【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、特許文献2から特許文献4においては、樹脂レンズのゲート部を外側に凸となる円弧状もしくは曲線状に切断するために、その切断方法が限られたものとなるとともに、切断の加工コストが高くなる。樹脂レンズにおいては、コストの低減が求められており、コスト面から見ると樹脂レンズとなる部分の外側でゲート部を直線的に切断する特許文献1の樹脂レンズの方が優れている。
【0012】
また、樹脂レンズは、ゲートから切断されることで、個々に分離された状態となる。しかし、樹脂レンズに傷が生じないようにする上では、個々に分離した状態で取り扱うことができないので、多数(複数)の樹脂レンズは、トレイに収容された状態で取り扱われる。また、成形後の樹脂レンズには、ARコーティング(Anti-Reflective-coating)がなされるが、コーティングに際して樹脂レンズを個々に取り扱うのでは作業性が悪いので、上述のようにトレイに収容された複数の樹脂レンズに対して一括してコーティングを行うことが提案されている。
【0013】
トレイ(レンズ保持部材)は、例えば、
図13に一部を示すように、上下一対のプレート11,12からなるとともに、それぞれに多数の開口13,14が形成されている。なお、
図13では、それぞれのプレートの一個の開口13,14部分のみを図示している。各開口13,14は、2枚のプレート11,12を重ねた際に、上下に重なるように配置されている。また、各開口13,14は、プレート11,12の互いに突き合わされる面側が小径で、反対の面側が大径とされており、小径側は樹脂レンズ1より径が小さく、大径側は樹脂レンズ1より径が大きくなっている。
【0014】
そして、下側のプレート12の上側のプレート11に接触する上面には、各開口14の小径となる部分を樹脂レンズ1の径より少し大きく拡径した形状のレンズ収容部15が設けられている。
レンズ収容部15は、開口14の小径側に設けられるが、レンズ収容部15の直下では、開口14の径が樹脂レンズ1の径より小さくなっていることで、段差が形成され、この段差部分で樹脂レンズ1のフランジ部が支持されている。また、下側のプレート12のレンズ収容部15の上に上側のプレート12の開口13の小径側が重なるが、開口13の小径側の径は、樹脂レンズ1の径より小さく、樹脂レンズ1のフランジ部を開口13の外縁の外側部分が覆った状態となる。これにより上下のプレート11,12に樹脂レンズ1のフランジ部8が略挟まれた状態に保持される。
【0015】
また、上述のようにゲート部の切断部としてのゲート残部6が、樹脂レンズ1の光学装置への取り付けに際し、樹脂レンズ1の光軸周りの角度の位置決めに用いられる場合があるが、この場合にトレイに収容された各樹脂レンズの光軸周りの角度を略同じとすることで、樹脂レンズ1の光学装置への取り付けの際の作業性を向上することができる。
そこで、レンズ収容部15にゲート残部6や直線部5を用いて樹脂レンズ1の角度の位置決めと、樹脂レンズ1の回り止めとなる構造が設けられる場合がある。
【0016】
例えば、
図14から
図16に示すように、上述の直線部5を有する樹脂レンズ1用のトレイのレンズ収容部15の内周面の形状は、直線部5とゲート残部6の外形に対応した形状となっている。すなわち、レンズ収容部15の平面形状は、上述の仮想円2より少し大きな径の略円筒状の円弧面とされるととともに、前記直線部5に対応する平面部16と、ゲート残部6に対応して平面部16の中央部から矩形状に突出した形状の突出部17とを有するものとなっている。
【0017】
したがって、レンズ収容部15に樹脂レンズ1を収容した際に、ゲート残部6が突出部17内に配置されるとともに、直線部5が平面部16に近距離で対向して配置されことによって、各レンズ収容部15に収容される樹脂レンズ1の向きを揃えられるとともに、レンズ収容部15内で樹脂レンズ1が回転して向きが変わってしまうのを防止することができる。
【0018】
図15に示すように、レンズ収容部15に樹脂レンズ1が収容されるが、トレイに入れた状態で樹脂レンズ1を搬送等した際に、レンズ収容部15内で樹脂レンズ1が回転方向に動く場合がある。この場合に、
図16(a),(b)に示すように、樹脂レンズ1の直線部5およびゲート残部6が前記レンズ収容部15の平面部16および突出部17に対して斜めとなり、樹脂レンズ1の直線部5の端の角が、レンズ収容部15の平面部16に当接した状態となる。
この場合に、レンズ収容部15の内径と、樹脂レンズ1の外径とには、大きな差がなく、レンズ収容部15の内周面に対して樹脂レンズ1の平面部16の端の角と、この角の樹脂レンズ1の直径方向に沿って逆側となる外周面とが、レンズ収容部15の平面部16を含む内周面に挟まれた状態となる。
【0019】
この際に、樹脂レンズ1の直線部5の左右の端の角は、射出成形時に金型により成形するため丸みを帯びた状態となっており、エッジが尖った状態とはなっていないので、トレイの移動時に生じる外力程度で、容易に上述のようにレンズ収容部15の内周面に樹脂レンズ1が噛み込んで挟まれた状態となる虞がある。
上述のように樹脂レンズ1が挟まると、樹脂レンズ1をレンズ収容部15から取り出すのに手間がかかり、トレイからの多くの樹脂レンズ1を取り出す際の作業性を悪化させてしまう。
【0020】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、ゲート部の切断に大きなコストをかけることなく、有効半径の増大や小径化を図ることができ、さらに、トレイの収容部に向きを決めて収容した際に取り出し難い状態となるのを防止できる樹脂レンズおよび樹脂レンズの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記目的を達成するために、光が通過する二つの面を有し、
光軸方向から見て円形の光学的機能を有する光学的機能部と、
前記光学的機能部の外周に鍔状に設けられたフランジ部と、を備えた樹脂レンズであって、
前記フランジ部は、前記フランジ部の最外周面を構成する仮想円より径が小さくなる形状で、前記光学的機能部より外側に設けられた凹部を有し、
前記凹部内の前記フランジ部の外周面の形状は、当該外周面の周方向の両端部で前記仮想円より内側となる範囲で外方に向かって凸となる曲面
と、これら曲面の間で前記仮想円の半径方向に直交する方向に沿う平面状の切断面とを有することを特徴とする。
また、本発明の樹脂レンズは、光が通過する二つの面を有し、これら面のうちの少なくとも一方の面が、この一方の面の外周部を成形する外周側金型と、前記外周部の内側となる内周部を成形する内周側金型とを用いて成形され、
かつ、成形されたレンズ成形品のレンズ本体からゲート部を取り除いて得られる樹脂レンズであって、
前記レンズ本体の外周面は、前記ゲート部が接続される部分を除いて設定された半径の仮想円に沿って設けられ、
前記レンズ本体の外周面の前記ゲート部が接続される部分には、成形時に前記ゲート部の幅より広い範囲に渡って前記レンズ本体の半径方向中心側に後退した形状の凹部が設けられ、
前記凹部における前記レンズ本体の外周面が、前記内周側金型で成形される部分の外縁に沿うように成形されるか、または、前記外縁より外側でかつ前記仮想円より内側となる範囲で外方に向って凸となる曲面状に成形され、
前記ゲート部が取り除かれることにより形成される面が、前記凹部における前記レンズ本体の成形された外周面より内側で、前記内周側金型で成形される部分より外側に位置していることを特徴とする。
【0022】
本発明においては、成形時にレンズ成形品のレンズ本体のゲート部が接続される部分に、凹部が成形される。この凹部において、前記レンズ本体の外周面は、内周側金型(入子)に成形される部分の外縁に沿った形状とされるか、内周側金型に成形される部分の外縁より外側で、かつ、前記レンズ本体の外周面のゲート部以外の部分に沿う仮想円より内側となる範囲内で、外側に凸となる曲面状とされている。この凹部に接続されているゲート部を前記仮想円の内側で切断するので、ゲート部を切断した部分が前記仮想円より外側に出ることがなく、また、切断時に発生したバリも仮想円の内側に納めることが可能となる。
【0023】
この際に、前記凹部が従来のように直線状ではなく、外側に凸となる曲面もしくは内周側金型で成形される部分の外縁に沿った形状となるので、樹脂レンズの光学的機能部とすることが可能な有効半径を大きくすることができる。これにより従来と同径の樹脂レンズにおいて、光学的機能部を広くしたり、従来と同径の光学的機能部を有する樹脂レンズをより小径としたりすることが可能となる。
【0024】
なお、入子が周知のように樹脂レンズの略光軸周りに回転可能な構造となっている場合に、樹脂レンズの最外周部分で前記凹部が成形される部分はゲートの位置に対応して固定して設けられる必要があるので、入子で前記凹部を成形することができない。この凹部の仮想円の半径方向に沿った最大幅が小さければ、外周側金型で成形される部分の仮想円の半径方向に沿った幅が狭くなり、レンズを小型化することができる。
従来のようにゲートが切断される部分を直線状に成形とすると、この直線状の部分を仮想円に対する凹部と見なした場合に、直線の中央部で、凹部の仮想円の半径方向に沿った幅が最大となるとともに、この最大となった幅が、前記凹部における樹脂レンズの外周面を外側に凸となる曲面状とした場合の凹部の半径方向に沿った最大幅より大きくなってしまい、樹脂レンズの径を小さくできない。それに対して、前記凹部における樹脂レンズの外周面を外側に凸となる曲面状とした場合に、直線ではなく外側に凸となった分だけ、凹部の仮想円の半径方向に沿った幅を狭くでき、光学的機能部より外周側の部分を狭くして、有効半径の増加や樹脂レンズの小径化を図ることができる。
【0025】
また、従来のように樹脂レンズのゲートが接続される部分を直線状とした場合に上述のように凹部の半径方向に沿った最大幅が広くなるので、レンズ本体に接続されるゲート部が樹脂レンズの中央側に近づくことになる。それに対して本発明では、凹部の半径方向に沿った幅が狭くなることで、従来よりゲート部が樹脂レンズの中央側から離れること、すなわち内周側の光学的機能部から離れることになる。
ここで、金型の樹脂レンズを成形するキャビティに最終的に樹脂を流入させるゲート部近傍では、成形品に歪が生じやすく、ゲート部が光学的機能部に近づくと光学的機能部に前記歪による悪影響を与える可能性があるが、直線部を有する従来の樹脂レンズよりゲート部を樹脂レンズの中央から離すことが可能となることで、光学的機能部への悪影響を抑制することができる。
【0026】
また、成形時に上述の形状の凹部を成形し、ゲート部を切り離す際には切断面が平面状となるように切断しているので、切断の加工コストを低減することができる。すなわち、従来のように、前記凹部と略同形状となるように樹脂レンズのゲート部との接続部分を切削加工する場合に比較して、切断の加工コストが高くなるのを防止することができる。
【0027】
本発明の前記構成において、前記ゲート部が取り除かれることにより形成される前記面が、前記凹部における前記レンズ本体の成形された外周面より内側に位置していることが好ましい。
【0028】
また、本発明の前記構成において、前記凹部における
外方に向かって凸となる前記曲面が、前記仮想円と同芯の円弧面となっていることが好ましい。
【0029】
このような構成によれば、凹部におけるレンズ本体の外周面が、仮想円と同芯の円弧面となっているので、凹部の仮想円に半径方向に沿った幅が一様となり、最も効率的に内周側金型や外周側金型を配置可能となる。よって、光学的機能部の径を効率的に大きくできるとともに効率的に樹脂レンズの小径化を図ることができる。
【0030】
また、本発明の前記構成において、前記一方の面の外周部分には、光学装置への組み込みに際し、位置決め固定の基準となる基準面
が設けられ、
当該基準面の内周側
には、光軸を有する光学的機能
面が設けられ、
前記基準面および前記光学的機能面が前記内周側金型で成形され、前記基準面より外周側の部分が外周側金型で成形され、
前記基準面より外周側に前記内周側金型で成形された部分と、前記外周側金型で成形された部分との境界が配置され、
前記基準面より外周側で前記境界を含む部分が前記基準面より
前記二つの面のうちの他方の面に近くされ、
前記境界を含む部分には、前記外周側金型で成形された部分が前記内周側金型で成形された部分より
前記他方の面に近くされることで、段差が成形されていることが好ましい。
【0031】
このような構成によれば、内周側金型と外周側金型との間のクリアランスがあり、樹脂レンズに内周側金型と外周側金型との境界部分にバリが発生する虞がある。このバリの発生部分が基準面よりも低くなっていることになる。この基準面とバリが発生する境界部分との高低差によりバリの突出量が短ければ、例えば、光学装置の樹脂レンズの取付け枠の受面に基準面を当接させる際にバリが邪魔にならず、樹脂レンズの取付け精度に影響を与えないものとなる。
【0032】
さらに、境界より内周金型で成形される側が高く、境界より外周側金型で成形される側が低く成形されるように、内周側金型の成形面と外周側金型の成形面の位置を設定しておけば、金型組み立て時の誤差等によって、内周金型の成形面と外周金型の成形面の配置にずれが生じても、基準面と境界より外側の面との間の高低差が狭くなってしまうのを防止することができる。これにより、確実にバリが基準面より高くなるのを防止することができる。
したがって、取り付け枠の受面に基準面を当接した際の精度の低下を防止し、かつ、バリ除去を必要としないので樹脂レンズの製造工程を増やすことによるコスト増加も防止することができる。
【0033】
また、本発明の前記構成において、内周面に前記ゲート部が取り除かれることにより形成される前記面に係合する係合部を備えて当該面の配置位置を位置決め可能な複数の凹状のレンズ収容部を備えたレンズ保持部材の前記レンズ収容部内に収容されて保持されることが好ましい。
【0034】
このような構成によれば、ゲート部が切断されて個々に分離された状態の樹脂レンズを保持部材に保持する際に、樹脂レンズのゲート部の切断面で樹脂レンズの角度を位置決めする場合に、例えば、凹上の収容部の内周面を樹脂レンズの径より少しだけ大きな径とするとともに、前記係合部として、内周面に内周面の内径より内側となり、かつ径方向に略直交する平面状の内側面を設けることで、樹脂レンズの前記切断面に係合して樹脂レンズの回転を止める構造とすることができる。すなわち、極めて簡単な構造で樹脂レンズをゲート部を切断して形成された切断面で位置決めした状態で保持することが可能となる。
また、切断面の仮想円の周方向に沿った両端部の角は、切断により鋭いエッジ状となり、従来のように成形時に樹脂レンズに形成した直線部の両端部の角のように丸くなっていないので、レンズ収容部の径が短くなる平面状の内側面に、樹脂レンズの前記切断面の角を含む外周面が噛み込んだ状態となり難く、レンズ保持部材を移動した際の外力程度で、レンズ収容部の内周面に樹脂レンズの前記角を含む外周面が噛み込んで、レンズ収容部から樹脂レンズを取り出し難くなるようなことがない。これにより、トレイに収容された樹脂レンズを取り扱う際の作業性を向上することができる。
【0035】
本発明の樹脂レンズの製造方法は、光が通過する二つの面を有する樹脂レンズを成形するに際し、これら面のうちの少なくとも一方の面を、この一方の面の外周部を成形する外周側金型と、前記外周部の内側となる内周部を成形する内周側金型とを用いて成形し、
かつ、成形されたレンズ成形品のレンズ本体からゲート部を取り除くことにより樹脂レンズを製造する樹脂レンズの製造方法であって、
前記レンズ本体を成形するに際し、前記レンズ本体の外周面を、前記ゲート部が接続される部分を除いて設定された半径の仮想円に沿ように成形し、
前記レンズ本体の外周面の前記ゲート部が接続される部分は、成形時に前記ゲート部の幅より広い範囲に渡って前記レンズ本体の半径方向中心側に後退した形状の凹部を設けるように成形し、
前記凹部における前記レンズ本体の外周面を、前記内周側金型で成形される部分の外縁に沿って成形するか、または、この外縁より外側でかつ前記仮想円より内側に外方に向って凸となる曲面状に成形し、
成形された前記レンズ本体の前記ゲート部を取り除くことにより形成される面が前記凹部における前記レンズ本体の成形された外周面より内側で、前記内周側金型で成形される部分より外側に位置する
とともに前記仮想円の半径方向に直交する方向に沿う平面となるように前記ゲート部を取り除くことを特徴とする。
【0036】
また、本発明の前記構成において、成形された前記レンズ本体の前記ゲート部を取り除くことにより形成される前記面が、前記凹部における前記レンズ本体の成形された外周面より内側に位置するように前記ゲート部を取り除くことが好ましい。