特許第5892648号(P5892648)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5892648DDSカプセル用タンパク質およびそれを用いた薬剤とその調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5892648
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】DDSカプセル用タンパク質およびそれを用いた薬剤とその調整方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/47 20060101AFI20160310BHJP
   A61K 47/42 20060101ALI20160310BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20160310BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20160310BHJP
   A61K 45/08 20060101ALI20160310BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20160310BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20160310BHJP
   C12N 9/02 20060101ALN20160310BHJP
   C12P 21/02 20060101ALN20160310BHJP
【FI】
   C07K14/47ZNA
   A61K47/42
   A61K9/51
   A61K9/19
   A61K45/08
   A61P35/00
   !C12N15/00 A
   !C12N9/02
   !C12P21/02 C
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-27389(P2012-27389)
(22)【出願日】2012年2月10日
(65)【公開番号】特開2013-162760(P2013-162760A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2014年11月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】乾 隆
【審査官】 長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−120793(JP,A)
【文献】 特開2011−207830(JP,A)
【文献】 福原彩乃(外10名),第11回日本蛋白質科学会年会 プログラム・要旨集,2011年 5月27日,pp.109
【文献】 ZHOU,Y et al.,Structure-function analysis of human l-prostaglandin D synthase bound with fatty acid molecules,The FASEB Journal,2010年,Vol.24, No.12,pp.4668-4677
【文献】 KUMASAKA,T. et al,Structural Basis of the Catalytic Mechanism Operating in Open-Closed Conformers of Lipocalin Type Pr,Journal of Biological Chemistry,2009年,Vol.284, No.33,p.22344-22352
【文献】 LIU,J. et al,Effects of removing a conserved disulfide bond on the biological characteristics of rat lipocalin-ty,Biochimie(Paris),2008年,Vol.90, No.11-12,p.1637-1646
【文献】 LIU,J. et al,Expression and purification of cysteine mutation isoforms of rat lipocalin-type prostaglandin D synt,Acta Biochimica et Biophysica Sinica,2008年,Vol.40, No.6,p.489-496
【文献】 SHIMAMOTO,S. et al,NMR solution structure of lipocalin-type prostaglandin D synthase - Evidence for partial overlapping,Journal of Biological Chemistry,2007年,Vol.282, No.43,p.31373-31379
【文献】 MIYATA,K et al.,Block Catiomer Polyplexes with Regulated Densities of Charge and Disulfide Cross-Linking Directed To Enhance Gene Expression,Journal of the American Chemical Society,2004年,Vo.126, No.8,pp.2355-2361
【文献】 MATSUMOTO,S et al.,Environment-responsive block copolymer micelles with a disulfide cross-linked core for enhanced siRNA delivery,Biomacromolecules,2009年,Vol.10, No.1,pp.119-127
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/00− 9/99
C12N 15/00−15/90
A61K 9/00− 9/72
A61K 31/33−33/44
A61K 47/00−47/48
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト−リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素の活性中心のシステインをアラニン
に置換し酵素活性を失活させ、N末端にGSを結合させたミュータントのN末端から34
番目と92番目のトリプトファンをシステインに置き換えたことを特徴とするDDSカプ
セル用タンパク質。
【請求項2】
前記ミュータントのN末端から数えて2番目と3番目のアミノ酸の間にNGRを挿入し、かつC末端にNGRを結合させたことを特徴とする請求項1に記載されたDDSカプセル用タンパク質。
【請求項3】
配列1に示すDDSカプセル用タンパク質。
【請求項4】
配列3に示すDDSカプセル用タンパク質。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかのDDSカプセル用タンパク質と、前記DDSカプセル用タンパク質中に組み込まれた薬成分からなる薬剤。
【請求項6】
前記薬剤は凍結乾燥された請求項5に記載された薬剤。
【請求項7】
配列1のアミノ酸配列からなるタンパク質を合成する工程と、
前記タンパク質を還元溶液中で薬成分と混合する工程と、前記還元溶液を酸化する工程と、を含む薬剤の調製方法。
【請求項8】
前記酸化された還元溶液を凍結乾燥する工程をさらに含む請求項7に記載された薬剤の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難水溶性の薬剤を、目的となる生体内の場所や部位、細胞に選択的に運搬する薬剤運搬体に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲノム創薬研究により発見された標的受容体へ作用する医薬候補化合物は、総じて分子量が大きく、水に対する溶解度が低い。また、現在使用されている薬剤の中にも疎水性が高く、難水溶性であるものが少なくない。化学修飾法により水溶性は高められるが、薬剤活性が減じられる場合が多い。薬剤活性の高い難水溶性薬剤を効率的に疾患部に輸送できれば、難水溶性薬剤の臨床応用例を拡大し、製薬企業で困難を極めていた薬剤溶解度に対する問題を解決することができる。
【0003】
この課題に対して技術面で鍵を握っているのが、難水溶性薬剤を可溶化し標的まで輸送するとともに、その薬剤を細胞内で効率的に機能発現させることのできるドラッグ・デリバリー・システム(DDS)の開発である。
【0004】
このようなDDSのアイデアはすでに開示されているものがある。特許文献1では、標的結合成分と腔形成成分と薬理学的化合物を含む複合体であって、薬理学的化合物が腔形成成分の腔中に存在する複合体が開示されている。ここで開示されている複合体の使い方は、対象が発現するレセプター等の標的に対して、特異的に結合する腔を有するたんぱく質(特にNGFファミリーやインターロイキン、GM−CSF、EGF、FGF、バルナーゼ、T4リゾチーム、TGFb、IgG等)を選定し、その腔中に対象に対して薬剤効果を有する薬剤の中から実際に吸蔵させることのできる薬剤を選択する。
【0005】
しかしながら、特許文献1では、神経芽細胞腫を対象とし、対象が過剰に発現する標的をtrkAレセプターとし、標的結合成分と腔形成成分を有するたんぱく質としてNGFを示してあるものの、それ以上の具体的な開示がなく、NGFに何をどのように吸蔵させるのかという点については、概念が示されているに過ぎない。
【0006】
これに対して特許文献2は、生体産生物であるリポカリンファミリーが難水性薬物を溶解させDDSとして利用できることを示している。このようなリポカリンファミリーは、生体産物質であるため、毒性や拒絶反応(アレルギー反応等)といった点に対する課題がない。したがって、DDSに要求される安全性を容易にクリアすることができる。
【0007】
また、特許文献3は、さらに、リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素のN末端若しくはC末端に標的への結合部分を連結した蛋白質を提供している。これによって、標的に対する結合特異性を付与することができるため、さらにDDSへの応用が好適なものとなった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2000−507210号
【特許文献2】特開2008−120793号
【特許文献3】特開2011−207830号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
リポカリンファミリーはバレル構造によってポケットを有しており、いわばコップのような形状をしている。ここに、難水溶性の薬剤を収納することができる。しかも、薬剤によっては、複数個の分子単位を収納することができる。しかしながら、バレル構造によって形成されたポケットは、常に開口しており、移送の途中で内在させた薬物がこぼれてしまうおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記の課題に鑑みて想到されたものであり、リポカリンファミリーをDDS用のカプセルとして利用する際に、バレル構造で形成されたポケット中に薬物を収納した後、ポケットの開口をジスルフィド結合(S−S結合)によって閉じることができるようにするものである。すなわち、DDS用カプセルに薬剤放出制御機能を付与した。
【0011】
より具体的には、
ヒト−リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素の活性中心のシステインをアラニンに置換し酵素活性を失活させ、N末端にGSを結合させたミュータントのN末端から34番目と92番目のトリプトファンをシステインに置き換えたことを特徴とするDDSカプセル用タンパク質を提供する。
【発明の効果】
【0012】
リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素は、体内産生物質であり、拒絶反応(アレルギー反応等)や毒性といった一般的にDDSが有する課題を容易に乗り越えることができる。また、すでにアミノ酸配列も解析されており、ターゲットに対する標的結合部を含めて組換え合成を行うことで、容易に産生することができる。さらに、本発明は、バレル構造によって形成されるポケットを閉じたり開いたりすることができるようになるため、薬剤運搬のロスが少なく、また、標的部位への的確な薬剤投与も可能と考えられる。
【0013】
このように本発明の薬剤運搬体は、分子選択的認識機能を持ち、がん組織を狙い撃つ「ナノキャリア蛋白質」として医薬品開発分野における新しい方向性を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】L−PGDSの立体構造を示す図である。
図2】L−PGDSのミュータントの立体構造を示し、バレル構造の入口の開閉の様子を示す概念図である。
図3】電気泳動の結果を示す図である。
図4】L−PGDSのミュータントを精製した際の分画毎の収率を表す図である。
図5】L−PGDSおよび薬剤を保持させたL−PGDSの凍結乾燥前後の吸収特性を表す図である。
図6】L−PGDSおよび薬剤を保持させたL−PGDSの遠紫外領域の円偏光二色性(CD)スペクトルの測定結果を表す図である。
図7】薬剤を保持させたL−PGDSを凍結乾燥させ再度解凍したときの薬効への影響を調べた図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
リポカリンファミリーに属するリポカリン蛋白質は、アミノ酸残基が140〜200個からなり、分子量が約2万程度の蛋白質である。また、アミノ酸配列の相同性が、20%程度であるにもかかわらず、その構造上の類似性は非常に高いことが知られている。リポカリンファミリーのメンバーとしては、レチノール結合蛋白質、主要尿蛋白質、ビリン結合蛋白質、β−ラクトグロブリン、ロブスタークラストシアニン、臭物質結合蛋白質などがある。
【0016】
これら、リポカリン蛋白質の折りたたみ構造は、連続的に水素結合した8本の逆平行のβストランドからなり、疎水性低分子(リガンド)結合部を囲むようなバレル(樽)型になっている。8本のβストランドをつなぐ7箇所のループは、6箇所が短いヘヤピンで、1箇所がオメガループであり、このオメガループがリガンド結合部の蓋の役割をすると考えられている。また、1本のαヘリックスを有する。すなわち、8本のβストランドからなるβバレル構造と1つのオメガループと、1本のαヘリックスを有する点がこれらリポカリンファミリーの構造上の類似点である。
【0017】
図1にリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(L−PGDS)の結晶構造の模式図である。8本のβストランドからなるβバレル構造(11乃至18)と1つのαへリックス(19)と1本のオメガループ(H2へリックス)(20)を有している。
【0018】
そもそも、L−PGDSは、シクロオキシゲナーゼの働きによりアラキドン酸から合成されたPGHを基質として、PGDを合成する酵素である。PGDは、中枢神経系において、睡眠誘発、体温低下、黄体ホルモン分泌の抑制、痛みや匂いの応答調節などの作用を示し、末梢神経では、肥満細胞からアレルギーのメディエーターとして放出され、血管拡張、気管支収縮、血小板凝集阻害などの作用を示す物質である。
【0019】
そして、L−PGDSはリポカリンファミリーにも属しており、8本のβストランドからなるβバレル構造によって形成されるポケット部分は内側には疎水性アミノ酸が配置された構成になっているので、難水溶性の薬物をこのポケットに収容することにより、水に溶解することができる。このように薬剤運搬が可能なタンパク質をPNC(Protein Nano Capsule)と呼ぶ。
【0020】
難水溶性の薬剤の水溶可能性については、ポケットの内側のアミノ酸に変異を導入して薬剤毎にポケット内への薬剤の保持特性を調整してもよい。なお、L−PGDSはそもそも酵素であるため、DDSとして使用する際には、酵素活性を失活させる必要がある。そのためには、N末端から45番目のシステイン(活性中心)を、アラニンに置換し、酵素活性を失活させる。
【0021】
本発明のDDS用タンパク質では、バレル構造で形成されたポケットの入口部分を開閉できるようにさせる。より具体的にはL−PGDSにおいて、N末端から34番目と92番目のTrp(トリプトファン)残基をCys(システイン)残基に置き換える。Cys残基同士はよく知られているようにジスルフィド結合を形成する。
【0022】
ジスルフィド結合は、システインのチオール基の部分が酸化されることで生じる。また、ジスルフィド結合は、ジチオスレイトールやメルカプトエタノールといった還元剤で切断される。すなわち、バレル構造で形成されたポケット内に薬剤を収納後、酸化雰囲気に曝すことで、ポケットの入口を閉じ、薬剤キャリアーとする。
【0023】
また、細胞中は一般に還元雰囲気であるので、細胞に取り込まれた後は、このジスルフィド結合は切断され、ポケットは開口する。そして、中に収納した薬剤が細胞内で効果を示す。図2には、N末端から34番目と92番目のTrp(トリプトファン)残基をCys(システイン)残基に置き換え、ポケットの入口が開いた状態および閉じた状態のL−PGDSの予想図を示す。
【0024】
DDSとしてL−PGDSを利用する際に課題の1つとなるのは、保存性である。L−PGDSは、タンパク質であるため、比較的容易に品質劣化が進む。また、液中保存では液中の水分によって劣化するおそれが高い。そこで、上記のようにL−PGDS中に薬剤を収納した後に、凍結乾燥処理を行う。凍結乾燥はタンパク質を比較的長期に保存させることができることはよく知られている。そこで、薬剤を収納した状態であっても、凍結保存後に効果を示すかどうかを確認した(後述する実施例2参照)。
【0025】
この結果によれば、薬剤を収納した後のL−PGDSは、凍結乾燥して保存した後も、解凍することで、元の薬剤を収納したL−PGDSに戻り、また、凍結乾燥する前と同一の薬剤効果を発揮することを確認できた。
【0026】
また、本発明のDDS用カプセルはすでに知られているように(特許文献3参照)、標的結合部をN末端若しくはC末端に形成させてもよい。
【0027】
標的結合部については、ターゲットに合わせて設計することができる。例えば、癌細胞の場合は、新生血管内皮細胞に発現する膜蛋白質(CD13)に対して特異的に結合するペプチド配列NGR(Asn−Gly−Arg)を選択することができる。また、αvβ3インテグリンを認識するisoAsp−Gly−Arg (isoDGR)モチーフを遺伝子組換えによりL−PGDSのN末端、あるいはC末端に導入してもよい。
【0028】
また、胃がんの腹膜腫瘍を認識するLys−Leu−Pro(KLP)−モチーフ(Cancer Res、 97、 1075−81、 2006)、転移性がん細胞を認識するAsn−Val−Val−Arg−Gln (NVVRQ)モチーフ(Clin Cancer Res、 14、 5494−502、 2008)、肝がん細胞を認識するPhe−Gln−His−Pro−Ser−Phe−Ile(FQHPSFI)モチーフ(Mol Med、 13、 246−54、 2007)等も好適に利用できる。
【0029】
この標的結合部は本体であるリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素部分の末端に導入するのが好ましい。また、N末端であれば、組換え体を作製する際により簡単であるので、より好ましい。
【実施例】
【0030】
(実施例1)
<ジスルフィド結合を有するL−PGDSミュータントの作製>
次に実施例を示して本発明のDDSカプセル用タンパク質の製造法を示す。ジスルフィド結合を有するタンパク質カプセル(Protain Nano Capsule:PNC)の精製は、大腸菌の形質転換クローンを作製し、大量生成した。形質転換に用いるベクターは、GST融合タンパク質発現用ベクターであるpGEX−4T−2にリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(L−PGDS)の塩基配列を導入したプラスミドを鋳型とし、ダブルプライマーPCR法を用いて作製した。
【0031】
ジスルフィド結合を有するリポカリオン型プロスタグランジンD合成酵素(L−PGDS)の塩基配列を表1に示す(配列1)。このミュータントは、N末端およびC末端の両方にガンに対する標的結合部であるNGRが付加されている。なお、N末端には合成の都合上GSが付加される。ここで、37番目および95番目のコードはTrp残基をコードする塩基配列であるTGGからシステインをコードするTGCに置換されている。また、N末端から48番目のシステイン(活性中心)はAla(アラニン)に置き換え酵素活性は失活させるようにした。
【0032】
また、表2には、塩基配列も示す(配列2)。また、37番目、48番目、95番目には四角の枠を記載した。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
また、表3および表4には、標的結合部が付加されていないタイプで、ジスルフィド結合を有するリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(L−PGDS)のアミノ酸配列と塩基配列を示す。標的結合部をもたないL−PGDSのミュータントでは、ジスルフィド結合を導入したシステインは、N末端から34番目と92番目であり、酵素活性を失活させるためのアラニンは45番目である。表3および表4のN末端およびC末端には、表1及び2で示したNGR以外の標的結合部を付加することができる。
【0036】
【表3】
【0037】
【表4】
【0038】
この方法では、2本鎖鋳型プラスミドと相補的な変異を含む2種類プライマーを設計し、PCRを行うことにより、鋳型プラスミドに特異的に変異を導入することができる。L−PGDSの37番目および95番目のTrp残基をコードする塩基配列はTGGであり、この部分をCys残基をコードするTGCに置換するためのプライマーを設計し、PCRを行った。増幅したPCR産物のシーケンス解析を行い、Trp37およびTrp95のCys残基への置換を確認した。
【0039】
得られたベクターで大腸菌(E.coli)BL21(DE3)株を形質転換し、常法(例えば特許文献2)に従ってGST融合タンパク質の発現を誘導しながら培養を行った。L−PGDSは、GSTと融合した形で産生される。その後大腸菌は0.5mMのPhenylmethylsulfonyl Fluoride(WAKO)を添加した10倍量のLysis buffer(10mMリン酸水素ニナトリウム、1.8mMリン酸水素ニカリウム、140 mM塩化ナトリウム、2.7 mM塩化カリウム、pH 7.5)中で超音波処理(ULTRASONIC DISRUPTOR、TOMY SEIKO)により破砕した。
【0040】
大腸菌破砕液をGlutathione Sepharose 4Bを充填したカラムに供し、融合タンパク質を吸着させた。そしてThrombinにより目的タンパク質を切断し、溶出液を還元剤であるDTT存在下においてゲルろ過クロマトグラフィーに供し、目的タンパク質を精製した。ここで目的タンパク質はL−PGDSのミュータントであるので、以後PNCと呼ぶ。
【0041】
精製後のPNCのSDS PAGE(15% W/V)分析の結果を図3に示す。左側Aのレーンはコントロールである。右側Bのレーンが生成後のPNC(L−PGDSのミュータント)である。PNCの推定分子量である19kDa付近に単一のバンドが確認できた。
【0042】
<DDSカプセルへの薬剤収納とポケットの開口>
次に上記の方法で得たPNCの開口部分の開閉について説明する。精製過程におけるゲル濾過クロマトグラフィーの結果を図4に示した。横軸は溶出体積を示し、縦軸は、280nmにおける吸収を表す。
【0043】
PNC分画ごとに透析によって還元剤DTTを除去し、DTNB法を用いて遊離型チオールの定量を行った。DTNB法とは、5,5’−dithiobis−2−nitrobenzoic acid(DTNB)が、タンパク質のSH基と反応すると5−thio−2−nitrobenzoic acid(TNB)になることを利用して、タンパク質中のSH基を定量する方法である。TNBは412nmの波長で吸収が生じるため容易に定量分析ができる。
【0044】
まず、分画毎の5 μM PNC溶液(pH 7.4)に100% trichloroacetic acidを終濃度10%になるように混合した。氷中にて30分静置し、遠心分離(16,000×g,30分)によってタンパク質を回収し、沈殿を得た。沈殿に10%trichloroacetic acidを1 ml加えて遠心分離(16,000×g,30分)を行い、沈殿を得た。
【0045】
その後、6 M guanidine hydrochloride/50 mM Tris HCl緩衝液(pH8.0)を加え、撹拌して沈殿を溶解し、室温(25 ℃)にて15分静置した。そして、終濃度100 mMになるようにDTNBを加えて、室温(25 ℃)にて1時間静置した。遊離型チオール濃度は、放出されたTNBの吸収波長である412nmの吸光度を測定して求めた(TNBのモル吸光係数ε412 = 13,600 M−1 cm−1)。
【0046】
各分画の遊離チオール量を表5に示す。分画1(F1)においては約87%のPNCが架橋形成されていない開口状態(openform:図2(a)参照)であることがわかった。
【0047】
【表5】
【0048】
次に、ジスルフィド架橋形成の促進のため、それぞれのPNC分画を過剰量の酸化型グルタチオン(20mM)で処理した。
【0049】
具体的には、各分画の10 μM PNC溶液(pH 7.4)に酸化型グルタチオンを終濃度20mMとなるように混合し、室温(25 ℃)にて12時間静置した。その後、DTNB法による遊離型チオール基の定量を行った。結果を表6に示す。全てのPNC分画においてジスルフィド架橋が形成されているのが確認された。これは図2(b)のようにL−PGDSの開口部分がS−S結合で閉じたことを示している。
【0050】
【表6】
【0051】
以上のように本発明に係るL−PGDSのミュータントは、酸化および還元によって開口部分を開閉することが可能であり、バレル構造で形成された内部に収納した薬剤の保持および放出機能を有したものと言える。
【0052】
(実施例2)
次にL−PGDS中に薬剤を収納した状態で、凍結乾燥し、再度解凍しても効果が低下することがないかを確認した。
【0053】
ジアゼパム(diazepam (DZP))は、難水溶性薬剤である。これを直接(コントロール)経口投与した場合、L−PGDSに収納してマウスに経口投与した場合、さらにL−PGDSに収納して凍結乾燥後、再度解凍させてからマウスに経口投与した場合のそれぞれについて、ペントパルビタール(pentobarbital)誘導性麻酔時間を調べた。ジアゼパムが効いていると、麻酔時間が長くなるので、L−PGDSの有無の場合を比較することで効果を評価することができる。
【0054】
<凍結乾燥によるL−PGDSへの影響>
実験に用いたL−PGDSは、ジスルフィド架橋ができるようにしたミュータントではない。しかし、開口の有無にかかわらず、L−PGDSで凍結乾燥の影響がなければ、ミュータントにおいても、凍結乾燥による影響はないと考えられる。
【0055】
まず、リン酸緩衝液(PBS)中に100μMのL−PGDSを用意した。そして、リン酸緩衝液(PBS)中に330μMのジアゼパム(DZP)を収納した100μMのL−PGDSを用意した。これをDZP/L−PGDS complexと呼ぶ。L−PGDSとDZP/L−PGDS complexを液体窒素で5時間凍結乾燥した。5時間の凍結乾燥でL−PGDSとDZP/L−PGDS complexは完全に乾燥した。
【0056】
完全に乾燥したL−PGDSおよびDZP/L−PGDS complexを超純水で溶解し、pH7.4における吸収スペクトルを測定した。また、25 ℃、pH 7.4において、遠紫外領域の円偏光二色性(CD)スペクトルを測定した。
【0057】
L−PGDSとDZP/L−PGDS complexは、液体窒素によって完全に凍結乾燥させた後、再融解した。再融解したL−PGDSとDZP/L−PGDS complexの吸収スペクトルを測定した。図5にその結果を示す。
【0058】
図5は、横軸は波長であり、縦軸は吸収を表す。グラフ中には4つの曲線が示されている。それぞれL−PGDSとDZP/L−PGDSの吸収スペクトルで、凍結乾燥前後において全く一致したので凍結乾燥前と凍結乾燥後の区別がつかないほどであった。
【0059】
また、図6には、CDスペクトルの測定結果を示す。横軸は波長であり、縦軸はモル楕円率θである。図6には、凍結乾燥前と凍結乾燥後のL−PGDSとDZP/L−PGDS complexのCDスペクトルが記載されているが、区別がつかないほど4つのサンプルは一致した。
【0060】
これらの結果から、凍結乾燥によるL−PGDSの構造変化は生じないことが明らかになった。また、凍結乾燥後のDZP/L−PGDS complexのDZP濃度は凍結乾燥前と一致することが判明した。
【0061】
<凍結乾燥がL−PGDSのDDS能力に及ぼす影響>
Carboxy methyl cellulose (CMC)、DZP/CMC懸濁液 (500 μM DZP)、凍結乾燥前と凍結乾燥後のDZP/L−PGDS complex (500 μM DZP、 240 μM L−PGDS)をマウスに経口投与し(10 ml/kg)、30分後にpentobarbital sodium(35 mg/kg)を腹腔内投与した。マウスが正向反射を消失してから回復するまでの正向反射消失時間を麻酔時間として測定した。
【0062】
さらに、in vivoにおけるDZP/L−PGDS complexの凍結乾燥による影響を調べるために、凍結乾燥後のDZP/L−PGDS complexをマウスに経口投与し、pentobarbitalによる麻酔時間への影響を調べた。図7にその結果を示す。図7は横軸が投与剤の種類である。また縦軸が麻酔時間である。その結果、凍結乾燥後のDZP/L−PGDS complex投与群は、凍結乾燥前のDZP/L−PGDS complex投与群と麻酔時間が一致した。
【0063】
以上の結果から、DZP/L−PGDS complexは凍結乾燥による保存が可能であることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のPNCはDDSに好適に利用することができるほか、酸化若しくは還元による反応の試薬などにも利用することができる。
【符号の説明】
【0065】
11〜18 βストランド
19 αヘリックス
20 オメガループ(H2へリックス)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]