C 3043
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
親水性基を有するリグニン誘導体を得る工程、該リグニン誘導体から前駆体繊維を形成する工程、該前駆体繊維を酸処理により不融化する工程、該前駆体繊維を炭素化する工程を含む、炭素繊維の製造方法であって、
前記親水性基を有するリグニン誘導体が、リグノセルロースを、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリンから選択される少なくとも1つの溶媒により加溶媒分解することにより得られたものであるか、又は
リグニンと、グリコール系化合物及びグリシジルエーテル系化合物から選択される親水性化合物とを反応させることにより得られたものである、炭素繊維の製造方法。
前記親水性基を有するリグニン誘導体における親水性基が、アルコール性水酸基及びポリオキシアルキレン基から選択される基を少なくとも1つ含む、請求項1に記載の製造方法。
親水性基を有するリグニン誘導体を得る工程、該リグニン誘導体から前駆体繊維を形成する工程、該前駆体繊維を酸処理により不融化する工程、該不融化された前駆体繊維を炭素化して炭素繊維を形成する工程、該炭素繊維を賦活化する工程を含む、活性炭素繊維の製造方法であって、
前記親水性基を有するリグニン誘導体が、リグノセルロースを、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリンから選択される少なくとも1つの溶媒により加溶媒分解することにより得られたものであるか、又は
リグニンと、グリコール系化合物及びグリシジルエーテル系化合物から選択される親水性化合物とを反応させることにより得られたものである、活性炭素繊維の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0020】
実施形態1:炭素繊維の製造方法
本実施形態に係る炭素繊維の製造方法は、親水性基を有するリグニン誘導体を得る工程、該リグニン誘導体から前駆体繊維を形成する工程、該前駆体繊維を酸処理により不融化する工程、該前駆体繊維を炭素化する工程を含む、炭素繊維の製造方法である。
【0021】
1.親水性基を有するリグニン誘導体を得る工程
本実施形態において、親水性基を有するリグニン誘導体を使用することにより、溶融紡糸により前駆体繊維を形成することができる。また、後述の前駆体繊維の酸処理により、有効に不融化することができる。本実施形態において使用される親水性基を有するリグニン誘導体は、リグニンに親水性基を導入することにより製造することができる。
【0022】
本発明におけるリグニンとしては、各種のリグニンを用いることができ、具体的には高圧の飽和水蒸気で処理し、瞬時に圧力を開放することにより得られる蒸煮爆砕リグニン、水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムの混合水溶液を蒸解液として高温で木材チップを蒸解することにより得られるクラフトリグニン、木粉を亜硫酸水溶液にて高温で蒸解することにより得られるリグニンスルホン酸塩、木粉を有機酸あるいは有機溶剤で蒸解することにより得られるオルガノソルブリグニン、バイオマス変換技術で副産される、硫酸リグニン、アルカリリグニン等が挙げられるが、これらに限定されない。リグニンの起源についても限定されるものではなく、スギ、ヒノキ、マツ等の針葉樹リグニン、ブナ、ナラ等の広葉樹リグニン、稲わら、モミ、バガス等の草本系リグニンを使用することができる。なお、本発明におけるリグニンに関して、リグニン以外に少量であればセルロースやヘミセルロースなどリグニンを得る際に混入する可能性がある不純物の共存を排除するものではない。
【0023】
リグニンに親水性基を導入する方法としては、例えば、以下の2つの手法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
(1)加溶媒分解法
木材等のリグノセルロースを加溶媒分解することにより、リグニンに親水性基を導入することができる。ここで、「加溶媒分解」とは、物質を有機溶媒試薬中で分解する際の化学反応をいい、物質が分解されると同時に、使用した溶媒試薬と分解された物質とが化学的に結合しながら(すなわち、溶媒分子が分解物に加わる)進む化学反応である。加溶媒分解反応を通じて、リグノセルロース中のセルロースを始めとする糖成分はレブリン酸エステル等に変換されると同時に、リグノセルロースにおけるリグニン中に分解試薬に由来するアルコール性水酸基及び/又はポリオキシアルキレン基等の親水性基が多数導入されるため、親水性基を有するリグニン誘導体が生成される。このような加溶媒分解法は、例えば、特許第4025866号公報に記載されている。
【0025】
加溶媒分解に使用される有機溶媒試薬としては、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン等の高沸点の試薬を使用することができる。好ましくは、有機溶媒試薬と塩酸、硫酸等酸とを混合して用い、好ましくは、分解試薬の融点以上(例えば、約120〜180℃)で加熱し、リグノセルロースを加溶媒分解する。加溶媒分解処理で得られた加溶媒分解物を、例えば水に滴下するなどの操作により、水に不溶な親水性基を有するリグニン誘導体が沈殿物として得られる。加溶媒分解で得られる親水性基を有するリグニン誘導体における親水性基としては、有機溶媒試薬に由来するアルコール性水酸基、ポリオキシエチレン基等のポリオキシアルキレン基である。
【0026】
(2)親水性化合物導入法
上記の爆砕リグニン、クラフトリグニン、リグニンスルホン酸、オルガノソルブリグニン、硫酸リグニン、アルカリリグニン等の、バイオエタノール製造やパルプ製造工程などから副産されるリグニンと、グリコール系化合物、グリシジルエーテル系化合物等の親水性化合物とを反応させることにより、リグニン中の水酸基に親水性化合物中の反応基を反応させて、親水性基を有するリグニン誘導体を製造することができる。このような親水性化合物導入方法は、例えば、特開2011−184230に記載されている。
【0027】
リグニンと親水性化合物とを反応させる方法において、リグニンに対し反応させる親水性化合物の量は、限定されないが、通常、リグニン10質量部に対し親水性化合物1〜20質量部、好ましくは、リグニン10質量部に対しと親水性化合物5〜15質量部、より好ましくは、リグニン10質量部に対し親水性化合物8〜12質量部である。
【0028】
親水性化合物としてグリシジルエーテル系化合物を用いる場合、リグニンをアルカリ水溶液に溶解し、アルカリ性条件下で遊離したリグニン中の水酸基(リグニン−OH)をグリシジルエーテル系化合物中のグリシジル基と反応させることにより、リグニン誘導体を調製することができる。リグノセルロースをアルカリ蒸解した後に得られる黒液を、上記リグニンのアルカリ水溶液として用いることもできる。反応温度は、特に限定されないが、通常、50℃〜100℃、好ましくは70℃である。反応時間は、特に限定されないが、通常、30分〜24時間、好ましくは1時間〜12時間、より好ましくは、3時間〜6時間である。本反応においては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等を使用してアルカリ性条件にすることができる。本反応において、リグニンとグリシジルエーテル系化合物との反応終了後、反応系に酸を添加して中和する。添加する酸としては、悪影響を及ぼさない限り何れの酸でもよく、例えば、塩酸、リン酸、硫酸等の無機酸、及びギ酸、酢酸等の有機酸を使用することができる。
【0029】
グリシジルエーテル系化合物の例としては、例えば、以下が挙げられるが、これらに限定されない:
メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、プロピルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、ポリエチレングリコール−モノエチル−グリシジルエーテル、ポリエチレングリコール−モノメチル−グリシジルエーテル、ラウリルアルコール−ポリエチレンオキサイド−グリシジルエーテル等の単官能のグリシジルエーテル系化合物、
エチレングリコール−ジグリシジルエーテル、ポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテル(n’=1〜30、好ましくは9〜30)、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリ(プロピレングリコール)ジグリシジルエーテル(n’=1〜30、好ましくは9〜30)、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,3−プロパンジオールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,5−ペンタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、1,4−シクロヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,3−シクロヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、ペンタエリトリトールジグリシジルエーテル、ソルビトールジグリシジルエーテル等の二官能のグリシジルエーテル系化合物、
グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、3級カルボン酸グリシジルエステル、1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)エタントリグリシジルエーテル、1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)エタンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、フロログルシノールトリグリシジルエーテル、ピロガロールトリグリシジルエーテル、シアヌル酸トリグリシジルエーテル、ペンタエリトリトールテトラグリシジルエーテル、ソルビトールテトラグリシジルエーテル等の多官能のグリシジルエーテル系化合物、およびこれらのグリシジル基をメトキシド、エトキシドなどのアルコキシドと反応させて、グリシジルエーテル基の官能基量を低下させたグリシジルエーテル系化合物。
【0030】
例えば、リグニンを水酸化ナトリウム水溶液に溶解させ、得られたリグニンのアルカリ水溶液を常圧下で約70℃に温め、所定量のグリシジルエーテル系化合物を加え、約3時間攪拌しながら反応させ、反応終了後、反応系に酸を加えて中和することにより、リグニン誘導体が得られる。
【0031】
親水性化合物としてグリコール系化合物を用いる場合、リグニンとグリコール系化合物との混合物に、酸触媒を添加して反応させることにより、リグニン誘導体を調製することができる。酸触媒としては、塩酸、硫酸等を用いることができる。添加量は、通常、グリコール系化合物に対して0.1〜3.0重量%である。反応温度は、特に限定されないが、通常、100℃〜200℃、好ましくは120℃〜160℃、より好ましくは140℃である。反応時間は、特に限定されないが、通常、30分〜180分、好ましくは60分〜120分、より好ましくは、90分である。
【0032】
また、親水性化合物としてグリコール系化合物を用いる場合、リグニンとグリコール系化合物との混合物に、水酸化ナトリウム等のアルカリ化合物を加えて反応させることにより、リグニン誘導体を調製することができる。アルカリの添加量は、水酸化ナトリウムの場合、グリコール系化合物に対して1〜30重量%である。反応温度は、特に限定されないが、通常80〜150℃で、好ましくは120℃である。反応時間は、特に限定されないが、通常10分〜180分、好ましくは60分である。
【0033】
グリコール系化合物の例としては、例えば、以下が挙げられるが、これらに限定されない:
エチレングリコール、ジエチレングリコール、各種分子量のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、各種分子量のポリプロピレングリコール、グリセリン(グリセロール)、各種分子量のポリグリセリン(ポリグリセロール)。
【0034】
2.リグニン誘導体から前駆体繊維を形成する工程
上記のようにして得られたリグニン誘導体を紡糸することにより、リグニン誘導体から前駆体繊維を形成することができる。紡糸方法としては、製造コストの観点から、溶融紡糸法が好ましい。熱のみを必要とする溶融紡糸は、少ない設備投資や収率の高さから、最も低コストな紡糸方法とされている。本発明における親水性基を有するリグニン誘導体は、熱流動性を示すので、溶融紡糸により前駆体繊維を形成することができる。なお、ここでいう繊維とは、繊維径10μm〜150μm、繊維軸方向の長さ1mm以上の形態を指す。
【0035】
溶融紡糸する際の紡糸温度としては80℃〜250℃が好ましく、より好ましくは130℃〜200℃である。紡糸引き取り速度としては、10m/分以上であることが好ましい。
【0036】
なお、クラフトリグニンなどの工業リグニンの多くは一般的に、ガラス転位はするが、原料樹種および製造条件を限定しない限り熱溶融しないので、溶融紡糸をすることができない。本発明においては、これら工業リグニンも原料樹種を限定することなく親水性基を有するリグニン誘導体に変換して、溶融紡糸に使用することができるので好ましい。また、針葉樹から得られる針葉樹リグニンは、広葉樹リグニンよりも縮合構造(芳香核同士の結合)に富むため、特に熱溶融性を示すことに困難があった。本発明によれば、このような針葉樹リグニンも親水性基を有するリグニン誘導体に変換して、溶融紡糸に使用することができるので好ましい。
【0037】
3.前駆体繊維を酸処理により不融化する工程
紡糸された前駆体繊維は炭素化されて炭素繊維に変換されるが、炭素化の条件は不活性ガス雰囲気あるいは減圧下、約1000℃の高温で行われる。溶融紡糸で得られる繊維を直接炭素化すると、ガラス転位(Tg)以上の温度で再び溶融して繊維形態を失う。この現象を防ぐのが、不融化である。ピッチを含む一般的な前駆体繊維の不融化の方法としては、空気、酸素、オゾン、二酸化窒素、ハロゲンなどのガス気流処理、架橋触媒存在下アルデヒド類と反応させる溶液処理などがある。
【0038】
本実施形態においては、上記のようにして得られた前駆体繊維を、酸処理することにより、不融化することができる。これにより、後述の炭素化工程において、リグニン誘導体が溶融し繊維形態を失うことがない。
【0039】
酸処理は、前駆体繊維を酸水溶液に浸漬し、必要に応じて加熱することにより行うことができる。使用する酸は、特に限定するものではないが、塩酸や硫酸等の鉱酸や、パラトルエンスルホン酸やギ酸等の有機酸等を使用することができる。酸水溶液の濃度は、特に限定するものではないが、硫酸の場合、0.1〜10%程度の範囲内が好ましい。酸の濃度が高い場合、加熱は特に行う必要はないが、60〜90℃、好ましくは80℃程度で加熱を行うと短時間で不融化が達成できる。
【0040】
不融化が達成される機構としては、以下が推論される。本発明のおける親水性基を有するリグニン誘導体は、親水性基を有していることにより、熱溶融性を示すとともに、疎水性であるリグニン部分と、親水性の親水性基部分とをあわせもつ、いわゆる両親媒性繊維構造となっている。本実施形態における酸処理により、親水性基部分がリグニン部分から脱離され、一方で疎水性セグメントのリグニン部分自身が縮合することで、疎水性のリグニン繊維構造となり、不融化が達成されると推論される。
【0041】
4.前駆体繊維を炭素化する工程
上記のようにして得られた不融化前駆体繊維を、炭素化することにより、炭素繊維を製造することができる。炭素化は公知の方法を使用すればよく、使用される不活性ガスとしては窒素ガス等が挙げられ、温度は700℃〜1700℃、好ましくは800℃〜1000℃である。炭素化時間は、具体的には、炭素繊維収率などに応じて、実験的に決定すればよい
【0042】
上記のようにして得られた炭素繊維は、通常のリグニン炭素繊維に比べて多くの細孔を有し、例えば、300〜500m
2/gの比表面積を、好ましくは400m
2/gの比表面積を有する。この細孔の存在は、不融化の際に親水性基部分がリグニン部分から脱離することや、炭素化時に繊維内部に残っている熱分解性のポリオキシアルキル基の熱分解に起因すると考えられる。このように、本実施形態により、表面積の大きなリグニン炭素繊維を、効率良く製造することができる。
【0043】
なお、本明細書中で使用される比表面積とは、液体窒素温度での窒素ガス吸着等温線によるBET多点法により求められる比表面積(BET比表面積)を意味し、たとえば比表面積・細孔分布測定装置(ガス吸着装置)(日本ベル社製BELORP18)を用いて測定することができる。
【0044】
実施形態2:活性炭素繊維の製造方法
本実施形態に係る活性炭素繊維の製造方法は、親水性基を有するリグニン誘導体を得る工程、該リグニン誘導体から前駆体繊維を形成する工程、該前駆体繊維を酸処理により不融化する工程、該不融化された前駆体繊維を炭素化して炭素繊維を形成する工程、該炭素繊維を賦活化する工程を含む、活性炭素繊維の製造方法である。なお、本実施形態は、炭素繊維を賦活化する工程を除いては、基本的には上記の実施形態1と同様の構成及び作用効果を有するため、実施形態1と同様の内容については、適宜説明を省略する。
【0045】
5.炭素繊維を賦活化する工程
上記のようにして得られた炭素繊維を、賦活化することにより、活性炭素繊維を得ることができる。賦活する工程は、公知の方法で実施すればよく、炭素化により一旦炭素繊維を製造した後、この炭素繊維を賦活する方法でもよいし、炭素化する工程と賦活する工程とをまとめて1つの工程として行ってもよい。また、賦活方法には、薬品を使用した薬品賦活法やガスを使用したガス賦活法などがあるが、いかなる方法を採用してもよい。
【0046】
賦活方法としてガス賦活法を採用する場合には、炭素繊維を水蒸気、二酸化炭素などの賦活ガスと例えば750〜1100℃、数十分間〜数時間程度反応させて賦活(ガス賦活)すればよい。この際、賦活時間は、具体的には、活性炭素繊維収率や活性炭素繊維に求められる比表面積などに応じて、実験的に決定すればよい。一般に、賦活化の進行は収率を低下させるが、比表面積などは上昇させる。また、炭化と賦活とを同一の装置内で連続的に実施してもよいし、それぞれ独立に実施してもよい。
【0047】
賦活方法として薬品賦活法を採用する場合には、炭素繊維に塩化亜鉛、リン酸などの薬品や、過マンガン酸カリウムなどの酸化性を持つ薬品をあらかじめ含浸させ、不活性雰囲気下、400〜1000℃で数時間程度加熱すればよい。具体的な加熱時間は、活性炭素繊維に求められる比表面積、収率などに応じて、実験的に決定すればよい。
【0048】
本実施形態によれば、賦活法における賦活時間等を調整することにより、大きな比表面積を有する活性炭繊維を、高収率で得ることができる。例えば、水蒸気で賦活処理を行った場合、1500m
2/g以上の比表面積を有する活性炭繊維を収率60%以上で得ることができ、例えば、2000m
2/g以上の比表面積を有する活性炭繊維を収率40%以上で得ることができる。このように大きな比表面積を有する活性炭繊維を高収率で得ることができる理由としては、上記の方法で得られる賦活化前の炭素繊維の段階で既にある程度の細孔を付与されており、さらなる賦活処理で、細孔形成が促進されるためと考えられる。ポリアクリロニトリルやピッチ等の通常の石油系の活性炭素繊維の製造では、水蒸気賦活収率50%時の比表面積は1000m
2/g以下であり、2000m
2/gに賦活した時の収率は20%以下である点を考慮しても、大きな比表面積を有する活性炭繊維を高収率で得ることができる本発明の活性炭繊維の製造方法は、極めて有利である。
【0049】
また、本実施形態によれば、細孔を有する活性炭素繊維を得ることができる。本実施形態の製造方法により得られた活性炭素繊維は、細孔半径の小さい細孔の割合が大きく、例えば、Dollimore-Healの方法で計算されるほとんどの細孔の細孔半径は10nm以下であり、また細孔半径5nm以下の細孔容積は、全細孔容積の95%以上であり、細孔半径2nm以下の細孔容積は、全細孔容積の75%以上であるという、非常にシャープな細孔径分布を有する。活性炭素の吸着能力は、半径の小さい細孔、特に半径2nmのマイクロ孔の存在に依るところが大きい。したがって、このように半径の小さい細孔の割合が大きく、吸着能力の高い活性炭素繊維を選択的に得ることができる本発明の活性炭素繊維の製造方法は、極めて有利である。
【0050】
なお、BET法で計算された市販ヤシ殻活性炭の比表面積は900m
2/g、細孔容積は0.58cm
3/gであったのに対して、本発明のリグニン活性炭素繊維の比表面積は1500〜2800m
2/gであり、細孔容積は0.7〜1.3cm
3/gである。このような比表面積が1500〜2800m
2/gであり、細孔容積が0.7〜1.3cm
3/gである、リグニン由来の活性炭素繊維もまた、本発明の一実施形態である。このリグニン由来の活性炭素繊維において、細孔半径5nm以下の細孔容積は、全細孔容積の95%以上であり、細孔半径2nm以下の細孔容積は、全細孔容積の75%以上である。なお、本明細書中で使用される細孔容積とは、定容量式ガス吸着法(吸着ガス:窒素)により得られた吸脱着等温線から解析して求められる細孔容積を意味し、例えば比表面積・細孔分布測定装置(ガス吸着装置)(日本ベル社製BELORP18)を用いて測定することができる。なお、本明細書中で用いられる細孔半径5nm又は2nm以下のマイクロポア細孔容積の割合は、たとえば比表面積・細孔分布測定装置(ガス吸着装置)(日本ベル社製BELORP18)を用いて測定することができる。
【0051】
また、炭素繊維及び活性炭素繊維の製造コストには、高温での熱処理中に繊維の大きな重量現象を伴うため、前駆体の価格が大きく反映される。本発明の製造方法によれば、安価なリグニン原料から、高収率で炭素繊維及び活性炭素繊維を得ることができるので、コスト面で好適である。また、溶融紡糸をすることにより、より低コストで炭素繊維及び活性炭素繊維を製造することができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
実施例1:炭素繊維の製造1
平均分子量400のポリエチレングリコール(PEG)150gに0.75g(PEGに対して0.5%)の濃硫酸を加え、常温でよく攪拌させた。乾燥したスギ木粉30gをセパラブルフラスコに計り取り、つづいて調製したPEG液をすべて加えた。反応はフラスコを140℃に加熱したオイルバスに浸漬することにより開始した。フラスコ内の混合物は攪拌羽で攪拌しながら、常圧下で120分間反応させた。反応後、フラスコを冷水に浸漬し反応を終了した。反応物を96%ジオキサンで希釈し、ガラスフィルターで可溶部と不溶部に分画した。可溶部を、ナス型フラスコに移し、ロータリーエバポレーターでジオキサンと水分だけを取り除いた。残留した黒色の混合物に攪拌子を仕込み、再び140℃のオイルバスに浸漬した。この反応は攪拌しながら120分間行った。反応終了後、フラスコ内の混合物を、大過剰の蒸留水に滴下した。ガラスフィルターで水不溶部を採取し、真空乾燥させ、親水性基を有するリグニン誘導体を得た。収量は約10gであった。
【0054】
次に、得られた親水性基を有するリグニン誘導体を、ワイゼンベルク型混練押出し装置を用いた熱溶融紡糸に供した。紡糸温度は150℃で行い、前駆体繊維を得た。得られた前駆体繊維の写真を
図1に示す。フラスコ中に5%の硫酸水溶液を仕込み、調製した前駆体繊維を浸漬させた。フラスコにコンデンサーを取り付けて、ホットプレート上で80℃まで加熱し、2時間保持し、酸処理を行った。反応後、前駆体繊維を取り出して蒸留水で洗い、乾燥させた。得られた不融化前駆体繊維の写真を
図2に示す。
【0055】
上記の酸処理を行った前駆体繊維を炭化炉に静置して、窒素雰囲気下で1000℃まで加熱し、炭素化し、炭素繊維を得た。このリグニン炭素繊維を電子顕微鏡観測したところ、すでにいくつかの孔が観測された(
図3)、表面積400m
2/gを示した。
【0056】
実施例2:活性炭素繊維の製造1
活性炭素繊維製造のため、実施例1で得られたリグニン炭素繊維を水蒸気を用いて900℃で賦活処理を行った。得られた活性炭素繊維の写真を
図4及び5に示す。賦活の度合いに応じて、比表面積をコントロールすることができた。1700m
2/gの比表面積を有する活性炭素繊維の賦活収率は50%と高収率であった。性能の高いものでは、2600m
2/gもの比表面積を有する活性炭素繊維が製造され、その際の賦活収率は25%と高収率であった。BET法で計算された比表面積1700m
2/gを有する活性炭素繊維の全細孔容積は、0.71cm
3/gであり、細孔分析で得られた細孔半径5nm以下の細孔は、全細孔容積の99%、細孔半径2nm以下の細孔容積は、全細孔容積の93%であった。性能の高いものでは、BET法で計算された比表面積は2600m
2/gであり、全細孔容積は1.26cm
3/gであり、細孔分析で得られた細孔半径5nm以下の細孔は全細孔容積の97%、細孔半径2nm以下の細孔容積は、全細孔容積の80%であった。
【0057】
実施例3:炭素繊維の製造2
実施例1における親水性基を有するリグニン誘導体の調製を、木質バイオエタノール製造で副産したアルカリリグニンを原料としたリグニン誘導体の調製法で行った以外は、実施例1と同様の方法で、炭素繊維を製造した。アルカリリグニンは、スギチップをアルカリ蒸解して得られた蒸解黒液から取得した。10gのアルカリリグニンを100mLの1Nの水酸化ナトリウム水溶液に常温で攪拌しながら溶解した。
【0058】
グリシジル化合物としてエチレンオキサイドの繰り返し単位が9のポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製、デナコールEX−841)を用いた。上記の10gアルカリリグニン1N水酸化ナトリウム溶液に、グリシジル化合物を10g加えた。溶液を70℃に加熱し、3時間攪拌して反応させた。反応は、酢酸を加えてpHを4にすることで終了させた。溶液を分子量3000以下を排除する限外濾過膜を装着した限外濾過装置に移し、濾過を行った。濾過後、残渣を集めて真空乾燥し、約17gのリグニン誘導体を得た。
【0059】
次に、得られたリグニン誘導体を2軸エクストルーダーを用いた熱溶融紡糸に供した。溶融温度は130℃で行い、前駆体繊維を得た。続いて、フラスコ中に5%の硫酸水溶液を仕込み、調製した前駆体繊維を浸漬させた。フラスコにコンデンサーを取り付けて、ホットプレート上で80℃に加熱し、2時間保持し、酸処理を行った。反応後、前駆体繊維を取り出して蒸留水で洗い、乾燥させた。
【0060】
上記の酸処理を行った前駆体繊維を炭化炉に静置して、窒素雰囲気下で1000℃まで加熱して炭素化し、炭素繊維を得た。
【0061】
実施例4:活性炭素繊維の製造2
活性炭素繊維製造のため、実施例3で得られたリグニン炭素繊維を水蒸気を用いて900℃で賦活処理を行った。賦活の度合いに応じて、比表面積をコントロールすることができた。1700m
2/gの比表面積を有する活性炭素繊維の賦活収率は50%と高収率であった。性能の高いものでは、2600m
2/gもの比表面積を有する活性炭素繊維が製造され、その際の賦活収率は25%と高収率であった。
【0062】
実施例5:炭素繊維の製造3
実施例1における親水性基を有するリグニン誘導体の調製を、木質バイオエタノール製造で副産した蒸解黒液を乾燥させた粉末(黒液粉末)を原料とした調製法で行った以外は、実施例1と同様の方法で、炭素繊維を製造した。黒液粉末は、スギチップをアルカリ蒸解して得られた黒液を噴霧乾燥機で乾燥造粒した粉末を真空乾燥機で脱水して調製した。この黒液粉末は約半量のリグニンと約半量の固体の水酸化ナトリウムで構成される。10gの黒液粉末を50gの平均分子量400のポリエチレングリコールに加えて、攪拌羽を装着したフラスコで室温で1時間攪拌させた。反応はフラスコ内の混合物を攪拌させながらフラスコを120℃に加熱したオイルバスに浸漬することにより行った。常圧下で1時間反応させた後、フラスコを冷水に浸漬して反応を終了させた。常温に冷却された反応物は、蒸留水で洗い出し、さらに蒸留水を加え、ビーカー内で約3Lに調製した。ビーカー内の水溶液を攪拌しながら、酢酸で中和し、沈澱を生成せしめた。ガラスフィルターで沈澱を採取し、真空乾燥させ、親水基を有するリグニン誘導体を得た。収量は約5gであった。
【0063】
次に、得られたリグニン誘導体を2軸エクストルーダーを用いた熱溶融紡糸に供した。溶融温度は130℃で行い、前駆体繊維を得た。続いて、フラスコ中に5%の硫酸水溶液を仕込み、調製した前駆体繊維を浸漬させた。フラスコにコンデンサーを取り付けて、ホットプレート上で80℃に加熱し、2時間保持し、酸処理を行った。反応後、前駆体繊維を取り出して蒸留水で洗い、乾燥させた。
【0064】
上記の酸処理を行った前駆体繊維を炭化炉に静置して、窒素雰囲気下で1000℃まで加熱して炭素化し、炭素繊維を得た。
【0065】
実施例6:活性炭素繊維の製造3
活性炭素繊維製造のため、実施例5で得られたリグニン炭素繊維を水蒸気を用いて900℃で賦活処理を行った。賦活の度合いに応じて、比表面積をコントロールすることができた。
【0066】
なお、上記実施例により得られた炭素繊維及び活性炭素繊維の測定は、以下の方法に基づき行った。
【0067】
(1)BET比表面積(m
2/g)
試料を約100mg採取し、減圧下250℃で12時間真空乾燥して秤量し、比表面積・細孔分布測定装置(日本ベル社製BELSORP18)を使用して測定した。液体窒素の沸点(−195.8℃)における窒素ガスの吸着量を相対圧が1.0×10
−6〜0.95の範囲で測定し、試料の吸着等温線を作成した。相対圧1.0×10
−6〜0.15の範囲での結果をもとに、BET法により重量あたりのBET比表面積(単位:m
2/g)を求めた。
【0068】
(2)全細孔容積(cm
3/g)
試料を約100mg採取し、減圧下250℃で12時間真空乾燥して秤量し、比表面積・細孔分布測定装置(日本ベル社製BELSORP18)を使用して測定した。液体窒素の沸点(−195.8℃)における窒素ガスの吸着量を相対圧が1.0×10
−6〜0.95の範囲で測定し、試料の吸着等温線を作成した。相対圧0.95での結果より全細孔容積(単位:cm
3/g)を算出した。
【0069】
(3)細孔半径5nm又は2nm以下の細孔容積(B)(cm
3/g)
試料を約100mg採取し、減圧下250℃で12時間真空乾燥して秤量し、比表面積・細孔分布測定装置(日本ベル社製BELSORP18)を使用して測定した。液体窒素の沸点(−195.8℃)における窒素ガスの吸着量を相対圧が1.0×10
−6〜0.95の範囲で測定し、試料の吸着等温線を作成した。この結果をMP法によって解析範囲0〜5nm又は0〜2nm、t決定式Dollimore-Healの条件で解析し、吸着時の細孔径分布数表を得て、細孔半径5nm又は2nm以下の細孔容積B(単位:cm
3/g)を算出した。