(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
(複合材料)
本発明の複合材料は、重合体と、シリカ含有物質とを少なくとも含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。
前記複合材料において、前記重合体は、前記シリカ含有物質の表面に存在している。
【0015】
<重合体>
前記少なくとも1つの水酸基がアルキルチオ基に置換されたシクロデキストリンの重合体(以下、「重合体」と称することがある。)は、例えば、少なくとも1つの水酸基がアルキルチオ基に置換されたシクロデキストリン(以下、「置換シクロデキストリン」と称することがある。)を重合して得られる。
前記重合体は、前記置換シクロデキストリンのみの単独重合体であってもよいし、前記置換シクロデキストリンと他の化合物とが重合した共重合体であってもよい。
前記重合体は、前記置換シクロデキストリンとエポキシ化合物とを重合して得られることが好ましい。
前記重合体は、前記置換シクロデキストリンに由来する構造単位を2つ以上有していれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0016】
前記重合体と前記置換シクロデキストリンとを判別する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、質量分析法、赤外分光法、紫外可視分光法、核磁気共鳴分光法等の構造分析法、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法、前記置換シクロデキストリンの溶解性と前記重合体の溶解性とを対比することにより判別する方法などが挙げられる。
【0017】
<<置換シクロデキストリン>>
前記置換シクロデキストリンは、少なくとも1つの水酸基がアルキルチオ基に置換されたシクロデキストリンである。
【0018】
−シクロデキストリン(CyD)−
前記シクロデキストリンとは、D−グルコース単位がα−1,4−グルコシド結合で環状に結合した化合物である。
前記シクロデキストリンとしては、例えば、D−グルコース単位が6つのα−シクロデキストリン、7つのβ−シクロデキストリン、8つのγ−シクロデキストリンなどが挙げられる。それぞれのCyDの物性を下記表1に示す。
【0020】
これらの中でも、α−シクロデキストリンが、得られる複合材料の捕捉能力が優れる点で好ましい。
【0021】
前記シクロデキストリンは、例えば、澱粉及び/又は澱粉の加水分解物にシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼなどの酵素を作用させて製造することができる。
【0022】
前記水酸基を前記アルキルチオ基に置換することで、得られる複合材料において、低分子を捕捉するのに好ましい空孔が得られ、サイズの小さい分子の捕捉能力に優れる。
ここで、サイズの小さい分子とは、例えば、分子量が50以下の分子を意味する。そのようなサイズの小さい分子としては、例えば、水素、メタン、メタノール、エチレンなどが挙げられる。
【0023】
前記アルキルチオ基としては、炭素数1〜8のアルキルチオ基が好ましく、炭素数1〜6のアルキルチオ基がより好ましく、炭素数2〜5のアルキルチオ基が特に好ましい。
【0024】
前記置換シクロデキストリンにおける水酸基が置換される数としては、少なくとも1つであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1つ〜10つが好ましく、1つ〜6つがより好ましく、1つ〜3つが特に好ましい。
前記置換される数は、例えば、
1H−NMRにより測定することができる。
【0025】
前記置換シクロデキストリンの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シクロデキストリンの水酸基の水素をスルホニル基に置換した後、得られたスルホニルオキシ基をヨウ素基などのハロゲン基に置換し、更に、アルキルチオールを用いて前記ハロゲン基をアルキルチオ基に置換する方法などが挙げられる。
【0026】
<<エポキシ化合物>>
前記エポキシ化合物としては、エポキシ基を有する化合物であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エポキシ基を1つ有するモノエポキシ化合物、エポキシ基を2つ有するジエポキシ化合物、エポキシ基を3つ有するトリエポキシ化合物などが挙げられる。
前記モノエポキシ化合物としては、例えば、エピハロヒドリンなどが挙げられる。
前記ジエポキシ化合物としては、例えば、ジグリシジルエーテル化合物などが挙げられる。
前記エピハロヒドリンとしては、例えば、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリンなどが挙げられる。
前記ジグリシジルエーテル化合物としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
これらの中でも、アルカリ条件下で容易に反応できる点、及び安価である点から、モノエポキシ化合物が好ましく、エピハロヒドリンがより好ましく、エピクロロヒドリンが特に好ましい。
【0027】
<<重合>>
前記重合の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、アルカリ水溶液中で、前記置換シクロデキストリンと前記エポキシ化合物とを重合する方法が好ましい。
前記アルカリ水溶液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などが挙げられる。
前記重合における反応温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、60℃〜100℃が好ましく、70℃〜90℃がより好ましく、75℃〜85℃が特に好ましい。
前記重合の反応時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1時間〜10時間が好ましく、2時間〜9時間がより好ましく、3時間〜5時間が特に好ましい。
前記重合は、前記アルカリ水溶液に、前記シリカ含有物質を混合した状態で行うことが好ましい。
【0028】
<シリカ含有物質>
前記シリカ含有物質としては、シリカ(SiO
2)を含有する物質であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、非晶質ケイ酸を含有することが好ましい。
【0029】
人工的に合成される前記非晶質ケイ酸としては、例えば、シリカフューム、コロイダルシリカ、ホワイトカーボンなどが挙げられる。
【0030】
天然物に由来し前記非晶質ケイ酸を含有する物質としては、例えば、もみ殻灰、珪藻土などが挙げられる。
前記もみ殻灰は、もみ殻を燃焼させて得られる灰である。前記もみ殻灰は、非晶質ケイ酸を主成分としている。前記もみ殻灰は、例えば、特許第2819460号公報に記載の方法により得ることができる。
前記珪藻土とは、珪藻が海底や湖底に沈積し、長い年月の間に体内の原形質その他の有機物が分解し、非晶質ケイ酸を主体とした珪藻殻が集積して堆積したものである。
【0031】
前記シリカ含有物質は、複数の孔を有していることが好ましい。即ち、多孔質のシリカ含有物質であることが好ましい。前記シリカ含有物質が多孔質であるかどうかは、例えば、SEM(走査型電子顕微鏡)写真による形態観察により確認することができる。例えば、SEM写真観察において、シリカ含有物質表面に複数の巣穴のような窪みが観察される場合、そのシリカ含有物質は、多孔質である。その他の方法としては、例えば、不活性ガスを吸着させて多孔質であることを確認する方法が挙げられる。
また、前記シリカ含有物質が複数の孔を有する場合、真比重に対して嵩密度が小さい(軽い)ため、例えば、嵩密度が0.60g/cm
3以下の粒子については、多孔質ということができる。前記嵩密度は、例えば、一定体積容器中に粉体を充填していき、その重量を測定することにより求めることができる。
【0032】
前記シリカ含有物質におけるSiO
2の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、80.0質量%以上が好ましく、85.0質量%以上がより好ましく、90.0質量%以上が特に好ましい。
【0033】
前記シリカ含有物質におけるSiO
2の含有量は、例えば、蛍光X線元素分析法(XRF)により求めることができる。
【0034】
前記複合材料において、前記重合体は、前記シリカ含有物質の表面に存在していれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記シリカ含有物質の外表面に加え、前記シリカ含有物質の孔内に存在していてもよい。
前記シリカ含有物質の外表面及び前記孔内の少なくともいずれかに前記重合体が存在していることは、SEM写真観察及びSEMにおける元素分析により確認することができる。
例えば、倍率が300倍〜35,000倍のSEM写真において、前記シリカ含有物質の外表面に前記重合体のみが観察され、前記シリカ含有物質の外表面自体が観察されない場合には、前記重合体が前記シリカ含有物質の外表面に存在しており、かつ外表面全てを被覆しているということができる。また、前記シリカ含有物質の外表面に前記重合体が部分的に観察される場合には、前記重合体が前記シリカ含有物質の外表面に存在しており、かつ外表面の一部を被覆しているということができる。
【0035】
前記複合材料の比表面積としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50m
2/g〜400m
2/gが好ましく、100m
2/g〜350m
2/gがより好ましく、200m
2/g〜250m
2/gが特に好ましい。前記比表面積が、50m
2/g未満であると、複合材料中に存在している空孔が少ないと考えられ、十分な捕捉能力を発揮できないことがあり、400m
2/gを超えると、複合材料の強度が弱くなり、潰れやすくなることがある。前記比表面積が、前記特に好ましい範囲内であると、多孔質性及び強度の点で有利である。
【0036】
前記複合材料の平均細孔直径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5nm〜12.0nmが好ましく、0.5nm〜5.0nmがより好ましく、0.5nm〜3.0nmが特に好ましい。前記平均細孔直径が、0.5nm未満であると、空孔が小さすぎで分子を捕捉しずらくなることがあり、12.0nmを超えると、空孔が大きすぎで分子を捕捉しずらくなることがある。前記平均細孔直径が、前記特に好ましい範囲内であると、サイズが小さい分子をより捕捉しやすくなる点で有利である。
【0037】
前記複合材料の全細孔容積としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.10cm
3/g〜2.00cm
3/gが好ましく、0.20cm
3/g〜1.00cm
3/gがより好ましく、0.50cm
3/g〜0.80cm
3/gが特に好ましい。前記全細孔容積が、0.10cm
3/g未満であると、捕捉量が少なくなることがあり、2.00cm
3/gを超えると、複合材料の強度が弱くなることがある。前記全細孔容積が、前記特に好ましい範囲内であると、捕捉量及び複合材料の強度の点で有利である。
前記比表面積、前記平均細孔直径、及び前記全細孔容積は、例えば、窒素ガスの吸着測定により求めることができる。測定装置としては、例えば、日本ベル株式会社製のBELSORP 18SP−Vなどが挙げられる。
【0038】
前記複合材料は、サイズが小さい分子の捕捉能力に優れている。これは、シクロデキストリンの水酸基がアルキルチオ基に置換されていることに由来するものと考えられる。即ち、前記アルキルチオ基の構造により、前記複合材料に形成される空孔のサイズが制御され、サイズが小さい分子の捕捉能力に優れるものと考えられる。そして、前記アルキルチオ基の構造によって、前記複合材料は、水素、メタン、メタノールなどの小さいサイズの様々な分子を捕捉できるものと考えられる。
【0039】
前記複合材料は、サイズが小さい分子の捕捉能力に優れていることから、メタン、メタノール、水素などのガス吸着剤に適している。また、メタノールは、吸着式ヒートポンプの冷媒として利用されていることから、前記複合材料は、吸着式ヒートポンプの吸着剤として利用できる。また、メタンは、新エネルギーとして注目されていることから、前記複合材料は、メタン吸蔵体として利用できる。また、前記複合材料は、水素吸蔵体としても利用できる。
【0040】
(複合材料の製造方法)
本発明の複合材料の製造方法は、重合工程と、中和工程を含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
【0041】
<重合工程>
前記重合工程としては、アルカリ水溶液と、少なくとも1つの水酸基がアルキルチオ基に置換されたシクロデキストリンと、シリカ含有物質と、エポキシ化合物とを混合し、前記シクロデキストリンと前記エポキシ化合物とを重合する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0042】
前記アルカリ水溶液、前記少なくとも1つの水酸基がアルキルチオ基に置換されたシクロデキストリン、前記シリカ含有物質、及び前記エポキシ化合物としては、本発明の前記複合材料の説明において例示したものがそれぞれ挙げられる。
【0043】
前記アルカリ水溶液のpHとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、12以上が好ましい。
【0044】
前記重合工程における前記置換シクロデキストリンと前記シリカ含有物質との質量比(シリカ含有物質/置換シクロデキストリン)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5〜5.0が好ましく、0.5〜3.0がより好ましい。
【0045】
前記重合工程における前記置換シクロデキストリンと前記エポキシ化合物との質量比(置換シクロデキストリン/エポキシ化合物)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.2〜1.0が好ましく、0.3〜1.0がより好ましい。
【0046】
前記重合の反応温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、60℃〜100℃が好ましく、70℃〜90℃がより好ましく、75℃〜85℃が特に好ましい。
前記重合の反応時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1時間〜10時間が好ましく、2時間〜9時間がより好ましく、3時間〜5時間が特に好ましい。
【0047】
<中和工程>
前記中和工程としては、前記重合工程に続いて、前記アルカリ水溶液を中和する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0048】
前記中和工程は、例えば、酸性水溶液と前記アルカリ水溶液とを混合することにより、行うことができる。
前記酸性水溶液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、塩酸、硫酸、硝酸などが挙げられる。
前記中和工程後の反応液のpHとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、6.5〜7.4が好ましく、7.0付近が好ましい。
前記中和工程の温度、時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0049】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、例えば、濾過工程、洗浄工程、乾燥工程などが挙げられる。
【0050】
<<濾過工程>>
前記濾過工程としては、前記中和工程後の反応液を濾過して固体と液体とを分離する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、漏斗を用いて行うことができる。
【0051】
<<洗浄工程>>
前記洗浄工程としては、前記濾過工程で得られた固体を洗浄する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、メタノールなどを用いて行うことができる。
前記洗浄工程においては、水及びメタノールを交互に用いて洗浄を行うことが好ましい。
【0052】
<<乾燥工程>>
前記乾燥工程としては、前記洗浄後の固体を乾燥させる工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、減圧下で行うことが好ましい。
【0053】
(ガス吸着剤)
本発明のガス吸着剤は、本発明の前記複合材料を含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。
前記ガス吸着剤は、前記複合材料そのものであってもよい。
【0054】
前記ガス吸着剤は、サイズの小さい分子の捕捉に特に適している。
【0055】
従来の、シクロデキストリンの重合体を用いた複合材料は、環境ホルモンなどの除去剤として知られているが、本発明のガス吸着剤のように、サイズが小さい分子(例えば、水素、メタン、メタノールなど)の吸着剤として使用できることは知られていない。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0057】
<試薬類>
本実施例に用いる試薬は、以下のものを使用した。
・α−シクロデキストリン(α−CyD) :株式会社シクロケム製
・ピリジン :関東化学株式会社製
・p−トルエンスルホニルクロライド :関東化学株式会社製
・アセトン :関東化学株式会社製
・HP−20 :日本錬水株式会社製
・ヨウ化ナトリウム :関東化学株式会社製
・N,N−ジメチルホルムアミド(DMF):関東化学株式会社製
・dry−DMF :N,N−ジメチルホルムアミドを蒸留して作製
・1−プロパンチオール :東京化成販売株式会社製
・炭酸水素ナトリウム :ナカライテスク株式会社製
・水酸化ナトリウム(NaOH) :和光純薬工業株式会社製
・非晶質ケイ酸 :旭ガラス株式会社製
・エピクロロヒドリン :関東化学株式会社製
・1N−HCl :関東化学株式会社製
・メタノール :関東化学株式会社製
【0058】
(合成例1)
<α−CyDの水酸基の置換(1):モノ−6−o−p−トルエンスルホニル−α−CyD(1)の合成>
ピリジン(750mL)にα−CyD(10.1g,10.4mmol)を溶解させ、更にp−トルエンスルホニルクロライド(7.41g,38.9mmol)を加え、4時間反応させた。反応追跡は順相TLC(薄層クロマトグラフィー、展開溶媒;1−ブタノール:エタノール:水=5:4:3(体積比))で行った。一置換体と見られるRf値が0.57のスポットが濃くなってきたところで反応終了とし、減圧下で濃縮した後、アセトン(700mL)で再沈、吸引ろ過した。減圧乾燥し得られた粗結晶17.1gを水に溶解させゲルろ過カラムクロマトグラフィー(HP−20)(7cm×30cm)にてRf=0.57の成分を単離、精製して、モノ−6−o−p−トルエンスルホニル−α−CyD(α−CyD誘導体(1))を得た。収量は2.03g、収率は17.5%であった。上記反応の反応スキームの概念図を以下に示す。
【化1】
【0059】
得られた物質について、
1H−NMRの結果から構造を確認した。結果を以下に示す。
Rf=0.57(1−ブタノール:エタノール:水=5:4:3(体積比), TLC ; silica gel 60F
254)
1H−NMR(300MHz,DMSO−d
6):
δ=4.4−4.6(5H,m,OH of C
6 of CyD)
4.8−4.9(6H,d,H of C
1 of CyD)
5.6−5.9(12H,s,OH of C
2 and C
3 of CyD)
7.4−7.5(2H,m,aromatic H of benzene)
7.7−7.8(2H,m,aromatic H of benzene)
【0060】
(合成例2)
<α−CyDの水酸基の置換(2):モノ−6−デオキシ−6−ヨード−α−CyD(2)の合成>
dry−DMF(20mL)に合成例1で得られたα−CyD誘導体(1)(1.52g,1.35mmol)を溶解させ、ヨウ化ナトリウム(2.05g,13.5mmol)を加え、80℃で6時間反応させた。反応追跡は順相TLC(展開溶媒;1−ブタノール:エタノール:水=5:4:3(体積比))で行った。目的物と見られるRf値が0.48のスポットが濃くなってきたところで反応終了とし、減圧下で濃縮した後、アセトン(500mL)で再沈、吸引ろ過した後、不純物や未反応のNaIを除くため水に溶かし、もう一度アセトン(500mL)で再沈させ減圧乾燥し、モノ−6−デオキシ−6−ヨード−α−CyD(α−CyD誘導体(2))を得た。収量(収率)は1.31g(89.5%)であった。
反応終了後のTLCにて分解物と思われるスポット(Rf=0.33)が見られたが、後のカラム操作にて分離できると思われるので、次の反応にそのまま用いた。
上記反応の反応スキームの概念図を以下に示す。
【化1】
1H−NMRの結果から構造を確認した。結果を以下に示す。
R
f=0.48(1−ブタノール:エタノール:水=5:4:3(体積比),TLC;silica gel 60F
254)
1H−NMR(300MHz,DMSO−d
6):
δ=4.4−4.6(5H,m,OH of C
6 of CyD)
4.8−4.9(6H,d,H of C
1 of CyD)
5.6−5.9(12H,s,OH of C
2 and C
3 of CyD)
【0061】
(合成例3)
<α−CyDの水酸基の置換(3):モノ−6−デオキシ−6−(1−プロパンチオ)−α−CyD(α−CyD誘導体(3))の合成>
DMF(5mL)に合成例2で得られたα−CyD誘導体(2)(0.095g,0.0877mmol)を溶解させ反応系を脱気した後、1−プロパンチオール(0.158mL,1.75mmol)と水に溶かした炭酸水素ナトリウム(0.147g,0.175mmol)を加え、50℃で3時間反応させた。反応追跡は順相TLC(展開溶媒;1−ブタノール:エタノール:水=5:4:3(体積比))で行った。目的物と見られるRf値が0.53のスポットが濃くなってきたところで反応終了とし、減圧下で濃縮した後、アセトン(200mL)で再沈、吸引ろ過した。減圧乾燥した後、dry−DMF(5mL)に溶解させて不溶物を除き、粗結晶0.172gを逆相カラムシリカゲルクロマトグラフィー(Lobar column LiChropreq RP−18, Merck Ltd., 2.40cm×25cm)にてRf=0.53の成分を単離、精製した。収量(収率)は0.0285g(31.5%)であった。上記反応の反応スキームの概念図を以下に示す。
【化1】
構造は、
1H−NMR、IR、TOF MS、元素分析にて同定した。IRチャートを
図2に示す。
Rf=0.53(1−ブタノール:エタノール:水=5:4:3(体積比),TLC; silica gel 60F
254)
1H−NMR(300MHz,DMSO−d
6):
δ=0.8−0.9(3H,m,CH
3 of 1−プロパンチオール)
1.4−1.6(2H,m,CH
2 of 1−プロパンチオール)
4.4−4.6(5H,m,OH of C
6 of CyD)
4.8−4.9(6H,d,H of C
1 of CyD)
5.6−5.9(12H,s,OH of C
2 and C
3 of CyD)
IR(KBr);νOH:3427.5,C−H:2930.4,C−O:1033.2,C−S:717.9(cm
−1)
TOF MS;m/z 1054 [M+Na]
+
Calcd. for C
47H
80O
34S・H
2O; C:44.64, H:6.54%.Found ; C:44.67, H:6.76%
【0062】
(比較例1)
<比較複合材料1の製造>
300mL三つ口フラスコにNaOH水溶液(NaOH7.19g/H
2O17.8g)を入れ、更にα−CyD(2.27g,2.34mmol)を前記NaOH水溶液に溶解させた。続いて、テフロン(登録商標)羽根付き撹拌棒を320rpmで回転させながら、非晶質ケイ酸(5.34g,88.3mmol)とエピクロロヒドリン(18.2g,196mmol)とを加えて、80℃で6時間反応させた。粒状の複合材料の生成を目視により確認し、反応を終了した。反応終了後、室温にまで冷却した後、1N−HClで中性(pH7.0)にし、ろ過した。その後、水とメタノールで洗浄し、減圧乾燥後、5.38gの固体を回収した。
構造はIRにて確認した。
IR(KBr);νOH:3430.1,C−H:2929.2,C−O:1067.0(cm
−1)
【0063】
(実施例1)
<複合材料1の製造>
300mL三つ口フラスコにNaOH水溶液(NaOH7.11g/H
2O17.9g)を入れ、合成例3で得られたα−CyD誘導体(3)(2.23g,2.22mmol)を溶解させた。続いて、テフロン(登録商標)羽根付き撹拌棒を315rpmで回転させながら、非晶質ケイ酸(5.03g,83.8mmol)とエピクロロヒドリン(5.77g,62.4mmol)を加えて、80℃で4時間反応させた。反応終了後、1N−HClで中性(pH7.0)にし、ろ過した。その後、水とメタノールで洗浄し、減圧乾燥後、6.74gの固体を回収した。IR測定の結果、原料と同様のピークを確認し、複合材料にした後では1033.2cm
−1付近に見られたC−Oのピークがブロードになっていることが確認された。IRチャートを
図2に示す。
IR(KBr);ν OH:3430.5,C−H:2940.3,C−O:1062.9,C−S:772.3(cm
−1)
【0064】
<評価>
<<形態観察>>
−比較例1の複合材料−
比較例1で得られた比較複合材料1のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を
図3〜
図5に示す。
図3のSEM写真(1,000倍)の表面スペクトル解析から、SiO
2の存在が確認できた。また、SiO
2表面に小さい球形の重合体が確認できた。
【0065】
−実施例1の複合材料−
実施例1で得られた複合材料1のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を
図6〜
図9に示す。
図6のSEM写真(300倍)の表面スペクトル解析から、SiO
2の存在が確認できた。SiO
2表面に小さい球形の重合体が確認できた。また、その重合体は、比較例1の比較複合材料1に見られる重合体より細かい球状を形成していた。一部では、細かい球状の重合体が集合して大きな球状体を形成していた。また、複合材料1には、小さい空孔が確認できた。
なお、
図3のSEM写真中の「スペクトル14」、及び
図6のSEM写真中の「スペクトル59」は、表面スペクトル解析を行った箇所を示す符号である。
【0066】
<<比表面積>>
比較例1で得られた比較複合材料1、及び実施例1で得られた複合材料1について、日本ベル株式会社製のBELSORP 18SP−Vを用いて窒素ガスの吸着測定を行い、BET式により比表面積を求めた。結果を以下及び
図9に示す。
図9において、▲及び△が、複合材料1の結果を示し、◆及び◇が比較複合材料1の結果を示す。
【0067】
−比較複合材料1の結果−
平均細孔直径:10.4nm
全細孔容積(p/p
0=0.990):6.9×10
−3cm
3/g
比表面積:2.7m
2/g
【0068】
−複合材料1の結果−
平均細孔直径:10.4nm
全細孔容積(p/p
0=0.990):0.66cm
3/g
比表面積:2.3×10
2m
2/g
【0069】
窒素吸着の結果より、比表面積は複合材料1>比較複合材料1の順となった。シクロデキストリンの水酸基が置換された影響により、複合材料1は、比較複合材料1よりも多孔質性が増し、その結果、比表面積が増大したものと推測される。
この窒素吸着の結果は、比較複合材料1には空孔が確認されなかったのに対して、複合材料1には小さい空孔が確認できたSEM写真の形態観察の結果とよく対応している。
【0070】
<<メタノール吸脱着実験(蒸気吸着実験)>>
比較例1で得られた比較複合材料1、及び実施例1で得られた複合材料1について、日本ベル株式会社製のBELSORP 18SP−Vを用いて、メタノールの吸脱着測定を行った。結果を
図10に示す。
図10において、▲及び△が、複合材料1の結果を示し、◆及び◇が比較複合材料1の結果を示す。
メタノール最大捕捉量は、複合材料1が約26cm
3/g、比較複合材料1が約5cm
3/gであった。
複合材料1では、取り込まれたメタノール分子の脱離がしにくく、徐々に減圧されてもほぼ同じ量のメタノールが保持されていた。これは、複合材料1に生成された空孔が適度に小さく、捕捉されたメタノール分子が放出されにくいことを示している。
比較複合材料1は、メタノールの捕捉がほとんどなかった。これは、空孔が観察されなかったSEM写真観察の結果とよく対応している。
【0071】
<<メタン吸着実験>>
比較例1で得られた比較複合材料1、及び実施例1で得られた複合材料1について、日本ベル株式会社製の加圧型ガス吸着能測定装置MSB−AD−Hを用いて、メタン(CH
4)に対する捕捉能を評価した。結果を
図11に示す。
測定条件
サンプル量:
比較複合材料1 :2.3363g
複合材料1 :2.3365g
吸着温度 :25℃
吸着ガス(CH
4)最大圧力:450kPa
複合材料1の最大捕捉量は、2.05mL/gであり、複合材料1は、メタンに対して捕捉能力を有していた。複合材料1中に存在している空孔にメタン分子が捕捉されたものと推測される。
一方、比較複合材料1は、窒素吸着、メタノール吸脱着の結果と同様に、メタンに対しても捕捉能力がなかった。
【0072】
以上の結果より、本発明の複合材料は、サイズの小さい分子に対して捕捉能力を示すことが確認できた。これは、複合材料に、適度な大きさの空孔が存在していることに関係していると考えられる。
シクロデキストリンの水酸基がアルキルチオ基に置換されていない比較複合材料1では、空孔がほとんど存在していないことから、シクロデキストリンの水酸基が置換されることにより、適度な空孔ができたものと考えられる。
即ち、シクロデキストリンの水酸基をアルキルチオ基に置換することで、複合材料に適度な空孔を形成でき、サイズの小さい分子に対して捕捉能力に優れる複合材料が得られた。