特許第5892776号(P5892776)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5892776医薬品を包装するための、PTP用またはブリスターパック用シートおよびそれを用いた医薬品包装用PTPまたは医薬品包装用ブリスターパック、ならびに医薬品包装用PTPまたは医薬品包装用ブリスターパックの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5892776
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】医薬品を包装するための、PTP用またはブリスターパック用シートおよびそれを用いた医薬品包装用PTPまたは医薬品包装用ブリスターパック、ならびに医薬品包装用PTPまたは医薬品包装用ブリスターパックの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B65D 81/30 20060101AFI20160310BHJP
   B65D 75/36 20060101ALI20160310BHJP
   B65D 75/34 20060101ALI20160310BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20160310BHJP
   A61J 1/03 20060101ALI20160310BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20160310BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20160310BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20160310BHJP
【FI】
   B65D81/30 B
   B65D75/36
   B65D75/34
   B65D65/40 D
   A61J1/03
   B32B27/20 A
   B32B27/32 Z
   B32B27/30 D
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-268067(P2011-268067)
(22)【出願日】2011年12月7日
(65)【公開番号】特開2013-119412(P2013-119412A)
(43)【公開日】2013年6月17日
【審査請求日】2014年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206185
【氏名又は名称】大成化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】岩橋 一也
(72)【発明者】
【氏名】井口 博務
(72)【発明者】
【氏名】矢野 幸博
【審査官】 佐野 健治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−230112(JP,A)
【文献】 特開平08−193149(JP,A)
【文献】 特開2000−178361(JP,A)
【文献】 特開2000−347459(JP,A)
【文献】 特開2000−289139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 81/30
A61J 1/03
B32B 27/20
B32B 27/30
B32B 27/32
B65D 65/40
B65D 75/34
B65D 75/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
20〜400nmの平均粒子径を有し、かつ、紫外線を遮蔽、散乱または吸収する作用を有する有機着色顔料(a1)および数平均分子量が100〜3000である分散剤(a2)を混合してなる成分(A)と、樹脂成分(B)とを含む樹脂組成物を用いて形成されたことを特徴とする、医薬品を包装するための、PTP用またはブリスターパック用シート。
【請求項2】
前記樹脂成分(B)100質量部に対して、成分(A)を0.4〜6.0質量部の量で含むことを特徴とする、請求項1に記載の、医薬品を包装するための、PTP用またはブリスターパック用シート。
【請求項3】
前記有機着色顔料(a1)と前記分散剤(a2)との質量比((a1)/(a2))が、30/70〜75/25であることを特徴とする、請求項1または2に記載の、医薬品を包装するための、PTP用またはブリスターパック用シート。
【請求項4】
前記樹脂成分(B)が、エステル系樹脂またはオレフィン系樹脂であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の、医薬品を包装するための、PTP用またはブリスターパック用シート。
【請求項5】
ポリプロピレン、ポリエチレンおよびポリクロロトリフルオロエチレンからなる群から選択される少なくとも1種類の樹脂を含むブリードアウト防止層が、片面または両面に積層されてなることを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載の、医薬品を包装するための、PTP用またはブリスターパック用シート。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の、医薬品を包装するための、PTP用またはブリスターパック用シートを成形してなることを特徴とする、医薬品包装用PTPまたは医薬品包装用ブリスターパック。
【請求項7】
20〜400nmの平均粒子径を有し、かつ、紫外線を遮蔽、散乱または吸収する作用を有する有機着色顔料(a1)と数平均分子量が100〜3000である分散剤(a2)とを混合して、成分(A)を調製し、
前記成分(A)を樹脂成分(B)に分散させて樹脂組成物を調製し、
前記樹脂組成物から医薬品を包装するためのPTP用またはブリスターパック用シートを成形し、
前記シートを用いて、医薬品包装用PTPまたは医薬品包装用ブリスターパックを製造
する方法。
【請求項8】
前記有機着色顔料(a1)が、機械的に解砕または粉砕処理されたものであることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品を包装するための、PTP用またはブリスターパック用シートおよびそれを用いた医薬品包装用PTPまたは医薬品包装用ブリスターパック、ならびに医薬品包装用PTPまたは医薬品包装用ブリスターパックの製造方法に関する。より詳しくは、シート中に含まれる有機着色顔料に関して、良好な分散性を発揮できる医薬品を包装するための、PTP用またはブリスターパック用シートおよびそれを用いた医薬品包装用PTPまたは医薬品包装用ブリスターパック、ならびに医薬品包装用PTPまたは医薬品包装用ブリスターパックの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブリスターパックは、錠剤、カプセル剤等の薬剤や、食料品、玩具等の内容物(被包装物)を包装するために使用されている。特に、ブリスターパックの一種であるPTP(プレス・スルー・パック)は、錠剤やカプセル剤等の薬剤を包装するために汎用されている。
【0003】
このようなブリスターパックは、帯状の樹脂シート(ブリスターパック用シート、PTP用シート)の表面に多数のポケットを熱成形し、成形された各ポケットに内容物を装填し、装填された内容物を密封するように、樹脂フィルム表面に、金属箔等(アルミニウム箔等)を有するシール箔(蓋材)を加熱接着することで製造されている。
【0004】
また、ブリスターパックには、成形性や透明性の他に、内容物の性質に応じて、様々な特性(低酸素透過性、防湿性、UVカット性など)などが求められている。
【0005】
たとえば、特許文献1では、従来よりも酸素透過度が低いブリスターパック形成用樹脂積層フィルムおよびそれを用いたブリスターパックが開示されている。このブリスターパック形成用樹脂積層フィルムは、該樹脂積層フィルムの支持基材と、それに対面する側に配置される酸素バリア層と、該酸素バリア層の支持基材と対面しない側に配置される防湿層とを有するものである。
【0006】
また、特許文献2では、防湿性が高く、シート表面の滑り性も良好でありながら、シート総厚を250μmよりも薄肉化した場合でもポケット部につぶれのない、形状並びにバリア性に優れた実用に耐えるPTPシートが開示されている。このPTPシートは、特定の脂環式構造含有重合体からなる中間層の両面に、特定のポリプロピレン系樹脂からなる外層を積層してなる積層フィルムに所定条件下で複数の収容ポケットを成形してなることを特徴とする。
【0007】
また、これらの特許文献には、シート中に紫外線吸収剤や遮光性材料(有機着色顔料等)を添加することで、得られるPTPにおいて、可視光や紫外線による内容物の劣化(変色・変質)が低減される旨も開示されている(特許文献1:段落[0058]〜[0062]、特許文献2:段落[0044])
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2008/156039号パンフレット
【特許文献2】特開2005−263287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、シート中に含まれる有機着色顔料を、樹脂中に均一に分散させることは困難であり、該着色顔料が偏在し易い。そのために、PTPまたはブリスターパック等の成形品を製造する際に、シート中に顔料の凝集が生じたり、シートの肌不良などの不具合が生じたりしやすく、成形性に改善の余地があった。また、有機着色顔料は、成形品またはシートからブリードアウトし易いことや、有機着色顔料が紫外線を遮蔽、散乱または吸収する作用を有していても、このような成形品では、UVカット性が不十分な部分が存在し(UVカット性にムラが生じ)、結果として、全体に亘って良好なUVカット性を発揮できない。
【0010】
このような従来の課題に対して、本発明者らは、鋭意検討の結果、ブリスターパック用シートにおいて、樹脂成分と、特定の平均粒子径を有する有機着色顔料および特定分子量を有する分散剤を混合して調製された混合物とを併用することで、良好な有機着色顔料の分散性を発揮できる(シート中の有機着色顔料の偏在が少ない)とともに、有機着色顔料のブリードアウトの発生を低減できる(または、該ブリードアウトの発生がない)ことを見出した。
【0011】
そして、この良好な分散性に起因して、このシートを用いて、PTPまたはブリスターパック等の成形品を製造すると、(i)成形性が良好であること、(ii)有機着色顔料が紫外線を遮蔽、散乱または吸収する作用を有する場合では、得られた成形品は、成形品全体に亘って(偏りが少なく)良好なUVカット性を発揮できること、(iii)特に、該シートが紫外線を遮蔽、散乱または吸収する作用を有する有機着色顔料を含み、このシートを成形して得られたPTPやブリスターパックは、紫外線で劣化や変質しやすい医薬品等を包装するのに好適であるという知見も見出された。
【0012】
すなわち、本発明は、有機着色顔料において、良好な分散性を発揮できる(シート中の有機着色顔料の偏在が少ない)とともに、有機着色顔料のブリードアウトの発生を低減できる(または、該ブリードアウトの発生がない)、医薬品を包装に好適なPTPまたはブリスターパックを成形するためのシート(PTP用またはブリスターパック用シート)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る医薬品を包装するための、PTP用またはブリスターパック用シートは、20〜400nmの平均粒子径を有する有機着色顔料(a1)および数平均分子量が100〜3000である分散剤(a2)を混合してなる成分(A)と、樹脂成分(B)とを含むことを特徴とする。
【0014】
本発明のPTP用またはブリスターパック用シートにおいて、前記樹脂成分(B)100質量部に対して、成分(A)を0.4〜6.0質量部の量で含むことが好ましい。
【0015】
本発明のPTP用またはブリスターパック用シートは、前記有機着色顔料(a1)と前記分散剤(a2)との質量比((a1)/(a2))が、30/70〜75/25であることが好ましい。
【0016】
本発明のPTP用またはブリスターパック用シートにおいて、前記樹脂成分(B)が、エステル系樹脂またはオレフィン系樹脂であることであることが好ましい。
【0017】
本発明のPTP用またはブリスターパック用シートにおいて、ポリプロピレン、ポリエチレンおよびポリクロロトリフルオロエチレンからなる群から選択される少なくとも1種類の樹脂を含むブリードアウト防止層が、片面または両面に積層されてなることが好ましい。
【0018】
本発明に係る医薬品包装用PTPまたは医薬品包装用ブリスターパックは、上記の何れかに記載の医薬品を包装するためのPTP用またはブリスターパック用シートを成形してなることを特徴とする。
【0019】
本発明に係る医薬品包装用PTPまたは医薬品包装用ブリスターパックを製造する方法は、20〜400nmの平均粒径を有する有機着色顔料(a1)と数平均分子量が100〜3000である分散剤(a2)とを混合して、成分(A)を調製し、前記成分(A)を樹脂成分(B)に分散させて樹脂組成物を調製し、前記樹脂組成物から医薬品を包装するためのPTP用またはブリスターパック用シートを成形し、前記シートを用いて、医薬品包装用PTPまたは医薬品包装用ブリスターパックを製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るPTP用またはブリスターパック用シートは、該シート中に含まれる有機着色顔料において、良好な分散性を発揮できる(シート中の有機着色顔料の偏在が少ない)とともに、有機着色顔料のブリードアウトの発生を低減できる(または、該ブリードアウトの発生がない)。
【0021】
また、この良好な分散性に起因して、PTPまたはブリスターパックを製造する際には、良好な成形性を発揮し、また、有機着色顔料が紫外線を遮蔽・散乱・吸収する作用を有する場合には、全体に亘って良好なUVカット性を発揮する、PTPまたはブリスターパックを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るPTP用またはブリスターパック用シート、PTPまたはブリスターパック、およびPTPまたはブリスターパックの製造方法について詳細に説明する。
【0023】
[PTP用またはブリスターパック用シート]
本発明に係るPTP用またはブリスターパック用シートは、医薬品を包装するための、PTPまたはブリスターパックシートを製造するために好適に使用され、含有成分として、20〜400nmの平均粒子径を有する有機着色顔料(a1)、および数平均分子量が100〜3,000である分散剤(a2)を混合してなる成分(A)と、樹脂成分(B)とを含むことを特徴とする。
【0024】
ここで、PTP用またはブリスターパック用シートとは、PTP(プレス・スルー・パック)またはブリスターパック(好適には医薬品を包装するためのPTPまたはブリスターパックシート(医薬品包装用PTPまたは医薬品包装用ブリスターパックシート))、を成形するために用いられるシートを指す。
【0025】
なお、以下の記載において、本発明に係るPTP用またはブリスターパック用シートを、単に「本発明のシート」と称し、有機着色顔料(a1)、および分散剤(a2)をそれぞれ「(a1)成分」、および「(a2)成分」と称することもある。
【0026】
成分(A)
本発明のシートに含まれる成分(A)は20〜400nmの平均粒子径を有する有機着色顔料(a1)、および数平均分子量が100〜3,000である分散剤(a2)、および必要に応じて、後述するような任意成分(C)を混合してなるものである。すなわち、成分(A)は、分散剤(a2)に被覆されている有機着色顔料(a1)である。
【0027】
上記(a1)成分は、20〜400nmの平均粒子径を有する有機系の着色顔料であれば特に限定されないが、本発明のシートおよびそれから得られるPTPまたはブリスターパックに紫外線カット性を付与するという観点からは、紫外線(たとえば、200〜390nm)を遮蔽・吸収・散乱する顔料であることが好ましい。
【0028】
(a1)成分の具体例としては、シアニン系、スチレン系、フタロシアイン系、アンスラキノン系、ペリノン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、キノクリドン系、チオインディゴ系などの有機顔料等が挙げられる。
【0029】
入手の容易さや安全や衛生性を考慮すると、(a1)成分は、C.I.ピグメントイエロー147(1,1´−[(6−フェニル−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル)−ジイミノ]ビス−9,10−アントラセンジオン)(下記式(1))、
C.I.ピグメントイエロー180(2,2’−[1,2−エタンジリルビス(オキシ−2,1−フェニレンアゾ)]ビス[N−(2,3−ジヒドロ−2−オキソ−1H−ベンジルイミダゾール−5−イル)−3−オキソ−ブタンアミド)(下記式(2))、
C.I.ピグメントイエロー181(N−[4−(アミノカルボニル)フェニル]−4−[[1−[[2,3−ジヒドロ−2−オキソ−1H−ベンズイミダゾール−5−イル)アミノ]カルボニル]−2−オキソプロピル]アゾ]ベンズアミド)(下記式(3))
、またはこれらの混合物であることが好ましい。
【0030】
【化1】
【0031】
また、本発明のシートおよびそれから得られるPTPまたはブリスターパックの遮光性、安全性および透明性を向上できるという観点からは、(a1)成分は、上記の中でも、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントレッド117であることが好ましい。なお、これらの化合物は、単独で使用されてもよいし、2種類以上を組み合わせて使用されてもよい。
【0032】
また、(a1)成分の平均粒子径は、20〜400nmであるが、本発明のシートの単位面積毎の遮光安定性、安全性および透明性を向上できるという観点からは、該平均粒子径は250〜350nmであることが好ましい。ここで、該平均粒子径は、以下の測定方法によって得られる平均粒子径を指す。
[平均粒子径の測定方法]
測定サンプル:(a1)成分を、分散媒(ジエチルエーテル)に添加し、超音波分散させ、フィルム(基板)に付着させて、該基板表面に付着している(a1)成分を、透過電子顕微鏡(日本電子社製)を用いて撮影し(倍率:35,000倍)、得られた顕微鏡画像において観察される(a1)成分の一次粒子の最長径を測定した値の平均値である。
【0033】
(a1)成分の平均粒子径を上記の特定範囲に調節するにあたっては、上記特定範囲の上限値を超える粒径を有する有機着色顔料を機械的に解砕・粉砕する公知の手段を用いることができる。このような手段の具体例としては、振動ミル、振動ボールミル、ビーズミル、ターボミル、遊星ボールミルなどが挙げられる。
【0034】
上記分散剤(a2)は、数平均分子量が100〜3000である限り特に限定されないが、該分散剤(a2)としては、本発明のフィルム中における(a1)成分の分散性が良好になることや、安全性が高いという観点からは、数平均分子量が100〜3000であるオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン共重合体など)等が好ましい。なお、各種オレフィン系樹脂は、単独で使用されてもよいし、2種類以上を組み合わせて使用されてもよい。
【0035】
また、(a2)成分の数平均分子量は100〜3000である。(a2)成分は、このような分子量を有するために、適度な粘性(たとえば、140℃おける粘度が5〜500mPa・s)を有している。そのため、(a1)成分と混合すると、(a1)成分の表面が(a2)成分によって被覆されて、(a1)成分同士の凝集が低減され、フィルム中における(a1)成分の分散性が良好になる。
【0036】
また、本発明のフィルム中における(a1)成分の分散性が更に良好になることや、安全性が高いという観点からは、該数平均分子量は1500〜2000であることが好ましい。
【0037】
なお、(a2)成分の数平均分子量は、下記測定条件に準拠した蒸気圧浸透圧法で測定して得られる数平均分子量を指す。
【0038】
[数平均分子量の測定方法]
・ 測定サンプル:(a2)成分
・ 測定方法:蒸気圧浸透圧法
・ 測定機器:蒸気圧浸透圧計K−7000(KNAUER社製)
また、成分(A)は、上記(a1)成分、(a2)成分および必要に応じて任意成分(C)を混合してなるものであり、V型ブレンダー、ボールミル等の公知の混合手段によって調製することができる。
【0039】
また、特定の平均粒子径範囲の上限値を超えた有機着色顔料や分散剤を、必要に応じて任意成分(C)とともに、振動ミル、振動ロッドミル、振動ボールミル、ビーズミル、ターボミル、遊星ボールミルなどの機械的粉砕・混合手段を用いて、混合するとともに、有機着色顔料の平均粒子径を特定範囲に調節して(すなわち、(a1)および(a2)を調製するとともに)成分(A)を調製してもよい。
【0040】
また、成分(A)中における(a1)と(a2)との質量比(混合比、(a1)/(a2)))は、任意の値を採ることが可能であるが、本発明のフィルム中における(a1)成分の分散性、本発明のフィルムの透明性、遮光性および安全性を高くできるという観点からは、該質量比は30/70〜75/25であることが好ましく、40/60〜50/50であることがより好ましい。
【0041】
また、本発明のシートは、分散性、透明性、遮光性および安全性を更に良好なものにするという観点からは、後述する樹脂成分(B)100質量部に対して、成分(A)を0.4〜6.0質量部の量で含むことが好ましく、2.0〜5.0質量部で含むことがより好ましい。
【0042】
樹脂成分(B)
本発明のシートに含まれる樹脂成分(B)は、公知の、PTP用またはブリスターパック用シートに使用される樹脂である限り特に限定されない。このような樹脂としては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのエステル系樹脂(ポリエステル)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン共重合体などのオレフィン系樹脂、ポリスチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリアクリルニトリル、ポリイミド等が挙げられる。なお、これらは、単独で使用されてもよいし、2種類以上を組み合わせて使用されてもよい。
【0043】
この中でも、本発明のシート中の(a1)成分の分散性を高くすることや、本発明のシートの透明性、遮光性および安全性を向上できるという観点からは、樹脂成分(B)は、オレフィン系樹脂またはエステル系樹脂(ポリエステル)であることが好ましい。
【0044】
また、上記オレフィン系樹脂またはエステル系樹脂の数平分子量は、たとえば、50,000〜180,000(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定)である。
【0045】
任意成分(C)
本発明のシートは、必要に応じて、(a1)成分、(a2)成分および樹脂成分(B)以外の成分(任意成分(C))を含んでいてもよい。
【0046】
ここで、任意成分(C)は、(a1)成分および(a2)成分とともに成分(A)に含まれてもよいし(すなわち、(a1)成分および(a2)成分とともに任意成分(C)を混合して成分(A)を調製してもよいし)、または樹脂成分(B)に含まれてもよい(すなわち、成分(A)および樹脂成分(B)とともに任意成分(C)を混合して、本発明のシートに成形するための樹脂組成物を調製してもよい。)。
【0047】
任意成分(C)としては、たとえば、酸化防止剤、熱安定剤、耐光安定剤などの安定剤、(a1)成分を除く紫外線散乱剤、(a1)成分を除く紫外線吸収剤、無機顔料、帯電防止剤、滑剤、可塑剤等が挙げられる。特に透明性に優れるPTPやブリスターパックを得るためには、酸化防止剤を配合するのが好ましい。酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などが挙げられる。
【0048】
PTP用またはブリスターパック用シート、およびPTPまたはブリスターパック
本発明のPTP用またはブリスターパック用シートは、上記成分(A)と樹脂成分(B)と、必要に応じて成分(C)を分散して得られた樹脂組成物を、たとえば、溶融成形法など公知の手法によってシート状に成形してなるものである。
【0049】
また、本発明のシートは、単層であってもよく、必要に応じて、片面または両面に、酸素バリア層などのガスバリア層、ガス吸収層、防湿層、遮光層、ブリードアウト防止層などの層が積層されていてもよい(多層型シート)。中でも、微量の(a1)成分や成分(C)が、本発明のシートからブリードアウトしやすいものであっても、このようなブリードアウトを良好に防止できるという観点からは、本発明のシートは、片面または両面に、ブリードアウト防止層として、ポリプロピレン、ポリエチレンおよびポリクロロトリフルオロエチレンからなる群から選択される少なくとも1種類の樹脂を含む層が積層されていていることが好ましい(多層型シート)。
【0050】
なお、本発明のシートの片面または両面に、上記のような層を積層するにあたっては、公知の積層手段を用いることができる。たとえば、このような本発明のシートは、片面または両面に、各層を形成するシートを重ね合せた後に熱融着したり、各層を形成するシートを接着剤層などを介して、貼着したりして製造することができる。ここで、本発明のシートと上記各層との密着性を良くするために、両方または何れかの表面に、前処理としてコロナ処理、低温プラズマ処理、イオンボンバード処理を実施してもよく、さらに薬品処理、溶剤処理をしてもよい。
【0051】
また、成分(A)と樹脂成分(B)と、必要に応じて成分(C)を含む樹脂組成物と、各層を形成する樹脂組成物とを、多層Tダイ法や多層インフレーション法等の共押出成形法、押出コーティング、ドライラミネーション、ヒートラミネーション、湿式流延法や乾式流延法等のキャスティング法、カレンダー法など、一般的な多層シート成形法で製造することができる。
【0052】
本発明のシートの厚さ(多層型の場合、総厚)は、通常150μm〜400μm、好ましくは180μm〜350μmの範囲である。このような厚さであれば、本発明のシートから成形性良くPTPやブリスターパックを製造することができる。
【0053】
本発明のPTPまたはブリスターパックは、上記PTP用またはブリスターパック用シートを用いて製造される。このようなPTPまたはブリスターパックは、全体に亘って良好なUVカット性を発揮し、ブリードアウトし難いために、食品、薬品(特に、紫外線によって劣化(変色・変質)しやすい食品や薬品)等の内容物を包装することに適している。
【0054】
本発明のシートから、PTPまたはブリスターパックを製造する方法は特に限定されないが、たとえば、公知の成形方法でシート表面にポケットを形成し、各ポケットに内容物を装填し、装填された内容物を密封するように、シート表面とシール材(蓋材)とを接着することでPTPまたはブリスターパックを製造する。
【0055】
ここで、本発明のシート表面にポケットを形成する方法は、具体的には、以下のようなものが挙げられる。
・加熱圧空成形法:PTP用またはブリスターパック用シートを高温、高圧のエアーが供給される孔を有する下型と、ポケット形状の凹部を有する上型に挟み、加熱軟化させながらエアーを供給してポケットを形成する方法
・プレヒーター平板式圧空成形法:PTP用またはブリスターパック用シートを加熱軟化させた後、高圧のエアーが供給される孔を有する下型と、ポケット形状の凹部を有する上型に挟み、エアーを供給してポケットを形成する方法
・ドラム式真空成形法:PTP用またはブリスターパック用シートを加熱ドラムで部分的に加熱軟化後、ポケット形状の凹部を有するドラムの該凹部を真空引きしてポケットを成形する方法
・ピン成形法:PTP用またはブリスターパック用シートを加熱軟化後ポケット形状の凹凸金型で圧着する方法
・プレヒータープラグアシスト圧空成形法:PTP用またはブリスターパック用シートを加熱軟化させた後、高圧のエアーが供給される孔を有する下型と、ポケット形状の凹部を有する上型に挟み、エアーを供給してポケットを形成する方法であって、成形の際に、凸形状のプラグを上昇及び降下をさせて成形を補助する方法。
【0056】
中でも、本発明のフィルムは、真空成形法のみならず、圧空成形法によっても成形不良を起こしにくいので、平板式圧空成形法やプラグアシスト圧空成形法などの圧空成形法で成形することができる。なお、本発明のブリスターパックのポケット部の形状、大きさ、深さ、個数、配列等は被包装物の形状や用途によって適宜選択することができる。
【0057】
また、ヒートシール(加熱接着)によって、装填された内容物を密封できることから、シール材(蓋材)としては、ヒートシール性樹脂層を有するものが好ましい。ヒートシール性樹脂層とは、ヒートシールの際に、内容物が装填された本発明のシートの表面と融着する層である限り特に限定されないが、たとえば、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリプロピレン(PP)、エチレン・アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン・メタアクリル酸共重合体(EMA)、エチレン・メチルアクリレート共重合体(EMAA)、エチレン・エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン・メチルメタアクリル酸共重合体(EMMA)、アイオノマー(IO)などを、1種または2種以上含む層が挙げられる。
【0058】
また、シール材(蓋材)は、ガスバリア性が良好である点から、アルミニウム層などの金属蒸着膜層や金属箔層を有することが好ましい。
【実施例】
【0059】
以下、本発明について実施例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0060】
本実施例において使用された有機着色顔料および分散剤は以下のとおりである。
【0061】
(1)黄色顔料粉末:C.I.ピグメントイエロー180(クラリアントジャパン株式会社製、商品名「PVファーストイエローHG」)を粉砕して得られた、平均粒子径320nmを有する顔料。
【0062】
なお、上記平均粒子径とは、粉砕したC.I.ピグメントイエロー180を、分散媒(ジエチルエーテル)に添加し、超音波で分散させ、フィルム(基板)に付着させて、該基板表面に付着しているC.I.ピグメントイエロー180を、透過電子顕微鏡(日本電子社製)を用いて撮影し(倍率:35,000倍)、得られた顕微鏡画像において観察されるC.I.ピグメントイエロー180の一次粒子の最長径を測定した値の平均値である。
【0063】
(2)ポリエチレンワックス:ポリエチレンワックス(Honeywell社製、商品名「A−C6A」数平均分子量:2000、140℃における粘度:400cps)
なお、ポリエチレンワックスの数平均分子量および140℃における粘度の測定条件は、以下のとおりである。
【0064】
[数平均分子量]
測定サンプル:上記ポリエチレンワックス
測定方法:蒸気圧浸透圧法
測定機器:蒸気圧浸透圧計K−7000(KNAUER社製)
[粘度の測定]
上記ポリエチレンワックスの粘度を、B型粘度計により、No.4ローター、60rpm、60秒、140℃の条件で測定した。
【0065】
[試験用シートの製造]
「黄色顔料粉末」(着色顔料(a1))と「ポリエチレンワックス」(分散剤(a2))とを、下記表1に示されるような組成比率で混合して、成分(A1)および成分(A2)を調製した。
【0066】
【表1】
【0067】
次いで、表2に示される成分の種類および比率に基づいて、成分A1または成分A2を、約200℃で溶融させたポリプロピレンに添加し、2軸混練押出機を用いて混合し、溶融した樹脂組成物を得た。
【0068】
樹脂を投入するためのホッパーと、シリンダーと、シリンダーを加熱するためのヒーターと、シリンダー内に設置され、ホッパーに投入された樹脂を加熱溶融させながら押し出すためのスクリュー(フルフライトスクリュー(L/D=23))と、スクリューの回転動力源としてのモーター(1.5KW)と、シリンダーの先端(溶融樹脂が機外に押し出される部分)に設置されたダイとを備える15mmノンベント単軸押出機を使用した。該押出機は、シリンダーにおいて、ダイとシリンダーとの間に、金網(500メッシュ、石川金網株式会社製、「IKSCREEN」(登録商標)モノタイプ)が設置されている。
【0069】
得られた樹脂組成物1kgを、押出機のホッパーに投入し、150rpmの回転速度でスクリューを回転させて、溶融樹脂組成物を、上記金網を通過させて、ダイから連続的に押し出し、押し出される樹脂組成物が無くなるまで続けた。ここで、ダイから樹脂組成物が押し出され始めたこと、およびダイから押し出される樹脂組成物が無くなったことを目視で確認した。
【0070】
なお、スクリューの回転に伴って、シリンダー内の溶融樹脂には、樹脂の移動方向(スクリューからダイが設置された方向)に圧力がかかっている。
【0071】
ここで、ダイから樹脂組成物が押し出され始めた際の、上記圧力(P)を測定した後、ダイスから押し出される樹脂組成物が無くなった際の上記圧力(P)を測定した。
【0072】
得られた圧力値(PおよびP)および下記式1に基づいて、圧力の上昇差ΔPを算出した。算出されたΔPおよび下記評価基準を用いて、分散性を評価した。なお、上記「P」および下記「P」の単位はMPaである。
[数1]
ΔP=P−P
[評価基準]
○:ΔPの値が3以下である。
【0073】
×:ΔPの値が3を超える。
樹脂組成物に含まれる着色顔料の分散性が悪い場合、着色顔料同士が凝集したり、樹脂組成物中において着色顔料が偏在したりするために、ΔPは大きな値となる。一方で、樹脂組成物に含まれる着色顔料の分散性が良好である場合、着色顔料同士が凝集し難く、樹脂組成物中において着色顔料が均一に分散したりするために、ΔPは小さな値となる。なお、各実施例において、ΔPは、0.2〜0.7MPaの範囲であった。
【0074】
さらに、得られた樹脂組成物を、多層押出機を用いて、両面にポリプロピレン層(厚さ30μm)を積層した厚さ250μmのシート状に成形して試験用シートを得た。得られた試験用シートを10mm×30mmの大きさに切り出し、紫外可視分光光度計(V−560、日本分光株式会社製)を用いて波長220〜420nmの光線透過率(%)を測定し、下記評価基準に基づいてUVカット性を評価した。
[評価基準]
○:光線透過率が10%未満である。
×:光線透過率が10%以上である。
【0075】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、有機着色顔料において、良好な分散性を発揮できる(シート中の有機着色顔料の偏在が少ない)とともに、有機着色顔料のブリードアウトの発生を低減できる(または、該ブリードアウトの発生がない)PTPまたはブリスターパックを成形するためのシート(PTP用またはブリスターパック用シート)を提供できる。
【0077】
また、本発明によれば、PTPまたはブリスターパックを製造する際に、良好な成形性を発揮し、有機着色顔料が紫外線を遮蔽・散乱・吸収する作用を有する場合、全体に亘って良好なUVカット性を発揮する、PTPまたはブリスターパックを提供できる。