(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5892488
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】新規乳酸菌
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20160310BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20160310BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20160310BHJP
A23B 7/10 20060101ALI20160310BHJP
C12R 1/225 20060101ALN20160310BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A61K35/74 G
A61P3/10
A23B7/10 A
C12N1/20 A
C12R1:225
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-20206(P2012-20206)
(22)【出願日】2012年2月1日
(65)【公開番号】特開2013-158248(P2013-158248A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2015年1月19日
【微生物の受託番号】NPMD NITE P-930
(73)【特許権者】
【識別番号】399061916
【氏名又は名称】東海漬物株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】永井 裕次郎
(72)【発明者】
【氏名】西林 依里子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 祥子
【審査官】
北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−237141(JP,A)
【文献】
特開2005−080556(JP,A)
【文献】
ミルクサイエンス,2005年,Vol.54, No.1,p.17-21
【文献】
Journal of Dairy Research,2008年,Vol.75,p.189-195
【文献】
British Journal of Nutrition,2010年,Vol.104,p.1831-1838
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/20−1/21
A61K 35/74−35/748
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Lactobacillus sp. TK63404株(受託番号:NITE P−930)。
【請求項2】
Lactobacillus sp. TK63404株(受託番号:NITE P−930)を培養した後の培養液。
【請求項3】
請求項2に記載の培養液を含むことを特徴とする膵島細胞保護剤。
【請求項4】
請求項2に記載の培養液を含むことを特徴とするインスリン抵抗性改善剤。
【請求項5】
Lactobacillus sp. TK63404株(受託番号:NITE P−930)を含む調味液に原料野菜をつける工程を含むことを特徴とする漬物の製造方法。
【請求項6】
Lactobacillus sp. TK63404株(受託番号:NITE P−930)を培養した後の培養液を含む調味液に原料野菜をつける工程を含むことを特徴とする漬物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規乳酸菌、当該乳酸菌由来の菌体外放出物質、当該菌体外放出物質を含む膵島細胞保護剤およびインスリン抵抗性改善剤、および、当該乳酸菌を用いる漬物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、日本では、栄養分の過剰摂取、運動不足、喫煙、飲酒、ストレスなどによる生活習慣病が問題となっている。生活習慣病としては、肥満症、痛風、高血圧症、糖尿病、高脂血症、心臓病、脳卒中、がんなどが挙げられる。この中でも糖尿病は、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害など様々な合併症を引き起こす一方で、患者数は確実に増えてきており、問題となっている。
【0003】
通常、食物などを摂取した後には血糖値が上昇するが、膵島細胞からインスリンが分泌され、その作用により血中の糖は細胞に取り込まれて血糖値は低下する。しかし、膵島細胞からインスリンが分泌されないと、血糖値は低下し難くなる。それにより様々な障害が起こるのがインスリン依存性糖尿病(I型糖尿病)である。その原因としては、自己免疫疾患やウィルス感染などが挙げられる。
【0004】
また、最近では、インスリンは分泌されていても、その量が十分でなかったり、或いはインスリンに対する感受性が低いために血糖値が低下しないインスリン非依存性糖尿病(II型糖尿病)が増えてきている。このうち後者は、生活習慣の乱れと密接に関係している。即ち、基礎代謝を上回る栄養が継続的に細胞に取り込まれて脂肪細胞が膨らむと、インスリンの働きを向上させる物質(アディポネクチン)が放出されなくなる一方で、インスリンの働きを悪くする遊離脂肪酸や炎症性サイトカインのTNF−αなどが分泌され、インスリン抵抗性が顕在化する。
【0005】
また、暴飲暴食などを続けると、インスリン分泌細胞である膵島細胞が炎症を起こし、インスリン放出量が低下することがある。また、場合によっては膵島細胞が死滅し、インスリンを放出できなくなる。よって、膵島細胞を保護することは、血糖値の抑制にとり非常に重要である。
【0006】
インスリン依存性糖尿病に対してはインスリンを注射する以外に治療手段は確立していないが、インスリン非依存性糖尿病に対しては様々な薬剤が研究開発されている。しかし、合成医薬品には副作用もあり、例えば、症状が顕在化しない段階からの恒常的な服用による予防目的には到底用いることはできない。そこで、食品にも適用できる微生物などから、より安全な薬剤が求められている。
【0007】
例えば特許文献1には、特定の乳酸菌の培養物や菌体を有効成分とする、糖尿病合併症の治療剤が開示されている。
【0008】
特許文献2には、特定の乳酸菌による麦の発酵産物を有効成分とする脂肪細胞分化促進剤が開示されている。
【0009】
特許文献3には、乳酸菌によるブドウの果皮や種子の発酵物がII型糖尿病に対して効果を示すことが記載されている。
【0010】
特許文献4には、乳酸菌の菌体を有効成分とする血糖降下剤が開示されている。
【0011】
特許文献5には、乳酸菌による米糠や玄米粉の発酵物を有効成分とする糖尿病治療剤が開示されている。
【0012】
特許文献6には、乳酸菌の培養上清に含まれる乳酸菌などが食後における血糖上昇の抑制作用を示すことが記載されている。
【0013】
また、特許文献7〜8には、セリン、グリシン、フラボノイド系化合物、タンニン酸を有効成分とする膵島細胞(β細胞)保護剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2003−252770号公報
【特許文献2】特開2008−179595号公報
【特許文献3】国際公開第2008/093670号パンフレット
【特許文献4】特開平10−7577号公報
【特許文献5】特開平9−40566号公報
【特許文献6】特開2003−116486号公報
【特許文献7】国際公開第2007/060924号パンフレット
【特許文献8】特開2008−7452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述したように、食品などへも用い得る乳酸菌やその培養物などから、糖尿病に関する薬剤や膵島細胞の保護剤が探索されている。しかし、実用化にはなかなか至らないことから、新しいものが常に求められている。
【0016】
そこで本発明は、膵島細胞の保護やインスリン抵抗性に対して効果を示す物質を産生することができる新規乳酸菌を提供することを目的とする。また、本発明は、当該乳酸菌由来の菌体外放出物質、当該菌体外放出物質を含む膵島細胞保護剤およびインスリン抵抗性改善剤、および、当該乳酸菌を用いる漬物の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、本発明者らが見出した新規の乳酸菌が、膵島細胞の保護やインスリン抵抗性に対して極めて優れた効果を示す物質をその培養液中に放出することを見出して、本発明を完成した。
【0018】
本発明に係る新規乳酸菌は、Lactobacillus sp. TK63404株(受託番号:NITE P−930)である。
【0019】
本発明に係る菌体外放出物質は、Lactobacillus sp. TK63404株(受託番号:NITE P−930)由来のものであることを特徴とする。当該菌体外放出物質は、主に、Lactobacillus sp. TK63404株(受託番号:NITE P−930)を培養した後の培養液に含まれる。
【0020】
上記菌体外放出物質は、インスリンを分泌する膵島細胞の保護作用とインスリン抵抗性の改善作用を示し、且つ乳酸菌由来のものであり安全であることから、膵島細胞保護剤およびインスリン抵抗性改善剤として利用することができる。
【0021】
また、本発明に係る漬物の製造方法は、Lactobacillus sp. TK63404株(受託番号:NITE P−930)を含む調味液に原料野菜をつける工程、または、Lactobacillus sp. TK63404株(受託番号:NITE P−930)由来の菌体外放出物質を含む調味液に原料野菜をつける工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る新規乳酸菌とその菌体外放出物質は、食品の製造にも用いることができる安全なものであり、また、優れた膵島細胞保護作用とインスリン抵抗性改善作用を示す。よって、これらを用いた食品などを恒常的に摂取することにより、糖尿病を抑制または治療できるのみならず、予防することも可能になる。このように本発明は、近年問題となっている糖尿病の有効な改善手段や予防手段として、産業上非常に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明に係る菌体外放出物質が血中インスリン濃度に与える作用効果の実験結果を示すグラフである。
【
図2】
図2は、本発明に係る菌体外放出物質が血糖値に与える作用効果の実験結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、本発明に係る菌体外放出物質が血中インスリン濃度に与える作用効果の実験結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、本発明に係る菌体外放出物質が血糖値に与える作用効果の実験結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、無処置ラット、コントロールラット、および本発明に係る菌体外放出物質を投与したラットの膵島細胞の活性を示す蛍光写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係る新規乳酸菌であるLactobacillus sp. TK63404株は、下記の通り寄託機関に寄託されている。
(i) 寄託機関の名称およびあて名
名称: 独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター
あて名: 日本国 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8
(ii) 寄託日: 2010年4月9日
(iii) 受託番号: NITE P−930
【0025】
本発明に係る新規乳酸菌の形態的特徴や生化学的性状などは、以下のとおりである。
【0027】
後記の実施例の結果のとおり、本発明に係る新規乳酸菌は、16S rDNAの塩基配列情報から、分類上、Lactobacillus parabrevisに最も近縁であるといえる。しかし、DNA−DNAハイブリッド形成試験の結果によれば、本発明に係る新規乳酸菌の属種はLactobacillus parabrevisと異なるものであると結論付けられる。即ち、本発明に係る乳酸菌の種は、既知の何れの属種にも分類されない新規なものである。
【0028】
本発明に係る菌体外放出物質は、Lactobacillus sp. TK63404株(受託番号:NITE P−930)由来のものであることを特徴とする。本発明に係る新規乳酸菌は、膵島細胞の保護作用やインスリン抵抗性の改善作用を有する物質を生産し、菌体外へ放出する。かかる菌体外放出物質は、本発明に係る乳酸菌を培養し、その培養液から回収することができる。或いは、当該培養液をそのまま利用することもできる。
【0029】
なお、本発明菌に由来するとは、膵島細胞の保護作用やインスリン抵抗性の改善作用を有する物質を直接的または間接的にコードする本発明菌遺伝子から産生されることを示す。よって、例えば、本発明菌から自発的に菌体外へ放出される分泌物のみならず、上記遺伝子の発現が促進されるよう改変された本発明菌が菌体外へ放出する分泌物や、上記遺伝子を導入された形質転換微生物から菌体外へ放出する分泌物なども、本発明に係る菌体外放出物質に含まれるものとする。但し、確認された安全性の観点から、本発明に係る菌体外放出物質としては、無処理の本発明菌により生産され、菌体外へ放出される物質が好ましい。
【0030】
本発明に係る新規乳酸菌の培養液に添加すべき成分は、適宜選択すればよい。例えば、グルコースやフルクトースなどの炭素源;酵母エキスやタンパク質加水分解物などの一般的栄養成分;グルタミン酸ナトリウムなどのアミノ酸およびその塩;硫酸マグネシウムなどのミネラル成分;乳酸や酢酸ナトリウムなどのpH調整剤を添加すればよい。但し、本発明に係る新規乳酸菌はグルタミン酸を含む培地で良好に増殖することが、本発明者らにより見出されている。
【0031】
なお、本発明に係る新規乳酸菌の培養には固体培地も使うことができるが、菌体外放出物質の分離のため、液体培地(培養液)を使うことが好ましい。
【0032】
本発明に係る新規乳酸菌の培養液のpHは、4.0以上、6.0以下程度に調整することが好ましく、4.5以上、5.5以下がより好ましい。
【0033】
本発明に係る新規乳酸菌の培養の条件も適宜調整すればよいが、例えば、20℃以上、40℃以下程度で、10時間以上、50時間以下程度培養すればよい。培養温度としては25℃以上、35℃以下程度がより好ましい。また、静置培養、振とう培養のいずれでもかまわないが、静置培養がより好ましい。
【0034】
本発明に係る新規乳酸菌を培養した後の培養液は、当該新規乳酸菌から菌体外へ放出された物質であり、膵島細胞の保護作用やインスリン抵抗性の改善作用を有するものが含まれている。よって、当該培養液は、膵島細胞保護剤やインスリン抵抗性改善剤としてそのまま使用することができる。或いは、菌体などの不溶物を濾別してから用いてもよいし、濃縮、凍結乾燥、スプレードライなどの処理をしてから用いてもよい。また、当該培養液には、漬物を製造するための調味液であって、本発明に係る新規乳酸菌をその中で培養したものも含むものとする。かかる調味液により製造された漬物は、上記菌体外放出物質を含むので、膵島細胞の保護作用とインスリン抵抗性の改善作用を示す。
【0035】
また、本発明に係る菌体外放出物質は、塩析、カラムクロマトグラフィ、イオン交換樹脂、再結晶などの常法により、さらに精製してもよい。
【0036】
本発明に係る新規乳酸菌の菌体外放出成分は、膵島細胞の保護作用やインスリン抵抗性の改善作用を有するので、膵島細胞保護剤やインスリン抵抗性改善剤の有効成分として用いることができる。上述したように、当該菌体外放出成分は当該新規乳酸菌の培養中に培養液へ放出されるので、培養液自体、或いは培養液の濃縮液や乾燥物を膵島細胞保護剤やインスリン抵抗性改善剤として用いることができる。培養液の乾燥物は、さらに製剤化してもよい。
【0037】
このような製剤の形態は特に制限されず、適宜選択すればよい。例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、コーティング製剤などの固形製剤;溶液剤、懸濁液剤、エアゾール剤などの液剤などとすることができる。また、製剤形態に応じて、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤、コーティング剤、蒸留水や生理食塩水などの溶剤、乳化剤、抗酸化剤などの安定剤、pH調整剤を添加してもよい。
【0038】
本発明に係る新規乳酸菌は、漬物の製造において用いてもよい。
【0039】
かかる漬物の原料として用いる野菜類は、浅漬の材料として一般的なものであれば特に制限されない。例えば、キュウリ、ゴーヤ、ズッキーニ、冬瓜などのウリ科果菜類;トウガラシ、トマト、ナス、ピーマンなどのナス科果菜類;ニンニク、ネギ、ラッキョウなどのユリ科茎菜類;空心菜などのヒルガオ科茎菜類;ショウガなどのショウガ科茎菜類;タケノコなどのイネ科茎菜類;カブ、ザーサイ、大根などのアブラナ科根菜類;ニンジンなどのセリ科根菜類;ミョウガなどのショウガ科花菜類;青菜、キャベツ、小松菜、山東菜、ターサイ、高菜、チンゲンサイ、野沢菜、白菜、ホウレンソウ、水菜、壬生菜などのアブラナ科葉菜類;ニラなどのユリ科葉菜類;レタスなどのキク科葉菜類を挙げることができる。
【0040】
原料野菜としては、当然ながら、収穫後、洗浄したものが好ましい。また、原料野菜は、事前に適当な大きさに裁断しておいてもよい。
【0041】
次に、上記工程を経た原料野菜を、調味液につける前に下漬してもよい。当該工程は任意であるが、下漬処理により原料野菜の細胞が脱水されて組織が柔軟になり、調味液が野菜類に浸透し易くなる。下漬処理としては、原料野菜に塩化ナトリウムをまぶし、圧力をかけつつ一昼夜静置することが挙げられる。
【0042】
次に、原料野菜を調味液へつけることにより漬物とする。その際、本発明に係る新規乳酸菌を用いる。具体的には、調味液へ本発明乳酸菌を添加してもよいし、また、本発明乳酸菌を事前培養し、培養液と共に原料化合物へ塗布してもよい。或いは、本発明乳酸菌を事前培養し、固液分離し、本発明に係る菌体外放出物質が含まれている液体部分を調味液の一部として用いてもよい。なお、原料野菜を調味液につけるとは、原料野菜が調味液と十分に接触することを意味し、例えば、原料野菜を調味液に完全に浸漬してもよいし、原料野菜が調味液に浸る程度にしてもよいし、原料野菜と調味液の混合物を振とうしたり攪拌してもよいものとする。
【0043】
調味液は、浅漬の製造に用いられるものであれば特に制限されない。浅漬用調味液の配合成分としては、例えば、食塩や塩化ナトリウム;グルタミン酸ナトリウム、グリシン、アラニンなどのアミノ酸;グアニル酸やイノシン酸などの核酸;砂糖、異性化液糖、水飴、オリゴ糖、ステビア、サッカリン、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、マルチトールなどの甘味料;クエン酸、乳酸、酢酸、酢酸ナトリウムなどのpH調整剤;醤油、魚醤、酸分解アミノ酸液、タンパク質加水分解物、動植物エキス、酵母エキス、みりんなどの調味料などを挙げることができる。
【0044】
上記で得られた浅漬は、野菜類が調味液につけられた状態のまま小分け包装して製品としてもよいし、調味液を原料野菜から除去して製品としてもよい。本発明に係る菌体外放出物質は、調味液中に含まれるか、或いは野菜内に浸透しているので、いずれの態様でも膵島細胞の保護作用とインスリン抵抗性の改善作用を示す。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0046】
実施例1
(1) 本発明に係る乳酸菌の単離
漬物製品の製造中、発酵の進行に伴って標準品よりも調味液pHが上昇するという特異な例が見られた。当該例の漬物製品から数種の菌株を分離し、標準製品に添加し、上記の特異な性状を示す乳酸菌を特定した。
【0047】
(2) 分子系統解析
常法に従い、上記(1)で特定した乳酸菌の16S rDNAの塩基配列を決定した。
得られた塩基配列情報を用いて相同性検索を行い、相同率が高く近縁であると推定される菌群を30種選び出した。この際、ソフトウェアとしてはアポロン 2.0(テクノスルガ・ラボ)を用い、データベースとしては、アポロン DB−BA 5.0(テクノスルガ・ラボ)と国際塩基配列データベース(GenBank/DDBJ/EMBL)を用いた。
【0048】
次に、相同性検索により近縁であると推定された菌群の基準株の16S rDNA情報を取得し、近隣結合法により、本発明に係る乳酸菌の分子系統解析を行った。その際、マルチプルアラインメントには、アラインメントソフトであるCLUSTAL W(Thompson,J.D.ら,Nucleic Acids Reserach,22,pp.4673−4680(1994))を用い、分子系統樹の作成には、コンピューターソフトウェアであるMEGA 3.1(Kumar,R.ら,Briefings in Bioinformatics,5,pp.150−163(2004))を使用した。
【0049】
上記相同性検索の結果では、本発明に係る乳酸菌の16S rDNA塩基配列は、Lactobacillus属の同塩基配列に高い相同性を示し、L.parabrevisのLMG11984株に対して最も高い相同性を示した。また、分子系統解析の結果、本発明に係る乳酸菌は、L.parabrevisとクラスターを形成した。本発明に係る乳酸菌とL.parabrevisとのクラスターは98%という高いブートストラップ値で支持され、両者が近縁であることが示された。但し、両者の間には距離が認められた。
【0050】
(3) DNA−DNAハイブリッド形成試験
次に、上記(2)により最も近縁であると結論付けられたL.parabrevisの基準株であるATCC53295に対して、本発明に係る乳酸菌が同種のものであるか否か、DNA−DNAハイブリッド形成試験により確認した。
【0051】
具体的には、両者の全DNAを抽出精製し、河村好章,細菌の系統分類と同定方法,第18回日本最近学会技術講習会テキスト,日本細菌学雑誌,55,pp.545−584(2000年)と、鈴木健一郎ら編「微生物の分類・同定実験法」シュプリンガー・フェアラーク東京,pp.34−47(2001年)を参照して、マイクロプレート法により、DNA−DNAハイブリッド形成試験を行った。蛍光強度の測定には、蛍光プレートリーダー(ジェニオス,TECAN)を用いた。測定は3回行い、その平均値を算出した。
【0052】
その結果、相同値は14〜18%であり、平均値は16%であった。DNA−DNA相同値が70%以上である場合に細菌は同種とすると定義されている(Wayne L.G.ら,Int.J.Syst.Bacteriol.,37,pp.463−464(1987年))。従って、本発明に係る乳酸菌は、新種のものであることが実証された。
【0053】
実施例2 本発明に係る菌体外放出物質
(1) 培養
上記実施例1(1)で特定した乳酸菌を含む液(200μL)を表2に示す種母培養液(10mL)に加え、30℃で24時間培養した。当該培養液(1mL)を同種母培養液(100mL)に加え、30℃で18時間培養した。当該培養液(全量)を表2に示す本培養液(1900mL)に加え、30℃で24時間培養した。
【0054】
【表2】
【0055】
(2) 菌体外放出物質
上記(1)で得られた培養液(1800mL)に対して、50%発酵乳酸水溶液(73.1mL)を加えた。当該混合液を数回攪拌し、起泡させた。当該混合液の温度を85℃まで上げ、そのまま10分間保温した後、常温まで冷却した。当該混合液を濾紙(アドバンテック東洋社製,No.101)で濾過し、清澄な濾液を得た。当該濾液のBrix糖度が50±2になるまで、40℃、30〜60hPaで減圧濃縮した。得られた溶液を、以下の実験において菌体外放出物質液として用いた。
【0056】
実施例3 膵島細胞に対する保護効果試験(単回投与)
健常体モデル動物であるWistar系(SPF)雄性ラット(日本エスエルシー社製,8週齢)10匹を1週間予備飼育した後、健康状態を確認して体重が均等になるよう5匹ずつ、コントロール群と菌体外放出物質投与群の2群に分けた。
【0057】
はじめに、Wistarラットの尾部静脈より、無麻酔下でおよそ100μL採血した。次いで、プラスチック製ゾンデ(FUCHIGAMI経口投与ゾンデ)を用いて試料5mLと40%グルコース(和光純薬工業社製)5mL(グルコース相当量:2g)の混合物を経口投与した。試料としては、コントロール群には水を投与し、菌体外放出物質投与群には実施例2で得た菌体外放出物質液5mLを投与した。投与直後の時間を0分として、その後30、60、90、120分と経時的に採血し、血清中インスリン濃度と血糖値の測定を行った。インスリン濃度は、採取した血液を遠心分離後、血清を回収し、インスリン測定キット(森永生化学研究所製)を用いてELISA法により定量した。血糖値の測定は、自己検査用グルコース測定装置(アークレイ社製,グルコカード G+メーター GT−1820)を用いて行った。血清中インスリン濃度の測定結果を
図1に、血糖値の測定結果を
図2に示す。
【0058】
図1のとおり、コントロールラットではグルコース投与直後にインスリン濃度が顕著に上がっている。即ち、コントロールラットでは、グルコースの投与に反応して、多量のインスリンが分泌されている。それに対して、本発明に係る菌体外放出物質液を投与したラットではインスリンの分泌量はほぼ一定である。しかし、
図2のとおり、コントロール群と菌体外放出物質投与群では、血糖値はほぼ同等である。以上の結果より、本発明に係る菌体外放出物質を投与した場合、多量のグルコース投与にもかかわらずインスリンの分泌が抑制されて膵島細胞が保護されると共に、血糖値は抑制され、インスリンに対する抵抗性が緩和されていることが分かる。従って、本発明に係る菌体外放出物質は、膵島細胞の保護作用とインスリン抵抗性の改善作用を示すことが実証された。
【0059】
実施例4 膵島細胞に対する保護効果試験(長期投与)
(1) 血中インスリン濃度と血糖値の測定
健常体モデル動物であるWistar系(SPF)雄性ラット(日本エスエルシー社製,8週齢)18匹を1週間予備飼育した後、健康状態を確認して体重が均等になるよう9匹ずつ、コントロール群と菌体外放出物質投与群の2群に分けた。
【0060】
プラスチック製ゾンデ(FUCHIGAMI経口投与ゾンデ)を用いて試料5mLと40%グルコース(和光純薬工業社製)5mL(グルコース相当量:2g)の混合物を毎日経口投与し、6週間飼育した。試料としては、コントロール群には水を投与し、菌体外放出物質投与群には実施例2で得た菌体外放出物質液5mLを投与した。飼育開始から第1週目、第3週目および第5週目に、別途、グルコースのみを単回投与する糖負荷試験を行った。具体的には、上記と同量のグルコースの投与直後の時間を0分として、その後30、60、90、120分と経時的に採血し、上記実施例3と同様にして血清中インスリン濃度と血糖値の測定を行った。血清中インスリン濃度の測定結果を
図3に、血糖値の測定結果を
図4に示す。
【0061】
図3のとおり、コントロール群に比べ、菌体外放出物質投与群ではインスリン分泌量は飼育期間が長くなるほど低減されている。しかし
図4のとおり、コントロール群と菌体外放出物質投与群では、血糖値はほぼ同等である。以上の結果より、本発明に係る菌体外放出物質を投与した場合、多量のグルコース投与にもかかわらずインスリンの分泌が抑制されて膵島細胞が保護されると共に、血糖値は抑制され、インスリンに対する抵抗性が緩和されていることが分かる。従って、本発明に係る菌体外放出物質は、長期投与試験においても、膵島細胞の保護作用とインスリン抵抗性の改善作用を示すことが実証された。
【0062】
(2) 膵島細胞保護効果の確認
さらに、本発明に係る菌体外放出物質の膵島細胞保護効果を直接評価するために、膵島細胞の活性試験を行った。
【0063】
具体的には、健常体モデル動物であるWistar系(SPF)雄性ラット(日本エスエルシー社製,8週齢)9匹を1週間予備飼育した後、健康状態を確認して体重が均等になるよう3匹ずつ、無処置ラット、コントロール群と菌体外放出物質投与群の3群に分けた。コントロール群と菌体外放出物質投与群には実施例4(1)と同様の処置を行い、その代表ラットを飼育第6週目に屠殺し、膵臓を摘出した。無処置ラットからも、1週間の予備飼育後、膵臓を摘出した。摘出した膵臓を400μ厚にスライスした後、aeration溶液に浸し、予めGABAアミノ基転位酵素(GABase)を担持させた基板を乗せて酵素反応を進行させた。GABaseは、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP
+)とα−ケトグルタル酸の存在下、GABAをコハク酸へ異化させると共にNADPHを生成させる。NADPHは蛍光を発するため、その蛍光強度を測定することで、膵島細胞の活性を測定することができる。結果を
図5に示す。
【0064】
図5の写真では、蛍光強度が高い部分を短波長光で、低い部分を長波長光で表している。よって、低活性部分はより青色となり、高活性部分はより赤色となる。
図5のとおり、無処置ラットの膵臓スライスでは赤色から緑色を示している部分が多く、全体的に高活性であるといえる。それに対してコントロールラットでは、青色から緑色の蛍光がほとんどとなっている。その原因は、おそらく高グルコース負荷によるインスリンの過剰分泌により膵島細胞の活性が低下していることによると考えられる。しかし菌体外放出物質液投与ラットでは、同じく高グルコース負荷を施したにもかかわらず、緑色蛍光から赤色蛍光の高活性部分が認められる。このように、本発明に係る菌体外放出物質は、膵島細胞を直接保護できることが証明された。