(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
添加工程においてアルカリ水溶液に添加されるシクロデキストリンと多孔質シリカ粒子との質量比(多孔質シリカ粒子/シクロデキストリン)が、0.5〜5である請求項9から11のいずれかに記載の複合材料の製造方法。
【背景技術】
【0002】
コバルト(Co)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、ニオブ(Nb)、カドミニウム(Cd)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ネオジウム(Nd)、ユーロピウム(Eu)、テルビウム(Tb)、水銀(Hg)、ウラン(U)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、バリウム(Ba)、アルミニウム(Al)などの金属は、経済産業省総合資源エネルギー調査会鉱業分科会レアメタル対策部会定義が定めた31鉱種に含まれる金属である。これらの金属は、我々の生活に必要不可欠なものであり、自動車用触媒、燃料電池、超強力磁石など、現在の精密機器をはじめ多くの製品に使用されている。
【0003】
しかしながら、日本は、これらの金属のほとんどを輸入に頼っているのが現状である。例えば、パラジウム及び白金は、精密機器材料及び歯科材料として使用される金属であり、ジルコニウムは、圧電素子及びコンデンサとして使用される金属である。パラジウム、白金、及びジルコニウムは、地殻内存在量が最も少ない金属の一つであることから、近年の各国による資源獲得競争の中、価格が高騰しつつある。このため、資源の安定的な供給、環境保護の観点から、パラジウム、白金、及びジルコニウムをリサイクルする方法が提案されている。
【0004】
一方、環境中には、放射性セシウムなどの放射性物質が存在している。前記放射性物質による被爆は、人体への影響が大きく、低線量の被爆であってもガンを発生させるリスクがあることが報告されている。また、セシウムは、カリウムと似ているために筋肉に濃縮しやすく、スズキ、カツオ、ブリなどで100倍以上に濃縮されることが報告されている。
【0005】
そこで、前記金属を回収又は除去するために、前記金属を抽出可能な材料が望まれている。
物質に対して抽出能力を有する材料として、シクロデキストリンが知られている。前記シクロデキストリンは、複数個のグルコースが環状に連なった物質である。前記シクロデキストリンは、その分子内部に空間を有しており、この空間に有機化合物又は無機化合物が入り込み、包接化合物を形成することで、物質を抽出することができる。
【0006】
前記シクロデキストリンを抽出剤として用いた技術として、例えば、無機粉末の存在下でシクロデキストリンをエポキシ化合物によって架橋したシクロデキストリン複合材料が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この提案の技術は、環境ホルモンなどの抽出又は除去には効果があるものの、前記金属の抽出においては、充分な効果が得られないという問題がある。
【0007】
また、非晶質ケイ酸などの存在下でシクロデキストリンをエポキシ化合物によって架橋した、アスペクト比が2以上のシクロデキストリン複合材料が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、この提案の技術でも、前記金属の抽出においては、充分な効果が得られないという問題がある。なお、この提案の技術の一例では、非晶質ケイ酸に変えて、珪藻土を水酸化ナトリウム水溶液に入れて得られる溶液の上澄み液の存在下でシクロデキストリンをエポキシ化合物によって架橋した無色又は白色のシクロデキストリン複合材料を用いているが、この複合材料でも前記金属の抽出においては、充分な効果が得られない。
【0008】
更に、金属の抽出に限らず、ガス吸着など、様々な物質に対して抽出能力及び吸着能力を示す材料が望まれている。
【0009】
したがって、金属の抽出などに有用な、シクロデキストリンと多孔質シリカ粒子との複合材料、及びその製造方法、金属抽出剤、セシウム抽出剤、並びにガス吸着剤の提供が求められているのが現状である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(複合材料)
本発明の複合材料は、シクロデキストリンの重合体と、多孔質シリカ粒子とを少なくとも含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。
前記複合材料において、前記重合体は、前記多孔質シリカ粒子の外表面及び前記孔内の少なくともいずれかに存在している。
前記複合材料は、前記多孔質シリカ粒子が3.0質量%以上のAl
2O
3を含有することにより、金属抽出能力に優れる。
【0016】
<シクロデキストリンの重合体>
前記シクロデキストリンの重合体(以下、「重合体」と略すことがある。)は、シクロデキストリンを重合して得られる。
前記重合体は、前記シクロデキストリンのみの単独重合体であってもよいし、前記シクロデキストリンと他の化合物とが重合した共重合体であってもよい。
前記重合体は、前記シクロデキストリンとエポキシ化合物とを重合して得られることが好ましい。
前記重合体は、前記シクロデキストリンに由来する構造単位を2つ以上有していれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0017】
前記重合体と前記シクロデキストリンとを判別する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、質量分析法、赤外分光法、紫外可視分光法、核磁気共鳴分光法等の構造分析法、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法、前記シクロデキストリンの溶解性と前記重合体の溶解性とを対比することにより判別する方法などが挙げられる。
【0018】
<<シクロデキストリン>>
前記シクロデキストリンとは、D−グルコース単位がα−1,4−グルコシド結合で環状に結合した化合物及びその誘導体である。
前記シクロデキストリンとしては、例えば、D−グルコース単位が6つのα−シクロデキストリン、7つのβ−シクロデキストリン、8つのγ−シクロデキストリンなどが挙げられる。
前記シクロデキストリンは、例えば、澱粉及び/又は澱粉の加水分解物にシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼなどの酵素を作用させて製造することができる。
前記シクロデキストリンにおける誘導体とは、部分的に置換基が導入されたシクロデキストリンを示す。前記誘導体としては、例えば、シクロデキストリンを構成するグルコースの6位にグルコース、マルトース、マルトトリオース等が付加した分岐鎖シクロデキストリン、メチル化シクロデキストリン、ヒドロキシアルキル化シクロデキストリン、アルキルスルホン酸化シクロデキストリンなどが挙げられる。
【0019】
<<エポキシ化合物>>
前記エポキシ化合物としては、エポキシ基を有する化合物であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エポキシ基を1つ有するモノエポキシ化合物、エポキシ基を2つ有するジエポキシ化合物、エポキシ基を3つ有するトリエポキシ化合物などが挙げられる。
前記モノエポキシ化合物としては、例えば、エピハロヒドリンなどが挙げられる。
前記ジエポキシ化合物としては、例えば、ジグリシジルエーテル化合物などが挙げられる。
前記エピハロヒドリンとしては、例えば、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリンなどが挙げられる。
前記ジグリシジルエーテル化合物としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
これらの中でも、アルカリ条件下で容易に反応できる点、及び安価である点から、モノエポキシ化合物が好ましく、エピハロヒドリンがより好ましく、エピクロロヒドリンが特に好ましい。
【0020】
<<重合>>
前記重合の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、アルカリ水溶液中で、前記シクロデキストリンと前記エポキシ化合物とを重合する方法が好ましい。
前記アルカリ水溶液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などが挙げられる。
前記重合における反応温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、60℃〜100℃が好ましく、70℃〜90℃がより好ましく、75℃〜85℃が特に好ましい。
前記重合の反応時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1時間〜10時間が好ましく、3時間〜9時間がより好ましく、5時間〜7時間が特に好ましい。
前記重合は、前記アルカリ水溶液に、前記多孔質シリカ粒子を混合した状態で行うことが好ましい。
【0021】
<多孔質シリカ粒子>
前記多孔質シリカ粒子としては、3.0質量%以上のAl
2O
3を含有しかつ複数の孔を有するシリカ粒子であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、金属の抽出能力に優れる点で、珪藻土が好ましい。
前記珪藻土とは、珪藻が海底や湖底に沈積し、長い年月の間に体内の原形質その他の有機物が分解し、非晶質シリカを主体とした珪藻殻が集積して堆積したものである。
【0022】
シリカ粒子が複数の孔を有している、即ち、多孔質シリカ粒子であるかどうかは、例えば、SEM写真による形態観察により確認することができる。例えば、SEM写真観察において、シリカ粒子表面に複数の巣穴のような窪みが観察される場合、そのシリカ粒子は、多孔質シリカ粒子である。その他の方法としては、例えば、不活性ガスを吸着させて多孔質であることを確認する方法が挙げられる。
また、シリカ粒子が複数の孔を有する場合、真比重に対して嵩密度が小さい(軽い)ため、例えば、嵩密度が0.60g/cm
3以下の粒子については、多孔質シリカ粒子ということができる。前記嵩密度(ケーク嵩密度)は、例えば、一定体積容器中に粉体を充填していき、その重量を測定することにより求めることができる。
【0023】
前記多孔質シリカ粒子におけるSiO
2の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、80.0質量%以上が好ましく、85.0質量%以上がより好ましく、90.0質量%以上が特に好ましい。
【0024】
前記多孔質シリカ粒子におけるAl
2O
3の含有量としては、3.0質量%以上であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、3.0質量%〜15質量%が好ましい。
前記Al
2O
3の含有量が、3.0質量%未満であると、金属(例えば、セシウム、ランタン、白金など)の抽出が不充分となる。
なお、一般的な多孔質シリカ粒子のうち、珪藻土には、Al
2O
3が、通常、3質量%〜13質量%程度含有されているが、合成非晶質シリカ粒子や特許第4225731号公報に記載のもみ殻灰には、Al
2O
3がほとんど含まれていない(少なくとも3.0質量%未満)。
【0025】
また、前記複合材料は、前記多孔質シリカ粒子から得られる(例えば、前記多孔質シリカ粒子をそのまま使用してシクロデキストリンと複合化させて得られる)ため、前記多孔質シリカ粒子と同系統の色を有しており、例えば、褐色の珪藻土を使用した場合は、褐色の複合材料が得られる。このような着色は、前記多孔質シリカ粒子に含まれる、Al
2O
3やその他のFe
2O
3などに代表される不純物に起因するものである。
一方、特開2011−213743号公報に記載の技術では、珪藻土をアルカリ溶解した上澄み液を用いて白色又は無色の複合材料が得られている(特開2011−213743号公報の実施例5及び6参照)が、この上澄み液を使用する目的は、前記不純物の排除にあると考えられ、特開2011−213743号公報に記載の技術で得られる複合材料には、上記のような不純物はほとんど含まれていないと考えられる。
【0026】
前記多孔質シリカ粒子におけるSiO
2の含有量、及びAl
2O
3の含有量は、例えば、蛍光X線元素分析法(XRF)により求めることができる。
【0027】
前記複合材料において、前記重合体は、前記多孔質シリカ粒子の外表面及び前記孔内の少なくともいずれかに存在している。
そして、前記多孔質シリカ粒子の外表面の少なくとも一部は、前記重合体により被覆されていることが、金属の抽出能力に優れる点、特に、白金の抽出能力に優れる点で好ましい。
前記多孔質シリカ粒子の外表面及び前記孔内の少なくともいずれかに前記重合体が存在していること、及び前記重合体が前記多孔質シリカ粒子の外表面の少なくとも一部を被覆していることは、SEM写真観察及びSEMにおける元素分析により確認することができる。
例えば、倍率が300倍〜35,000倍のSEM写真において、前記多孔質シリカ粒子の外表面に前記重合体のみが観察され、前記多孔質シリカ粒子の外表面自体が観察されない場合には、前記重合体が前記多孔質シリカ粒子の外表面全てを被覆しているということができる。また、前記多孔質シリカ粒子の外表面に前記重合体が部分的に観察される場合には、前記重合体が前記多孔質シリカ粒子の外表面の一部を被覆しているということができる。
【0028】
前記複合材料は、平均アスペクト比が2未満であることが好ましい。
なお、アスペクト比とは、走査型電子顕微鏡画像又は実体顕微鏡画像において、粒子の長軸の長さ(L)と短軸の長さ(S)の値を測定し、得られた値から算出されるアスペクト比(A)=長軸の長さ(L)/短軸の長さ(S)にて表されるものである。
前記平均アスペクト比とは、画像から無作為に抽出した20個の粒子のアスペクト比の平均値である。
【0029】
前記複合材料は、粒子密度が0.005g/mm
3〜0.150g/mm
3であることが好ましい。
前記粒子密度は、例えば、前記複合材料を篩分けした際の篩の篩上で得られた粒子を用いて、該粒子を篩目と同じ長さの直径を有する球と仮定し、この粒子の1つ又は数十個の重さを計り取ることにより、前記粒子の平均質量を求め、そこから計算することにより、求めることができる。
【0030】
(複合材料の製造方法)
本発明の複合材料の製造方法は、添加工程と、重合工程とを含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
【0031】
<添加工程>
前記添加工程としては、アルカリ水溶液に、シクロデキストリンと、多孔質シリカ粒子とを添加する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0032】
前記アルカリ水溶液、前記シクロデキストリン、及び前記多孔質シリカ粒子としては、本発明の前記複合材料の説明において例示したものがそれぞれ挙げられる。
【0033】
前記添加工程の温度、時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記添加工程においては、攪拌することが好ましい。
前記アルカリ水溶液のpHとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、12以上が好ましい。
【0034】
前記添加工程における前記アルカリ水溶液に添加される前記シクロデキストリンと前記多孔質シリカ粒子との質量比(多孔質シリカ粒子/シクロデキストリン)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、金属の抽出能力に優れる点から、0.5〜5が好ましく、0.5〜2.0がより好ましく、0.5〜1.5が特に好ましい。
【0035】
<重合工程>
前記重合工程としては、前記添加工程に続いて、前記アルカリ水溶液に、エポキシ化合物を添加し、前記シクロデキストリンと前記エポキシ化合物とを重合する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0036】
前記エポキシ化合物としては、本発明の前記複合材料の説明において例示したものなどが挙げられる。
【0037】
前記重合工程における前記シクロデキストリンと前記エポキシ化合物との質量比(シクロデキストリン/エポキシ化合物)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.2〜1.0が好ましく、0.3〜1.0がより好ましい。
【0038】
前記重合の反応温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、60℃〜100℃が好ましく、70℃〜90℃がより好ましく、75℃〜85℃が特に好ましい。
前記重合の反応時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1時間〜10時間が好ましく、3時間〜9時間がより好ましく、5時間〜7時間が特に好ましい。
【0039】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、例えば、濾過工程、洗浄工程、乾燥工程などが挙げられる。
【0040】
<<濾過工程>>
前記濾過工程としては、前記重合工程後の反応液を濾過して固体と液体とを分離する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、漏斗を用いて行うことができる。
【0041】
<<洗浄工程>>
前記洗浄工程としては、前記濾過工程で得られた固体を洗浄する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、メタノールなどを用いて行うことができる。
前記洗浄工程においては、水及びメタノールを交互に用いて洗浄を行うことが好ましい。
【0042】
<<乾燥工程>>
前記乾燥工程としては、前記洗浄後の固体を乾燥させる工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、減圧下で行うことが好ましい。
【0043】
(金属抽出剤、セシウム抽出剤)
本発明の金属抽出剤は、本発明の前記複合材料を含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。
本発明のセシウム抽出剤は、本発明の前記複合材料を含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。
前記金属抽出剤は、前記複合材料そのものであってもよい。
前記セシウム抽出剤は、前記複合材料そのものであってもよい。
【0044】
従来の、シクロデキストリンの重合体を用いた複合材料は、環境ホルモンなどの除去剤として知られているが、本発明の金属抽出剤、及びセシウム抽出剤のように、金属、例えば、PGM(白金族元素)、セシウムの抽出剤として使用できることは知られていない。また本発明の金属抽出剤、及びセシウム抽出剤は、従来の複合材料に比べても非常に優れた抽出能力を示す。
【0045】
(ガス吸着剤)
本発明のガス吸着剤は、本発明の前記複合材料を含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。
前記ガス吸着剤は、前記複合材料そのものであってもよい。
【0046】
従来の、シクロデキストリンの重合体を用いた複合材料は、環境ホルモンなどの除去剤として知られているが、本発明のガス吸着剤のように、ガス吸着(例えば、メタノール、メタン、ベンゼンなど)の吸着剤として使用できることは知られていない。また本発明のガス吸着剤は、従来の複合材料に比べても非常に優れた抽出能力を示す。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0048】
<試薬類>
本実施例に用いる試薬は、以下のものを使用した。
・β−CyD(β−シクロデキストリン) : 日本食品化工株式会社製
・珪藻土 : 昭和化学工業株式会社製
・Sodium Hydroxide(NaOH) : 和光純薬工業株式会社製
・Epichlorohydrin(エピクロロヒドリン) : 東京化成販売株式会社製
・12N−HCl : 関東化学株式会社製
・MeOH(メタノール) : 関東化学株式会社製
【0049】
<珪藻土>
上記珪藻土の詳細を以下に示す。
製品名 : ラジオライト#100(略称R−#100)
製造区分 : 焼成品
性状 : 粉末(淡赤褐色)
真比重 : 2.2
<<一般特性>>
水分 : 3質量%以下
pH : 5.0 〜 10.0
水2L濾過時間(分’秒’’) : 20’00’’ 〜 35’00’’
ケーク嵩密度(g/cm
3) : 0.51以下
150μm残分(質量%) : 3.0以下
<<粒度分布例(質量%)[レーザー法]>>
40μm超 : 8.2
20μm超40μm以下 : 22.9
10μm超20μm以下 : 25.2
5μm超10μm以下 : 20.3
2μm超5μm以下 : 16.4
2μm以下 : 7.0
平均粒子径 : 11.8μm
<<化学分析例(質量%)>>
Ig.loss : 0.4
SiO
2 : 90.3
Al
2O
3 : 4.8
Fe
2O
3 : 2.2
CaO : 0.1
MgO : 0.4
Na
2O : 0.1
その他 : 1.7
【0050】
(実施例1〜5)
<複合材料1〜5の製造>
前記試薬を用いて、シクロデキストリンと多孔質シリカ粒子との複合材料1〜5の合成を行った。実験手法を下記に示す。
β−シクロデキストリン(β−CyD)及び珪藻土の混合割合を質量比でβ−CyD:珪藻土=1:1、1:2、1:3、1:5、2:1として、これら5種類の混合比率で、複合材料1〜5の合成を行った。
具体的には、300mLの三口フラスコを用いてβ−CyDをNaOH水溶液で溶解させ、次に珪藻土を添加し、テフロン羽根付きの攪拌棒を用いて攪拌(毎分320回転)をしながら、エピクロロヒドリンを加え80℃で6時間反応させた。反応液に水不溶性の生成物を確認し、不溶性成分が目視によりそれ以上生成されないと判断した所で反応終了とした。反応終了後、室温まで冷却し、反応液が中性になるまで2N−塩酸水溶液(関東化学株式会社製の12N−HClを希釈)を添加し(pH試験紙にて確認)、その後、ブフナー漏斗を用いて吸引濾過を行い、得られた粒状個体を水とメタノールで十分に洗浄した。その後、減圧下80℃にて一晩乾燥し、複合材料を得た。
上記合成における試薬使用量及び収量を、下記表1に示す。
【0051】
【表1】
表1中、項目「NaOH」は、特定量の水に対して使用するNaOHの量を表す。例えば、16.02/40は、40mLの水に16.02gのNaOHを溶解し使用したことを表す。
【0052】
(比較例1)
<非晶質ケイ酸を用いた複合材料の合成>
300mLの三口フラスコを用いて、NaOH(8g)を水(30mL)に溶解させたNaOH水溶液にβ−CyD(6.0026g)を溶解させ、次に非晶質ケイ酸(6.0018g)を添加し、テフロン羽根付きの攪拌棒を用いて攪拌(毎分320回転)をしながら、エピクロロヒドリン(6.56g)を加え、80℃で6時間反応させた。反応液に水不溶性の生成物を確認し、不溶性成分が目視によりそれ以上生成されないと判断した所で反応終了とした。反応終了後、室温まで冷却し、反応液が中性になるまで2N−塩酸水溶液を添加し(pH試験紙にて確認)、ブフナー漏斗を用いて吸引濾過を行い、得られた粒状個体を水とメタノールで十分に洗浄した。その後、減圧下、80℃にて一晩乾燥し、複合材料を得た。収量は3.7043gであった。
非晶質ケイ酸には、旭ガラス社製の高機能真球状ファインシリカ サンスフィア(比表面積700m
2/g〜900m
2/g)を用いた。
【0053】
<評価>
<<粒径分布>>
実施例1で合成した複合材料1について、篩を用いて粒径分布を測定した。
測定には、複合材料1を19.2402g使用した。
篩として多段篩を使用し、1.27mm、0.96mm、0.56mm、315μm、250μm、150μmの6種類の篩目を用いた。
結果を
図1に示す。
【0054】
<<粒子密度>>
前記粒径分布測定の際の篩目0.96mmの篩の篩上(0.96mm〜1.27mm)、又は篩目0.56mmの篩の篩上(0.56mm〜0.96mm)で得られた粒子を用いて、該粒子を篩目と同じ長さの直径を有する球と仮定し、この粒子の1つ又は数十個の重さを計り取ることにより、前記粒子の平均質量を求め、そこから粒子密度を計算した。その結果、粒子密度は0.01g/mm
3であった。以下にその計算の詳細を示す。
<0.96mm〜1.27mm>
平均質量(g/個):0.009325
平均半径(mm):0.5575
平均体積(mm
3):0.72581
粒子密度(g/mm
3):0.012848
<0.56mm〜0.96mm>
平均質量(g/個):0.001674
平均半径(mm):0.38
平均体積(mm
3):0.22985
粒子密度(g/mm
3):0.007282
この二点の平均より、粒子密度(g/mm
3)=0.01となる。
【0055】
<<形態観察>>
−実施例1の複合材料1−
実施例1で得られた複合材料1のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を
図2〜
図6に示す。
図2のSEM写真(5,000倍)からは、シクロデキストリンの重合体が複合材料の表面を部分的に覆っていることが観察された。
なお、
図2における「スペクトル20」とは、表面解析を行った部位を示すための符号である。
図7、
図10、
図15、
図20についても同様である。
【0056】
−実施例2の複合材料2−
実施例2で得られた複合材料2のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を
図7〜
図9に示す。珪藻土の表面にβ−CyDの架橋ポリマーが不均一に存在していた。また、珪藻土に由来する形態が確認できた。
【0057】
−実施例3の複合材料3−
実施例3で得られた複合材料3のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を
図10〜
図14に示す。後述する実施例5で得られた複合材料5よりも、より鮮明に珪藻土に由来する形態が確認できた。
【0058】
−実施例5の複合材料5−
実施例5で得られた複合材料5のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を
図15〜
図19に示す。SEM写真の表面解析から、複合材料の表面にSiが観察された。しかし、珪藻土の混合割合が多い場合に比べて表面の不均一さ(粗さ)が見られた。これは、珪藻土の表面にβ−CyDの重合体が多く生成されているためであると推測される。また、複合材料の表面には丸い粒状の重合体が形成されており、多孔質状になっていることが観察された。
【0059】
−比較例1の複合材料6−
比較例1で得られた複合材料6のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を
図20〜
図22に示す。SEM写真の表面解析から、複合材料の表面にSiが観察された。これは、複合材料の表面にSiO
2が残っているためと推測される。
【0060】
<<金属抽出実験>>
−Cs(セシウム)吸着実験−
Cs標準溶液(関東化学社製)を20倍希釈したCs溶液30mLに測定資料1.0gを入れ、300strokes/minで1時間振盪した。静置後、上澄み液を分取しICP発光分析装置(SPS3000、SII社製)を用いて金属元素濃度を測定し、抽出率を求めた。
測定試料には、以下のものを用いた。抽出率の測定結果を
図23及び下記に示す。
・実施例1で得られた複合材料1:抽出率=97.85%
・実施例2で得られた複合材料2:抽出率=98.08%
・比較例1で得られた複合材料6:抽出率=9.17%
・珪藻土 :抽出率=35.98%
複合材料1、及び複合材料2は、複合材料6の約10.7倍、珪藻土の約2.7倍の非常に優れたCs抽出能力を有していることが確認できた。
【0061】
−PGM(白金族元素)溶液からの金属抽出能−
Al、Ba、Ce、La、Pd、Pt、Rh、Y、Zrを含む白金族元素(PGM;Platinum group metals)原液(La:11.82ppm、Pd:6.66ppm、Pt:2.47ppm、Rh:3.11ppm、Zr:2.26ppm)をイオン交換水で500倍希釈したもの(PGM溶液)を用いた。このPGM溶液30mLに測定試料1.0gを入れ、300strokes/minで1時間振盪した。静置後、上澄み液を分取しICP発光分析装置(SPS3000、SII社製)を用いて金属元素濃度を測定し、抽出率を求めた。
測定試料には、以下のものを用いた。抽出率の測定結果を
図24に示す。
・実施例1で得られた複合材料1
・実施例3で得られた複合材料3
・比較例1で得られた複合材料6
・珪藻土
【0062】
複合材料1(β−CyD:珪藻土=1:1)は、Ptに対して約80%の高い抽出能力を示した。Rhに対しては約30%、La及びPdに対しては約50%の抽出能力を示した。
複合材料3(β−CyD:珪藻土=1:3)の抽出能力は、La、Pd、及びRhに対しては複合材料1の抽出能力と大きな差は無いが、Ptに対しては約10%と大きく下がった。SEMによる表面観察から、これは、複合材料3では表面に珪藻土そのものが多く、表面をβ−CyDの重合体が十分に覆っていないことが原因と考えられる。一方、複合材料1のSEMによる表面観察から、複合材料1の表面には珪藻土が観察されず、表面はβ−CyDの重合体により覆われていることが確認された。
このことから、複合材料1と複合材料3とでは比表面積が違うこと、及び複合材料1は多孔質構造に近い構造であることが推測される。この構造の違いとCyDの重合体と珪藻土との複合的要因により、複合材料1はPtの抽出能が上昇しているものと推測される。そして、Zrの抽出能が珪藻土ではほぼ100%であるのに対し、複合材料では、珪藻土の割合が増えるにつれ、複合材料6、複合材料1、及び複合材料3の順で抽出能が上がっていることからも、複合材料表面の珪藻土が金属抽出能に影響を及ぼすことが示唆された。
【0063】
更に、より詳細に抽出能力を検討するために、測定試料それぞれを乳鉢ですり潰し、同様の手法にて金属抽出実験を行った。その結果を、
図25に示す。
図25から、抽出能は全体的に乳鉢にてすり潰した方が上昇する傾向が見られた。これは、複合材料を潰すことによる、比表面積の上昇、及び複合材料の多孔質シリカ粒子内部に存在していたシクロデキストリンの重合体の表面への出現が、抽出能に影響を及ぼしたものと推測される。しかし、Ptの抽出は、どちらの試料も大きな変化は見られないことから、Ptの抽出能力には、粒子サイズよりも粒子表面の組成が大きく関与すると考えられる。
【0064】
以上の結果より、非晶質シリカ存在下でβ−CyDを重合した、比較例1の複合材料6には、金属抽出能は見られなかった。また、珪藻土のみでは、Zrに対してのみ抽出能が見られた。Al
2O
3を3.0質量%以上含有する多孔質シリカ粒子と、シクロデキストリンとを複合化することにより、レアメタル等に対する金属抽出能が発現することが明らかとなった。
この金属抽出能は、それぞれの配合比、粒径により大きく影響を受けることも明らかとなった。
【0065】
<<その他の性質(蒸気吸着能)>>
複合材料1について、メタノールに対する蒸気吸着能の検討を行った。結果を
図26に示す。
吸着等温線は、吸着等温線測定装置(ベルソーブ18、日本ベル社製)を用いて、空気高温槽温度50℃、吸着温度25℃、初期導入圧力0.4torr、飽和蒸気圧127.05mmHg、平衡時間300秒間の条件で求めた。
図26から、複合材料1のメタノール吸着量は1g当たり約110mLであった。吸着等温線の型はII型であり、メタノールとサンプルとの相互間力が比較的強いものと考えられる。これは、SEM像から明らかとなった、粒子表面に存在する多くの空孔やシクロデキストリンが有している空孔に、メタノールが吸着されているためと考えられる。
この結果より、本発明の複合材料は、蒸気吸着能力があることが確認できた。その他の溶媒(エタノール、アセトン、ベンゼンなど)の吸着も期待できる。更に、ガス状分子(水素やメタン、二酸化炭素など)の吸着も期待できる。