特許第5893013号(P5893013)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5893013
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】光曝露による皮膚細胞異常化の抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7076 20060101AFI20160310BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20160310BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20160310BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20160310BHJP
【FI】
   A61K31/7076
   A61P35/00
   A61P17/00
   A61P43/00 105
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-516160(P2013-516160)
(86)(22)【出願日】2011年6月24日
(65)【公表番号】特表2013-529628(P2013-529628A)
(43)【公表日】2013年7月22日
(86)【国際出願番号】JP2011065125
(87)【国際公開番号】WO2011162416
(87)【国際公開日】20111229
【審査請求日】2014年6月18日
(31)【優先権主張番号】特願2010-145319(P2010-145319)
(32)【優先日】2010年6月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河村 光章
(72)【発明者】
【氏名】篠原 茂生
(72)【発明者】
【氏名】原野 史樹
(72)【発明者】
【氏名】青木 彰寛
(72)【発明者】
【氏名】上野 絵理
【審査官】 井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第90/000894(WO,A1)
【文献】 特開2006−225271(JP,A)
【文献】 特開平09−157153(JP,A)
【文献】 特開2006−096730(JP,A)
【文献】 特開2007−238588(JP,A)
【文献】 特開2007−161693(JP,A)
【文献】 特開2000−119155(JP,A)
【文献】 特表2003−516950(JP,A)
【文献】 特開昭60−214722(JP,A)
【文献】 特開2002−370986(JP,A)
【文献】 特表2001−521901(JP,A)
【文献】 Jpn. J. Cancer Res.,1993年,Vol. 84,p. 462-467
【文献】 Mutation Research,1996年,Vol. 352,p. 135-142
【文献】 J. Nutr.,1996年,Vol. 126,p. 424-433
【文献】 Molecular and Cellular Biochemistry,1999年,Vol. 193,p. 69-74
【文献】 Eur J Cancer Clin Oncol,1988年,Vol. 24, No. 9,p. 1491-1497
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00−33/44
A61K 8/00− 8/99
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アデノシン一リン酸及びその塩よりなる群から選択される少なくとも1種であるプリン系核酸を有効成分として含有することを特徴とする、光曝露に起因する皮膚腫瘍の予防における使用のための組成物。
【請求項2】
経皮適用される請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記皮膚腫瘍の予防が、DNA修復又はDNA変異抑制を伴うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記皮膚腫瘍の予防が、アポトーシスの誘導を伴うことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
皮膚腫瘍の予防が、皮膚腫瘍のイニシエーションの抑制を伴うことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記皮膚腫瘍の予防が、皮膚癌の予防を目的とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
総量中に0.5〜20重量%のアデノシン一リン酸及び又はその塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光曝露による皮膚細胞異常化の抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光線照射に代表される光曝露が及ぼす皮膚への影響が世界的に深刻化しており、特に欧米やオーストラリアでは皮膚癌の発症率の増加が大きな問題となっている。皮膚癌の増大は、フロンガス(クロロフルオロカーボン)によるオゾン層の破壊によって日常生活における紫外線曝露量の増加が一因となっており、現代社会では、光曝露による皮膚細胞異常化のリスク、特に、光発癌(すなわち、紫外線等の光曝露によって誘発される皮膚癌)の発症リスクは避けられない状況にある。
【0003】
従来、皮膚癌の治療には、外科的治療法、化学療法、放射線療法を組み合わせて行われているが、皮膚癌の発見時期や皮膚癌の症状の程度等によっては有効な治療ができなかったり、治療により日常生活に大きな負担を与えることが一般的であり、それらは個人のQOLを著しく低下させるものである。そのため、皮膚癌の発生を未然に防ぐ予防法の確立が強く求められている。
【0004】
従来、紫外線による皮膚癌の予防には、メトキシケイ皮酸オクチル、ブチルメトキシジベンゾイルメタン、ベンゾフェノン等の紫外線吸収剤や、酸化チタン、酸化亜鉛等の紫外線散乱剤等を配合した外用剤によって、皮膚から紫外線を防護する方法が知られている。
【0005】
しかしながら、紫外線吸収剤や紫外線散乱剤は、紫外線曝露を予防する反面、皮膚刺激等の悪影響をもたらすことが報告されている。つまり、これらの剤は光曝露による皮膚細胞異常化を抑制するものの、一方、接触刺激等による障害を引き起こす可能性を有する。
【0006】
また上記成分では、皮膚が紫外線に曝露されるのを防ぐことを目的としているため、曝露前に皮膚に塗布しておくことが必要である。そのため、紫外線吸収剤や紫外線散乱剤の使用では、皮膚に塗布するのを忘れたり、汗等によって皮膚から落ちたりすると、皮膚に曝露される紫外線を防御できず、DNA損傷が誘発され、その結果、光曝露による皮膚細胞異常化のリスクを避けることができなくなる。
【0007】
そこで、たとえ皮膚に紫外線等の太陽光線が直接曝露されても、皮膚組織内で細胞の異常化を抑制することが、皮膚に悪影響を及ぼさない成分で可能となれば、紫外線吸収剤や紫外線散乱剤では実現できない有効な皮膚細胞異常化の予防方策になる。このような背景の下、皮膚組織内で光曝露による皮膚細胞の異常化を抑制でき、皮膚刺激等を有さない予防剤の開発が切望されている。
【0008】
一方、アデノシンリン酸エステル等のプリン系核酸は、保湿作用やシワの予防又は改善(特許文献1参照)、色素沈着予防又は改善(特許文献2参照)、コラーゲン産生促進(特許文献3参照)等の作用があり、香粧的乃至医薬上、皮膚に有益な効果をもたらす成分として、注目を浴びている。
【0009】
また、プリン系核酸の抗癌作用に関しては、化学物質により誘発された癌細胞の増殖抑制を検討したもの(非特許文献1、2参照)が知られている。しかしながら、それらは実際に紫外線等の太陽光線に対する効果を確かめたものではなく、また、腹腔等への投与によって効果を検討したのみであり、使用者が簡便に利用できるものではなかった。
【0010】
このように、光発癌とプリン系核酸の経皮での使用に関してはこれまで検討されておらず、プリン系核酸が外用で光曝露による皮膚細胞の異常化の抑制、あるいは光発癌の予防又は治療に如何なる影響を及ぼすかについは一切明らかにされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−225271号公報
【特許文献2】特開2006−206575号公報
【特許文献3】国際公開第2005/34902号パンフレット
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Cancer Letters 6 (1979) p291-300
【非特許文献2】Euro. J. Cancer Clin. Oncol. Vol24 (1988) p1491-1497
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、紫外線等の光曝露によって誘発される皮膚細胞の異常化(特に、皮膚癌の発症)の抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、アデノシンリン酸エステル等のプリン系核酸は、光曝露によって生じる皮膚細胞中のDNA変異物質を低減し、また、変異した細胞に対してはアポトーシスを誘導することで、光曝露による皮膚細胞の異常化を抑制する効果、特に、光発癌の発症を予防する効果を発揮でき、光曝露前はもとより、光曝露後に皮膚に適用しても、光曝露による皮膚細胞の異常化、特に皮膚癌の発症を有効に抑制又は予防できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0015】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 光曝露に起因する皮膚細胞異常化の抑制における使用のためのプリン系核酸であって、経皮適用されるプリン系核酸。
項2. アデノシン一リン酸及びその塩よりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、前記項1に記載のプリン系核酸。
項3. 前記皮膚細胞異常化の抑制が、DNA修復又はDNA変異抑制を伴うことを特徴とする、前記項1又は2に記載のプリン系核酸。
項4. 前記皮膚細胞異常化の抑制が、アポトーシスの誘導を伴うことを特徴とする、前記項1〜3のいずれかに記載のプリン系核酸。
項5. 前記皮膚細胞異常化の抑制が、皮膚腫瘍の予防であることを特徴とする、前記項1〜4のいずれかに記載のプリン系核酸。
項6. 皮膚腫瘍の予防が、皮膚腫瘍のイニシエーションの抑制を伴うことを特徴とする、前記項6に記載のプリン系核酸。
項7. 皮膚腫瘍の予防が、皮膚腫瘍のプロモーションの抑制を伴うことを特徴とする前記項5又は6に記載のプリン系核酸。
項8. 前記皮膚腫瘍の予防が、皮膚癌の予防を目的とすることを特徴とする項5又は7に記載のプリン系核酸。
項9. 皮膚1cm当たり、0.01〜10mgが経皮適用されることを特徴とする前記項1〜8のいずれかに記載のプリン系核酸。
項10. 1日に2〜5回の頻度で経皮適用されることを特徴とする前記項1〜9のいずれかに記載のプリン系核酸。
項11. 光がUV-Bである、項1〜10のいずれかに記載のプリン系核酸。
項12. 光照射前又は光照射後に皮膚に適用して使用される、前記項1〜11のいずれかに記載のプリン系核酸。
項13. プリン系核酸を有効成分として含有することを特徴とする、光曝露に起因する皮膚細胞異常化における使用のための組成物。
項14. 総量中に0.5〜20重量%のアデノシン一リン酸及びその塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする前記項13に記載の組成物。
項15. 外用医薬品、外用医薬部外品、又は化粧品である、前記項13又は14に記載の組成物。
項16. 光曝露によってDNA損傷が生じた皮膚部位又は光曝露によってDNA損傷が生じる畏れがある皮膚部位に、プリン系核酸の有効量を経皮適用することを含む、光曝露に起因する皮膚細胞異常化の抑制方法。
項17. 下記工程を含む、光曝露に起因する皮膚細胞異常化の抑制方法:
光曝露を受けた皮膚部位又は光曝露を受ける畏れがある皮膚部位に、有効量のプリン系核酸を経皮投与する工程、及び
プリン系核酸が経皮投与された皮膚部位において皮膚細胞の異常化が発生していないことを確認する工程。
項18. 光曝露に起因する皮膚細胞異常化の抑制剤の製造のためのプリン系核酸の使用。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光曝露によって生じる皮膚細胞のDNA変異体量を低下させ、光曝露による皮膚細胞の異常化、特に、光発癌の発症を有効に抑制又は予防できるので、光曝露による皮膚細胞の異常化のリスク、特に皮膚癌発症リスクを低減させる有効な防衛方策を提供することができる。また、本発明の皮膚細胞異常化の抑制剤によれば、DNA損傷修復作用や、変異抑制作用を有することから、光曝露前又は光曝露後のいずれのタイミングで皮膚に適用しても、光発癌等の光曝露による皮膚細胞異常化の抑制又は予防が期待できる。よって、定期的な使用により外出前の使用を必須とせず、且つ、皮膚刺激を示さずに、光曝露による皮膚細胞異常化の抑制又は予防が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1a】実施例1において、アデノシン一リン酸が、正常なヒト表皮ケラチノサイトのカスパーゼ活性に及ぼす影響を評価した結果を示す。
図1b】実施例1において、アデノシン一リン酸が、紫外線照射後のヒト表皮ケラチノサイトにおけるカスパーゼ活性に及ぼす影響を評価した結果を示す。
図2】実施例2において、アデノシン一リン酸が、紫外線照射後のマウス表皮細胞におけるDNA変異(CPD)に及ぼす影響を評価した結果を示す。
図3】実施例3において、背部に紫外線照射したマウスについて、アデノシン一リン酸含有エタノール水溶液を塗布(試験液塗布群)、エタノール水溶液を塗布(基剤塗布群)、及び無塗布(無塗布群)の各群に別けて飼育し、各群のマウスの背部を写真撮影した結果を示す。
図4】実施例3において、背部に紫外線照射したマウスについて、アデノシン一リン酸含有エタノール水溶液を塗布(試験液塗布群)、エタノール水溶液を塗布(基剤塗布群)、及び無塗布(無塗布群)の各群に別けて飼育し、各群において腫瘍が観察されたマウスの個体数の割合(腫瘍発生率:%)を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において、プリン系核酸は、光曝露に起因する皮膚細胞異常化の抑制のために使用される。
【0019】
すなわち、プリン核酸は、本発明において、光曝露に起因する皮膚細胞異常化の抑制剤として使用される。本明細書中、この剤を、「本発明の剤」と称する場合がある。
【0020】
また、本発明の、光曝露に起因する皮膚細胞異常化の抑制における使用のための組成物は、プリン系核酸を有効成分として含有する。
【0021】
本明細書中、光曝露による皮膚細胞異常化としては、例えば、皮膚腫瘍が挙げられる。
【0022】
本明細書中、光曝露による皮膚細胞異常化の抑制及び予防における用語「抑制」及び「予防」は、互いに同様の意味に理解され得る。
【0023】
「光曝露による皮膚細胞異常化の抑制」としては、例えば、「皮膚癌の予防」が挙げられる。
【0024】
本明細書中、用語「伴う」とは、関連して起こることを意味し、原因であるか結果であるかを問わず、また、同時に起こらなくてもよい。
【0025】
本発明において、プリン系核酸とは、プリン、プリン核を骨格とする各種の誘導体、及びこれらの塩の総称である。本発明において有効成分として使用されるプリン、プリン核を骨格とする各種の誘導体としては、薬学的又は香粧学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、アデニン、グアニン、及びそれらの脱アミノ化物(ヒポキサンチン、キサンチン)、アデノシン、グアノシン、イノシン、アデノシンのリン酸エステル(アデノシン2'−一リン酸、アデノシン3'−一リン酸、アデノシン5'−一リン酸等のアデノシン一リン酸;アデノシン5'−二リン酸等のアデノシン二リン酸;アデノシン5'−三リン酸等のアデノシン三リン酸)、グアノシンのリン酸エステル(グアノシン3'−一リン酸、グアノシン5'−一リン酸等のグアノシン一リン酸;グアノシン5'−二リン酸等のグアノシン二リン酸;グアノシン5'−三リン酸等のグアノシン三リン酸)、アデニロコハク酸、キサンチン酸、イノシン酸、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)等が挙げられる。これらの中でも、光曝露による皮膚細胞異常化の抑制又は予防作用に優れたものとして、好ましくは、アデノシンリン酸エステル、更に好ましくはアデノシン一リン酸、特に好ましくはアデノシン5'−一リン酸(AMP)が例示される。
【0026】
また、プリン系核酸の塩形態としては、薬学的又は香粧学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩及びバリウム塩などのアルカリ土類金属塩;アルギニンやリジンなどの塩基性アミノ酸塩;アンモニウムやトリシクロヘキシルアンモニウム塩等のアンモニウム塩;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン及びトリイソプロパノールアミンなどの各種のアルカノールアミン塩等が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくはアルカリ金属塩、更に好ましくはナトリウム塩が例示される。
【0027】
これらのプリン系核酸は、本発明の光曝露による皮膚細胞異常化の抑制剤の有効成分として1種単独で使用してもよいし、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0028】
本発明のプリン系核酸を有効成分として含有することを特徴とする、光曝露に起因する皮膚細胞異常化の抑制における使用のための組成物において、プリン系核酸の含有量は、プリン系核酸の種類、製剤形態、期待する効果等に応じて適宜設定することができる。具体的には、該組成物におけるプリン系核酸の含有量は、該組成物の総量当たり、0.5〜20重量%、好ましくは0.5〜10重量%、より好ましくは1〜10重量%、更に好ましくは1〜7重量%、特に好ましくは2〜5重量%が挙げられる。このような含有量を充足することによって、皮膚細胞の異常化をより有効に抑制又は予防することを可能とする。
【0029】
本発明の光曝露による皮膚細胞異常化の抑制剤には、プリン系核酸の他に、薬学的又は香粧的に許容される基剤や担体を組み合わせて各種の形態に調製される。薬学的又は香粧的に許容される基剤や担体については、従来、皮膚外用剤に使用されている公知のものを用いることができる。
【0030】
更に、本発明の光曝露による皮膚細胞異常化の抑制剤には、必要に応じて皮膚外用剤に配合される各種の添加剤を配合することができる。このような添加剤として、例えば、界面活性剤、色素(染料、顔料)、香料、防腐剤、殺菌剤(抗菌剤)、増粘剤、酸化防止剤、金属封鎖剤、清涼化剤、防臭剤、保湿剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、ビタミン類、植物エキス、皮膚収斂剤、抗炎症剤(消炎剤)、美白剤、細胞賦活剤、血管拡張剤、血行促進剤、皮膚機能亢進剤等が挙げられる。
【0031】
本発明の光曝露による皮膚細胞異常化の抑制剤は、紫外線等の光曝露を受けた皮膚部位又は光曝露を受ける畏れがある皮膚部位に外用形態で適用することにより、光曝露による皮膚細胞異常化に対する予防作用を発揮する。よって、本発明の光曝露による皮膚細胞異常化の抑制剤は、外用医薬品、外用医薬部外品、化粧品(スキンケア製品)等の日常的な使用が可能な皮膚外用剤として調製される。
【0032】
本発明の光曝露による皮膚細胞異常化の抑制剤の製剤形態については、皮膚に適用可能な限り特に制限されず、例えば、ペースト状、ムース状、ジェル(ソフトゲル)状、液状、乳液状、懸濁液状、クリーム状、軟膏状、ゲル状、シート状、エアゾール状、スプレー状、リニメント剤状等が例示される。これらの製剤形態の中でも、好ましくは、液状、乳液状、ゲル状が挙げられる。これらの製剤形態は、当業界の通常の方法に従って調製される。
【0033】
本発明の光曝露による皮膚細胞異常化の抑制剤は、特に光曝露によって誘発される皮膚腫瘍又は皮膚癌の予防目的で使用される。本発明において、抑制又は予防対象である皮膚細胞異常化を誘発する光の種類については特に制限されず、例えば、紫外線や放射線が挙げられるが、好ましくは紫外線、更に好ましくはUV-Bが挙げられる。即ち、本発明の皮膚細胞異常化の抑制剤は、特に、太陽光に含まれる紫外線(特にUV-B)曝露によって誘発される光発癌の予防に好適に使用される。
【0034】
また、本発明の光曝露による皮膚細胞異常化の抑制剤を光発癌の予防に使用する場合、予防対象となる皮膚癌の種類については、光曝露に起因して誘発されるものである限り、特に制限されないが、具体的には、悪性黒色腫、基底細胞癌、有棘細胞癌等の皮膚癌が例示される。
【0035】
本発明の光曝露による皮膚細胞異常化の抑制剤は、光曝露を受けた皮膚部位又は光曝露を受ける畏れがある皮膚部位に対して適用される。即ち、本発明の光曝露による皮膚細胞異常化の抑制剤は、光曝露を受けた皮膚部位に適用してもよく、また光曝露前に光曝露を受ける畏れがある皮膚部位に前もって適用してもよい。
【0036】
本発明の光曝露による皮膚細胞異常化の抑制剤を皮膚に適用する量及び回数については、プリン系核酸の種類や濃度、適用対象者の年齢、性別、適用される皮膚部位、曝露される光の量又は曝露される畏れがある光の量等に応じて、1日に1回若しくは2〜5回の頻度で適当量を皮膚に適用すればよい。また、本発明の光曝露による皮膚細胞異常化の抑制剤の1回当たりの適用量については、例えば、皮膚1cm2当たり、プリン系核酸として、0.01〜10mg、好ましくは0.1〜5mg程度となる量に設定すればよい。
【0037】
前述のことから明らかなように、プリン系核酸は、光発癌を予防することができる。従って、本発明の、光曝露に起因する皮膚細胞異常化の抑制剤は、光発癌予防剤であり得る。プリン系核酸を光発癌予防剤として使用する場合、そのプリン系核酸の種類や濃度、他の配合成分、製剤形態、適用部位や適用方法等については、前述する光曝露による皮膚細胞異常化の抑制剤の場合と同様である。
【0038】
プリン系核酸は、光曝露に起因して異常化した皮膚細胞のアポトーシスを誘導することができる。従って、本発明の、光曝露に起因する皮膚細胞異常化の抑制剤は、光曝露に起因して異常化した皮膚細胞のアポトーシスの誘導剤であり得る。プリン系核酸を光曝露に起因して異常化した皮膚細胞のアポトーシスの誘導剤として使用する場合、そのプリン系核酸の種類や濃度、他の配合成分、製剤形態、適用部位や適用方法等については、前述する光曝露による皮膚細胞異常化の抑制剤の場合と同様である。
【0039】
プリン系核酸は、皮膚癌のイニシエーションを抑制することができる。従って、本発明の、光曝露に起因する皮膚細胞異常化の抑制剤は、皮膚癌のイニシエーション抑制剤であり得る。プリン系核酸を皮膚癌のイニシエーション抑制剤として使用する場合、そのプリン系核酸の種類や濃度、他の配合成分、製剤形態、適用部位や適用方法等については、前述する光曝露に起因する皮膚細胞異常化の抑制剤の場合と同様である。
【0040】
プリン系核酸は、皮膚癌のプロモーションを抑制することができる。従って、本発明の、光曝露に起因する皮膚細胞異常化の抑制剤は、皮膚癌のプロモーション抑制剤であり得る。プリン系核酸を皮膚癌のプロモーション抑制剤として使用する場合、そのプリン系核酸の種類や濃度、他の配合成分、製剤形態、適用部位や適用方法等については、前述する光曝露に起因する皮膚細胞異常化の抑制剤の場合と同様である。
【0041】
また、プリン系核酸は、光曝露によって生じる皮膚細胞のDNA変異量を低下させ、DNA損傷の修復を促進することができる。従って、本発明の、光曝露に起因する皮膚細胞異常化の抑制剤は、かかる作用を有し得、DNA損傷修復剤、DNA変異抑制剤又はDNA変異低下剤であり得る。プリン系核酸を上記DNA損傷修復剤、DNA変異抑制剤及びDNA変異低下剤として使用する場合、そのプリン系核酸の種類や濃度、他の配合成分、製剤形態、適用部位や適用方法等については、前述する光曝露に起因する皮膚細胞異常化の抑制剤の場合と同様である。
【実施例】
【0042】
以下、試験例及び実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例等において「%」と表示され、かつ配合量を示すものは、特段記載のない限り、重量%を意味する。
【0043】
実施例1:紫外線照射による変異細胞に対するアポトーシス誘導作用
本実施例では、アデノシン5'−一リン酸二ナトリウム(AMP2Na)で処理したヒト表皮細胞に対して紫外線を照射した際のカスパーゼ活性の変化を検討した。
【0044】
<試験方法>
ヒト表皮ケラチノサイト(クラボウ社より購入)をコラーゲンコート10cmシャーレ(旭硝子社製)中でEpiLife-KG2培地(クラボウ社製)を用いて前培養し、サブコンフルエントの状態でコラーゲンコート96ウェルマイクロプレートに30,000cells/wellの密度で播種した。EpiLife-KG2培地にて8時間培養後、培地をEpiLife培地(クラボウ社製)に交換し更に16時間培養した。その後、培地を、各濃度に調製されたAMP2Na含有培地に交換して2時間処理した後、細胞をPBS(Phosphate Buffered Saline)にて洗浄し、洗浄細胞に紫外線照射装置(HN-400, ABE RIKOSHA社製)を用いてUV-Bを30mJ/cm2照射した。再びEpiLife培地を添加して6時間培養した後、SensoLyteTM Rh110 Caspase 3 Assay Kit(AnaSpec社製)を用いて、細胞中に発現したカスパーゼ3の活性を測定した。コントロールには、UV-B照射及びAMP2Na処理を行なわなかった細胞を用いた。また、AMP2Naが正常細胞のカスパーゼ活性に及ぼす影響を確かめる目的で、上記細胞を紫外線照射せずにAMP2Naで処理したときのカスパーゼ活性を測定した。
【0045】
<結果>
得られた結果を図1a及び図1bに示す。この結果より、紫外線照射しない細胞においては、AMP2Na で処理してもほとんどカスパーゼ活性の上昇は認められないが、紫外線照射した細胞においては、AMP2Naで前処理することによって、カスパーゼ活性が顕著に高まることが明らかとなった。
【0046】
カスパーゼは、細胞にアポトーシスを起こさせる一群のシステインプロテアーゼであり、カスパーゼ活性は、一般に、アポトーシス活性の程度を測る指標とされている。
【0047】
細胞は、X線や紫外線等のDNAを損傷する様々な刺激に対する生体防御機構の一つとして、自らアポトーシスを起こして自殺する機構を持っている。本試験においても、紫外線を照射しない細胞においては、AMP2Naの処理の有無に関わらず、カスパーゼ活性は変化していない。これは、AMP2Naが正常細胞においては、カスパーゼ活性を高めず、アポトーシスを誘導しないことを意味する。対して、紫外線照射を受けた細胞においては、カスパーゼ活性が高まっていることから、アポトーシスが誘導されたことがわかる。さらに、紫外線照射前にAMP2Naで処理した細胞においては、その活性がより高まったことが示されており、変異細胞のアポトーシスを誘導したものと考えられる。
【0048】
実施例2:紫外線照射によって誘発されたDNA変異の低下作用の評価
本実施例では、マウス正常表皮細胞に紫外線を照射し、その後、AMP2Naを含む培地で培養し、シクロピリミジン型ダイマー(CPD)量を指標として、AMP2NaのDNA変異低下作用を検証した。
<試験方法>
マウス正常表皮細胞由来JB6細胞(ATCCより購入)をサブコンフルエントな状態までFBS(Fetal Bovine Serum)含有MEM(Minimum Essential Medium)培地にて培養した後、FBS含有MEM培地を入れた3.5cm dishに4×105個の培養細胞を播種した。播種した翌日、無血清(serum free) MEM培地に交換し、血清飢餓状態とした。その後、培地をPBS)に置換し、15 mJ/cm2のUV-Bを照射した。紫外線照射後に、0.01 mM、0.1 mM、又は1 mMのAMP2Naを含む無血清MEM培地、又はAMP2Na不含培地(コントロール)に交換した。培地を交換した後、37℃、5%CO2の条件で48時間培養し、その後、細胞を回収した。
【0049】
回収した細胞から、FastPure(商標) DNAキット (Takara bio)を用いてゲノムDNAを抽出した。抽出操作は、キットのマニュアルに従い実施した。
【0050】
各細胞から抽出したゲノムDNA中のCPDについてELISA法を用いて測定した。具体的には、まず、抽出したゲノムDNAを100℃で10分間保温した後、氷冷した。その後、ゲノムDNAを硫酸プロタミンコーティングした96ウエル(well)マイクロプレートに50μL/wellで分注し、乾燥させた。翌日、各ウエルをPBS-T(PBS with Tween 20)で洗浄し、各ウエルに FBS含有PBSを分注して、37℃の乾燥機中で30分間静置した。次いで、PBS-Tで洗浄した後、各ウエルに抗CPDマウス抗体(コスモバイオより購入)を分注し、37℃の乾燥機中で30分間静置した。PBS-Tで洗浄した後、各ウエルにビオチン標識した抗マウスIgG(Southern Biotechより購入)を分注し、37℃の乾燥機中で30分間静置した。ウエルを洗浄後、ストレプトアビジン標識西洋ワサビペルオキシダーゼを分注し、室温で30分間静置した。続いて、PBS-T、クエン酸リン酸緩衝液で洗浄し、各ウエルに過酸化水素及びo−フェニレンジアミンを含むクエン酸リン酸緩衝液を分注した。37℃で30分間静置して発色させた後に、2M硫酸水溶液を加えて発色反応を停止させた。その後、492nmの吸光度を測定し、ゲノムDNAあたりのCPD量を算出し、AMP2Na不含培地で培養した場合のCPD量を100%としたときの各条件におけるCPDの変化率(相対的なCPD量の変化;%)を求めた。
【0051】
<結果>
得られた結果を図2に示す。この結果から、紫外線照射後にAMP2Naを添加した細胞では、コントロール群に対する相対的なCPD量が減少しており、AMP2Naによって紫外線照射によるDNA変異が低下することが確認された。本結果においては、0.01 mM及び0.1 mMのAMP2Naを含む培地で培養した場合のコントロール群に対する相対的なCPD量の減少は有意であり、紫外線照射によるDNA損傷が顕著に抑制されることが示された。このことから、上記成分には、特に発癌のイニシエーションを予防する効果が期待できる。
【0052】
なお、本実施例1は、細胞を用いたイン・ビトロ(in vitro)試験である。実際の使用においては、個体差、皮膚透過性や細胞移行性等を考慮すると、実際の使用におけるAMP2Naの濃度は、上記イン・ビトロでのAMP2Naの濃度の10〜1000倍程度に調整することを考慮する必要がある。
【0053】
実施例3:紫外線照射マウスにおける皮膚癌の予防効果の評価
本実施例では、ヘアレスマウスに紫外線を照射し、当該マウスに対するAMP2Naの光発癌に対する予防効果を検証した。
【0054】
<試験方法>
5週齢雌Hos:HR-1マウス(日本SLCより購入)を7週齢時点から、マウスの背部に紫外線(UV-B)照射を行った。紫外線照射は、1回の照射量を60mJ/cm2で、1日1回、週5日を計12週間行った。
【0055】
別途、AMP2Na3%を溶解した20%エタノール水溶液(試験液)とAMP2Naを含まない20%エタノール水溶液(基剤)を準備した。
【0056】
上記で紫外線照射を行ったマウスを通常の条件で1週間飼育した後に、表1に示す条件の3群(各群6匹)に別けて12週間飼育を行った。
【0057】
【表1】
【0058】
<結果>
各群のマウスについて、試験液又は基剤塗布開始から6週目に、背部の皮膚状態を観察し、腫瘍の発生の有無を判定し、個数を測定した。図3に、試験液又は基剤塗布開始から6週目において各群のマウスの背部を写真撮影した結果を示し、図4に、試験液又は基剤塗布開始から6週目において、各群において腫瘍が観察されたマウスの個体数の割合(腫瘍発生率:%)を示す。
【0059】
図3から明らかなように、基剤塗布群及び無塗布群では、紫外線照射後の背部に腫瘍の形性が認められたが、試験液塗布群では腫瘍の形性は認められなかった。また、図4に示されるように、紫外線照射後の腫瘍発生率は、基剤塗布群で67%、無塗布群で83%であったのに対して、試験液塗布群では0%であり、AMP2Naによって紫外線によって誘発される皮膚癌の発生を有効に予防できていることが明らかとなった。
【0060】
なお、試験液又は基剤の塗布開始から6週目の各群において、マウス1匹当たりに発生した腫瘍の平均個数は、試験液塗布群で0個、基剤塗布群で2個、無塗布群で1.8個であり、この結果からも、AMP2Naには、紫外線によって誘発される皮膚癌に対する優れた予防効果があることが確認された。
【0061】
更に、試験液又は基剤塗布開始から12週目の腫瘍発生率は、基剤塗布群で83%、無塗布群で100%、試験液塗布群で17%であった。このことから、AMP2Naは、その塗布により、紫外線照射による腫瘍の発生を強く抑える作用を有することが示された。よって、本成分は発癌のプロモーションの抑制に対しても有効であるということが期待される。
【0062】
処方例
以下の組成の乳液状の光発癌予防剤が調製される。
【0063】
アデノシン一リン酸二ナトリウム 3 (重量%)
エタノール 3
グリセリン 10
乳化剤、乳化助剤 10
増粘剤 適 量
防腐剤、pH調整剤、香料 適 量
精製水 残 余
合 計 100 重量%
図1a
図1b
図2
図3
図4