特許第5892512号(P5892512)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5892512移動型無線電力受電装置及びそれを用いた無線電力伝送システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5892512
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】移動型無線電力受電装置及びそれを用いた無線電力伝送システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/00 20160101AFI20160310BHJP
【FI】
   H02J17/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-136441(P2012-136441)
(22)【出願日】2012年6月15日
(65)【公開番号】特開2014-3774(P2014-3774A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2015年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】514235905
【氏名又は名称】石崎 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100121337
【弁理士】
【氏名又は名称】藤河 恒生
(72)【発明者】
【氏名】石崎 俊雄
【審査官】 大手 昌也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−98807(JP,A)
【文献】 特開2011−72176(JP,A)
【文献】 特開平7−273513(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/00
H02J 7/00
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端から他端に向けて高周波電力を送る伝送線路に電磁界結合する共振型の受電器と、
該受電器の出力側と負荷との間に接続されてインピーダンス整合を行うインピーダンス整合回路と、
前記受電器よりも前記伝送線路の他端側において前記伝送線路に電磁界結合する共振型の反射器と、
を具備し、
前記受電器によって前記伝送線路上に起こる反射を低減するように、前記反射器が到達してきた高周波電力を反射して前記伝送線路上にその一端側に向かう反射波を生じさせ、前記受電器が該反射波を吸収し前記インピーダンス整合回路に出力することを特徴とする移動型無線電力受電装置。
【請求項2】
前記受電器を、高周波電力の2分の1波長で共振させ、高周波電力の4分の1波長で前記伝送線路と電磁界結合させたことを特徴とする請求項1に記載の移動型無線電力受電装置。
【請求項3】
前記反射器を、高周波電力の2分の1波長で共振させ、高周波電力の4分の1波長で前記伝送線路と電磁界結合させたことを特徴とする請求項1又は2に記載の移動型無線電力受電装置。
【請求項4】
前記伝送線路に前記受電器が電磁界結合する部分と前記伝送線路に前記反射器が電磁界結合する部分の位置間隔を、高周波電力の4分の1波長の奇数倍としたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の移動型無線電力受電装置。
【請求項5】
前記インピーダンス整合回路は、インピーダンス可変型素子を含み、該インピーダンス可変型素子のインピーダンスは、前記受電器の出力インピーダンスの変化に対応して変化可能であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の移動型無線電力受電装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の移動型無線電力受電装置と、
前記伝送線路及びその一端に接続された高周波電源とその他端に接続された無反射終端を有する無線電力送電装置と、
を備えることを特徴とする無線電力伝送システム。
【請求項7】
前記伝送線路がマイクロストリップ線路であることを特徴とする請求項6に記載の無線電力伝送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線電力送電装置を構成する伝送線路からの電力を移動する受電器が受電可能な移動型無線電力受電装置、及びそれを用いた無線電力伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
無線電力送電装置から無線で受電器に電力伝送する無線電力伝送システムには、さまざまな方式のものが知られている。この中でも、非放射電磁界結合を用いて、受電器が存在すればそれとの結合に応じて無線電力送電装置の電力が伝送される方式は、高い電力伝送効率を得ることができるので、近年、非常に注目を集めている。この中には、移動する受電器に無線電力送電装置から電力伝送可能な無線電力伝送システムも知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、受電側共振器で構成された受電器を備える自動車の経路に沿って、金属導線をコイル状に巻いた送電側共振器を多数配列して無線電力送電装置を構成し、その無線電力送電装置から受電器を通して自動車のバッテリに電力を供給するものが記載されている。
【0004】
このような送電装置は設備として大規模になり易いのに対し、特許文献2には、直線状に延伸する伝送線路で無線電力送電装置を構成し、その伝送線路に重ねて配置されると電磁結合して電力が供給される受電器を備えるものが記載されている。特許文献2に記載のものは、設備としてさほど大規模にならないので、インフラとして設置し易いものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許8030888号公報
【特許文献2】特開2011−72176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載されているような構成のものは、今日、実用化に向かって様々な研究がなされているところであり、更なる改善の余地が残っている。例えば、インピーダンス整合している状態の伝送線路に受電器が移動して来たとき、受電器によってインピーダンス不整合が生じて伝送線路上に反射が起こり、伝送効率が低下することも有る。そのような場合、実用的な対策が必要となる。
【0007】
本発明は、係る事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、受電器によって伝送線路上に起こる反射を低減するように、インピーダンス整合が容易に行える移動型無線電力受電装置及びそれを用いた無線電力伝送システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の移動型無線電力受電装置は、一端から他端に向けて高周波電力を送る伝送線路に電磁界結合する共振型の受電器と、該受電器の出力側と負荷との間に接続されてインピーダンス整合を行うインピーダンス整合回路と、前記受電器よりも前記伝送線路の他端側において前記伝送線路に電磁界結合する共振型の反射器と、を具備し、前記受電器によって前記伝送線路上に起こる反射を低減するように、前記反射器が到達してきた高周波電力を反射して前記伝送線路上にその一端側に向かう反射波を生じさせ、前記受電器が該反射波を吸収し前記インピーダンス整合回路に出力することを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の移動型無線電力受電装置は、請求項1に記載の移動型無線電力受電装置において、前記受電器を、高周波電力の2分の1波長で共振させ、高周波電力の4分の1波長で前記伝送線路と電磁界結合させたことを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の移動型無線電力受電装置は、請求項1又は2に記載の移動型無線電力受電装置において、前記反射器を、高周波電力の2分の1波長で共振させ、高周波電力の4分の1波長で前記伝送線路と電磁界結合させたことを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の移動型無線電力受電装置は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の移動型無線電力受電装置において、前記伝送線路に前記受電器が電磁界結合する部分と前記伝送線路に前記反射器が電磁界結合する部分の位置間隔を、高周波電力の4分の1波長の奇数倍としたことを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の移動型無線電力受電装置は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の移動型無線電力受電装置において、前記インピーダンス整合回路は、インピーダンス可変型素子を含み、該インピーダンス可変型素子のインピーダンスは、前記受電器の出力インピーダンスの変化に対応して変化可能であることを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の無線電力伝送システムは、請求項1〜5のいずれか1項に記載の移動型無線電力受電装置と、前記伝送線路及びその一端に接続された高周波電源とその他端に接続された無反射終端を有する無線電力送電装置と、を備えることを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載の無線電力伝送システムは、請求項6に記載の無線電力伝送システムにおいて、前記伝送線路がマイクロストリップ線路であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、インピーダンス整合回路と反射器を具備することで、受電器によって伝送線路上に起こる反射を低減するように、インピーダンス整合が容易に行える移動型無線電力受電装置及びそれを用いた無線電力伝送システムを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る無線電力伝送システムの構成を示す模式図である。
図2】同上の無線電力伝送システムの主要部分の構成を示す平面図である。
図3】同上の無線電力伝送システムのX−X面で切断した断面図である。
図4】同上の無線電力伝送システムの主要部分の構成を示す斜視図である。
図5】同上の移動型無線電力受電装置のインピーダンス整合回路の回路例である。
図6】同上の無線電力伝送システムのSパラメータの参考特性を示すシミュレーション実験の特性図である。
図7】同上の無線電力伝送システムのSパラメータの特性を示すシミュレーション実験の特性図である。
図8】同上の無線電力伝送システムのSパラメータのうちのS33の特性を示すシミュレーション実験の特性図である。
図9】同上の無線電力伝送システムのSパラメータの特性を示すサンプル実験の特性図である。
図10】同上の無線電力伝送システムを変形したときのSパラメータの参考特性を示すシミュレーション実験の特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照しながら説明する。本発明の実施形態に係る無線電力伝送システム1は、図1に示すように、無線電力送電装置2と移動型無線電力受電装置3を有して構成されるものである。
【0018】
無線電力送電装置2は、伝送線路20及びその一端20aに接続された高周波電源21とその他端20bに接続された無反射終端22を有する。伝送線路20は、一端20aから他端20bに向けて高周波電力を送るものであり、直線方向或いは僅かな曲率の曲線方向に一次元的に延伸している。
【0019】
より詳細には、伝送線路20は、図2に示すような長く延伸するマイクロストリップ線路を用いることができる。マイクロストリップ線路を用いた伝送線路20は、図3に示すように、絶縁材料20’上に(或いはそれに埋め込まれて)形成され、絶縁材料20’の厚さ方向の反対側には接地線路20’’が形成されている。なお、図2においては、マイクロストリップ線路を用いた伝送線路20の一部を示しており、僅かな曲率を有しているものを示している。また、図3は、理解し易いように、厚さ方向は拡大して示している。
【0020】
高周波電源21は、高周波電力を生成して伝送線路20の一端20aに出力する。また、無反射終端22は、伝送線路20の他端20bを所定のインピーダンスを介して接地させている。無反射終端22は、例えば、50Ωの終端抵抗である。
【0021】
移動型無線電力受電装置3は、無線電力送電装置2の伝送線路20に電磁界結合する共振型の受電器4と、受電器4の出力側と負荷5との間に接続されるインピーダンス整合回路6と、受電器4よりも伝送線路20の他端20b側において伝送線路20に電磁界結合する共振型の反射器7と、を具備している。なお、負荷5は、車両などが所要の機能を発揮するためのバッテリ等の回路である。
【0022】
受電器4は、伝送線路20に沿って移動可能なものである。受電器4には、伝送線路20の高周波電力が伝送される。換言すれば、受電器4は、伝送線路20の高周波電力を吸収する。そして、その吸収した高周波電力は受電器4で共振して、インピーダンス整合回路6に出力される。
【0023】
受電器4は、高周波電力の2分の1波長で共振し、高周波電力の4分の1波長で伝送線路20と電磁界結合させることが好ましい。例えば、図2に示すように、受電器4を屈曲した形状のストリップ導体で形成し、高周波電力の2分の1波長で共振するように全長を高周波電力の2分の1波長に略等しい長さにし、その一辺を電磁界結合部分(伝送線路20に受電器4が電磁界結合する部分)40として高周波電力の4分の1波長に略等しい長さにする。そうして、図4に示すように、マイクロストリップ線路の伝送線路20に隙間をあけて電磁界結合部分40を重ね合わせると、伝送線路20の高周波電力が適正に受電器4に伝送され、その高周波電力は受電器4で共振する。このようにすると、受電器4は、小型であり、かつ、伝送線路20の高周波電力を高効率で吸収することができる。
【0024】
なお、図2においては、ストリップ導体で形成した受電器4は、その電磁界結合部分40が僅かな曲率を有しているものを示しており、また、電磁界結合部分40に対して略垂直に形成される部分41と、更にその部分41の先端部から略垂直に形成される部分42と、を有するものを示している。また、受電器4は、図3に示すように、絶縁材料4’上に(或いはそれに埋め込まれて)形成され、絶縁材料4’の厚さ方向の反対側には接地線路4’’が形成されるようにすることができる。
【0025】
インピーダンス整合回路6は、受電器4の出力側に接続されて、インピーダンス不整合による反射が起きないようにするものである。インピーダンス整合回路6は、インダクタとコンデンサを組み合わせた集中定数回路とすることができ、受電器4の電磁界結合部分40と伝送線路20との位置関係や受電器4の形状等に合わせて、容易にインピーダンスを整合させることができる。インピーダンス整合回路6は、例えば、図5に示すようなコンデンサ61とインダクタ62とコンデンサ63からなるπ型回路を用いることができる。或いは、T型回路を用いることもできる。
【0026】
反射器7は、伝送線路20の一端20aから他端20bに向けて送られる高周波電力を反射して、伝送線路20上にその一端20a側に向かう反射波を生じさせる。反射器7は、その位置に到達した伝送線路20上の高周波電力のほぼ全部を反射することも可能である。
【0027】
反射器7は、高周波電力の2分の1波長で共振し、高周波電力の4分の1波長で伝送線路20と電磁界結合させることが好ましい。例えば、図2に示すように、反射器7を屈曲した形状のストリップ導体で形成し、高周波電力の2分の1波長で共振するように全長を高周波電力の2分の1波長に略等しい長さにし、その一辺を電磁界結合部分(伝送線路20に反射器7が電磁界結合する部分)70として高周波電力の4分の1波長に略等しい長さにする。そうして、図4に示すように、マイクロストリップ線路の伝送線路20に隙間をあけて電磁界結合部分70を重ね合わせると、その位置に到達した伝送線路20の高周波電力が共振する反射器7によって反射される。このような反射器7は、小型であり、かつ、高効率で反射することができる。
【0028】
なお、図2においては、ストリップ導体で形成した反射器7は、その電磁界結合部分70が僅かな曲率を有しているものを示しており、また、電磁界結合部分70に対して略垂直に形成される部分71と、更にその部分71の先端部から略垂直に形成される部分72と、を有するものを示している。また、反射器7は、通常は、受電器4とともに移動し、受電器4と位置関係がずれないように一体に形成されるので、図3に示した受電器4と同様に、絶縁材料4’上に(或いはそれに埋め込まれて)形成され、絶縁材料4’の厚さ方向の反対側には接地線路4’’が形成されるようにすることができる。
【0029】
このような構成により、無線電力伝送システム1において、反射器7がその位置に到達した伝送線路20上の高周波電力のほぼ全部を反射し、その反射波のほぼ全部を受電器4が吸収してインピーダンス整合回路6に出力するようにすると、反射器7よりも伝送線路20の一端20a側では、伝送線路20の他端20bに接続された無反射終端22の影響は受けないことになる。そうすると、インピーダンス整合をインピーダンス整合回路6に行わせることにより、伝送線路20上に起こる反射(受電器4の位置から伝送線路20上をその一端20a側に返る反射波)を低減することができる。その結果、伝送線路20から受電器4への伝送効率のインピーダンス不整合による低下を防ぐことができる。
【0030】
また、移動する移動型無線電力受電装置3が伝送線路20以外のところに有るときは、受電器4と反射器7は伝送線路20に電磁界結合していないので、伝送線路20はその他端20bに接続された無反射終端22によりインピーダンス整合している状態となる。
【0031】
受電器4の電磁界結合部分40と反射器7の電磁界結合部分70の間の位置間隔は、高周波電力の4分の1波長の奇数倍とするのが好ましい。こうすると、伝送線路20における受電器4の電磁界結合部分40の位置に定在波の腹が形成されるため、伝送線路20から受電器4への伝送効率を更に高めることができる。
【0032】
無線電力伝送システム1は、電気自動車、電車、工場内搬送ロボットなどが、負荷としてバッテリを有し、かつ、移動型無線電力受電装置3を有するようにし、その通過するところに伝送線路20を固定しておけば、移動しながらでもバッテリに充電するようにできる。
【0033】
移動型無線電力受電装置3が移動する際には、受電器4の電磁界結合部分40は、伝送線路20との隙間が増減したり、伝送線路20との重なり合いがずれたりして、受電器4の出力インピーダンスが変化することが少なくない。それに対応したインピーダンス整合を行うように、インピーダンス整合回路6がインピーダンス可変型素子を含むようにし、インピーダンス可変型素子のインピーダンスを受電器4の出力インピーダンスの変化に対応して自動的に或いは手動によって変化可能とするのが好ましい。例えば、図5におけるインダクタ62をインピーダンス可変型素子にすることができる。
【0034】
次に、本願発明者によるシミュレーションとサンプルの実験について述べる。この実験で用いた無線電力伝送システム1は、伝送線路20、受電器4の電磁界結合部分40、反射器7の電磁界結合部分70が僅かな曲率を有して延伸している(図2参照)。伝送線路20の幅A、受電器4の幅B、反射器7の幅Cは屈曲部を除いてほとんど、3.2mmとしている。受電器4の電磁界結合部分40の長さDは23.84mm、電磁界結合部分40に対して略垂直に形成される部分41の長さEは6.59mm、更にその部分41の先端部から略垂直に形成される部分42の長さFは5.98mmとしている。反射器7の電磁界結合部分70の長さGは25.29mm、電磁界結合部分70に対して略垂直に形成される部分71の長さHは6.59mm、更にその部分71の先端部から略垂直に形成される部分72の長さIは3.97mmとしている。受電器4と反射器7の間の距離Jは22mmとしている。伝送線路20の厚さKと受電器4の厚さLは15μm、伝送線路20が形成される絶縁材料20’と受電器4が形成される絶縁材料4’の間の距離Mは、1.5mmとしている(図3参照)。
【0035】
図6図8は、シミュレーション実験の特性図である。図6は、インピーダンス整合回路6を省いたときのSパラメータの特性を示している。図7は、インピーダンス整合回路6にインピーダンス整合を行わせたときのSパラメータの特性を示す。Sパラメータのうち、S11は伝送線路20の一端20a側に返る(反射される)高周波電力の比率、S21は伝送線路20の他端20b側に通過して行く高周波電力の比率、S31は受電器4の出力側からインピーダンス整合回路6に出力される高周波電力の比率である。図8は、SパラメータのうちのS33の特性であって、曲線aはインピーダンス整合回路6を省いたときの特性、曲線bはインピーダンス整合回路6にインピーダンス整合を行わせたときの特性を示している。S33は、負荷5からインピーダンス整合回路6側を見たときに反射される高周波電力の比率である。
【0036】
図6の特性図では、周波数が約2.45GHzのとき、S11が約−3dB、S21が約−18dB、S31が約−5dBとなっている。これに対し、図7の特性図では、周波数が約2.45GHzのとき、S11が約−21dB、S21が約−22dB、S31が約−1dBとなっている。すなわち、インピーダンス整合回路6でインピーダンス整合を行わせることにより、伝送線路20上に起こる反射が低減されている。また、そうすることにより、伝送線路20の他端20b側に通過して行く高周波電力は若干減り、受電器4の出力側に出力される高周波電力は増加している。また、図8の特性図で示すS33については、周波数が約2.45GHzのとき、曲線aでは約−2dBであり、これに対し曲線bでは約−33dBとなっている。これは、曲線bでは、インピーダンス整合回路6によってインピーダンス整合が行われていることを示している。
【0037】
図9は、インピーダンス整合回路6にインピーダンス可変型素子を用いてインピーダンス整合を行わせたときのサンプル実験の特性図である。周波数が約2.39GHzのとき、S11が約−15dB、S21が約−46dB、S31が約−2.5dBとなっている。シミュレーション実験よりも若干共振周波数が低い方にずれているが、S11が十分に低くなっており、伝送線路20上に起こる反射が低減されている。
【0038】
なお、参考のため、図10に、反射器7を省いた場合で、インピーダンス整合回路6でインピーダンス整合の調整を行ったときのシミュレーション実験の特性図を示す。周波数が約2.5GHzのとき、S11が約−7.5dB、S21が約−7dB、S31が約−2.5dB、S33が約−35dBとなっている。このように、反射器7を省くと、インピーダンス整合回路6でインピーダンス整合を行っても、伝送線路20上に起こる反射の低減は容易ではないことが分かる。
【0039】
以上、本発明の実施形態に係る無線電力伝送システムについて説明したが、本発明は、上述の実施形態に記載したものに限られることなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でのさまざまな設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 無線電力伝送システム
2 無線電力送電装置
20 伝送線路
20a 伝送線路の一端
20b 伝送線路の他端
21 高周波電源
22 無反射終端
3 移動型無線電力受電装置
4 受電器
5 負荷
6 インピーダンス整合回路
7 反射器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10