【実施例】
【0085】
1)発現ベクターの構築
C末端54残基を欠失させFLAG−tag配列で置換したHBsAg抗原タンパク質をコードするプラスミドDNAである、ベクターpBO749(国際公開番号WO2005/049824)を鋳型とし、primer#1575(配列番号7)と#1555(配列番号8)とを用いたPCRにより、N末端76残基とC末端54残基とを同時に欠失した、配列番号9に示す塩基配列を含む欠失型HBsAg遺伝子(以後、dHBsAgと称することがある。)断片を増幅した。
【0086】
増幅された遺伝子断片をNdeI及びNotIで制限酵素消化処理した後、アガロースゲル電気泳動でdHBsAg遺伝子断片を単離及び精製した。大腸菌発現用ベクターpET22b(Novagen社)をNdeI及びNotIで制限酵素消化処理した後、dHBsAg遺伝子断片のNdeI及びNotIによる制限酵素消化処理後物と連結し、dHBsAg大腸菌発現用ベクターpBO1465を得た。
【0087】
構築されたdHBsAg遺伝子には、C末端側にFLAG−tagとHis6−tag配列が融合されている(
図1及び
図2)。
【0088】
同様に、ベクターpBO749を鋳型とし、primer#1554(配列番号10)と#1555(配列番号8)とを用いたPCRにより、N末端76残基とC末端54残基とを同時に欠失した、配列番号11に示す塩基配列からなる欠失型HBsAg遺伝子(以後s+dHBsAgと称することがある。)断片を増幅した。
【0089】
増幅された遺伝子断片をNdeI及びNotIで制限酵素処理した後、アガロースゲル電気泳動でdHBsAg遺伝子断片を単離及び精製した。大腸菌発現用ベクターpET22bも同様にNdeI及びNotIで制限酵素処理した後、制限酵素処理後のdHBsAg遺伝子断片と連結し、s+dHBsAg大腸菌発現用ベクターpBO1458を得た。
【0090】
なお
図2にて示すように、構築されたs+dHBsAg遺伝子は、上述のdHBsAg遺伝子と比較すれば、アミノ酸に翻訳された際にN末端側のアミノ酸配列のみが異なっている。
【0091】
2)大腸菌によるdHBsAgの発現
上記のdHBsAg大腸菌発現用ベクターpBO1465及びs+dHBsAg大腸菌発現ベクターpBO1458を遺伝子発現用大腸菌Origami2(DE3)株、C41(DE3)株、C43(DE3)株、並びにKRXに形質転換し、翌日出現したコロニー数十個を、0.5%glucoseと終濃度で200μg/mlのアンピシリンを含む4mL若しくは30mLのLB培地で、37℃で2〜5時間振盪培養した。
【0092】
1.5mL若しくは12mLの菌懸濁液を、それぞれ終濃度で500μg/mlアンピシリンをする含有50mL若しくは400mLのLB培地に植菌し、さらに37℃、2〜5時間振盪培養した。OD600が0.8〜1.0になったところでIPTGを終濃度が1mMとなるように加えた。なお、KRX株の場合は、IPTGに換えて0.1%のラムノースを添加した。低温培養検討(20℃で4時間〜一晩培養)時には、IPTG添加前に培養温度を20℃に下げた。
【0093】
IPTGの添加後、37℃で4時間若しくは20℃で一晩(低温培養時)培養した後に菌体を回収した。IPTG添加前と培養終了時における1mlの培養液分の菌体を超純水100μLに再懸濁した後、当容量の2×sample buffer[20%のglycerol、4%SDS、0.02%BPB、及び10%の2−MEを含む50mMのTris−HCl(pH6.8)]を加えて溶解し、95℃で5分間加熱処理した後の20μL(全菌試料:Tとする)をSDS−PAGE処理に供し、続いてクマシーブリリアントブルー染色(CBB染色)を行った。結果を
図3に示す。
【0094】
s+dHBsAgは、いずれの大腸菌株においてもIPTG誘導に基づくバンドの出現は観察されなかったが、dHBsAgでは図中の矢印の位置に示されるように、全ての大腸菌株においてIPTG誘導に基づくバンドの出現は観察された。以上のことから、大腸菌を用いてナノカプセルを構成するタンパク質を生合成するには、そのN末端側のアミノ酸配列が重要であることが明らかとなった。
【0095】
3)dHBsAg発現における大腸菌体内の局在
dHBsAgを発現する大腸菌Origami2(DE3)株を上記の各種培養条件で培養し、菌体回収時の遠心後の上清を培養上清(C)とした。1mLの培地による培養にて得られた菌体を、20%のsucroseを含む30mMのTris−HCl(pH8)を75mL用いて再懸濁した。ここに、0.5MのEDTA(pH8)を1.5μL加え、室温条件下で10分間Vortex処理を行った。
【0096】
次いで、10000rpm、4℃の条件で10分間遠心し、上清を取り除いた。得られた沈殿画分を、氷冷した5mMのMgSO
4に再懸濁し、4℃で10分間vortex処理を行った。次いで、10000rpm、4℃の条件にて、10分間遠心し、得られた上清をペリプラズム画分(P)とした。一方で、得られた沈殿画分を、0.75mLの氷冷Lysis buffer[5%のglycerol、及び150mMのNaClを含む50mMのTris−HCl(pH7.5)]に再懸濁し、終濃度1mMのEDTA、及び1mMのPMSFを加えた。
【0097】
このサンプルを、2回凍結融解処理に供した後、氷上で30秒ずつ2回の超音波破砕処理を行った。次いで、14000rpm、4℃の条件にて、10分間遠心し、得られた上清画分を可溶性画分(S
−)とした。
【0098】
一方で、得られた沈殿画分を0.75mLの氷冷Lysis bufferに懸濁し、終濃度1mMのEDTA、及び1mMのPMSFを加えた。さらに終濃度が0.5%となるようにTriotnX−100を加え、30秒間の超音波破砕処理を1回行った。次いで、14000rpm、4℃の条件にて10分間遠心し、得られた上清画分を可溶性画分(S
+)とした。
【0099】
一方で、得られた沈殿画分を0.75mLの氷冷Lysis bufferに再懸濁したものを不溶性画分(I)とした。以上の各画分をSDS−PAGE処理に供し、次いでCBB染色を行った。結果を
図4に示す。
【0100】
図中の矢印の位置に示されるように、dHBsAgタンパク質はペリプラズム画分(P)には認められず、TritonX−100非存在下並びに存在下の可溶性画分(S
−並びにS
+)、及び不溶性画分(I)に分散して認められた。また、37℃における培養では不溶性画分(I)へ、20℃における培養では、可溶性画分(S
−並びにS
+)により多く局在することが明らかとなった。
【0101】
また、培養時に得られた菌体回収時の上清画分(C)、ペリプラズム画分(P)、及びTritonX−100存在下、並びに非存在下の可溶性画分(S
−並びにS
+)を、抗HBsAg抗体を用いた酵素免疫測定法(IMx−HBsAg;ダイナボッド社)にて、HBsAgタンパク質を測定した。結果を
図5に示す。
【0102】
図4にて示される結果と同様に、HBsAgタンパク質はペリプラズム画分(P)には殆どは局在が認められず、TritonX−100などのような界面活性剤の存在下並びに非存在下の可溶性画分(S
−並びにS
+)として抽出できることが明らかとなった。
【0103】
4)dHBsAgタンパク質を含むナノカプセルの精製
引き続いて、dHBsAgタンパク質を含むナノカプセル(以後、dBNCと呼ぶことがある。)の精製を行った。
【0104】
IPTGによる誘導下(培養温度は37℃)にてdHBsAgを発現した菌体をLysis Buffer[150mMのNaClを含む50mMのTris−HCl(pH8.0)]に再懸濁し、最終濃度が1mMになるようにPMSFを加えた。次いで、1分ずつ5回氷上で冷却しながら超音波破砕した。その後、8000rpm、4℃の条件下で15分間遠心し上清を可溶性画分(S
−)とした。ここで得られた沈殿を0.1%のTween80を含むLysis Bufferに再懸濁し、最終濃度が1mMとなるようにPMSFを加えて、1分ずつ5回氷上で冷却しながら超音波破砕した。超音波破砕後の溶液を同様の条件で遠心して、上清を可溶性画分(S
+)とした。残った沈澱を超純水に懸濁して不溶性画分(I)とした。これらの試料(100μLの培養液分に相当)に当容量の2×sample bufferを加えて溶解し、95℃で5分間加熱処理した後SDS−PAGEのサンプルとした。
【0105】
TBS[150mMのNaClを含む50mMのTris−HCl(pH7.4)]で平衡化した抗FLAG M2 Agarose Affinity Gel (Sigma社)カラム(bed量:1mL)に、上記の可溶性画分(S
−)をインジェクションし、4℃で2時間rotate後、ゆっくり流し素通り液を回収した。回収した画分を素通り画分(F)とした。
【0106】
次に、0.75mLのTBS500[NaCl濃度を500mMとした上記TBS]でカラムを数回洗浄後(初回の洗浄後画分を(IW)とし、最終洗浄画分を(LW)とする。)、0.4mLのElution Buffer[1mMのEDTAを含む0.1MのGlycine−HCl(pH3.5)]で8回に分けて溶出した。得られた溶出画分をそれぞれ溶出画分(1)〜(8)とした。
【0107】
溶出画分には直ちに1MのTris−HCl(pH8.0)を14μL混合して中和し、その後、各画分をSDS−PAGEに供し、次いでCBB染色を行った。結果を
図6−1に示す。
【0108】
図中の矢印に示すように、抗FLAGカラム溶出画分の(2)〜(7)において、dHBsAgタンパク質のバンドが検出された。これらの溶出液のそれぞれ2mLを、0.15MのNaClを含む50mMのTris−HCl(pH7.4)で平衡化したSephacryl S−300HRゲル濾過カラム(GE Healthcare;直径1.6cm×高さ40cm;bed量24mL)にインジェクションし、0.75mLを1画分として回収した。
【0109】
図6−2に示すように、HBsAgタンパク質は、10番目の画分にて最も多く溶出されることが明らかとなった。当該画分は669kDaの分子量を有するサイログロブリンと同様の位置で流出することが明らかとなった。そして、
図6−3に示すように、10番目の当該溶出ピーク画分はSDS−PAGE解析により80%以上の純度でdHBsAgタンパク質を含有することを示した。
【0110】
また
図6−3に示すようにHRP標識化抗FLAG抗体(抗FLAG M2 PEROXIDASE CONJUGATE、SIGMA)、ヤギ由来のビオチン標識化抗HBs抗体とウサギ由来のアルカリフォスファターゼ標識化抗ビオチン抗体(IMx HBsAg試薬;ダイナボット)、あるいはHisProbe
TM−HRP結合体(Thermo社)を各々用いたウエスタンブロッティングでも検出された事から、目的のdHBsAgバンドである事が確認された。
【0111】
以上の結果より、dHBsAgタンパク質は自己凝集して700kDa程度の複合体を形成していることが確認された。
【0112】
5)dBNCの性状解析
<Sucrose密度勾配遠心解析>
16mLの遠心管(16PA TUBE ASSY;HITACHI社)に底からスクロース濃度を50、40、30、20、及び10重量%含むBufferA[68.4mMのNa
2HPO
4、31.6mMのNaH
2PO
4、15mMの EDTA・2Na、及び0.85%のNaCl]を2.5mLずつ順に重層し、その上に上記4)にて示す可溶性画分(S
−)を2.5mL重層した後、超遠心機(himac CP70MXX;HITACHI社)を用いて4℃、24000rpmの条件で14時間遠心した。
【0113】
陽性対照として、Cos7細胞によって一過的に製造されたHBsAg粒子(培養上清から回収したもの)を用いた。また、陰性対照として、2mgのウサギ血清由来のIgG(SIGMA、分子量150kDa)をBufferAで2.5mLに希釈したものを用いた。
【0114】
遠心処理の後、あらかじめ重量を測定しておいた1.5mLチューブに1mLずつ回収し、重量を測定して密度を求めた。各画分のHBsAg量をIMx HBsAg System(ダイナボット社)を用いて測定した。ウサギ血清由来IgGの濃度はUV法により測定した。その結果を
図6に示す。
【0115】
dHBsAgタンパク質はCos7細胞を用いて作製したHBsAg粒子と同様に6−8番目の画分に沈降ピークを示した。ウサギ由来IgGの沈降ピークは2番目画分であった。以上の結果から、dHBsAgタンパク質は自己凝集し、従来のHBsAg粒子と同様に粒子形成していることが示唆された。
【0116】
<電子顕微鏡観察>
抗FLAG抗体溶出画分について、ネガティブ染色法を用いて透過型電子顕微鏡(ELECTRON MICROSCOPE H−7100S;HITACHI)観察した。比較対象として野生型HBsAg粒子(ビークル社製)を用いた。結果を
図5に示す。
【0117】
dHBsAgタンパク質は、比較対象に用いた野生型HBsAg粒子と同様に、ウイルスエンベロープ様ナノ粒子(dBNC)が形成する事が明らかとなった。また、dBNCの粒子径は25±5nmと、比較対象に用いた野生型HBsAg粒子(21±2nm)とほぼ同等の粒子径を有することも明らかとなった。この数値は、電子顕微鏡像から50個の粒子を選択し、その直径を測定した平均値である。
【0118】
<dBNCの抗原性>
2種の市販のHBV体外診断用酵素免疫測定法キット(IMx HBsAg System;Abbott社、及びEnzygnost HBsAg 5.0 kit;SIMENS社)を用いて、精製dBNCの抗原性を市販のHBsAgS粒子(HBsAg−adr recombinant protein;GenWay Biotech社、10−663−45362)を標準試料として測定した。表1に結果を示す。
【0119】
【表1】
【0120】
dBNCの抗原性は、野生型S粒子と比較してIMxHBsAgキットによる測定では1/7、Enzygnostキットによる測定では約1/200に低下していた。
【0121】
従って、本発明のdBNCは、特にDDSとして体内に投与した場合、より安全に用いることができることが明らかとなった。
【0122】
6)ZZタグ融合HBsAg欠失体(dHBsAg−ZZ)発現ベクターの構築
まず、dHBsAg遺伝子発現ベクターpBO1465を鋳型とし、primer#361(配列番号12)と、#1633(配列番号13)とを用いたPCRを行いて遺伝子断片を増幅し、その反応液をフェノール抽出後エタノール沈殿した後、NdeI及びNotIで制限酵素消化処理を行うことにより、C末端にFLAGタグを含まない約0.3kbのdHBsAgの遺伝子断片を調製した。
【0123】
この遺伝子断片と、NdeI及びNotIで制限酵素消化処理を施したpBO1465ベクターの断片とをT4−ligaseで連結することにより、C末端にHis6−tagのみが付いたdHBsAg遺伝子を発現するベクターpBO1501を構築した。
【0124】
一方、10ngの酵母発現用ベクターpGLD−ZZ−d50N(Specific protein delivery to target cells by antibody−displaying bionanocapsules. Kurata N, Shishido T, Muraoka M, Tanaka T, Ogino C, Fukuda H, Kondo A. J Biochem. 2008 Dec;144(6):701−7.)を鋳型とし、primer #1732(配列番号14)と、#1733(配列番号15)とをそれぞれ10pmol用い、さらにTaq DNA polymarase(NEB社;1units/μL)を用いPCRにより、ZZtag遺伝子を増幅した後、72℃で14分間アデニン付加反応を行った。
【0125】
この増幅DNA反応液をフェノール抽出後、エタノール沈澱し、30μLの滅菌超純水に再溶解した。これを1.2%アガロースゲル電気泳動で電気泳動後、目的のZZ−tag遺伝子断片を含むゲル片を切り出した。具体的には、QIAEXII Gel− Extractionキット(QIAGEN社)を用いて、アガロースゲルから目的DNA断片を抽出精製した。このZZtag遺伝子断片とpTAC−1 vector(BioDynamics Labs)をT4−ligaseで連結することにより、ZZtag遺伝子をpTAC−1ベクターにクローニングして、pBO1594ベクターを作製した。
【0126】
得られたpBO1594ベクターをNotIで制限酵素消化処理し、1.5%アガロースゲル電気泳動した後、ZZtag断片を含むゲル片を切り出した。QIAEXII Gel Extractionキットで、目的となるZZtagDNA断片を抽出精製し、insert DNAとした。
【0127】
一方、pBO1501ベクターをNotIで制限酵素消化処理した後、65℃で20分間酵素失活反応させた。このNotIによって制限酵素消化処理したpBO1501の断片と、NotIによって制限酵素消化処理したZZtag断片とを、Ligation High ver.2(TOYOBO社)を用いて連結することにより、配列番号16に示す塩基配列を含むdHBsAg−ZZ遺伝子発現用ベクターpBO1595を構築した。
【0128】
このようにして作製したpBO1595ベクターには、dHBsAg−ZZのC末端に検出精製用のHis6−tag配列が融合されたタンパク質をコードする遺伝子が含まれている。
【0129】
7)dHBsAg−ZZの大腸菌による発現と精製
上述のdHBsAg−ZZ発現ベクターpBO1595を、大腸菌株Origami2(DE3)に形質転換した。翌日出現したコロニー数十個について、実施例2と同様の方法で遺伝子の発現及び培養を行い、得られた遺伝子発現菌体について、Tween80を含まない緩衝液にて超音波破砕処理によって可溶化して得られる可溶性画分Tween
−(S
−)、Tween80を含む緩衝液にて超音波破砕処理によって可溶化して得られる可溶性画分(S
+)、及び不溶性画分(I)を調製した。これらの試料(100μLの培養液分)に当容量の2×sample bufferを加えて溶解し、95℃で5分間加熱処理した後、SDS−PAGE処理に供し、次いでCBB染色を行った。結果を
図9(A)に示す。
【0130】
図中の矢印にて示されるように、IPTG誘導下による培養を行った場合に、明瞭なdHBsAg−ZZの発現バンドが見られ、主に可溶性画分(S
−)に局在することが明らかとなった。またこの発現バンドは、ヤギ由来ビオチン標識化抗HBsAg抗体と、ウサギ由来アルカリフォスファターゼ標識化抗ビオチン抗体、あるいはHisProbe
TM−HRP結合体を各々用いたウエスタンブロッティングでも検出された事から、目的のdHBsAg−ZZバンドである事が確認された。
【0131】
この可溶性画分(S
−)を、平衡化緩衝液[0.5MのNaCl、及び30mMのイミダゾールを含む50mMリン酸緩衝液(pH7.0)]にて平衡化したNi−Sepharose 6 Fast flowカラムに添加し、室温で5分間rotate後、ゆっくり流し素通り液を回収した(素通り画分)。次に約1mlの上記平衡化緩衝液で7回、カラムを洗浄した後、イミダゾールの濃度を500mMに変えた上記平衡化緩衝液を用いて0.1mLずつ10回溶出させた(Ni−溶出画分:E)。各画分をSDS−PAGE処理に供し、次いでCBB染色を行った結果を
図9(B)に示す。
【0132】
図中の矢印に示すように、Ni−カラム溶出画分(E)において、約70%を超える高純度のdHBsAg−ZZタンパク質が回収されることが明らかとなった。また、回収されたdHBsAg−ZZタンパク質は、dHBsAgタンパク質と同様に従来のHBsAgタンパク質と比較して、N末端側を欠失する変異が施されていることから、自己凝集することによってウイルス様の粒子を形成しているものと考えられる。以後、この粒子をdBNC−ZZと呼ぶことがある。
【0133】
また、発現用プラスミドによる大腸菌の形質転換から、高純度dBNC−ZZの取得までにかかった時間は約4日以内であり、迅速にB型肝炎ウイルス粒子様のナノカプセルを生産できることが明らかとなった。
【0134】
7) dBNC−ZZ粒子の性状解析
<抗体認識能>
ウサギ血清由来のIgGを固相化しスキムミルクでブロッキングしたマイクロウェルプレートに、TBSで希釈したdHBsAg−ZZ遺伝子の発現菌体の可溶性画分、及びdHBsAg遺伝子の発現菌体の可溶性画分を添加し、室温で2時間反応させた。各ウェルを3回洗浄後、標識抗体としてTBSで希釈したウサギ由来HRP標識化IgGを添加して室温で2時間反応させた。各ウェルを6回洗浄後、基質溶液[6mgのo−Phenylenediamine、12mLの0.1Mクエン酸緩衝液(pH5.0)、及び12μLの30%H
2O
2を混合して要事調製したもの]を加えて30分間反応させ、492nmの吸光度を測定した。その結果を
図10に示す。
【0135】
dHBsAg試料では吸光度の上昇が全く見られなかったが、dHBsAg−ZZ試料では顕著な吸光度の上昇が観察された事から、dBNC−ZZ粒子では抗体結合能が維持されたZZドメインが多価でその粒子表面に提示されている事が示された。
【0136】
<Sucrose密度勾配遠心解析>
精製したdBNC−ZZ粒子を、上記5)の
dHBsAgナノカプセルの性状解析にて示したsucrose密度勾配遠心処理と同様の手法を用いて解析した結果を
図11に示す。比較対象として、酵母細胞を用いて生産した野生型HBsAg−ZZ粒子(ビークル社製)を用いた。
【0137】
dHBsAg−ZZ粒子は、比較対象の野生型BNC−ZZ粒子と同じ8番目の画分に沈降ピークを示すことが明らかとなった。この結果から、dHBsAg−ZZ粒子も従来のHBsAg粒子や、dHBsAgと同様に、dHBsAg−ZZタンパク質が自己凝集することによってウイルス粒子様の形状を有していることが示唆された。
【0138】
<電子顕微鏡観察>
精製したdBNC−ZZを電子顕微鏡観察した。観察結果を
図12に示す。
【0139】
dBNC−ZZは、従来の野生型HBsAg粒子と同様の表面形状を示す事から、dHBsAgタンパク質が自己凝集することによって、エンベロープ様ナノ粒子構造形成する事が確認された。また、粒子径は22±4nmと、比較対象に用いた野生型HBsAg粒子(21±2nm)とほぼ同等の粒子径を有することも明らかとなった。この数値は、電子顕微鏡像から50個の粒子を選択し、その直径を測定した平均値である。
【0140】
<トリプシン切断実験>
4.1μg/10μLの濃度の精製したdBNC−ZZ粒子に、終濃度が12.5ng/μLとなるようにTPCK-トリプシン(Worthington Biochemial Corporation)を加えた後、37℃で、20分、2時間若しくは16時間消化反応を行った。
【0141】
反応後の液に5μLの4×Sample Buffer(5%の2−メルカプトエタノールを含有)を加えて、95℃で5分処理した後、15%アクリルアミドゲルを用いてSDS−PAGEを行い、CBB染色で全断片を、そしてHRP標識化抗HisProbe抗体を用いたウエスタンブロッティングによりC末端His-tagを含む切断断片を、HRP標識化抗HBsAg抗体を用いたウエスタンブロッティングによりN末端側HBsAg配列を含む切断断片を、各々検出した。結果を
図13−2に示す。
【0142】
(A)及び(B)において、(1)に示すバンドから、dBNC−ZZタンパク質の全長の存在が示唆される。(2)に示すバンドから、
図13−1に示すBの位置でトリプシン消化され、C末端側のHis−tagが欠失したタンパク質の存在が示唆される。(3)のバンドから、
図13−1のCの位置でトリプシン消化され、ZZドメインのうち、C末端側のZドメインを欠失下タンパク質の存在が示唆される。(4)のバンドから、
図13−1に示すDの位置でトリプシン消化され2つのZドメインが欠失したタンパク質の存在が示唆される。
【0143】
これらのバンドは、抗HBsAg抗体を用いたウエスタンブロッティングによっても確認されるバンドであることが(B)から明らかであり、本発明のdBNC−ZZにおいて、C末端側のZZドメイン及びHis−tagは、
図13−1に示すようにウイルス様粒子表面に露出している構造を有しており、即ちC末端側のアミノ酸配列がウイルス粒子様構造の外側に提示されていることが明らかとなった。なお、
図13−2の(B)において(5)にて示されるバンドは、抗His−tag抗体によって確認されるバンドであることから、
図13−1のEの位置でトリプシン消化されたものと考えられる。
【0144】
<AFM観察>
精製したdBNC−ZZ粒子を金属板に固定したマイカ(雲母)に4μl添加した後に15分間乾燥させ、大塚蒸留水(大塚製薬,徳島)により3回洗浄した。再び乾燥させ、この試料を走査型プローブ顕微鏡(SPA400−DFM、SII NanoTechnology Inc.;千葉)により観察した。比較対象として、酵母にて作製した野生型BNC−ZZ粒子を用いた。結果を
図14に示す。
【0145】
精製したdBNC−ZZ粒子は、高さが6.7−15.5nm程度で、直径は28.7−57.4nm程度であり、酵母で作製した野生型BNCーZZ粒子と類似した大きさであった。
【0146】
通常、脂質二重膜の厚さは5nm程度と考えられることから、10nm以上の厚さを示すのは、脂質二重膜が2層以上重なっていると考えられ、dHBsAgーZZ粒子は、従来のBNC−ZZ粒子と同様に、中空球状物の構造を有することが考えられる。