(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5892687
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】風味改善ペプチド
(51)【国際特許分類】
A23L 27/21 20160101AFI20160310BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20160310BHJP
【FI】
A23L1/227 B
A23L1/22 ZZNA
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-151249(P2011-151249)
(22)【出願日】2011年7月7日
(65)【公開番号】特開2013-17402(P2013-17402A)
(43)【公開日】2013年1月31日
【審査請求日】2014年5月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000169466
【氏名又は名称】高砂香料工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102668
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 憲生
(72)【発明者】
【氏名】河野 正晴
(72)【発明者】
【氏名】池内 正人
【審査官】
白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−182414(JP,A)
【文献】
特開2003−104997(JP,A)
【文献】
特開2007−267609(JP,A)
【文献】
特開2004−267126(JP,A)
【文献】
特開2006−081502(JP,A)
【文献】
J. Sci. Food Agric.,1980年,vol.31,pp.23-30
【文献】
J. Agric. Food Chem.,2006年,vol.54,pp.10102-10111
【文献】
Biochimica et Biophysica Acta,2005年,vol.1721,pp.89-97
【文献】
Agric. Biol. Chem.,1987年,vol.51 no.9,pp.2389-2394
【文献】
Journal of Peptide Science,2007年,vol.13,pp.63-69
【文献】
Agr. Biol. Chem.,1973年,vol.37 no.10,pp.2427-2428
【文献】
JOURNAL OF FOOD SCIENCE,1991年,vol.56 no.4,pp.943-947
【文献】
FISHERIES SCIENCE,2002年,vol.68,pp.921-928
【文献】
Int. J. Pept. Res. Ther.,2010年,vol.16,pp.111-121
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00−27/40
A23L 27/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
REGISTRY(STN)
CA/MEDLINE/BIOSIS(STN)
PubMed
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Val−Pro及びLeu−Leu−Leuの配列からなる2種のペプチドを含有してなる、発酵乳の酸味のマスキング、人工甘味料の後切れ改善、又は乳のコク味の増強のために用いられる風味改善剤であって、
前記風味改善剤におけるVal−ProとLeu−Leu−Leuとの質量比が、9:1〜3:7である、
風味改善剤。
【請求項2】
請求項1に記載の風味改善剤、及び香料を含有してなる香料組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の風味改善剤を添加してなる飲食品。
【請求項4】
請求項1に記載の風味改善剤を飲食品に添加することを特徴とする、飲食品の風味を改善する方法。
【請求項5】
風味改善剤の添加量が、飲食品に対して10ppb〜100ppmである請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のペプチドを含有する風味改善剤及びそれらを添加して得られる食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の食生活の多様化や安心安全や健康志向の高まりの中で、特に酸味のある食品が多数提供されてきている。
酢酸や乳酸などの酸は、食品の保存性を高めるだけでなく、健康志向食品としても重要となってきている。しかし、酸味、苦味、渋味、えぐ味などが余りに強くなると摂食が困難となる。例えば、乳酸菌飲料において長期間保存しておくと、発酵が進みすぎて酸味が強くなりすぎ賞味できなくなるという問題も発生してきている。また、ダイエットの観点から、甘味としてカロリーの少ない人工甘味料が多用される傾向になってきているが、人工甘味料には独特の後味の悪さがあり、嗜好性を低下させるという問題がある。
【0003】
従来からペプチドの呈味性については調べられてきたが、ペプチドがもつ苦味に関するものやその改善方法に関するものが多かった(非特許文献1、特許文献1)。一方、飲食品の品質や価値の向上につながるペプチドとしては、節類抽出残渣の加水分解中に見出されたTyr−Glu−Glu−Glu又はTyr−Glu−Glu−Aspで示される4残基のペプチド(特許文献2)や、豚肉の水抽出物中に見出されたAla−Pro−Pro−Pro−Pro−Ala−Glu−Val−His−Glu−Val−Valなどの11残基超のペプチド(特許文献3)、α−ラクトアルブミンなどの乳蛋白質の酵素分解物中に見出されたTrp−Val、Trp−Tyr、Tyr−Trp、Trp−Ile、Trp−Leu又はGlu−Ile−Leuの配列からなるコク味、旨味及びボリューム感の増大などの風味改善作用を有するペプチド(特許文献4)、卵白を加水分解して得られる分子量200〜20000のペプチド(特許文献5)などが知られている。
しかしながら、上記の先行技術に記載の呈味改善剤は単にコク味や旨味を付与・増強するだけの効果であったり、またその他の呈味改善効果についても必ずしも効果が十分ではなく、特に酸味マスキング効果や人工甘味料の後切れ改善効果については不十分であった。
また、アンジオテンシン変換酵素阻害活性を有するトリペプチドであるIle−Pro−Pro又はVal−Pro−Proが、抗ストレス剤として使用されることも報告されている(特許文献6参照)が、このペプチドは本発明のペプチドとは相違しているし、風味改善作用は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−168066号公報
【特許文献2】特開2002−255994号公報
【特許文献3】特開2001−89500号公報
【特許文献4】特開2006−160649号公報
【特許文献5】特開2005−336067号公報
【特許文献6】特開平11−100328号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. Agric. Food. Chem. 2006, 54, 10102-10111
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、乳由来の風味改善作用を有するペプチド及びそれを含有する風味改善剤の提供及びそれを含有する食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、乳製品による風味改善作用に着目し、鋭意研究したところ、乳タンパク質の加水分解物にも同様な作用があることを見出し、さらに検討してきた結果、特定のペプチドが強い風味改善作用を有していることを見出した。
即ち、本発明は、Val−Pro及びLeu−Leu−Leuのみからなる群からなるペプチドから選ばれる1種又は2種の混合物からなるペプチドを含有してなる風味改善剤に関する。
また、本発明は、Val−Pro及びLeu−Leu−Leuのみからなる群からなるペプチドから選ばれる1種又は2種の混合物からなるペプチドを、食品の風味を改善するために添加してなる食品又は飲料(飲食品)に関する。
【0008】
本発明は以下の内容を含むものである。
[1]Val−Pro及び/又はLeu−Leu−Leuの配列からなるペプチドを含有してなる風味改善剤。
[2]Val−Pro及びLeu−Leu−Leuの混合物におけるVal−Pro:Leu−Leu−Leuの質量比が、9:1〜1:9である前記[1]に記載の風味改善剤。
[3]Val−Pro又はLeu−Leu−Leuが、乳又は乳製品の酵素処理物であることを特徴とする前記[1]又は[2]のいずれかに記載の風味改善剤。
[4]酵素処理物が、プロテアーゼ処理物であることを特徴とする前記[3]に記載の風味改善剤。
[5]風味改善剤が、発酵乳の酸味改善、人工甘味料の後切れ改善、又は乳のコク味の増強効果を有する前記[1]〜[4]のいずれかに記載の風味改善剤。
[6]前記[1]〜[5]のいずれかに記載の風味改善剤(ペプチド)を添加してなる飲食品(食品又は飲料)。
【0009】
[7]前記[1]〜[5]のいずれかに記載の風味改善剤(ペプチド)を飲食品に添加することを特徴とする、飲食品の風味を改善する方法。
[8]風味改善剤の添加量が、飲食品に対して10ppb〜100ppmである前記[7]に記載の方法。
[9]前記[1]〜[5]のいずれかに記載のペプチド、及び食品として許容される担体を含有してなる食品の風味改善組成物。
[10]風味改善組成物が、食品添加剤である前記[9]に記載の風味改善組成物。
[11]前記[1]〜[5]のいずれかに記載の風味改善剤(ペプチド)を含有してなる香料組成物。
[12]風味改善剤としてのペプチドが、1ppm〜10%含有されてなる前記[11]に記載の香料組成物。
[13]香料が、乳系フレーバー、フルーツ系フレーバー、シトラス系フレーバー、バニラ系フレーバー、コーヒー系フレーバー、洋酒系フレーバー、発泡酒・ビール系フレーバー、及び茶系フレーバーからなる群から選ばれる前記[11]又は[12]に記載の香料組成物。
[14]食品の風味改善組成物として使用するための、Val−Pro又はLeu−Leu−Leuの配列からなるペプチド。
【発明の効果】
【0010】
本発明の風味改善剤を添加することにより、酸味がマスキングされた飲食品や人工甘味料の後切れが改善された飲食品など嗜好性の高い飲食品を提供することができる。
また、本発明の風味改善剤は、風味改善作用が強く、酸味が強く健康に良いとされている各種の健康食品の呈味を改善して飲食を容易とすることができる。さらに、乳酸発酵が継続している飲食品は長期間にわたって保存しておくと酸味が強くなり過ぎ、飲食に適さなくなるが、本発明の風味改善剤の添加により酸味を改善できることから、乳発酵製品の飲食可能な期間を延長させることも可能となる。また、本発明の風味改善剤は、人工甘味料の後味感を改善することができるので、人工甘味料を嗜好性を低下させることなく添加することも可能となり、呈味の優れたダイエット食品を提供することができる。
さらに、本発明の風味改善剤は、ジ又はトリペプチドからなるものであり、化学合成によっても製造することが容易であり、安価で安全な風味改善剤を工業的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明で用いられるペプチドは、ペプチド合成装置を用いた固相法、液相法などの化学合成法により調製されたものでもよく、また遺伝子工学的手法や酵素工学的手法を用いて調製されたものでもよい。このようにして製造されたペプチドは、遊離のものとして使用されるが、それらのカルボン酸塩であってもよいし、またメチルエステルやエチルエステルのような炭素数1から10程度のアルキルエステルであってもよい。アミノ末端のアミノ基も遊離のものが好ましいが、塩酸塩などの塩であってもよく、また炭素数1から10程度のアシル基などで修飾されているものであってもよい。
さらに該ペプチドは該アミノ酸配列を有するタンパク質を原料に、酸又は酵素によって加水分解して得られたものでもよい。
該アミノ酸配列を有するタンパク質としては乳蛋白質が好ましく、例えばα−S1−カゼイン、α−S2−カゼイン、β−カゼイン、κ−カゼインなどの各種カゼインやβ−ラクトグロブリンなどのホエイタンパク質など、該アミノ酸配列を有するタンパク質であれば特に限定はない。また、前記蛋白質を含有する乳及び乳製品も、本発明に適用する好ましい蛋白質含有材料である。
【0012】
乳としては、例えば、牛乳のほか、山羊乳、羊乳、水牛乳、ロバ乳等が挙げられるが、特に牛乳が好ましい。乳製品としては、例えば、脱脂粉乳、全粉乳、脱脂濃縮乳、濃縮乳、バターミルク、濃縮バターミルク、バターミルクパウダー、チーズ、ホエーパウダー、WPC/WPI、MPC/MPI(TMP)、酸カゼイン、カゼイネートなどが挙げられる。
本発明に用いられる酵素は蛋白質分解酵素であり、プロテアーゼ又はペプチダーゼとも呼ばれ、ペプチド結合の加水分解反応を触媒する酵素であり、微生物起源、植物起源、及び動物の臓器起源のものを使用することができる。このようなタンパク質分解酵素として、例えば、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、金属プロテアーゼなどのエンドペプチダーゼ及びアミノペプチダーゼ、ジペプチダーゼ、ジペプチジルアミノペプチダーゼ、ジペプチジルカルボキシペプチダーゼ、セリンカルボキシペプチダーゼ、金属カルボキシペプチダーゼなどのエキソペプチダーゼが挙げられる。これらの酵素は市販されており、容易に入手が可能である。
【0013】
具体的な酵素としては、例えば、パパインW−40、プロテアーゼA「アマノ」SD、プロテアーゼM「アマノ」SD、プロテアーゼP「アマノ」3SD、プロテアーゼN「アマノ」G、プロテアックス、ウマミザイムG、ブロメラインF(以上、天野エンザイム社製)、コクラーゼP(三共社製)、フレーバーザイム1000L、アルカラーゼ2.4L、ニュートラーゼ0.5
L、プロタメックス(以上、novozymes社製)、パパイン、デナプシン10P、ビオプラーゼSP−4(以上、ナガセケムテックス社製)、プロテアーゼYP−SS(ヤクルト薬品工業社製)などが挙げられる。
これらの蛋白質分解酵素は単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。また酵素は、一度に添加しても良いが、2〜3回に分けて添加し、酵素反応を行っても良い。
【0014】
蛋白質分解酵素の使用量は、酵素の種類あるいは酵素活性などによって異なるが、乳タンパク質1gに対して一般に約10unit〜約100000unitの範囲内を例示することができる。
また酵素反応温度は特に制限はなく、酵素活性の発現する最適温度を含む範囲内とするが、一般には20〜60℃とすることが好ましい。また酵素反応時間は特に制限はないが、1〜96時間とすることが好ましい。なお、酵素処理時のpHも酵素反応が進行する限り特に限定されないが、好ましい範囲としてpH4〜9が挙げられる。また特にpHを調整しなくてもよい。
酵素処理終了後、酵素処理液は使用した蛋白質分解酵素の失活条件に見合った温度・時間で加熱して失活させることが好ましい。例えば、70〜90℃で10〜60分間加熱して酵素を失活させることが好ましい。
【0015】
これらの方法により得られた該ペプチド含有物をそのまま風味改善剤として用いることができるが、さらに精製した物を風味改善剤として用いることもできる。該ペプチドの精製方法は特に制限されるものではなく、一般には合成吸着剤、イオン交換樹脂及び疎水性クロマトグラフィーでカラム分画する方法や、ゲル濾過などにて分子量分画する方法などにより分離・濃縮する方法などによっても行うことができる。
本発明の風味改善剤は、Val−Pro又はLeu−Leu−Leuを単独で使用してもよいが、Val−Pro及びLeu−Leu−Leuの2種を混合して使用することもできる。混合して使用する場合の混合比としては、Val−Pro:Leu−Leu−Leuの質量比が、1:9から9:1、好ましくは9:1から3:7とすることができる。
また、本発明の風味改善剤の利用形態は特に制限されるものではなく、本発明のペプチドを単体で使用してもよいが、食品用の担体と組み合わせて風味改善組成物として、液状、粉末状、顆粒状、乳液状、ペースト状、及びその他の形態に適宜調製して風味改善剤とすることができる。
【0016】
また、本発明の風味改善剤は、他のアミノ酸や核酸類などの調味成分と混合して調味料として使用することもできる。調味料として使用する場合には本発明の風味改善剤を、調味料全体の0.1ppmから10%、好ましくは0.1ppmから1%程度含有させるのが好ましい。
また、本発明の風味改善剤は、香料と組み合わせて香料組成物として使用することも可能である。前記の香料としては、例えば、乳系フレーバー、ストロベリーやアップル等のフルーツ系フレーバー、シトラス系フレーバー、バニラ系フレーバー、コーヒー系フレーバー、洋酒系フレーバー、発泡酒・ビール系フレーバー、紅茶・ウーロン茶・緑茶などの茶系フレーバー又は茶フレーバー等が挙げられる。香料組成物として使用する場合には、本発明の風味改善剤を香料組成物全体に対して、1ppmから10%、好ましくは1ppmから1%程度添加したものが好ましい。
本発明のペプチドにより風味改善効果が得られる食品としては、酸味のある食品や人工甘味料を含有する食品であれば特に制限はないが、好ましい食品としては、例えば、発酵乳製品、乳酸菌飲料、人工甘味料を使用した飲食品が挙げられる。また、本発明の風味改善剤は、乳のコク味を増強することができることから、カフェオレやミルクティーなどの乳又は乳製品を使用した飲食品に使用することもできる。
前記食品に対する本発明のペプチドの添加量は、食品の種類や剤形によっても異なるが、一般的には10ppb〜100ppm、好ましくは10ppb〜10ppm添加することにより、食品の風味を有効に改善することができる。
本発明の風味改善効果としては、発酵乳の酸味マスキング効果又は人工甘味料の後切れ改善効果、乳のコク味増強効果等が挙げられる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
[実施例1](ペプチドの調製及び同定)
1.酵素分解によるペプチド混合物の製造
TMP(H)(トータルミルクプロテイン、森永乳業製)24gをイオン交換水70gに溶解し加熱殺菌後、水6mLにプロテアーゼA2Gを0.5g、プロテアーゼNGを0.1g、フレーバーザイム1000Lを0.3gずつ溶解して得た酵素溶液を添加して攪拌しながら32℃にて24時間の酵素反応を行った。その後、熱失活してペプチド混合物を得た。
【0018】
2.ペプチド混合物のUF膜による分画
前記1で得られたペプチド混合物を遠心分離(20000G)して得られた水層を20nm、5kDa、1kDaのそれぞれのUF膜で処理し、透過液を回収した。得られた各UF膜透過液、又は処理前のペプチド混合物を市販のドリンクヨーグルトに添加し10℃、10日間保存した後に酸味マスキング効果について5名の専門パネルで官能評価した。なお添加量はペプチド混合物に換算して0.1%となるように各サンプルを調製した。また、対照として無添加の市販のドリンクヨーグルトを使用した。評価方法は以下の表1に示す0から3点までの0.5点刻みで採点した。
【0019】
【表1】
【0020】
この結果を次の表2に示す。
【0021】
【表2】
【0022】
この結果、1kDa膜透過液に、処理前のペプチド混合物と同等以上の風味改善効果が有ることが確認された。
3.1kDa膜透過液のHPLCによる分画
上記の官能検査の結果から、1kDa膜透過液についてさらにHPLCにて分画を進めた。1kDa膜透過液について以下の条件にてAフラクションからMフラクションまでの13フラクションに分画した。
Column:ODS−2(φ20×250mm)
Eluent:水/エタノール
Flow rate:3.0mL/min.
Detector:UV(220nm)
Temp:40℃
【0023】
前記2と同様に、市販のドリンクヨーグルトに得られた13フラクションをそれぞれ添加し10℃、10日間保存した後に酸味マスキング効果について5名の専門パネルで官能評価した。ペプチド混合物に換算して0.1%となるように各サンプルを調製した。評価方法は前記2と同じである。その結果、フラクションEで、前記1で得られたペプチド混合物と同等の高い風味改善効果が確認された。
【0024】
4.このフラクションについてさらに以下の条件にてHPLC(ゲル濾過タイプカラム)分画を行い、E−1フラクションからE−4フラクションの4フラクションに分けた。
Column:Shodex SB401−4E(4.6mmI.D.×250mmL)
Eluent:H
2O
Flow rate:0.2mL/min.
Detector:UV(220nm)
Temp:30℃.
【0025】
前記2と同様に、市販のドリンクヨーグルトに得られた4フラクションをそれぞれ添加し10℃、10日間保存した後に酸味マスキング効果について5名の専門パネルで官能評価した。ペプチド混合物に換算して0.1%となるように各サンプルを調製した。評価方法は前記2と同じである。その結果、フラクションE−3で、前記1で得られたペプチド混合物と同等の高い風味改善効果が確認された。
【0026】
5.ペプチドの構造解析
前記4で得られたフラクションを凍結乾燥し、そこに含有されているペプチドを同定した。以下に示す条件でのLCMS−IT−TOF RP−ESI−MS/MSの結果を基に、Manual de novo sequencingを行った。
その結果、主要成分として次の5種類のペプチド
Val−Pro−Pro(以下、1文字表記でVPPと記載する。)
Leu−Pro−Pro(以下、1文字表記でLPPと記載する。)
Val−Pro(以下、1文字表記で、VPと記載する。)
Leu−Leu−Leu(以下、1文字表記でLLLと記載する。)
Leu−Leu−Leu−Leu(以下、1文字表記でLLLLと記載する。)
及びフェニルアラニン(1文字表記でFと記載する。)が同定された。
Column: ODS3 (2mm i.d., 150mm, 3um)
Gradient: A:0.1% Formic acid,
B:Acetonitrile
AutoMS/MS range: 200−800Da
CID energy: 80−100%
【0027】
[実施例2](ペプチドの風味改善性評価)
市販のドリンクヨーグルトに実施例1で同定された5種類のペプチド及びフェニルアラニンをそれぞれ添加し10℃、10日間保存した後に酸味マスキング効果について5名の専門パネルで官能評価した。実施例1の1で得られたペプチド混合物は0.1%、実施例1の5で得られたペプチド及びフェニルアラニンは20ppb、VP+LLLの混合物はそれぞれ10ppbずつ添加した。評価方法は実施例1の2と同じとした。
その結果を次の表3に示す。
【0028】
【表3】
【0029】
この結果、VP及びLLLの2種類のペプチドで顕著な酸味マスキング効果が確認され、さらに、これら2種類のペプチドを合わせることでペプチド混合物と同等の高い風味改善効果が確認された。
【0030】
[実施例3](ペプチドの最低添加量)
VP及びLLLを1:9〜9:1の範囲の混合比で混ぜ合わせて、市販のドリンクヨーグルトに各々0.01ppmずつ添加して、10℃にて10日間保存した後に、5名の専門パネルによる官能評価を行い酸味のマスキング効果を確認した。評価方法は前記の実施例1の2と同じである。結果を次の表4に示す。
【0031】
【表4】
【0032】
この結果、VPとLLLは、それぞれ単独で使用してもよいが、特にVPとLLLの混合比が9:1〜3:7の比率で含有させることで相乗効果が生まれ、それぞれのペプチド単独よりも高い酸味マスキング効果となることが確認された。
【0033】
[実施例4](ペプチドの最低添加量)
VP、LLL、並びにVP及びLLLの等量混合物を市販のドリンクヨーグルトに各々0.001ppm、0.01ppm、0.1ppmずつ添加して、10℃にて10日間保存した後に、5名の専門パネルによる官能評価を行い酸味のマスキング効果を確認した。評価方法は前記の実施例1の2と同じである。結果を次の表5に示す。
【0034】
【表5】
【0035】
この結果、VP単独、LLL単独、及びVP:LLLの等量混合物いずれも0.01ppm以上で高い酸味マスキング効果を有することが確認された。
【0036】
[実施例5](人工甘味料の後切れ改善効果)
人工甘味料(キシリトール、アセスルファムK、スクラロース)を使用した市販の紅茶飲料(ストレートティー)にペプチド混合物及びVPとLLLの等量混合物を添加し甘味の後切れ改善効果について5名の専門パネルで官能評価した。ペプチド混合物は0.02%、VPとLLLの等量混合物は、それぞれ0.001ppm、0.01ppm、0.1ppmずつ添加した。評価方法は前記の実施例1の2と同じとした。結果を次の表6に示す。
【0037】
【表6】
【0038】
その結果、VPとLLLの等量混合物は、0.01ppm以上で顕著な人工甘味料の甘味の後切れ改善効果を有することが確認された。
【0039】
[実施例6](乳のコク味増強効果)
市販のミルクティーに、ペプチド混合物及びVPとLLLの等量混合物を添加し、乳のコク味増強効果について5名の専門パネルで官能評価した。ペプチド混合物は0.10%、VPとLLLの等量混合物は、それぞれ0.01ppm、0.1ppm、1ppmずつ添加した。評価方法は前記の実施例1の2と同じとした。結果を次の表7に示す。
【0040】
【表7】
【0041】
その結果、VPとLLLの等量混合物は、0.1ppm以上で顕著な乳のコク味増強効果を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、特定のジ又はトリペプチドを含有してなる風味改善剤を提供するものであり、各種の食品、特に健康食品や人工甘味料を含有する食品の風味の改善に有用であり、食品産業における利用可能性を有している。