特許第5892734号(P5892734)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5892734-熱伝導性シート 図000013
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5892734
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】熱伝導性シート
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/00 20060101AFI20160310BHJP
   C08K 5/12 20060101ALI20160310BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20160310BHJP
   C08K 5/372 20060101ALI20160310BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20160310BHJP
【FI】
   C08L33/00
   C08K5/12
   C08K5/13
   C08K5/372
   C08F2/44 B
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-103078(P2011-103078)
(22)【出願日】2011年5月2日
(65)【公開番号】特開2012-233099(P2012-233099A)
(43)【公開日】2012年11月29日
【審査請求日】2014年4月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(72)【発明者】
【氏名】田村 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】太田 真木
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−096982(JP,A)
【文献】 特開2006−160830(JP,A)
【文献】 特開2008−163126(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 33/00 − 33/26
C08F 2/00 − 2/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単量体成分、重合開始剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ヒンダードフェノール骨格を有する第一の酸化防止剤、チオエーテル骨格を有する第二の酸化防止剤、及び熱伝導性フィラーを含む樹脂組成物を重合させてなる、(メタ)アクリル重合体、トリメリット酸エステル系可塑剤、ヒンダードフェノール骨格を有する第一の酸化防止剤、チオエーテル骨格を有する第二の酸化防止剤、及び熱伝導性フィラーを含有する熱伝導性シートであって、
前記単量体成分が、単官能(メタ)アクリル単量体及び多官能(メタ)アクリル単量体からなり、
前記単官能(メタ)アクリル単量体が、炭素数12〜20のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートからな
前記熱伝導性シート中の(メタ)アクリル重合体が、前記単量体成分の重合体である、熱伝導性シート。
【請求項2】
前記トリメリット酸エステル系可塑剤が、下記式(1)で表される化合物である、請求項に記載の熱伝導性シート。
【化1】

[式中、R、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜24のアルキル基を示す。]
【請求項3】
前記第二の酸化防止剤が、下記式(2)で表される化合物である、請求項1又は2に記載の熱伝導性シート。
【化2】

[式中、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜8のアルカンジイル基を示し、R及びRはそれぞれ独立に炭素数2〜40のアルキル基を示す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器に搭載される半導体素子等の発熱体の冷却方法として、発熱体とヒートシンクとを、熱伝導性シートを介して接合する方法が知られている。例えば、特許文献1には、熱可塑性エラストマー、酸化マグネシウム、軟磁性体粉末をそれぞれ所定量含有する熱伝導性エラストマー組成物を成形してなる熱伝導性成形体が開示されており、これを被冷却部品とヒートシンクとの間に介在させることが提案されている。
【0003】
また、特許文献2には、難燃性に優れる放熱シートとして、「エチルアクリレート系重合体60〜90重量%及びエチレン−メチルアクリレート共重合体10〜40重量%とからなるバインダー樹脂100重量部に対し、金属水酸化物系難燃剤100〜150重量部、赤燐1〜10重量部および熱伝導性粉末500〜700重量部配合したことを特徴とするノンハロゲン難燃性放熱シート」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−310984号公報
【特許文献2】特開2003−238760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、近年、電子機器の小型化や高集積化により発熱体周辺の発熱密度が一層増大しており、従来、熱伝導性シートに要求されていた熱的特性では、必ずしも十分な効果が得られない場合がある。特に、従来の熱伝導性シートに要求されていなかった課題として、近年の電子機器で生じるような高温での使用における長期安定性が挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る熱伝導性シートは、(メタ)アクリル重合体、トリメリット酸エステル系可塑剤、ヒンダードフェノール骨格を有する第一の酸化防止剤、チオエーテル骨格を有する第二の酸化防止剤、及び熱伝導性フィラーを含有する。
【0007】
このような熱伝導性シートによれば、上記トリメリット酸エステル系可塑剤と上記第二の酸化防止剤との組み合わせにより、高温環境下であっても長期にわたり高い熱伝導性及び柔軟性が維持されるという優れた効果が奏される。
【0008】
また、本発明の他の態様において、熱伝導性シートは、(メタ)アクリル系モノマー、重合開始剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ヒンダードフェノール骨格を有する第一の酸化防止剤、チオエーテル骨格を有する第二の酸化防止剤、及び熱伝導性フィラーを含む樹脂組成物を重合させてなる、熱伝導性シートであってもよい。
【0009】
さらに他の態様に係る熱伝導シートでは、上記トリメリット酸エステル系可塑剤が下記式(1)で表される化合物であってもよい。
【化1】
[式中、R、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜24のアルキル基を示す。]
【0010】
さらに他の態様に係る熱伝導シートでは、上記第二の酸化防止剤が下記式(2)で表される化合物であってもよい。
【化2】
[式中、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜8のアルカンジイル基を示し、R及びRはそれぞれ独立に炭素数2〜40のアルキル基を示す。]
【0011】
さらに他の態様に係る熱伝導性シートでは、上記第二の酸化防止剤の含有量が、上記トリメリット酸エステル系可塑剤の総量100質量部に対して、0.1〜10質量部であってもよい。
【0012】
さらに他の態様に係る熱伝導シートでは、上記第一の酸化防止剤の含有量が、上記トリメリット酸エステル系可塑剤の総量100質量部に対して、0.1〜10質量部であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高温環境下であっても長期にわたり高い熱伝導性及び柔軟性を維持することが可能な熱伝導性シートが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の熱伝導性シートの一実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、本明細書中、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル及び/又はメタクリル」を意味する。換言すると、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル及びメタクリルから選ばれる少なくとも一種」を意味する。
【0016】
図1は本発明の熱伝導性シートの一実施形態を示す斜視図である。熱伝導性シート10は、(メタ)アクリル重合体、トリメリット酸エステル系可塑剤、ヒンダードフェノール骨格を有する第一の酸化防止剤、チオエーテル骨格を有する第二の酸化防止剤、及び熱伝導性フィラーを含有する。
【0017】
熱伝導性シート10は、上記トリメリット酸エステル系可塑剤と上記第二の酸化防止剤との組み合わせにより、高温環境下であっても長期にわたり高い熱伝導性及び柔軟性が維持される。
【0018】
従来、熱伝導性シートを高温環境下で長期間保持すると、柔軟性が損なわれ、発熱体及びヒートシンクに対する密着性が低下して、熱伝導性が十分に得られなくなる場合があったが、本発明者らはこの原因の一つとして、従来の熱伝導性シートでは想定されなかった高温に晒されることで熱伝導性シートに含まれる可塑剤が気化して、柔軟性が損なわれることを見出した。さらに本発明者らは、従来の熱伝導性シートの高温環境下での長期間での使用に際し、酸化防止剤のブリードアウトが生じる場合があり、これにより熱伝導性シートの耐熱性の低下、さらには熱伝導性及び柔軟性の低下が起こりえることを見出した。
【0019】
そして、熱伝導性シート10によれば、上記トリメリット酸エステル系可塑剤と上記第二の酸化防止剤との組み合わせにより、高温環境下で長期にわたって使用しても、上述の可塑剤の気化及び酸化防止剤のブリードアウトが十分に抑制される。そのため、熱伝導性シート10は、高温環境下であっても長期にわたり高い熱伝導性及び柔軟性が維持される。
【0020】
以下、熱伝導性シート10が含有する各成分について詳述する。
【0021】
((メタ)アクリル重合体)
(メタ)アクリル重合体は、(メタ)アクリル単量体を含む単量体成分を重合して得られる重合体である。ここで、「(メタ)アクリル単量体」とは、アクリル酸、アクリル酸エステル等のアクリル系単量体、及び/又は、メタアクリル酸、メタアクリル酸エステル等のメタアクリル系単量体を示す。すなわち、(メタ)アクリル重合体は、アクリル系単量体及びメタクリル系単量体からなる群より選ばれる少なくとも一種の単量体を含む単量体成分を重合して得られる重合体、ということもできる。
【0022】
(メタ)アクリル単量体としては、一般的な(メタ)アクリル重合体を形成するために用いられる単量体であればよく、特に限定されるものではない。また、(メタ)アクリル単量体は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
上記単量体成分は、(メタ)アクリル単量体として、少なくとも単官能(メタ)アクリル単量体を含有することが好ましい。なお、単官能(メタ)アクリル単量体とは、(メタ)アクリロイル基を一つ有する単量体である。
【0024】
単官能(メタ)アクリル単量体としては、(メタ)アクリル酸、アルキル(メタ)アクリレート、アリール(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート等が挙げられる。
【0025】
これらのうち、単官能(メタ)アクリル単量体としては、炭素数12〜20のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。このような単官能(メタ)アクリル単量体を用いることで、(メタ)アクリル重合体がトリメリット酸エステル系可塑剤との相溶性に優れるものとなり、本発明の効果が一層顕著に奏される。なお、ここでアルキル基は、鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、環状であってもよい。
【0026】
また、単官能(メタ)アクリル単量体としては、炭素数の異なる二種以上のアルキル(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。この場合、各アルキル(メタ)アクリレートの含有量を調整することで、得られる熱伝導性シート10の柔軟性をその用途に応じて適宜調整することができる。
【0027】
上記単量体成分は、(メタ)アクリル単量体として、さらに多官能(メタ)アクリル単量体を含有していてもよい。なお、多官能(メタ)アクリル単量体とは、(メタ)アクリロイル基を二つ以上有する単量体である。上記単量体成分が多官能(メタ)アクリル単量体を含有すると、(メタ)アクリル重合体が架橋構造を有するものとなるため、熱伝導性シート10の強度が向上する。
【0028】
多官能(メタ)アクリル単量体としては、例えば、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)メタクリレート、ポリ(ブタンジオール)ジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)メタクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリイソプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)メタクリレート等の二官能(メタ)アクリル単量体;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールモノヒドロキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリエトキシトリ(メタ)アクリレート等の三官能(メタ)アクリル単量体;ペンタエリトリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジ−トリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等の四官能(メタ)アクリル単量体;ジペンタエリトリトール(モノヒドロキシ)ペンタ(メタ)アクリレート等の五官能(メタ)アクリル単量体;などが挙げられる。
【0029】
上記単量体成分における多官能(メタ)アクリル単量体の含有量は、単官能(メタ)アクリル単量体100質量部に対して、0,01〜5質量部であることが好ましい。このような含有量であると、架橋構造による熱伝導性シート10の強度向上効果が十分に得られるとともに、過度の架橋による柔軟性の低下が避けられ、高い柔軟性を有する熱伝導性シート10が得られる。
【0030】
上記単量体成分の重合は、後述するとおり、種々の方法により行うことができ、例えば、熱重合、紫外線重合、電子線重合、γ−線照射重合、イオン化線照射重合等により行うことができる。
【0031】
熱伝導性シート10における(メタ)アクリル重合体の含有量は、熱伝導性シート10の総量基準で、0.05〜30質量%であることが好ましく、0.5〜15質量%であることがより好ましい。
【0032】
(トリメリット酸エステル系可塑剤)
トリメリット酸エステル系可塑剤は、トリメリット酸エステルのうち可塑剤として使用し得る化合物であり、好適には下記式(1)で表される化合物である。
【0033】
【化3】
【0034】
式中、R、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜24のアルキル基を示す。なお、アルキル基は、鎖状であっても分岐状であっても環状であってもよい。
【0035】
トリメリット酸エステル系可塑剤が式(1)で表される化合物であると、高温環境下において、一層長期間にわたり熱伝導性及び柔軟性が維持される。
【0036】
、R及びRは互いに同一でも異なっていてもよいが、入手が容易である観点からは互いに同一であることが好ましい。
【0037】
、R及びRは、炭素数1〜24のアルキル基であることが好ましく、炭素数4〜18のアルキル基であることがより好ましい。このようなアルキル基を有するトリメリット酸エステル系可塑剤によれば、可塑剤の気化及び酸化防止剤のブリードアウトが一層抑制され、熱伝導性シート10の高温環境下での長期安定性が一層向上する。
【0038】
また、R、R及びRにおけるアルキル基は直鎖状又は分岐状であることが好ましい。
【0039】
トリメリット酸エステル系可塑剤としては、例えば、トリノルマルヘキシルトリメリテート、トリノルマルオクチルトリメリテート、トリ−2−エチルヘキシルトリメリテート、トリノルマルノニルトリメリテート、トリイソノニルトリメリテート、トリノルマルデシルトリメリテート、トリイソデシルトリメリテート、トリラウリルトリメリテート、トリミリスチルトリメリテート、トリステアリルトリメリテート、トリイソステアリルトリメリテート等が挙げられる。
【0040】
熱伝導性シート10におけるトリメリット酸エステル系可塑剤の含有量は、(メタ)アクリル重合体100質量部に対して30〜200質量部であることが好ましく、50〜150質量部であることがより好ましい。
【0041】
(第一の酸化防止剤)
第一の酸化防止剤は、ヒンダードフェノール骨格を有する酸化防止剤であり、熱伝導性シート10に耐熱安定性を付与する。熱伝導性シート10においては、トリメリット酸エステル系可塑剤及び第二の酸化防止剤の併用によって、第一の酸化防止剤のブリードアウトが抑制されているため、高温環境下で保持した場合であっても、第一の酸化防止剤による耐熱安定性の効果が長期間維持される。
【0042】
第一の酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール骨格として下記式(3)で表される骨格を有するものが挙げられる。なお、式中、「t−Bu」はtert−ブチル基を示す。
【0043】
【化4】
【0044】
式(3)で表される骨格を有する酸化防止剤としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等が挙げられる。
【0045】
熱電導性シート10における第一の酸化防止剤の含有量は、トリメリット酸エステル系可塑剤100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、0.2〜8質量部であることがより好ましい。第一の酸化防止剤の含有量が上記範囲であると、一層良好な耐熱安定性が得られるとともに、第一の酸化防止剤のブリードアウトを一層抑制することができる。
【0046】
(第二の酸化防止剤)
第二の酸化防止剤は、チオエーテル骨格を有する酸化防止剤である。第二の酸化防止剤は、トリメリット酸エステル系可塑剤との組み合わせにおいて、高温環境下での長期使用における可塑剤の気化及び酸化防止剤のブリードアウトを抑制し、熱伝導性シート10に高温環境下での長期安定性を付与する。
【0047】
第二の酸化防止剤としては、下記式(2)で表される化合物が好ましい。
【0048】
【化5】
【0049】
式中、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜8のアルカンジイル基を示し、R及びRはそれぞれ独立に炭素数2〜40のアルキル基を示す。なお、アルキル基は、鎖状であっても分岐状であっても環状であってもよい。また、アルカンジイル基は、鎖状、分岐状又は環状のアルカンから水素原子2個を除いてなる基である。
【0050】
及びRは互いに同一でも異なっていてもよく、R及びRは互いに同一でも異なっていてもよいが、入手が容易である観点からはR及びRが互いに同一であり、R及びRが互いに同一であることが好ましい。
【0051】
及びRにおけるアルカンジイル基の炭素数は、1〜8であることが好ましく、2〜6であることがより好ましい。また、R及びRにおけるアルカンジイル基は、直鎖状又は分岐状であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。
【0052】
及びRにおけるアルキル基の炭素数は、4〜24であることが好ましく、12〜18であることがより好ましい。また、R及びRにおけるアルキル基は、直鎖状又は分岐状であることが好ましい。
【0053】
第二の酸化防止剤としては、例えば、ジトリデシルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ジラウリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート等が挙げられる。
【0054】
熱伝導性シート10における第二の酸化防止剤の含有量は、トリメリット酸エステル系可塑剤100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましく、0.2〜9であることがより好ましい。第二の酸化防止剤の含有量が上記範囲であると、本発明の効果が一層顕著に奏される。
【0055】
(熱伝導性フィラー)
熱伝導性フィラーは、熱伝導性シート10に実質的な熱伝導性を付与する成分である。熱伝導性フィラーとしては、特に限定されず、公知の熱伝導性フィラーを用いることができる。
【0056】
熱伝導性フィラーとしては、例えば、金属水和化合物、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物が挙げられる。
【0057】
金属水和化合物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、ドウソナイト、ハイドロタルサイト、ホウ酸亜鉛、アルミン酸カルシウム、酸化ジルコニウム水和物等が挙げられる。また、金属酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛等が挙げられる。また、金属窒化物としては、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等が挙げられ、金属炭化物としては、炭化ホウ素、炭化アルミニウム、炭化ケイ素等が挙げられる。
【0058】
これらの熱伝導性フィラーは、通常、粒子の状態で添加される。なお、熱伝導性フィラーとしては、その平均粒径が5〜50μmである比較的大きな粒子径群と、その平均粒径が5μm未満である比較的小さな粒子径群とを組み合わせて用いることで、添加量(充填量)を高めることができる。尚、平均粒径とはレーザー回折散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を指す。
【0059】
熱伝導性フィラーは、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、脂肪酸等の表面処理剤、などにより表面処理されていてもよい。このような表面処理を施された熱伝導性フィラーを用いることで、熱伝導性シート10の強度(例えば、引張強度)を向上させることができる。また、上記表面処理は、後述する熱伝導性シート10の製造方法における熱伝導性組成物の粘度を低下させる効果を有する。特にチタネート系カップリング剤による表面処理は、熱伝導性組成物の粘度を低下させる効果が大きいため、製造工程上好ましい。なお、熱導電性フィラーには予め表面処理を施していても良いが、カップリング剤又は表面処理剤を、熱伝導性フィラーとともに熱伝導性組成物中に添加することで、表面処理の効果を得ることもできる。
【0060】
熱伝導性シート10における熱伝導性フィラーの含有量は、熱伝導性シート10の全量基準で、55〜95体積%であることが好ましく、65〜85体積%であることがより好ましい。熱伝導性フィラーが上記範囲であると、十分な熱伝導性が得られるとともに、熱伝導性フィラーが多すぎて熱伝導性シート10が脆くなったり製造が困難になることを防ぎ、十分な強度及び柔軟性を有する熱伝導性シートを容易に得ることができる。
【0061】
(その他の成分)
熱伝導性シート10は、上記以外の成分を含有していてもよい。例えば、熱伝導性シート10は、粘着付与剤、可塑剤、難燃剤、難燃助剤、沈降防止剤、増粘剤、超微粉シリカ等のチクソトロピー剤、界面活性剤、消泡剤、着色剤、導電性粒子、静電気防止剤、金属不活性化剤等の添加剤を含有していてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0062】
次に、熱伝導性シート10の好適な製造方法について説明する。熱伝導性シート10は、例えば、特開平11−292998号公報、特開平10−316953号公報、特開平10−330575号公報等の従来公知の文献に記載された方法に従って製造することができる。
【0063】
具体的には、例えば、熱伝導性シートは、上記単量体成分、トリメリット酸エステル系可塑剤、第一の酸化防止剤、第二の酸化防止剤及び熱伝導性フィラーを含む樹脂組成物を、プラネタリーミキサー等で脱気・混合して熱伝導性組成物を得、該熱伝導性組成物をシート状に成形して、重合させることにより得ることができる。
【0064】
重合は、上述したとおり種々の方法により行うことができ、例えば、熱重合、紫外線重合、電子線重合、γ−線照射重合、イオン化線照射重合等により行うことができる。
【0065】
熱重合は、例えば、熱伝導性組成物に熱重合開始剤を適当量含有させて、シート状に成形した後50〜200℃程度に加熱することにより行うことができる。また、紫外線重合は、例えば、熱伝導性組成物に光重合開始剤を適当量含有させて、シート状に成形した後紫外線を照射することにより行うことができる。なお、電子線重合をはじめとする粒子エネルギー線を用いて重合する場合には、通常、重合開始剤は不要である。
【0066】
熱重合開始剤としては、ジアシルパーオキシド類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキシド類、ヒドロパーオキシド類、ジアルキルパーオキシド類、パーオキシエステル類、パーオキシジカーボネート類等の有機過酸化物を用いることができる。より具体的には、ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルヒドロパーオキシド等を挙げることができる。
【0067】
光重合開始剤としては、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインエーテル類;アニソインエチルエーテル、アニソインイソプロピルエーテル、ミヒラーケトン(4,4’−テトラメチルジアミノベンゾフェノン)、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン(例えば、商品名:KB−1(サルトマー社製)、商品名:イルガキュア651(Irgacure651)(チバスペシャルティーケミカルズ社製))、2,2−ジエトキシアセトフェノン等の置換アセトフェノン類;2−メチル−2−ヒドロキシプロピオフェノン等の置換α−ケトール類;2−ナフタレンスルホニルクロリド等の芳香族スルホニルクロリド類;1−フェノン−1,1−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム等の光活性オキシム化合物;ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルーペンチルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルージフェニルーフォスフィノキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド化合物;等が挙げられる。
【0068】
なお、上述の熱重合開始剤や光重合開始剤は、任意に組み合わせて用いることもできる。熱伝導性組成物に配合する重合開始剤の量は、特に制限はないが、通常は、上記単量体成分100質量部に対して0.05〜2.0質量部である。
【0069】
上記単量体成分は、予め予備重合して増粘させてから、熱伝導性組成物に配合されていてもよい。予備重合は、例えば5〜10000mPa程度の粘度となるまで行うことができる。
【0070】
熱伝導性シート10の厚みは、特に制限はないが、実質的な製造可能性や取扱い性等の観点からは、0.1mm以上とすることが好ましい。なお、熱伝導性シート10は、上記の方法で製造した熱伝導性シートを複数積層したものであってもよい。
【0071】
熱伝導性シート10は、電子機器に搭載される半導体素子等の発熱体と、ヒートシンク等の放熱器と、の間に配設され、これらの間で熱を伝達するために好適に用いることができる。特に、熱伝導性シート10は、高温環境下での長期安定性に優れるため、高温環境下に長期間保持される用途において、好適に用いることができる。
【0072】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0074】
実施例で用いた各成分について、その略称と詳細を以下に説明する。
((メタ)アクリル単量体)
・LA:ラウリルアクリレート
・ISTA:イソステアリルアクリレート
・HDDA:1,6−ヘキサンジオールジアクリレート
(重合開始剤)
・IRGACURE819:BASF社製、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド
(トリメリット酸エステル系可塑剤)
・TOTM:トリイソオクチルトリメリテート(沸点414℃/101.3kPa)
・TDTM:トリノルマルデシルトリメリテート(沸点430℃/101.3kPa)
・THTM:トリノルマルヘキシルトリメリテート(沸点260℃/101.3kPa)
(第一の酸化防止剤)
・IRGANOX1010:BASF社製、ペンタエリスリトールテトラキス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)
・IRGANOX1076:BASF社製、オクタデシル−3−(3.5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート
(第二の酸化防止剤)
・AO503:ADEKA社製「アデカスタブAO503」、ジトリデシルチオジプロピオネート
・TPL−R:住化ケムテックス社製「Sumilizer TPL−R」、ジラウリルチオジプロピオネート
・TPS:住化ケムテックス社製「Sumilizer TPS」、ジステアリルジプロピオネート
(熱伝導性フィラー)
・Al(OH):水酸化アルミニウム(平均粒径50μm)
・Al:酸化アルミニウム(平均粒径35μm)
(カップリング剤)
・S151:日本曹達社製、チタネート系カップリング剤
【0075】
以下、比較例で用いた各成分について、その略称と詳細を説明する。
(リン系酸化防止剤)
・Irgafos168:BASF社製、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスフェート
・Irgafos38:BASF社製、ビス[2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル]エチルエステル亜リン酸
(ビタミンE系酸化防止剤)
・IrganoxE201:BASF社製、3,4−ジヒドロ2,5,7,8−テトラメチル−2−(4,8,12−トリメチルトリデシル)−2H−ベンゾピラン−6−オール
(アジピン酸エステル系可塑剤)
・DINA:ジイソノニルアジペート(沸点227℃/0.67kPa)
・DIDA:ジイソデシルアジペート(沸点240℃/0.53kPa)
(フタル酸エステル系可塑剤)
・DIDP:ジイソデシルフタレート(沸点420℃/101.3kPa)
(リン酸エステル系可塑剤)
・TPP:トリフェニルフォスフェート(沸点370℃/101.3kPa)
【0076】
(実施例1〜10、比較例1〜6)
表1〜3に記載の各成分を、表1〜3に記載の配合割合(質量比)でプラネタリーミキサーに仕込み、減圧下(0.01MPa)、30分間混練することによって脱気及び混合して、熱伝導性組成物を得た。得られた熱伝導性組成物を、シリコーン離型剤で処理された2枚のポリエチレンテレフタレート(PET)ライナーで挟持し、シート状にカレンダー成形した。得られた成形物に、0.3mW/cmで10分間、5mW/cmで10分間の条件で光照射し、重合させて、厚さ1mmの熱伝導性シートを得た。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
(熱伝導性シートの評価)
実施例及び比較例で得られた熱伝導性シートについて、下記の方法で初期の熱伝導率、柔軟性及び色相と、熱安定性試験後の熱伝導率、柔軟性及び色相とを評価した。評価結果は表4に示すとおりであった。
【0081】
(熱伝導率の評価)
実施例及び比較例で作製した熱伝導性シートから、各々0.01m×0.01mの試験サンプル(測定面積:1.0×10−4、厚さ:L(m))を切出した。この試験サンプルを、発熱板と冷却板で挟み、7.6×10N/mの一定荷重の下、4.8Wの電力を加えて5分間保持したときの、発熱板と冷却板の温度差(K)を測定し、下記式により熱抵抗R(K・m/W)を求めた。
(K・m/W)=温度差(K)×測定面積(m)/電力(W)
【0082】
さらに、試験サンプルを2枚積層して、その厚みが2L(m)である積層サンプルを作製し、この積層サンプルについての熱抵抗R2L(K・m/W)を上述の方法と同様の方法により求めた。求めたRとR2Lの値から、下記式により熱伝導率λ(W/(m・K))を算出した。
λ(W/(m・K))=L/(R2L−R
【0083】
次いで、熱安定性試験として、実施例及び比較例で作製した熱伝導性シートを150℃のオーブン中に2週間保管した後、25℃に降温させた。この熱安定性試験後の熱伝導性シートについて、上記と同様に試験サンプルを作製し、熱伝導率λを求めた。
【0084】
(柔軟性の評価)
実施例及び比較例で作製した熱伝導性シートを各々10枚積層して測定用サンプルとし、アスカーC硬度計により、サンプルの硬度を荷重1kgで測定した。
【0085】
次いで、上記測定用サンプルを150℃のオーブン中に2週間保管した後、25℃に高温させた。この熱安定性試験後の測定サンプルについて、アスカーC硬度計によりサンプルの硬度を荷重1kgで測定した。
【0086】
(色相の評価)
実施例及び比較例で作製した熱伝導性シートの初期の色相を、各々目視により評価した。次いで、熱伝導率の評価で行ったものと同じ熱安定性試験を行い、熱安定性試験後の熱伝導性シートの色相を、初期の色相と比較して、色味の変化を目視で評価した。
【0087】
【表4】
【0088】
表4に示すように実施例の熱伝導性シートは、可塑剤の気化及び酸化防止剤のブリードアウトが改善されたことにより、熱安定性試験後でも初期と同等の熱伝導率及び柔軟性が維持され、色相も変色せず白色のままであった。一方、比較例の熱伝導性シートは、熱安定性試験後に、熱伝導率及び柔軟性が低下し、色相も変色して黄色となった。
【0089】
また、比較例1、2、5及び6では、実施例のトリメリット酸エステル系可塑剤と同程度又はそれ以上の沸点を有する可塑剤を使用しているが、熱安定性試験後の熱伝導率及び柔軟性は低下している。このことから、単に沸点の高い可塑剤を選択しても可塑剤の気化を十分に抑制することは困難であることがわかる。
【符号の説明】
【0090】
10…熱伝導性シート。
図1