(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5892823
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】膨張弁
(51)【国際特許分類】
F25B 41/06 20060101AFI20160310BHJP
F16K 1/14 20060101ALI20160310BHJP
【FI】
F25B41/06 Q
F16K1/14 A
F25B41/06 N
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-69168(P2012-69168)
(22)【出願日】2012年3月26日
(65)【公開番号】特開2013-200079(P2013-200079A)
(43)【公開日】2013年10月3日
【審査請求日】2014年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 靖
(72)【発明者】
【氏名】林 宏
【審査官】
河内 誠
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭64−028463(JP,A)
【文献】
特開2001−116402(JP,A)
【文献】
特開2012−047430(JP,A)
【文献】
実開平03−037372(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0045264(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00,41/06
F16K 1/14,31/68
B60H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍サイクルに装備され、コンプレッサで圧縮されてコンデンサで凝縮した高圧冷媒を減圧してエバポレータへ供給するとともに、エバポレータへ供給する冷媒量をエバポレータ出口側の冷媒温度に基いて制御する膨張弁であって、高圧冷媒が供給される弁室と、該弁室内に供給された冷媒を減圧するオリフィスと、該オリフィスで減圧された冷媒をエバポレータに導く出口通路と、エバポレータからコンプレッサへ戻る冷媒が通る戻り通路と、前記弁室内に配置されて前記オリフィスの入口に設けた弁座に接離する弁体と、該弁体を支持する弁体支持部材と、該弁体支持部材を閉弁方向に付勢する付勢部材と、エバポレータ出口側の冷媒温度に基いて前記弁体を駆動するパワーエレメントと、前記弁体支持部材と前記オリフィスとの間に設けられ、前記弁室内に弁開閉方向に摺動自在に収容されるとともに前記弁体支持部材により開閉される冷媒通過孔を有する可動部材と、該可動部材を前記弁体支持部材に圧接するバネと、前記可動部材の開弁方向への移動を規制するストッパとを備え、前記弁体支持部材は、前記可動部材の上流側と下流側とを連通させる冷媒通路を有しており、冷凍サイクルが起動して前記戻り通路内の冷媒圧力が所定値以下になるまでの間は、前記弁体支持部材が前記冷媒通過孔を閉鎖するとともに前記弁体の前記弁座からのリフト量が所定の微小距離以下に制限され、前記戻り通路内の冷媒圧力が所定値以下になった場合は、前記弁体支持部材が前記冷媒通過孔を開放するとともに前記弁体のリフト量がエバポレータ出口側の温度に基いて制御される通常制御状態に移行するようにしたことを特徴とする膨張弁。
【請求項2】
前記冷媒通路は、前記弁体支持部材における前記弁体と反対側の端部から弁閉方向へ延びる縦方向通路と、該縦方向通路の先端から放射状に延びる複数の横方向通路とからなることを特徴とする請求項1記載の膨張弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーエアコン等の冷凍サイクルに装備される膨張弁に関する。
【背景技術】
【0002】
カーエアコン等にあっては、車室内に配置した蒸発器(エバポレータ)に冷媒を送って熱交換を行ない、車室内の冷房を図っている。
エバポレータに供給される冷媒の流量を制御する膨張弁は、エバポレータに直接に取り付けるか、又はエバポレータ近傍に配置されるので、膨張弁から発する騒音は車室内のノイズの原因となる。
【0003】
膨張弁は、エアコンの起動時に弁開度が最大となり、その後に通常の制御領域に移行する特性を有する。
そのため、エアコンの起動時には、全開の弁部を通って大量の冷媒がエバポレータ側へ流れ、その冷媒の通過音が騒音の発生源となっている。
【0004】
下記の特許文献1は、弁体のリフトが2段階となる構造を備えて、弁座との間で形成す
るオリフィスの開度を段階的に制御することで、上記問題点の解決を図った膨張弁を開示
している。
しかしながら、この膨張弁は、弁体が収容される弁室内に入口通路に対向して可動筒やばねを配置しているため、弁室を通過する高圧冷媒の圧力損失が大きくなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−116402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、冷凍サイクル起動時の騒音の発生を防止するとともに、圧力損失の小さい膨張弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の膨張弁は
、冷凍サイクルに装備され、コンプレッサで圧縮されてコンデンサで凝縮した高圧冷媒を減圧してエバポレータへ供給するとともに、エバポレータへ供給する冷媒量をエバポレータ出口側の冷媒温度に基いて制御する膨張弁であって、高圧冷媒が供給される弁室と、該弁室内に供給された冷媒を減圧するオリフィスと、該オリフィスで減圧された冷媒をエバポレータに導く出口通路と、エバポレータからコンプレッサへ戻る冷媒が通る戻り通路と、前記弁室内に配置されて前記オリフィスの入口に設けた弁座に接離する弁体と、該弁体を支持する弁体支持部材と、該弁体支持部材を閉弁方向に付勢する付勢部材と、エバポレータ出口側の冷媒温度に基いて前記弁体を駆動するパワーエレメントと、前記弁体支持部材と前記オリフィスとの間に設けられ、前記弁室内に弁開閉方向に摺動自在に収容されるとともに前記弁体支持部材により開閉される冷媒通過孔を有する可動部材と、該可動部材を前記弁体支持部材に圧接するバネと、前記可動部材の開弁方向への移動を規制するストッパとを備え、前記弁体支持部材は、前記可動部材の上流側と下流側とを連通させる冷媒通路を有しており、冷凍サイクルが起動して前記戻り通路内の冷媒圧力が所定値以下になるまでの間は、前記弁体支持部材が前記冷媒通過孔を閉鎖するとともに前記弁体の前記弁座からのリフト量が所定の微小距離以下に制限され、前記戻り通路内の冷媒圧力が所定値以下になった場合は、前記弁体支持部材が前記冷媒通過孔を開放するとともに前記弁体のリフト量がエバポレータ出口側の温度に基いて制御される通常制御状態に移行するようにしたことを特徴とするものである。
【0008】
また、前記冷媒通路は、前記弁体支持部材における前記弁体と反対側の端部から弁閉方向へ延びる縦方向通路と、該縦方向通路の先端から放射状に延びる複数の横方向通路とからなるものとすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の膨張弁は、上述した構成を備えることにより、従来の膨張弁よりも圧力損失を大きくすることなく、冷凍サイクル起動時にオリフィスを通過する冷媒の流量が過大になることを防止して、騒音の発生を防止することができる。
【0010】
また、冷媒通路が、弁体支持部材における弁体と反対側の端部から弁閉方向へ延びる縦方向通路と、縦方向通路の先端から放射状に延びる複数の横方向通路とからなるものとすると、冷媒通路の冷媒流量を大きくすることができるので、圧力損失をより小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】
図1の要部拡大図であり、閉弁状態を示す図。
【
図3】
図1の要部拡大図であり、弁体が微小距離リフトした状態を示す図。
【
図4】
図1の要部拡大図であり、通常の制御状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1において、全体を符号1で示す膨張弁は、角柱状の弁本体10を備える。弁本体10は、レシーバ側からの高圧の液冷媒を導入する入口通路(図示せず)と、入口通路に連通する弁室40とを有する。弁室40内にはボール状の弁体50が配設され、弁体50は弁体支持部材150で支持されている。
図2に示すように、弁体支持部材150は弾性を有する防振バネ52で姿勢を保持されるとともにスプリング53により閉弁方向へ付勢されている。
【0013】
スプリング53の下端は、弁室40の開口部を塞ぐプラグ55により支持される。プラグ55は弁本体10に対してねじ部56により螺合され、プラグ55のねじ込み量を変更することによって、スプリング53の弁体支持部材150への付勢力を調節することができる。プラグ55の外周部にはシール部材57が嵌装されて弁室40をシールしている。
【0014】
弁室40の上部にはテーパー状の弁座41が形成され、オリフィス42に連通している。オリフィス42を通る冷媒は減圧され、通路22、出口通路23を通ってエバポレータに向けて流出する。エバポレータからコンプレッサへ戻る冷媒は、弁本体10に設けた戻り通路30を通過する。戻り通路30に開口する開口部32を介して冷媒の圧力と温度情報がパワーエレメント70側へ伝達される。
【0015】
パワーエレメント70は、樹脂製のカバー77で覆われ、上下の蓋部材で形成されるハウジング71を備える。ハウジング71内部はダイアフラム72により区画され、上部圧力室73と下部圧力室74を有する。ダイアフラム72の変位は支持部材75を介して作動棒80に伝えられ、作動棒80は弁体50を駆動する。作動棒80の外周部にはシールリング82とその押え部材81が取り付けられている。シールリング82は弁本体10に形成された凹部に収容され、通路22と戻り通路30との間をシールする。
【0016】
110は弁室40内に摺動自在に収容される筒状の可動部材で、その下端位置は弁室40内に圧入固定される短筒状のストッパ130で規制される。可動部材110は下端に内向きのフランジ部112を有しており、閉弁時にあっては、フランジ部112が弁体支持部材150のフランジ部152を防振部材52との間に挟み込んだ状態となり、可動部材110とストッパ130との間には間隙C
1が形成される。
【0017】
また、フランジ部112には、弁室40内に配置された押圧バネ120の下端部が接しており、可動部材110が下方に付勢されている。なお、フランジ部112の内側は冷媒通過孔112aとなっている。
【0018】
弁体支持部材150は、縦方向通路160と4つの横方向通路162とを有する。縦方向通路160は、弁体支持部材150の下端部から上方へ延び、横方向通路162は、縦方向通路160の先端から放射状に延びている。弁室40内に導入された冷媒は縦方向通路160及び横方向通路162を通過して弁座41側に送られる。
【0019】
図5は横軸に戻り通路30を通過する低圧冷媒の圧力PL(出口通路22を通過する冷媒の圧力とほぼ等しい)を、縦軸に弁体50の弁座41に対するリフト量をとったときの両者の関係を示すグラフである。
実線は本発明の膨張弁の特性を示し、破線は従来の膨張弁の特性を示す。
【0020】
符号E
1は、閉弁後の状態から冷凍サイクルを起動した時の状態を示す。
この状態では、弁室40内の圧力に比べてエバポレータ側へ向かう出口通路22の圧力が小さくなる。
【0021】
この状態では、可動部材110は、その圧力差によりスプリング53と押圧バネ120によるバネ力のバランスに抗して弁体支持部材150を弁座41から離れる方向に移動させる。
【0022】
この弁体支持部材150の移動により、弁体50は弁座41から離れ、微小量の開弁状態となり、微小量の冷媒を流す。この弁体支持部材150の移動は可動部材110がストッパ130に当接して両者の間のクリアランスC
2が無くなる位置で停止する(
図3)。
この間の状態は、
図5の領域E
2で示される。戻り通路30を通過する冷媒の圧力が所定値以下になるまでの間、この状態が維持される。
【0023】
そして、戻り通路30を通過する冷媒の圧力が所定値以下になると、
図4に示すように、弁体支持部材150が可動部材110から離れ、パワーエレメント70による作動棒80の操作により弁体50が弁座41との間の流路開度を制御する通常の制御状態に移行する。
この状態は
図5の領域E
3で示される。なお、
図5に示すように、閉弁状態から開弁状態へと移行する際の曲線と、開弁状態から閉弁状態へと移行する際の曲線との間にはヒステリシスがあり、この二つの曲線は重なり合わない。
【0024】
本発明の膨張弁は以上のように構成してあるので、冷凍サイクル停止時に、低リフトを確保してエバポレータに冷媒を送り、エバポレータに少量の冷媒を滞留させておくことで、起動時の低圧圧力の急減圧を防止することができる。また、開弁後の低圧圧力の一定領域で弁の低リフトを保持して冷媒流量を制御して、冷媒通過音の低減を図ることができるものである。
【符号の説明】
【0025】
1 膨張弁
10 弁本体
22、23 出口通路
30 戻り通路
40 弁室
41 弁座
42 オリフィス
50 弁体
52 防振部材
53 スプリング
70 パワーエレメント
71 ハウジング
72 ダイアフラム
73 上部圧力室
74 下部圧力室
75 支持部材
77 カバー
80 作動棒
81 押え部材
82 シールリング
110 可動部材
112 フランジ部
120 押圧バネ
130 ストッパ
150 弁体支持部材
152 フランジ部
160 縦方向通路
162 横方向通路