特許第5892649号(P5892649)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5892649高圧燃料ポンプ基準点検出方法及びコモンレール式燃料噴射制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5892649
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】高圧燃料ポンプ基準点検出方法及びコモンレール式燃料噴射制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/06 20060101AFI20160310BHJP
   F02M 55/02 20060101ALI20160310BHJP
   F02M 59/36 20060101ALI20160310BHJP
   F02D 41/02 20060101ALI20160310BHJP
【FI】
   F02D41/06 395
   F02M55/02 350E
   F02M59/36
   F02D41/02 395
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-30163(P2012-30163)
(22)【出願日】2012年2月15日
(65)【公開番号】特開2013-167187(P2013-167187A)
(43)【公開日】2013年8月29日
【審査請求日】2015年1月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003333
【氏名又は名称】ボッシュ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】金子 博隆
【審査官】 山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−307747(JP,A)
【文献】 特開平4−334740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00 − 45/00
F02M 55/02
F02M 59/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンクの燃料が高圧ポンプによりコモンレールへ加圧、圧送され、当該コモンレールに接続された燃料噴射弁を介してエンジンへ高圧燃料の噴射を可能としてなると共に、前記高圧ポンプの上流側に調量弁が設けられ、電子制御ユニットにより前記調量弁が駆動制御されて前記コモンレールのレール圧を制御可能に構成されてなるコモンレール式燃料噴射制御装置における高圧ポンプ基準点検出方法であって、
前記エンジンの始動時に、種々の経過時間に対するレール圧の変化を計測し、当該計測結果に基づいて、単位時間に対するレール圧の変化量であるレール圧傾きの変化を実レール圧傾き特性として算出し、前記実レール圧傾き特性と予め取得された基準となる基準レール圧傾き特性との比較により、前記高圧ポンプの基準点としてのプランジャの上死点と前記エンジンの上死点とのずれを検出し、
前記基準レール圧傾き特性は、高圧ポンプの上死点とエンジンの上死点とを一致させた状態において、エンジン始動時に計測された経過時間に対するレール圧の変化特性に基づいて、単位時間に対するレール圧の変化量を、高圧ポンプの回転軸の回転角度に対応させて算出されてなるものであり、
前記実レール圧傾き特性と前記基準レール圧傾き特性の比較による、前記高圧ポンプの基準点としてのプランジャの上死点と前記エンジンの上死点とのずれの検出は、予め定めた変曲点について、前記それぞれのレール圧傾き特性における位置を比較し、その位置ずれを求めることにより行われるものであり、
前記検出された位置ずれに対する燃料噴射量の補正係数を、予め定められた噴射量補正用係数変換テーブルを用いて算出し、補正後の燃料噴射量による燃料噴射を可能としたことを特徴とする高圧ポンプ基準点検出方法。
【請求項2】
燃料タンクの燃料が高圧ポンプによりコモンレールへ加圧、圧送され、当該コモンレールに接続された燃料噴射弁を介してエンジンへ高圧燃料の噴射を可能としてなると共に、前記高圧ポンプの上流側に調量弁が設けられ、電子制御ユニットにより前記調量弁が駆動制御されて前記コモンレールのレール圧を制御可能に構成されてなるコモンレール式燃料噴射制御装置であって、
前記電子制御ユニットは、
前記エンジンの始動時に、圧力センサの出力信号を入力し、前記圧力センサの出力信号に基づいて、前記エンジン始動時からの時間の経過に対するレール圧を算出し、前記算出されたレール圧に基づいて、単位時間に対するレール圧の変化量であるレール圧傾きの変化を実レール圧傾き特性として算出し、前記実レール圧傾き特性と予め取得された基準となる基準レール圧傾き特性との比較を行い、前記比較結果に基づいて前記高圧ポンプの基準点としてのプランジャの上死点と前記エンジンの上死点とのずれを検出し、
前記高圧ポンプの上死点とエンジンの上死点とを一致させた状態において、エンジン始動時に取得された経過時間に対するレール圧の変化特性に基づいて、単位時間に対するレール圧の変化量を、高圧ポンプの回転軸の回転角度に対応させて算出されてなる基準レール圧傾き特性が予め記憶される一方、
前記実レール圧傾き特性と前記基準レール圧傾き特性の比較による、前記高圧ポンプの基準点としてのプランジャの上死点と前記エンジンの上死点とのずれの検出を、予め定めた変曲点について、前記それぞれのレール圧傾き特性における位置を比較し、その位置ずれを求めることにより行い、
前記検出された位置ずれに対する燃料噴射量の補正係数を、予め定められた噴射量補正用係数変換テーブルを用いて算出するよう構成されて、補正後の燃料噴射量による燃料噴射を可能とするよう構成されてなることを特徴とするコモンレール式燃料噴射制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コモンレール式燃料噴射制御装置に係り、特に、高圧燃料ポンプとエンジンの回転位相のずれの解消等を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンなどの内燃機関の燃料噴射制御装置としては、高圧ポンプによって燃料を加圧して蓄圧器であるコモンレールに圧送して蓄圧し、蓄圧された高圧燃料をインジェクタへ供給することにより、インジェクタによる内燃機関への高圧燃料の噴射を可能としたコモンレール式燃料噴射制御装置が、燃費やエミッション特性等に優れるものとして知られており、さらなる動作特性の改善等を図ったものが種々提案、実用化されている。
かかるコモンレール式燃料噴射制御装置において、高圧ポンプは、いわゆる機械式のもので、エンジンの出力軸に接続されて駆動力を得ることにより、プランジャが往復動せしめられて、燃料の吸入、吐出が行われるようになっている。
【0003】
このような構成にあっては、高圧ポンプによる燃料の吐出タイミングとエンジンの回転位相とが所定の関係となるよう高圧ポンプとエンジンと組み付けられることが、エミッションの低減等の観点等から望ましい。
しかしながら、高圧ポンプの吐出タイミングとエンジンの回転位相とを所定の関係とするような組み付け作業は、作業時間を要するだけでなく、作業の熟練が必要とされるため、装置の高価格化を招く等の問題がある。
このような問題を解決する方策としては、例えば、高レール圧状態において、燃料吐出時の圧力変化に基づいて高圧燃料ポンプのプランジャの上死点の回転位置の検出を可能とした装置等が提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−163138号公報(第64−10頁、図1図3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の方策にあっては、高圧燃料ポンプのプランジャの上死点の回転位置を検出する際、レール圧を必ず高レール圧状態とする必要があるため、処理時間を要するだけでなく、高圧燃料部における燃料リークがあるコモンレール式燃料噴射制御装置を前提としたものであるため、燃料リークが十分抑圧された装置には適用できないという問題がある。
【0006】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、高圧ポンプの燃料の吐出タイミングとエンジンの回転位相との相対関係を簡易に検出することのできる高圧燃料ポンプ基準点検出方法及びコモンレール式燃料噴射制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係る高圧ポンプ基準点検出方法は、
燃料タンクの燃料が高圧ポンプによりコモンレールへ加圧、圧送され、当該コモンレールに接続された燃料噴射弁を介してエンジンへ高圧燃料の噴射を可能としてなると共に、前記高圧ポンプの上流側に調量弁が設けられ、電子制御ユニットにより前記調量弁が駆動制御されて前記コモンレールのレール圧を制御可能に構成されてなるコモンレール式燃料噴射制御装置における高圧ポンプ基準点検出方法であって、
前記エンジンの始動時に、種々の経過時間に対するレール圧の変化を計測し、当該計測結果に基づいて、単位時間に対するレール圧の変化量であるレール圧傾きの変化を実レール圧傾き特性として算出し、前記実レール圧傾き特性と予め取得された基準となる基準レール圧傾き特性との比較により、前記高圧ポンプの基準点としてのプランジャの上死点と前記エンジンの上死点とのずれを検出し、
前記基準レール圧傾き特性は、高圧ポンプの上死点とエンジンの上死点とを一致させた状態において、エンジン始動時に計測された経過時間に対するレール圧の変化特性に基づいて、単位時間に対するレール圧の変化量を、高圧ポンプの回転軸の回転角度に対応させて算出されてなるものであり、
前記実レール圧傾き特性と前記基準レール圧傾き特性の比較による、前記高圧ポンプの基準点としてのプランジャの上死点と前記エンジンの上死点とのずれの検出は、予め定めた変曲点について、前記それぞれのレール圧傾き特性における位置を比較し、その位置ずれを求めることにより行われるものであり、
前記検出された位置ずれに対する燃料噴射量の補正係数を、予め定められた噴射量補正用係数変換テーブルを用いて算出し、補正後の燃料噴射量による燃料噴射を可能としてなるものである。
また、上記本発明の目的を達成するため、本発明に係るコモンレール式燃料噴射制御装置は、
燃料タンクの燃料が高圧ポンプによりコモンレールへ加圧、圧送され、当該コモンレールに接続された燃料噴射弁を介してエンジンへ高圧燃料の噴射を可能としてなると共に、前記高圧ポンプの上流側に調量弁が設けられ、電子制御ユニットにより前記調量弁が駆動制御されて前記コモンレールのレール圧を制御可能に構成されてなるコモンレール式燃料噴射制御装置であって、
前記電子制御ユニットは、
前記エンジンの始動時に、圧力センサの出力信号を入力し、前記圧力センサの出力信号に基づいて、前記エンジン始動時からの時間の経過に対するレール圧を算出し、前記算出されたレール圧に基づいて、単位時間に対するレール圧の変化量であるレール圧傾きの変化を実レール圧傾き特性として算出し、前記実レール圧傾き特性と予め取得された基準となる基準レール圧傾き特性との比較を行い、前記比較結果に基づいて前記高圧ポンプの基準点としてのプランジャの上死点と前記エンジンの上死点とのずれを検出し、
前記高圧ポンプの上死点とエンジンの上死点とを一致させた状態において、エンジン始動時に取得された経過時間に対するレール圧の変化特性に基づいて、単位時間に対するレール圧の変化量を、高圧ポンプの回転軸の回転角度に対応させて算出されてなる基準レール圧傾き特性が予め記憶される一方、
前記実レール圧傾き特性と前記基準レール圧傾き特性の比較による、前記高圧ポンプの基準点としてのプランジャの上死点と前記エンジンの上死点とのずれの検出を、予め定めた変曲点について、前記それぞれのレール圧傾き特性における位置を比較し、その位置ずれを求めることにより行い、
前記検出された位置ずれに対する燃料噴射量の補正係数を、予め定められた噴射量補正用係数変換テーブルを用いて算出するよう構成されて、補正後の燃料噴射量による燃料噴射を可能とするよう構成されてなるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高圧ポンプの燃料の吐出タイミングとエンジンの回転位相とを簡易に検出できるので、製造工程における高圧ポンプとエンジンの組み付け状態を任意とすることができ製造工程における組み立て作業の簡素化を図ることができ、装置の低価格化を計ることができる。
また、検出された高圧ポンプの燃料の吐出タイミングとエンジンとの回転位相の相対関係に基づいて補正された燃料噴射量による燃料噴射を可能としたので、製造工程における高圧ポンプとエンジンの組み付け状態を任意にしても信頼性の高い燃料噴射制御が可能となり、安定、かつ、確実な装置動作を確保することができるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態におけるコモンレール式燃料噴射制御装置の構成例を示す構成図である。
図2】本発明の実施の形態における高圧燃料ポンプ基準点検出処理の手順を示すサブルーチンフローチャートである。
図3】本発明の実施の形態における高圧燃料ポンプ基準点検出処理において求められるエンジン始動時からのレール圧の変化特性を示す特性線図である。
図4】本発明の実施の形態における高圧燃料ポンプ基準点検出処理において取得される実レール圧傾き特性の例を基準レール圧傾き特性と共に示す特性線図である。
図5】通電時間と燃料噴射量の変化特性例を模式的に示す特性線図である。
図6】エンジンと高圧ポンプの位相が一致している場合の燃料噴射量の変化例と高圧ポンプの吐出量の変化例を模式的に示す模式図であって、図6(A)は燃料噴射量の変化例を模式的に示す模式図、図6(B)は高圧ポンプの吐出量の変化例を模式的に示す模式図である。
図7】エンジンと高圧ポンプの位相をずらした場合における燃料噴射量の変化例と高圧ポンプの吐出量の変化例を模式的に示す模式図であって、図7(A)は燃料噴射量の変化例を模式的に示す模式図、図7(B)は高圧ポンプの吐出量の変化例を模式的に示す模式図である。
図8】本発明の実施の形態における高圧燃料ポンプ基準点検出処理の実行のために予め必要とされる位相ずれ対燃料変化量特性の一例を模式的に示す特性線図である。
図9図8に示された位相ずれ対燃料変化量特性が通電時間と燃料噴射量の変化特性の一カ所のものであることを説明する説明図である。
図10図8に示された位相ずれ対燃料変化量特性が通電時間と燃料噴射量の変化特性の複数の点で取得された場合を説明する説明図である。
図11】位相ずれ対燃料変化量特性と逆特性を有する位相ずれに対する燃料噴射量の補正量変化特性を示す特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図1乃至図11を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、本発明の実施の形態における高圧燃料ポンプ基準点検出方法が適用されるコモンレール式燃料噴射制御装置の構成例について、図1を参照しつつ説明する。
本発明の実施の形態におけるコモンレール式燃料噴射制御装置は、高圧燃料の圧送を行う高圧ポンプ装置50と、この高圧ポンプ装置50により圧送された高圧燃料を蓄えるコモンレール1と、このコモンレール1から供給された高圧燃料をエンジン3の気筒へ噴射供給する複数のインジェクタ2−1〜2−nと、燃料噴射制御処理や後述する圧力センサ診断処理などを実行する電子制御ユニット(図1においては「ECU」と表記)4を主たる構成要素として構成されたものとなっている。
かかる構成自体は、従来から良く知られているこの種の燃料噴射制御装置の基本的な構成と同一のものである。
【0011】
高圧ポンプ装置50は、供給ポンプ5と、調量弁6と、高圧燃料ポンプ(以下「高圧ポンプ」と称する)7とを主たる構成要素として公知・周知の構成を有してなるものである。
かかる構成において、燃料タンク9の燃料は、供給ポンプ5により汲み上げられ、調量弁6を介して高圧ポンプ7へ供給されるようになっている。調量弁6には、電磁式比例制御弁が用いられ、その通電量が電子制御ユニット4により制御されることで、高圧ポンプ7への供給燃料の流量、換言すれば、高圧ポンプ7の吐出量が調整されるものとなっている。
【0012】
なお、供給ポンプ5の出力側と燃料タンク9との間には、戻し弁8が設けられており、供給ポンプ5の出力側の余剰燃料を燃料タンク9へ戻すことができるようになっている。
また、供給ポンプ5は、高圧ポンプ装置50の上流側に高圧ポンプ装置50と別体に設けるようにしても、また、燃料タンク9内に設けるようにしても良いものである。
燃料噴射弁2−1〜2−nは、エンジン3の気筒毎に設けられており、それぞれコモンレール1から高圧燃料の供給を受け、電子制御ユニット4による噴射制御によって燃料噴射を行うようになっている。かかる本発明の実施の形態における燃料噴射弁2−1〜2−nは、例えば、従来から用いられているいわゆる電磁弁タイプのものなどが好適である。
【0013】
電子制御ユニット4は、例えば、公知・周知の構成を有してなるマイクロコンピュータを中心に、RAMやROM等の記憶素子(図示せず)を有すると共に、燃料噴射弁2−1〜2−nを通電駆動するための回路(図示せず)や、調量弁6等を通電駆動するための回路(図示せず)を主たる構成要素として構成されたものとなっている。
かかる電子制御ユニット4には、コモンレール1の圧力を検出する圧力センサ11の検出信号が入力される他、エンジン回転数、アクセル開度、外気温度、大気圧などの各種の検出信号が、エンジン3の動作制御や燃料噴射制御に供するために入力されるようになっている。
【0014】
次に、電子制御ユニット4によって実行される本発明の実施の形態の高圧燃料ポンプ基準点検出処理について、図2乃至図4を参照しつつ説明する。
まず、本発明の実施の形態における高圧ポンプ基準点検出処理について概括的に説明する。
先に説明したコモンレール式燃料噴射制御装置において、高圧ポンプ7は良く知られているように、エンジン3の回転駆動力によりプランジャ(図示せず)が往復動せしめられて、燃料の吸入、吐出が行われるようになっているものである。したがって、正確な燃料噴射制御を行うためには、高圧ポンプ7による燃料の吐出タイミングとエンジン3の回転位相とが予め所定の関係となるよう高圧ポンプ7とエンジン3の組み付けが行われる必要があるが、この組み付け作業は、時間を要するだけでなく、熟練が必要とされる。また、仮に、組み付けを行っても作業者の熟練度が十分でない場合には、所望される精度での組み付けが確保できないこともある。
【0015】
本発明の実施の形態における高圧ポンプ基準点検出処理は、高圧ポンプ7の燃料吐出タイミングとエンジン3の回転位相との相関関係が、基準となる相関関係に対してどの程度ずれを有しているかをエンジン3の始動の際に検出し、その検出結果に基づいて、燃料噴射量の補正を行い、本来必要とされる燃料噴射量での燃料噴射を可能としたものである。
したがって、かかる高圧ポンプ基準点検出処理をコモンレール式燃料噴射制御装置に適用することにより、エンジン3の製造ラインにおいて高圧ポンプ7の組み付けを行う際には、高圧ポンプ7による燃料の吐出タイミングとエンジン3の回転位相の相互の関係を何ら考慮することなく任意に組み付け可能となる。
なお、従来、エンジンへの高圧ポンプの組み付け時においては、高圧ポンプの回転位相とエンジンの回転位相とを合わせるために、高圧ポンプのカムシャフト及びエンジンのドライブシャフトの双方、あるいは、いずれか一方に、位置合わせ用の突起等を形成していたが、本発明を適用することにより、その必要が無くなるため、従来に比して製造が容易となり、製造コストの低減が図られることになる。
【0016】
以下、本発明の実施の形態における高圧ポンプ基準点検出処理手順について、図2を参照しつつ具体的に説明すれば、まず、エンジン3の始動が電子制御ユニット4において確認される(図2のステップS102参照)と、レール圧の測定が行われる(図2のステップS104参照)。
本発明の実施の形態における高圧ポンプ基準点検出処理は、エンジン始動時からレール圧が目標レール圧となるまでの間、レール圧が、時間の経過と共に高圧ポンプ7の吐出、吸入動作にほぼ対応して、例えば、図3に示されたように、増加と停滞(又は、低下)を繰り返してゆく現象を示すことを利用したものであるため、ステップS104においては、かかるエンジン始動時におけるレール圧変化のデータの取得が行われる。
【0017】
図3において、レール圧が時間の経過と共に上昇している箇所は、高圧ポンプ7の燃料吐出行程に対応しており、レール圧が停滞、又は、漸減している箇所は、高圧ポンプ7の燃料吸入行程に対応している。
レール圧の計測は、レール圧が目標レール圧に達するまで、又は、目標レール圧に対して所定の許容範囲となるまで、所定の時間間隔で圧力センサ11の出力信号を電子制御ユニット4に読み込むことで行われ、電子制御ユニット4の適宜な記憶領域に記憶される。なお、所定の時間間隔としては、電子制御ユニット4の処理能力等を考慮して適宜選定されるべきもので、例えば、1ms毎に、計500msの間、圧力センサ11の出力信号の読み込みを行う、すなわち、500回の読み込みを行うこと等が考えられるが、勿論、これに限定される必要はない。
【0018】
次いで、上述のようにして取得されたレール圧変化について、レール圧の傾きの算出が行われる(図2のステップS106参照)。
すなわち、レール圧の傾き(レール圧変化量)は、単位時間Δtにおけるレール圧の変化量Δpの除算結果として算出されることとなる。
本発明の実施の形態においては、高圧ポンプ7の燃料吐出タイミングとエンジン3の回転位相との相関関係が所定の関係に設定された基準としてのコモンレール式燃料噴射装置において、上述したエンジン始動時におけるレール圧の傾きが予め取得されており、基準データとして(以下、説明の便宜上「基準レール圧傾き」と称する)、電子制御ユニット4の適宜な記憶領域に記憶されているものとする。なお、高圧ポンプ7の燃料吐出タイミングとエンジン3の回転位相との所定の関係としては、例えば、エンジン3の上死点と高圧ポンプ7のプランジャ(図示せず)の上死点とが一致するように組み付けられた状態が、後述するように実際の装置におけるエンジン3の上死点と高圧ポンプ3プランジャ(図示せず)の上死点のずれを検出するのに好適である。
【0019】
図4には、上述の基準レール圧傾きの特性例が実線の特性線により示されている。この例は、先に述べたエンジン3の上死点と高圧ポンプ7のプランジャ(図示せず)の上死点とが一致するように組み付けられた基準となるコモンレール式燃料噴射制御装置におけるレール圧の傾きの変化例を表したものである。なお、図4において、縦軸はレール圧の傾きΔp/Δtを示し、横軸は高圧ポンプ7の回転角度を示している。
この実線で表されたレール圧の傾きΔp/Δtは、高圧ポンプ7の回転開始と共に燃料圧送が開始されると、回転角度の変化と共に正の値で増加し、比較的短時間である値に達し、その後しばらく一定状態となる。なお、ここで、レール圧の傾きΔp/Δtが一定状態となるのは、あくまでも一例であり、この部分の変化は、高圧ポンプ7におけるカムプロファイルによって定まるものであり、必ずしも一定状態とは限らない。
そして、上死点(図4において「TDC」と表記)のやや手前付近から低下し始めるものとなっており、高圧ポンプ7のプランジャ(図示せず)が上死点に達したところで、Δp/Δtは零となり、高圧ポンプ7が吸入行程に移行する。吸入行程においては、Δp/Δtは回転角度の変化と共に負の値で増加し、比較的短時間である負の値に達し、その後しばらく一定状態となる。そして、吸入行程の終了のやや手前付近からΔp/Δtは増加に転じ、吸入行程から吐出行程の切り替わりの際に、Δp/Δtは丁度零を過ぎる特性となっている。
【0020】
なお、上述の基準レール圧傾き特性は、横軸がポンプ角度となっているが、これは、エンジン3の回転位相を基に求められるものである。
すなわち、まず、ポンプ角度は、高圧ポンプ7の回転軸の角度、換言すれば、プランジャ(図示せず)の位置に相当するものである。
一方、図3に示されたレール圧変化は、先に述べたように、エンジン3の上死点と高圧ポンプ7のプランジャ(図示せず)の上死点とが一致するように組み付けられた状態で取得されたものであり、エンジン3の回転軸の回転角度から高圧ポンプ7のポンプ角度との相対関係は、事前に把握されており、しかも、エンジン3の回転角度は、エンジン回転数を検出する回転センサ(図示せず)の出力信号によって把握できるものとなっているため、結局、エンジン3の回転角度を基に、高圧ポンプ7のポンプ角度に置換することができる。
【0021】
一方、ステップS106において実際に算出されたレール圧の傾きΔp/Δt、すなわち、高圧ポンプ7の燃料吐出タイミングとエンジン3の回転位相との相対関係が考慮されずに取り付けられたコモンレール式燃料噴射制御装置のレール圧の傾きΔp/Δt(以下、説明の便宜上「実レール圧傾き」と称する)は、例えば、図4において点線の特性線で示された如くとなる。
しかして、上述の実レール圧傾き算出後は、基準レール圧傾きとの比較が行われることとなる(図2のステップS108参照)。
【0022】
まず、図4において、点線で表された実レール圧傾き特性は、その特性線自体は、同図において実線で表された基準レール圧傾き特性とほぼ同様の傾向(相似形)を有するものであるが、基準レール圧傾き特性に対してポンプ角度でのずれがあるものとなっている。すなわち、Δp/Δtの正の値がほぼ一定状態から減少を開始する変曲点の位置で、基準レール圧傾き特性と実レール圧傾き特性とを比較すると、例えば、図4の基準レール圧傾きの特性線において、Δp/Δtの正の値がほぼ一定状態から減少を開始する変曲点aに対して、実レール圧傾きの特性線において、同様の変曲点bは、変曲点aに対して、ポンプ角度でΔφのずれを生じたものとなっている。
【0023】
このずれは、高圧ポンプ7の燃料吐出タイミングとエンジン3の回転位相との相対関係を考慮せずに任意に取り付けたことによるもので、ずれの大きさは、高圧ポンプ7のプランジャ(図示せず)の上死点(基準点)と、エンジン3のプランジャ(図示せず)のずれの大きさを示すものである。
しかして、実レール圧傾き特性と基準レール圧傾き特性との比較により、上述のずれの大きさ、すなわち、ずれ量が算出されることとなる(図2のステップS110参照)。
ずれ量は、先に述べたように変曲点の位置における比較によって求めるのが好適である。
ここで、変曲点の位置は、例えば、先に述べた変曲点a、bは、Δp/Δtが一定値からの減少開始する点であるので、算出されたΔp/Δtの変化から識別可能である。なお、ずれ量の算出の際に基準とする変曲点は、変曲点a、変曲点bのいずれでも良い。
【0024】
次いで、上述のようにして求められたずれ量に基づいて、燃料噴射量を補正するための係数である噴射量補正用係数が決定されることとなる(図2のステップS112参照)。そして、ステップS112の処理によって、一連の処理が終了されて、図示されないメインルーチンへ戻ることとなり、ステップS112で決定された噴射量補正用係数を用いて燃料噴射量が補正されて、燃料噴射が行われることとなる。
ここで、噴射量補正用係数は、次述するように、基準とされたコモンレール式燃料噴射制御装置を基にして予め取得されたずれ量と必要な燃料噴射量の補正との相関関係に基づいて決定されるものとなっている。
【0025】
次に、予め取得されるずれ量と必要な燃料噴射量の補正との相関関係について、図5乃至図11を参照しつつ説明する。
まず、予め取得されるべきデータの一つとして、燃料噴射弁2−1〜2−nの通電時間に対する燃料噴射量特性がある。図5には、かかる燃料噴射特性の例が示されている。この燃料噴射量特性は、複数のレール圧(P1、P2、・・・、Pn)について、それぞれ取得されることが好ましい(図5参照)。なお、図5において、ETは通電時間を、Qは燃料噴射量を、それぞれ表している。
【0026】
この燃料噴射量特性の取得においては、先に説明した基準レール圧傾きを取得した際の装置の条件と同一とするのが好適である。すなわち、エンジン3の上死点と高圧ポンプ7のプランジャ(図示せず)の上死点とが一致するように組み付けられた状態(図6参照)で行われるのが好適である。なお、図6は、エンジン3の上死点と高圧ポンプ7のプランジャ(図示せず)の上死点とが一致していることを模式的に表すと共に、図6(A)においてはエンジンの回転に伴う圧縮、吸入行程の変化を、図6(B)においては高圧ポンプの回転に伴う燃料の吐出
、吸入行程の変化を、それぞれ模式的に表したものとなっている。
【0027】
次に、エンジン3の上死点と高圧ポンプ7の上死点の位相をずらし、燃料噴射量の変化量(以下、説明の便宜上「位相ずれ対燃料変化量特性」と称する)を取得する。
この位相ずれ対燃料変化量特性は、エンジン3の上死点と高圧ポンプ7の上死点を一致させ、あるレール圧、ある燃料噴射量を噴射する状態を基準として、エンジン3の上死点と高圧ポンプ7の上死点の位相を種々にずらした場合(図7参照)の燃料噴射量の変化量を計測した結果である。なお、位相をずらす場合、細かなピッチで行うのが好適であるが、そのピッチの大きさは特定の値に限定されるものではなく、任意に設定されるべきものである。また、位相をずらす範囲は、360度分とするのが好適である。なお、位相をずらす範囲を360度とするのは、1カムの構成の場合であり、2カムの構成の場合は180度で良く、また、3カムの構成の場合は120度で良い。
【0028】
図8には、かかる位相ずれ対燃料変化量特性の一例が示されており、横軸はエンジン3の上死点と高圧ポンプ7の上死点の位相が一致した状態からの位相のずれを示し、縦軸はエンジン3の上死点と高圧ポンプ7の上死点の位相が一致した状態での燃料噴射量を基準とした場合の燃料噴射量の変化量ΔQを示している。
なお、図8において、「E_TDC」はエンジン3の上死点を、「P_TDC」は高圧ポンプ7の上死点を、それぞれ意味する。
【0029】
この図8の特性線は、任意に選択したレール圧、通電時間(燃料噴射量)を基準として、位相ずれを生じさせた場合のものであり、燃料噴射量特性で表せばある一点(図9参照)での測定結果であるので、レール圧、通電時間(燃料噴射量)を種々に変えて同様な特性を複数取得する(図10参照)。
なお、図10は、取得された位相ずれ対燃料変化量特性が、燃料噴射量特性のいずれの点におけるものかを白抜きの点で表したものである。
しかして、位相ずれによって生ずる燃料噴射量の変化を打ち消して、本来の燃料噴射量とするために必要な燃料噴射量の補正は、位相ずれに対して、先に取得された位相ずれ対燃料変化量特性と逆特性のものとなる。図11には、一例が示されており、同図において点線の特性線は、位相ずれに対する燃料噴射量の補正量を表しており、同図において実線で表された位相ずれ対燃料変化量特性に対して逆特性となっている。
先に述べたように位相ずれ対燃料変化量特性は複数取得されるものであるので、上述の逆特性は、個々の位相ずれ対燃料変化量特性毎に求めることとなる。
【0030】
次に、上述のように取得された個々の位相ずれに対する燃料噴射量の補正量を基に、噴射量補正用係数の算出を行い、これを電子制御ユニット4の適宜な記憶領域に記憶させる。
まず、位相のずれがないとした場合のある燃料噴射量を仮にQsとし、補正後の燃料噴射量を仮にQmとし、さらに、噴射量補正用係数を仮にKmとすると、本発明の実施の形態における噴射量補正用係数は、Qm=Km×Qsと用いられるものであるとする。
【0031】
一方、上述した補正量ΔQは、位相のずれが無いとした場合の燃料噴射量Qsに対して加算、又は、減算されるべき量である。すなわち、補正後の燃料噴射量Qmは、Qm=Qs±ΔQとして求められ、これは、Qm=Qs±ΔQ=(1±ΔQ/Qs)Qsと整理できる。
したがって、噴射量補正用係数Kmは、Km=(1±ΔQ/Qs)と求められることとなる。
【0032】
上述のようにして求めた噴射量補正用係数Kmは、噴射量補正用係数Kmが求められる際の実レール圧と、その際、従来同様にして燃料噴射制御処理によって算出された目標燃料噴射量と、その際に先のステップS110の処理で求められた位相ずれ量を入力として、これに対応する噴射量補正用係数Kmが読み出されるよう、いわゆる変換テーブル化したものを、電子制御ユニット4の適宜な記憶領域に予め記憶させて、先のステップS112において用いることができるようにするのが好適である。
なお、上述のように計測データに基づいて求められた噴射量補正用係数Kmはレール圧及び目標燃料噴射量に対して離散的であるので、不足する箇所については一般的な補完法などにより求めるようにすると好適である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
エンジンの上死点と高圧ポンプの上死点の位相を考慮することなく組み立て作業が所望されるコモンレール式燃料噴射制御装置に適する。
【符号の説明】
【0034】
1…コモンレール
2−1〜2−n…燃料噴射弁
3…エンジン
4…電子制御ユニット
7…高圧ポンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11