特許第5892875号(P5892875)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5892875
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】光電子集積モジュール
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/12 20060101AFI20160310BHJP
   H01L 31/10 20060101ALI20160310BHJP
【FI】
   G02B6/12 301
   H01L31/10 A
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-141015(P2012-141015)
(22)【出願日】2012年6月22日
(65)【公開番号】特開2014-6338(P2014-6338A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2014年11月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】591230295
【氏名又は名称】NTTエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石橋 忠夫
【審査官】 林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0202197(US,A1)
【文献】 国際公開第2004/104662(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0259935(US,A1)
【文献】 特開平03−290606(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0145026(US,A1)
【文献】 特開2002−328245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12−6/14
G02B 6/26−6/27
G02B 6/30−6/34
G02B 6/42−6/43
G02F 1/00−1/125
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上に、
一端に信号入力部を有する半導体であるシングルモード光導波路と、
前記シングルモード光導波路の他端に接続された半導体であるマルチモード干渉光導波路と、
前記マルチモード干渉光導波路の上に隣接して配置され、少なくとも1つの光吸収層部を有する半導体であるフォトダイオードとを積層して構成した光電子集積モジュールであって、
前記マルチモード干渉光導波路は、単一のイメージングポイントを形成する干渉を生じるよう調整された導波路幅および導波路長を有するとともに、一部を溝加工することにより形成された反射部を有し、前記マルチモード干渉光導波路を伝搬した光信号を前記光吸収層部で光信号が集光するよう調整された位置に設けた反射部で反射して前記マルチモード干渉光導波路の幅方向の前記光信号を前記フォトダイオードの光吸収層部に集光することを特徴とする光電子集積モジュール。
【請求項2】
マルチモード干渉光導波路は半導体であり、
前記反射部はマルチモード干渉光導波路を構成する半導体を傾斜面に溝加工して形成されたことを特徴とする請求項1に記載の光電子集積モジュール。
【請求項3】
前記溝加工部分の空隙に低光屈折率の材料を充填し、溝加工部分がマルチモード干渉光導波路と面一になるように平坦化することを特徴とする請求項2に記載の光電子集積モジュール。
【請求項4】
前記反射部の傾斜面に金属反射ミラー又は誘電体多層膜反射ミラーを設けたことを特徴とする請求項2または3に記載の光電子集積モジュール。
【請求項5】
1×N(Nは整数)の光分岐導波路と、請求項1から4に記載の光電子集積モジュールとを備え、
同一の半導体基板上に形成された1×Nの光分岐導波路のN個の出力部のそれぞれに前記光電子集積モジュールが接続されていることを特徴とする光電子集積アレイ。
【請求項6】
請求項1から4に記載の光電子集積モジュールのフォトダイオードに、電気線路とアンテナパタンとを接続して構成したことを特徴とする光電子集積アンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光電子集積モジュールに関し、詳細には、超高周波フォトダイオードに用いられる光電子集積モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
0.3THzから3THzのTHz周波数領域における超高周波動作を目的とするフォトダイオードは低いデバイス容量が要求されるので、接合面積の縮小が必須となる。これは、RC時定数に伴う応答の劣化が周波数と共に影響が大きくなることに加え、フォトダイオードの真正応答、すなわち、内部のキャリア走行時間を短くするために空乏層の幅を狭くせざるを得ず、単位面積当たりの容量が増加してしまうことによる。ここで基本的な制約となるのは、デバイスサイズの縮小に従い、可能なフォトダイオードの動作電流上限が接合面積に応じて低下してしまうことである。
【0003】
そこで、微細な接合サイズを持つフォトダイオードをアレイ状に多数個配置し、個々のフォトダイオード出力を電力合成し全体の出力を増大すること(電力合成)が必要となる。アレイ状のフォトダイオードへの光導入にはいくつかの方法がある。ただし、フォトダイオードの接合サイズが微細になると、アレイ化における実装手法、もしくはアレイ化の前提となる光結合技術など、従来の技術には課題が多い。
【0004】
(従来例1)
例えば、レンズ光学系で光をフォトダイオードに集光する場合、光ファイバの出射ビームスポットサイズを8μm(1.5μm帯使用)として、倍率4倍の光学系を用いて集光すると、ビームスポットサイズは2μm程度となり、フォトダイオードの接合径も同程度のサイズまで縮小しても受光感度を確保することができる。しかしながら、1個のフォトダイオードへの光結合は可能であっても、光学系の倍率とフォーカスを同時に満足する条件としなければならないので、現実の光実装においては調整が複雑となってしまう、という問題がある。
【0005】
また、フォトダイオードとアンテナを同一の基板に集積化した“アンテナ集積フォトダイオード”においては、THzの空間光学系を構成する都合上、フォトダイオードチップをTHz球面レンズ上に直接配置するので、フォトダイオードが光学レンズとTHz球面との間に挟まれた形となり、裏面光入射のフォトダイオードへの光導入そのものが容易ではない。裏面光入射とせざるを得ないのは、上部電極がミクロンサイズと微小なサイズとなり光導入窓を設けても十分な光結合効率が取れないことによる。
【0006】
図8は、従来の光学レンズを用いたアンテナ集積フォトダイオードへの光結合の例であり、例えば非特許文献1に詳細に述べられている。フォトダイオードチップ31をSi超半球THzレンズ32の上に固定し、光学レンズ33を用いて、フォトダイオード部分34に光信号を集光する。ここで、フォトダイオードは裏面光入射構造なので、フォトダイオードチップ裏面の反射コーティング35で光線36を折り曲げた形の光入射となる。光結合は可能であるものの、フォトダイオードチップ31上に集積化された金属のアンテナパタン37及びフォトダイオード部分34に光信号が遮られ、結合効率は大きく劣化してしまうという問題がある。
【0007】
(従来例2)
上述のレンズ光学系を用いる方法の他にも、半導体基板に多分岐された光導波路とそれに直接結合するフォトダイオードとを集積化する方法(=光導波路/フォトダイオード集積構造)がある。レンズ光学系の場合にくらべて、光導波路/フォトダイオード集積構造は、一つの光導波路への光結合を取ると多数のフォトダイオードに光信号を同時に供給できる点で優れた構成と言えよう。しかしながら、従来から報告されている光導波路/フォトダイオードの集積化構造は、いわゆるエバネッセント光結合によるものであり、フォトダイオードのデバイス長(=エバネッセント光結合長)をある程度長くしないかぎり結合効率が悪く、小さな接合面積を持つフォトダイオードには適用しにくいものであった。
【0008】
図9は、従来のエバネッセント光結合形のフォトダイオード構造を模式的に示したものである。従来のエバネッセント光結合形のフォトダイオード構造は、半絶縁性半導体基板41の上に光導波路42を設け、n−コンタクト層を共用するマッチング層44を挟んで、光吸収層45と上部クラッド層46、p−コンタクト層47を形成する。さらにp−電極48とn−電極49が設けられる。矢符で示した方向から光導波路に光信号50を結合させ、光導波路の中間層に積層されたコア層43の周りに光信号が伝搬し、マッチング層44を介して光吸収層45を含む導波路モードに変換し効果的にエバネッセント結合を行う。通常、フォトダイオードの光伝搬方向のサイズを光波長に比べて十分に長く取ることが多い。
【0009】
例えば、特許文献2によれば、光吸収層(厚さ0.2μm)の、幅4μm、長さ7μmのデバイスにおいて得られた受光感度は0.37A/Wと比較的良好である。ただし、光吸収層長を短くするに従い感度が急激に低下することが同時にシミュレーションにより示されている。
【0010】
(従来例3)
導波路とフォトダイオードの結合に関しては、半導体レーザと電界吸収形変調との集積化に用いられている、いわゆる、バッドカップリング構造も、原理的には可能であろう。しかしながら、エピタキシャル結晶の製作技術が複雑であり、報告例は見当たらない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Hiroshi Ito et al., J. Lightwave Tech. Vol. 23, NO. 12,pp. 4016−4021, 2005.
【非特許文献2】A. Beling et al., IEEE J. OF SELECTED TOPICS IN QUANTUM ELECTRONICS, VOL. 13, NO. 1, pp. 15−21, 2007
【非特許文献3】L. B. Soldano et al., J. Lightwave Tech. Vol. 4, NO. 4,pp. 615−627, 1995.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このように、小さな接合径を持つアレイ状に配置されたフォトダイオードへの光結合はレンズ光学系においては光学実装上困難である。一方、光導波路/フォトダイオード集積構造では、エバネッセント光結合の性質から受光感度が十分に取れないという問題があった。
【0013】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、微細な接合面積を持つフォトダイオードをアレイ状に多数個配置してTHzの電力合成を行う際に有利な光電子集積モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明の光電子集積モジュールは、半導体基板上に、一端に信号入力部を有する半導体であるシングルモード光導波路と、前記シングルモード光導波路の他端に接続された半導体であるマルチモード干渉光導波路と、前記マルチモード干渉光導波路の上に隣接して配置され、少なくとも1つの光吸収層部を有する半導体であるフォトダイオードとを積層して構成した光電子集積モジュールであって、前記マルチモード干渉光導波路は、一部を溝加工することにより形成された反射部を有し、前記マルチモード干渉光導波路を伝搬した光信号を反射部で反射して前記フォトダイオードの光吸収層部に集光することを特徴とする光電子集積モジュールである。
【0015】
光電子集積モジュールは、好ましくは、マルチモード干渉光導波路は半導体であり、前記反射部はマルチモード干渉光導波路を構成する半導体を傾斜面に溝加工して形成されたことを特徴とする。さらに好ましくは、前記溝加工部分の空隙に低光屈折率の材料を充填し、溝加工部分がマルチモード干渉光導波路と面一になるように平坦化することである。また、前記反射部の傾斜面に金属反射ミラー又は誘電体多層膜反射ミラーを設けてもよい。
【0016】
また、本発明の光電子集積アレイは、1×N(Nは整数)の光分岐導波路と、上記記載の光電子集積モジュールとを備え、同一の半導体基板上に形成された1×Nの光分岐導波路のN個の出力部のそれぞれに前記光電子集積モジュールが接続されていることを特徴とする光電子集積アレイである。
【0017】
また、本発明の上記光電子集積モジュールのフォトダイオードに、電気線路とアンテナパタンとを接続して構成したことを特徴とする光電子集積アンテナである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1の実施形態の光電子集積モジュールを説明する模式図であり、(a)は上面図、(b)はA−A’断面図、(c)はB−B’断面図である。
図2】光信号が傾斜面で反射して反射方向に伝搬する様子を模式的に示す図である。
図3】溝を埋める充填材料の光学屈折率に対して、全反射を維持できる最大のミラーの傾斜角(θcrt)を計算した結果を示す図である。
図4】溝加工部分である傾斜面に金属反射ミラーを形成した例を示す図である。
図5】第2の実施形態の光電子集積モジュールを説明する模式図であり、(a)は上面図、(b)は断面図である。
図6】第3の実施形態の光電子集積アレイを示す図である。
図7】第4の実施形態の平面アンテナを示す図である。
図8】従来の光学レンズを用いたアンテナ集積フォトダイオードへの光結合の例を示す図であり、(a)は各構成の配置関係を示し、(b)はその詳細な配置関係を示す図である。
図9】従来のエバネッセント光結合形のフォトダイオード構造を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0020】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の光電子集積モジュールの第1の実施形態の説明する模式図である。(a)は上面図であり、(b)はA−A’断面図であり、(c)はB−B’断面図である。本実施形態の光電子集積モジュール11は、半絶縁性のInP基板1上に積層されたシングルモード光導波路2およびマルチモード干渉光導波路3と、マルチモード干渉光導波路3の上に設けられたフォトダイオード20と、反射ミラー部(反射部)9とを備えて構成される。光電子集積モジュール11に矢符方向から光信号10が入射されると、信号光10は、シングルモード光導波路2を伝搬した後にマルチモード干渉光導波路3に入力される。
【0021】
シングルモード光導波路2は、コア層の上下にクラッド層が積層された構成を有し、例えばInGaAsPコア層とその上下に配置したInPクラッド層からなる。マルチモード干渉光導波路3もシングルモード光導波路2と同様の層構成で形成される。シングルモード光導波路2とマルチモード干渉光導波路3とは、層構成は同一であるが、コア層の横幅が異なる構成である。マルチモード干渉光導波路3の横幅は、シングルモード光導波路のそれに較べてはるかに大きく構成できる。
【0022】
本実施形態のマルチモード干渉光導波路3は、単一のイメージングポイントを形成する干渉を生じるようにその導波路幅や導波路長が調整されている。なお、本明細書において、イメージングポイントとは、マルチモードの干渉光の干渉効果によって光強度が集中する点をいう。
【0023】
反射ミラー部9は、マルチモード干渉光導波路3が一部を溝加工して空隙となる溝部9Cを設けてマルチモード干渉光導波路3の一部が傾斜面9Bとなるように形成することができる。溝部9Cには低屈折率材料を充填した構成とすることができる。傾斜面9Bは、マルチモード干渉光導波路3を伝搬してきた信号光をフォトダイオード20側に反射するような傾きに形成される。反射ミラー部9を形成する位置は、フォトダイオード20の光吸収層5で、光信号が集光する様に調整することが好ましい。フォトダイオード20における集光面積を小さくできるからである。具体的には、フォトダイオード20において光信号の電界強度パターンのイメージングポイントが形成されるように傾斜面9Bで反射してフォトダイオード20に到達するまでの光路長が調整される。
【0024】
フォトダイオード20は、n型InPコンタクト層4と、InGaAs光吸収層5と、p型InGaAsPコンタクト層6と積層し、n電極7と、p電極8とを積層して構成される。フォトダイオード20は、マルチモード干渉光導波路3からの光を光電変換する機能を有し、例えば裏面光入射タイプを用いることができるがその詳細な構成は特に限定されない。フォトダイオード20は、マルチモード干渉光導波路3の電界強度パタンにおいてイメージングポイントが一点となって生じる導波路長よりもわずかに短い導波路長となる位置において、マルチモード干渉光導波路3の上に積層される。また、フォトダイオード20は、その全部がマルチモード干渉光導波路3に重なるように設けられていてもよく、一部がマルチモード干渉光導波路3に重なるように設けられていてもよい。
【0025】
本実施形態の光電子集積モジュールは、以下の様に製作できる。まず、半絶縁性InP基板1の上に、光導波路層2、3と、フォトダイオード20を構成する各半導体層4、5、6とを、MO−VPE法を用いてエピタキシャル成長する。各半導体層4、5、6で構成されるフォトダイオードは、フォトダイオード構造であれば特別な制約はない。
【0026】
この光電子集積モジュールの加工は、フォトダイオード部分の製作から行うことが好ましい。光導波路を形成する溝がない状態の方が、微細なフォトリソグラフィが容易となり、フォトダイオード部分のパタニングが精度よく行えるからである。典型的には、化学エッチングと電極金属のリフトオフ法を用いによることにより、ダブルメサの形でフォトダイオード部分を製作する。
【0027】
次に、シングルモード光導波路2とマルチモード干渉光導波路3とを同時に加工する。例えば、堆積したSiO2膜をフォトリソグラフィによりパタニングし、それをエッチングマスクとしてリアクティブイオン・エッチング法によりシングルモード光導波路2とマルチモード干渉光導波路3の周辺を囲む様に垂直の溝加工を行う。いわゆる「メサ形」の光導波路である。
【0028】
光導波路2、3を形成した後、反射ミラー部9を形成するために溝加工を行う。溝加工はエッチングにより行う。エッチングはドライエッチング、ウェットエッチングの何れでもよいが、それぞれで形成される溝形状が異なる。ここでは、傾斜加工が必要なので、リアクティブイオン・エッチング法よりも指向性の強いリアクティブイオンビーム・エッチング法を用いる。
【0029】
また図1では示していないが、必要に応じて、フォトダイオード20のバイアス回路や出力回路の電気配線を施す際のフォトリソグラフィを容易とするために、シングルモード光導波路2とマルチモード干渉光導波路3の周辺の溝、および反射ミラー部9の溝9Cを、BCB(Benzocyclobutene)を塗布/充填することで平坦化を行った方がよい。
【0030】
次に光電子集積モジュールに入力した光信号がフォトダイオード20に結合する過程について説明する。本実施例の光電子集積モジュールに入力した光信号は、まず、シングルモード光導波路2の入力部から入力した後、シングルモード光導波路2のコア部分を伝搬して、マルチモード干渉光導波路3に入力する。
【0031】
次に、非特許文献3に記載されているように、マルチモード干渉光導波路3の中の光信号10は、マルチモード干渉光導波路3の構造パラメータによって決まるパタンで、信号の電界強度の強弱を規則的に繰り返す。因みに、一般のこの種のマルチモード干渉光導波路3の応用においては、M個のイメージングポイントが生じる導波路長を選んで再びシングルモード導波路2を接続し、1×Mの分岐機能を実現しているが、本実施形態では分岐機能を有さない(M=1)マルチモード干渉光導波路3を用いている。
【0032】
次に、マルチモード干渉光導波路3を伝搬した信号光が反射ミラー部9に当接し、フォトダイオード20方向に反射される。フォトダイオード20は、マルチモード干渉光導波路3の電界強度パタンにおいてイメージングポイントが一点となって生じる導波路長よりもわずかに短い導波路長となる位置においてマルチモード干渉光導波路3の上に積層されているので効率的に信号光が結合する。
【0033】
光電子集積モジュール11における上記動作は、主に、マルチモード干渉光導波路3の集光効果と、フォトダイオード20の近傍に配置された反射ミラー部9の利用とにより達成される。マルチモード干渉光導波路3を伝搬した光信号は、フォトダイオード20の中心に向け、この反射ミラー面9Bで上方向(フォトダイオード20の配置方向)に伝搬方向を変え、最終的にフォトダイオード20の光吸収層5に到達する。反射ミラー部9の位置は、フォトダイオード20の光吸収層5で、光信号が集光する様に調整する。
【0034】
すなわち、光導波路を伝搬する信号を、極めて小さな接合面積を持つフォトダイオード20に集光することが可能となる。ここで、マルチモード干渉光導波路3の横幅は、シングルモード光導波路のそれに較べてはるかに大きいので、例えば、10ミクロン角程度の全領域サイズを持つフォトダイオード20を搭載することも容易である。従って、フォトダイオード20の形態は、基本的に通常の裏面光入射タイプと同様の構成でよい。アレイ化を前提とした微細な裏面入射形のフォトダイオードに、光信号を効果的に導入できる。
【0035】
図2は、光信号が傾斜面9Bで反射して反射方向9Dに伝搬する様子を模式的に示す。溝部9Cを誘電体で充填した状態で全反射を維持する条件は、導波路を構成する半導体の光学屈折率と、ミラーの角度と、溝部9Cを埋める充填材料の光学屈折率とに依存する。溝部9Cが空気の場合は、最も大きなミラー傾斜角度で全反射条件が成立する。
【0036】
図3は、溝を埋める充填材料の光学屈折率に対して、全反射を維持できる最大のミラーの傾斜角(θcrt)を計算した結果である。図3においては、マルチモード干渉光導波路3の屈折率は、n=3.17を仮定した。図3に示す結果によれば、半導体プロセスに用いるポリマー材料、例えばBCBやSiO2などであっても、それらの屈折率がn=1.5程度なので、おおよそ60°までのミラーの傾斜が実現できることが理解される。金属などを二次的に形成することなく反射ミラーを形成できるので、本光電子集積モジュールの製作は容易である。
【0037】
本実施形態では傾斜面9Bに特に何も付加しない態様を例に挙げて説明したが、反射ミラー部9の傾斜面9Bには、金属反射ミラー、もしくは誘電体多層膜反射ミラーなどの二次的に形成したミラーを用いてもよい。金属反射ミラー9Eとしては、チタン、金などを用いることができる。図4は、溝加工部分である傾斜面9Bに金属反射ミラー9Eを形成した例である。金属反射ミラー9Eを用いると、反射光9Fがマルチモード導波路3の伝搬モードに結合しない範囲で、ミラー傾斜角crt(n)を大きくできる。反射光が光吸収層をより浅い角度で通過するので、より効率的に光を吸収することが可能となり、一定の電気出力を得るための光入力を下げることができる。
【0038】
本実施形態の光電子集積モジュールは、微細な接合面積を持つフォトダイオードをアレイ状に多数個配置してTHzの電力合成を行う際に有利である。本実施形態の光電子集積モジュールを用いることにより、従来のレンズ光学系を用いた技術では、光実装においては調整が複雑であるという問題や、従来のエバネセント結合のフォトダイオードでは、微細なフォトダイオードが適用できないという問題がなく、微細なフォトダイオードをアレイ状に多数個配置した状態でも、十分な光結合を確保することが可能となる。
【0039】
また、THz周波数領域(約0.3THzから約3THz)の電力発生技術については、簡便性や広帯域性の点で、フォトダイオードを用いた発生手法が優れている。しかしながら、周波数が高くなると必ずしも出力レベルが十分ではなく、ノイズレベルが高かったり測定時間が長かったりするという問題があった。本実施形態の光電子集積モジュールを用いることにより、大幅にTHz電力を増大させることができるので、THzイメージングなどの実用的な分野により広く応用することが可能となる。
【0040】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、単一の集光部を有するフォトダイオードを用いていたが、本実施形態では、複数のイメージングポイントを形成するように導波路幅および導波路長を調整したマルチモード干渉光導波路と、複数の集光部を有するフォトダイオードとを用い、マルチモード干渉光導波路の分岐機能によりフォトダイオードの複数の集光部に光信号を結合している。その他の構成は第1の実施形態の光電子集積モジュールの構成と同じなので、その説明を省略する。
【0041】
図5は、本発明の光電子集積モジュール12を示す図であり、(a)は上面図であり、(b)は側面図である。図5に示すように光電子集積モジュール12では、第1の実施形態において単一のイメージングポイントを形成する干渉を生じるマルチモード干渉光導波路3に代えて、2つのイメージングポイントを形成するように導波路幅および導波路長が調整されているマルチモード干渉光導波路13を用いている。
【0042】
フォトダイオード30は、マルチモード干渉光導波路13において形成されるイメージングポイントの数に対応した集光部(光吸収層15)を備える構成とされることが好ましく、本実施形態では、2つの集光部を備えている。2つの集光部(光吸収層15)の接合は、n型InPコンタクト層14を共有するものの、電気的には独立したフォトダイオードとして構成することができる。具体的には、図5に示すように、1つのn型InPコンタクト層14の上に、それぞれ電気的に独立して機能する、光吸収層15とp型InGaAsPコンタクト層16とp電極18とが積層された構成とすることができる。
【0043】
また、反射ミラー部9を設ける位置は、マルチモード干渉光導波路13から反射ミラー部9で反射されてフォトダイオード30に至るまでの光路長が、フォトダイオード30の集光部(光吸収層15)において干渉した光信号のイメージングポイントが形成されるような光路長となるように調整されている。
【0044】
本実施形態の光電子集積モジュール12に入力された光信号は、シングルモード光導波路2を伝搬した後、マルチモード干渉光導波路13に入力される。マルチモード干渉光導波路13の一端に設けられた反射ミラー部9でフォトダイオード30に向けて反射される。マルチモード干渉光導波路13から反射ミラー部9で反射されてフォトダイオード30に到達する信号光は、2つの集光部(光吸収層15)においてそれぞれイメージングポイントを形成する。フォトダイオード30の2つの集光部(光吸収層15)はそれぞれ電気的に独立したフォトダイオードとして動作して光を検出することができる。
【0045】
本実施形態の光電子集積モジュール12では、第1の実施形態の光電子集積モジュールの効果に加え、複数のフォトダイオードの接合面積の合計が第1の実施形態のフォトダイオードの接合面積と同じであっても、1つのフォトダイオードの接合面積が小さくなるので、RC定数が低下することとなり、より高速に動作させることができる。また、フォトダイオードの自己発熱に関してもより分散される状態となるため、全動作電流を上げてTHz出力を増大させることができる。
【0046】
(第3の実施形態)
第1の実施形態および第2の実施形態では、アレイ化を前提とした微細なフォトダイオードに光信号を効果的に導入することができる光電子集積モジュールについて説明した。アレイ化は、例えば、以上に説明した光電子集積モジュールを一つのユニットとして並べることにより行う。図6は、第1の実施形態の光電子集積モジュールを8個並べて、光電子集積アレイを構成した例である。
【0047】
図6において、光電子集積アレイは、第1の実施形態の光電子集積モジュール11と、シングルモード光導波路22と、1×2分岐のマルチモード干渉光導波路23とを備えて構成される。シングルモード光導波路22で1×2分岐のマルチモード干渉光導波路23を接続し、3段の分岐で構成することにより、1×8の光分岐導波路を構成している。分岐された8つの各導波路に、例えば、第1の実施形態の光電子集積モジュール11を接続する。なお、1×N(Nは整数)の分岐の数はいくつでもよい。
【0048】
この第3の実施形態の光電子集積アレイの製作は、第1の実施形態の光電子集積モジュール11または第2の実施形態の光電子集積モジュール12の加工と同時に、光分岐導波路であるシングルモード光導波路22およびマルチモード干渉光導波路23の加工を行う。また、図6では示していないが、必要に応じて、フォトダイオードのバイアス回路、出力の電気配線、インピーダンス整合回路、平面アンテナなどを形成することができる。
【0049】
本実施形態の光電子集積アレイによれば、フォトダイオードのアレイ数に応じて、合成されるTHz出力は大幅に増大されることになる。
【0050】
(第4の実施形態)
本実施形態は、第3の実施形態の構造に平面アンテナを集積化して光電子集積アンテナとした例である。図7は、本実施形態の平面アンテナを示している。本実施形態の光電子集積アンテナは、図7に示すように第2の実施形態の光電子集積モジュール12に加えて出力線路とアンテナパタンを配置した構成とされている。図7において、出力線路とアンテナパタンは、n電極14に電気的に接続された金属のグランド面パタン24と、個々のフォトダイオードのp電極18に接続されたマイクロストリップ線路からなるTHz信号出力ライン25Aと、電力合成された信号出力ライン25Bと、スロットアンテナパタン26と、グランドに対して十分な容量を持つバイアスパッド27とにより構成される。
【0051】
図7に示す光電子集積アンテナ40は、グランド面24に対して負の電圧をバイアスパッド27から印加した状態で、フォトダイオードの光吸収層(p電極18の下部)に光信号を入力することにより、誘起されたTHz出力が発生し、マイクロストリップライン2A、25Bを伝搬した後、スロットアンテナ26を励振し、下面方向にTHz電力を放出する。なお、第4の実施形態の光電子集積アンテナは、第3の実施形態で説明した光電子集積アレイにそのまま応用することが可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0052】
11、12 光電子集積モジュール
1 InP基板
2 シングルモード光導波路
3、13 マルチモード干渉光導波路
20、30 フォトダイオード
4、14 n型InPコンタクト層
5、15 InGaAs光吸収層
6、16 p型InGaAsPコンタクト層
7、17 n電極
8、18 p電極
9 反射ミラー部
9B 傾斜面
9C 溝部
10 光信号
40 光電子集積アンテナ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9